※グラハムは出ません。
私は、空がすきだった。
あの青さに魅せられて、空を自由に舞う鳥の姿に憧れた。
別に、今の暮らしが嫌な訳でも、何か不自由があるわけでも、辛いことがあるわけでもなかった。
ただ。私は空に。惹かれていた。
「えっと……。ここをこうして、このユニットは……」
カチャカチャと手元にあるデバイスをいじりながら、私は一人言葉を呟く。
言葉というのは案外馬鹿にならない物で、黙々と作業するより、自分がやっていることをこうして口に出す事で、作業内容の整理ができてミスが減る事だってある。
今だって……ほら、わからないことが出てきた。
「ウタハさーん」
「ん?どうかしたかい、ムウ?」
「少し聞きたいことが……」
私が声をかけたのは、エンジニア部の部長、白石ウタハ先輩。私にメカニックとしての様々な技術を教えてくれた師匠であり、頼りになる先輩だ。
「ここの粒子圧縮機構なんですけど……」
「ふむ。……そうだね、コレなら────」
ウタハ先輩の教えに従い、私はデバイスに調整を加えてゆく。丁寧で、けれどはっきりとしたウタハ先輩の指導には本当に感謝しているし、いつも驚かされる。この人は本当に私の一つ上なのだろうか?
後1年足らずで先輩の様になれるとは……、私は思えなかった。
「すみません、ありがとうございます」
「いや、気にすることはないさ。君が作るものは、君にしか作れないものだからね。私としてもその手助けが出来るのは非常に有益な経験になるんだよ」
静かな、けれど、その内にデバイスへの情熱を隠した先輩の笑みに、私もつられて笑みを浮かべた。こうしていると、ミレニアムサイエンススクールに入学して本当に良かったと思う。
私は空に憧れた。だから、どうすれば私の翼で空を飛べるか、必死に考えて。その答えを求めて、不可能に挑戦し続けるミレニアムへと辿り着いたのだから。
「……コレでよし。っと」
改良を含めた調整を済ませたデバイスの蓋を閉じ、きっちりと蓋を閉めた私は、そのデバイスを腰へと装着した。
システムを起動させ、コンソールを操作し、その動作をチェックする。
「──うん。大丈夫そうかな」
一通りの確認を済ませてから、私は一度システムを待機状態へと戻して、壁のラックに掛けていた装備を、デバイスに備えたホルダーへと装着する。
「あれ、何処かに行くんですか?」
装備の確認をしている私の様子に気づいたコトリが私のことを見ていた。
私は装備以外の荷物……と言っても、大したものは無いのだけれど。とにかく、荷物や身なりを整えながらコトリの問いへ言葉を返す。
「ああ、うん。エンジニア部の予算に関して、ユウカに交渉しにね」
「ユウカ先輩に……?それ、出来るの?」
コトリとの会話を聞いていたヒビキが不安そうに私を見ていた。
確かに、セミナー会計の早瀬ユウカは、優しいけれど甘くは無い。普段からいつも『破産!破産!』と口癖のように言っている姿を見れば、ミレニアムの財政事情にだって、少しぐらいの想像はつく。
だけどね?
「大丈夫だよ。ヒビキ。なんたって私は────」
自慢げに、けれど。冗談めかして、私は笑いながらそう宣言する。
「────不可能を可能にする女の子だよ」
それが私……
「失礼しまー……あれ?」
セミナーの執務室へと足を運んだ私は、扉を開けようとした瞬間、丁度外へ向かおうとしていたらしいユウカと鉢合わせた。
「ムウ?セミナーに用事ならノアにお願い」
私の顔を見て一瞬だけ驚いた様子で目を見開いたユウカは、けれどすぐさま私を押しのけてでも先へ進もうと足を踏み出した。
「私はユウカに相談があったから。……で、何処かに行くの?」
ダン。と、私はユウカの行く手を阻むように少し強めに足を出す。
「……連邦生徒会よ。ちょっと直談判にね」
「ふーん……。じゃあ、私もついていこうかな?」
「ムウが?」
「だめ?」
私の言葉に、ユウカは少しめんどくさそうに顔をしかめてから、しかし、少しの間を空けて大きなため息をついた。
「──好きにしなさい」
「じゃあ、好きにさせてもらおうかな」
ユウカの行く手を阻んでいた足を退けると、ユウカは私の横を通りぬけ、ずんずんと進みはじめた。そんなユウカの後をついて行くように、私も歩き始める。
「連邦生徒会に直談判って、何かあったの?」
歩きながら、私はユウカへ声を掛ける。別に無言が嫌というわけではないが、それは会話をしない理由にもならない。
「最近、治安の悪化が著しいの。ムウだって気づいてるでしょ?」
「ああ……そうだね。確かに、明らかに不良生徒の装備がやたらと良くなってたり、暴動とまではいかなくても、暴力沙汰は増えた気がする」
記憶に残る中でも大きな事件を挙げるとすれば……風力発電所がシャットダウンした。なんて事もあったはずだ。対応に向かったのが私なのだから、よく覚えている。
「貴方はセミナーじゃないから細かくは言えないけれど。正直、数値としては露骨に現れてる。私達ミレニアムの自治区で対応できる事は私達でするにしても、他校自治区絡みとか、ブラックマーケット経由と思わしき所までは手が回らない……というか、それはもう連邦生徒会の領分よ」
「まあ、全部叩き伏せていいなら楽だけど……そうも言ってられないもんね」
私の言葉に、ユウカは小さくため息を付いてから、「それができるのはミレニアムだとC&Cか貴方ぐらいのものよ」とこぼす。
「それで直談判?」
「ええ。ミレニアムにも人的な被害も出てるし、治安維持の為の出費も増えてる。……ただでさえ研究で費用がかさんでいるのに。これ以上外的要因で計算外の出費が増えたらたまったものじゃないもの」
「あ、あはは……」
『研究で費用が』の所でジロリと視線を向けられて、私は思わず苦笑をこぼす。どうやら、私の考えはお見通しだったらしい。
「ま、まあ。ほら、そんなに困ってるなら、私はいつでも相談にのるよ?私達友達でしょ?」
「自分から友達のツラをして近づいてくる人にろくな人はいないわ」
「つれないこと言わないでよ……。今日もほら、荒事が有ったら私に任せていいから。ね?」
「………まあ、期待しないでおくわ」
そんな事をグダグダと話しながら、私達は駅の改札をくぐり抜け、D.U.地区へと繋がる車両へと乗り込んだ。
ガタゴトと、暫くの間電車に揺られ、D.U.に到着してからは早足に進むユウカの後へと続き……、私は連邦生徒会室のロビーで待つこととなった。
ユウカはミレニアムサイエンススクールのセミナー……所謂生徒会の会計……というか、会長が不在の今、実質的なミレニアムの生徒会長の様なものだ。
ソレに対して、私はただの一生徒にすぎない。生徒会室を訪ねるのに身分も何も無い。と言えばそれはそうなのだけれど……、連邦生徒会長に直接面会要求をしに行く。と言うには少し気後れがある。
用事が済むまで、暫くの間時間があるだろう。私は、いつもの様にぼんやりと青い空を見上げて呆けていた。
どこまでも高く、どこまでも広く、ただ、全てを覆うように、全てを受け入れるように、深く、大きく。ただ、どこまでも。
────あの空の向こうは、どんな世界なんだろう?
私は時々、そんな事を思い浮かべて空を見る。届きもしない、あの空に、ただまっすぐに手を伸ばし。つかめもしない雲を掴もうとして、指が空を切る。
そこに喪失感や、虚しさはない。あるのはただ、この胸を焦がすような高揚感と、私を駆り立てる憧れ。
────ああ、はやく飛びたいな。
今の私に、そんな
けれど、必ずいつか。絶対に。届いてみせる。届かせてみせる。
じくじくと、背中の、肩のつけ根の辺りが疼き出す。
ああ、良くない癖だ。なんて、思いながら。
「ムウ!」
浮かれたように空を見上げていた私の名前を呼ぶ声が聞こえた。視線を上から前へと下ろせば、いつの間にかユウカがそこにいた。
「どうかした?」
「出番よ。来て」
少しイラついた様子でユウカが私のことを呼ぶ。……どうやら、厄介事が起きたらしい。
「はいはい。神田ムウにお任せください……ってね」
そんなふうに呟いて、私はユウカの元へと小走りで向かうのだった。
所変わって、D.U.地区外郭。目的地のとある部室へ辿り着くために、そこを襲撃中の不良達を制圧しなくてはならなかった。
こちらへ向けて弾丸を発砲する不良生徒たちと相対しながら、遮蔽に隠れた私達は互いの様子を改めて伺った。
私とユウカ。ではなく、私“達”というのは、この場にいるのが私とユウカだけでは無いからだ。
ユウカの他に現在前線に立って居るのは、トリニティの正義実現委員会のハスミさんと、自警団のスズミさん。それと、ゲヘナの風紀委員会のチナツさんだ。
……なんだか、ユウカは相手の使っている弾に文句を言っているようだが、本当に気が立っているらしい……。後で機嫌取りを考えておいた方が良さそうだな。なんて、ノアへの連絡の内容を考えながら、私は背後にいる“護衛対象”へと意識を配る。
そこにいるのは連邦生徒会の行政官と────。
「"大分荒れてるね……"」
1人の大人。いや、“先生”がそこにいた。
「先生は危ないからもう少し下がっていてください。流れ弾に当たるだけでも危険なんでしょう?」
ユウカ達のことが心配なのか、身を乗り出して前に出ようとする先生を手で制しながら、私は彼を諌める。
「"でも……"」
「ムウの言うとおりです。戦闘は私達がしますから、先生は安全な所に」
丁度その時、どうにも攻めあぐねていたらしいユウカ達が前線を押し返され、私のいる場所まで後退してきた。
弾丸を受けて乱れた髪や服を軽く整えるユウカに対し、私は腰に手を当てて首を横に振った。
「ユウカ、やっぱり私が前に立ったほうがいいんじゃない?あの数相手なら私の火力も必要だと思うけど……」
「そうもいかないでしょ。この中で護衛戦が一番得意なのが貴方なんだから……、私達に比べて打たれ弱い先生を護らないと」
「それは……そうなんだけど」
キヴォトスの外から来たというこの人にとっては、銃弾の一発が致命傷になりかねない。だと言うのになぜ現場近くまで来たのか……、と思わないでもないが。まあ、護衛しながらの戦闘ぐらいは慣れているし、下がってくれているなら問題はないだろう。
そんな事を考えながら其処にいる彼へ視線を向ける、先生は小さく首を横に振った。
「"いや、私が指揮をするよ。手伝ってもらえるかな?"」
「先生が戦術指揮を……?」
予想外の発言に、私はユウカと顔を見合わせてから、その場にいた他の面々の様子をうかがった。
「……わかりました。これより先生の指揮下に入ります」
「生徒が先生の言葉に従うのは自然なこと、ですね。よろしくお願いします」
トリニティの正義実現委員会のハスミさん、ゲヘナ風紀委員会のチナツさんは、静かに先生の言葉を受け入れる。
まあ、ここで自分から言い出すのだ。よほど自信があるのだろう。……実際、先生はやけに落ち着いていて、普段の感情的に戦闘している私たちなんかよりずっと戦場の事をよく見ていそうだった。
正直、この膠着状況でじっとしているのは……性に合わなかったし。言っては悪いが、守られているだけのお荷物が大人の役割。とは考えたくなかった。
「スズミさんは?」
「私も……はい、問題ありません。現場での連携には慣れています」
「じゃ、此処からは私も前線に加わろうかな。ユウカはどうする?私に任せてを下がっちゃう?」
「冗談言わないでよ。ここで一人だけ下がっていられるわけないでしょ?」
「だよね」
「じゃ。決まり」
私も、腰のデバイスのシステムを起動させ、自分の武器を手に取った。
他の面々とソレ比べて、銃口から銃身まで一回りか二回りか大きく、けれど弾丸の装填口の無い、奇っ怪とも言える相棒を片手に構えて、私は先生に視線を送った。
「先生。私は他のみんなとは“ゲームが違う”から……ちゃんと使いこなして見せてよね?」
そんな言葉とともに、腰にマウントされた供給管に装着されたEパックを取り出して、クルリと手で遊んでから銃へと装着する。
「ミレニアム所属、神田ムウ……出るよ!」
さあ。バトルスタートだ。
“ゲームが違う”。神田ムウと名乗った少女は、自らの戦い方をそう表現した。
先生はその言葉に奇妙な違和感を覚えたが……、生徒達の指揮を始めてすぐに彼女の言葉の意味を理解することになった。
「そこっ!」
彼女がカチリと引き金を引くと、その構えた銃口から放たれるのは、弾丸ではなく、黄緑色をした細長い光の塊だった。
「ぐわっ……!?」
反抗する不良生徒て直撃したソレは、バチィン!と激しい音を鳴らして炸裂し、大きな衝撃で持って直撃した者の意識を次々に刈り取ってゆく。
その光景を、その武器を何と言い表せば良いか。そう問われた時、彼はこう答えるだろう。
“ビームライフル”。
ビームと言うには、肉眼で目視できる程の弾速であるソレは遅すぎるが、銃口から次々に光線を放ち、対象を沈黙させていく姿は、他の生徒達の戦闘スタイルとは明らかに一線を画していた。
────文字通り、“ゲームが違う”。としか言い表せない光景だった。
火力も、耐久も、動きも。何もかもが違う、異質な彼女は確かに先生の指揮に組み込むにはあまりにもクセが強く、先生自身もどこか持て余し気味なようにすら見えていた。
だが、それでも先生は彼女達を勝利へと導いてゆく。
「コレで、一区切り!」
ムウの一撃が一人の不良生徒を撃ち抜いて、一つの波を乗り越えた彼女達は目を丸くして後方に控える先生の姿を見る。
「凄いね先生。私のクセをいきなりこんなに使いこなすなんて……もしかして、ヤリ手だったりする?」
「ちょっとムウ!失礼でしょ!」
「冗談だって!でも、みんなも戦いやすかったんじゃない?」
眉間にシワを寄せるユウカから視線をそらし、ムウは「ねー?」とスズミへと同意を求めた。
そんな姿にスズミは苦笑を浮かべながら、小さく首を縦に振った。
「はい、なんだかいつもより戦いやすかったです」
「そうですね……さすがは“先生”といったところでしょうか……連邦生徒会長が認めたのも頷けます」
「先生の指揮のおかげ……も、あるとは思いますが」
「……ん?」
先生を持て囃す雰囲気の中、彼ではなく、自分へと視線を向けるハスミの姿に、ムウは小さく首をかしげた。
「そのビームライフル。貴方がミレニアムの機械天使ですか。……確かに、大した突破力ですね」
「機械天使って……大げさだなぁ。私に空を舞える翼は無いんだよ?」
ハスミの告げた二つ名──ミレニアムの機械天使とは、ムウの“とある特徴”を指して付けられた物であり、しかしそれはムウにとってはあまり実感のないものでもあった。
「ま、とにかく進行を続けよう。さ、先生。続けてよろしくね」
「"うん。……みんな、もう少し頑張ろう!"」
ぐっ。と拳を握りしめながら、真剣な顔で応援の言葉を投げかける先生の姿に、ムウは笑みを浮かべて大きく頷いた。
────瞬間。一発の弾丸がムウの背中へ向けて放たれた。
「────ッ!」
向けられた殺気に、背筋の泡立つような不快感を覚えたムウは、とっさにビームライフルの側面を盾変わりにしてその弾丸を弾き飛ばす。
「────あらあら、連邦生徒会の子犬が集まっていると思いましたが。とんだゲテモノが紛れ込んでいますね?」
「あれば……今回の今回の騒動の中心人物!」
視線を再び前へと見やれば、其処は狐の面を被る和装の少女、孤坂ワカモが、そこには立っていた。
「あっぶないなぁ……急に背中から撃つなんて卑怯なんじゃない?」
「まるで背中に目でもついているような反応をしているのですから、なんてことは無かったのではないですか?」
クスクスと笑みをこぼすワカモに対し、ムウは大きく眉間にシワを寄せたまま口を開いた。
「そういう問題じゃないと思うんだけど」
「あらあら、そう怒らないで下さいまし?私はここで貴方と戦うつもりは毛頭ございませんので……」
「先に仕掛けといてよく言うよ」
なんて、そんな事を話しながら、ムウはちらりとユウカへ目配せをした。ユウカは、そんなムウの視線に気づくと、静かに頷き、ゆっくりと移動を開始する。
「それで?私と戦うつもりがないって言うなら、何のためにこうして立ちはだかるのさ。私は別に今すぐ勝負しても良いんだけど?」
「情熱的なお誘いですが……申し訳ありません。私は貴方様のような鉄のように冷たい人は好みではございませんので」
「私だって貴方みたいなワガママで自分勝手な人の相手はゴメンだね。……縛られるのが一番キライなんだ」
「あら。そこは気が合いますね。ではどうですか?貴方も私と同じように気の向くままに力を────その“翼”を、思うがままに羽ばたかせてみる、というのは?」
ワカモの言葉に、ピクリと眉を動かすムウ。
「御生憎様。私の翼は破壊の為のものじゃない」
「それはそれは……残念です。ですが────」
「────こちらを壊さなくては、前には進めませんことよ?」
その言葉と共に、ぴょい。とワカモが身を翻す。
瞬間。大きな発射音と共に、一発の砲弾がムウめがけて飛来した。
「うっそ……ッ!?」
ムウは、咄嗟に回避を考え──背後にいる先生のことを思い出し、回避の選択肢を捨てた。
避けてしまえば、まず間違いなく彼はタダでは済まない。
だから────
砲弾の直撃と共に、大きな爆発がムウを包んだ。
「"ムウ!!"」
「あれは……クルセイダー1型!私の学園の正式な戦車がなぜこんな所に……!」
砲撃を放った戦車に、ハスミは大きく目を見開き、そして、それが不良の手に渡っている事に苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべた。
「では。……私はここで失礼します」
「待ちなさい!」
「待ってくださいユウカさん!今は彼女を追うより、ムウさんが────!」
爆炎と戦車の登場により、混沌とした状況の最中、戦線を離脱していくワカモを追おうとするユウカだったが、チナツがその手を引き止める。
だが。
「あーーーーもう!鬱陶しい!!」
怒り心頭、と言った様子の声が響くとともに、爆炎の中心から何かが、凄まじい風を巻き起こし立ち込める煙を吹き飛ばす。
「うそ……!」
「まさか……!」
「あれが……!」
“神田ムウ”が、機械天使と呼ばれる所以が。そこにはあった。
砲弾の煤と土埃にその服装を汚しながらも、しかし、砲弾の直撃を受けて尚少女は傷一つ無い姿でそこに立つ。
だが、その姿は……、爆炎の中に沈む前とは、明確に異なる点が一つ。
彼女の背中の、肩のつけ根のあたり、肩甲骨との間から。“ソレ”は現れた。
何かが噴出しているように、キラキラと輝く粒子がそこより放出されて、当たりをかすかに照らしている。
桜色にも、黄金にも、翡翠にも見えるその粒子は、見るもの全てを魅了する虹の輝きを放つ。
そうして、その粒子が吹き出る様は、まるで────
「"────光の……翼……?"」
ポツリと、先生の口から、思った言葉がそのままこぼれる。
そう。それはまさに────光の翼を、成していた。
「ゴメン、先生!むしゃくしゃするから、アレは私一人でやらせてもらうね!」
「"え、あっ、ムウ!?"」
先生の返事もまたず、ムウはビームライフルを片手に大きく一歩、踏み込んだ。
瞬間、彼女の姿が霞む。いや、ちがう。その場にいたはずの姿が消えた。
「ざ、残像!?」
見たことの無い光景に、チナツが驚きの言葉を口にした。
光の翼の粒子が美しい光の影を作り出し、神田ムウの姿は光の軌跡を描き、彼らの視界に残像を映す。
それは、彼女の翼の粒子が見せる幻覚のようにも見える。だが、それだけで片付けるには、ムウの動きは早すぎた。
「遅い!」
道路へ転がる障害物すらすり抜けるように移動した彼女の軌跡の先に、ムウはいた。
瞬く間に戦車へと距離を詰め、その側面を取りながら、ビームライフルを両手で構え、放つ。
黄緑色のビームは戦車の装甲へと突き刺さり、その装甲を大きく溶かし、歪ませる。……だが、貫通するには至らない。
「くそっ……!?なんなんだ、こいつ!!」
戦車に乗り込んでいた不良生徒が悪態を吐きながら、車体を駆使しつつ、ムウのいる方へと砲塔を回転させる。
だが、もうすでにそれでは遅すぎた。
一度動きを止め、砲撃を始めた戦車の懐に潜り込んだ人を撃ち抜くことは……そう簡単にできるわけがない。
だが、逆に戦車の装甲を人の持つ火器程度て抜く事は容易いとは言い難い。
普通は。だ。
「ふっ……!」
ダンッ!とムウは近くに転がる車を踏み台にして、宙へと大きく跳び上がった。
「と、……飛んだァ!?」
輝く翼を大きく広げ、まるで羽のように軽やかに宙を舞う姿は、確かに飛んでいる様にも見えた。
戦車の頭上を飛び越えるようにして、ぐるりと身体を空中で大きく回転させて、完全な上を取る。
「そこぉっ!」
そうして、ムウは素早くライフルを3射する。
一つは、前方の砲身を。
一つは、中央の乗り込みハッチを。
一つは、後方のエンジン部を。
的確に装甲の薄い所を撃ち抜かれた戦車は、先程の装甲とは異なり、ビームの光へと撃ち抜かれる。
「ば、爆発するーーーーーーッ!!」
戦車の中から聞こえたそんな悲鳴とともに、無惨にも不良生徒を乗せた戦車は爆発を引き起こした。
爆発の余波は、周囲の空気をビリビリと振動させ、大きな衝撃を伝える。
そんな爆炎を背に、ムウは華麗に両脚から着地を決めると、右手でビームライフルを担ぎながら、背後で自分を観ているであろう先生の姿を見て。
「はい。いっちょ上がり」
にいっ。と、白い歯を見せて、いたずらっぽく笑う彼女の、栗色の髪をまとめたポニーテールがふわりと揺れた。
光の翼を輝かせ、負けない笑顔を見せる彼女に。先生は────
「"……か"」
「か?」
「"────かっこいい……!!"」
彼の中の“男の子”をくすぐられ、輝いた瞳で、神田ムウを見ているのだった。
神田ムウ
↓
カンダムウ
↓
カンダムゥ
↓
ガンダムゥ!
つまるところ神田ムウちゃんとは、濁点二つ、たま二つ無いガンダムです。(?)