ブルアカRTA風味 実績『予定外のハッピーエンド』獲得まで 作:Katarina T
見渡す限り砂しか見えず、どこまで行っても同じ景色が続いていると思わせるほど広大な砂漠。
そんな砂漠の真ん中を、私は一人で歩いていた。
あれ? そういえば、なんで私は一人で砂漠を歩いているんだっけ?
ふと、そんな疑問が頭に浮かぶ。
けれど、気づいたらここにいたということしか分からず、それ以外は何も思い出せなかった。
一体いつから、この場所にいたのだろう。
もう、どのくらいの間歩き続けているのかも分からない。
どうして私は、こんなところにいるんだろう……
どうして私は、まだ歩いているんだろう……
どうして私は……一人なんだろう……
「ああ………寂しいな。」
ポツリと私の口からこぼれたその思いは、きっと誰にも届くことなく、この広い砂の中へと空しく消えていく……
「みつけた。」
────はずだった。
「えっ!?」
突然聞こえた声に驚き、私は声のした方向へ振り向いた。
しかし、振り向いた先には誰の姿もなく、相も変わらず、ただの砂景色が広がっているだけだった。
きっと、さっき聞こえた声はただの幻聴だったのだろう。
「あはは………そう、だよね。」
もしかしたら、という私の淡い期待はあっけなく裏切られた。
もう情けなくて、色々なことが限界で……私は俯き、顔を下げてしまう。
今まで動いてくれていた足が、まるで重りでも付けられたかのように重くなる。もう一歩も動かせない。そんな気さえした。
「……もう、ダメ、なのかな……。私……このまま一人っきりで。」
この砂漠に埋もれて消えていくような感覚が、私の中を支配する。
もう無理だと……もうダメだと……
もう、終わっちゃうんだと……。
私に暗い現実を突き付けてくる。
──そんな私の手を、誰かが掴んだ。
「──ッ!?」
ハッとして俯いていた顔を上げると、目の前に、さっきまでは確かにそこにいなかったはずの人影があった。
私よりも一回り小さな、白い靄のような人影。その子が、私の右手を握っていた。
「え? あ、あっちょっと!?」
その人影は、困惑する私に構うことなく、私の手を引いて走り出した。
私はその子に連れられるように、砂漠の中を駆け出していく。
普通なら怖いと思うだろう。不気味だと感じるだろう。
知らない誰かに手を引かれたところで、付いて行くなんてせず、この手を振り払って逃げるべきなのかもしれない。
でも、不思議と私の中には、そんな気持ちは少しもなかった。
代わりに私の心を満たしていたのは……心地良い安心感と温かさ。
そして──懐かしさ。
どうしてこんなことを思うのか分からないけれど、前にもこうして誰かに手を引いてもらったような気がする。
さっきまで一人で感じていた孤独感は、もう欠片も残っていなかった。
まるで目的地を知っているかのように、自信に満ちた足取りで、私たちは二人で砂漠を駆けていく。
すると、私たちの歩みに呼応するように、周囲の景色が変化し始めた。
目の前に広がっていた砂漠も、頭上に広がっていた空も、まるでガラスのように砕けて消えていく。
世界そのものが壊れていくかのように、景色はどんどん砕けていき、あっという間に、そこは真っ黒な何もない世界へと変わってしまった。
自分が今、ちゃんと立っているのかさえ分からないほどに真っ黒な世界。
普通なら、絶対にあり得ない世界だ。
でも、私は怖くないよ!
今も私の手を握ってくれているその手を、ギュッと強く握り返す。
そこから伝わってくる熱が、私に勇気を分けてくれる!
私が確かにここにいるんだって、教えてくれる!
真っ黒な世界に、一筋の光が差し込んできた。
その光はどんどん大きく、強くなり、私たちのいる世界を照らしていく。
「帰ろう。」
不意に聞こえた声。
さっき聞いたのと同じ声が、私の前から聞こえてくる。
ああ……そっか。
さっきの声も、貴方だったんだ。
白い人影は、いつの間にか黒く長い髪の女の子へと姿を変えていた。
その子は私に、満面の笑みを向ける。
「うん! 帰ろう!!」
その声と手の温もりに背中を押され、私たちは迷うことなく光の中へと飛び込んだ。
***
目が覚めると、そこはベッドの上だった。
どうやら私は眠っていたみたいで、ずっと歩いていた砂漠も、あの真っ黒な空間も、私が見ていた夢だったようだ。
「うぅぅ~~ん……なに、これ? ヘルメット?」
私は頭に被せられていたヘルメットのようなものを外しながら、ゆっくりと起き上がる。
なんだか身体が重いし、声もうまく出せない。
もしかしたら、結構長い間眠っていたのかもしれない。
身体の状態を確かめるように、目の前で手を開いたり閉じたりしてみる。
うん。結構怠いけど、それ以外は問題なさそう。
それにしても、ここはどこなんだろう?
私がそう疑問に思った、その時。
「──おはようございます。」
隣から、誰かの声がした。
私はその声に少しだけ目を見開くと、ゆっくりと隣へ視線を向けた。
「あ……あなたは。」
そこにいたのは、長い黒髪に碧色の瞳をした女の子。
その姿は、あの夢の中で私を引っ張ってくれた少女にそっくりだった。
「体の調子はどう? 不調はない?」
「え……。う、うん。少し体は重いけど、でも大丈夫だよ。」
「そう………。それなら良かった。」
目の前の女の子が、私に向かって話しかけてくる。
なんだろう。
私は今日初めてこの子と会ったはずで、名前さえ知らない子のはず。
なのに………どうして私は、こんなにも懐かしく感じてしまうんだろう。
目の前の子の視線と私の視線が交わる。
お互いの顔をじっと見つめ合う。
その顔は確かに、あの夢の中で出会った女の子にそっくりだった。
でも、表情はあの時とは違って、少し大人びたような薄い笑みを浮かべている。
それなのに、なぜだか私には、その笑みがあの時の笑顔と重なって見えた。
────いや、あの時だけじゃなくて……もっと別の。
私がそんなことを考えていると、その子はスタスタと私のいるベッドから離れ、扉の方へ向かっていく。
「え! ちょっと待って! どこに行くの!?」
私が慌てて呼び止めると、女の子は足を止めてこちらを振り返り、変わらない口調で話し出した。
「貴方が起きたことを伝えに行く。」
「………? 伝えるって誰に?」
「お医者さんか看護師さん。ここは病院。貴方はさっきまで意識不明の昏睡状態だったから。」
「病院!!? 昏睡状態!!? えっ、ちょっと待って! 私、そんな状態だったの!?」
いきなり伝えられた事実に、私の頭はパンク寸前だ。
だって、目が覚めたら見知らぬ場所にいただけでもお腹いっぱいなのに、その上、病院やら昏睡状態やらって………。
ひぃん………もう何が何だかわかんないよ~~。
私がそうして頭を抱えている間にも、女の子は先ほどと同じように部屋から出ていこうとしている。
ああ、待って!
せめてこれだけは言っておかないと!
「ねえ! あの……もしかして、あなたが私を助けてくれたの!?」
「──いいや違う。貴方を助けたのは、アケミチトウハ。私は何もしてない。」
「え? でも貴方は夢で確かに私の手を………。」
「それは夢の話。夢は夢、現実じゃない。───分かったら大人しく寝てる。」
「でも!? …………ううん。分かったよ。」
私はそれ以上、追及するのを止めた。
本当なら、もう少し食い下がりたいところではあるけれど、本人がこう言っているし、これ以上問答を続けても、この子は譲りそうにないから。
それに、私が本当に聞きたいことは他にあるから。
「ねえ。貴方の名前、教えてくれないかな?」
私の問いかけに、女の子はもう一度振り向き、私の方を見た。
少しの沈黙の後、女の子はゆっくりと一度瞳を閉じる。
そして、最初に見た時よりも優しい笑みを浮かべて目を開き、こう言った。
「私は…………アリシア。
ああ………そっか。
………うん。そうだよね。
きっと今は、この言葉が正しいんだ。
「うん………
***
あの女の子、アリシアちゃんは病院の人を呼んでくるために病室を出ていった。
一人っきりになった私は、窓から見える空を眺める。
天気は快晴。雲一つない澄んだ青空が、どこまでも広がっている。
そんな空を眺めながら、私は自身の右手に触れてみた。
あの時、夢の中なのに確かに感じた、あの温かさを思い出す。
………以前にも感じたことのあるような、そんな温かさを。
「───約束、守ってくれたんだね。ありがとう………
私がそう声を漏らすと同時に、瞳から一粒の涙が頬を伝って流れ落ちた。