「シロコちゃんとアヤネちゃん。セリカちゃんと転弧先生ってどう思いますか?」
自由登校日――アビドス高等学校対策委員会の部屋で、アヤネとシロコに質問を投げたのは十六夜ノノミだった。
「どう、思います……ですかぁ…」
愛読している小説を読んでいたアヤネは、ノノミの質問に本を栞に挟み閉じながら、思考に入り浸る。
セリカちゃんは中等部の頃から同じアビドスの学校で育った、仲のいい親友だ。
アビドスの土地に生徒は勿論、住民もほとんどいないので、自分と同じ志を持つセリカちゃんと出逢えたのはある意味奇跡と言ってもいいだろう。
一方で志村転弧先生――最初の出逢いこそイマイチではあったが、先生の戦術指揮といい、カタカタヘルメット団の追跡と調査を私に依頼したり、今後の自分達に起こり得る未来の予測に、もはや先生として大人の凄さを身近で実感した。
……戦術指揮が凄過ぎて、偶に私が行えることが救援物資しか役立たないなぁ、と後ろめたさを感じてしまうのも本音だが…。
それに先生が「
そんな二人にアヤネは当初「二人は相性が悪いのだろう」と解釈していたが……先生がセリカちゃんを見て懐かしむのを見た辺り、決して相性が悪い…――と言うよりも、単純に噛み合ってないだけなのでは?という疑問に行きついてる。
もっと話し合えば、きっとセリカちゃんも先生のことを信じてくれると思うけどなぁ…と。
「ほら、セリカちゃんって中々素直になれないじゃないですか?その上、先生は私たちが抱えてる借金に対しても「協力はするけど、その前提としてセリカを説得してから」って言ってますし……二人の関係性を見てると、どうなのかなって気になるんですよね」
そんなところがまた可愛いんですけどね。と、セリカの可愛らしさに頬を緩めるノノミは楽観主義者だ。
「セリカは先生のこと信頼してない…っていうか、多分…プライドとか、私たちのデリケートな問題に巻き込まれたくないとか、色々あると思うけど…でも先生はセリカのこと信じてるみたいだし。私としてはソリが合わないと言うか、セリカが単純に素直になれなくて手を引っ込めてるのかな…って考えたり…」
砂狼シロコは転弧先生に部屋を案内した際に雑談を交わしたので、ここの認識は今でも変わらない。
「でも珍しいね、ノノミがそんなこと聞くなんて。何かあったの?」
「ええ〜〜そうですかぁ?私だってちゃんと気にしますよぉ。だって可愛い後輩に、頼もしい先生が就いてくれたんですから!……ただ、早く仲良くなってくれたら嬉しいなって」
「そういうノノミは先生のことどう思ってるの?」
「私…ですか?そうですね……最初はシロコちゃんの犯罪に巻き込まれた可哀想な人質か、ホームレスか何かだと思いましたが……」
ノノミ、やっぱりそう思ってたんだ――とシロコは心の中で愚痴を溢した。
「けど、先生のお陰で支援物資の補給も受けられましたし、なにより昨日お話ししてて、最初のイメージよりかはすっごく頼りになるなって実感もしました。私たちのことを真摯になってちゃんと顔も見てくれてる。先生って、ちゃんと私たちの目を見て話してくれて、私たち一人ひとりの意志を尊重して、確りと考えてくれる。……そういうのが、凄く嬉しいんです」
ノノミにしては珍しい感想だった。
確かに自分達と話すときは、ちゃんと相手の目を見て、相手の意思を確認し、尊重してくれる。
…それはきっと、十六夜ノノミの家柄による問題もあるのだろうか、そうしてくれるだけで嬉しいと思えるのは、幼少期からちゃんと彼女のことを見て真摯に向き合ってくれる人がいなかったからだろうか。
――十六夜ノノミは、中等部はアビドス自治区に滞在しながらも、アヤネやセリカのようにアビドス中等部に所属していた訳ではない。
セイントネフティスグループのご令嬢として、ネフティス中等部に所属していた。
元々ネフティスグループの進路として、ノノミは高等部も引き続きネフティス高等学校に進学するハズだった……。のだが、どういう訳かアビドス高等学校に進学したのは、彼女とホシノ、シロコだけが知る事実である。
裕福な家庭で育ちながらも、ここに至るまでの過程で彼女自身、相当な苦悩を抱えていたのだろう。
その一つが家柄による決まった進路――それを覆し変更するというのは、正に決まった線路を切り替えるのと同じこと。
このテクストだけ読み取れば単純な進路変更に過ぎないだろう。
だがこの進路変更をする過程に於いて、ノノミの場合はそう簡単に行える選択肢ではないのだ。
『貴女はセイントネフティスに於ける象徴なのです!!』
『なぜこれだけ約束された未来を手放し、あんな寂れた学校へ!?理解できません!』
『あんな借金だらけの、捨てられた廃校同然になぜお嬢様が行くのですか!?自分の立場を分かっているのですか!?弁えなさい!!!』
皆んな誰も見てくれなかったから、決まったことだからと、大人の言葉は絶対だと、ノノミの進路に反対する者しかいなかった。
『――苦しんでるお前たちの目すら見向きもせず、見なかったフリをしてきたんだろ』
だから先生の言葉は、凄く嬉しかった。
ああ、ちゃんとこの人は私たちを見てくれてるんだ。
私たちの意思を捨てずに、向き合って答えてくれるんだと。
諦めろとか、借金返済は無理だとか、一度も口には出さなかった。
賢い大人は合理性を下に、自分が不可能だと感じれば放棄してしまうのが世の常だった。
「………もっと、早くに出逢いたかった、と思うのは…我儘でしょうか…」
ノノミがそう口にするのもまた、本当に珍しいことだ。
彼女は我儘…というよりも、金遣いが荒いと言うか、ゴールドカードでショッピングを嗜む話をよく聞かされるので、出費が凄いという事実は紛れもないのである。
そんな彼女が我儘だと言うのは、きっと欲しいものをお金で手に入れてきた彼女にとって、お金で買えない欲に対する彼女なりの想いからくる言葉なのだろうか。
「……そうですね…。こんなに良い大人なら、と思うのは…同じです」
ノノミの言葉にアヤネも肯定の意を述べる。
連邦捜査部シャーレの顧問――それだけで特別な意味を込められているのは、各学園の統括者という大きな役割もあるのだろうが…。
「おぉ、はよ。お前ら健気に登校してんのな――」
ガララ…と扉が開かれると同時に、三人はビクッ!と硬直するように反応してしまう。
噂をすればなんとやら、転弧先生がやってきた。
泊まり込みで滞在してるので、いるのは理解しているが…それでも登校時に部屋に行ってもいなかったので、どこにいたかは不明だったのだ。
「あ、先生!おはようございます!」
何事もなかったかのように平静を装うアヤネは元気に挨拶をする。対する転弧は「おう」と軽く言葉を発し、手に持った袋をドサ!!っと置く。
「ん、先生これは?」
「あー……食糧が大抵底を尽いたからな。アビドスは第二の拠点だ…。取り敢えず食糧確保で買い出しに行ってた」
遭難したこともあり、食糧はカップ麺を除いて底をついてしまったので、買い出しに行ってたのである。
ビニール袋の中身は焼肉弁当、コロッケ弁当、野菜スティック、菓子パン、栄養ドリンク、カロリーバーに飲む栄養ゼリーがどっさり。
如何にも栄養が偏ってる辺り、この先生は相変わらずである。
…オマケに一丁前に野菜スティックだけは購入してるとはいえ、ユウカとチナツの言葉を大事に受け取ってるであろうことは垣間見えるが、その結果がコレだけなのはなんなのか。
因みに金額は連邦捜査部の出費として申請した。
アビドス高等学校の問題解決、並びに遭難をした為食糧の金額的には自己財産の負担ではなく連邦捜査部という組織上、出費として負担するべきだと判断したからだ。
「………転弧先生、身体壊すよ」
「あー…回鍋肉弁当も買ってきたぞ。野菜スティックも買った。これなら良いだろ」
全然良くない。
そういう問題ではないのだ。
これには流石のアヤネも冷や汗を垂らしながら「あ、あはは……」と言葉を発することすら難しい様子だ。
「もう!先生、こんな不健康なものばっかり食べてたらいけませんよ!!もっとこう、ちゃんとしたものを食べないと!」
「逆に聞くがなんだよ、ちゃんとしたモノって」
「ほら、例えば温野菜のラクレットとか、魚彩るカルパッチョ…赤ワイン煮込みのビーフシチューとか…あっ!トマトビーフシチューとかも美味しいですよねェ!!あとあと、お店に行くならコース料理とかもおすすめですし…」
「分かった、お前ブルジョワだろ」
今ので理解した。
こいつ絶対お嬢様系で裕福な家庭で育っただろ。
そんな奴がなぜ借金返済に関わってるのか不明だが、この際は聞かないことにしておく。
…あー、トマトビーフシチューはお母さんが作ってくれたな。
家が崩壊する前日に食べたのが、最後の夜食だったっけ。
「まあ、ですが……確かに弁当ばかりなのは、心配ですね……あっ、そうだ。今度皆んなで一緒に栽培で採れた野菜で料理するとかどうですか?」
アヤネの提案に、ノノミは「わっ、良いですねェ!」と緩やかな表情を輝かせ、シロコは「ん、確かそろそろ収穫期だったはず」と軽く頷いた。
「栽培?……あー、農業とかの話か。この砂漠地帯でそんなんあんのか?」
「屋上で栽培してるんですよ。トマトとか、胡瓜や他の野菜も育ててるんです。今度一緒に家庭科室で調理とかしたいなってセリカちゃんと話してたんですよね」
……へぇ、そんなコトまで。
学生って栽培とかしたりするんだな、と転弧は心の中で呟いた。
食事を摂るのだって金額は発生する。少しでもその負担を減らすためにアヤネやセリカ曰く、自己栽培で食料を調達しようとした結果自分達でできる選択肢を取ったそうだ。
「そう言えば、セリカ…遅いね。最近自由登校日でも見かけないけど…」
「ああ、アイツこねえぞ。なんか用事があるとかどうとか……」
「えっ?セリカちゃんが用事……そういえば、この前の休みの日も図書館に行ってたって言ってたような……けど私も図書館で調べ物をしてたけど、セリカちゃん居なかったような気がするんですよね…」
「アイツが図書館で本読んでる姿が想像できねえんだが…?」
そんなこと当の本人の前で言ったらそれこそ心臓撃たれるぞ。
やっぱり黒見セリカと志村転弧の両者は、言うなれば火に油と言った関係性なのかもしれない。
「あれ?そう言えばどうして転弧先生がセリカちゃんのこと知ってるんですか?」
「あー……コンビニの買い出し帰りにさ、アビドスの跡地とか眺めてたらばったり遭った。そしたら用事がどうとか言ってたな…」
ああ、それで――と一同は納得する。
とはいえ二人の関係性は現状最悪だ。私たちの与り知らぬところで喧嘩でもしたら修復不可能か、あるいはセリカが誤って射殺しかねない可能性もある。
そこが心配だ。
「やぁやぁ、皆んなおはよぉ……」
ガラガラ――…と、再び扉が開かれ、四人は言葉の主と共に意識を向ける。
眠たげに、気怠く挨拶をしたのはホシノだった。
「あれ、ホシノ先輩珍しいですね?自由登校日は寝ているものだと思ってましたが……」
「まぁね〜〜……偶には可愛い後輩たちが登校してる健気な姿を見たくてねェ〜…。ありゃりゃ、セリカちゃんまた休みなんだ?」
「はい……先生曰く用事があるからとか、どうとか…」
「成る程ねぇ〜〜……」
ふわぁ…と大きな欠伸をしながら、ホシノはノノミの隣にある鉄パイプ椅子に腰をかけて座り出す。
「まっ、なんだって良いが……自由登校日…なんだっけ、今日。お前らはどうすんだ?」
「質問を返すようで悪いけど、先生は今日どうする予定なの?」
「思いっきりゲームで遊ぶ」
ゲームなんだ、と心の中で一同は呟いた。
如何にも平和というかなんというか…この先生は…。
「いやな、ここに来る前からクソみてぇに書類仕事ばっかやってたしよ。遠出の出張で、ある程度の仕事も片付いたから息抜きにゲームやろうと思ってな」
「セリカちゃんの用事とか、気にならないんですか?」
「ないな。俺としちゃあ好きなことやれればそれで良いって主義だ。だからセリカに用事があっても俺が口出しすることじゃない。変に詮索されたら誰だって嫌だろ」
「確かに今の先生がセリカちゃんのこと詮索したら嫌がりはすると思いますが……」
「ん、好きなことやって良いの??ホントに?」
「……なんで確認取るんだ?」
……なんか、シロコの目がスゲェキラキラしてるんだが。
俺なんか変なこと言ったか??
「にゃあにゃあ、皆んなセリカちゃんのことで持ちきりだねぇ〜〜?いやぁ、可愛い後輩がこんなにモテモテだなんてぇ…ママ嬉しいわ」
「お前ママって柄じゃねえだろ」
「なにをぅ?先生ェ〜〜ひょっとしてこんな貧相な身体で何言ってんだ〜?って言ってるつもりぃ?」
「そこまで言ってねェ」
ホシノの揶揄うジョークを軽く遇らう転弧は、お互い見向きもせずに通常運転である。
「じゃあさじゃあさ、折角今日は先生もいるんだし、皆んなで外食してみない?」
などと馬鹿げた会話から一転。余りにも唐突なことに先生は勿論、他の三人もホシノへ注目する。
「……お前、急だな。なんだよ突然」
「ほら、先生が折角きてくれて、こうして借金返済の為に頑張ろ〜ってしてくれてるでしょ?言うなれば親睦会みたいな感じでさ」
「いやまだ
「でも先生どの道今日はだらだらとのんびり遊んでるつもりだったんでしょ〜?それに、セリカちゃんのことなら任せてよ。おじさんこれでも頼りになるんだよ?」
戦闘、実力以外になにを頼りにするのだろうか。
正直今日の予定は特にない。
借金返済の目処もないが、それでもコイツら生徒達の役に立てることがあれば全力を尽くすつもりもいる。
とはいえ自由登校日なのであれば特に暇を持て余すので、どの道やれることは少なそうだ。
だが、然し。
小鳥遊ホシノが態々食事に誘うと言うことは、何か裏があるのではないかと疑ってしまう。
生徒を疑うのは先生として如何なものかと問われればそれまでだが、然し何でも信じるというのは嘘っぱちに他ならない。
そしてホシノを疑うことに対して理由はあるのだが、それは今言うべきことではない。
「………ふぅん、まあ…偶には良いか」
だが、敢えて疑いに乗ることにした。
ホシノの言葉そのものに嘘はないと思っている。
嘘がないと言うことは、少なくとも危害はないのだろう。ホシノの考えも、俺のことを想ってのことは間違いでもないだろうし、という考えに至った。
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「いらっしゃいませ!お客様3名ですね?こちらの席にどーぞ!!」
柴関ラーメン店
アビドス市街地に佇む飲食店は、この自治区ではかなり美味いと評論されてる有名なお店だ。
捨てられた砂漠――砂漠化や砂嵐による廃墟とは違い、アビドス郊外の居住区エリアは賑やかだ。ラーメン店だけでなくショッピング店、コンビニ、美容院など数えればいくらでもある。
昔、アビドス自治区でオアシスのプールやアビドス祭りがあった英気ある場所と比べれば劣りはすれど、それでも人が住むには充分過ぎる。
それでもチェーン店や飲食店などは他の学園自治区と比較すれば、少ないのは確かである。
そんな有名な柴関ラーメン屋で働くのは若手ながら早くも看板娘として大人気、注目を浴びているのは…
「セリカちゃん!三番テーブル、会計だとさ!悪いが相手してくれるかい?」
「はい大将!!」
店主に活気よく返事をしながら、愛想良く振る舞う新人アルバイト生――黒見セリカは今日も一日、元気に借金返済の為に頑張っているのであった。
三人の客が会計を済まし「ご馳走様!」と挨拶をしていくなか帰っていくのを見届けた矢先、また新しい来客が店に入ってきた。
「いらっしゃいませ〜!お客様は何名様で…――」
「あの〜⭐︎五人なんですけど〜!」
一人の若い店員が愛想よく接客する。出入り口先の人影を見た瞬間、声が喉に詰まり、硬直したかのように固まった。
聞き覚えのある声、見知った顔が五人、その内一人は絶対に来てほしくない客がゾロゾロと店内に足を踏み入れていく。
「って、わわっ!?!!」
「あ、あはは…セリカちゃん……お疲れ様…」
「セリカちゃん!バイトのユニフォーム可愛いですねェ⭐︎先生もそう思いませんか?」
「おい、掴むなって………まあ、悪くねェんじゃねえか」
柴関ラーメンで働く若きアルバイト戦士――黒見セリカの前に、アヤネは苦笑ながらも手を振り、ノノミは転弧の肩を掴みながら見てみて〜!と前に出そうとする。そんなノノミに鬱陶しそうに表情を歪めながらも、セリカの姿を見て感想を口に零す転弧は、セリカの姿を見た後目線を逸らす。
「み、皆んなどうしてここに!?!私、先生や他の皆んなにもアルバイト先のことなんて伝えてないのに………はっ!さては先生、私の後を追ってストーカーとかしてたんじゃないでしょうね……?」
「お前、冤罪って言葉知ってるか?」
ギロリと睨むセリカの眼光に臆することなく、カウンターで言葉を返す転弧にホシノがやあやあと、二人の空間に割って入ってくる。
「もぉ、二人共出会って即喧嘩なんてみっともないよ。それにね、アルバイト先を教えたのはおじさんだもん。セリカちゃんごめんね〜?」
「う゛っ!!ホシノ先輩かぁ………」
「先生は悪くないよ。ただアルバイト先って言ったらなんとなーくここだろうなって思ってさ。ほら、ここのラーメン屋って凄く美味しいし」
誰にもバレてないと思っていたのに、ホシノ先輩にバレていたということに、内心みるみると恥ずかしさが込み上げてくる。
泳がされていたのか、それともアルバイトに行く姿を偶然どっかで見られていたのか…。
折角皆んなに内緒でアルバイトして、借金返済の為にコツコツと貯金していたのに…それをホシノ先輩のみならず、皆んなに…よりにもよってこのアルバイト姿を先生の前で晒される羽目になるとは夢にも思っていなかった。
最悪すぎて直ぐにこの場から逃げて顔を隠したいくらいだ。
「アビドスの生徒さんに…おっ!シャーレの先生まで来てくれたのかい!セリカちゃん、馴染みのある顔とはいえ今はお客様として出迎えてくれな。お喋りはそこまでにして、席の案内と注文宜しく頼んだよ」
厨房から顔を出したのは、長年飲食業を営んでいた歴戦の猛者とも呼べる柴関ラーメン店の大将だった。
二足歩行の犬型大将の頬や片目には誰に付けられたのかと言いたくなる傷痕が残っており、顔とは裏腹に声はちゃんとした大人の声色だ。
「うぅ…ッ、は…はいっ…。えっと、お客様?それでは広い席にご案内致しますので…こちらへ、どうぞ…」
引き攣った笑顔はぎこちなく、羞恥と抵抗感に苛まれながら、培ったアルバイトの経験でカバーするセリカはなんとか理性をギリギリに保ちながら席へ案内する。
同級生や顔見知りの先輩に、寄りによって一番相手にしたくない転弧先生――せめて対策委員会だけにして欲しかったと心の中で愚痴を溢す。
案内された席は大人数として向いており、席は四人分座れるスペースとなっていた。その為一人余るのである。
いや、詰めれば一人分座れるのだが…
「ん、転弧先生は私の隣に来るべき。隣空いてるよ」
「転弧先生は私の隣に、こっちへど〜ぞぉ⭐︎」
――問題はどちらへ座るべきかだ。
俺としちゃあどっちでも良い。
ただいざこうした局面で選択肢を迫られると、どうでもいいことに悩むのは人の性質だろうか。
シロコとノノミに隣に座って欲しいかのように、アピールされている。
「いや、つぅかこれ……無理に詰めても狭いだろ。椅子はねェか?真ん中で食う」
なので俺は第三の選択肢を選んだ。
どっちの席にも座らず、邪魔にならない選択。
これにはシロコは「む…」と膨れっ面を晒し、ノノミは「隣空いてたのに残念です〜…」と分かり易い反応を見せてくる。
いや、ただ席を選ぶだけだろうが…。
「いやぁ、先生も鈍感だねェ。こんなんじゃ、女の心をグッと掴めないよお?」
「心臓でも握れって言ってんのか。中々グロテスクなこと言うな」
「あはは…そう言うことじゃないですよ転弧先生…」
「そういえばセリカはいつ頃からバイト始めたの?」
「えっ!?えーーっと…一週間前くらい??」
「そうだったんですね!時々姿を消していたのは、バイトだったんですねぇ⭐︎」
「けどセリカちゃんバイトのユニフォームとっても似合ってるよねぇ。バイト選びはユニフォームから選ぶ感じぃ?セリカちゃんのバイト姿、写真撮ったら儲かるかな?」
「ホシノ先輩…変な副業やめてください…」
「な、なんだって良いでしょう!?それよりほら、さっさと注文してよね!!」
「そこは『ご注文はお決まりですか?』でしょ〜セリカちゃん?お客様には笑顔で親切に丁寧に接客しないと〜。ほら、笑顔笑顔!」
「う゛っ…!く゛ッ ……ご、ご注文は…お、お決まりですか…?」
「それじゃあ早速何を頼みましょうか?」
「ん、私は塩で良い」
「もう注文するの決まってるんだねぇシロコちゃん。やっぱり塩が好き?」
雑談を交わしていくなか、お冷やはアヤネ、ホシノ、シロコ、ノノミへと順番に丁寧に置かれていく。
そんななか、ゴトン!と転弧先生の前にお冷を、無愛想ながらに置かれ、グラスに入ってた水が僅かに飛び散る。
「………おい、これ。飛び散ったぞ」
「なによ、悪い?アンタもさっさと決めれば?」
セリカは威圧を含んだ瞳で見下ろしながら、悪態を吐く。
このガキ……。へぇ、喧嘩売ってんのか。面白い。
転弧は溜息を吐きながらセリカの言葉を無視し、メニュー表を取らずに端末を開き何かをタップして操作している。
「…?ねぇ、ちょっと何してんの?」
「注文前にこの店の口コミレビューでも書こうと思ってな。主に接客態度が悪い若手アルバイトがいるからさ。ざっと星は1にしておくか」
「ちょっ――はァ!!?!」
態度が一気に驚変。
これにはセリカだけでなく、アヤネとノノミも目を丸くする。
ホシノは「わあ、先生大人げないなぁ〜…」と暖かい目を送るなか、セリカは慌てふためく。
「な、なな、なんでアンタにそんなこと……!!」
「金払って飯を食う以前にこっちは客だろ。態度は愚か口も悪い、謝罪もしない、粗い。逆に書かれること想定してなかったのか。味次第で星は2までに留めておくから、料理頑張ろうな」
ぐ、ぎ、ご………!!と声にならない憤慨と悔しさと至極真っ当な言葉にぐぅの根も出ないセリカの表情はもう、すんごかった。
多分俺だけじゃなく、対策委員会もこのセリカの表情は見たことはなかっただろう。
シロコは少し口角が釣り上がって、面白そうに見ている。
「ほらほら、セリカちゃん。先生に謝りな〜??折角頑張って働いてる後輩が、先生の一つの投稿で水の泡になるの、おじさん嫌だなぁ」
「俺が悪質レビュー書いてるアンチに例えんのやめろ」
ホシノのやんわりとした言葉に、頭を冷やしたのか。それでも転弧先生を見て「謝ったら負け」などと自分でもつまらないと理解している謎のプライドか出てきてしまうことに、心がぐちゃぐちゃになり苛まれていく。
それでも流石に非があると冷静に振り返った自分は、露骨に感情的になっていたなと反省し、ギチギチと頭を下げる。
「も、申し訳ありません…お、お客様……大変、し、失礼な態度を取ってしまい、申し訳、ありません……でし、た…」
「おー……セリカ、笑顔はどうした?」
「ッ──────」
コイツは鬼か?悪魔か?
プライドもへし折って謝罪した矢先に、更に畳み掛ける転弧。もしこれがアルバイトでなかったら手が出ていたところだ。
怒りを一週通り越して真顔になったセリカは、ぽかんと口を開けたまま呆けている。
コイツ、後で絶対覚えてなさいよ。
もはや先生ではなく『コイツ』である辺り、二人の仲は悪い方向へ深まるばかりだ。
「もお、転弧先生…!!可愛いセリカちゃんを虐めたらダメですよ?」
「可愛くなかったら虐めをして良いってことか?じゃあ俺なら虐めても良いってことになるぞ」
「そんなことは言ってません!!それに、転弧先生も可愛いです!」
「分かった、もう良い。セリカも次から気ィ付けろよ」
ノノミに毒を抜かれ、答えるのも面倒になった転弧は端末を閉じてメニュー表に手を伸ばす。
俺のことを可愛いとかアホ抜かすノノミの戯言には本気にしてないが…生まれて初めて言われたぞ。
どこをどう見たら俺のことを可愛いと思えるんだ。
一応の謝罪は受け取ったので口コミは書くのを辞めておこう。
「……色んなメニューがあるんだな。お前らは決まったのか?」
「ひゃっほほっほほーい!おじさんは特製味噌ラーメン!炙りチャーシュートッピングで!!」
「じゃあセリカちゃん。私は味噌ラーメンでお願いしますっ」
「それじゃあ私はチャーシュー麺で⭐︎」
「ん、私は塩で。先生は何する?」
「俺は……あー…そうだな……」
…正直、ラーメンなんてなんでも良い。カップ麺ばっか食ってたとはいえ、市販で売ってるインスタントと店の営業で出す本場の味は違う。とはいえ俺の胃袋は大きくないので、二郎とかそこらへんは遠慮しておきたいが…。
「おっ、なら柴関ラーメンにしとくか」
ざっとメニューを目で通していくと『一番のオススメ!!』と大きく書かれた看板メニューを選ぶことにした。
柴関ラーメン――名前に捻りこそないが、この店ならではの特製ラーメンは、他の店では味わえないオリジナルを感じさせる。
値段も安く、この店でしか味わえない逸品は、他のラーメンよりも俺を惹きつけた。
どんな味がするんだろうな、という未知に対する好奇心を唆られる。
其々注文を終えた後、セリカは注文票へ書き留めていく。
「あっ、そう言えば…お金は大丈夫なの?ひょっとして、またノノミ先輩に奢ってもらうつもり?」
「はい、私はそれでも大丈夫ですよ⭐︎ほら!このカードなら限度額までまだまだ余裕ありますし」
セリカの問いに、ノノミは財布から金色のクレジットカードを取り出した。黄金に光り輝くクレジットカード類には『SAINT NEPHTHYS』と記されていた。
……俺が目を覚ました時のクレジットカードとは異なるようだ。
「いやいや、またご馳走になる訳にはいかないよー。きっと先生が払ってくれるはず。だよね、せんせー?」
「……………は?俺?」
我関せずと端末でゲームを起動していた転弧に突然向けられ、思わず素っ頓狂な声が出る。
は?え?俺が払うのか?これ…?
「分割じゃねえのか、こういうの……つうか俺が奢るなんて話聞いてねえぞ」
「え?初耳だって?あっはは!今聞いたから良いでしょ!」
「よくねぇよアホ毛。大体俺がきたから親睦会とかどうこう言ってたろ。それなのに祝われる側の俺が払うの、最高に意味わからんぞ」
「いやぁアレはセリカちゃんに会わせるための口実みたいなものでさぁ、ごめんねェ〜??ほら、その時はセリカちゃんと一緒の時にしよ!!」
「………道理で可笑しいと思ったぜ。なんとなくそんな気はしてたが…」
可笑しいと思った点は的中した。
セリカの話から突然外食の話題をホシノが提案し、親睦会だの適当な理由を付け、やけに俺をアビドスのメンバーと一緒に連れて行こうとしていた。あろうことか「セリカちゃんは任せてよ」と言っていたので、何となくだがアイツに関係することなんだろうなと薄々勘付き始めてはいた。
セリカが不在の中、仲間一人抜きでそんなことする筈がないと読んではいたが…。
とはいえ――俺が奢る前提の話は聞いてない。
裏がありそうだと考えていたが…ひょっとしてこれか?
「確認だが、もし俺の手元に金がなかったらお前どうしてたんだ??」
「えぇ〜?いやぁまさかぁ!!先生に限ってそんなことないでしょ〜?おじさんや可愛い後輩達とは違って、先生は大人なんだしさぁ?まあ、もし本当だったら先生には悪いけど、セリカちゃんと一緒に皿洗いでもどう?」
「早い話俺に無銭飲食しろってか?」
「ひょっとして本当にお金なかったりするの??」
「いや……カードならあるが……」
懐の財布から、ノノミとは違う変わった大人のカードを取り出し、皆に見せる。すると不安そうにしてたホシノは「おーっ!これが例の大人のカードだぁ!うへへっ!」と安堵の息に変わる。
「…ホシノ先輩、ひょっとしてこの為に私たちをご飯に誘ったんですね…」
「先生としては可愛い生徒達の空腹を満たすチャンスじゃーん?」
「……その機会はもうちょっと別の時にしたかったんだがな」
「うーん?まあいいじゃないの!その機会が偶々今日になったってだけでさ!」
「俺が言いたいのはせめてセリカも一緒の時にって意味だが?」
「あらぁ、先生ロマンチックですねぇ♡セリカちゃんも一緒の時に、だなんて!」
「あら…っ。んー…そう言われるとちょっと申し訳ない気が……」
セリカも一緒、五人の時なら金を出してやらなくもないという発言に、ひょっとして早計だったかと反省している。
ホシノとしてはセリカのアルバイト先を教えるサプライズ的な意味で外食にしたのだ。
自分以外セリカもアビドスのメンバーも、先生も知らない様子だったので、どうせならと思ったのだが…。
勿論、転弧としてはホシノの考慮も理解している訳で。
「まっ、けど……借金返済の為に自由がなかったってんなら…出してやる。痛手の出費だが……」
そろそろ俺の財源が底を尽きそうになるのは個人的に良く思わないが…キヴォトスに訪れてやれ翌日、散財しまくってたので自業自得という訳で。
コイツらアビドス対策委員会は、借金返済の為に自身が稼いだ資金を利息諸共に当てているんだ。
だとしたら、飲食くらいは出費してやっても問題はない。
それに……昔の俺も解放軍の資金で散財して好き放題食ってたんでね。
今度は上に立つ人間として、真に先頭を歩む者として、奢ってやるというのも悪くはない。
箔が付く訳ではなくが、格好くらいは付くだろう。
「おぉーーーっ!!先生かっくいぃー!!」
「殆どホシノ先輩が誘導したようなものかと思いますが……」
「先生無理してない?大丈夫そう?コンビニでもあんだけ買ってたのに……」
「買い貯めた食料は連邦捜査部への経費ってことにしてある。遭難したのも食料が底を尽いたのは事実だし、嘘は言ってねェ。証言者が必要だってんならシロコを連れてくぜ」
「まあ!シロコちゃんを先生の部室へ連れ込むだなんて…お母さん、抜け駆けは許さないわ!」
「ん…先生がそこまで私を求めるなら…」
「お前ら何言ってんだ。経費で文句言われた時の証人だって言ってんだよ」
「シロコちゃんだけ狡いです!それなら私も着いて行っちゃいます!!転弧先生は普段どんな風に過ごしてるんでしょうかねぇ〜⭐︎」
「転弧先生のベッドの下にいやらしい本でも置いてあるのかな〜?今度探してみよっか」
「ん、先生そこまで私のこと……」
「さっきから証人だっつってんだろテメェら。アヤネ以外イカれてんのか」
巫山戯合う談笑が五人団体テーブルから溢れるように騒がしい。そんな五人の光景を、セリカは注文を承ったテーブルに料理を運びながら、横目で様子を見遣る。
「…………ッ」
何故だか、キュゥ……と胸が締め付けられる気がした。
転弧先生が気に入らないという理由ではない。
ただ私以外の場所で、あんなにも楽しそうな会話をしてる姿を見るのは斬新で、そこに見知らぬ他人の…大人の先生がそこにいるのが、妙に胸を締め付けてくる。
「何よ……私がいなくたって、楽しそうじゃない」
この苛立ちは嫉妬だろうか?
それとも居場所が奪われていく焦燥か?
凄く……余裕がなくなるこの粘りつく不安な感じは、今まで体験したことのない感覚だ。
「おーい、セリカちゃーん!!料理できたから運んでくれるかい?」
「あっ、はーーい!!すみません、今行きます!!」
大将の言葉に我に返りながら、湯気立つ熱気浴びた食事をトレイに乗せ、騒つく鼓動を抑えながら、例の問題児達に足を運んだ。
頼んだ品が漏れなく提供されていき、一同は歓喜の表情に染まりながら、頂きますの声と共に割り箸を持って麺を啜っていく。
「やーー!!やっぱり炙りチャーシューを食べながら熱々の麺を啜るの美味しい〜〜!!」
「はむ……んっ、味噌も味が絡みついてて美味しいですっ」
「ふう、やっぱり塩が一番。さっぱりしてて美味しい…」
「うーん!焼豚麺も肉が柔らかくて、出汁も効いててすっごく美味しいです!!やっぱりアビドスのラーメン屋は噂通りですねぇ⭐︎」
五人団体のラーメンが運ばれ、皆待ちきれんばかりに食べ始める。
麺を啜る音、
香ばしい匂い、
色とりどりな麺、
それらを美味しそうに頬張り、笑顔で満ち溢れたアビドス対策委員会のメンバー達。
それら一面を見渡せる転弧のポジションは、存外悪くなかっただろう。
(…………そうか、こんなもん……か……)
なんてことのない、友達同士が楽しそうに笑い合って、美味しいと言いながら食事に舌鼓を打ち、活気にあふれた景色。
どこにでも溢れた日常の一枚絵。
でも…それがどれだけ、輝かしいのだろう。
自分が体験すら知り得なかった、青春の一ページだ。
――仲間達にも食わせてやりたかったな、この店。
アイツらの好みは深く知らないけど、それでもきっと…今のアビドス対策委員会のように、騒がしくて活気に溢れて、好き放題に食ってる姿が安易に想像できちまう。
「どうしたんですか先生?食べないと、ほら…伸びちゃいますよ?」
「ああ、悪い…今食う」
「ん、先生考え事?」
「………ちょっとな」
ノノミの言葉にふと我に返り、湯気立つ麺に箸を使って啜り出す。
口の中に広がる程よい麺の食感、沁みた特製スープが口内に響き渡り、
醤油…とも違うこの出汁は、濃厚だがクセはなく、程よく味の良い……この店限定のオリジナルって訳か。その癖してこの安い値段……こりゃあ人気な訳だ。
「……美味え」
「そうでしょう!!流石はセリカちゃんがアルバイトで働くだけのある良いお店ですもんね!」
「あはは…けど、先生も気に入って貰えて良かったです」
ずるる……ずるるる…と、麺を唆っては咀嚼し、喉を通す。こんなに美味い飯は久方振りだ。ワカモと寿司食った時も、ヨシミやジュンコと一緒にスイーツ食った時も、一人で食うより美味いと感じる。
それはきっと誰かと一緒に食事を囲う楽しみがあるからだろうか。
因みにセリカは他の接客に対応してるので、聞きたくても聞かない状態である。
――――――――――――――――――――――――――――――
「うへぇ、美味しかったぁ〜〜…。結構なボリュームだったねぇ…。いやはや、ラーメンは人生だ」
「もう、何言ってるんですかホシノ先輩…」
「でも確かな満足っ」
「おいお前ら、俺が金払うんだからせめて感謝くらいしろよ」
「ご馳走様でーすっ⭐︎」
「うへへ!先生ごーーちなりましたぁ」
「すみません、先生っ。お支払いの方を任せてしまって…」
「ん、今度私が荒稼ぎして返すね」
「……荒稼ぎする充てあんのか??」
「ん、ある。その為の準備してるから安心して」
「何を安心すりゃあ良いんだ??」
おふざけで戯れ合う五人は席から立ち上がり、転弧は会計を済ませようとレジの前に立つ。
「先生、先生っ――」
「ん?」
各々がラーメンを食べ終わり、さて会計に進むかとクレジットカードを会計に持ち込んだ際、ふと背後からノノミに呼び止められ、耳元に近付く。
「先生、こっそりこれで支払ってください……」
スッと胸元に差し出しのはノノミ専用のクレジットカードだ。ホシノはノノミではなく俺に奢らせようとしてたんだが…。
「お前、コレ……」
「大丈夫ですよ、ちゃんと先生が払ったってことにしておいて下さいね?」
こうしてヒソヒソと俺に内緒話のように提案するのは、恐らくホシノがコレを目撃したら必ず制止するからだろう。俺の懐事情の心配でもしてくれてたのだろうか。
「………いや、今はいい。どのみち俺が奢るって宣言した以上、撤回するつもりはない」
「え?ですが……」
「俺の財政にでも気ィ遣ってくれてんのか?だとしたら優しいなお前――けど安心しろ。俺は自分で考えて払おうって決めてたんだ。ホシノに言われたから仕方なく、なんてことじゃねえ」
会話の口振からして俺が来る前からノノミが会計で皆んなの食事奢ってたんだろ。
それに…
「そのカード。幾ら上限とやらがまだだからって、必ずしも無制限って訳じゃないはずだ」
「え?いえ!本当に全然使えますよ??」
「だったらそのカードの金額使って借金返済に充てるだろ。いや、返済に充てるつもりで残してるって可能性も…」
「……ッ。これで、返済に充てるのは…ホシノ先輩に止められてますから……」
「は?それってどう言う……」
「おーーい!ノノミちゃーん、先生〜〜?どうしたのーー??」
遠くから、ホシノが呼んでる声が響いてきた。
立ち話をし過ぎていたようだ。
「あ、なんでもありません!!直ぐ行きまーす!!」
「……取り敢えず、今日は俺が払う。それでもお前が納得いかないんだったら…今度、埋め合わせで手を打とうぜ。それならどうだ?」
「………ふふ、先生は本当に優しいんですね」
転弧の優しさに折れたのか、慈愛に満ちた母性的な瞳で軽く頷いた。
十六夜ノノミ――何となく金持ちな雰囲気は漂ってこそいたが…とはいえ、まだまだ底が知れない辺り何かしら理由が有りそうだ。
無事会計を済まし、満腹になった五人団体は満足そうにラーメン屋を後にした。
「じゃあセリカちゃーーん!バイト頑張ってね〜〜!!」
「セリカちゃんまた明日〜〜⭐︎」
「早く出てって!そして二度と来ないで!!仕事の邪魔だから!!!」
「セリカ――口コミレビューの件なんだが、星2にしておくな。味だけは美味かったぜ。今度はちゃんと笑顔と言葉遣い確りしろよ」
「煩い!!アンタはもう客じゃないわよ!!出禁よ出禁!!アンタなんかホント嫌い!大っ嫌い!!死ねーー!!死んじゃえばーーっか!!!」
「おお、コイツは想像以上に嫌われてんな」
「当たり前でしょうが!!!どこに好かれる要素あんのよ!!」
「にゃはは、元気そうでなによりだーーっ」
騒がしい嵐のような五人の連中に、地団駄を踏みながら暴言を吐き散らすセリカ。( 主に志村転弧に向けてだが )
転弧がいた場所に塩でも撒いてやろかとさえ本気で考え込んでしまう。
「全く……なんだったのよもう…。ほんと、やっぱり転弧先生のことなんて認めない!!!」
うん、やっぱりコレが私の納得のいく答えだなと自己完結する。
アルバイト前は、それこそ戸惑いもしたが…やはり自分は間違っていなかったなとさえ妙に納得する。
そして知りもしない――次の日から、セリカが志村転弧と本格的に向き合うことなど、この日はまだ――…。
「おー…セリカ、笑顔はどうした?」
「あれ?可笑しいな…オールマイト。笑顔はどうした?」
腐ってもこの師弟関係。相変わらずである。
どうしても、アヤネがどこぞのペロロ愛好家に似てしまう。
それなりに楽しかったですよ?お友達ごっこ。このセリフ、アヤネが言ってても違和感ないのバグです。
セリカに対してならかつてないほどの脳破壊と尊厳破壊であるのだが。