痕
とんっ。
見た目だけは軽やかに俺は飛ぶ。
軽く地面を蹴るだけで、俺の身体は浮き上がる。
パワーの源
悪魔
マダサカラウキカ?
黙れ
オンナヲオソエ、ソノチヲススレ
黙れっ
コロセコロセコロセコロセ、ドウセオソカレハヤカレオマエハヒトヲコロス
黙れ〜っ!
ダンっ!
奴は俺に語りかける、奴が眠る朝まで俺は寝てはいけない。
朝が来るか、こうやって力を使い果たすまで俺は寝てはいけない。
ダンっ!
そしてたどり着いたのは。
ここは、病院?
しかも俺の手が勝手に伸びて窓をそっと開け放つ。
何故俺はこんな所に来た?
窓から来る寒気にクシャミをして、ベットの少女が目を覚ましてしまった。
んにゅ、可愛い欠伸をして目をこすり。
俺の顔を見て囁いた。
サンタさん?
サンタ聖なる者に間違えられた悪魔は思わず沈黙する。
少女は続ける。
サンタさんお願いします、私を。
私のことを。
殺してください
⁈
私もういっぱいがんばったよ?
でもね、もう痛いのは嫌なの。
ひどいよね、見てこのおなか。
パジャマの前を開くとそのおなかには大きすぎる手術痕が三本もあった。
こんなに手術したのにね、私の中はがんさいぼうってのがいっぱいで、もう助からないって先生のお話聞いちゃった。
くっ、俺は思わず目を逸らしてしまう。
そうなの、みんな私から目を逸らすの。
パパママももうあまり来なくなったの。
看護婦さんもあまり近寄らなくなって。
身体もだんだん動かなくなって来てる。
それに今朝なんかね。
お漏らし、しちゃったの。
少女はポロポロと涙を流す。
もう私赤ちゃんじゃないのに、痛くても起きられなかったの。
先に死んじゃった友だちみたいに。
痛くて痛くて痛くて、苦しくて、でも泣いているだけで、何も出来なくて。
そんな風になる前にお願いだから。
私を殺してください。
今まで沈黙していた悪魔が囁きだした。
ドウダ?
コレハコロシテヤルノハムシロジヒトイウヤツダロウ?
コロセコロセコロセチヲチヲチヲチヲチヲナガセ!
俺は彼女に近づいてその小さなクビに手を触れた。
そしてクリスマスの奇跡
俺の悪魔が完全に沈黙をしていた。
悪魔達のパワーだけが残っていた。
俺は手のひらに力と祈りを込めて優しくおなかを撫でて。
そしてクリスマスの奇跡
彼女のおなかから傷が消えて、ガンが消えて。
そしてクリスマスの奇跡。
数週間後、退院した彼女のとなりには俺。
数年後、高校を出た彼女のとなりには俺。
あれから悪魔の声を聞いてはいない。
そして彼女がとなりにいるかぎり、もう聞くことはないだろうという予感があった。
そして、その予感が裏切られることは生涯無かったという。