俺の二度目の人生は、魔王から先生へ   作:トラソティス

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お気に入り1000人突破――有難う御座います!
多くの読者がこうして作品を気に入って頂けるとは…作者頭あがんねぇや……。足向けて寝れないなぁ…。

誤字報告、確認しております。
いつも作者の言葉や誤字修正、本当感謝してもしきれない…。

ブルアカと転ちゃんの二次創作――特にブルアカ世界で回るこの小説。当然読者の解釈と作者の解釈が異なっていることもあれば、ブルアカでも偶に知識抜けてて「これ、ちょっと違くない?」ってなることも御座います。その時はやさし〜く教えて下さると嬉しいです。





4話『仮と内真の面』

 

 

 

 

 

『先生、聞こえますか?』

 

 無線イヤホンから声が聞こえた。

 

「…ああ、聞こえてるぜ。で、連絡を入れたってことはだ…リン――今回の主犯格は解ったか?」

 

『はい。今回、不良達を率い、騒動を起こした原因 …『百鬼夜行』所属――狐坂ワカモ 百鬼夜行連合学院で停学になった後、矯正局を脱獄した生徒です』

 

 狐坂ワカモ――その名は知らずとも、不良生徒に情報を聞き出した際に手に入れた「狐の仮面」が不思議と脳裏に浮かんだ。

 

「……ソイツは、狐の仮面を被ってるのか?」

 

『ッ!ご存知…いえ、既にお会いになられて…!?』

 

「いや、適当に不良捕まえて吐き出させた。ああ、穏便にな」

 

 先生が武装した不良生徒に情報を出させた?一体どんな手で…?一瞬だけ疑問を抱くも、例の暇な四人がいたのだから、彼女達が気を利かせてくれたのだろう。流石は各学園を代表とする生徒たちだ。……と、リンは自己解釈している。

 

「狐坂ワカモ……ねェ。百鬼夜行連合学院か…連合、連合……チープな団体名付けた俺より立派にカッコいいじゃんか」

 

 あの時は幼稚的万能感が抜けきらない子供大人だった。名前なんて適当で、取り敢えず自分さえ注目を浴びれば良いと言う意味で付けたのが敵連合だ。当時、黒霧や対平和の象徴『改人』脳無、俺を主体に、後は電波妨害の奴、透明になれる異形…適当に戦力になれそうな雑魚を集めてたから、確りした名前なんかなかったんだよな。

 

 ゲヘナ、トリニティ、ミレニアム――三大学園とは違う、新たな学園名。神話由来のネームが付けられたこのキヴォトスが、まるで記号を準えたコミックのような世界だ。今まで気にする余裕がなかった為、今更ではあるかもしれないが、それでもそう思わざるを得ない。

 百鬼夜行――俺たちが住まう日本の怪談話が由来となった、怪物の群れ。

 

(大方……学園の名前が大それた神話をモチーフにするってことは、俺が考えるような『雄英』や『士傑』、『タルタロス』のように…重大なる意味を持つってコトか)

 

 雄英にはトップヒーロー達が逸話や偉業を遺した、東の英雄としての領地。

 士傑は規律と伝統を重んじた、悪を罰し善を尊重とする西の士傑としての領地。

 タルタロスは青銅の門を潜れば最後、二度と現世へ戻れぬ奈落の神としての領地。

 

 偉大なる名前は、領地や意味が存在して初めて成り立つモノ。

 ユウカ、チナツ、ハスミとスズミも相応なる名門学園の生徒と見受けられる…。成る程、生徒一人一人でアレほどの実力か…そりゃあ優秀なワケだ。

 

『通称――『災厄の狐』。不良集団を率いる破壊活動、略奪、数多の前科を持つ、極めて凶悪な危険人物です。充分に御注意を…』

 

「ダツゴクネームもあるのか…!へぇ…面白いな。そう言う意味では、俺らと変わらないな」

 

 狐坂ワカモ――ダツゴクネーム、災厄の狐。

 狐の仮面を持ち、破壊と暴虐、強奪の限りを尽くす極悪犯。

 嗚呼、お前はどんな奴なんだ?

 タルタロスに捕まった囚人は幾分か記憶にある。

 先生を始め ステイン、オーバーホール、レディ・ナガン、ディクテイター、ギンジ、マスキュラー、ムーンフィッシュ、KUNIEDA、ギャシュリー――アイツらのような、名だたる極悪犯罪者と遜色付かないのだろうか?

 ああ…ダメだ。死柄木弔の感覚が蘇ってしまう。

 今まで人員集めばかりしていた所為か、昔の悪癖が出てしまってる。

 

 成る程…不良達を使い捨ての駒にしたのは大方…それともワカモとは違う誰かが指名したか、或いは考えもしないバカの集まりが武器を持って勝手に暴れたか、考えられる線としてはこの三択だ。

 

「…にしては、不可解な点がまだあるなぁ…」

 

 内乱を引き起こし、強制的に脱獄を図った結果なら幾分か想像が付く。だがワカモが仮に脱獄の原因を作ったとして、そうならない為の厳重なセキュリティを矯正局が敷いてるはず――つまり、考えられる点としては「ワカモが凶悪過ぎて前例にないケース」だったか「裏でワカモ達を脱獄させる手配を行った黒幕がいる」…或いは第三の、推測の域を凌駕するイレギュラーな可能性。

 特に「裏でワカモ達を脱獄させる手配を行った黒幕がいる」としたら、何の目的だろうか?黒幕の脅威に対しても目を光らせなくてはならない。

 

(……個人的には、連邦生徒会長が繋がってそうな気ィすんだよなぁ)

 

 連邦生徒会長が行方不明になってから、劇的に増えた事件数――何千の風力発電所シャットダウン、不法流通の軍事兵器と爆薬武器の悍ましい数、不良率いる暴行を始めた犯罪活動件数、からの矯正局脱獄。

 まるで連邦生徒会長が不在になったのを示すかのような、タイミングでも見計らったかのようだ。

 象徴が不在になることで、凡ゆる事件数が増えるのはまだ理解できる。だが会長が不在になったのをユウカ達が知らない辺り然程日数は経っていない。

 1〜1000に数が増えると言うのは、余りにも可笑しすぎる。

 感情論ではない――因縁めいた、裏でなにか糸を操っているかのような疑心が芽生える。

 黒幕が脱獄させるのは、向こうが何かしら目的があって事を成そうとするからだ。

 俺がチナツに言ったように…()()()()()()()()()()()()奴がいるということ。

 

 不自然だと思えば直急、

 自然と思わせれば敵の思う壺、

 思考さえ悟られぬは敵の思う術中、

 凡ゆる可能性や方面を模索、疑いを探れば、大体見えてくるな。

 混乱に乗じることで、捜査の撹乱――平行線で同時に事件を起こせば黒幕の尻尾を掴めなくするわけか……。

 

「……へぇ、デジャヴその2じゃん。ほんと、何の因果だよこりゃあ…」

 

 脱獄させた側の自分が、ここでは脱獄に対して問題解決するというのも、今にして思えばこれもまた皮肉が効いている。…いや、アレは先生が俺を支配して、身体を乗っ取っての行動だからな。俺の意志じゃない…――それに先生と俺は互いを共有しあっていたから、経験が思考として語るのは当然の理である。

 

『…――せい?先生!?』

 

「ああ、悪い……そいや繋がってたまんまだったな」

 

『……また寝てたんですか?』

 

「掘り返すな。矯正局脱獄の件、ワカモの件で考え事してた。つぅか独り言聞こえてたんだろ、これでもお前らの不始末をこっちが全力で考えてるんだぜ?多少目を瞑ってくれよ」

 

 それを言われたらぐぅの根も言えない…リンは暫し沈黙した後、口を開く。

 

『…だったらもう一度、説明致しますので聞いてください――ワカモは現在行方が掴めず…恐らく、混乱に乗じて逃走を測ったか…どこかに息を潜めてる可能性があります――是非とも、遭遇した時はご注意を…』

 

「そりゃどうも………で、ワカモってのはどんな戦法を取る?CQB、ゲリラ戦、多対一、遠距離狙撃による暗殺――色々あるだろ。ユウカ達に情報共有したように、今度はリン…知ってる限り俺に教えてくれよ」

 

 逃走のケースはあくまで一つとして…他の可能性としてはシャーレの占領で待ち伏せ、遠方から俺たちの戦力を分析、解析からのゲリラ戦…ダツゴクが俺たちと退治したのが全部だとは考え難い。

 

『…彼女は支持率も高く、扇動的手段で不良達を纏め上げ、破壊規模を大きく広げている凶悪犯。戦法に置いても単騎でもずば抜けており…記録としては『SRT特殊学園』――FOX小隊のユキノを始め、ニコ、クルミ、オトギの四名隊員の作戦、実力行使により捕まったと、残されてるだけで…詳細までは…』

 

 知らない学園…分かりやすいのとは違った名前だが……隊員と呼ぶからには、軍…と関係するんだろうな。

 求心党……花畑のような役割ポジもあるのか。仲間達の指揮、そして破壊活動……俺かよ。

 つまり…人海戦術、扇動後方指揮、多対一、単騎による戦術――元いた世界じゃ余裕でタルタロス入りだ。

 

「間違いないな、今回のは大物だぜ――」

 

 思わず口角が釣り上がる。

 ああ、自分の性分は死柄木弔であろうと、志村転弧になっても――どんな困難でも笑顔になってしまう。

 

 辛い時、怖い時、笑顔で助けを望むヒーローがいたように

 辛い時、怖い時、笑顔で破壊を求むヴィランがいたように

 

 今の俺は――どんな困難でも『頑張ろう』と笑顔で臨もうとしている。

 

 闘争心?

 未智の開拓?

 脅威への対抗?

 

 どちらもだろう。

 きっと俺は、こういう人間なんだろう。

 ただ「壊す」ことがなくなったとしても、小さい子供が目の前の問題を解くことに高揚を覚えるように、大人になった挑戦者が大型プロジェクトに取り組むように、今の俺はきっとこの世界で起きる問題に、頑張りたいんだ。

 

 破壊を取り除いた俺に、残されるものなんてないと思ったが…。

 

(……不良たちと生身で前線に立った時も、囮として昔の戦い方をしても恐怖心を抱かなかった……未だにそうだ。ああ、なんとなく俺を知れて良かったよ)

 

 掌をグッパーグッパー、何度も開いたり閉じたりしながら、未だ覚えている高揚に悪い気がしない。

 

『先生、呉々も無茶のないように……私も直ぐに合流します――』

 

「ああ、それについては…」

 

 

 ブツン――ッと、ここで通信が切れた。

 

 

「おいおいマジかよ…!一方的に切りやがったぞアイツ!!」

 

 信じられねェ!と両手を広げて思わず大声で叫んでしまう。

 マジか――人が話そうとしてる所を切るなよ。

 ……ひょっとしてアイツの心情から察してパニックになってるのかもな。

 

「……そもそも、リンが来たところで 肝心のFOX小隊とやらでもない限り無理なんだろ?秘策でもあんのか?いや…地下にある『とある物』を確保するんだよな…。つぅかなんだよ『とある物』ってのは…」

 

 名前を伏せるということは、人前に知られてはならない物資なのだろうか。

 それを俺に指示するってマジ?

 ドクターに頼まれた『ナイン』とか、そう言うガチで危険なのじゃないよな?

 

「……先に切ったのはそっちだからな」

 

 俺はリンの忠告を無視して、奪還したシャーレの建物へ足を踏み入れようとする。

 

「先生、代行からの通信は終わりましたか?」

 

 見張をしていたユウカが、こちらの様子を気に掛けたらしく、顔色を伺うように訪ねてくる。

 

「ああ、アイツ切りやがった…。焦ってるとはいえ、一呼吸落ち着いてくれよな」

 

「あはは……それで、私たちはどうしましょう?不良達は片付けましたし…ハスミさんの言う通り、放っておいても時期に不良たちは捕まるでしょう」

 

「……そいや肝心のハスミとスズミは?」

 

「破壊された戦車やヘリコプターの監査……というか、他にも隠れてる残党がいないか巡査してるそうです。先生が教えて下さったビルの建物にも、武装した脱獄生徒が息を潜めてるかもしれないってことで…」

 

「そいつは重畳――じゃあお前たちはリンがくるまで引き続き、見守りしててくれよ――俺はシャーレに入る」

 

「えっ?ですが……それなら代行が来てからの方が良いじゃないですか?」

 

「――それに、中にまだ矯正局から脱獄した生徒がいる可能性も御座います」

 

 ここで、割り込むようにチナツが口を挟んできた。

 …へぇ、流石は風紀委員――こういう所は繊細か。

 

「そう言われてみれば…確かに、そうよね…。建物は無事だとしても、中で潜伏してる可能性もあるし…」

 

「…流石だな、チナツ――この世界の子供もやっぱ凄いんだな」

 

「……先生、まさか…一人でシャーレに入る、なんて言わないですよね?」

 

「……だとしたらどうする?」

 

「「危険です!!」」

 

 ユウカ、チナツが声を重ねる。

 もしチナツが勘付かなければ、今頃ユウカは「がってん承知」と言わんばかりに、転弧の言葉通り見守りをしていただろう。

 

「なんで一人で行こうとするんですか!?もし武装した生徒がいたら危ないんですよ!?確かに、先生の動きはその…私たちが想定していたことより遥か上というか…予想外というか……ああもう!兎に角、せめてシャーレに入るなら一人じゃなくてせめて私達だけでも――」

 

「――ダメだ」

 

 転弧先生は、低い声で制するように言葉を放つ。

 何故だかそれは恐怖とは違う…いつになく真剣で、どこか重々しい猛者たる雰囲気を纏っていた。

 

「……どうして、ですか?」

 

「俺にしかできないからだ――それに、逆にお前たちが来るとデメリットになる。俺には俺なりのやり方と考え方があるんだ。これで満足か?」

 

「理由をお聞かせ願っても宜しいでしょうか?」

 

「5つだ――驚くことになんと、お前達四人の数より多い」

 

 意外にも理由が多かったことに、ユウカやチナツは目を丸くする。

 

 

「一、まず不良がシャーレにいる可能性はゼロに近い。それは何故か?今回の騒動がワカモと呼ばれる主犯格が起こした騒ぎだからだ。不良に吐き出させた情報と俺の推測…リンの通信情報を照らし合わせた結果――アイツらは時間稼ぎの要員としての駒に過ぎず、不良は縄張りを敷いてシャーレを占領した。時間稼ぎ、暴れたいが為に暴動を引き起こす連中なら、俺たちが抗戦していた時に増援として駆けつけなきゃ可笑しいだろう?で、アイツらシャーレから出てきたか?つまりはそう言うことだ――」

 

「で、ですが…外で仲間達が倒れても、待ち伏せとして…侵入したところで不意を突く可能性が…」

 

「そもそもお前達が来ること自体が予想外だった――考えてみろ。リンはあくまでヘリコプターさえあれば俺とリンだけでシャーレへ赴くはずだった……連邦生徒会の人手が足りなかった結果、お前達を呼んだわけだが…お前らが連邦生徒会に駆けつけたこと自体、不良達は知らないだろう」

 

 あっ、と二人は合点がいったように納得する。

 私たちがもし行かなければ、転弧先生とリン代行だけなら、一体どうなっていたことやら…。

 何となく、今になって漸く転弧先生が言っていた言葉に重みが増した気がした。

 

「人手が足りない、ヘリも出動不可――有望な人員を集めるのにも学園の距離も考えて時間がかかる。つまり、だ…こうなること自体が奴らにとっては予測不可能だったと言うわけだ。…ユウカやスズミを見た途端、予想外だって顔色してた。お前達ほど優秀な生徒が相手になるんだ…待ち伏せしたとしても、一人10の力が、一人100の力に勝てると思うか?なら少しでも数を合わせて人海戦術に望んだ方が遥かに勝気が高いとは思わないか?だから、待ち伏せはないに等しい」

 

 まあ仮にいたとしたら、ある程度自力でなんとかするしな。

 

「二、外で潜伏しているゲリラ戦を得意とするダツゴク、或いは逃げた残党が、俺がシャーレからリンに頼まれた『とある物』を持ったまま外に出た時に狙われる可能性がある。リンのやつが具体的にどういったブツなのかを教えてくれれば、考えられるんだが……言わないということは、言えない可能性が高い。そんな貴重品を漁夫の利で奪われたらどうする?将棋みたいに玉盗られたら終わりなんだよ。だからユウカに見守りを頼んだんだ――」

 

 これはオーバーホールから血清と消失弾を奪った経験があるので、そこは絶対に外せない。

 

「三、シャーレの占領。奴らが本当に破壊のみを生き甲斐とし、衝動に駆られた集団なら、そもそも部室が安全ではない――戦車や爆薬で壊せば良い……しないということは、アイツらにとって壊しちゃいけないもので、同時に奴らの目的とシャーレの占領が結びつかない。つまり、シャーレの占領自体は目的とは別の意味があると裏付けてる。その結果、ヤケになったダツゴク生徒が逆にシャーレを破壊する危険性もある。俺が入ってる最中にワカモ諸共道連れなんて行動を引き起こす暴徒がいたらゲームオーバーだ。見守り理由がもう一つ増えたな」

 

「………」

 

 そこまで考えていたのか、とユウカは放心。

 チナツもここまで具体的な計画性と先生の理にかなった安全考慮に、ポカンとしている。

 大人って凄い――ついさっきの戦闘で驚かされていた面々。

 自分たちと常識が違い、銃も扱わず、どことなく子供っぽい一面のある彼の言葉には、こうも人の心を納得させるものがあるのだと。

 

「四、現在行方を眩ませてるワカモがシャーレの建物にいる可能性が極めて高い。俺たちがいることを知らず、シャーレが破壊された痕跡のない安全状態、不良達の言動と縄張り。これらを照らし合わせれば間違いなく狐の仮面がシャーレ内に潜伏していると考えるのが妥当か…」

 

「じゃあダメじゃないですか!!」

 

 悠長に語って今更巻き戻されたことに、壮大なる突っ込みを入れる。

 あんなに「俺、考えてるんだぜ」みたいなこと言って、一番ヤバい奴がいるんじゃ結果オーライだ。

 落差が凄すぎてズッコケたくなる。真剣な顔して何言ってるの!!と言わんばかりの困惑、焦燥、怒りの顔立ちだ。

 そんな慌てふためく感情豊かなユウカに、転弧は「まて待て」と慣れた手仕草で落ち着かせる。

 

「まだ話の途中だ――ワカモの行動パターンを鑑みるに、主に破壊と強奪が目的だ。シャーレを占領するのは、アイツにとって目的があるから。破壊せずしてシャーレ内に侵入…ということは、リンの話してた『とある物』が目的か、第二の可能性として地下に何かしら用があるためか……どちらにせよ、地下内に目的のブツがある限り、避けては通れない。そして目的がある以上、ワカモは下手な破壊行動を行うことは困難に等しい」

 

「えっ…??」

 

 意外にも転弧先生から安全な言葉が述べられた。

 凶悪犯と逢いに行くということに、何故か安全性が保証されたことに戸惑ってしまうのは、一体なんなんだ。

 

「地下ということは、爆発が起きたら生き埋めになる。そういうのは却って身を危険に晒しちまうから、屋内での大規模な戦闘は愚策……お前達の耐久性がどのくらいかは知らんけど。それに上述でも話したように、不良たちの待ち伏せの可能性もなくなるわけだ。だからどう足掻こうとも、ワカモがシャーレの地下内にいる以上、不良たちがいる必要はなく、安全性さえ保たれてる。仮に矯正局をダツゴクしてる生徒……そのプランさえ見込んで脱出経路を探る可能性もあるが……流石の俺もバカじゃない、危険だと感じたらすぐさま逃げるさ。

 その五、一番解決できる確率が高いのが俺だからだ――」

 

 これが、ここからが俺の正念場だ。

 

「俺が、ワカモと交渉――話し合いをする」

 

「本気で言ってるんですか、先生…。狐坂ワカモ――彼女は単騎でも軍事兵器に勝るほど、凶暴且つ危険です。そんな相手が話に乗じるなど…」

 

「だろうな。お前たちなら無理だろう――だが、俺なら可能性はある。俺が、可能性を引き出してやる。それが俺にしかできない、俺なりの戦いだ」

 

 チナツの言動から見て、他の学園でもその凶悪な素性と名前が晒されてると伝わってくる。

 ああ、分かるよ――そりゃあ、そうだよな。

 俺が体験してるんだ。

 俺がワカモと同じ立場なら、普通話し合いなんて否定するだろう。

 

「ユウカ、ハスミ、スズミ、チナツ――各学園の代表……そんな四人が地下に押し寄せたら間違いなく抗争は免れん。いや…例の『とある物』を壊されたらおしまいだ。地下を爆破しなかろうと、仮にお前たちが強かろうと、壊した者が勝ち――尤も、奴さんがリンの言ってたブツの詳細を知ってるかは別として……。下手に刺激を与えて激情でもされたら何を引き起こすか分からん。逆に却ってそっちの方が危険だ。失う者のない奴ってさ、いつでも本領発揮できるから怖いんだぜ??」

 

 だが――それはお互い生徒同士という型の話だろう?

 先生…という名前の意味が、如何にして重いのか…俺には分からないけど、それでも俺がなんとかしなきゃとは思う。

 それと同時に、他でもない俺じゃなきゃダメな気がした。俗にいう第六感というやつだろうか?前世でアレだけ壮絶なハードモード歩んでたら、イヤでも感じ取っちまうようなぁ。

 

 

 狐の仮面――災厄の狐と謳われる者が一体どのような人物像で、何を以って破壊を貫くのか知らない、が――俺は興味がある。

 

 

 俺のように…痒みや憎しみを以って、壊したくてしょうがないのだろうか。

 ソイツにも破壊の原点ってものがあって、俺みたいに原点(あの家)から否定されて、そうなるべくしてなったのだろうか。

 単純に血狂いやスピナーのように、己の欲求や流れに乗って破壊を貪っていたのだろうか。

 トガが血を吸うことを恋焦がれるように、それが破壊衝動に転じているのか。

 荼毘やコンプレスのように明確な目的を他者に悟られないように、遥か先を見据えた行動なのだろうか。

 

 理屈、理由、倫理――全ては不明にしろ、俺はそう言う人間と接してきた。

 社会の枠から外された人間ってのは…不理解に畏怖と軽蔑を生み、世の中の常識や価値観に排斥され、否定されることが正常化されてしまうから。

 闇に生き、日陰で息を潜め、常に闇の中で生存競争を生き抜いた連合のリーダーだからこその発想。

 

 

 だからその経験を持っている俺だからこそ、

 連合のリーダーだった俺だからこそ、

 凡ゆる闇を知り、生存競争を生き抜いた俺だからこそ、

 

 俺にしかできない選択をする――それこそ、俺の意志だからだ。

 

 

 だからワカモと対等に、交渉を進めるのは俺しかいない。

 平和的に、穏便に済ましたことは…流石に前世の俺じゃ一度もないから、多少一、二発撃たれるのは覚悟しとくか。

 そんなこと聞いたら四人が血相変えて止めてくるので、交渉が不可能だと感じれば撤退したいところではある。

 

 

「だから、俺を信じてくれ。頼むよ――俺たちは、対等だろう」

 

 

 優しい笑顔を向ける。

 信じることに心苦しくなることも、心配になって不安になることもある。

 だがそれは俺を信じようとしてくれる過程内での感情が動かされてる証拠だ。

 信じきれないかもしれない、途中でいても立ってもいられなくなるだろう。

 

 その心情を踏まえた上で、俺は言う――信じて欲しいと。

 

「……はぁ、連邦生徒会に駆けつけて、まさか…こんなとんでもない大人に出会うとは……明日はゲヘナの書類が5倍に増えてないと良いですけど…」

 

 はぁ…と深い溜息を吐いたチナツは、これ以上は無駄だと見解したのか、観念した様子が伺える。

 

「ここまで言われて、食い下がるというのは…ある意味失礼に値すると言いますか…ほんと、怖いもの知らずで……つい、そう納得しちゃうんですもの――不思議ですね、転弧先生は」

 

 普通の大人であれば、普通の人であれば、こうはならない。

 同じ言葉、文章、声色を他者が真似ても――志村転弧の気迫は、声色は、覇気は、前世を体験した彼にしかなし得ないだろう。

 志村転弧は確かに、死柄木弔として生き、悔恨も憎悪も、愉悦も手に入れてしまった、最後まで壊すために戦ったのだから。

 

「…先生、もし危なくなったら絶対に逃げてくださいね!!それが私たちからの最大限の譲歩です!あと、チナツさんがいるから多少無茶でも〜とか、そういうのもやめてくださいね!本気で怒りますから!」

 

 流石にチナツも「同感です」と目を瞑りながらユウカの意見に賛同する。

 ……まあ、俺も痛いのは経験こそしてるけど……。

 

「ああ、済まないな心配かけて――そっちも見守りは怠るなよ。俺もお前らのこと、信じてるからさ。もしスズミやハスミも戻ってきたら、そのこと伝えといてくれよな」

 

 不思議なもんだよな――生徒と一緒にいるとさ、懐かしさを感じるんだ。

 出逢ってまだそんなに長く居座ってるわけでもない。

 コイツらの好みとか…人生とか、どんな人間なのかも、全く知らないのに。

 

 嘗て苦楽を共にした、仲間達と同じような、痒みのない暖かな心地良さを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「う〜ん…。シャーレを占領したは良いものの、これが一体何なのか、まったく分かりませんね」

 

 シャーレ地下――武装した不良集団を外の護衛として配置した後、建物内に人がいないことを確認した

 

 狐坂ワカモ――矯正局を脱獄、後に混乱に乗じて一部の不良たちを率いて破壊活動、器物破損、武器強奪、様々な悪事を重ねて現在に至る。

 連邦生徒会に対する憂さ晴らし、復讐、嫌がらせ、様々な悪意の理由はあれど、彼女にとっての破壊とは『災厄の狐』としての存在証明であり、手段と目標、双方全てが『破壊』に繋がる。

 

 情報を手に入れたワカモは、シャーレの地下に連邦生徒会長が遺したと言われた『不可解なオーパーツ』を嗅ぎつけ、それを目標にシャーレを制圧した。

 …したは良いが、肝心の『不可解なオーパーツ』がどこに保管してあるのか、どんな見た目をしているのか、全てが謎に包まれている。

 

「流石は連邦生徒会――矯正局のセキュリティはともかく、こういう秘匿情報を保管するのは一級品、と言った所でしょうか」

 

 ふむふむ…と、頷きながら改めて地下の一室を見渡す。

 半分に砕けた石板が光に照らされ、空中で浮遊しているストーン。

 PCやデスク、本棚、観葉植物……質素な部屋だ。

 一見怪しいと思うのはこの正体不明のキーストーンではあるが…必ずしもそれが絶対とは限らない。

 仮に連邦生徒会長が遺した――のであれば、こんなあからさまに提示しているのだろうか?

 

「考えてしまっては、終わりが見えませんねェ…幾ら有象無象の不良生徒、寄せ集めとはいえ、もし対抗する戦力が揃ってしまえば――」

「ゲームオーバーだよなぁ」

「!!?」

 

 瞬間――背筋に聞き慣れない不気味な声が聞こえ、反射的に銃口を向ける…が、それを予測したのか片手で愛用の銃器を防がれた。

 

「反射神経…振り向きと同時に銃器で迎撃………悪くはないな」

 

 それも、しゃがんでいた。

 まるでこちらの反応も、行動も、全て未来を予測していたかのような、慣れた動作。

 正体不明の大人に、己の領域とは異なる未知に、警戒心を高める。

 

「ビンゴだな――お前がシャーレの地下内にいたこと、不良生徒の待ち伏せがいないことも…全部俺の推測通りってわけだ」

 

「貴方…一体いつから……音もなく私に近付くなんて、普通の大人とは、明らかに異質――ここまでどうやって…」

 

 

 ――俺という予想外な人間に対して、動揺の声色こそ伺えるが…その点、落ち着きと余裕、冷静に俺の行動に目を光らせている。そこはやっぱ、俺と同じ修羅場を潜り抜けた歴戦の猛者ってやつだな。

 

 普通、俺を排斥しようものなら問答無用で襲いかかる。

 自分の予想外に気が動転し、早急に対処しようと実力行使に挑む。だがそれは相手にカウンターを許してしまうことになってしまう。だから普通、敵対するにしろ争うにしろ、迂闊に手を出してはいけないのだ。

 

 その点理解してる辺り――冷静だなコイツは。

 

「…気配を隠し、足跡を消し、相手に悟られない……そういうのも、裏で生きていく上では必要不可欠なスキルなんだぜ」

 

 犯罪者として生きてきた人間は息を潜め、出し抜かれないようにと目を光らせながら己の生殺与奪を他人に握らせない。

 日々警察やヒーローに追われる環境、異形排斥主義集団を始めた敵組織への潜入、ギガントマキアからの生存確保の隠密、そう言った生存本能は後の経験から生まれ出るもの。

 俺なんかより人を欺くことに特化してるのがトガやコンプレスなんだけどさ。

 

「……ご教授どうも。で?私に一体何の御用で…?」

「お茶でもしようか――なんて言えば、お前は武器を下ろしてティータイムのお誘いに乗ってくれるか?」

 

 一触即発――互いが冷静を装い、一定の距離を保ったまま対立している。狐の仮面を被るワカモは一体どんな表情を浮かべているのだろうか――己の本心を隠しながら相手に悟られず隙を見せないワカモ。

 対するは顔を晒しているにも関わらず、一切相手の心が読めない。悟られず、掴みどころのない…相手の動向を見逃さず、隙を作らせない転弧。

 

「それはそれは…素敵なお誘いですこと……『災厄の狐』と知ってのお誘いですか?」

 

「名前だけ知ってても、素性を知らなければ『知っている』とはお世辞にも言えないな。だが……お前には興味がある――茶の誘いは、菓子を摘みがてら、互いを良く知ろうという意味合いさ」

 

 この大人は未だ銃口を向けられているというのに、一切声色を変えず、表情を変えず、真っ直ぐとした瞳を彼女に向ける。

 ヘイローが存在しない――つまり、彼は銃弾一つでも浴びれば致命傷は免れないだろう。

 そんな一般人が、命を脅かす銃を向けているのにも関わらず、恐怖という感情が何一つない。…いや、初対面なのにも関わらず、無駄のない修練を積まれた動きには、とても一般人なんて言葉で片付けていいのかという疑問さえある。

 

「………銃を向けられてる相手を知ろうなどと、物好きな殿方もいたものですね」

 

「慣れてるからな……それに、お前が俺を撃とうとしてないのはもうとっくに理解してる。やめときな、そういう脅しの言葉を含めた陳腐な虚飾は」

 

 銃口を向けるのも、引き金を指に絡めてるのも、全てはこちらの動作を確認し探りを入れ、命を脅かすことで行動を制限させる為の抑圧に過ぎない。

 もし本当に撃つのなら、最初に振り向きざまに発砲していれば済む話だ。況してや災厄の狐と呼ばれる極悪人なら、仮に殺されてしまっても「ああ、厄災に遭ったんだ」で片付くからな。

 …言葉を挟みながらフェイントで銃撃戦をする可能性も捨て切れてはないが。

 

「私の気まぐれで生かされてると、考えたことはないのですか?」

 

「ないね――お前は単に未知に対して探りと思考を働かせる為に、暴力をちらつかせて動向を確認してるだけだ。

 気に入らないなら壊せば良いだろ。それが災厄の狐だとしたら尚更、わざわざ見ず知らずの他人を気にかける犯罪者はいないだろう?気まぐれで誰かを見逃した経験があるのか?だとしたら、お前は災厄の狐じゃなく――狐坂ワカモという一人の人間だったというわけだ」

 

 何なんだ、この大人は――初めて、内心に抱く困惑と未智に、思考が掻き乱れてしまう。

 でも自然と、不快感や不愉快な…苛立ちやドス黒い感情は何一つ湧き上がらない。

 この大人は何が目的だ?

 シャーレの地下内に存在する『不可解なオーパーツ』が目当てなのか、私を捕えるのが目的か?

 分からない――この大人が、災厄の狐と対等に話し合えているのも、怖気付き、畏怖の眼差しを向けない大人が、何よりも不理解だ。

 

「……私を捕まえるのが、目的ではないのですか?それなのに悠長と話すなんて…考えなしにしては、些か説明がつきませんね」

 

「愚問だな――俺は無個性だしお前を捕まえる手段なんてないだろ。銃を当てたところでお前に傷がつかないのは、既に上で体験してる。……一度も銃なんて使ったことないから、上手く行くなんて限らないし…況してや俺もお前も地下に対して利害は一致してる。じゃあお前を捕まえるには武力行使ってわけだが……それを使ったらお前は今度こそ強行手段を使わざるを得ない――」

 

 イレイザー・ヘッドのように相手を拘束する武闘は重んじておらず、柔道やら警察式の手腕も、経験を積んでいないから持っていない。壊すことを得意として、主体に生きてきたから……そんな技術、持ってるわけないよな。

 下手に相手を刺激してしまえば、実力行使をせざるを得ない。

 

 真に賢しい敵が闇に潜むように、

 失わない敵ほど恐れるものがないように、

 命を投げ捨てた敵がより困難であるように、

 

 侵す者は、守る者と同等に真価を発揮するのだから――

 

 

「だから、俺はお前を捕まえにきたんじゃない――俺はお前と話がしたいんだよ。言っただろ、お茶をしたいって」

 

「理解できないですわね。捕まえるのが無理…――だから?情で訴えて、どうかここを見逃してくださいと乞うのですか?」

 

「まさか――だが連邦生徒会がここに来たら不味いのはお前もだろう?そういうケースも考えて、お前には策があるんだろうが…。だとしても、いつまで経ってもここでお前が何もしなかったのは、お前の目的が未だに見つかってないからじゃないか?ここは自分を棚に上げず、ゆっくり肩の荷を下ろそうぜ」

 

 ここで争っても爆破の影響によって建物が崩れ生き埋めになる危険性が高い。なので爆発物は使えない…銃で迎撃を行うにしろ、狭い部屋では真価を発揮するのが難しい。リロードしてる間に、反撃の一手を喰らう可能性もある。それがシャーレから来訪した外部の人間とて、こちらとしてもこの大人は未知が多い。

 …時間稼ぎ?ワカモが結論に至った疑問は確信へと抱いた。それを口に出す前に――

 

「お前と話す前提として――俺はお前を見逃す。お前はここを素直に立ち去る。どうだ、穏便で自然な交渉だろう」

 

「…は――?」

 

 今度こそ、驚嘆な声がワカモの、仮面越しから漏れた。

 表情こそ隠れてはいるものの、困惑しているのは明らかに想像できた。

 

「言ったろ。俺はお前を捕まえにきた訳じゃないッて…そもそも俺がお前と敵対する意味なんて何もないからな。確かに矯正局を脱獄したやつを見逃すバカをお前は見たことないんだろうけど…」

 

 俺は手をクィっと上げて、語り出す。

 

「勘違いするなよ。俺はあくまで地下に用があるってだけだ…そこに偶々お前がいただけ。

 捕まえるために送り込まれた訳じゃない。お前が逃げようと俺は構わないって言ってるんだ――騙してるように思うんだったら連邦生徒会が来たとしても、現段階の立場でお前を捕まえないように俺が説得するよ。約束しよう――それが俺がお前にしてやれる条件だ。どうだ、これなら信憑性は増しただろう?」

 

「…どうして、そこまで…私を…」

 

 わからない、分からない、不理解(わから)ない――なぜ、この男は…こうも脱獄生徒である私を見逃そうとしているのだろうか。

 凶悪な厄災を振りまく、破壊の狐を――この男は、受け入れようとしている?

 

「お前を知りたいから――災厄の狐だろうと、狐坂ワカモだろうと、破壊を貪ろうと、お前という一人の人間を、心の底から知りたいと思ったから」

 

 今度は言葉を失った。

 矯正局から脱獄した、凶悪犯罪者――そのレッテルは人々を恐怖に突き落とし、名を聞くだけで煙たがられる存在。

 あの温厚で眠たげな『ツバキ』でさえも、彼女に畏怖を示す災厄の狐を――心の底から知ろうとしている人間が、目の前にいる。

 

「…お前さ、なんで壊したいの?ああ、言いたくないなら言わなくて良い。世の中、色んな人間もいれば…知られたくない過去や、明かしたくない理由もあるしな――街を壊した時、お前は何を得た?焼け野原の道路を見て高揚したか?

 

 ――俺はモノを壊した時、痒みが治ったよ。いいよなぁ、大きいものとか、街を壊す時って…特に思いっきり壊すと、こう…スッキリするよなぁ。分かる、分かるよ…だって気持ちいいもん」

 

 リ・デストロと対峙したときと同じように、幼い子供が目を輝かせるように、狐坂ワカモに共感のような言葉と眼差しを向ける。

 初めて向けられる感情、破壊の理論に、益々抱いたことのない感情が、心の底から湧き上がる。

 何故か、銃口を向けていた私の腕が自然と腕を下ろしており、ついつい聞き魅入ってしまう。

 

 それ以前にこう疑問に溢れる――貴方も私と同じように、破壊を衝動に生きていたのかと。

 

「俺はお前のことなんて全く知らない――けど、同時に興味が湧いて、知りたくなった。考える度に、お前とはなんなのか、知りたくてしょうがない」

 

 破壊こそ『災厄の狐』としての象徴たらしめるものなのか、

 狐坂ワカモという性分が、破壊を貪る本心なのか、

 

 考えれば考える度に、過去の自分(死柄木弔)と重ねてしまう。

 まるで家族の残骸を身に纏う自分が、厄災と謳われた仮面の少女と話すような――そんな面影さえ第三者の視点からでも錯覚してしまうほどに。

 

「お前がなんで仮面を付けているのか、どんな気分で破壊を齎すのか、そして…お前の原点を知りたい。そう思っちまうのはさ、興味本位ってだけじゃなくて…放っておけないからだ」

 

 人が仮面を付けるのには理由が存在する。

 趣味やコスプレという単純明快な理由もあれば、

 

 コンプレスのように心理の示唆、エンターテイナーとしての性分、人を欺き仮面に注目を浴びせるため。

 トガヒミコのように、普通を強制され、他人の皮を被ることで世間からの注目から欺くため。

 トゥワイスのように、過去のトラウマが起点となり、己の素性を隠すことで自分を保つため。

 …俺のように、志村転弧としての本心を隠して、家族の残骸を常に身に纏うことで死者を弔い、先生の苗字を与えられた『もう一人の自分を作る』ため。

 

 仮面とは、二面性の役割を持っている。

 偽りの自分と、真実の自分への区別――心の蓋や世間から身を守るため。

 

 なぁ、お前はどうなんだ――?

 

「俺もさ、いっぱい壊してきたよ。ここに来る前――全部壊すために戦ったんだ。信じられない、コミックで絵空事のように思うかもしれないけど……俺は、…いや、俺たちは確かに戦ったんだ」

 

『――じゃあもう、壊そう。一旦全部!!』

 

『――あの家から連なる全ての崩壊だ――それだけが俺を救うんだよヒーロー』

 

「否定だらけの人生で――原点(あの家)から連なる全てを、壊したくて、壊したくてどうしようもなかった。俺の心に鉛の塊が沈んでて、そこから怒りが無尽蔵に噴き出してくる。鉛は消えず、痒みは増して、息づく全てが俺の心を苛立たせたんだ。

 

 人の理解に及ばない不理解や未知は、畏怖されて軽蔑され、否定を受けて排斥されちまうから。そういう人間は、人間とさえ見てもらえないから…そういうのを、たくさん見てきた」

 

 連合の仲間たち、ブローカー、ステイン、オーバーホールを始めた裏の人間。

 俺が知らないだけで、そう言った人間が社会の光に照らされず、救われない者や除け者扱いされた人間は、闇を抱えてしまう。

 

 

「だからそう、身構えず心配するな――お前のような人間はさ、案外似た者が多いんだ」

 

 

 ゆっくりと、手を差し伸べる転弧先生は、ワカモの手を優しく握った。その手に触れたものは、全部壊してきたというのに――緑谷出久は崩壊をしてでも俺に触れてくれたっけ。

 俺はここへきてはじめて誰かの手を握っても、壊れることがなく再び安心できるのだと実感した。

 死柄木弔だったとしても、志村転弧だったとしても――どうあれど、きっとお前といると、居心地が良いんだろうな、と思ってしまう。

 

 ワカモの瞳に映るのは、幻覚なのか……転弧しかいないはずなのに、薄らと、人影が見える。

 

 ツギハギで肌が爛れた大人

 セーラー服を着た普通と狂気を隠した女の子

 ボロ布の目隠しマスクを身に纏うトカゲの大人

 マジシャンのような奇々怪界を主張させた仮面の大人

 ラバースーツを纏う変人な大人

 

 それが転弧という不思議な大人の後ろで、見守るように、そしてこちらを見つめているようにも見えた。

 

「もう大丈夫だ――俺がいる。俺がいるから、お前が俺のように苦しんでいたら、否定だらけで一人ぼっちだったら、俺が救ける。災厄の狐だろうと、狐坂ワカモだろうと、俺はお前を否定しない。肯定して、手を差し伸べるよ――俺もさ、手を握ってもらって安心したことあるから」

 

 彼女の手は柔らかく、災厄の狐――なんて呼ばれてるとは思えないほど、細くて、暖かくて、落ち着く。

 悪意を持って壊してきた俺の手でも、今度は誰かに手を差し伸べて、ソイツが救われるのなら…。俺の遺志で救えるのなら、こういう生き方もあったんだな、と考えさせられる。

 

 みっくんとともちゃんが仲間外れだったのを、見過ごせないように。

 仲間達のヒーローで在り続けていたいように。

 この子も、一人の人間として見過ごせない。

 何というか…仲間と同じように、俺たちに似ていて、こいつも、どうしても放っておけなくて、ついつい手を差し伸べたくなっちまう。

 

 だから、俺の手で安心できるのなら――それだけでも、救われるんだ。

 

「あ、あぁ……あああ……」

 

 とくん…と、胸の奥から熱い炎が込み上げてくる。

 誰かの手を握ったのさえ初めてな彼女が体験する、人肌の温もり。

 こうも真剣に自分を見てくれる殿方は、後にも先にもこの大人しかいないから。

 

 初めて人の言葉に胸を打たれた。

 初めて否定ではなく、肯定を受けた。

 初めて自分を知ろうとしてくれた。

 

 そして初めて――心の底から安心できた。

 

 

 矯正局に収監される前、悪事を働き重ね、不良を統制して破壊活動を糧に生きてきた。

 その結果、完全武装したFOX小隊に包囲され、捕まってしまった。

 そんな自分を受け入れてくれるなど、そんな物好きはいるはずがない。

 ――当然だ。罪を犯した者は罰せられ、脅威たる災厄と向き合おうなど、正に自然災害を相手にするようなもの。

 

 けど…目の前にいる大人は、さも小さな子供が絵空事を語るような。

 純粋無垢な子供が、台風や災害を目にしても目を爛々と輝かせるような。

 不理解であれど、この子供のような大人の言葉に、こうも自分が感銘を受けるのか。

 

 嗚呼…この殿方はいったい…。

 心臓の鼓動が早まり、トキメク想いが、破壊衝動とは違う熱意が、心の奥底から溢れ出る。

 蓋をしても、沸騰した熱湯のようにごぽごぽと音を立てて、溢れてしまう。

 巡回する血が騒ぎ、熱の勢いは止まらず、血圧が上昇するかのような高揚感に酔いしれてしまう。

 彼の真剣な眼差しが、美しくて、見惚れてしまう。

 彼の声を聞くだけで、胸の鼓動が抑えきれない。

 彼といるだけで、災厄の狐から一人の乙女になってしまう。

 彼の優しい手に、永遠に触れていたい。

 

 もっと、彼を知りたい――この大人の傍に、寄り添いたい。

 この殿方の為に、全てを捧げても良いと、心から思ってしまう。

 誰かに向ける怒りも、破壊も、彼と側にいるだけで嘘のように引いていき、普通の人間になってしまう。

 それが彼女を救うのか、それとも彼女を一人の人間として見ている転弧だからこそなのか…。

 

 当初、会敵していたワカモは、警戒を解き、既に天井知らぬ恋心さえ抱いてしまう。

 

 

「わ、私は……私は…!!!」

 

「?」

 

 先刻までの冷酷無慈悲を想わせる声色とは違い、熱を浴びた吐息、彼女の色のある声に、目を丸くする。

 

 

「さ、先ほどの御無礼…!失礼致しました!!!わ、私は…!!〜〜〜っっ!!失礼しましたああぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 ワカモは取り乱しながら、勢いよく地下室を飛び出すように、全力疾走で地下室を出て行った。

 

 

 

「……取り敢えず、交渉は成功だな。生まれて初めてだな…こんな、穏便にことを済ませられるなんて」

 

 銃口を向けられながら、語ることが物騒に当て嵌まるか否かの審議は置いといて――ワカモが別の逃走経路へ走っていくのを見送りながら、改めて周囲を見渡す。

 …どうやら荒らされた痕跡はないようだ。

 となると、ワカモの目的はどうやら『とある物』だったらしく、肝心の彼女もそれがどれを指し示すのか、知らなかったようだ。

 

「……後は、リンを待つだけか」

 

 俺は空いていた椅子に腰をかけ、足をデスクに置く。

 疲れた…とため息を吐きながら、誰もいない一室の地下でいつも通りに寛ぐ。

 

「……結局、ワカモに目的聞くの忘れてたな……」

 

 矯正局の脱獄――その状況を聞き出すのを、すっかり忘れていた。

 …まあ、アイツが俺に心を許してくれたのなら、決して無駄ではないだろう。

 …もし、またワカモと会ったら、その時は話がてら寿司でも食わせてやるか。

 

 

 

 

 





??教授「…あの大人、勘が鋭すぎでは?人心掌握がうますぎる……例のゲマトリアですかね?」

…先生に支配されてたとはいえ、脱獄させた側っていう経験がここで生きるのやっぱり可笑しい。

俺を見ていてくれ――俺を信じてくれ。
エンデヴァーと志村転弧の似たような台詞。
見ることでこれからの信頼を得るエンデヴァーと、信じてくれることで自分を見てくれる転弧。



「次回、ちびガキが俺と映画のワンシーンを再現する、乞うご期待」

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