俺の二度目の人生は、魔王から先生へ   作:トラソティス

6 / 15




メモリアルロビーとか、モモトークの生徒の友情な一日って大事ですよね?ね!でも、本編も進めたいですよね?こう言う時、チームアップミッションで日常を番外編にしたように、モモトークのやりとりは別の章分けするか…悩みますね!!
でもユウカのメモロビはブルアカ序盤では欠かせない通り道なので、押し通る!!ね⭐︎



6話『早瀬ユウカとの平凡な一日』

 

 

 

 

 

 

 シャーレの部室――物静かな空間のオフィスは、一人にしてはだだっ広く、解放軍アジトで英気を養っていた頃と同じ自由を満喫できる状況下であった。

 ……仕事をするという役割さえなければ、もっと自由奔放に余生を過ごせていたかもしれないが。

 

「ふぅ……人の目線を気にすることなく自由に買い物できるってのはこんなに気楽なのか。いつぶりだよ、コンビニで飯を購入すんの」

 

 外はすっかり漆黒色に染まり、外の空気が一段と冷んやりしていた。シャーレ占領によるダツゴク生徒の暴挙鎮圧とワカモの交渉、学園都市の命運を解決してから解散するように一人になった訳だが……暫く時間が経過した後、転弧が最初に取った行動はコンビニでの食料と飲料水の確保だった。

 取り敢えず腹が減ってはどうにもならないので、最低限の確保はしておくことを決め、買い出しに行って帰ってきたところである。

 カロリーバー、カップ麺、コンビニ弁当、菓子パン、ペットボトル容器から紙パックの飲料水、エナドリと妖怪MAXなど、カフェイン摂取と空腹埋めの食料を買い足していた。それもほぼ大量に。

 またコンビニに行っては買っての繰り返しが面倒だから――という理由の、ほぼ健康面皆無の食事形態である。

 

「…にしても店員がロボットだったのは驚いた」

 

 気分転換と外の空気を吸いがてら、コンビニに行く過程で街の住民をチラホラと見かけたのだが、これはまた奇妙な光景だった。

 サラリーマンスーツの二足歩行自律思考型ロボットが携帯で会社に連絡を取っていたり、何の変哲も特徴性もないヘイローをした女子中学生が数人の友達と談笑していれば、柴犬やブルドックの異形系の市民が飲食店に入っていくなど…。

 動物由来の異形系はこちらの元いた世界でも多く見かけたので大して驚くことはなかったし、見慣れた光景なので問題ない。なんならこっちの世界じゃ一部の地域では異形差別が酷く、仲間のうちスピナーも被害者の一人でもあった訳だしな。過去の歴史を覗けば総毛立つような事実もある。

 そこら辺、この世界じゃどうなのだろうか?

 …それに人間の大人には一人も出会うことはなかったし、男子生徒らしい人も見かけなかった。

 今日たまたま遭わなかった可能性も無きにしも非ず――ロボットの市民や異形系の市民の方が大人らしい雰囲気を纏っていたようにも感じ取れた。

 この世界がそう言う世界なのか、それとも大人のいない世界なのか――だとすると生徒が卒業したら、一体どうなってしまうのだろう。

 この世界のことは、余りにも謎が多すぎる。

 個性も肉体改造もない状態で、銃弾浴びても致命傷にならない時点でとっくに理解の範疇を超えている。

 ………まあ、言うてまだ一日だ。

 いずれこの世界の仕組みや常識は、理解ってくるだろう。そうなんでもかんでも急かして真実を追い求めるべきではない。

 偶にゲームとかだと、概念だの常識だの、そういう仕組みだの作り込みだの、何かを取って説明を足す。中には真実を明かさないという線もあったりする。この世界はゲームではないにせよ、現段階で理解する必要もないのかもしれない。

 中には知らなくても良いこととか、あるだろうし。

 それに俺はこの世界でいうなら余所者と呼ばれても可笑しくはない――デリケートな発言や、アウトな言葉を放ってしまうと異世界追放とやらをされてしまったら今度こそ詰みだ。

 

 取り敢えず買い溜めした食料 ( ほぼ 健康悪め )を冷蔵庫に入れながら、夜食として菓子パンの袋を破り、適当に放り投げる。

 

「………一人ってのは、こんなにも静かなのか……偶には良いかもな」

 

 バーのアジトでは黒霧が経営してたのもあってよく一緒にいることが多かったし、神野以降からは身を潜めるためには最低限の護衛として一人必ず誰かを側に付けていたので、基本的に一人になる時間帯の方が少なかった。

 

「…そうか。仲間がいねぇと、こんなにも違うもんなのか」

 

 改めて仲間がいないことを転弧は実感する。静寂な空間がどのような意味を表すのかは皆まで言わずとも知れている。

 やはり自分は、異世界転生を果たしたのだなと、冷静に突きつけられる。目覚めた状況が突然過ぎたので、考える暇もなかったのだが…。こうして冷静に一人で時間を過ごすと、ついつい考え込んでしまう。菓子パンを齧りながら、そんな物思いに耽ってしまう。

 

 いつも喋り立てる煩いトゥワイスも、護衛と警戒心を怠らないコンプレスも、ゲームの話で盛り上がるスピナーも、もういない。

 …荼毘は、アイツは仲間集めに励んでたから他の連中より抜けてる時間は多かったな。アイツだけはいつも静かだったし…。

 

「……アイツらは、今頃どうしてんのかな」

 

 俺が先生に身体を乗っ取られてから、蛇腔病院の戦闘後に何が起きたか、具体的な内容は知らないが…。

 意識が混ざり合った時はトゥワイスとコンプレス、マキアが抜けていて、残りが荼毘、トガ、スピナーの三人のみ…そこまでは覚えている。解放軍もスケプティックのみだった辺り、群牙山荘では全面戦争でも起きてたのだろうか。

 …アイツらは、俺がいないと死地へ飛び込むような危なっかしさがあった。好きに生きれば良い――だからこそ、好きなように生きれば好きなように死ぬ。

 アイツらが今も生きてるのか死んでるのかは分からないけど…もし生きてたのなら、今頃どうしてんだろう…そう、気にはなっている。

 

「…もし、仮にアイツらが死んでいたのなら……そうだ。アロナ、ちょっと良いか?」

 

 菓子パンを食べ終え、軽い空腹を満たした俺は、シッテムの箱を起動させてアロナに声を投げる。

 

『はい!転弧先生――なんでしょうか?』

 

「アロナ…お前ってキヴォトス全域の情報は…って無理か。キヴォトスの多くの情報を有してるって言ってたよな?それって現在進行形の情報?」

 

『えっと、ハイ!現時点でのアロナの情報は最新型ですよ!先生が起動してから、情報はもうアップグレード済みです!』

 

「そうか……ちょっと聞きたいことがあるんだが……」

 

 

 ――――――――――――――――――――――――

 

 

『う〜ん…ごめんなさい。転弧先生の仰った方々の名前を検索して探ってみたのですが、どこにも情報が載ってないようで…現時点で見つからない以上は…』

 

「ああ、うん…いいよ。ひょっとしたらって気持ちだったから。謝らなくても良い…」

 

 仮に仲間たちの名前をアロナに聞いてみたが、検索結果はゼロ――つまり転生として送り込まれたのは俺だけってことになる。

 ひょっとしたら仲間たちが奇跡的に生きてて、牢獄に入ってるか…それとも俺以外は選ばれずか、アロナの情報網に引っかからないところにいるか…。どっちにしろ希望は限りなくゼロに近い。

 

『…転弧先生の知人の方々ですか?』

 

「……ああ」

 

 軽く頷きながら、リンに言われてた資料に目を通す。

 ……まあ、こうなるかもとは思っていたけれども、それでも改めて仲間たちがもういないと二度も現実的に突きつけられるのは、ちょっとばかし心にくるものがある。

 そんな自分の心情を紛らわす為に、リンが言ってた資料とやらに目を通している。…通さない選択肢もあったのだが、それだとマジギレされて何をされるか分かったものではないので、一応読むという選択肢を取った。

 

『そういえば、転弧先生は外からやってきましたもんね…。気になるのは仕方ないことです。もし、良ければアロナもお聞きしたいです!転弧先生の友人のお話…!』

 

「ハッ……それなら、アイツらも少しは報われるのかな」

 

 犯罪者たちの話をこんな幼女に話して良いものなのだろうか。

 なんて考えが傾いたものの、アイツらを知りたいと言ってくれるのも、どこか嬉しい気持ちが優ってしまう。

 

「……まあ、いないんだったら仕方ない。それに…よくよく考えりゃあ連邦生徒会長が俺を選んだって言ってたんだ。仮にアイツらがいたら、それも選ばれたことになるしな…」

 

 通常の異世界転生ものなら、理由など関係なく別の世界で都合のいい身体で目覚めて、生を謳歌したりするんだろうが…。死んだ俺を連邦生徒会長が選んだと言ったのだから、死んだ奴を選ぶ権利が上にはあったりするんだろう。……なんて考えると、やっぱりここは異世界というよりあの世なのではないかと錯覚してしまう気もする。

 そんなこんなで考え事をしながら、リンの言われた書類に目を通した後、面倒くせえ……と呟きながら、書類の山を横目にため息を吐いてしまう。

 数枚ならやっても良い…だが、こんな一ヶ月分はあるだろう書類をどう整理しろと?

 

「…知らない世界に訪れて、全く知らねえやつに、いきなり先生やれって言われるの…冷静に考えると結構ヤバいよな」

 

 指導力、生徒たちのポテンシャル、分析や解析、改善と悪い点を挙げるのはまだ理解(わか)る。

 だが書類仕事だの事務的なパソコン作業、明らかにサラリーマンがやるだろう社会的な仕事をなぜ俺に課せられるのだろうか。

 生徒会長の人選は失敗じゃないかとさえ思てしまう。

 それに生前まで社会を壊すと意気込み捲し立てていたのだ。そんな自分が今度は社会奉仕など、皮肉が効きすぎて骨だけになってしまう。実は凡ゆる罪を償うためにこうして転生させられ、性に合わないことをやらされてるのではないかと考えてしまう。

 

「…PCの扱いは幼い頃から弄ってたから、タイピングとかは余裕だけど…。えっと、マニュアル本は……テキスト…載ってはいるな。要するに攻略本見てやれよってことね」

 

 先生として選んだからには初心者でも可能だと信じたい。

 ……だけど今日はもう遅い。

 意欲も沸かない、この世界のことも知らない、常識も理解も追いついてない状況下で仕事をしろなんて要求は無茶振りすぎる。

 遠回しに環境や状況に適応しろとでも言ってるようなもんだ。

 

「仕事なら…せめてシャーレの当番振り込んどくか。一緒に仕事やった方が、失敗せず効率良くやれるだろ」

 

 ダメな人間にありがちな典型的発想である。

 こっちとしては寧ろ仕事やってやるだけ感謝してほしいくらいなんだが?憎しみを打ち砕かれようと、俺と言う人間が面倒臭がりやな性分なのは、誰もが理解できると思うんだが。

 適材適所という言葉があるように、俺には向き不向きが存在している。前世――俺が死柄木弔として、先生に引き取られた後は大体家に引きこもってたか、気晴らしに気に入らない物を壊したり、そんな生活を送っていたので義務教育すら受けてない俺に社会人として活動しろと言われても無理なのである。

 それを拒否しても押し付けてくるのだから、この世界の先生って存在はどうなってんだ。

 そんな風に愚痴を零ながら、取り敢えず俺のやるべきことは……。

 

「明日はゲーム、買いに行くか…」

 

 現実逃避して娯楽に手を伸ばすことにした。

 志村転弧はどこまでいっても楽観的主義者であった――

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 三日目――ここへ訪れてから、既に二日を通して三日目を迎えた。

 シャーレの部室一室で 寝ては起きて、飯を食ってはゲームをしてという堕落を貪っていた。

 所謂原点回帰というやつである。

 こんな原点回帰は見たことないだろうが、よく聞いてほしい。

 俺は英気を養い、今まで培った疲労と時間を少しでも取り戻してるのだ。

 ドクターの改造手術を受けてから、No.1ヒーローであるエンデヴァーを始めたプロヒーローと学生との多対一の戦闘、先生に身体を乗っ取られて刑務所襲撃から、身体の定着を完了した後にアメリカのNo.1ヒーローと衝突。個性因子が反発し合い精神的、肉体的に残ったダメージを癒した後は最終決戦。

 結果――俺の時間は連合と離れてから一切なかったのだ。

 先生の言う『ずっと僕のターンだ』が続いてたのだから、今度は俺のターンだ。

 

「……嗚呼、やっぱり静かにHPを回復できるってのはいいな」

 

 その点、コソコソと世間の視線を気にせずに、安全に穏やかに過ごせると言うのは気が楽だ。

 時刻を見れば既に短針が12を指していた。

 昼の12時過ぎ…昨日も夜遅くまで購入したゲームに浸っていたので、遅寝遅起きが生活リズムの主体となっている。

 リンに宣告した通り、暇な時間はちゃんとデデデンリングに費やしてる。PS5とフロムゲーに加えて、他のソフトも購入できたのは大人ならではの衝動買いの楽しさだ。

 そんなことを聞けば間違いなく、リンの血管は軽く三本くらいはブチギレるだろう。

 

「金あるってのは良いよなぁ。今までは裏サポートアイテムやコンプレスの義手とかの修理に費やしたり、資金源集めるのも飯食うのにも一苦労してたし…。解放軍では毎日アイツらの金経由で飯も美味いもん食えたから贅沢こそできたけど……現段階で痛いのは俺の財布だな」

 

 昔とは違って解放軍が資金を負担するわけではなく、俺個人の財産で生活をやり繰りしなければならない。

 仲間がいない分、カバーを回さなきゃいけないとか…そう言うのはないから、好きなように使えば良いんだろうけど。

 一応先生だから、給料とかはつくらしいが…一ヶ月経過してからだろ?それまで食料が保つか…ゲームと食料で大体、先生として貰った資金は半分以上減った。

 

 まあ、なんとかなるだろ…と心の中で呟き、いつものように寛いでると…。

 

 

「先生!!おはようございます!今日からシャーレの当番、宜しくお願いしますね!」

 

「………コイツを前に静かには無理だったな」

 

 

 早瀬ユウカが現れた。

 何しに来やがった?と一瞬だけ顔を顰めてしまったが、よくよく考えれば三日前からシャーレの当番としてユウカを呼んだんだった――目の前の娯楽 ( 自業自得 ) に目が眩み、現実逃避をしていたので忘れていた。

 そうか、もう仕事しなきゃいけない日なのか。

 

「……って、なんですかコレェぇ!!?」

 

 などと考えていた束の間――ユウカが訪れたシャーレの部室は、数々の仕事をこなす、社会人としての神聖な場所はゴミだらけだった。

 ゴミだらけ…とは流石に誇張し過ぎてるとは思うが、兎に角汚かった。

 床には食べて捨てた菓子の箱やビニール袋、食べ終わった弁当、空き缶が乱雑に放り出しており、食べ物の汁などが床に染み付いている。

 …え?三日経ってこんなに汚せるのはある種この人の才能なのでは?と言いたくなってしまう。

 実は既に一週間経っているのではないかと疑いたくなってしまう。

 

 オマケにゲーム機だけは一丁前にちゃんと汚さないようにソファテーブルの上に置いて配慮してる……抜けてるというか、ベクトルが違うというか…。

 

「えっ、ちょ…なんですかコレ!?なんで三日も遭わない間にシャーレの部室がこんな汚くなってるんですか!?」

 

「飯食ってたらそりゃあ汚くなるだろ。これが俺のフリースタイル」

 

「最悪じゃないですか!!?」

 

 壮大な突っ込みを入れながら、ドン引きするユウカは足を一歩後退りする。エナドリ、妖怪MAXが数本も転がっており、乱雑にゴミが散らばっているのを見たユウカは、ワナワナと身体を震わせながら、苛立ちのボルテージが上昇していく。

 

「せぇ〜〜ん〜〜せェ 〜〜いィ !?!? ちゃんと片付けて下さい! 大人なんですから、ゴミの片付けくらいちゃんとしなきゃみっともないですよ!!」

 

「面倒臭えなぁ………仕事に支障ないから無問題だろ。ゴミの日もまだだしな」

 

「いや思いっきり支障ありまくりですよ!?主に精神面!綺麗に掃除しないと後々と片付けが大変ですし、虫も湧いて変な病気を患ったりしたら遅いんですからね!ていうか先生、ゴミ箱あるんだからせめて使ってください!!良いですか?ゴミ箱は、ゴミを捨てるためにあるんですよ!!」

 

「……ユウカ。お前は俺のお母さんかなにかか?」

 

「なんですってェ!??」

 

 ムスッとした顰めっ面で眉間を寄せながら、転弧の発言はユウカの火に油を注いだ結果となった。

 仕事のお手伝いをして欲しいとモモトークから連絡が来たから、初めてのシャーレの当番だと、再び先生に逢えると思ったらコレだ。

 一体何が悲しくて出逢い早々、こんな喧嘩っぽい流れになってしまうのだろう。

 

「そもそも、シャーレの当番を依頼したのは先生ですよね!?わざわざミレニアムから通勤してきたのに、こんな汚れてる部屋で仕事のお手伝いなんて嫌ですからね!!」

 

 プイッと頬を膨らませながらそっぽを向けるユウカ。ぷんぷんと怒りを露わにする彼女に対して「まあ、確かにそうだわな」と呟いた声が聞こえた。

 事実この男は仕事をすっかり忘れて寝過ごしていたので、本来なら言われて当然なのだ。それを反論してしまえば、当然言い争いにもなるだろう。

 それにユウカは潔癖症…というより、汚れてる部屋や散らばってる部屋を見てしまうと放っておけない性質なのだ。

 

「もう……折角来たんですし、仕事をする前に掃除の方しちゃいましょう?これ以上放置しておくと、絶対にゴミを増やしてシャーレの部室がゴミ屋敷になりかねません。私だけじゃなく、他の生徒もそんな部室でお手伝いするのなんて嫌だと思いますよ?」

 

「確か前に…荼毘にも俺の部屋はゴミ屋敷かよって言われたな」

 

 生前の頃から染みついた私生活が、こんな所にも無意識に出てしまうのは癖なのだろう。

 先生に引き取られ、引き篭ってからは俺の個室はほぼゴミ屋敷だった。ゴミ袋が乱雑に積み上げられ、カップ麺やら食べた残骸を床に捨て、丸めたティッシュは段ボール箱に入れたりと。

 先生は指摘しなかったし、ゴミ出しは黒霧のワープゲート経由で捨てていたので、ゴミ出しすらしたことがない。

 神野で先生が俺を率いる連合を逃がす際に送った先は、俺が育った個室部屋。トガとトゥワイス、マグネも酷い匂いだと文句を垂れ、荼毘は「汚ねえ、どこだよここゴミ屋敷かよ」と野次を飛ばし、コンプレスは「取り敢えず片付けるか」と乱雑に置かれたゴミを圧縮して掃除してくれていた。

 

「ほら、先生も一緒に。ホント……一時は完璧な一面も見せていたけれど、こういうどこか抜けたところもあるんですね。まったく…私がいないとダメなんですから……」

 

 ハァ…と、溜息を吐きながら、どこか満更でもなさそうに無秩序に散らばったゴミを箱に入れていく。

 転弧も気怠い身体を無理矢理ソファから起こし、渋々と散らばったゴミを片付けていく。

 

「ほら、こういうのを捨てるから…焼肉弁当の汁が床に染み付いちゃってるじゃないですか。こういうの、不衛生でよくないんですよ?あっ、換気もしちゃいましょう。閉じこもったままだと身体に悪いですからね。片付けたら雑巾で床掃除、その後は集めたゴミを袋に纏めちゃいましょう」

 

「俺、窓のある部屋にいたことないんだよな。だから換気の癖とかなってねぇや」

 

「えっ!?先生、ここへ来る前から窓とかない部屋で過ごしてたんですか?ていうか、そういう物件自体あまり聞かないですけど…」

 

「確かにな。窓のない部屋ってのはたまにアパートではあったりするらしい。理由として挙げられるのは、怪しい薬、違法な書類に武器の取引とか…。自殺部屋としての闇商売とか、公言できない完全な裏の仕事としてよく使われてたりするんだよ。第三者から見られたら困るってな。だから窓のない部屋があれば、事件性の匂いが濃い可能性は高いんだってさ」

 

「……なんでそんな闇深い知識は知ってるんですか…なんか、聞きたくなかったような…」

 

 一種の都市伝説としても扱われてる説だが、事実は小説より奇なりとも呼ぶ。

 現実的に実感が湧かないのは、バレてないからというしな。

 

「妖怪MAXにエナドリって……先生、あんまり糖分とカフェインを摂取すると、身体に良くないんですよ〜?ハレ程じゃないにせよ、ちょっと飲み過ぎです」

 

 ヴェリタスにも先生と同じように、それこそエナドリ系統を愛してやまない生徒がミレニアムに所属しているのだ。

 デスクには空になった妖怪MAXが置かれており、エナジードリンクの匂いが凄かったり。

 

「それに、食生活もかなり悪いです。片付けて分かったんですけど、ほら…焼肉弁当、カップ焼きそばUFO、担々麺、カップヌードルのシーフード、カロリーバー、菓子パン…ほぼ炭水化物のオンパレードじゃないですか。それで菓子にじゃがりこ…パイの実、ポテチ…先生、ちゃんと食生活のこととか考えてます?」

 

「考えてこの結果だったらお前的には良かったのか?」

 

「…そうですね、聞いた私が馬鹿でした…」

 

 後で仕事のお手伝いがてら、領収書の整理をしようと思ったユウカ。

 食生活が絶望的に悪く、片付けも不可、ゲームだけはやる…。とても三日前に出会った時の先生とは気迫が違う。

 あの時は凄く頼もしさを感じ取れたり、年季が違うというか…自分たちの至らぬ点を見抜いては、凡ゆる方向面を鑑みて動いたり、カッコいいところはあったのに…オフになると電源が落ちたロボットのように無気力になるのは何故なのか。

 

「野菜が足りてないんです!他にも、魚とか肉類とか…全面的に炭水化物に偏りすぎです!食生活は生活習慣の基本!QOLの向上がなってないと仕事とか全然できませんよ?先生、前はどんな食生活を送ってたんですか?」

 

「あー…確か解放軍にいた頃は…鰻重、寿司、焼肉、すき焼き、ステーキ、ピザ、蕎麦、後は…」

 

「一気に豪華になった!?!なんでここに来てバージョンダウンしてるんですか!?貧困生活は!?」

 

 その時のスケプティックの顔は鬼の形相で、ガンギマリの血走った眼を向けながら、不愉快な歯軋りを立てたりしてクソうざかったなアレ。

 解放軍の経費で仲間たちの食料分考えると、一ヶ月で資金が何十万以上も潰えたのだから、言い様というかなんというか。

 

「ああ、あの頃はカロリーバーと菓子パンだけで凌いだよ。偶に消費期限切れのあって腹壊したこともある」

 

「転弧先生、本当に何があったんです???」

 

 先生のことを知る度に、食生活が一気に変化していき困惑してしまう。というか掴みどころがなさすぎて包まれた気分だ。人生設計が上手く読めないし想像がつかない。

 

「けど、聞いてた話やっぱり野菜が足りてないです、圧倒的に。嫌いなんですか?無理に食べろとは言いませんけど、少しでも摂取しないと身体に悪いですよ」

 

「嫌いって訳じゃないけどな。色々あんだよ……あー、ただ神野にいた頃は普通の食生活だったよ」

 

 青椒肉絲、野菜炒め、シャケの朝食定食とか…そう言うのは黒霧が用意してくれてたっけ。何かしら結構世話焼いてくれてたんだよなホント。

 

「?はぁ、普通の食生活が送れるなら、どうしてしないんです?」

 

「面倒い、料理できない」

 

「ッ…コンビニに野菜とか売ってるじゃないですか」

 

「好きなもんとか興味あるやつ買ってたら野菜は買わなかった。深い意味はねぇ、俺は買い貯め派なんだよ」

 

 この人寿命縮むぞ。

 なんて胡乱げな目で見ながら、はぁ…と深い溜息を吐く。

 

 ゴミも粗方片付け、シャーレ部室内の空気も清浄し、床も雑巾で拭いてなんとか綺麗に片付けると、三日前に訪れたシャーレにアフターチェンジすることに成功した。

 

「ふぅ、三日だけだったので時間はそこまでかからずに済みましたけど、今度からちゃんと掃除してくださいね!ま、まぁ…私が次来た時も、掃除してあげても良いですけど……じゃなくて!仕事しなきゃ…。ほら先生、掃除した後はさっきまでの部屋とは全然違うじゃないですか。どうです!頑張って掃除した後は!」

 

「………別にィ 」

 

 珍しく転弧先生がユウカの視線を逸らしてそっぽを向いた。

 あー…これは素直になれない、ちょっと子供らしい一面だなとユウカは見解した。なんだ、ちょっとは可愛いところがあるんだな、なんて。

 

「んん〜〜ッ!っと、さて!掃除も終わりましたし、これで漸く仕事に集中できますね!」

 

 ググぅ〜〜っっと、掃除で疲労した筋肉を和らげようと背を伸ばしたユウカは、やる気に満ちた表情で転弧先生の手首を握る。

 

「ほら、転弧先生。さっそく仕事始めちゃいましょう?どうせ、先生みたいな自堕落な人はまともに進んでなさそうですし。書類の整理、私も手伝いますから」

 

 明るい笑顔を見せたユウカは、デスクに向かおうとする。

 なんてことのない、ユウカなりの気遣い、彼女なりの接し方。

 おい、引っ張るな――そう言おうとした瞬間。

 

 

『ほら、いこッ――』

 

 

 一瞬だけ、ユウカが華ちゃんと重なった。

 声も違う。容姿、雰囲気、似てると言うにはそれなりの差異がある。

 髪型だろうか?それとも、俺に対してやんわりとした接し方をするのがユウカが初めてだからだろうか?

 なぜ――ここにきて、一瞬だけお姉ちゃんと重なったのか。

 

「ほら、何をぼーっとして……先生?」

 

「………ああ、悪い。考え事してた…あと、引っ張らなくてもやるから、そんなガキみてぇなことすんなよ…」

 

「ふふ、また目を開けて寝てたんですか?」

 

「リンみてェに掘り返すなよ…。なんでもない、ただ…ちと昔のこと、思い出しちまっただけだ――」

 

 髪をくしゃくしゃと掻きながら、視線を逸らす。

 危うく姉の名前をうっかり口に出しそうになった――例えるなら、幼稚園児が先生のことを「お母さん」と呼んでしまうような、しょうもないガキのような照れくさい感じ。

 腕を口に抑えつけながら、何とか気持ちを拭おうとする。

 そんな転弧先生の様子のおかしさに「おやおや?」と、口角を釣り上げる。

 

「何を、考えてたんです?ひょっとして、実は掃除のお手伝いありがとうとか、そんなことを考えてたり?」

 

「それはない」

 

「えぇ!!そんな否定しなくても!?」

 

「…あー、感謝はしてるよ…」

 

「どっちなんですか…」

 

 なんか締まらないなぁ…って思いながら、ユウカと転弧の書類整理が始まった。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――

 

 

「先生、この三日間全く進められてないとは思ってましたけど…触れてすらいないじゃないですか!!この三日間なにしてたんですか?!」

 

「ゲームやってたらやる気の在庫が底をついた」

 

「優先順位変えましょう!?ゲームなんて仕事が終われば幾らでもやれるじゃないですか!!」

 

「なぁ、ユウカ。この書類全部さ、ぶっ壊したら最初っからなかったってことにはならないか?」

 

「なりませんし発想が物騒すぎます。何をどう考えたらそんな発想に至るんですか…」

 

「壊すのは俺の専門分野だからさ」

 

「いや、専門外なことをやられても……」

 

 隣でユウカに教えてもらいながら、鬼門の書類整理を一枚ずつ解いていく。

 生徒に教えられる先生という絵面も、シュールというか情けないというか、なんとも言えない状況下である。

 

「あっ、転弧先生。間違いやすいのが、書類の手書きの場合はアラビア数字ではなく漢数字じゃないとダメなので、気をつけて下さいね。偽造防止のためだそうなので、後からの処理が大変になるんですよ」

 

「漢数字読みにくいだろ。というか請求書の内訳を先生がやるってマジかよ。てっきり生徒の点数付けとか考えてたわ」

 

「んん、まあ…分からなくもないですけど…けど、規則では決まりだそうですし、請求書が下手に偽造をされてしまう危険性があるので、転弧先生だけじゃないんですよ。あとこれ、署名と捺印はズレないように…修正とか大変ですからね。それと、報告書はなるべく丁寧に。そうすれば後はできますから……」

 

「………腑が煮えてきた」

 

「書類整理でここまで?!」

 

 拒絶反応を引き起こしてるのか、目を白く向けたまま頭を掻きむしっている。苦しみ、苛立ち、息苦しさ、全てを浴びせられてる気がする。

 ――クソ面倒くせえ、マジか。

 なんで大人もユウカもこんな息苦しい過酷を平気な面でやってるんだ?俺が慣れてないからか?

 先生、こういう知識は俺に授けろよ!!と文句を言いたいが、そもそもの話俺が社会勉強なんてするはずもないので、仮に教えられたとしても面倒だの一言で拒絶し一蹴するだろう。

 楽してきた積み重ねが今を押し寄せてるのなら、自分は文句を言える立場ですらないのである。

 

(……待てよ。確かヒーローの職業も、こういった書類整理、あるんだったよな?)

 

 ヒーローという職業は、子供からしてみればアニメや特撮、コミックでよく見る「悪役を倒す」「被害者を助ける」「災害から人助けする」という一面ばかり見るせいか、派手で単純そうに見えるが、その実裏では書類整理だの、経費の請求書、事件の報告、器物損害の申告、考えるとキリがないが、とにかく事務仕事に追われることが多々あると言う面も存在する。

 

 イレイザー・ヘッド――アイツ確か、教師という職業とヒーローは別なんだよな。

 ヒーローとして公共で対処しつつ、生徒達のカリキュラムや授業、成績点数、テスト、生徒達の分析…それを一人でこなしてるんだよな??

 

「……前言撤回するぜ、カッコよすぎだろイレイザー・ヘッド」

 

 戦闘面だけでも、子供の命を守りつつ、身を挺して他者を守ろうとする、実力武闘派――そんな抹消ヒーローが事務的作業までこなすなんて、株が鰻上りだ。

 誰だ、カッコ悪いとか言った奴…俺だわ。いや、先生だ。…両方かもしれない。

 

「ほら、書類整理頑張りましょう。後は慣れです。そんなに深刻に難しい訳ではないですから…」

 

 慣れてる奴からすりゃあな…なんて反論する気力も湧かず、無気力そうに表情筋が死んでる状態でサラサラ…サラ……ボールペンで文字を記していく。

 

「報告書……細かく書いて………んん、これで……後は捺印……ユウカ、取り敢えず一枚目問題ないか確認してくれ。問題なさそうなら、ちょっと一人で挑戦してみるから」

 

「おお!先生が遂にやる気を…!!私は先生のこと信じてましたよ!」

 

「いやだからお前はお母さんか……」

 

 なんて反論を無視するユウカは、一枚の書類を目で追いながら確認を取っていく。

 

「えっと、報告書も…口語文ではないのでOKですね。捺印も…ズレはないですね。この位置を保てば大丈夫です。漢数字もよし…偶に計算をミスってしまうことがあるので、電卓を使う際はお忘れずに……あ、後はここにですね……それと、これは……」

 

 なんて生徒からアドバイスを貰いながら、黙々と筆を走らせる。

 基本的な書類の書き方は覚えたので、後は報告書の機密文を記す際は『連邦生徒会の公文書規定』という分厚い本を参考に書かなければならないらしい。

 ……攻略本にしては、人の頭部を殴れる鈍器だなこりゃあ。

 

「わからないことがあればお聞きください。それじゃあ私は……」

 

「?何する気だユウカ?」

 

 そういうと、ユウカは俺の向かい側の席に座りながら、領収書を整理している。

 …待て、誰の領収書だ。

 

「先生、結構乱雑にゴミを捨ててた分、領収書も散らばってたので、序でに回収しておきました。勿論、先生がゴミ袋に捨てたのもかき集めて、ですけどね」

 

「……お前、ストーカーか?」

 

「違いますよ!?なんでそうなるんですか!!先生の余りにも不健康な食生活と言い、ソファテーブルの上に置いてあるゲーム機、ソフトといい……ひょっとしてお金がないから食事も不健康的な方面に傾いてるのかと推測して、領収書の整理をするんです」

 

 ユウカの推測からして「先生がゲーム機や他にも変にお金を荒遣いした結果、食生活が偏ってるのではないか」と結論に至ったようだ。

 普段何気なく生活をするのであれば、食生活には困らないはずだ。…買い溜め派なんて言ってたし、面倒だとか言ってたけど、飲食店なりデリバリーなり頼めば良いだけの話だ。

 

「金は…半分以上の財産は減ったがゼロじゃない」

 

「は!?!半分以上!?まって、先生――まだ三日目ですよね!?嘘、ちょ…消費が激し過ぎません!?家計簿とかつけないんですか?」

 

「バカ言え、俺が家計簿をつける人間に見えるか?」

 

「………偏見を言うと、見えません…。って、違います!!もう、バカ言ってるのは先生じゃないですか!!月末はまだだいぶ先なんですよ!?今になってそんな…いえ、それともシャーレが薄給だったり…なんて、ないですよね…この連邦捜査部に限ってそれは…」

 

 うぅ〜ん…と、頭を抱えるユウカ。

 どっちにしろ、この人の消費を抑えないとお金がなくなり無一文になれば、困るのは先生だ。

 とはいえ先生が苦しんでる姿は見たくない……ので、ここは一方的な手段で領収書の整理を進めていく。

 ペンを走らせ、片手の甲を頬に当てながら、領収書の計算を測っていく。

 

「全く…お小遣いを貰ってパーっと使う子供じゃないんですから。衝動買いはやめてくださいね」

 

「そうか。俺はいままで自分で金を手に入れてパーっと使うこと自体、経験がなかったからな」

 

「ぅ゛ぅ……そ、そう言われると…ちょっと良心が痛むような……」

 

「幼少期は好きなものは買い与えられてたけど」

 

「……転弧先生の人生、結構転々としてません?」

 

「…本当だな」

 

 嘘なのか、真実なのかは不明にしろ――流石のユウカもどう反応したら良いか困ってしまう。

 

 裕福なのか、

 貧乏なのか、

 普通なのか、

 

 少なくとも嘘は吐いてないようにも見える。

 …この人、ポーカーフェイスとか上手そうだから仮に嘘を吐いてたとしても、見抜きようがないのである。

 

「…えっと、菓子パンが178円×10個、カップ焼きそばが192円×7個、妖怪MAXが……」

 

「声出すな、気が散る」

 

「む゛…ッ」

 

「む、じゃねえ。お前が調べてるのは俺の領収書だろ?勝手にやるのは良いが、プライバシーのことも考えてくれ」

 

 ここの領収書だけ聞くと俺が大食いチャレンジしてる爆食マンだと誤解してしまう。

 それでも何とか理解を示してくれたユウカは、今度は無言のまま整理をしている。

 そんな静寂な空気が一分も立たずして…

 

「ちょっとぉ!?!なんですかコレ!?」

 

「……今度はなんだよ」

 

「ゲーム機PS5…6万8000円…デデデンリングDXエディション 9000円…PS3…2万5380円、サイ・レン 980円…シャドウ ソウル…ってこれシリーズものも揃えて1万4000円…!死刻……グラセフ…ああ、もう…!!ゲーム部じゃないんですから!!どんだけゲームにお金使ってるんですか!?これ、絶対衝動買いですよね?!」

 

「お金は、使うためにある」

 

「全然説得力もなければカッコよくもないですから!あと、お金は使うにしろ…こんな浪費は使ったとは言えません!!ほら、もうちょっとゲームのソフトを大人買いなんてしなければ、4万円も浮くんですよ?もっと計画的に進めないとだめですよ!そうしたら、栄養価のあるバランスの取れた食事を毎食摂ることで、体のバランスも保てますし…」

 

「………」

 

「こ、今度からはちゃんとお金を確認してから購入してください!後々、次からは5000円以上の買い物をするときは、私に連絡ください!!良いですね?」

 

 全くもう…と、頬を膨らませるユウカ。ここまで積極的に自分の資金を節約しろだの、家計簿をつけるだの、領収書の整理だの、連絡を入れろだの、いつからユウカは俺の専属家計簿管理者になったのだろう。

 

「なぁ、お前ってもうお母さんってより志村家の家族関係か何かになってんじゃんか」

 

「え?……へ!?!あ、いや…それは、あの……!!その、その…!!ち、違いますよ!?何言ってるんですか!そんな!」

 

「なに慌てふためいてんだユウカ?つぅか顔赤くなりすぎだろ。俺変なこと言ったっけ?」

 

「し、志村ユウカ……ってこと?です?」

 

「いやマジで何言ってんだお前????」

 

 転弧自身はそんなつもりで言った覚えなど毛頭ないにせよ、ユウカにとっては変な誤解を招いたらしい。

 発言って怖え…――目がグルグル回ってるし、汗も垂らしてる…なに想像してんだ?変なこと言った覚えはないんだが?

 

「と、とと、兎に角!領収書の整理は終わりました!全く、お金の扱いが荒すぎます!次からはもっと計画的に、節度を以って下さいね!!こ、こんなことしてあげる人…私くらいしかいないんですから!」

 

「…まあ、それを言ったらそうだが……」

 

 家計簿をつけるだの、領収書を整理して金銭管理をするのは、キヴォトスに訪れてから右も左も分からない上に、全く生徒と邂逅したことのない転弧からすれば、ユウカしかいないが……。

 

「えっと、こほん!!さっ、先生!その…気を取り直して…書類整理、手伝いますから…!ちゃんと集中してやりましょう!!」

 

「ユウカのクソデカボイスで集中が途切れたんだが?」

 

「いーえっ、衝動買いをした転弧先生が悪いんですっ」

 

「人の購入事情に首突っ込んできたのお前だよな?」

 

「これでも会計ですから、放っておけないんですよ…。それに、もし何か栄養失調とかでバタって倒れたりしたら……嫌じゃないですか。ちょっとした、些細なきっかけが転弧先生を救けることができるのなら、それに越したことないですし……」

 

「お前……」

 

 それは、小さな小さな積み重ねだ。

 ユウカとしては小さな過程が積み重なった結果――俺が取り返しのつかない状況下で倒れてしまうのを危惧しての考えなのだろう。

 

 ……ちょっと、栄養面で人を心配させたのは、俺の考え不足だったか。

 

「……善処はするわ」

 

「あっ!言いましたね!ふふ、言質、取りましたから!」

 

 はにかむ彼女が、一層可愛らしい子供のような満面な笑顔を浮かべていた。それがどこか、華ちゃんと重ねてしまうのは…俺のことを放っておけない、お人好しの性格だからなのだろうか。

 そんなこんなで、平凡で…俺がもう二度と手にしないと思っていた日常的な生活が、シャーレの先生として少しずつ色鮮やかに照らしていった。

 

 

 






連載とかで感覚バグってるのかもしれませんが、転弧くん向こうの世界の意識感覚だと自分のターン回ってこなかったんですよ。意識戻ってもとにかく戦い漬け。
あれ文章として綴ってた時に「…過酷しすぎてるじゃん…本当に先生としては駒にしか見てないじゃん…」と思いながら、ハードモード過ぎる彼の連戦に涙を隠せない。

「次回、チナツが俺のはしゃいでる姿を見て微笑む乞うご期待」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。