文芸部活動報告(未提出)
~白玉リコ 『 』より一部抜粋
さても
酒の
街道帰りらしい男が、草履の土を払って
その真ん中で、ひときわ目を引く白無垢の姉は娘衆に囲まれている──。
「綺麗ですよお美野さん」
「婿殿も立派じゃないか」
「ほらほら、花嫁さんを困らせるんじゃないよ」
笑い声が絶えない。
三味線の軽い音が、夕暮れの店先にしゃらりしゃらりと響いていく。
長年の
「お鈴ちゃんは、祝言はまだ先かい?」
「さあ……お鈴にはまだ、とんと分かりません」
遠縁の徳兵衛が手
◇
──あれから少し空港周辺で待機したあと、国内線に搭乗して。
ボートに乗り換え、俺は白玉さんと目的地であるボラボラ
甘い花のような雰囲気と、日本とはまた違う湿気が
「じゃあ、田中先生とは本当に兄妹みたいに育って来たんだね」
「……兄妹なんて、昔の話ですよ。田中先生とはご近所さんで、色んな付き合いがあるってだけです。ツワブキに入学してからは、お姉ちゃんのことを学校で話したりはしましたけどね」
事前に知っていた知識を、初耳のように、あるいは確認するように繰り広げていく。
でも今までの世界線ごとの組み合わせから考えて、この白玉リコちゃんも田中先生に想いを寄せていた……はずである。
だけど今俺が感じる印象は、親族の幸せを祝う良い妹そのものだ。
白玉さんは腰に巻いたパレオをひるがえす。薄い布が広がって、すぐに彼女の脚に沿った。
「だから、今日はちょっとだけ期待しているんです」
「……期待?」
「私が見るお兄ちゃんとお姉ちゃんは、いっつも優しい顔ばかりしてるから。今日はどんな顔が見れるのかなって」
確かに、結婚式ならまた普段とは違った様子が見れるんだろうな。
白玉さんのはにかんだ笑みは、ここひと月ほど部室に通っていた時よりいきいきとしていた。
着岸したボートから降りた俺たちは、さざ波で古さびた硬木の
「折角来たんです。非日常を楽しみましょうか、部長さん」
◇
──しかし島に到着してからも、白玉さんは誰とも合流する気配がないな。彼女の親族を大人としてあてにしてた俺は気がかりだ。
彼女は俺と二人きりであることを気にする様子もなく、先程の宣言通りコテージに荷物を置いて、早速透き通ったビーチで遊んでいる始末である。
「あはははっ。すごい……こんなに透明だと、どこまで深いのか分からなくなりますね」
白玉さんは膝まで水に浸かりながら、こちらを振り返って手を振った。
うん。こうして水着姿の後輩女子と遊んでいる事実の前では、その違和感は
……思えば、ずいぶん遠くまで来たものだ。
足元の砂が、踏み込むたびに少しだけ崩れた。
このロケーション、姫宮さんが好きそうだな。伝えられないのが実に惜しい。
揺らめく水平線を背景に
突然のそれに俺は抵抗できず、浅瀬の海に倒れこんだ。
「──ぷはっ。白玉さん、何をするんだ」
「押し合いっこですよ。倒れて海に触れちゃったら、負けです」
白玉さんはいたずらっ子のように舌を見せて、水をはねさせて軽く後ろへ下がった。
なるほど、押し合いっこか。じゃあ俺もお返しに──
……押す? どこを?
彼女の水着は、上から下まで落ち着いた白地のセパレートビキニ。
細い
肌の露出は少ないが、白玉さんの素肌がさらされていることに変わりはない。
白玉さんはわかっているとでもいいたげな表情だが、俺は視線を一瞬で
「……ふーん。部長さんって、意外とえっちなひとですね」
「言い出したのは白玉さんだし。ひっかけというか、ズルくないかな」
──押し合いっこも、水のかけあいっこも、
……決して、浮かれているわけではない。
◇
結局遊びに遊んだ俺たち二人は、独特の匂いがする大きめのバスタオルで体を拭きながら、夜の予定について話していた。
制服で参加して、最低限のマナーさえ守っていればと思っていたのに、白玉さんは更にやりたいことがあるらしい。
「サプライズ?」
「はい。サプライズです。一生に一度のイベント、詰め込めるものは全部詰め込んでおかないと、もったいないじゃないですか」
白玉さんはいかにも女の子らしい発案で声をはずませている。
ただ何事にも準備は必要なので、その時間を稼いでほしいらしい。
白玉さんが考えた足止め方法でも良いが、できれば方法は自分で考えて欲しいんだとか。
「
白玉さんはうっかりしていたとばかりに頭をこつんとつつく。実にあざとくて可愛い。
……正直、なかなかハードルが高い要求だぞ。
しかし、ここまで存分に楽しんだあげくそれだけやらないのは断りづらいな。
ふと白玉さんが悪女のように笑みをひいた気がした。
その後に腕を引き寄せられて、やわらかい胸元にわずかに触れたような、触れていないような。
白玉さんの近づき方にそう
「あくまで、偶然を装ってください。バレなければ多少強引な理由でも構いません。後でサプライズってわかれば、お姉ちゃんも許してくれますよ」
「まあ、やれるだけやるけど」
俺の返答に満足したのか、白玉さんはぱっちりとウインクをして、コテージの地図とルームキーを置いて出ていった。
「それじゃあ……部屋で、大人しくしていてくださいね」
冷涼な彼女の気配を置き去りにして、
◇
自慢じゃないが、何もないところで大人しくしているのは得意なんだ。
ホテルの部屋でラノベを読みながら、サプライズのためのヒントがないかと探していると──
「温水さん。ゆっくりと開けてください」
控えめに叩かれた窓の向こうで、千早さんの声がこちらに響いた。反射的にカーテンを少しだけずらして確認してから鍵を外す。
音を立てないように窓を引いて、彼女が乗り込むまで待機した。
ベランダから侵入してきた千早さんに靴を渡されたので、素早く目につかない場所に仕舞った。
「朝雲さん、遅かったね」
「意外と
千早さんはつばの広い帽子を壁にかけて、一休みとでもいいたげに息を吐いた。
彼女が迷うなんて珍しい。
女の子一人は不用心だから待っていたかったけど、千早さんの指示は白玉さんと過ごして、情報を集めて欲しいとのことだったし。
「白玉さん、別に怪しいところはなかったけど」
「はい。温水さんはそれでいいんです。怪しまれずに、
千早さんはガッツポーズと共に、きらりと額を輝かせた。
……俺、
洗面台で手を洗って、千早さんが来たら食べようと思っていたココナッツ菓子を広げ、こじんまりとしたテーブルを二人で囲む。
「来る途中で調べましたが、温水さんの後輩は中々興味深くて──あ、これ美味しいですね。はい温水さん、あーん」
「それじゃ、ひとくちだけ貰うよ」
可愛い女の子の友達に食べさせてもらうことで、味は変わる。
高校生になってから知ったことだ。
俺に食べさせてから、千早さんは何事もなかったかのようにもう一つ
「これから朝雲さんも合流するとして、三人でどうしようか」
「そうですね、いくつか案は有りますが……」
「──部長さん、
──いつの間にか白玉さんが戻ってきていた。
呼んではいない。何故か来てくれるだけなんです。
慌てていないところをみると、今回千早さんは身を隠さず、直接顔を突きあわせるスタイルでいくようだ。
「何度か部室で顔は合わせていますよね。温水さんのお友達の、朝雲千早と申します」
「へぇ……部長さん、素敵なお友達が居るんですね」
白玉さんからの目線が冷たい。
千早さんと白玉さんの背後に、龍とも虎とも表現できそうな生き物が現れている。
……なんか胃が痛くなってきたな。俺は