Muv-luv Apoptosis 〜死者の組織〜(没)   作:干し牛

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『vanitas vanitatum et omnia vanitas
なんという空しさ、なんという空しさ、すべては空しい』


あぁ...すべてが...すべてが虚しい
どんな偉業も
どんな英雄も
いずれは忘れ去られる運命にあるのだ



第一話「月は地獄だ」

--プラトー1:月面総軍司令官室--

 

「失礼します」

 

「ジェスか、入りたまえ」

 

部屋に入ったのは

国連所属の技術者ジェス・ガスフィールド。

そして、彼を迎えたのは

月面総軍司令官J.キャンベルであった。

 

「FP兵器の開発は進んでいるか?」

とキャンベルが尋ねる。

 

ジェスは静かにうなずき、手元の情報端末を操作してキャンベルにレポートを送る

「月面戦闘での優位性を確保するために、新たな設計案が。

装甲材を排除し、軽量化を図ることで生産コストを削減し、供給を増やすことが可能です」

 

キャンベルはレポートを読みながら深く息をついた

「装甲を削るリスクは大きいかもしれんな。

が、現状を考えれば有効かもしれん。試作段階で問題は出ていないか?」

 

「特に問題はありません。

これまでの試験では機動性が向上していることが確認され、BETAへの対抗手段としては有効かと。

まぁ、実際の戦場での試験が必要ではありますが、

これが今後の戦いにおいて重要になると考えております」

 

キャンベルは考え込みながらうなずく

 

「分かった。少量を生産し、前線に送る。

効果が確認されれば、大量生産に移行しよう」

 

ジェスは頷いたが、その表情には影が差していた。

 

その日の夜、ジェスは再びキャンベルの部屋を訪れた。

 

「キャンベル、話がある」

 

とジェスが低い声で言った。

 

「どうした?顔色が悪いぞ」

 

彼らは昔から仲が良い親友であった

親の仕事上、よく一緒にいることが多く

共に幼少期を過ごしていたのだ

 

ジェスは少し黙ってから、口を開いた

 

「実は…この前、奇妙な夢を見た」

 

「夢?どんな夢だ?」

 

「BETAが地球に到達し、人類が滅んでいく未来だ。

それだけじゃない…

その夢の中で、"神"と名乗る存在に出会った」

 

キャンベルは驚き目を見開いた

 

「神だと?」

 

「そうだ。そいつはこう言ったんだ。

『この世界はいずれ滅ぶ運命にある。

それを避けるために

この世界の未来の知識と

別世界の地球の技術を授ける。

それらを駆使して何としてでも悲劇を回避しろ』と。」

 

キャンベルは言葉を失った。冗談を言っているのだと思ったが、彼の目は真剣であった。

 

「となると、その知識がお前が送ってきたハーディマンの設計に反映されているってことか?」

 

「まぁ、そういうことだ。

そして、ヤツが言ったのはそれだけじゃない。

『この世界には"因子"と呼ばれる特殊な性質を持つ人物たちが存在する

彼らを保護し、なるべく多くの命を救えば更にこの世界を救える可能性が高まるかもしれない』と」

 

「馬鹿げた話だ…だが、お前はそれを信じているのか?」

 

ジェスは静かに頷く

 

そのとき、部屋の外から微かな音が響いた。

何かがゆっくりと、だが確実に近づいてくる。

キャンベルの背筋に冷たい汗が流れる。

 

「何だ…?」

キャンベルが声を潜めると、ジェスが眉をひそめた。

だが、次の瞬間、彼の表情が凍りついた。

 

「どうした、ジェス...?」

キャンベルが問いかける間もなく、ジェスの目が見開かれ、口元が震えた。

 

キャンベルがその視線を追うと、部屋の暗がりから、巨大な影がゆっくりと姿を現した。

それは兵士級のBETAだった。

兵士級の目がキャンベルとジェスを捉え、ゆっくりと口を開く

 

「ジェス、逃げろ!」

キャンベルが叫ぶと同時に、BETAも動き出した。

が、ジェスはその場に凍りついたように動けなかった。

まるで、彼の体がその場に縛り付けられているかのように。

 

次の瞬間、BETAの巨大な顎がジェスの頭を一瞬で覆った。鋭い牙がジェスの頭蓋骨に深く食い込み、鈍く嫌な音が部屋中に響き渡る。

キャンベルはその音が骨の砕ける音だと理解した瞬間、体中の血が凍るような感覚に襲われた。

 

「ジェス!」

キャンベルは叫び、化け物から彼を離そうとしたが既に遅かった。兵士級の歯がさらに深く食い込み、ジェスの頭はまるで脆いガラス細工のように、グジュリと音を立てて崩れ始めた。

 

血が、鮮やかな赤が、ジェスの頭部から噴き出し、キャンベルの顔にもかかる。

ジェスの体は激しく痙攣し、両手が無意識に空を掻きむしる。

血と脳漿が飛び散り、床に黒い斑点が出来る。

ジェスの口からは、もはや声にならない呻き声が漏れた。言葉にすらならない、ただの断末魔であった。

 

無慈悲にもBETAはその顎をさらに強く閉じ、ジェスの頭部は最終的に完全に潰された。

砕けた頭蓋骨の破片がキャンベルの足元にまで飛び散り、ジェスの脳漿が床を這い、広がっていく。

ジェスの体は力なく折れ曲がり、その場に崩れ落ちた。

彼の命は、わずかな時間の間に無残にも奪われたのだ。

 

キャンベルはその場に立ち尽くし、目の前の光景を信じることができなかった。

親友であり、戦友であった彼が、あっけなく無情にも目の前で命を奪われた。

すべてが一瞬の出来事であった。

 

キャンベルはその場に膝をつき、両手で頭を抱える。震える指が、自分の髪を引き裂かんばかりに握りしめる。目の前には、もはや原型を留めないジェスの遺体が転がっている。彼の頭部は粉々に砕け、肉と骨の破片が周囲に散らばっていた。

かつてのジェスの面影はもう、どこにも残っていなかった。

 

「ジェス…なぜだ…なぜこんな…」

キャンベルの喉からは、うめき声のような言葉が漏れる。彼は涙を流し、視界がぼやけていく中で、ジェスだった"それ"を見つめる。

彼の視界は涙で滲み、血の匂いがツンと鼻をつく。

 

だが、その問いに答える者はいない。

部屋の中には肉片が散らばり、グチャリグチャリとBETAの咀嚼音が響くのみであった。

キャンベルは、その光景から目を逸らすことができず、かつての戦友が無残にも喰い散らかされた現実を直視するしかなかった。

 

「こんな…こんな結末が、あってたまるか…」

キャンベルは自分に言い聞かせるように呟いたが、その言葉は空虚だった。

 

その時、BETAがキャンベルの方を向く。

彼は反射的に後ずさり、手探りで床に落ちていた銃を掴む。

が、手は震え、銃をしっかりと構えることができなかった。

心臓が激しく脈打ち、冷や汗が額を伝う。

 

「逃げなければ…」

そう思ったものの、キャンベルの体は鉛のように重く、動くことができなかった。目の前のBETAは、ゆっくりゆっくりとキャンベルに近づいてくる。

巨大な顎を開き、再びその獲物に襲いかかろうとしていた。

 

「動け…動け!」

キャンベルは自分にそう念じるが、恐怖と絶望が彼の足を縛りつけていた。先程のジェスの死が、またフラッシュバックしたのだ。

 

BETAがさらに近づき、その影がキャンベルを覆い尽くそうとしたその瞬間、キャンベルはようやく体を動かし、銃の引き金を引いた。

が、奮闘虚しく弾丸は掠りもしなかった。

 

「......俺も...そっちに行くからな」

キャンベルは絶望的な思いを抱きながら、BETAの迫り来る顎を見つめる。親友と同じ運命を辿ることになるのだろうと、彼は悟った。

 

だが、その時、警備兵達が部屋に突入してきた。

ダダダダと兵士たちが一斉にBETAに向けて銃火を浴びせ、BETAは肉塊へと化した。

 

「司令官、大丈夫ですか!」

救援に駆けつけた兵士がキャンベルに声をかけるが、応答はない。

彼には目の前に広がる惨状が目に焼き付き、頭の中は混乱と悲しみでいっぱいだった。

キャンベルはそのまま崩れ落ち、静かに涙を流す。

彼の心には、何も残っていなかった。ただ、深い絶望と、喪失感だけが、彼を支配していた。

 

-----

 

守るべきものを守るために

地球を守るために戦い続けたジェスの努力も

無情にも無駄に終わってしまった。

1973年BETA落着ユニットが喀什に飛来

BETAの地球侵攻を受け、国連航空宇宙総軍司令部はプラトー1の放棄と月面からの全面撤退をすることを宣言した。

あいつが設計したFP兵器も破棄されてしまった。

そして、あいつ自身ももういない。

 

『vanitas vanitatum et omnia vanitas

なんという空しさ、なんという空しさ、すべては空しい』

 

あぁ…全てが...虚しい…

 

彼はその言葉を心の中で繰り返し続けた。

やがて、キャンベルは自分自身の存在が薄れていくのを感じ始めた。

彼の周りの世界が、徐々に遠ざかり、色を失っていく

 

そして一言

 

 

「月は地獄だ」






Q.なぜ兵士級が登場しているのか
→神と接触したジェスを抹消しようと、世界が働きかけた結果室内に突如兵士級が現れました。
尚、警備兵達が室内を制圧しキャンベル司令官を保護した後
そのBETAの死体は無くなっていたそうです。
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