俺の二度目の人生は、魔王から先生へ   作:トラソティス

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ランキング上位入りに驚愕隠せない作者、あえんぴえん。
脳汁ドパドパ、これ抜け出せずに沼るやつ。

……いや、まさかここまで高評価頂けるとは夢にも思ってませんでした。本当、高評価も感想もすっごく嬉しいです、有難う御座います!!ぼちぼち小説の文章力を磨いたり、ストーリーの構造、キャラの立ち位置や心理描写、etc……深く理解し、日々精進して参ります!




3話『チュートリアル』

 

 

 

 

 

 

 

 

 連邦捜査部へ赴く道中――公道を走り抜ける自動車。

 車内には運転席でリンが表情一つ変えずに真剣に運転を試みてる。隣には携帯食のカロリーバーを咥えてる転弧先生。対して後部座席には四人の生徒全員が座っていた。

 

「私たちの情報が欲しい…?」

 

「ああ、言ったろミーティングをするって。戦闘が始まる前にお前達の情報を可能な限り知っておきたい」

 

 サクサクッと、プレーン味を一本完食した先生は懐にゴミを入れながら、相変わらず気怠い声色でユウカに言葉を投げる。

 

「言うなれば今の俺たちは急造チームアップ――その場にいた戦力を掻き集めた少数精鋭。基本、好きにやって貰って構わないんだが…

 だとしても情報共有は基礎中の基礎。仲間のことを知らずに戦闘に赴くなんざ、足引っ張りあって逆効果になるだけだ。そうならない為にも役割を聞きたい」

 

 転弧のスタイルとして「好きに動けば良い」が基本だ。例え死柄木弔であったとしても、そこだけは一貫している。

 やりたいようにやり、好きなように生き、己のやり方で戦ってくれれば無問題だと。

 だがあくまでも仲間内だからの話であって、各学園の生徒達が交わってもない以上、現状を打破する為にも知識は身に付けておきたいというのが転弧自身の考えだ。

 知っているか、知らないかでは全然違う。

 連携や支援、個々人の行動が取れやすくなるからである。

 雄英高校襲撃――生徒の拉致を決行する前、神野のバー(アジト)で作戦会議をやっていたもんだ。個性的で持て余す(奴ら)を統括し、個性をより発揮できるように計画を練ったりと…あの頃が懐かしい。

 

「同学園の生徒だったらいざ知らず。他の学園生徒が手を組んで、迎撃・襲撃・抗争をするにはフォーメーションや役割分担は必要だったりするからな」

 

 そう言う点では、連合の仲間達は頼もしかった。

 例えばトゥワイスに分身を作らせて、二倍で増やした俺たちを先陣へ突っ込ませ、襲撃。相手の動向や個性を監視し、戦力の分析・把握・対策に赴いたり。

 退路を荼毘が防いで蒼炎で逃亡者を焼き焦がしたり…。

 トガは気配を消し、相手の陣地を撹乱させる身のこなしスキル。

 

 国家転覆も為せる二倍の個性に、唯一火力の高い広範囲攻撃可能な荼毘、高校生なんてガキの経歴で人の視線や気配を掻い潜れる才能。そう考えると割と俺らは有利だったな。

 

「…転弧先生、本当に先生としての経歴はゼロなんですよね?」

 

 リンは表情こそ変えず、ハンドルを握りながら問いかける。

 出会った当初、困惑や驚きも束の間で、段々と「この人は大丈夫なのだろうか…?」と不安になることもあったけれど、ここまで思慮深く考えてる先生に、正直別の意味で驚いている。

 先程の演説といい、偶に度肝を抜かされるような感覚になるのは、リン自身がそういう体験をする機会がないからだろう。

 これが人を惹きつける魅力というのだろうか。リンは内心、抱いたことのない不思議な感情を抑えながら、目の前の運転に集中する。

 

「そう、ですね……では、セミナーである私から――」

 

 こほん、と軽い咳払いをしながら、最初に名乗り出るのはユウカだった。きっと自分たちを指揮するためにも必要事項なことだろうと察した彼女は、懐からスマホ型の電卓を取り出した。

 

「私は主に電磁シールドを自身の周りに貼って、身を硬めながら前線に出るタイプのタンクです。計算処理を行いながら、射撃で迎撃や対抗を…。あとこれはミレニアム産端末形式の関数電卓なんですけど、これを使って計算処理をした方が暗算よりかは確実性があるので…。普段、射撃やリロードの時は暗算で済ましちゃうんですけどねっ」

 

「計算処理で電磁系統のシールドを発生させるのか?変わった特殊能力だな、すげぇぜ。そのミレニアムさn………サポートアイテムも、計算の誤差を生まないための安全性向上の為か。タンク要因としては欠かせないな。対抗戦じゃ俺らの要だ――期待してるぜユウカ」

 

 元いた世界でもシールド系の個性は存在してたし、割と利便性や防御要員としても重宝される人材だ。

 ただ頭脳や計算を通して電磁系のシールドを貼ると言うのは、中々に聞かない斬新な技術だったので興味が湧いた。

 

「っっ〜〜〜!!あ、有難う…ございます…!先生!」

 

 さっきの失態を払拭しようと、自ら進んで情報提供した結果、転弧先生に褒められた。その嬉しさに悶絶しそうになるユウカは、自然と釣り上げる口角を無理矢理抑えようと、内心は必死に抵抗している。

 

「あと、先程の…その…ちょっと取り乱してしまったせいで、お見苦しいところをお見せしまい…すみません…!」

 

「良いよ、解ってくれたんなら。象徴の不在ってのは大抵、自分自身じゃ感情の方向がバグっちまうよな…。その点――お前は物分かり良いし、全部 連邦生徒会長に責任転嫁せずこうして来てくれたんだろ? もうそれで終わりで良いぜっ」

 

 頼りにしてきた連邦生徒会長が問題を解決してくれないことに憤りを覚えるユウカの心情は、頼りにしてきた師が手の届かぬ場所に置き去りにされた死柄木と同じように、転弧は己の経験を通し――他者の心理を理解できる。

 

 信頼的存在が失われ、人は初めて自分の立場を問われるのだ。

 日本が混沌に陥り、数多の市民がヒーローに対する信頼を失った時、今まで歓喜の声援を送っていた舞台の観客は、罵詈雑言たる野次を飛ばし排斥する。

 

 そう言った意味では、結局こいつらはまだ経験を知らぬ子供という訳か…。逆に言えばまだまだ成長できる余地があり、思考能力を高められるって意味も裏付けてるわけで。

 じゃあ今回のチュートリアルは、お前たち込みでのチュートリアルってわけだ。

 

「次に…ハスミ。お前は確かボルトアクションライフルだよな?となると遮蔽物挟んで射撃した方が身のためだよな。スコープなし……上級者か。あと一つ聞くが、お前の " ソレ " 飛べるのか?」

 

「ッ!はい…!私はヘリコプターや戦車などの重装甲を射抜き、遠距離射撃での火力支援ができるかと…。それとすみません…先生が思ってるように、私は……」

 

「いやいい…。責めやしないさ、こっちの解釈で聞いたんだ。じゃあハスミは主戦力を始めた戦車やヘリコプター…重装甲などをメインに、ユウカの後方火力支援、頼むぜ。

 …リン――今回向こうが使ってる戦車やヘリ…ぶっ壊しても構わないんだよな?」

 

 No.2のような飛行能力があれば、制空権を握りながら威力の高い銃弾を敵陣に浴びせられるのかと思ったが…とはいえ、デリケートな発言をしたと空気で察した転弧先生は、直ぐに話を中断した。

 そしてリンに質問を投げた意味としては、 " 不法流通されている武器や軍事兵器はぶっ壊しちまうと後々と面倒なことにはならないか? " という意味でもある。

 証拠品として抑えた裏での密売買ルートなどの武器は警察が根掘り葉掘り探って、流出先を特定するために必要だからだ。

 

「はい。本来なら出所を特定すべく監査に回ったり…インターネットを通した権限で流出先の情報収集を測ったり、ヴァルキューレ等各機関で取調べ、調査を進められるのが望ましいですが…シャーレを占領されてしまった以上、奪還するにやむを得ないとしか…」

 

「……こう言う所はやりやすいな。少数精鋭とはいえど、激戦区で派手にやるんだったらそりゃ壊れるのは仕方ないよなぁ…」

 

 手榴弾、爆薬、弾倉などの不法流通は解る。

 だが戦車やヘリコプターの類である軍事兵器を逆にどうやって不法流通にさせるのか、そっちが聞きたくなる。

 だからと言って破壊せず無傷で証拠品を抑えろというのも無理な話だ。加減して戦うのと、本気で戦うのとでは違う。

 

「スズミ…お前は?自警団やってるんだよな。同学園であるハスミとは何度か面識があったりするのか?」

 

 自警団――法律などに囚われず、個人の武力を以って実力行使も厭わない防犯組織。世論は賛否両論あれど、結果的には犯罪者と変わらないというのが警察やヒーローなどの主張だ。

 自警団という組織に全く触れた機会のない転弧としては、幾分興味がある。例えこの世界が向こうとは概念も構造も、常識も世の理も違うとしても――。

 

「何度か衝突しあうことはありますが…ある程度、手を取り組んだりする場面もあるので、ミレニアムやゲヘナの方々のように初対面という訳でもなく……ああ、私は閃光弾を主に使用し、敵の視力を奪い、殲滅をメインに活動しています」

 

「へェ……俺、自警団のことは知識では知ってても、生で実物見るのは初めてだから、感慨深いもんだな」

 

「そんな人を展示物みたいな…」

 

 スズミの冷静な突っ込みを右から左へ聞き流しながら、思考に入る。

 

(閃光弾…爆音と光で相手の意識を奪ったり、混乱させたり…後方支援に向いてるな。問題は仲間の近くにブツが当たったら巻き添えを喰らっちまう危険性がある、メリットとデメリットが生じるな。自警団でもソロで場数踏むのとマルチのパーティーメンバーで赴くのとじゃあ勝手が違うだろうが……)

 

 例えばユウカを前線に立たせたら、後方で閃光弾を投げた時、ユウカが巻き添えを喰らってしまうと不味いよなぁ…。いや、電磁シールドさえあれば閃光弾の被害には遭わないのだろうか?そもそも閃光弾の威力は如何なるものなのか。

 

「…スズミ、閃光弾を投擲する時に気をつけてるポイントは?」

 

「えっと…なるべく市民や仲間に被害が被らないように注意を払い、視野を広げながら敵の集団に閃光弾を投与。投げるのが難しいと判断した時は防戦か銃撃での対抗を…」

 

「…よしっ、良いぜ。ちゃんとマルチの経験も踏んでるじゃん。まあ、上手くいかなくても、こっちで何とかするさ」

 

「あ、ありがとうございます?」

 

 それは指揮の仕切り直しという解釈で正しいのだろうか?スズミは、ついつい疑問系で返してしまう。

 ……うん、自警団とはいえ如何なものかと少しばかり考えていたが、心配も杞憂に終わったな。

 

「チナツ――…は、救護を行うヒーラー役…つまり怪我人の治療。って言うのが俺が今認識できるお前の役割なんだけど、改めてお前のことについても知っておきたい。具体的に何ができる?」

 

「はい。私は栄養剤の投擲治療の他にも、後方で他の風紀委員の方々に指示を送ったりなど…後方指揮や支援。護身用にとショットガンで身を守りながら、サポートを…」

 

「……ヒーラーも可能で後方指揮、部隊の支援サポーター。改めて聞くと凄いぜ。風紀委員……取り締まる側がこっちにいると、こうも頼もしさを感じさせるんだな」

 

 隙あらば銃でヘッドショットを。

 後方指揮で仲間達の連携作り。

 負傷者には怪我の治療を。

 

 戦場に立った者は、目先の脅威に対抗するのに必死で、視野が狭くなっちまう。そう言う時こそチナツのような後方指揮者は価値を発揮させ、より高く味方のポテンシャルを引き出すことができる。

 一人一人の個々人が有能であり、己の役割分担があり、俺はこの四人の生徒を深く知る必要がある。

 

 そう言った意味では先生としての役割も悪くはないし…

 

 ――死柄木弔だろうと、志村転弧だろうと、そこは変わらない。

 

「OK――情報は理解した。後は脳内シミュレートしながら、お前らの最大限を引き出せるようにする。好きなようにやっても良いが…念の為、指示は出しておく」

 

 自分達のやり方で戦って貰っても構わない。

 但し至らない点があればこっちで指示を出す。

 本当なら一人一人に細かな指示も出せるのだが…

 

『君は何一つ選んでなどいないというのに――』

 

 そうなると、生徒の行動は全て「俺だけが与えた意志」となってしまう。全て何から何まで指示を与えて、俺の言葉通りに動くようじゃ、死柄木弔や脳無と変わらない。

 だから――全て指示を出す訳ではない。

 ただ生徒に指示を出せば良いと言うものでもない。

 生徒達にも考えさせる必要性がある。

 集団行動も各生徒の連携も、交流がない各学園同士で至らぬ点や、噛み合わない部分があるのは当たり前だ。

 だからこそ、今回のチュートリアルはコイツらにとっての成長段階を踏まえる、第一歩にもなる。

 

「…なんか、不思議ですよね先生って。最初はホントに掴みどころのない、不思議な大人って見解でしたのに…こう言うところは鋭いというか、思慮深いというか……確りしてるし…」

 

「生前の賜物って解釈で呑み込んでくれよ」

 

「いやっ、だとしたら生前なにやってたんですか??」

 

「想像に任せる」

 

 ミステリアスな回答に、ユウカは表情を訝しげに歪ませる。納得してないと言うか、はぐらされたことにモヤモヤしてるんだろうな。まあ、大人になれば抱える秘密ってのは案外多いもんだ、そう言うことにしておけ。

 

「着きましたよ先生――」

 

 リンの言葉に、前を向く。

 右の角を曲がれば駐車場スペースが空いており、慣れたハンドル裁きで駐車する。

 車から降り、俺たちは改めて例の事件発生ともなっている『ダツゴク』生徒共の場所へ足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ドオォォオオォン!!

 爆発音が轟く。

 爆弾が起爆した破壊音が街を壊し、燃え盛る炎が煙を立ち上げ、黒い煙が空へと舞う。

 コンクリートの道路が割れており、停車していた自動車の窓ガラスは割れ、硝煙の香りが鼻腔をつんざく。

 空気は悪く、銃声の雨が鳴り、矯正局からダツゴクした生徒達が破壊の限りを尽くしていた。

 リンは「それでは皆様、ご武運を祈っております」と言い、後にした。…恐らく戦闘不向きなのだろうか。一応、別働隊と連絡し武力を確保をすると言っていたし、その為だろう。

 

「って、な…なによこれ!?街が凄いことになってるんだけど!?」

 

「…まあ、見慣れた光景だな」

 

 D.U.外郭地区――シャーレの部室付近。

 既に破壊の限り街を滅茶苦茶に壊されており、見慣れた平和の街並みは、文字通り焼け野原となっていた。

 暴挙、破壊、強盗、人質――こういう光景は前世でもよくある光景だな。

 

「見慣れた光景!?先生、本当…っ、キヴォトスに訪れる前までどんな生活送ってたんですか!?」

 

「なんなら泥花市の9割があんな奴らだったぞ――その点なんだ?ダツゴクした生徒は見える限り2、30人……なんだ、何千ものダツゴクがいると思ったんだが、大したことないな。これなら四人で挑むのがまあ…丁度良い」

 

「?????」

 

 ユウカは聞き慣れたことのない土地の名称と言い、目の前で起きてる惨状より過激な体験をしている先生に言葉が出なかった。

 転弧先生の経験談に理解が追いつかないユウカは口を開けてポカンとしていた。

 

「先生、サンクトゥムタワーの制御権を取り戻すためには、あの部室の奪還が必要です――」

 

 スズミが指差した方向に目をやると、聳え立つビルの本棟が見えた。

 建物に損害はなかったにしても、ダツゴク生徒達がこうして武装している以上、戦闘は免れない。

 

「………なんかデジャヴを感じるな」

 

 転弧が想起する回想。

 脳裏に浮かぶ記憶は異能解放軍と存亡を賭けた戦争――泥花市の再臨祭。

 義爛が人質に囚われ、愉悦を極めたボス――リ・デストロ(ハゲ社長)がタワーで待ち構えていたんだっけな。

 一人一人が鍛えられた解放戦士――一万にも近い戦士が、俺たち連合に個性(凶器)を向けてきた。

 

「簡潔に纏めると、コイツら鎮圧してビルまで行けば良いってことだな」

 

「はぁ……然し、こうも派手に暴れると……何と言うか、バカもここまで進むと呆れてしまいますね…」

 

「そうでもないぞ」

 

「?」

 

 チナツの愚痴に、反論する転弧。先生の言葉にチナツは思わず振り向いてしまう。

 

「コイツらのような犯罪者ってのは基本、お前らが考えるような単調ばかりじゃない。確かに暴れたい奴がいるのは紛うコトなき事実だが…中には命を厭わない犯罪者、恨み辛みで力を振りまく奴ら、破壊的思想に共感した奴ら、社会のルールに反対する奴ら、計画的に練り徒党を組む奴ら――色々な思想や感情、心を持った悪意が存在するんだ」

 

 自由に実力を行使して暴れたい暴徒。

 解放軍や極道の構成員の立ち位置。

 私怨や復讐心に憎悪を燃やす者。

 仲間達の意気投合、流れに乗って破壊活動を目論む者。

 前々から計画を練り、目標を成そうとする者。

 社会の秩序やルールに不満を持ち、暴力で捩じ伏せようとする者。

 

「その中で、数が増えれば自分達は何か大層なことを成せるんじゃないかと錯覚するんだ。自分達も偉大なことを為せるんじゃないか?力を合わせれば怖いものなんてない。社会を動かせるんじゃないか?そういう思想を持つ奴らが集まることで組織化していき、戦争が生まれる。中には組織同士で対立することもあれば、風紀や秩序を破壊せんと、抑圧から解放する為に力を行使する輩もいる――お前らが考えてる以上に、日陰に生きてる奴らって不理解ばかりの曲者が多いんだぜ。真に賢しい敵は闇に潜むって言うしな」

 

 チナツは目を丸くしながら、物珍しそうに見つめている。

 先生のいつになく真剣な口調は、その言葉を耳にするだけで吸い寄せられていく。

 勿論、風紀委員会として、秩序を守る一人の人間として、大事なコトだと言うのは頭では理解していても、それが何故だか自分の未知を突きつけられてるような気がしてならないからだ。

 

「まあ…うん、それが嫌なら…もうちょっと奴らのことを考えてみるのも悪くはないかもな。お前が思ってる以上に、こういう暴徒っていうのは、執拗で驚異的なんだぜ」

 

 全ての犯罪者がとは言わない。

 ただ、時に覚悟や信念を抱えた集団が牙を向けた時、取り返しのつかない事態になるというのは確かなのだから。

 

「…………凄い…。参考になりますっ」

 

 これが大人――こうも説得力のある先生の言葉ほど、実感させられるものなのか。

 確かに便利屋68、温泉開発部、美食研究会、どちらも先生の言葉に当てはまる。

 まるで、本当に自分達がそうであったかのような口振。

 

「で、だ――仮にアイツらが本当に矯正局を脱したと言うのなら、幾つか不可解な点があるな…」

 

 例えば矯正局からダツゴクするとなれば、施設内の情報を把握している必要がある。…俺らで言うならタルタロスとか…九隠刑務所とか、そう言うのは内部の構造やセキュリティを感知していなければ、有力な凶悪犯ならさておき、チンピラや有象無象がダツゴクなど到底不可能である。

 奴ら矯正局から脱した不良達も、注意力散漫といい、立ち位置の悪さといい…ド三流。

 

 仮に矯正局に怠慢な職員がいて、不都合やらトラブルが発生して取り逃してしまいました…だけなら理解はできる。

 だが――流出先が不明な軍事兵器や爆破危険物所持、武器の所持に説明がいかない。

 シャーレを占領して破壊活動をするにしても、武器を乱用するにしても…未熟で至らぬ点が多過ぎる。

 そういう有象無象がやることは大抵――使い捨ての駒全体で動かされてる奴ら。

 自分達が使い捨てられることなど思ってさえおらず、自分は強者だと高く買って我が物顔で支配してる気になっている。

 

(…高確率で、コイツらを敢えて囮にしたやつがいるってことだな。狡猾なやり方、裏で矯正局の情報を知り、セキュリティを難なく突破させ、生徒達をダツゴク――奴らが武器を持ってるのは、与えられたというケースが極めて高い)

 

 じゃあ一体誰が?となる。

 何をどんな目的で、どのような計画性を持って実行に移すのか…だ。

 つまり――これを上からの高みの見物なんて胡坐を掻いてヘラヘラ笑ってる奴がいるってことだ。

 

「……ああ、ムカつくなぁそれ…」

 

 そう言う奴を引き摺り落として「どんな気分だ?」って言ってやりたい。掌の上で転がしてるつもりでいて、それに愉悦を見出すのは最高に気分が悪い。

 

「せ、先生?どうかなされましたか?顔色が怖いと言うか…」

 

 ハスミの神妙な顔色に、我に帰った自分はふと熱が冷め、元に戻る。…無意識に顔に出ていたようだ。

 

「ああ、悪い…ちょっと嫌なコト思い出してな」

 

 適当な嘘を吐きながら、改めて例の奴らを見定める。

 まあ…どっちにしろ、やることは変わらない…とまあ、俺は試しに…検証したいことをする為に、もう一つの確認を取る。

 先生?と首を傾げるユウカを他所に、腕を真っ直ぐ、遠い奴らに向ける。

 

「…『押し出す』+『電波』…+『重荷』も入れとくか」

 

 衝撃波を載せたEMPと重力の凶悪コンボ。

 スターとの戦い…スターアンドストライプとX-66、タルタロス襲撃時で愛用して使用した個性の組み合わせ。

 これで大抵は秒速で終わるわけだが……やはり、発動しない。

 

(…――元々あったかのように馴染んでいた個性が、最初っからなかったような感覚だった。もしもOFAのように…残り火として先生がストックしてた個性も、継承されているかも…なんて思ったけど……やっぱないか)

 

 高望みはしてなかったので、落胆もなかった。

 まあこうなることは予測していたが、もしもがあるかもしれないと思ったので、検証した。まあ…ないなら無いでそれでいい――今俺に必要なのは、アイツが残した努力もない、ただ便利だからという理由で集めた個性にかまけてちゃあいけないよな。

 

「…?先生、何しようとしてるんですか?」

 

「失敗だ、なんでもない」

 

 となれば俺は現在、無個性マンということになる。

 崩壊も、AFOもない現状…残る検証はあと一つ。

 

「……はは、こりゃあ因果なこった…。なぁ、オーバーホール?」

 

 俺もお前も、惨めなもんだな。

 先生の掌の上で転がされてた俺も、先生の施設で保護され、一歩間違えれば脳無や第二の俺になっていたかもしれないアイツも、何かの因縁があるんじゃないかって思い始めてきた。

 この世界に来訪して力が制限されているのか、それとも先生に肉体を乗っ取られた精神の弾みによって個性が崩壊したのか…憎しみが打ち砕かれたことによって、個性が消えたのか。

 

「……魔王から先生になった俺に、個性は必要ないってか?縛りゲーもなかなか、キツぃよなぁ」

 

 だが自然と喪失感はなかった。

 個性によって狂わされ、歪な物語にも脚光を浴びる希望の創作にもなり得るあの世界だからこそであって、魔王でもヒーローでもない…もはやそんな常識や価値観、概念さえ程遠く無関係なこの世界では、俺には必要のないもので、一般人として生きていけっていうことなのかもしれない。

 

「先生?さっきから、魔王とか縛りゲーとか…なにを?ゲーム部みたいなこと言ってるんですか?」

 

「逆に聞くがなんだその愉快そうな部活は」

 

「先生、そろそろ行きましょう…。と言っても、先生は銃弾一つでも浴びれば致命傷です。ここは下がって安全なところに…」

 

「いや、ユウカは前線…ハスミは遠距離射撃、チナツはハスミの隣で後方指揮及びサポートを…スズミ、お前は自警団らしく好きに動けば良い。俺は起点を作る――」

 

『!?!』

 

 全員が転弧先生の言葉に耳を疑った。

 

「先生!?何を馬鹿なことを言ってるんですか!?私達と違って鉛玉一つでも身体に当たったら致命傷ですよ?!」

 

「…お前らは喰らっても問題ないのか?」

 

「私たちの身体は頑丈なので…例え銃弾を浴びても大して致命傷には至りませんが……先生は生身でまともに攻撃を喰らえば無事では済みません…」

 

 逆に驚かされる俺。

 いや、そうか…コイツらが本物の銃器を持ってるんだ――銃弾を浴びても致命傷にならなくても可笑しくはない。と言いたいが、内心は驚いている。

 肉体強化、防御系の個性、そう言う類のドーピング効果で銃弾を浴びても大した致命傷にはならないと言えば納得こそできるが、個性という概念も存在もないコイツらが鉛玉の雨を浴びても死なないとなれば…肉体構造も違うと言うのか?

 

「……まあ、お前らの言いたいことは分かった。だがこんな状況だからこそ、検証したいこともある」

 

「検証?それって、今やらなきゃいけないことなんですか?」

 

「今やらなきゃいつやる?後でやってもどうせ誰かが止めるだろ。安心しろ…俺もバカじゃないから無理はしない。その時はユウカの背中に隠れるさ。先生が生徒の後ろに隠れるのも、中々ダサい絵面だけど」

 

 じゃあそれなら最初っから避難をしていれば良いのでは?なんて問う暇もなく、先生は身を低く屈める。

 猫背で地を這おうとするような、歪な姿勢はとても独特だった。

 

「…5分。いや、2分あれば完封だな――言ったろ、好きなようにやれば良いって。これは俺らのチュートリアルだからさ」

 

 そうして俺は、生徒が待ってと言葉を発する前に走り出す。

 ブォン――!!風の余波が生徒の髪を揺らし、道路を高速で走り抜ける転弧は、猛スピードでダツゴク生徒達の占領地帯へと真正面に向かっていく。

 

「先生!?」

「早っ…嘘でしょ!?」

 

 信じられない――彼女達の顔にはそう文字で書かれたように、呆然としてしまう。

 常人どころか、素早さに至ってはキヴォトス人と渡り合える機動力だ。

 

「ッ!早く行きましょう!」

 

 流石にこれ以上は不味い――そう判断したハスミの覇気のある声に、他三人は頷き、直ぐ様転弧の後に続いた。

 

 

 

 

 

「あん?なんだ?」

 

 矯正局から脱した一人の不良が、前方から突っ込んでくる黒い服の大人に視線を向ける。

 自分達が我が物顔で、シャーレを占領し、連邦生徒会長に復讐をしようと、たむろしていた自分たちに

 

「なんだアイツ?つーか、大人?」

「一人だけ?舐めてんのか?」

「後方から複数の生徒が来てんな…ここを取り返すつもりなのか?」

 

 だとしたら、命知らずのバカが釣れた。

 不良達は歪んだ笑顔を引き攣らせながら、銃口を向ける。

 ヘイローがない――ということは、この世界の住人ではない、キヴォトス外部からの来訪者だろうか?

 どっちにしろ関係ない。

 ここは自分たちの縄張りで、手に入れた領地を邪魔するのであれば如何なる相手でも容赦はしない。

 連邦生徒会に腹を立てた暴徒達は、一丸となって先生に狙いを定める。

 

 引き金を弾き、銃口から火が吹く。

 戦車の上に乗ってる不良、道路で立っている二人組、複数の銃弾が一点に集中。

 

「視線誘導――」

 

 だが、不良達が引き金を引いた銃弾は、突如横に飛び跳ねた大人によって、虚しく道路を弾いただけの結果に終わった。

 

「1秒で人は何人殺せるんだろうな?」

 

 そう言う先生は、殺意を孕んだ死柄木弔の面影を匂わせる声色で、こちらを認識できない二人の耳元で囁く。

 

「…は――?」

「良かったな、これが崩壊だったら塵になってたよ」

 

 足払い。

 棒立ちに突っ伏してた二人組の意識を掴み取るように、かなり低い姿勢で不良の足を引っ掻き、体勢が崩れたところで凶器を強奪。

 

「ッ!?」

「気付くの遅ェよ」

 

 これ、流出先を掴むためにも弾薬は使わないほうが良いよな?なんて思考が働くほどに余裕があるみたいで、先生は適当に後方へ武器を投げるように捨てた。

 

「ッ!?撃てッ、撃てえぇぇ――!!!」

 

 先核まで飛んで火に入る夏の虫を眺めてるように、上から呑気に見下ろしていた不良達は、一瞬にして凶器を向ける。

 銃口が一斉に、一箇所に向けられた。

 

(視線、銃口から察して…頭、肩、足……か)

 

 ドパパパパパパ――!!!同時射撃。

 耳がつんざく射撃音が鼓膜を揺らす。これだけ大量の銃口を向けられ、射撃を喰らえば致命傷は免れない。

 全員の視線が、銃口が、意識が、転弧に向けられる。

 だが――

 

「なぁ!?」

 

 身体を横へ、まるで滑り込むように道路を素早く駆け走り、目にも止まらぬ速度で生徒達の銃弾を掻い潜る。

 そのまま廃車に突っ込めば――

 

「ッ――!!」

 

 そのまま車のボンネットを踏み、ルーフを力一杯足で踏み込み、空を飛ぶように宙を舞う。

 器用、戦闘に慣れた身体、異様な身体能力、常に一挙一動が虚を突こうとする、暗殺者のそれ。

 目を大きく開き、不敵に笑う先生の顔に恐怖など微塵もない。

 不良達に命を狙われてるというのにも関わらず、銃弾を浴びれば血が吹き飛び激痛を伴い、死ぬかもしれないというのに――転弧先生は、愉しむかのように笑っていた。

 

「なるほど――!検証は成功だな!今の俺は、あの時と同じだ!!」

 

 俺が試したかったこと、それは自身の肉体。

 先生と交わる前の状態である俺の身体には、超再生もなければオールマイト級のパワーやスピードも存在しない。つまり、ドクターの改造手術を受ける前のソレ。

 本来ならアレくらいのポテンシャルがあれば望ましいのだが……まあ、ゲームとしてはクソゲーだよな。某フロムゲーで例えるなら、最強武器でボスを攻略してしまうような、ヌルゲー要素。

 崩壊もない、AFOもない――ならば残された検証は「俺の肉体がどこまでの成長なのか」だ。

 改造手術を受け、超人の肉体を手に入れた俺は、元々先生の個性を受け取る為の過程に過ぎなかった。

 何故俺が強化された肉体から退化されたのかは、幾らか考えはあるが…あくまで推測の域に過ぎない。

 じゃあ今の俺はどんな状態なのか――

 

 

「ところでお前ら、常に自分の命を巨人に握られた経験はあるか?」

 

 

 ギカントマキアとの一ヶ月半――命のやり取りを行った際の、自身で身に付けた肉体強化。

 それに加えて脳が覚醒してるのも…相手の動きがスローのように見えるのも…俺の動きが依然活発してるのも。

 

「感謝するぜリ・デストロ(ハゲ社長)――記憶が戻り、ピースが完成された時の死柄木弔(おれ)が、今の志村転弧(おれ)として引き継がれてるんだってことをさ!!」

 

 戦車が突っ込んできた。

 全部で三機あるな――そのうちの一つ、真っ直ぐ俺を轢き殺そうと暴走する。あーあ…テンパりやがって。

 そのまま砲弾を撃てばいいものを…まあ、こう言うのも慣れてる。

 身体の軸を上手く捻り、なんとか空中のまま体勢を真っ直ぐ元に戻し、戦車に乗っかるように着地する。

 

「恐らく、俺が本当の俺として目覚めたあの瞬間だ。間違いない…初期の俺として弱体化されたんじゃないなら、無力非力の無個性マンじゃないってわけだ」

 

 納得したような、清々しい気分に俺は笑顔が絶えない。

 俺が積み上げてきた全ては終わったとしても、否定はされたくなかった。

 先生の個性を手に入れたあの時から、俺は俺じゃなくなった――肉体はあの頃に戻されてはいるけれど、悪くはない。

 

「だからと言って、俺の身体が…先生が完全に肉体を乗っ取った時のセーブに引き継がれてなくてよかったぜ」

 

 OFA――打ち込まれ譲渡された状態であれば、肉体が持たない。

 僅かな時間ではあったが、10代目として手に入れた力の結晶。先代達の意識を共有したからな……アレはもう10人目が無個性だとしても、扱えるものじゃないって。

 

「何なんだよコイツぅ!!?」

「ば、化け物!?」

「人間じゃねえのかよ?!」

 

 いつまで経っても死なない俺に、恐怖心を抱いてるらしい。

 

「……集団でいる場合、銃口や意識を一箇所に向けたら意味ないだろ。まあ、いいや。俺ばっか気にしてると、足元掬われるぞ――ユウカ」

 

 へ?と素っ頓狂な声を上げる前に、何人かの不良がヘッドショットを喰らう。

 バッタンバッタン倒れる不良達は、俺から視線や意識を逸らす。

 

「もう先生!!足速いし危なっかしすぎますってば!!!というか何なんですその動き!?何をどう体験したら先生がネル先輩みたいな動きになれるんですか!?」

 

「お前も体験できたら良かったな、マキアとの触れ合い体験」

 

 そんなペットショップの触れ合いコーナーみたいな軽い口で垂れ口を漏らす転弧に、心拍数バク上がりのユウカが剣幕声を発する。

 

「視線誘導――俺が囮となってお前らが好きなように動く。四階ビル、反対側の建物に隠れてたスナイパーも…既に対処済みだな」

 

「えっ?先生わかるんですか?」

 

「敵意や人の視線には敏感でさ――何度も体験してるから肉体が染み付いてるんだよ」

 

 ハスミやチナツが既に俺を付け狙うスナイパーを狙撃してくれたらしい。そう…先生の指示もなくとも、自分達のやりやすいやり方で、対処してくれている。

 

「このッ…!テメェら何をべちゃくちゃと――」

 

「で、スズミの閃光弾が投擲と…」

 

 中距離で離れたスケバン不良が手榴弾を投げようとする前に、速やかに激しい耳鳴りのする閃光弾を諸に受け、悲鳴をあげる暇もなく、気絶してしまう。

 

「先生っ!ご無事ですか!?」

 

「ああ…にしても個性がない代わりが武器頼みね……ステインやトガ、スピナーのように、刃物の武器を携帯してない辺り、シージでもやってる気分だなこりゃあ…」

 

 スーパーナイフナイフソードとまでは行かずとも、近接戦に特化した武器を所持していても可笑しくはないと思っていたのだが…少しでも距離を近付かせない為に策をとった結果が銃器なのだろうか?

 

「この!降りやがれ!!」

 

 戦車を操縦していた不良が俺を振り下ろそうと右往左往揺らしてくる。ぐわんぐわん!と体が揺れ、流石に落下しそうになる。

 

「ハハッ!流石に黙ってくれないよなァ!!…ユウカ、シールド!!ハスミ!!」

 

 俺が戦車から身体を離すように空中へと飛び込むと同時に、腹の底から大きな声を貼る。

 指示を聞いたユウカは、範囲内に俺が飛び込むと同時に電磁シールドが開き、瞬間――遠距離から放たれた銃声がドォン!と重く鳴り、一発の弾丸が戦車の砲台の穴へと吸い込まれていく。

 あっ、と思うのも束の間――大爆発が発生し、爆音に意識が持ってかれそうになる。

 電磁シールドを貼られてるお陰か、特定の範囲内では被害を被ることなく、安全圏を確保した俺は寝転がった身体を起き上がらせる。

 

「…なるほど、電磁シールドってこうなってるのか。先生の持ってた『バリア』とは変わった感じなんだな…」

「もう!感心してる場合じゃありません!!本当、肝が冷えたと言うか…無茶振り過ぎます!当たったらどうするんですか!?」

「煩いな…当たらなかったから良いだろう」

「もう、バカ!!そう言うことじゃないですって!!先生の身に何かあったら大変じゃないですか!」

 

 過保護なユウカは両肩を掴んで身体を揺らす。

 ぐわんぐわんと身体を揺さぶられる二度目の感覚に「おいおい…」と白目を剥いてしまう。

 

「……言ったろ、好きなように動けば良いって…。あとユウカ…残りの後ろ、三人…来てるぜ」

 

「はぁ〜…もう!さっさと終わらせてやらなきゃ!!」

 

 視線誘導――数ある戦いの中で一つ、俺がよく使ってる戦法だ。

 首領は標的にされやすく、自然と意識が向かれる。

 意識が一点集中されれば、視野は一気に狭くなり、意識範囲外からの攻撃に対処が遅れる。

 俺に殺傷能力がなくとも、これだけで後方の射撃や支援があれば大抵の有象無象は潰れてくれる。

 

「まあ後は…これは、良いな」

 

 戦車の剥がれた装甲を拾い、盾にしながらゆっくり近づいていく。

 流石にユウカの電磁シールドも永遠に続くわけでもない、時間経過により消えてしまうので、己の身を守る為に、お互いが背を預けあいながら敵の陣地へヘイトを買う。

 

「…先生ってなんでっ、銃を向けられてもッ!っと…!怖がらないんですか!!ッよい、しょっと!実は、私達と同じ体が、頑丈だったり、するん…ですかね!」

「昔はなッ――ユウカ、後ろの右側に一人、よしっ…。身体は頑丈だったよ。前…いや、ハスミの援護射撃で戦車が爆発したから大丈夫か…――スズミ、前方左斜めに隠れた奴いる!……常に、死と隣り合わせ、だったから、なっ。ハスミ!最後の戦車ァ!……まあ、泥花市の頃はもっと過酷だったし、経験の差だな」

 

 転弧はタンクの後ろで盾を構えながら銃撃を防ぎ、隠れた伏兵を確認し、時に前方に視線を巡らせ的確に指示を送る。

 ユウカやスズミも「こんなところに?」と思うような隠れた生徒達を上手く狙撃し、撃沈させる。ヘリコプターや戦車など、他の軍事兵器はハスミのボルトアクションライフルの射撃で破壊。

 ヘイトを買ったお陰で後方の者達に一切の身の危険はなく、チナツの指示とマシンガンによる的確な射撃により、残党も呆気なく倒せることができた。

 スズミはユウカの援護として閃光手榴弾を投擲し被害を受けない距離で迎撃。ユウカは俺を守りながら、ある程度の不良に対抗戦術を持ちかける。

 

 確かにユウカやスズミも、ある程度被弾こそしてはいるものの、出血の描写さえない辺り、俺らの価値観や常識内にある肉体とは違うのかもしれない。

 

「な、何なんだよこいつら!?こんな、たった四人で…!!」

「に、逃げろ!!勝てるわけないって!!!」

「よく見たら各学園の…!風紀委員に正実…!セミナーまで!!」

 

 勝機がないと知れば、武器を放り出して逃げようとする不良達。

 血相を変え、先程までヘラヘラしていた不良達の見せる自由奔放さはどこ吹く風か。

 背中を見せながら、逃げ惑う不良達。

 

「これで、何とか…」

「いや…おいスズミ。あいつの足を撃て」

「?分かりました――」

 

 言われた通り、最後尾に情けなく逃げる不良の足を、逸れることなく見事に銃弾がヒット炸裂。

 思わず前のめりになって倒れた不良は、勢いよくコンクリートの道路に倒れてしまう。

 

「痛ッ!?なん……ひィ !?」

「おい、そこのお前」

 

 スズミの射撃と同時に、再び速く動き出した転弧。

 タイミング良く、不良生徒の前にしゃがみ込む。まあ…顔面打って痛いなか、声を投げられ振り向くと至近距離にいたらそりゃあ怖いわな。

 まるで映画――呪怨の怨霊に顔を近づけられたような、恐怖映像を見せつけられてる気分なんだろう。

 

「お前らと仲良しこよししてたお仲間は逃げてるぜ。取り残された気分はどうだ?」

「ッ…アンタ、何者だよ……こんな、馬鹿げた……」

「馬鹿げてるのはお前らだろう。で、だ――お前に聞きたいことがある。矯正局を脱出させる手配をした本命は誰だ、言えっ」

 

 情報収集――代行であるリンが調べてるとはいえ、聞くことに越したことはない。

 …こいつが保身に走って嘘を吐く可能性もなくはないが。

 

「先生!どうやら不良生徒達は逃げていったようですね…」

「どの道あれでは連邦生徒会を始めた別働隊に捕まるのも時間の問題でしょう……先生?」

 

 後ろからハスミ、チナツが駆けつけてくる。然ししゃがんだまま、一人の不良生徒と会話をしているのを見かけ、思わずユウカやスズミと一緒に不審そうに近づいてきてる。

 

「……それは…分からない…」

「……………」

「ほ、本当だって!!あ、アタシらだって…流れに乗って逃げただけなんだ!ただ…その……逃げた時に…黒い髪を下ろした……狐の仮面を被った人に続いて逃げたんだ……!武器もそこから…本当に!」

 

 声は震え、目の焦点があってない。

 …人は恐怖を前にして正直に本心を吐露する。

 こう言う時、真実を吐かせる個性がいたらすげぇ便利なんだろうな。または嘘かどうかを見抜く個性とか。

 

「狐の仮面か……よりによって仮面キャラかよ。コンプレスと被ってんじゃねえか」

 

 はぁ…と髪を掻きながら、やれやれ…と溜め息を吐く。

 不良生徒は観念したかのように、力なく放心する。

 

「情報はこんだけか……蜥蜴の尻尾切りってわけだ」

 

 末端にさえ悟らせぬようにダツゴク手配させる奴は何者だ?と心の中で考えながら、取り敢えずマークすべきは狐の仮面ということだけ頭の中に入れておく。

 

「先生……無駄がないですね…」

「まあ…過酷な貧困生活に身を置いてた時代を考えれば、自然と判断が出来ちまうもんだよ」

「いや、貧困生活だけではこうはならないと思うんですが!?」

 

 スズミは先程の判断と言い、磨き上げられた身の動きといい、雑な動作や予備動作のない俊敏さに、感心させられている。

 そしてそれを貧困生活で身に付けたと言うのだから、ユウカからすれば「んな阿呆なことあるわけない」と言わんばかりの勢いで口を挟む。

 

「まあ…今回のデータだと…うん。及第点――悪くはないな。各学園で全く交流がないお前達でも、自然と流れるような協力プレイ…ミスもないし……流石だな」

 

「お褒めの言葉を頂きありがとう御座います。転弧先生の動きは、我々ではなし得ない動作でした。キヴォトス外部の人間――と言う言葉だけで、少々侮っていたのかもしれません」

 

「チナツさんの言う通りですね……私たちが考え行動してる中、取りこぼした問題にだけ、指摘をしてるような……。嗚呼、何回か転弧先生の指示は御座いましたけど…それでもここまで迅速に、最小限の被害を抑えられたのは、こちらとしても勉強になります」

 

「まあ…結果的には良かったかもしれませんが…。というか、そもそも私たちがいなかったら確実に…!!」

 

「流石に一人で検証はしねェよ、どこの自殺志願者だ。無謀と勝算ある戦いは違うだろう。少なくとも俺はお前らが行動してくれること前提で動いたわけだからな。じゃなきゃあんな前線には立たん……お前らのことを信じて背中預けたんだ。それに…生徒ばかり戦わせるのは、やっぱ性に合わん…――そう言う意味での『お前らの側には俺がいる』からな」

 

 後方指揮――指示を送るのは慣れている。

 だがこの先ずっと、生徒達の背中に隠れて指示を出すのも性に合わない。そう言う意味での発した言葉だ。

 

「…変な、大人」

 

 頼もしいけど、変な部分もあって、偶に怖い一面もみせる先生。

 不思議な大人で、正体不明ではあるけれど……不快感はなかった。

 キヴォトスの住む世界…色んな大人を聞いたり見たことはあるけれど、初めて出逢う先生だ。

 

 ユウカは唇を尖らせて、先生に聞こえない声量で呟いた。

 






…そういえば、死柄木弔が連合のリーダーとして生きてた頃、割と先生っぽい所はあったんですよね。子供大人な一面が強いのと、ホラーな性能が強いだけで。
USJ襲撃、開闢行動隊、死穢八斎會、超常解放戦線……仲間の扱いや連携、指示とかも取れてるから、シャーレの先生になる前から割と先生らしい才能があったんだな転弧。
それが悪い方向に行くと魔王になる――ってことだ!

いくら転弧が先生になっても、流石にシャーレでは無理なんじゃない?というのを解放軍との戦いだけで納得させるのやっぱバグってる。
トゥワイスがいたとはいえ、あくまでそれは覚醒したからであって…トラウマ克服する前まで死柄木とスピナー二人で何十人何百人も戦ってたの、やっぱ強いよ。で、触れたら終わりの弔も、遠距離攻撃ある戦士の攻撃を捌いてる(一ヶ月半睡眠不足、体調不良かつ幻覚作用)からどっちにしろやばい。経験って大事だね生徒会長。

「次回、狐の女と俺が個人面談乞うご期待」
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