俺の二度目の人生は、魔王から先生へ   作:トラソティス

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20話『選んだ意思、定まらぬ答え』

 

 

 

 

 

 

 

「それにしてもセリカちゃんがアビドスの柴関ラーメン屋で働いてたのは驚きましたね」

 

「けどホシノ先輩、よく知ってたね。セリカがあそこの店でアルバイトで働いてたこと」

 

 柴関ラーメンを食べ終えたアビドスメンバーは、満腹感に至福を味わいながら帰路に就く道中、誰も知らなかったセリカのアルバイト先を知っていた事実に、シロコは疑問を投げる。

 

「あははっ、まあね〜〜。おじさんはなんでもお見通しなのだよ」

 

 自慢げに胸を張るホシノは、えへん!と鼻息荒く答える。

 

「とはいえ、ラーメン食べたらお腹膨れて眠たくなってきちゃったよぉ……ふわあぁぁ…」

「ホシノ先輩は食後問わず、眠っている気がするのですが……」

「けどお腹いっぱいになった後は、血糖値の問題で眠気がくるからしょうがない」

「おっ?解る口〜?いいねぇ!シロコちゃんも一緒にお昼寝どお?」

「ん……私はまだ眠たくないから良いかな…」

「じゃあアヤネちゃんも偶にはお昼寝どう〜?あっ、膝枕してくれても良いよお」

「しません!これから図書館で借金返済に近付く参考書とかも探したいですし……」

「そうなの〜?じゃあシロコちゃんは?」

「んー……賞金稼ぎ?その為に弾薬補充で学校に寄ったし」

「あらぁ…シロコちゃんは真面目だねぇ。おじさん涙が出ちゃうよ」

「それはさっき欠伸したからですよ、ホシノ先輩」

 

 なんて溢れた会話が、三人の中では談笑混じりに交わしていく。

 ホシノは眠たげに欠伸をし、シロコは鞄の中にあった指名手配犯の金額を確認している。

 アヤネは抱きついてくるホシノをなんとか抑えてる…そんな微笑ましいやり取りが映し出されていた。

 

「ふふっ、なんだか皆さんとっても楽しそうですね〜♪…ねっ?転弧先生っ⭐︎」

「……ああ」

 

 シロコ、アヤネ、ホシノの三人が仲良く談笑し、今日はさてどうするか。と話し合う背中を見守るように、ノノミと転弧は隣で歩きながら、二人して眺めていた。

 

「先生は、楽しかったですか?今日、私たちと一緒に食事をしたのは」

 

「……悪くはねえ。けど、なんでそんなことわざわざ聞く?」

 

「うーん……そうですねぇ、なんとなくですけど…私も転弧先生のことをもっと知りたくなったからでしょうか⭐︎」

 

「はぁーー………お前も大概変わってんな」

 

「ええ〜〜⭐︎けど、転弧先生も立派なアビドス廃校対策委員会のメンバーですから、新しく入ったメンバーの意見は知りたいと思えるのは当然のことだと思いますよ?」

 

 アビドス廃校対策委員会顧問。

 連邦捜査部シャーレの先生であり、現在はこの廃校寸前のアビドス学園の顧問として、生徒達の仲間として、この自治区で過ごしている。

 そんなこんなで、シロコの次に俺を気にかけてきたのは、十六夜ノノミだった。

 

「それにほら、こう言うのは口に出して聞いた方が嬉しいですし」

 

 ノノミは楽観主義者と同時に、平和主義者だ。

 常に先輩や後輩、シロコとの距離感は短く、直ぐに打ち明けてしまう性格だ。

 一人一人の意思を尊重し、争いごとが起きたとて明るい雰囲気で場を和ませるムードメーカー――と言ったところか。

 

「… なあ、一つ聞きたいんだけどさ。ノノミのあのカード……なんで使っちゃダメなんだ?」

 

「へ?あ、えっと…それはですね……」

 

 会計前――先生にゴールドカードで借金返済に充てる話を振り出した時、ホシノに止められていると聞いた。

 

「……私、こう見えても昔はセイントネフティスっていう大型企業の跡取りの…ご令嬢だったんです……」

 

「…………は?まじかよ」

 

 まさかのご令嬢ときた。

 セイントネフティス――話には聞いたことがあるが、詳細は不明。調べればそれなりに情報は出てくるのだろうが、そもそもこの学園都市キヴォトスには数え切れないほどの学園から企業、語り尽くせない程に溢れているので、全部を掌握するのは骨が折れる。

 ただ、大型企業の跡取りってことは……相当なお金持ちと見た。

 

「あー……だから、俺がくる前はノノミが飯奢ってたって感じなのか。やたらと金使いたがってたのも……ん?なら尚更、借金返済に充てた方が良いんじゃねえか?」

 

「……正直、私も使いたいです。ですが、ホシノ先輩がそれでも止めるのは……」

 

 ――あのさ、考えて話してる?そのカードで借金を返済するって意味、ちゃんと分かってる?

 ――そのカードはネフティスのものでしょ?つまり、そのカードで返済すれば、学校の借金を返済したのもネフティスってことになる。君じゃなくて。

 ――そのお金は誰が用意したものなのか、ちゃんと考えた方が良い。

 

 これは二年生の小鳥遊ホシノに言われた正論だ。

 あの頃のホシノ先輩は、なんと言うか…何かに追われてて、余裕もなくて、笑顔がなくて……自分で自分を憎んでるような、そんな眼だった…。

 

 

「へぇーーーー………アイツがそんなこと、ね」

 

 

 事の顛末を知った転弧は、改めてホシノの背中を見ながら「アイツもあんなこと言えるのか」と不思議そうに見つめる。

 何というか、他人に厳しい口調を聞くのは斬新だな…と、同時に自分も初期の頃は結構口が悪かったな、と何故か自分のことも踏まえ感慨深くなる。

 人は時が過ぎると共に成長し変わっていく生き物だ。

 だからこそ、今のホシノと昔のホシノの相違に、驚きこそすれど直ぐに納得も行った。

 

「……制限付きによる何らかのデメリットが生じるカードかと思ってたら、そんな深い事情が背景にあったのか…無神経に聞いて悪かったな」

 

「いえいえ!聞かれてないだけで、隠すつもりもありませんから…。それに、転弧先生がわざわざこうして聞いたのも、借金返済の問題を視野に入れて、ですもんね」

 

「……まあな」

 

 ノノミが自分の意思で借金返済の金額に充てるのなら、俺は悪くないと思っていた。

 巨額の富を築いた大富豪が慈善活動で被災地への投資、借金の肩代わりをする話は、滅多に聞かないが…俺はそれを偽善だとは思わない。

 力があれば行使することが自然であるのなら、

 溢れる金で飢えた者に与える事もまた、救済だと考えている。

 殆どの多くが莫大な利益を損失せんとばかりに独占し、恵まれず貧困に苦しむ者を上から目線でヘラヘラ笑ってる大人が大半を占めているからだ。

 ノノミは前者――つまり、自分の家にお金があるから、どうにかしたいって気持ちが強いのだろう。

 だが小鳥遊ホシノはこれを良しとしない。

 それは恐らく……アビドスの借金を自分達の力ではなく、セイントネフティスという大企業の資金で返済に充ててしまえば、それはネフティスの手柄となるからだ。

 ノノミはあくまで使っただけ――幾ら彼女がアビドス生徒に所属しているとはいえ、セイントネフティスの財政から資金を引き出しているだけならば、根本的な解決にもならなければ、この学園はネフティスに渡る可能性もあるって訳か。成る程なるほど……その線引きを観るホシノの眼は、やはり侮れない。俺の予想はおおよそ当たってる感じだなコレは…。

 

「けど………そうか、そう言う考えもあるのか…」

 

 だがこれでまた一つ、俺は学習することができた。

 金や力を欲するだけでは、何の意味もないことに。

 大事なのはそのお金が誰のモノで、使うことにどのような意味があるのか。

 これは…生前の俺にはなかった発想だ。

 

 ――そりゃくれるって言われたらいただくよ。

 ――俺はもうヒーローを侮らない。持てる全てでオールマイトの残滓どもを粉にする。

 

 その結果――先生に利用された。

 ドクターの肉体改造手術を経て、先生の身体を乗っ取る計画が本格的に起動した。

 先生が所有していたオリジナルの個性を与える。

 聞こえは良いが、それがどういう意味を表すのかを俺は理解していなかったし、考えもしなかった。

 

 だから先生にも言われたのだ――『君が力を欲したからだろう!?』と。

 

 もし俺が先生の個性さえいらないと拒絶していれば、また変わった未来もあったのだろうか……いや、そんな考えに行き届かない教育を受けていたのだから、こうなるのは必然だったのかもな。

 

 俺にはない考えを、小鳥遊ホシノは持っていた。

 成る程…意思もあり、俺とは違い育っていたからか。

 

 

「あの頃の私には、肩書き以外に何もありませんでしたから……。だから、少しでもアビドスの為に…って、いても立ってもいられなかったんです。子供の我儘だというのは、もちろん理解していますが……って、なんだからしくないですね私!!もう、こんな湿っぽい話は美味しいご飯を食べた後には宜しくないですねっ…」

 

 あはは、と苦笑ながらノノミは話を打ち切った。

 私にできることは、後輩やシロコちゃんにホシノ先輩を少しでも支えてあげること。

 借金返済にゴールドカードが使えなくても、アビドスのメンバーには少しでも彩りを感じる為に、日常品や嗜好品などを購入して…。それから…――

 

 

「……子供の我儘、ね…。でもアビドスに入ったのは間違いなくノノミが選んだ意思なんだろ??」

 

 それをさも、純粋な疑問で転弧は問いかけた。

 

「ガキの癇癪って訳でもないだろうに…。そりゃあお前、自分の家を出して、借金返済が無理だっつって、また途中から放り投げたり、諦めたりすりゃあ我儘だ。けど……お前は自分の意思で選んで、こうしてアビドスの生徒になったんだろ。そんでホシノの奴……ちゃんと受け入れたんだろ。お前が動いたのは、誰かに言われた訳じゃないんだろ」

 

「ッ─────」

 

 転弧の的を得た言葉に、ノノミの心臓が脈打つ。

 言葉に衝撃があり、実体感があり、全身の血液が駆け巡るような、味わったことのない感覚に困惑と同時に、熱を浴びている感覚が研ぎ澄まされていく。

 

「俺は…誰かが意図的に作った道筋に沿って進むより、自分で見つけた道を歩んでる方が、よっぽど輝いてるように見えるぜ。ノノミは肩書き以外何にもないって言ってたけどな、そんなことはない。お前はちゃんと自分の意思を持って、行動に移すことができる " 原点 " がある。それは立派なコトだろ」

 

「原点、です、か…?」

 

「ああ、心の原動力、行動の起源、物語の発端……意味は様々だが、その頃のノノミにはぴったりだな、原点(オリジン)って言葉は――」

 

 原点とは、個性のように人それぞれに携わっている原動力だ。

 例えば、先生は弟とコミックを読んだことにより魔王に憧れて、

 緑谷出久はオールマイトに憧れ、考えるより体が動いてて、

 俺は志村奈菜の写真から始まり、

 今の俺は救われた後、この世界で先生を始めたことだ。

 

「いても立ってもいられない…何者でもない自分でも何か力になれるか、どうにかしたい。そんな気持ちがあって、裕福な家放り出してまでアビドスに赴いた…。それも立派な原点(オリジン)だ――」

 

 嘗て言いそびれた原点の話になってくるが、本当にノノミが肩書き以外に何もなければ、アビドスをどうにかしたいという心さえ芽生えなかったはずだ。

 大企業の大人たちが制止する抑圧を振り切ってまで、ここに居たいんだろ?それでもここが居心地がいいと思えるのなら、何者でもない訳がない。

 アビドスの生徒を名乗るって言うのは、そう言うことなんじゃないだろうか。

 それに…良いじゃん。大人の言葉に従うがまま、抑圧されてまで言いなりに生きていくより、自由意志で行動するノノミは…幼少期の俺にはなかった行動力だ。

 まあ、年齢の差異や成長過程によって違うのだから、当然なんだろうけどさ。

 

「まっ、だからそんな風に自分を卑下するなよ。昔のノノミもホシノも、何があったかは知らねえけど……今ここにいるのもまた、紛れもなく原点があるからだろうな。仲間たちがいるって意味合いもあるけど…。だから、ノノミは好きなように生きて、思うがままにやってみろ」

 

 ハッ――と微かに笑いながら、転弧は再び前を向き歩いていく。

 そんな転弧に、ノノミは呆然としていた。

 こんなこと、誰にも言われなかった。

 言ってくれる大人は当然いなかったにしろ、こうして言葉に…口に出してくれる人は、先生以外誰もいなかった。

 アビドス廃校対策委員会のメンバーが、ノノミを大切にしているのも理解しているし、お互い大切な仲間なので、当然のことではある。

 だが仲間だからと言って、通じ合うからと言って、口に出すか出さないかでは全然違うのだ。

 況してや、アビドス廃校対策委員会の顧問になって数日しか経っていない転弧先生であれば尚更だ。

 

 

「もう……本当に狡いです、先生……」

 

 ずるい、ズルい、狡い――

 なんで、この人はこんなにも的確に、嬉しい言葉を言ってくれるのだろう。

 本当に、ちゃんと見てくれてる。

 私はちゃんと立派にアビドス廃校対策委員会の一員だと、より強く実感することができる。

 そう思えることが、どれだけ嬉しいことなのか。

 誰かに認めてもらえるのが、どれだけ喜ばしいのだろう。

 お金で買えないものなんて、幾らでもあって――転弧先生と一緒にいると、その大事なことを教えてもらってる気がして…。

 きっとこれは……私が、どこか心の奥底で、言って欲しかった言葉を転弧先生が投げてくれたからだろう。

 こんなの、益々好きになってしまう。

 

 

「――ッ?……………は?」

 

 いつのまにか彼女は、転弧の腕を抱きしめて隣に寄り添っていた。

 顔を埋めて、甘える小動物のように。

 予想だにしない行動力に、ノノミのことに誇らしげに浮かべていた笑顔は、いつしか困惑の顔色に染まっていた。

 

「いや……は?急にお前………どうした???は?なんだ……??」

 

「すみませんちょっとだけ、こうさせて下さい……今はなんというか、少し甘えていたい気分なので…」

 

 ぎゅぅ…ッと、腕を抱きしめる力は強まり、離れる気は更々ないと実感した。…強え、多分微動だにしないだろう。

 

「……………まあ」

 

 ノノミが他人に甘えるのは珍しいことで、こうしたケースは滅多にない。

 これはアビドス廃校対策委員会にすら見せることはないだろう。

 本来の俺なら、鬱陶しいと言いながら払いのけるのだろうが…。

 不思議と不快感もなければ、ノノミのこの衝動的な行動に俺が口を挟む余地などない訳で。

 それはきっと、心の奥底で無意識に理解できちまってるんだろうな。

 どんな気持ちだとか、具体的に上手く言えない。

 俺はそこまで愛情を注がれて生きたこともなければ、大体他人と関わって生きていく時間が少なかった方だ。

 

 なんとなくだが、安心……してるんだろうか。

 見当違いかもしれない。

 それでもこの安らぎに似た心の安心感を、俺は知っている。

 心の底から安心しているノノミが、こうしていたいと言うのなら、俺は振り払わずに肯定しよう。彼女の気が済むまで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――

 

 

「はぁ〜〜……つっかれた。今日は色んな事があって、とんだ厄日だわ」

 

 バイトを終えたセリカは常日頃から携帯している愛用の鞄を担ぎながら、溜息混じりに愚痴を溢す。

 アルバイトに行く道中で転弧先生(アイツ)と出逢うし、自分がせっせと働いてる場に皆んながちょっかい出しに来るし………どっかの誰かは私をおちょくるし、とんだ災難だ。

 

「皆んなで来るなんて、騒がしいったらありゃしない…。人が働いてるのに、先生先生って、チヤホヤしちゃって…ホント迷惑。なんなのアレ…バッカみたい――」

 

 人が一生懸命働いてるのに、揶揄いにやってきて……然も皆んな、先生先生って笑いながら……私がいないところで…ッ。

 なんか、思い返してたらムカムカしてきた。

 

「ホシノ先輩、昨日のことがあったからってわざと先生を連れてきたに違いないわ!!」

 

 そもそも、だ。アルバイト先を知られたくないから黙っていたのに、まるで泳がされていた気がして腹が立ってくる。

 それと同時に羞恥心も湧いてくるのだが、転弧先生のこともあるので怒りの感情が真っ先にやってくる。

 

「……ふざけないで。私がそう簡単に折れると思ったら大間違い…況してやあんな奴……あっ、そうだ!!」

 

 ブツブツと心に溜まった欝憤を吐き出す真中、思い付いたことがあり端末を直ぐに開く。

 アイツのことだから、どうせ店に悪口を書いているのではないか?という考えが行き渡り、直様確認する。

 

「えっと…………あれ??」

 

 もし本当に書いてたら金輪際口を効かないか、或いは黙ったまま殴り倒してやろうかと考えてた。

 然し結果は違った。

 

 

『ラーメンがめちゃくちゃ美味い。一人若手アルバイトのやつ、すげぇ頑張ってる。自分が至らない点があれば謝罪もできる。だけどまだぎこちない所や、知り合いがいるとつい私情を挟んでしまう為、そこは仕事と事情を分ける為の改善点あり。そこは本人の頑張り次第なので、成長も感じられる良い店。昔の仲間にも食わせてやりたい味』

 

 

 まさかの星4だった。

 ユーザー名は『弔』とか聞いたことのない不吉な名前だったけど、内容的に書いたのは転弧先生で間違いないだろう。時刻的にも辻褄が合う。

 

「………なによ、こんなんで…認めて貰おうたって……そんな簡単に折れないんだから……」

 

 ホントに、あの大人は狡い。

 あんだけ揶揄って人を怒らせて、

 自分が嫌われてると自覚しながら、

 それでもちゃんと見てくれている。

 変なこと書かれてなかったと言う安心感と、

 自分が踊らされていたと言う悔しさと、

 ちゃんとお店のことを良くも悪くも評価してくれる嬉しさ。

 色んな感情が絵の具の多種多様な色で混ぜていくような感覚に、目頭が熱くなる。

 

「………そもそも、認めるって、なんだろ……」

 

 感情的になって振り回されていたが、そもそも自分はなんで先生を認めてないんだろう…。

 最初は「何も知らない癖に」「自分達の居場所に突っ込んでほしくない」「自分達の問題は自分達で解決する」だった。

 アビドス廃校対策委員会は私たち五人だけ――それ以外が介入して、今更手を差し伸べてきても遅いのだと。

 

 だから、今更部外者が現れたところでもう…何もかも手遅れだ。

 何も知らない人間がきたところで、もし騙されたらどうするんだと。

 …そうだ、騙されるから。

 悪い大人かもしれない。

 皆んな何でもかんでも信じて、裏切られる可能性を考慮してない。

 手を差し伸べた結果、借金が増えたのだ。

 得なんてしない話に、見返りもなく手を差し伸べてくるなんてあり得ない。

 だから、認めてないのだ。

 そうだ………その、筈なのに…。

 

 

『自分の納得の行く答えかどうかは、自分で決めろ――』

 

 

 自分の心の中にある言葉を充てても、納得が行かない。

 ひょっとして、先生はこうなることを見込んでいたのだろうか。

 戦術指揮を心得てるのだから、人の心理に関しても長けてるのだろうか?

 まるで心を見透かす能力でもあるのかと錯覚してしまう。

 

「はぁーー………だめ、考えたって今は答えなんて見つからないや。取り敢えず今日は寝よ……。それで、稼いだお金はまた借金返済に充てて…」

 

 無意識に答えを探そうとしている時点で、黒見セリカは確り転弧先生を少なからず受け入れているのだろう。

 本当にどうでも良ければ、認めてなければ、先生の言葉などセリカに届かないのだ。

 

 ――明日は登校日だし、蓄積した疲労で寝坊しないように……帰ったらご飯食べて、シャワーで浴びて……それからお布団入って……。

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――

 

 

「オイ、あいつが例の……」

「間違いない。アビドス廃校対策委員会のメンバーだ――」

 

 同じくアビドス郊外自治区市街地。

 コンビニや住宅街が並ぶ建物の影から覗き込む不穏の影が蠢いていた。

 セリカの背後を睨むは、敵意、悪意、様々な視線を向けている。

 

「準備は良いか?次のブロックで捕獲するぞ」

 

 一人の赤いヘルメットを被ったリーダー格が指示を出すと、待機している周りの仲間達は、相槌を打つように軽く頷いた。

 危険が迫っていると知り得ぬセリカの背後には、既に悪意の手が近付いていることなど知る由もなく――

 

 

「そう言えばここら辺、随分と人が減っちゃったなぁ…。前まではこんなんじゃなかったのに……」

 

 ポツリと呟いた言葉は夜空と共に虚しく消える。

 柴関ラーメンの繁盛っぷりに、外の自治区から客が足を運んでくるのもあり、毎日のアルバイトの忙しさで忘れがちになるが、郊外エリアと言えど市民も少しずつ去っていってる。

 最近は治安も悪くなり、カタカタヘルメット団のような粗暴な連中が少しずつ住み着いてきてるのだ。

 

「ううん!ダメ――私が、私たちが頑張らないと!!バイトでお金を稼いで、学校を建て直さないと…。けどこのままじゃ利息の返済に充てるだけ…何も変わらない………――」

 

「――黒見セリカだな?」

 

「!?」

 

 背後から声を投げられ、セリカは瞬時に振り向く。

 考え事でボーっとしていたからか、疲労の所為か…人の気配に気が付かなかった。街灯の光が人影を照らしてるからか、良く見える。

 

「何よアンタ達…?」

「黒見セリカで間違いないな――?」

「なんで私の名前知って……って、アンタたちはカタカタヘルメット団??」

「いや違う。我々は……いや、言う必要はない」

 

『違う』という言葉が頭領らしき人物から発せられた事に、恐らくカタカタヘルメット団とは違う組織だと瞬時に理解する。

 

「あっそ……で、なに??私のことを知ってるみたいだけど……武装までして私の前に現れたってことは、戦るつもり?それならちょうど良かった。虫の居所が悪かったの――アンタ達が二度と悪さしないように徹底的に叩き潰してやるわ!!」

 

「…素晴らしい威勢だが、それは叶わないな」

 

 ドス黒い怒りの感情、冷酷な眼圧を向けながらも、棟梁は決して一歩も引かずに片手を挙げる。

 …――?待って、これは何かのサイン…?

 

 

 プシュウウゥゥ――――ドゴオオォオンン!!!!

 

 

「うっ!?!がはッ――!!」

 

 サインと共に発射音が遠方から聞こえ、そのまま弾頭がセリカ目掛けて直撃する。

 被弾した際に視界が揺らぎ、土煙と激しい痛みが全身を襲う。

 大爆破により意識を吹き飛ばす衝撃が加えられ、セリカは思わず地面に転がるように倒れ込んでしまう。

 

(今のは…対空砲!?いや違う……この爆発音は…Flak41改………?)

 

 セリカ一人の為に火力支援の武装。

 8.8㎝榴弾砲対応改造された兵器は、所持しているだけでも違法である。

 ゲヘナ学園にも似た軍事兵器が確認されているが、こちらの場合は威力重視にてブラックマーケットに流れてることが多い為、この手の武器を所有している者は大抵犯罪者が多いと聞く。

 不意打ちによる射撃により回避は当然のこと、受け身も取れず被弾したことにより、かなりの手酷い重傷を負ってしまった。

 

「はっはっは!!カタカタヘルメット団がやられたと聞いた時は耳を疑ったが……遂に我々の出番が来たというもの!!」

 

「ぐ…っ!こ、の……」

 

「ッ!驚いた…まさかまだ意識があったとは…。おい、眠らせろ。但し殺すな――拉致して例のポイントまで連れていくぞ」

 

 朦朧とする意識と、全身に浴びせられる痛みに、歯を食い縛りながら意地でも武器を手に取り反撃を試みようとするも、それも虚しく一人の構成員が蹴りを入れ、倒れ伏してるセリカの手を踏む。

 

「い゛っっ゛!?」

「大人しくしろ――」

 

 ドパパパパパパ──────!!!

 

 そして倒れ伏してるセリカに追い討ちの如く、連続射撃を浴びせていく。

 他の者達も加勢するように銃弾を浴びせていくその絵面は、まさに袋のネズミ叩きだ。

 

「ッ゛──────!!」

 

 痛みが重なり、強靭なキヴォトス人の身体は段々と耐えきれず、銃弾の熱、殺傷力による衝撃により、完全に意識が途絶えてしまった。

 

「よしっ、もう良いだろう。このままコイツを縛ってアビドスの無人砂漠のポイント地点まで運ぶぞ」

「「「「了解」」」」

 

 こうしてヘルメットを被った複数の団体は、気絶して倒れ伏してるセリカを囲い縄で手首や足を縛っていく。

 拘束されたセリカは大型トラックに積められ、抵抗すら敵わずヘルメット団に拉致されてしまった。

 

 ――ああ、私……まだ、借金も返せてないのに…。

 皆んなで学校の問題も……解決、できてないのに……。

 ……先生にも、まだ、返事もしてない……答え、見つけて、ない……。

 

 

 

 ――誰か、助けて…。

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――

 

 

 ピンポーン!

 

「セリカちゃん、セリカちゃーん。帰ってきてるーー??」

 

 真っ暗な部屋にインターホンが鳴り響く。

 誰もいない部屋の扉越しから声が投げられ、トントンと手の甲で数回叩かれる。

 

 ピンポーン!

 

 2回目のインターホン。

 その後にまた数回ノックを繰り返す。それでも無人の部屋に返事はなにもない。

 

「あれ…?可笑しいなセリカちゃん……まだ帰ってないなんてはず、ないんだけど…。あそこのお店は22時に閉店するから、こんな時間なら帰ってきてるはずなんだけどな……」

 

 セリカの部屋の前で砕けた口調で呟くのは奥空アヤネ。

 普段は敬語口調な彼女も、人前にいない時や同級生のセリカが相手の場合、偶に素の自分を晒すことがある。

 さて、話は変わるがそんなアヤネがなぜ深夜にセリカの部屋の前にいるのか。

 消灯時間――ベッドへ眠りに就く前に、明日について確認しておきたいことがあったのだ。

 明日でも別に良かったのだが、言い忘れてしまうといけないので…。なんて建前と、もう一つは先生のことで心配していたからというのもある。

 感情的に振り回されやすいセリカに、対しては揶揄い上手の転弧先生。両者共に見守っていて、仲がより悪くなってしまったのではないかという不安もあり、確認しにきたのだが…。

 

「……可笑しい。セリカちゃんが返事すらしないのは、今まで絶対なかったはず……」

 

 こんな時間になっても返事がない。

 最初は眠っているのでは?と思った。

 なので電話をしてみたのだが……着信すらでなかった。

 いよいよ不審感が高まったアヤネはスペアキーで、申し訳ないと思いつつも扉の鍵を開け、部屋へ入る。

 

「お邪魔しま〜す……セリカちゃ……」

 

 ここで気付いた。

 セリカがいつも履いてる靴が、玄関にまだ置いてない事に。

 暗闇のまま、まるでまだ帰宅していない状態で、空っぽのまま空いていたのだ。

 

「えっ……?そんな、まさかまだ帰ってきて……」

 

 セリカがまだ帰ってない。

 蓄積された不安は、次第に心臓の鼓動を速め、冷や汗がぶわりと流れていく。

 嫌な予感は次第に脳裏に過り、最悪たる想像をするのは容易い。

 セリカは素直にこそなれないが、根は真面目だ。

 そんなセリカが帰りに道草を食っているのも、どこか夜遊びしていることなど絶対にあり得ない。

 それらを踏まえて考えられるケースとすれば…。

 

「ッ!!そんな…!そうだ…ひとまず最初に先生に連絡を…!!」

 

 

 トラブルや事件性に巻き込まれたケースが、極めて高い。

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

『先生のおばあちゃんって、どんな人だったんですか?』

 

 シッテムの箱から響いたアロナの声に、片手間でゲームを満喫しながら数秒黙り込み

 

「急にどうした。珍しいな、アロナが俺に質問するなんてよ。然もなんの脈絡もなく」

 

 質問を質問で返した。

 それもそうだろう。タダでさえ祖母のことを聞かれたのは生まれてこの方アロナだけだ。初めて問われる質問に、なんて返すのか…よりも、どうしたら話を濁すか正直に答えるかを模索する言葉返しをしたのである。

 

『ほら、先生の写真に映ってる方。おばあちゃんですよね、顔の雰囲気がソックリですけど。先生が大事そうに持っているので、気になっちゃいました!!』

 

 …となれば、あの悪夢はアロナも共通認識で夢見てた訳ね。

 そんなアロナも俺が目を覚まして直ぐに仕事モードで話してたの、冷静に考えてコイツ本当にガキなのかって疑わしく思えてしまう。

 おばあちゃんのことはアロナには話していない…にも関わらず、この写真を見ておばあちゃんと判別したということは、少なからず俺の認識で間違いないだろう。

 

「……聞きたい理由は理解した。けど、俺がゲームしてる横で急にそれするか?」

 

『だって転弧先生〜…。そのゲーム3周目ですよね?もう流石に見飽きちゃいました!アロナもやりたいですけど、やれませんし…』

 

「ハッ、周を重ねるに連れて手に入れるアイテムや分岐ルートも変わるんだよ。これクリアしたらシッテムの箱に置いてやるよ。セーブデータさえ消さなきゃ好きにして良い」

 

『本当ですか!わーいやったあ!!』

 

 まるで大人が子供に玩具やゲームを買い与えるような遣り取りだ。…そいや俺も、昔は先生に欲しいものねだったら即買って与えてくれたっけな。

 まあ、これで話は脱線したし…。

 

『で、先生教えてくださいよ〜〜アロナ気になっちゃいました!!』

 

 ………しなかったらしい、しつこい。

 ガキに人のプライバシーを探るなと言いたいが、かと言いつつ叱ったりするのは父親と似た行動を取ってしまうので、それは避けたい。

 

「チッ……面倒だなぁ……そんなに気になるのかよ」

 

『だって転弧先生。その写真は今もこうしてアビドスにまで持ってきてるじゃないですか!!大切なものはシャーレに保管しておけばいいはずです!肌身離さず持ってる先生は、お守りを持ってるみたいで可愛いなーーって思いました!!』

 

 聡い一面とガキ発言に調子が狂う。

 それに可愛いってなんなんだ。

 ノノミといいアロナといい、俺のどこをどう見たらそんな発言出てくるんだ。意味がわからん……おちょくってるのか。

 いや…けど、あの悪夢をアロナも見ているってことは……

 

 

 ――忘れないでね、おばあちゃん天国で見守っているからね。

 

 

 …まあ、アロナだけなら良いか。

 俺の秘書だし、俺以外に認識は出来ねえんだし…。

 それに、ある意味あの時のコイツもヒーローだったしな。

 

 

「ヒーローだったよ。5歳の頃、夢見て憧れた存在だった――」

 

 

 

 比喩ではない。

 この世界にない職業――ヒーローという存在は、無力な市民にとって光であり、希望であり、救いそのものだった。

 だが同時に時代も悪かった。

 あの頃は先生が社会を、日本を、世界を支配していた。

 誰もが疑心暗鬼に満ち溢れ、手を差し伸べられない悪の時代が栄えていた。

 建物が幾ら復旧しようと虚飾として聳え立ち、

 何度も何度も地平線から平和を創り上げようとしても無駄で、

 争いが常日頃から絶えず、報道の8割が犠牲者で埋め尽くされていた。

 

「ヒーローって職業はこの世界じゃ悪者をぶっ倒す英雄的な視野で見られちまうが……単純じゃなくて、もっと複雑で……グレーゾーンのような…まっ、一言で言えば誰かの心を救う存在だな」

 

 そんな時代でも悪に抗い、人々の為にと力を奮い、弱気を救け、強さに屈せず立ち向かってきたのがヒーローだ。

 その時代の人柱として、世のために闘ったのがおばあちゃん。

 もっと正確に言えば、ワン・フォー・オールを背負いし業とも言えるだろう。

 この事実を知っているのは、先生と俺の意識が融合し、混ざり合ったからに他ならない。

 それまで俺はずっと、騙され続けてきたのだ。

 

「ガキの頃、華ちゃん……俺の姉ちゃんと一緒に、この写真見て姉弟ヒーローになろうって夢見てた頃があった。夢を応援してくれた。俺が憧れを抱いた原点でもあるな…」

 

『先生………ん?えっ!?!先生ってお姉ちゃんいたんですか!?!』

 

「ああ、いたよ――」

 

 もう、崩れちゃったけど。

 俺の手で壊しちゃったけど。

 未だに忘れられない、あの日握った華ちゃんの身体が、バラバラの血と肉片で塗れた気色悪い感触を、一生忘れることはないだろう。

 

『お姉ちゃんですかあ……アロナは一人っ子ですらねェ〜〜…。羨ましいです。けど、どうせならアロナはお姉ちゃん役やりたいです!!ほら、アロナはバリバリ、やれば出来る子元気な子ですから!!』

 

「お前に姉は設定無理すぎるだろ」

 

『そんなことはないです!!さ、流石に転弧先生のお姉ちゃんとかはできませんけど……。けど、妹が欲しいです!!そして妹と一緒にカステラやプリンとか食べあったり……一緒に楽しくお話ししたり、そんな日常に憧れたりしちゃうんですよねっ、えへへ』

 

「シッテムの箱でさえ解析不可能なのに一体どうやって妹導入すんだよ。助け合える姉妹なんかいなくたって、困った時がありゃあ俺がいるから心配すんな。甘い菓子だって、時間がありゃあ一緒に食ってやる」

 

『た、助け合えるとまでは考えてませんでしたけど……』

 

 まっ、それもそうだ。

 別にアロナは困ってなんか居な――

 

『それで、転弧先生は憧れの人になれましたか??』

 

 その言葉に、今度こそ転弧はフリーズした。

 手の動きを止めて、シッテムの箱を横目に見遣る。

 

『私には、夢とかは分かんなくて……精々、もしもアロナが学園に入学するならどこだろー?くらいには考えたことありますけど…』

 

「それは………」

 

 ――ねえ、転弧はまだヒーローになりたい??

 ――アイツらのヒーローに、ならなきゃ。

 

 ふと母親の言葉を思い出し、そして憎しみが打ち砕かれた死柄木弔の最期を思い返す。

 ……難しい話だ。

 アイツらのヒーローになれたとして、死柄木弔とは最期の最後まで壊す為に闘い、敵として譲らず一貫した。

 

 ヒーローという職業にはなり得なかったが、それでも誰もが誰かのヒーローに成れたのか?と問われれば、俺は間違いなく敵連合のヒーローになれただろう。

 

 死柄木弔は全てを壊す敵として、

 志村転弧は誰かのヒーローとして、

 どちらも二面性を備えてる俺としては、どっちも正解でどっちも間違いだ。

 

「……俺は」

 

 プルルルルルッ!!…プルルルルルルッ!!!

 

 口を開き言葉を発する瞬間、タイミングが良いのか悪いのか、着信が鳴った。

 ……まあ、自分の過去を口から垂れ流すってのは、中々にエグいことだ。好んで語るような性格でもない俺としては濁すには充分だろう。

 

『先生!お話し中すみません、奥空アヤネさんから着信が入っております!』

 

「嗚呼、繋いでくれ」

 

 俺は構わず端末から鳴り響く着信を許可した。

 …そいや、こんな夜遅い時間から電話だなんて、アヤネにしちゃあ珍しすぎるな。

 

「よォ、アヤネか。もしも――『先生!!!セリカちゃんが…!セリカちゃんが…ッ!!!』…………は?セリカ?」

 

 なんてことない真夜中の学校の執務室でのんびり寛いでた静寂の暗闇から一変、アヤネの危機迫る焦燥で震える声、少し涙交じりの不安な声に、俺の心臓が騒めくのを感じた。

 アヤネの声からセリカの名前が連呼、この異様な気配…自然と最悪なことを想像してしまう。

 

 

『セリカちゃんがまだ帰ってきてません――!!!音信不通でこんな時間でも帰ってないことなんて、今までなくて…!!』

 

 ……………は?

 おいおい、まじかよ。

 よりによって、アイツがアルバイトで頑張って働いてる最中に、俺らを狙ってる連中が動き出したってか??

 …随分と、嫌がらせなことしてきやがる。

 

「アヤネ、良いか一旦落ち着け。俺が絶対なんとかしてやる。呼吸整えろ――状況の整理がしたい」

 

『はぁ、はぁ…す、すみません……!!』

 

 …あのアヤネが相当焦ってるのが、声だけで感じ取れる。

 コレは間違いなく100%事件だな。

 

「連絡したのは何時からだ?」

 

『20分前……連絡しても返事がこなかったので、不穏になったので…ッ。それと、調べてみたら電源が入ってないのが1時間前……』

 

「そこまで調べてくれたのか、助かる。コレを知って連絡したのは?」

 

『せ、先生だけです!!学園で寝泊まりしてくれてる先生に連絡するのが一番かと…』

 

「賢明だ――よし、解った。アヤネは直ぐに他の奴らに大至急連絡してくれ。俺は俺でセリカの位置情報を特定する手段を考える。そして連絡取り次第早急にアビドスに来い。事件性だと知った以上、セリカを救出する為の下準備、並びに作戦を立てたい」

 

『ッ!!わ、分かりました!!!』

 

 こうして着信が途絶えると、俺は直様シッテムの箱を起動する。

 

「アロナ――黒見セリカの居場所を特定したい。本来なら個人主義とか、プライバシーの侵害辺りの問題になっちまうが…コトがコトだ。緊急事態につきアイツを救う為に手掛かり、情報収集が必要だ」

 

『はい、了解です!それならセントラルネットワークを利用するのが一番かと…!!当然、これは私的利用禁止ですし、使用するにも申請許可が必要で、これを知られたら相応の処罰を受けてしまう危険性が……』

 

「構わん、無許可でやれるか?」

 

『は、はい!!アロナも優秀な先生の秘書――地に足の付かないよう痕跡を消しておきますので、黒見セリカさんの端末位置情報を頼りに索敵します!』

 

「助かる」

 

 自身が厳罰を受ける可能性を視野に入れた上で即答である。

 許可の申請をしたところで、この時間帯であれば許可が降りるのに時間がかかる。

 一分一秒でも、彼女を救出する為には時間が惜しい。

 そうなれば無許可で使用をすれば時間短縮が可能だ。

 

『先生!見つけました!ここです!!』

 

「ふむ……ふん、ふん………このマップ的に位置は……成る程、大方…アルバイトを終えて帰宅中に狙われたってとこか。然も真夜中で一人…時間帯や帰宅路地を鑑みて計画性のある犯行手口だなこりゃあ」

 

 アヤネが言ってた「電源が入っていないのは1時間前」と言っていた。この位置から端末情報の電源が途絶えたとなると、襲撃を受けた際にイカれちまったのか、或いは主犯格が意図的に端末の電源を弄ったか、どちらにせよ襲撃を受けたトラブルって推測は間違いではないだろう。

 だが端末の電源が途絶えた痕跡だけでなく、セントラルネットワークの機能権限は電源がオフになっていても位置情報の特定はできる。

 

『そして砂漠化が進んでる市街地の端に……ほら、現在でも黒見セリカさんの位置がどんどん離れていきます!!』

 

 赤く点滅するポインターは、特定の速さでアビドス市街地から離れていき、砂漠へと進んでいく。

 

「………態々砂漠に行く道理のないセリカ。襲撃と思わしき痕跡と、移動速度が一定のまま持続……成る程、今回の事件は拉致か」

 

 冷静に分析しながら、情報を纏めていく。

 敗れたカタカタヘルメット団は、ヴァルキューレ警察学校に引き渡した為、同じ組織である可能性は極めて低い。

 残党の可能性も捨て切れないが、あのセリカが残党レベルでやられるとは考え難い。

 つまり…黒幕が新しく使い捨ての駒を雇ったか。

 そもそも向こうの集団と数、実力、武器も未知数。

 今回は情報がまだまだ少な過ぎるが……まあ、今に限った話じゃない。

 

「………問題はセリカを拉致した理由だ。邪魔なら消すって考えではない辺り、手の届かない場所でアイツを人質に取るってケースが俺の経験上、可能性が高い…」

 

 手の届かぬ場所にボロボロの仲間を餌として人質に、俺たちを誘い込む算段だろうか。

 拉致をするのにも理由がある。

 相手の要求は、恐らく学校を引き渡せとか、そんなもんか?

 アビドス高等学校を付け狙う理由……その内の一つとして、カタカタヘルメット団は兵糧攻めでアビドスの学園を執拗に狙っていた。

 そこを俺らが潰したことにより、この短期間で別の組織団体が計画性のある犯行を取るのは、アビドス廃校対策委員会を脅威と感じたのだろう。

 

 だから、今度は隙につけ入り単体の生徒を狙ったと考えるのが妥当か……正面では俺らに勝てないからってな。

 勿論これはあくまで推測なので、間違いの可能性もある。

 だから、俺はこの仮説を立てた後、アイツらが来るまで複数の予測を立てる。

 

「……………どこの誰だか知らねえが…俺の生徒に手を出したってことは、それ相応の報いを受ける覚悟は出来てるんだよな?」

 

 額に血管を浮かばせながら、瞳孔が微かに震える。

 猛獣のように鋭く、嘗て前世で暴れていた死柄木弔の面影が、色濃く影に出る。

 絶対、許さねえぜ――

 

 

 

 待ってろセリカ――絶対、助けてやるからな。

 

 

 

 

 






ノノミの耳掻きASMR待ったなしレベル。
考えて下さい。これを読んで、公式ブルアカのショート動画とか、色々見直すしたり、絆ストーリー見ると無限に味が出るんです。まるで出汁鶏のように、ワインのように長く味を嗜めるんです。

「次回、セリカがめっちゃ号泣してるぞ。未来の王様のご帰還だ――乞うご期待」
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