「くあぁぁ……っ……ふむぅ……」
『先生』がキヴォトスに訪れて数日。ムウはいつもの様にミレニアムサイエンススクールへと登校し────、ミレニアムタワーの屋上で寝転がりながら、大きなあくびをしていた。
「〜〜♪」
上機嫌にふんふんと鼻を鳴らしながら、爽やかな風と、暖かな日差しを浴びて、ムウは空の気分を味わう。
ムウが求める“空”と言うには、ミレニアムタワーの高さでさえ不十分だったが、少なくともミレニアムサイエンススクールの中で最も空に近いこの場所は、ムウにとってのお気に入りだった。
「やっぱりここにいた」
ぎぃ。と音が鳴り、屋上に入る為の扉が開く。
「その声は……ユウカ?どうかしたの?」
「どうかしたの?じゃないでしょう。……ミレニアムタワーの屋上は立入禁止よ」
ミレニアムタワーは非常に高く、それ故に時折大きく風が吹き荒ぶ。そうなれば、人の体など簡単に吹き飛ばされて、転落してしまうだろう。
そもそも人の立ち入ることを前提として設計されていないミレニアムタワーの屋上は、整備清掃用の柵を除けば転落防止になるような備えはなく、いくら身体が頑丈なキヴォトス人とは言え、転落してしまえばひとたまりもない。
最も、それをムウに言わせれば。一部の生徒以外はね、と言うのだろうが。
「別に今更でしょ?ソレに、その禁止理由、私には関係無いんだし」
「あのねぇ……。はぁ、まあ。良いわ」
ユウカは、ムウの“今更”という言葉に、片手で顔を多いながら首を横に振った。
先日のシャーレビルへたどり着くための戦闘の最中、砲弾を受けたムウの姿を見ても、ユウカだけは狼狽えることなく、首謀者たるワカモへと意識を向けていた。結局、チナツの制止もあり追撃は叶わなかったが、それでもユウカはあの中において唯一ムウの無事を確信していた。
それは単に、ムウの“光の翼”の存在と、その能力をユウカが知っていたからだ。
神田ムウ。彼女の背中から噴出するその不思議な現象は、ユウカの計算を覆す。……端的に言えば、神田ムウの“光の翼”には彼女の知る常識が通用しなかった。
そして、ユウカはムウにとって、“この程度の高さ”が問題にならないことを知っているのだから……、文字通り“今更”なのだ。
びゅう。と一度強い風が吹いた。
ユウカは、風に飛ばされぬよう扉を掴む片手とは別に、顔を押さえていた手をそのまま動かし、風になびく髪を押さえた。
「よっ、と」
そんな強風の中、さも当然といったようにムウはその身を跳ね起こす。
「それで、私にどんな用事?……あ、この前申請した予算の許可とか?」
「生憎。アレは却下よ」
「えぇ……。あれでも一応、新発見の粒子の技術転用のためなんだけど?」
「その粒子があなたの背中からだけ発見されてなければ真面目に検討したわね。供給源が貴方しか無い不安定なリソースを、資源とは呼ばないわ」
「これは手厳しい」
ユウカの整然とした指摘に、ムウは困ったような表情を浮かべて肩をすくめた。
「じゃあ、結局何の用なの?ユウカに呼ばれるような事をした覚えはないんだけど」
「その発言には些か疑問が残るのだけれど。……まあ、ムウが想像つかないのも当然な内容よ」
「というと?」
「“シャーレ”からの呼び出しよ」
「シャーレ?……つまり、『先生』が呼んでるの?私を?」
ユウカの言葉に、ムウは不思議そうに首を傾げた。
「なんで?なんて言わないでよ。私だってわからないんだから」
「書類とかは?」
「持ってきてるわよ」
懐から取り出された1枚の封筒を見て、ムウはユウカの方へと歩み寄る。風に飛ばされる前に受けらないと、さすがに少々面倒くさいことになると考えたからだ。
見慣れないシンボルマークがあしらわれたその白い封筒には、確かにムウへの宛名と、先生のものと思われる署名が書き加えられていた。
「ふーん。……ま、行ってみればわかりますかね」
「正式に呼ばれてる以上、ミレニアムの代表のつもりで行ってくるのよ。先生の前で無礼な真似はくれぐれもしないこと。いい?」
「はいはい。わかりましたよーっと」
ムウは封筒を懐へしまうと────踵を返し、ビルの外縁へと向かって歩き出した。
「ちょっと、ムウ。呼ばれたんだからすぐに行きなさいよ」
「ん?だからこれからシャーレに行くよ?」
「そっちに出口は──」
そこまで言いかけて。ユウカは大きく目を見開いた。
「──待ちなさい、まさか!」
「んー。風向きもいいし、コレなら駅までひとっ飛びかな?」
「待ちなさい!ムウ!せめてちゃんとビルの中から────!」
たん。と、ムウが両足を柵の上に乗せたその時、再び、ぶわりと風が吹いた。
風に煽られ、ムウの体がビルの外へとぐらりと揺れる。
「ムウ!!」
「じゃ、行ってきまーす」
その瞬間。ムウの背中から“光の翼”が現出する。
まるで風に揺られる様に、ムウは背中の翼を煌めかせ、ビルの上から飛び立った。
「許可なく空を飛ぶのは禁止っていつも言ってるでしょ〜!!」
「後で書類提出しとくよー!」
空中を滑るようにして飛び去って……。いや、厳密に言えば、“滑空”してゆくムウの姿に、ユウカは拳を振り上げて怒りを露わにするが、ムウはそんなユウカの怒りをひらりと躱して駅の方へと降りていった。
ムウの背中から放たれる粒子が、ミレニアムの空にキラキラと光を降らせた。地上では、そんな光と共に大空を舞う一つの人影の姿に何人かの生徒たちが気付き。「またムウか」、と苦笑をこぼすのだった。
「"いらっしゃい、ムウ。急に呼び出してゴメンね"」
何本かの路線を乗り継いでシャーレへと辿り着いた私は、先日の記憶を頼りにシャーレビルへとたどり着き、先生の出迎えを受けていた。
「別にそれは良いんですけど……一体何の為に私を呼んだんですか?」
「"……もしかして、書類は読んでないの?"」
「ミレニアムのセミナー経由で私に届いたコレですか?」
服の内側に仕舞っていたことで少々シワのついた封筒を取り出した私の姿に、先生は苦笑を浮かべる。
「"そういう書類はちゃんと中身を読もうね"」
「でもどうせシャーレにきて先生に会うなら、そこで直接話を聞いたほうが早くないですか?」
「"そういう些細な事に手を抜いていると、いつか足元を掬われるよ。……私は待ってるから、この場でもいいからちゃんと読みなさい"」
「……はーい」
どうやら楽はさせてくれないらしい。
観念した私は、渋々とその封筒の封を切り、中に収められた書類をこの場で開く。その内容に目を通してみれば、先生がなぜ私をシャーレへ呼び出したのか、その目的が書いてあった訳だが……。
「……当番?」
シャーレの当番。と言う単語の意味がイマイチ理解できなかった。これは……あれか。日直だとか、そういう類いの物を指しているのだろうか?
そんな疑問を浮かべたまま、私は説明を求めて先生の顔を見る。
「"そ。シャーレの当番を、是非ムウに協力してもらいたくて"」
「いや、それは分かったんですけど……。当番って、何をすればいいんですか?」
渡された書類には、当番の業務内容についての詳細は書かれていなかった。非常にざっくりとした、“独立連邦捜査部シャーレの業務の手伝い”という旨の説明は書いてあったが……、私はそもそも、“シャーレ”がどういう組織で、何のために、どんな活動をしているのかを知らなかった。
「"それはこれから説明するよ。……まあ、殆の手伝いは、書類仕事になるんだけどね"」
「書類、ですか」
「"うん。初対面の子よりは、知り合いの子に頼んだほうが手伝ってくれる子にとってもいいかなと思って"」
正直に言うと、面倒くさいな。と思った。私は別に書類の整理や確認、作成と言った事務的な作業が得意な訳では無い。それに、知り合いの中から選んだというのであれば、あの場にいたメンバーの中で、ミレニアムの生徒にするにしてもユウカの方が事務作業の適性が高いだろう。『先生』というぐらいなのだから、生徒の資料の確認ぐらいはできるだろうし、それを見てから選んだと言うなら……。
いや、私でなければならない心当たりは、一つだけあるにはあるのだけれど。
「私は構いませんけど……。活動費の申請書作成とか、部活動で制作したデバイスのコンクール向けの資料みたいな物しか作ったことありませんからね」
「"そこの心配はしなくても大丈夫だよ。無理なことまで任せるつもりはないし、手伝いの内容もしっかり教えるから"」
なんたって私は『先生』だからね。と、ガッツポーズを作りながら、少し大げさな言い方をして、自信に満ちた笑みを浮かべる先生の姿を見て、私もついつられて笑ってしまう。
少なくとも、悪い人ではないんだろう。どうにもこの人と話していると、仕方が無いというか、その素直な善性に好感すら覚える自分がいた。
「わかりました。……引き受けますよ、“シャーレの当番”」
「"ありがとう、助かるよ"」
私の言葉に、先生は感謝の言葉を述べながら、笑顔で頭を下げる。
こうして、私、神田ムウは、シャーレの当番として先生の仕事をお手伝いすることになった。
先生からの指導をうけつつ、私は少しずつシャーレの当番としての仕事を覚えながら、先生の手伝いを進めていった。
事務作業とは言っても、内容はやはりピンキリらしく、私にはできなさそうなものから、誰にでもできるような簡単な作業もあり、たしかにコレならばどんな“生徒”でも当番をこなすことはできるだろうと言った具合の業務内容だった。
仕事を進めながら、他にはどんな生徒が当番に来たのか。と聞いた所……なんと、シャーレの当番を呼んだのは今日が初めてだったらしい。
そもそも昨日までは仕事の他に、先生自身か着任して業務環境と整えるために使っていたため、シャーレとしての正式な業務は今日が初めて。と言うことで……、シャーレの“当番制度”の利用も今日が初めてだった。と言うわけだ。
シャーレは全ての学園の生徒を、制限なくその所属としてに組み込む権限を有している。故に、例えその生徒が生徒会であろうと、シャーレの招集に応じてもらえるのであれば、当番として呼ぶことが出来るのだとか。
……と、すると。余計にユウカではなく私を当番に呼んだ理由の予想が現実味を帯びてくる。
べつに、それが嫌というわけでもないが、やっぱり“男の人”はそう言うのが好きなんだなぁ。と思いながら、私は作業の片手間に、先生へ事の真意を聞くことにした。
「で。先生?」
「"うん?どうかしたの?"」
「私を当番に呼んだ理由って、やっぱり“アレ”ですよね?」
私の言葉に、先生はピクリと肩を動かした。分かりやすい人だ。
「"アレ……。って、なんのこと、かな?"」
「いや、いいですよ。大丈夫です、セクハラだとか言いませんから」
まあ、一応私の身体的特徴に関する内容なんだし、先生としては気になっていても自分から聞くというのはハードルが高いのだろう。
仕方のない人だ。なんて考えながら私は本題を切り出すことにした。
「“光の翼”。綺麗だったでしょう?あれ、私の自慢なんですよね」
自分の背中を先生へと見せつけながら、私はそんな事を言った。
「"うん。すっごく格好良かったよ!"」
「ふふふ、そうでしょうそうでしょう。……どうですか?特別に今この場で見せてあげてもいいんですよ?」
「"本当に?"」
「なんで嘘つく必要があるんですか。……ほら、出しますよ?」
ぐっ。と私は体の内側に力を込めて、体内に渦巻く力を背中から広げるように動かした。
すると、ゆっくりと私の背中からいつもの様に粒子が溢れ出し、緩やかな軌道を描いて“光の翼”を形作ってゆく。
それは、待機状態とでもいうべきだろうか。折りたたまれた天使の翼様にスマートに纏まった形を成していた。
「"……すごいね。これ、どうなってるの?"」
「触ってみますか?」
「"えっ"」
興味津々と言った様子で私の翼をみていた先生は、私の提案を聞いて目を丸くした。
「危なかったりはしませんよ。安心してください」
「"い、いいのかな?だって、ほら……ね?"」
少し何かを恐れるようにしながら、こちらの様子をうかがう先生に、私は思わず顔をしかめてしまった。……大方、女の子の身体を触ることになるのではないか?なんて考えているんだろう。
「ちょっと変な遠慮の仕方しないでください。……大丈夫ですよ、その理由も、触ってみればわかりますから」
「"……そこまで言うなら"」
私は触りやすいように、少しだけ翼を広げて、先生へと差し出した。すると、先生は恐る恐ると言った様子で“光の翼”へ手を伸ばし────
「"…………おぉ"」
─────降り注ぐ粒子の中で、手を泳がせた。
「ね?大丈夫でしょう?」
「"これ、触れるようなものじゃないんだね"」
“光の翼”は、粒子の集合体であって、肉体的な存在ではない。
しかも、翼を構成する粒子だって、それ単体では非常に不安定で、私の体外へ放出したそばから自然に崩壊していってしまう。
「"……なんだか暖かくて気持ちいいね"」
「ま。コレが私の“ビームライフル”の元なんですけどね」
「"えぇ!?"」
私の言葉を聞いて、先生はバッと手を引っ込める。そうして、自分の手に異変がないか確認しながらもう片方の手で擦っていた。
「大丈夫ですよ。この粒子単体に殺傷力はありません。……まあ、なんだかいろいろ出来るみたいなんですけど」
「"……みたい?"」
先生の言葉に、私は思わず苦笑いする。……それもそうだ。私の身体の、自慢だと言うのに、“みたい”だなんてあやふやな表現をしているのだから。
「私のこの“光の翼”。……これ、なんで光るのか、なんで武器になったり、移動の手助けをしてくれるのか。放出してる私自身にもよくわからないんです」
“光の翼”には、様々な力がある。
圧縮して指向性をもたせることで、ビームの様に変化したり、散布することで通信を妨害できたり、私の身体にかかる重力を軽減して、身のこなしを軽くしたり、移動の為の推進力になったり……その用途は多岐に渡る。
けれど、私は生まれてから今に至るまで、この“光の翼”が一体どういう存在なのか、解らずにいる。
「"そうなの?"」
「はい。……なので、今はその解明のためにミレニアムでいろいろ勉強したり、作ったりしてるんですよ」
私は腰のデバイスに装着された“Eパック”を取り出して、先生へと投げて渡した。
「それ、私のビームライフルのマガジンです」
「"コレもムウが作ったの?"」
「ええ、勿論。“光の翼”の研究、開発は、私しかできませんから」
元々は、“光の翼”の粒子を意図的に制御する事で、私の本来の目的を達成する為に進めている研究の副産物でしか無いソレを指し示しながら、私は説明を続ける。
「私の背中から放出された“光の翼”を構成する粒子を圧縮、蓄積して、その中に保存しています。……そしてそれを、専用のライフルへ装填することで、ビームライフルとしての運用ができる。……って仕組みです」
今も背中に蓄積のための装置がついているんですよ。なんて、翼のあたりを指して説明する。
「"おぉ……。なんだか本当にロボットアニメみたいだね"」
「でしょう?……正直、色々参考にしました」
「"ムウも好きなの?ロボットアニメ"」
「はい。“
先生は、それはもうキラキラとした満面の笑みを浮かべて。
「"うん!"」
元気よく頷いた。素直な人だ。
「あはは……、まあ。そうですよね、そうでないとわざわざ私を一人目の当番になんてしませんよね」
「"……い、いやぁ……。興味にはどうしても勝てなくて……"」
「別に悪いとは思いませんよ。……私も結局、ロマンを追い求めてるタイプなので」
「"……ロマン?"」
そう問われ、私は私自身の夢を語る。
別に、隠しているわけでもない。……それに、生徒の夢に耳を傾けるのも、『先生』の仕事だろう。
柄にもなく少し興奮している自分を自覚しながら、私は流行る気持ちを理性で抑え、先生に私の夢を語る事にした。
好きな物について話そうというのだ。誰だって気分は昂ぶるだろう。
「私は────“そら”を、飛びたいんです」
シャーレの窓の向こうに映る、どこまでも広がる。青い空に。その先にあるだろう、青い、“
私は視線を向けて、想いを馳せる。
「縛るものも、押さえつける天井もない。遠く、遠く、広く、広く。ただ、自由に満ちた、あの“そら”の向こうに行くための……私だけの“翼”が、欲しい」
いつの間にか天へと伸ばしていた手を。ぎゅっと握りしめて。
「“
「あの────“そら”に。行くんです」
心の内に滾る熱を抑えようとも思わずに、私は感情のままに言葉を結んで。先生を見た。
「それが私の、ロマンです。先生」
本気とは思われないだろうか。子供の夢と笑われるだろうか。出来はしないと否定されるだろうか。
そんな事を思いながら、けれども私は、先生の顔を見て。
「"────素敵なロマンだね"」
彼は。優しく笑って、真剣な瞳で。私にそう言った。
────ああ。この人は。笑わないんだな。
なんて、そんな事を実感して。なんだか少し恥ずかしくなってしまって。
私は照れ隠しに笑みを浮かべて。
「そうでしょう?なんたって私、“神田ムウ”は────」
冗談みたいな、魔法の言葉を思い浮かべて。
「────不可能を可能にする女の子だよ」
いつもの様に、嘯いた。
そうして、息抜きがてらの与太話を済ませた私と先生は、再びシャーレの仕事を再開した。
時折休憩を進みつつ、片手間にオススメのロボアニメの話をしていた私達は、いつの間にかかなり仲良くなったと思う。
どうやら専用の報酬も出るらしいし……、これなら、いつでも“当番”をしてもいいな。なんて、そんな事を考えながらその日の仕事を進めていった。
そうして。太陽が傾き、夕日が赤く空を染めた頃。ようやくその日の仕事の片が付いた。
「おわっ……たぁー……」
ぐでぇ。と私はテーブルに上半身を突っ伏して体の力を抜く。基本的には溜まっていた書類の対応が殆だったが。とてもではないがこれは一人でやる量ではない。
それどころか、“当番”がいたとしても少しずつ蓄積されていくのではないだろうか?と思わないでもない。……だとすれば、些かシャーレの勤務体制の今後に幾らかの不安は残るか。まあ、今考えても仕方のないことだろう。
「"お疲れ様、ムウ。助かったよ"」
「コレも仕事ですから。気にしなくていいですよー。……っと、ありがとうございます」
私が声をした方に顔だけを向けると、そこには労いの言葉とともに差し出されたコーヒーがあった。
私はそれを受け取って、上体を起こして先生を見た。
「これ、明日以降も“当番”呼ぶんですか?……いくら報酬があるとは言え、かなりの激務ですよねぇ、これ」
「"まあ、そうだね……。さすがに毎日同じ人に頼むのは負担だろうから……ゆくゆくは色んな子達に声をかけて、交代制にする感じに……できるといいなぁ……"」
どこか遠い所をみるような視線で、自信なさげにそんな事を言う先生に、私は冷ややかな視線を送った。
「私は呼ばれたら来ますけど……。他のアテも探しておいてくださいよ?それこそユウカとか」
「"ムウといっしょにいた青い髪の子だよね?……来てくれるかなぁ"」
「多分大丈夫ですよ。ユウカはなんだかんだ面倒見がいいタイプなので。……もしかしたらなんかの用事で向こうから来るかもしれませんし」
「"そうなのかな?"」
「そうです」
この前の戦闘の弾薬費がどうとかで請求の整理でシャーレに云々。みたいな要件で放っておいても来そうな気がするが。
なんて事を考えていると。その瞬間、コツコツと廊下から足音が聞こえてきた。
「……シャーレってセキュリティどうなってるんです?」
「"生徒のみんながいつでも来れるようにはしてるけど"」
「成る程。……となると早速ユウカが来たてりし────」
先生の言葉に、不用心だなぁ。などと思いつつ、だがセキュリティの事まで口出しをするつもりの無い私は、噂をすればと言う言葉通りに、ユウカ辺りが訪ねてきたのだろうと考え。
そして。ガチャリ!と、勢いよく扉が開いた。
「失礼する!」
短い一言と共に現れたのは、金髪のくせ毛を持つ…………いや誰だ君!?
「……おおっ!よもやとは思ったが、やはりここにいたのか!!」
突然現れた、警官のような、軍服の様な服装をした一人の生徒。その姿に私と先生は困惑していると……、彼女は私を見て不気味な笑みを浮かべてズカズカと私へ歩み寄ってきた。
「シャーレの発足を聞き、ここまで足を伸ばした甲斐があったと言うもの……!乙女座の私には、センチメンタリズムな運命を感じすにはいられないな」
なんだかよくわからない、妙に高いテンションのまま、意味のわからない言葉を言いながらその少女は私を見て、こう言った。
「────逢いたかったぞ、神田ムゥ!!」
「ちょっちょっちょっ!誰!?誰なの君!?」
突然のラブ・コール(?)に困惑しない人がいるなら教えてほしい。私は正直今恐怖を覚えていた。
助けを求めて先生の方を見ても、『もしかして、知り合い?』みたいな的はずれな顔をしてこちらを見ているだけだった。ええぃ!頼りにならない!!
「む。……そうだな、初対面の相手に名を名乗らないと言うのは無礼極まりない。非礼を詫びよう」
そうだよ。初対面なんだよ、君と私は今が確かに初対面のハズなんだ。
なのに何故彼女は私の本名をフルネームで知っていて、そう呼びつけたのか、これっぽっちもわかりはしない。非礼だとか無礼だとか失礼だとかじゃなくて、異例なんだよもう。
だが、私のそんな気持ちも知らずに、目の前の少女は真っ直ぐな瞳で私を見て、名乗りを上げる。
「私は、ヴァルキューレ警察学校、航空特別特務部隊、オーバーフラッグ隊隊長……
肩幅に足を開き、妙にはっきりとした姿勢の良さと、ハキハキとした声で。彼女は言い放つ。
「人呼んで────」
「────クラハム・エイカー!!」
これが、私とエイカの、奇妙な縁の始まりだった。
グラハム『は』。出てないでしょう?
ガンダムとグラハムではなく。カンダムゥとクラハム・エイカーです。