俺の二度目の人生は、魔王から先生へ   作:トラソティス

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えー、皆さん!明けましておめでとうございます!そしてクッッソ遅くなってしまい申し訳ございませんでした!!
セクシーセイアで済まないならぬ、チコクー作者で済まない!!
理由はね、もう挙げるとキリがないほどいっぱいあるんですけどね、一番は10月、12月でメンタルがボロボロでした!深い内容は言えないんですけど、ほんとブルアカもやれないレベル!はい。
1月になってね、漸くマトモになって「投稿したい、投稿したい」と思いながら、忙しさも耐え切って漸く投稿できました!




8話『贅沢な時間』

 

 

 

 

 

 

 

 

 キヴォトスに来訪してから一週間が経過した頃、未だに学園都市の常識に慣れない俺はいつも通りなんてことのない日常を過ごしていた。

 行方不明の連邦生徒会長に先生をやれって言われてから、拒否権の選択肢のない俺が受け入れた現状、書類処理と娯楽を貪る毎日である。……鬼門である書類問題はほぼ放置してることもあるが。

 時間があり次第、ユウカが偶に顔を出して「また書類問題サボってるんですか!?」なんて説教しながら、何やかんやで手伝ってくれてるが……ミレニアムサイエンススクールの授業や部活が終わってから、連邦捜査部の部室まで遥々やってきては書類の手伝いに来るのって、よくよく考えたらお人好しのレベル超えてるような気がしてきた。

 アイツの私生活こそ大丈夫なのか?と聞きたくもなる。そして本人がいたらこう言うだろう――「じゃあ書類問題ちゃんとやって下さい!」と。

 

「……イレイザーって、ヒーロー面でしか観測してなかったから分かんないんだけど…。どういう性格して、どんな生き方すれば息詰まる仕事をこなせるんだ」

 

 将来性、個々人のカリキュラム、成績評価、学校の書類問題――どこでどう休んで生活してんだと突っ込みを入れたくなる。

 勿論、アイツの他にも教師は存在するので、どういう生活送ってんのか気にはなってはいるけれど…。

 

 その点、こっちは書類問題とシャーレに押し寄せる悩みの問題、報告書から申請書、兎に角書類祭りである。…なんか偶にシャーレの会議に参加する場合もあるってリンから言われたことがある。「そんなんやらんぞ」と文句を言っても決定事項と言われたな……俺の人権どこ?て言うか会議なんて何すれば良いんだ。

 解放軍ではスピナーとコンプレスが積極的に会議に参加して進んでたし、俺の代わりに参加してくれと願いたいくらいだ。

 

 そんな訳でシャーレで籠城生活してた自分は、気晴らしに外出しようとエレベーターで一階に降りると…。

 

 

「……ああ、そいや営業始めたのか」

 

 

 エンジェル24の看板が光っており、既に営業は始まっていた。

 こっちの世界で言うコンビニというやつだろう。シャーレ内部の購買店となっており、立地的にもここへ訪れる連邦生徒会の生徒達がご利用にと訪れる客もいるんだとか。

 以前までは狐坂ワカモ率いる不良のダツゴク生徒達の騒動、シャーレ占領によって営業どころの話ではなかったのだが…騒動が落ち着いてから、営業を開始したらしい。

 チナツとゲーセンで遊び終わってから、一度も外出せず引き篭もっていたので、現段階で漸く知ったのである。

 

「……遠出せずにこの店で買い溜めできるってんなら、俺としちゃあ好都合だ。長い付き合いになるな――」

 

 尤も、俺がこの世界で撃たれ死ぬこともなく、生徒の暴走によって殺されなければ――の話だが。

 

 

 

 

 

 

「はぁ……あれから五日間経ってるけど未だにシャーレの先生に遭わないなぁ…」

 

 現在、午後昼過ぎになっても極一部の連邦生徒会の生徒しかご利用になってないエンジェル24の営業を務めてるアルバイト学生――『ソラ』は退屈そうにレジの前で突っ立っていた。

 品揃えも万端で、後はシャーレでご利用になる生徒への接客対応だけの状態。この時間帯は人も来ないので、暇なことこの上ないのだ。

 それに連邦捜査部『シャーレ』の担当顧問――SNSや一部生徒の噂によると、一人で無防備ながら戦車や銃器を持った生徒に単独で挑む命知らずだの、ミレニアムの生徒を呼び寄せてから夜まで帰らせないだの、何よりシャーレの先生の目撃情報がかなり少ないだの…都市伝説的な存在となっている。

 

(それとも……シャーレの先生だから、仕事漬けで外に出れないとか…?だとしたら、大人のこなす仕事って…。でも、変な噂のこともあるし…)

 

「だ、だいたい夜まで生徒と何を過ごして……?それに、ここって設備が異常なくらい整ってますし……」

 

 それに、先生はキヴォトス外部からの来訪者で、銃弾一つ浴びれば致命傷は避けられないのに、それを臆することなく単騎で立ち向かうなんて、どんな精神面をしてるんだろうか。

 

「ひょっ、ひょっとして怖い大人じゃ…」

 

「おい、話してもないのに急に怖い大人とかアホ抜かすな」

 

「怖い大人だとしたら…シャーレの当番に呼ばれた生徒は一体何をさせられて…??公には出せない…い、イケナイこととか?!」

 

「お前の中にいる俺のイメージってそんなに不安要素の塊か?あとイケナイことってなんだよ?」

 

「い、イケナイ事というのは………あれ??」

 

 自分の独り言から、いつの間にか自然な流れで会話のキャッチボールをしている違和感に気付いたソラは、声の主に振り返る。

 

「いらっしゃいませの一言もないのか。一人空中会話、接客業のアルバイトでなにしてる」

 

 呆れた顔で深い溜息を吐きながら、レジの前には噂のシャーレの先生が立っていた。

 

「へっ!?!あっ、えっと…!!あわわわわ!!!せ、先生!?い、一体いつからそこに!?」

 

「気付いてないの鈍感過ぎるだろ。確かにここの設備は異常かってくらいだが。それこそ解放軍のアジトよか、よっぽど充実してるが…」

 

 ――最初っからだった!?

 自動ドアが開く音も聞こえず、それ程に退屈な時間が多いせいで別世界に浸っていたのだろうか。

 

「て言うことは…今までのを全部聞いてて…??お、おおぉお恥ずかしい姿を見せてしまいすみません…!!あわわ、えっと…えっとえっと…い、いらっしゃいませ…は、遅いですよね??」

 

「客に指摘されてる時点でどうかと思うが………そうだな、長い付き合いになるかもしれん…先ずは名乗れ」

 

「あ、私はエンジェル24のアルバイト生、ソラと申します…!!開いてから5日間しか経っておりませんが…そ、その…宜しくお願いします…!」

 

 この五日間――出入りが少ないこともあった為か、先生と出逢うまで暇な時間があればガラケーを弄ってたりしてたものだ。今日も特に暇な一日として終えるのか…なんて矢先に転弧先生とこうして奇妙(?)な形で出逢ったのだから、少なくとも刺激的な一日ではあるだろう。

 宜しくというのもシャーレに住まう先生と、その住まい一階の店でソラは働いてるのだから不思議な感覚だ。

 

「………」

 

「て、転弧先生?その…どうなされましたか??」

 

「店員ってお前一人だけ?他の従業員は?」

 

「えっと、私一人だけ…ですね。シャーレのエンジェル24が開いてからずっと、こうして細々と一人、アルバイトで働いてる訳でして…」

 

「…マジかよ」

 

 どうなってんだ、営業方針。

 幾ら人が少ないとはいえど、エンジェル24=従業員がソラ一人のみって明らかに可笑しすぎる。

 労働基準法、ちゃんと機能しろよ。

 

「……お前が暇ならゲーセンくらいは遊ぼうぜってなったんだけどな…」

「げ、ゲーセン…ですか??」

「知ってんだろ?ここの設備、あり得ねえレベルで充実してんだよ。体育館にカフェ、図書館…俺の城とはいえ驚かされるよ」

 

 自分の住まいを城と呼ぶ辺り、間違いではないのがなんとも…。

 となると、城の主人が志村転弧であるのなら、自分は主人に遣われる召使のような立ち位置的主従関係なのでは?

 

「まあいいや、折角一階に降りてきたんだし、商品くらいは見て回るよ。オススメの商品とかないのか?」

 

「オススメ、ですか?えっと、オススメ…ron-roのファッション雑誌とか……後々!新商品が御座いまして…!えっとえと、爆裂!神チキン、わらび餅サンドイッチとか、インスタントカップヌードルチョコミント味とか…わさびいちごパスタ…」

 

「後半の商品は明らかにイカれてんだろ」

 

 奇食か?どういう発想に至ればそんな商品思いつくんだってレベルで、初心者には寄せ付けない商品名が出された。

 チョコミントなんて歯磨き粉のような味がする。あれ好んで食べるなら歯磨き粉でも食ってろと突っ込みたくなるが、生前そんなことを呟いてたら黒霧に「人前で言うのは可能な限り控えて下さいね」と何故か念押しされた。

 あと偶に食材をデザートとかフルーツで組み合わせんのもどうかと思う。好きなやつが好きで食べてるんなら文句は言わないけどさ。

 

 ファッション雑誌…興味がないね。服なんて着れればなんだって良いだろ…なんて思いつつも、いつも黒色の服を選んでしまう。黒は良い…心が落ち着く。大体これで良いだろって、人の心理を納得させる魅力がある。

 

「観て回るか…」

 

 と、結論に至った転弧は、暇潰しがてら軽く観て回る。商品を見廻ってから手に取ったのは…

 

「ソラ、会計頼むわ」

 

 10分そこらか、会計の声が投げられたソラは「はーい!」と、倉庫に積まれた段ボールの開封をやめて、レジに戻る。

 レジのカウンターに置かれたのは、山積みの栄養ドリンクだった。

 

「わ、こ…こんなに…これが大人買いというやつなのでしょうか…?」

 

「あ、後さっき言ってた神チキンもくれ。オススメなんだろ、マトモな奴は買ってやる」

 

 因みに爆裂!神チキンはかなりの激辛チキンである為、食べるまで転弧は知らないのである。大惨事になる未来が確定されてるのは、予知を使うまでもないのだ。

 

「あ、ありがとう御座います!それでは会計は合計…」

 

 と、ここで会計をしてる間に転弧は思う。

 改めて、この世界が物騒であることを。

 銃器を鞄やバンドを背負うような光景が広がってる時点で既に物騒であるのは確かなのだが、商品を観て回ってる時にお菓子売り場の隣に手榴弾だの、弾倉やら銃器やらが売っていたのである。

 マジか――と思わず声を出してしまった。

 それぞれスナイパーライフルやショットガン、マガジンなどのタイプに分けられていたので、本気と書いてマジだろう。

 平和を装って凶器が隠されてることをリアルに感じた自分は、まだ生前の常識に縛られているんだろう。

 

(転弧先生……シャーレの先生、噂だけを聞いてたから、どんな怖い大人なのかなって思ったけど……偶に気を遣える優しいところはあるのかな…?それに、こんなに栄養ドリンクを沢山…やっぱり、連邦捜査部っていうくらいだし、大人としての仕事量も含めて大変なのかな……)

 

 レジでバーコードを読み込んだり、金銭のやり取りをしながら心の中で転弧先生の考えを改めてるソラは、来る前に変な妄想をしていて申し訳ないと思ってしまった。

 

「あ、後これ一本お前にやるわ」

 

 え?と会計を済ませた転弧は、栄養ドリンクを一本ソラに手渡しする。

 

「これからここで頑張るんだろ?だったら、アルバイトも兼ねてこれ飲んで元気出せ」

 

「え!?そんな…!!私が!?流石にそれは悪いです…!!それに私、こうして仕事でやってますし……」

 

「面倒臭え…人の善意は受け取れよな。別に恩を売るって訳でもないのによ」

 

 これから彼女が働く以上、長い付き合いになるのならという、先行投資を含めた労いと転弧なりの気持ちだったのだが却下された。小さく舌打ちをし、視線を横にやる。

 当然、彼女もありがたい申し出を断ることに苦渋な気持ちになってしまうのだが…。

 とはいえ、仕事の身として幾ら善意があるとはいえ、受け取ることは出来ないだろう。

 

「……分かった、じゃあこう言う考えと解釈でいこう。お前はアルバイト生で俺は客という立場だったな?会計も終えた…俺は客としてはここに用はない。だが、買い物を終えた俺は今は先生という立場で、お前は生徒だ。差し入れという項目で渡すなら良いだろッ 」

 

 ホイッ、とレジのカウンターに一本置いて、差し出す。客と従業員でのやり取りならまだしも、ここは先生と生徒という立場の項目を使えば問題ないだろうという転弧なりの発想である。というか、従業員が彼女一人だけなのだから、多少大目に見ても良いのでは?という別の思考が働いてしまう。

 あわわ、と動転してしまうソラに転弧はじゃあ、頑張れよっ。と手を振って踵を返し、店から出ようとする。

 

(先生らしいことって、こんな感じなのか…?……今にして思えば俺って、壊してきたばっかで、誰かに何か与えたりしてこなかったもんな。偶にトガが隠れアジトでゲームしてるのをみて、やりたいとか言ってきたことあったから、貸したことを与えたという項目で捉えるのなら、初めてじゃないんだろうけど…)

 

 などと思考に耽っていると――

 

「またの御来店、お待ちしておりますね!転弧先生!!それと…さ、差し入れ!有難う御座います…!!!」

 

 レジのカウンターから飛び出して、深々と頭を下げているソラが立っていた。

 そんな彼女を一瞥した後、背を向けながら軽く手を挙げて振った。

 ……こういうのも、悪くはないのかもしれない。与えてお礼を言われるというのは、何かしら初めてなのだから。

 

 

 ――――――――――――――――――――――――

 

 

 シャーレの部室に戻り、買い物袋を置くと、テレビのチャンネルを適当に点ける。

 冷蔵庫に栄養ドリンクを片っ端から入れていく。

 

『――トリニティでは期間限定、桜餅ドーナツや、ティーパーティーでも好まれて食されてる希少なドーナツなども本日より販売されており、人気が殺到し……』

 

 ニュースの報道から流れたトリニティという単語に、スズミとハスミの顔が浮かんだ。そいや、アイツらが所属してるお嬢様学園なんだっけ…と、頭を掻く。

 

「引きこもって、シャーレの仕事だのゲームばっかしてるが……偶には他の自治区に足を運ぶのは悪くないかもな」

 

 例えば遠出の出張となれば、土地勘が分からずに迷ってしまいましたなんてこともなり兼ねない。それと同時に部屋にばかり閉じこもっていては、身体が鈍ってしまう。折角マキアとのブートキャンプで鍛えられた身体能力を、怠けて鈍ってしまいましたじゃ折角チュートリアルで本領を発揮したのに意味を為さなくなってしまう。

 

「気晴らしと軽いウォーキングと思えば、そう難しい話でもないか。アロナ、ナビ頼む」

 

『了解しました転弧先生!ですが、転弧先生がトリニティへ足を運ぶだなんて…特にシャーレで溜まってた仕事にトリニティ関連は御座いませんが…あー!!分かりました先生!ひょっとして今のニュースを観て期間限定のドーナツを買ってくれるんですね?!やったぁ!』

 

「違う、勝手に希望を抱くな。適当にそっちの自治区行って土地勘付けようって意味の気晴らしだ。どの道、ミレニアムもゲヘナも三大学園で有名なんだ。遅かれ早かれ、仕事で出張とかになるんだろ?だったら少しでも風景は見慣れた方がこっちの為になんだろ。トリニティ選んだのは、偶々ニュースで挙げられてたからだ」

 

『えー!!先生のケチ!だったらアロナの為〜と思って買ってくれても良いじゃないですか!!』

 

「人気殺到なんだろ?自治区出身の生徒なら兎も角、今の時間じゃどの道売り切れか長蛇の列で時間が過ぎるだけだ。そういうのは前もって連絡しとけ、そしたら買ってやる」

 

 むううぅぅ…!と頬を膨らませるアロナをお構いなしに、シッテムの箱を鞄に入れ、テレビを消して直ぐに部室を後にする。

 交通手段は勿論徒歩。

 自動車は無免許なので勿論、自転車も幼い頃から引きこもり生活をしていたので乗る機会もなかった為、無理に等しい。

 

『それにしても、買い溜め派の先生が籠城をやめて外に出るなんて…トリニティのゲーセンでも寄るんですか?』

 

「あったんだ、ゲーセン。いいや、言ったろ。土地に慣れるって…買い物とかを目的に動いてるわけじゃない…。それに俺の金銭的にそろそろ不味いから無駄な出費は避けたい」

 

 だからユウカの発言は至極真っ当なのである。

 というのも、金遣いが荒いのは無理もない。日用品は致し方ないにせよ、人は余る金を手にしてしまうとついつい使ってしまう生き物なのだ。ユウカは兎も角、家計もお金の計算も碌にしてこなかった転弧にとっては、常識に慣れる為の試練でしかない。

 それでも家賃や光熱費、水道代の負担はないので、他の大人達と比べると優遇扱いでもある。

 

『先生って、動くのが苦手な大人かと思ってしました…』

 

「バカ言えっ。確かにガキの頃は引きこもってLOLをソロでやってたさ。だからと言って一定の空間内で何ヶ月も過ごしてたら死ぬだろ。ゲームだってそうだ。新マップ出たら、先にフィールドの位置や情報、物資とか覚えようとするだろ。それと一緒だよ」

 

『うー…?死にゲーでよく言ってた、オープンワールドを探索して、どこに何があるかを調べるみたいな感覚ですか?』

 

「例えで言ったがまあそれに近い認識で構わない。況してや昔みたいにコソコソ日陰に隠れて、隠れアジトを探す必要もないしな。公道を歩き、各学園がどういった風景なのかは覚えといた方が損はない。お前らの中では常識だったとしても、こっちはキヴォトスに放り込まれて右も左もわかんない初心者だぜ?」

 

 俺の性格から考えて、これでも結構優しめな、マイルドになったと思うんだが。

 まあ中々、目的もなく外に出る奴ってあんまいないのか…?

 アロナと会話をしながら、街中を歩いて暫くすればトリニティの自治区へ足を踏み入れた。

 長いようで、アロナと話してるとそうでもないような、そんな時間感覚に差異が生じているような感覚に見舞われながら、見慣れない初めて観る景色を見渡すと、なんともまあ…平和そうな学園だ。

 

 殆どの学生達には、白い翼が生えている。

 友達同士隣で歩きながら、談笑したり。

 猫の頭部をした着物姿の大人が、レストランへ足を踏み入れたり、自律思考型の二足歩行のロボットがアイスを販売してたりなど…特にそう変わりはしない。

 

「ここがトリニティか……殆ど白い翼ばっか生えてる生徒がいやがる。ない奴もいるな……」

 

『トリニティは品行正しく、礼儀を重んじた優秀な生徒達が住まう学園ですね!歴史としてはティーパーティー結成前の分派だったり、シスターフッドとか、後は……』

 

「マナーに煩い連中が住まう学園プラス宗教派閥が集ってる学園ってことね、理解した」

 

 違いますよ!?!と必死にアロナが捲し立ててるのを他所に、興味本位でアロナが買って欲しいと駄々を捏ねてたドーナツ店舗に向かって足を運んでいく。期待はしてないし買う気もなかったのだが、ここに来て直ぐに帰ると言うのも味気ない。どうせなら、次コイツが欲しい時に直ぐ買いに行けるように予め店を覚えておくのも悪くないと判断したからだ。

 なんやかんや口ではああ言っても、アロナの為にと動く辺り、根は人に優しくできる可能性を秘めた人間なのである。

 

(黒霧がいりゃあ…他の自治区に態々遠出しなくても済むのにな)

 

 尤も、面倒ごとや不備を感じてしまうと、便利だった過去に思いを馳せてしまうのは人間の自然的な思考である。ワープゲートを使えば、人気店も何時間前から待機する必要もないわけで。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「…まっ、安易に予測できた結果だ」

 

 結果――何十分か歩き回り、他の生徒に店の情報を聞きながら到達した結果、長蛇の列が埋もれていた。というか店員が店から出てきて「期間限定が完売しましたー!!」と叫んでいた。

 どの道買う予定はなかったにせよ、致し方ない。

 

「一応、それなりに覚えたが…もうちょっと歩くか?いや…もうそろそろ夕暮れ…夜だと暗いから景色が見え辛いし、覚えるって訳にもいかないか……」

 

 電灯を頼りに覚えるのなら兎も角、効率が悪い。夜中はいつも活発良く動いてたのと、敵の行動が良く動くというのもあって割と徘徊するのは好きだけども。

 

『噂によりますと、トリニティ七不思議の一つとして、スクール水着で夜中を徘徊してる生徒がいるとか…なのでトリニティの夜中に動き回るのはやめておいた方がいいかもしれません!』

 

「もうちょっとマシな怪談話作っとけ。下手すりゃ敵だろそれ」

 

 ホラー系の話は好みだが、巫山戯た怪談話は好みではない。…仮に本当だとしたら通報モノで、遭遇したらある意味怖いのだろうけども。そんな馬鹿げた話あってたまるか。

 

「あら、転弧先生…??」

 

 アロナと会話をしてると、不意に声を投げられた。

 振り向くと、両手にドーナツの箱を入れて持っている羽川ハスミがそこにいた。

 

「珍しいですね、転弧先生がトリニティにいらっしゃるなんて……何か独り言をしていたような…。あっ!ひょっとして、ドーナツを買いに態々足を運びになって…?」

 

「チナツとも同じ奇遇な出逢いをしたな…。いや、別に……」

 

 アロナとの会話のやり取りを、ハスミに見られた事で謎の羞恥心が浮かんでくる。シッテムの箱――管理下に於けるメインOSアロナを認識できるのは、箱の主である自分だけであり、他者から存在を認識することは不可能だそうだ。当然、シッテムの箱から発せられるアロナの音声も周りからは聞こえないようになってるのだ。ホント、オカルト級の一品だろこのオーパーツ。だからこそ不可解であり、不可思議な、理解を得られない神秘なのだが。

 

「ですが、態々ここに来られたのは……」

 

「偶々だよ、偶然の産物。トリニティ学園がどう言った土地なのか、これから先を見据えて慣れてた方が賢明だろって判断で足を運んだんだ。深い意味はない」

 

「そう、ですか……ふふッ 。とはいえ、こうして先生と出逢えるのは、なんて運が良いんでしょう」

 

 少し納得したような表情を浮かべるハスミ。

 ハスミの心情としては連邦生徒会が定めるはずだったエデン条約を思い浮かべた。連邦生徒会長が失踪してからこの事件は現段階で先延ばしになってはいるものの、転弧先生がキヴォトスの連邦生徒会に於けるフィクサーとなってくれる為、状況が整い次第進んでいくだろう。

 つまり、エデン条約に向けてトリニティへの見学に来たのだろうという見解である。

 

「仕事熱心なのですね、感心します」

 

「なんか自己解決してねぇかお前の中で?」

 

 何がだ?とクエスチョンマークを浮かべる転弧。そもそもティーパーティーのティの字も知らなければ、エデン条約なんて聞かされても小難しい政治の話をされても、頭がグルグル回ってしまう。

 

「そう言うお前は……甘いもん買ってんな、結構。これだけの量だと、差し入れか、俺と同じ買い溜め派と見た」

 

「はい!ここのスイーツのお店はとても評判が良くて…品揃えは勿論、味も文句なしの絶品。テレビでも取り上げられる程の有名なお店なんです。転弧先生も如何ですか?折角出逢えた訳ですし…」

 

「良いのか?俺は金払うつもりできた訳じゃなかったんだが…」

 

「はいッ 。私…甘いものに目がなくて…ついつい買ってしまうのです。衝動買い…と言うのも有りますが、正義実現委員会での仕事後、こうして至福の時を過ごすにはスイーツがうってつけですから…」

 

 ニコッとはにかむ笑顔を浮かべるハスミに、転弧はふぅん…と呟く。

 ストレス発散には甘いものを食べると発散できるとは聞いたことがある。というかおじいちゃんがよく甘い物で泣きじゃくってた俺を慰めてたからな。

 

「ストレスの発散には甘いもの…ね…そういうのもあるか…」

 

「?何か、言いましたか?」

 

「いーや、別に。ハスミが良いってんなら、善意を無下にするのはよくないな」

 

 昔の…初期、死柄木弔なら「勝手に恩を着せてるようで気分が悪い、要らねえ。俺がくれと言ったら寄越せば良いだろ」なんて、失礼極まりない発言をしていたのだろう。あの頃は精神面が余りにも未熟だったので、人間って変わろうと思えばこんなにも違うものなのかって思い知らされる。今となっては食事の有り難みもあるので、どの道断る選択肢など無いにも等しい。

 それにエンジェル24でもソラに労いと善意を込めて差し入れをしたんだ。受け入れる側もそれなりの善意で応えるべきだと判断した。

 

「どこで食う?」

 

「丁度、良い景色が眺めれるトリニティの公園があるんですよ。そこで休息がてら、甘いひと時を堪能しましょう」

 

「良いな、それ。後…片方の荷物は持つわ」

 

「あら、良いんですか?」

 

「ハスミは金払ってこんだけ買ったんだろ。誘いを受け入れる俺としても些細な手伝いくらいやらなきゃフェアじゃない。あー…あと、少しだけドーナツ、貰って良いか?余裕があればだけど」

 

「ッ !!ええ!勿論!」

 

 アロナの希望も、トリニティ学園の外探索、浪費することなく甘いものが食べれるとは…一石三鳥というやつだ。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「箱を開けてみりゃあ思いの外結構買ったなお前…。俺も人のこと言えねえけど…」

 

「転弧先生はどれを食べますか?どれもオススメですし、期間限定も思いの外奮発して買ってしまいましたので、遠慮なさらずに…」

 

「桜餅ドーナツ、このポンデリングにするわ」

 

 公園の席――人気のない休憩スポットで、席に座りながら開封されたドーナツを選んでは、好きなのを手にとって頬張る。

 口の中に広がる甘味と餅のような食感、生前でも中々口にしないスイーツに、思わず美味いと口が漏れてしまう。

 まさかこんな収穫になるとは、人生やはり何が起きるか分かったものではないな。

 

「こんだけ買うってことは差し入れとか、買う時間も惜しくなるから買い溜めてたんじゃなかったのか?」

 

「いえ、差し入れではないですね…元々、私一人で食べようとしましたから…」

 

 Huh?

 マジか、これ全部一日で食う予定だったのか?え、マジ?今時の女子高生は育ち盛りというのもあってこんだけ食うのか?

 いや、だとしても解放軍のアジトに居た頃のトガでさえそんなに食ってなかったぞ。

 内心かなり驚く転弧を他所に、もきゅもきゅと美味しそうに抹茶ドーナツを食していくハスミである。

 

「それに、私は正義実現委員会ではありますが…もしこの委員会に所属していなかったら、放課後スイーツ部に所属していたかもしれませんし…♪」

 

「なんか趣味が主体となった部活多いな」

 

 やれユウカがよく口を開くゲーム開発部だの、今でいう放課後スイーツ部など、数千もの学園に加えて部活も数多く存在する。多すぎて覚えきれるか否かである。

 

「にしてもここは良いな…誰一人いない物静かな外、景色を見渡せるスポット…まるで特等席だ」

 

「そう耳にすると、ロマンチックな感じですね♪」

 

 意外にも転弧の発言からロマンチックな雰囲気を感じるとは、本人さえも思っていなかっただろう。とは言え、偶に息抜きとして使うこの公園スポットを先生が気に入ってくれたことが嬉しいのか、ハスミの表情はかなり柔らかくなっている。

 

「転弧先生と出逢うだけでも運が良いのに、景色を眺めながら、甘いひと時の至福……まさか、仕事終わりにこんなにも収穫があったなんて…♪」

 

「美化し過ぎだろ。そんな大層なことじゃ…」

 

「いいえ、例え先生にとっては何気ない当たり前のことだとしても、私としては幸せで、充実したものです。

 それにこの特別な幸せは、決して一人では味わえないことです。それは、転弧先生がいてくれるからですよ?だから今日こうして先生に出会い、一緒に何気ない会話をしながら、甘いスイーツを食べるだけでも、私にとってはそれだけでも有意義な一日なんです♪」

 

 

 この幸せは、貴方がいてくれたからと、嬉しそうに喋るハスミに、俺は思わず目を丸くした。

 俺がいて、幸せだと言ってくれるのは、生まれて初めて言われた言葉だったからだ。

 

 

『またヒーローごっこをして人様に迷惑をかけたそうだな?』

『二度とヒーローの話なんてするんじゃない!いいか、転弧。確り外で反省しなさい。それまでご飯もなしだ』

『アレはおばあちゃんじゃない…家族を捨てた鬼畜だ…!』

『ヒーローは、他人をたすける為に家族を傷つけるんだ!!』

 

 

 ふと、父の言葉が脳裏に蘇る。

 嫌悪の象徴、家のルールで有り絶対を敷いる大黒柱。

 家族は、俺がいることに幸せと感じたことはあったのだろうか?

 志村転弧が生まれてくれたことに、心の底から愛してくれてたのだろうか。

 そう思い考えるのは、志村転弧が心の底から愛情を知らないからである。

 

 母親は何も言わずに抱きしめて、

 姉は責任を押し付け裏切り、

 おじいちゃんもおばあちゃんも、泣くなとしか言わず、

 そして父は将来の夢を許さず、憧れを否定し、手をあげる。

 家族一丸となって、肯定されず否定をし続けた俺を産んで良かったと思ったことはあったのだろうか。

 そんな俺に向けて、転弧がいてくれて幸せだと、思ってくれてたのだろうか。

 それは、全て壊してしまったから解らない。

 そして死人は二度と蘇らないように、俺が壊したものは元には戻らない。一度触れて壊れてしまったものは、修復不可能なのだから。

 

「転弧、先生?先生…??」

 

「…おじいちゃんも、おばあちゃんも、お母さんも…華ちゃんも、お父さんも…俺が家族のことを嫌いだったように、皆んなも俺を嫌ってたのだろうか…」

 

「先生ッ――!!!」

 

 迫真とした大きな声に、フッと我に帰る。

 

「あっ、良かった…。ボーッとしていたようなので…何度声をかけても返事がなかったのでつい…すみません…驚かしてしまい…」

 

「いや、いい……考え事してたから…」

 

 否定されてきたあの家から連なる全てを壊したはずなのに、壊せば痒みは無くならないと、俺の中で無念を断ち切ったと思っても、怨念が身に纏うように脳裏に浮かんでしまうのは、俺がまだ捨てきれてないからだろうか?今になってそんなことを想起してしまうなんて、気分が悪いな…と心の中で悪態を吐く。

 

「何か、嫌なことでもありましたか?その、表情が先程より暗くなって…」

 

 観察眼に長けてるからか、正義実現委員会たる活動の賜物か、顔色を見て心情を察したらしい。

 

「もしかして、私…何かまずい事でも?それともドーナツが口に合いませんでしたか?」

 

「いや、ドーナツは美味ぇ…。別に悪いことも言ってない…ただ、昔の嫌なことを突然思い出してしまっただけだ…」

 

「そう、ですか…ッ。いえ、そう言う時もありますよっ…私も、偶に何もない時にふと嫌なことを思い返してしまうことってありますから」

 

 同情するようにハスミは頷く。

 彼女の視点からしても、一瞬だけ大人の転弧が、どこか子供っぽい雰囲気を感じ取ったらしい。

 

「私だって、嫌なこと沢山あります。問題児の行動、山積みの書類仕事処理…それと、この体質とか……。ダイエットとして動いてるのに、時に太らないようになにも食べずに過ごしたりしてるのに…何故、太ってしまうのでしょう……とか…」

 

 後半に至っては現在進行形で原因それだろ、と突っ込んでしまう。

 スイーツ爆食いと、ダイエット…プラマイゼロが働いてなんの問題解決にもなってねぇ。体質の話は別として…。

 

「でも、そう言う時こそ良い思い出を多く作っていきたい。だから、転弧先生にとっても、私とこうして一緒に過ごすことに、幸せだと感じてくれるのであれば…」

 

 良い思い出か…。

 嫌なことばっか引き摺って、気に入らないものを壊して、向き合うこともせず互いを他人として認識し、和解さえせず…嗚呼、確かに…何一つ選んでなどいなかったな、俺。

 

 破壊、崩壊、憎悪――それを全て正しいとは言わないし、共感してくれとも言わない。

 そもそもヒーロー殺しの件だって、緑谷出久との会話、黒霧の解説を通して理解はしたけれども、納得もしてなければ正しいなんて微塵たりとも思ってないしな。

 

「幸せ、か…」

 

 憎悪を募らせた俺が、その感情を無くした今…愛情や幸せを知ることは出来るのだろうか。

 誰かと一緒にいる幸せは、連合の仲間たちと過ごした感情に近いものなのだろうか……?俺は、アレだけの時間を過ごしてきたのに、成長したと思っても、空っぽのまま大人になってしまったんだな。

 俺は大人になる過程で、幾つか大人になることに必要な欠片を、拾わずに育ってしまったんだな。

 

「私は、先生がここへ訪れる前のことを知りません。プライバシーのことも有りますし…深く探ることは致しませんが…それでも、先生が困っていることがありましたら、助力ながら手を添わせて下さい。手伝えることがあるのなら、力になりますよ」

 

「……俺は…――」

 

「あッ、転弧先生――見てください!!」

 

 何かを言いかけた時、ハスミが外に向かって指をさす。

 促されるまま、言われた通りの方角へと振り向けば、一色の夕暮れたる光が差し込んできた。

 

「ッ――」

 

 黄昏の差し込む色が眩しく照らし、灼熱な夕陽は少しずつ薄紫色へ変色していく。

 公園のスポットに、これは絶景だ。

 夕焼は幾つか景色を見たことはあっても、夕陽から少しずつ空色が変わっていく、空模様の過程なんてちゃんと見たこともなければ、意識すら向けたことなんてなかったな。

 

「どうですか先生?とっても綺麗な眺めでしょう♪知ってますか?夕陽である瞬間…日は直ぐに暮れてしまうので、あんな色になるのはたった数分だけなんですよ。あの黄昏の景色…一人で独占して見るより、この美しい景色を転弧先生に見せることができて良かったです♪そんな意味合いも込めて、今日は運が良いと…」

 

 この瞬間は短いけれど、でも贅沢で…と、ハスミの呟きに返事のない転弧。それに少し不審に感じたハスミは「あっ、私…変なことを言いましたか?」と、顔色を覗けば。

 

「………なんて、綺麗なんだろう」

 

 無意識に、言葉を漏らしていた。

 俺が最後に見たあの景色は…保須市でヒーロー殺しの人気を食い潰す為に、三体の脳無を街に放ち大暴れさせていた時だった。

 

 

 街中に轟く市民の悲鳴

 大炎上し煙が巻き上げ

 暴力と破壊が埋め尽くす

 

 

 死柄木弔が観た景色と、志村転弧が今観てる景色が、こうも真逆になるなんて…。

 あの時は意識さえ向けてなかったから、気にも留めてなかったけど……そうだ、こんなにも景色が美しいと思ったのも、生まれて初めてだ。

 今まで過ごした時間は、どれも一人満足するだけの虚しい時間…だったけど、ハスミの言うように誰かと楽しみを共有できたら…。

 いや、それ以前に…もっとこの景色が美しいと感じていたら、この景色に如何なる価値があるかを知っていたら、きっと…きっと…

 憎悪は減っていたのだろうか?

 それ以前に、俺は家族を殺した後、これ以上手を汚さずとも踏みとどまることができたのだろうか?

 

 俺は――今に至るまでずっと、自分で楽しいことを探さなかったんだな。

 凡ゆるものに興味を示さなかったのも、何の意味もないと…無価値で、全部壊すための対象だと決めつけてたのも…無意味だと決めつけるのではなく、気に入らないで済むのではく、少しでも価値を見出せていたのなら……。

 

「あぁ……もっと、こういう感情を知れてたらな…」

 

 それは、息を引き取る前に気付かされたトガヒミコと同じ心境だ。

 血を吸うことで、奪うことで好きに生きてきた彼女も、好きな人の血を奪うのと同じくらい、好きな人に血を与えることができたなら…人を救うことが出来たのではないかと。

 そんな生き方に、もっと出逢いたかったように。

 

 人を殺し、嫌いなものを壊し、憎悪を抱くまま生きてきた自分も……価値を見出し、好きなものを作ることが出来たなら…空っぽだった自分に少しでも…。

 

 例えどんな選択肢でさえ、道筋にも先生が絡んでて、どう足掻き転ぼうと人生が詰んでいたとしても…。

 

 そう思えるほどに、ハスミと一緒に見たあの夕暮れは、脳裏に焼き尽くす程に輝かしい景色だった。

 

 

「俺は……空っぽな人生、少しでもあんな黄昏な色に染まっていたのだろうか……」

 

 良い思い出…楽しかった記憶…生前と比較すれば、それこそスピナーとのゲーム対戦によるPVP、ここではユウカとの何気ない一日や、チナツと一緒にゲーセンで遊んだっきりだ。

 思い返してみれば、あれだけの時間を過ごして、楽しかった記憶や良い思い出が、こんなにも少ないとは…。

 

「ええ、これから作っていきましょう。転弧先生の楽しいことを…」

 

 すると、隣に並んでハスミが応えてくれた。

 息を呑みながら、立ち尽くしていた俺の肩に手を添えて、語りかけてくれる。

 何があったのかを詮索せず、肯定して、隣に並んで添えてくれる。

 その心地よさは、どこか連合に似ていた。

 アイツら全員も、何かしら過去に事情があろうとなかろうと、決して詮索せずとも付いてきてくれた。それが何となくだけど、居心地が良かったんだよな、俺の居場所。

 

「嗚呼、もうすっかり夜になりましたね…。暗くなってしまいましたし、そろそろ帰りましょうか?」

 

「ああ…。その…ハスミ――今日は有難うな。俺も、楽しかったよ……この一日。俺も、お前と逢えて嬉しかった、有意義だったしな…」

 

 そんな俺の言葉に、ポツンと数秒…それから頬を紅潮させて、次第に表情が緩やかになっていく。

 

「ハイッ!!こちらこそ!あ、そうだ――転弧先生、忘れるところでした。期間限定のドーナツ、どれにします?持ち帰りたいと仰ってましたよね?」

 

「アロナ、お前何が欲しい?全部はなしな?」

 

『まだ何も応えてないですよ!?アロナちゃんだってそんなに食いしん坊じゃないです!!あぇっと……転弧先生が食べてた桜餅ドーナツと、あとハスミさんが食べてた抹茶ドーナツで!』

 

 ハスミに聞こえない声量でも聞こえる辺り、音声キャッチは抜群のようだ。

 俺は幾つか指定して持ち帰る。

 軽くお辞儀をして背を向けるハスミに俺は手を振った。

 

「価値……か…考えたこともなかったな。それほど、俺の感情は昂って、同時にずっとあの頃から泣いてたんだな…」

 

 憎悪が如何にして自分の中で恐ろしかったか。…百年以上生き永らえた先生でさえ、厄介だと言うほどの感情。自分の視野も、価値観も染まっていた…。

 改めて自分の負の感情がどれだけ恐ろしかったのか、現実味を浴びて突きつけられる。

 

「…先生を機に、自分探しも悪くないかもな。好きなこと作るのも、したことのない未知に挑戦するのも……」

 

 自分探し。

 空っぽで、何一つ選んでいなかった俺の人生…好きなこと、先生としてどう生きたいか、何をしたいか…崩壊なき無個性の俺が、どう言う人間になっていくのか。

 わからない…でも、作っていこう。

 

 それが…これからを作っていく未来へと歩んでいくのだろう。

 

 

 後に、エデン条約を終えて――俺と鏡合わせとなる一人の生徒に…今体験したことを教えることになるとは、この時まだ夢にも思ってなかった。

 

 

 

 

 

 後日談として――シャーレに帰宅した転弧はハスミとの邂逅に落ち着いた後、エンジェル24で購入した『爆裂!神チキン』を食べ、激辛の余り悶絶と共に悲鳴が轟いた。

 そしてソラに文句を垂れたのは言うまでもなかった。

 

 

 






久し振りの執筆で文章力大丈夫かなと疑いながらの投稿。リハビリも兼ねて許して!
仕方ないんだしょうがなかったんだ!!購入した小説を読むより先に、投稿意欲が強くてそれどころじゃなかったんだ!!

ヒロアカ7期、ヴィジランテが始まりますね今年。そう言えばですね、ポップちゃんの声が一之瀬アスナと一緒なんですよ、びっくりしました。


転弧「お前アイドルやってみろ」
アスナ「あはは!いいねそれ!ご主人様はアイドル好きなの?」
転弧「別に…。てかんで飛んでみろ、跳ねてみろ。俺の知ってるアイドルヒーローは飛んで跳ねてだった。てかアイドルなんて大体飛び跳ねてんだろ」
アスナ「あっ、知ってるよ!部長がね、それは不良がやることだって!」
転弧「小銭たかってねえよ、先生として終わってんだろそれ」


アスナといえば大型犬がイメージ強い彼女。転弧はモンちゃんと友達で遊んであげたり、マキアとも触れ合い(ほぼ殺し合い)したり、割と犬属性のあるのに好かれてそうなイメージが固いです。

アスナ「ご主人様〜〜!!」
モンちゃん「キャンキャン!!」
マキア「主よおぉぉ!!!」


「次回、ずぶ濡れワカモが裸ワイシャツ?服着ろ定期乞うご期待」
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