モンストルでの騒動を解決し、アモスを新しく仲間に加えたレック一行。
船は東へ進み、アークボルト国領南西にある国立港に到着した。
「物騒なとこだなぁー、もう少し歓迎ムードを見せてもいいだろ」
「仕方ありませんよ。最近、アークボルトはピリピリしているみたいですから」
ダーマの書で自分の職業を探しながらハッサンを諭すアモス。
ドックの東西両サイドにある白いレンガ造りの塔の上では弓を持った兵士2人が監視し、海上にもアークボルトの国旗が刻まれた2隻の船が側面についている10門の砲台をいつでも発射できるように準備している。
「アモスさん、ピリピリしていると言っているけど、アークボルトに一体何があったというの?」
「ええ…。実をいうと、アークボルトの近くでとんでもない魔物が出たとか。その魔物が東にある洞窟を住処にして、近づいた人や魔物を見境なく襲うばかりか、北の村につながるトンネルを破壊してしまったとか。討伐隊を出したのですが、返り討ちにあい、世界一の軍事国家のプライドがズタズタに…」
「…アモスさん、最後の言葉は余計だと思うわ…」
確かに、世界一の軍事国家を名乗るアークボルトにとって、戦いに敗れるというのは屈辱的なことかもしれない。
だが、それを口にしてしまったらお終いだ。
「アモスさん、絶対にその言葉を国内で言ったらいけませんよ?」
「では、この布をメインマストと舵に巻いてください」
ドックに船を止めると、さっそくアークボルトの兵士たちが船内のチェックを行った。
そして、魔法陣が描かれた青い布をレックに渡し、それを指定した場所に巻かせた。
「なぁ、あの布ってなんだよ?」
「あれは勝手に出港した際にすぐに大きな音が鳴る魔法陣です。防犯のために停泊した船にはすべてこのような措置をさせていただいております。ですので、勝手にこの布を破壊する、もしくはほどくようなことがあったら、多額の罰金を請求されることになりますので、ご注意ください」
「罰金!?罰金って、どれくらい…??」
「1万ゴールドです」
「えーーー!?そんなにーー!?!?」
驚く5人に対して、全く無表情に兵士がうなずく。
そして、船内からファルシオンと馬車が降りてきた。
「その代わり、船は我々アークボルト兵が責任をもって、無料て管理をします。予算が国内の税金で賄っていますので、あなた方旅人は恵まれていると思っていただかないと…。なお、アークボルト城はここから東に馬車で半日です。お気をつけて」
そういい終わると、兵士は持ち場へ戻っていく。
だが、5人の近くには常に3人近くの兵士が待機しており、常にドック内で監視をする。
「うう、この国早く出たい…」
「同感だ。トム兵士長について、情報を得たらすぐに出よう」
少なくとも、アークボルト西の洞窟よりも北は拠点である城から距離があるため、少なくともここのような過剰な警備はないだろう。
ライフコッドに住んでいたころ、レックはレイドック兵を見たことがあるのは月に1度か2度ほどしかない。
その経験からの判断だ。
ドックを出た後、レック達は馬車を使い、東へ移動を始めた。
途中までは整備された草原を抜けるだけだったが、ドックと城の中間地点にある橋を通過すると、彼らを歓迎したのは広い砂漠だ。
また、踊る宝石やストーンビースト、抜け殻兵にマッドロンといった魔物が襲い掛かるも、戦った経験のある手レック達にとって、敵ではなかった。
また、アモスという新しい仲間もいる。
職業を武闘家に選んだ彼はアモスエッジで頑丈な石でできたストーンビーストを真っ二つに切り裂くだけでなく、時にはモンストラーに変身して地ならしや突撃など、重量を生かした攻撃を行った。
理性の種のおかげで正気が保てているものの、変身はかなり体力を使うらしく、変身後も体が自由に動かなければならないことを考えると、維持できる時間はせいぜい5分程度だ。
そうして、難なくレック達はアークボルト城にたどり着いた。
砂漠のある南の正門のみを唯一の入り口をした、レンガでできた城塞。
剣と呪文の2つを追求した、魔法戦士をスタンダードとした訓練を受けた屈強な兵士たちと最新鋭の大砲などの兵器。
現実世界の北東部に位置するアークボルトは軍事力中心の国家だ。
建国前の、現在ではアークボルト国領となっている土地の大部分が砂漠で、オアシスはわずかしかなく、それをめぐって同じ砂漠に生活する部族たちは激しい戦いを繰り広げた。
そして、剣と呪文を共に使いこなせる兵士を数多く育成し、臨機応変に戦うことができたとある民族がこの砂漠の王者となり、アークボルトを建国したという歴史がある。
その後、3代目の王になってから伝統的なザイ農法を発展させることに成功し、育林が可能となった。
そして、百数十年かけて国領の大部分の緑化に成功した。
なお、城の南側のみを砂漠のままにした理由はその歴史を忘れないようにするため、そして敵は空中を飛んだりしない限りは南側からしか城に潜入できないことから、少しでも動きを鈍らせるためだ。
「よーし、よく頑張ったな。ファルシオン!!」
縄文前に設置されている馬車置き場で、ほし草を食べているファルシオンをハッサンがいたわる。
なお、ここでもドックと同じように、馬車やファルシオンに布がつけられている。
「うーー、ずっと馬車で移動していると体が硬くなりますねー」
ゆっくりと背伸びをし、体を回すアモス。
もともと、徒歩や船で旅をしていたアモスにとって、馬車での移動は必要以上に体を休めてしまう。
それに長時間の馬車での移動は初めてだ。
「まずは宿屋へ行きましょう。あらかじめ部屋を確保しておかないと」
「うん。じゃあまずは城に入…!?」
急にレックは冷たい風を受けたような感覚を受ける。
しかも、同時に誰かに見られているような感じもした。
「おいレック、どうしたんだよ!?」
「ねーねー、どーしたのー??」
ハッサンとバーバラに声をかけられるが、今のレックにはその2人の声は聞こえない。
(誰なんだ?これの根源は…!?)
ムドーが見せたような、絶対的な力による王者の威圧感とは違う。
まるで、氷のような冷たい、何かを見透かすかのような威圧感だ。
プレッシャーが発せられているのは城門まで続く一本道。
そこに目を向けると、茶色い体毛で黒い鞍が装備された若い馬の手綱を握って歩く青い服の剣士の姿があった。
両腰に片手剣の鞘があるものの、右側の鞘には何も入っていない。
おそらく、何らかの理由で折れてしまったのか、なくしてしまったのかもしれない。
(銀色の髪…。そう、もしあの子は生きていたら…)
ふと、ミレーユは彼を見て、自分が奴隷になった後で殺されたと聞いた自分の弟を思い出す。
冷たい目線を除くと、肌や髪の色、そして面影はあまりに彼とうり二つだ。
「あの男のことが気になるか?」
入り口を守る兵士がレック達に声をかける。
藍色で背中にアークボルト国旗が刻まれた、ジャケットコート風の服で、鎧を着ていたドックや他国の兵士とは大違いだ。
これは最近就任した兵士長の方針で、重装備ではなく、機動力を重視した服を基本装備にすることになったためだ。
服に使用されている繊維は魔力によってある程度コーティングされており、鉄製のヘルメットとプロテクターが装備によって、低下し防御力を補っている。
「ねー、兵士さん。あの銀髪の人って?」
「さあな。名前や経歴はわからんが、巷では青い閃光とかなんとか呼ばれている凄腕の剣士だとか。雷光の騎士と呼ばれた我が国の兵士長、ブラストを倒したほどだ。噂以上の力量…恐るべし」
剣士の後姿を見ながら、兵士はいう。
言っている間、その時の戦いを見ていたのか、両拳が震えていた。
「そういえば、おぬしらも腕が立つのか?」
「え…?あ、まぁ、それなりには…」
突然の質問に驚いたレックはあいまいな答えを出す。
一応、4人がかりではあるがムドーを倒したため、普通の旅人以上の力はある。
そんな答えを受けた兵士は6人をじーっとみる。
「うん。あるかないかはこの後調べたらわかる…。今、アークボルトでは強者を求めている。西の洞窟に住み着いている魔物を倒せるくらいの力を持つ強者を。その魔物はわれらアークボルトの軍隊でもかなわなかった相手だ」
「その、もし討伐できたら…」
「討伐の暁には、アークボルトに伝わる名剣、雷鳴の剣を与える」
「雷鳴の剣とは太っ腹な…」
「知ってるのか?アモスさん」
「ええ!雷鳴の剣は昔、魔導士と刀鍛冶が力を合わせて作り上げたといわれる魔剣の1本です。話には聞いていましたが、まさか本当にアークボルトにあったとは…」
武器に呪文の力を宿すというのは並大抵のことではない。
刀身に使われる金属1種類1種類にはどのような魔力と調和するかの相性があり、量産が難しい。
雷鳴の剣のほかに、魔剣があるとしたらそれは破邪の剣、奇跡の剣か過去に勇者が使ったとされる伝説の剣、そして吹雪の剣があるものの、破邪の剣を除き、残り3本は現在も行方が分かっていない。
「けど、俺は…」
確かに雷鳴の剣は魅力的な武器ではあるが、レックはなぜか浮かない表情を見せる。
魔剣であるという前に、父親の形見であるこの剣以外の武器を使いたいとどうしても思えないのだ。
「あーー。もらった時にそんなこと考えりゃあいいだろ?」
「そうよ。それに…王様や兵士長に会う機会があれば、トム兵士長の情報を得られるかもしれないのよ?」
「トム兵士長の…」
ミレーユの言葉で、今の旅の目的を思い出す。
今はトム兵士長を探す必要がある。
そして、王や兵士長であれば、国領の情報をすべて握っていることから、彼の行方に関する情報をつかめるかもしれない。
普通の旅人であれば、簡単に王と会うことができないが、今なら会うチャンスがある。
「ま、魔物討伐…引き受けよ…」
「いや、その前に城内で試験を受けてもらいたい。中途半端な力しかない者があの魔物に挑んでも、死ぬだけだからな。ちなみに、あの剣士もその試験をクリアしたうえで、こうして出発したんだ」
「えーーーっ!?なんでー!?あたしたちは魔お…んーんー!!」
「ま、魔お…?」
「いえ、何でもありません!!」
「んーんー!!」
「ま、まぁいい。仮に試験を受ける気があるなら、城1階中央にある受付場に来てくれ」
そういって、兵士はその場を後にした。
そして、レックはようやくバーバラの口から手を離した。
「もー!息苦しかったーー!!」
「ごめん。けど、俺たちが魔王を倒したってことを言ったら、大騒ぎになるし…」
「では、すぐに試験を受ける準備をしましょう!あ、私には期待しないでくださいね。さすがに屋内で変身するわけにはいかないし…」
アモスの後半の発言を無視するかのように、レック達は城の中へ向かっていく。
「…あのー、さっきのところ、笑ってくれても、もしくはフォローしてくれてもよかったのですが―…」
アークボルト城内には、武器屋などの商店や宿屋、教会などの町の機能がすべて備わっており。更には子供たちが遊べるようなスペースまである。
「さすがはアークボルトね。防衛のことをよく考えてる…」
「でも、ずっと屋内というのはちょっとな…」
感心するミレーユに対して、レックは少し浮かない表情を浮かべる。
外に出るのが当たり前で、羊の毛刈りや猟、農作業といった仕事ばかりライフコッドでしてきたレックにとっては、少し息苦しく思えるのだ。
「では、ここに署名を…」
受付には鼻の頭にやけどの後、右ほおに従事の切り傷のある、白髪のポニーテールでアークボルト兵の服を着た老人がいて、彼に渡された羽ペンを受け取ったレック達が順番にパピルスに名前を書く。
なお、署名欄の隣には出身地を記載する箇所もある。
「なぁ、なんで出身地まで書く必要があるんだ?」
「…。亡くなった場合に、遺体をどこへもっていくのかを知るためです。あくまで試験ですが、なんらかの手違いで受験者が亡くなる…という可能性がないとは言えません故」
「え、ええっ…!?そんなに物騒な試験なのーー!!?」
「まぁ、ここの兵士は血気盛んなうえ、あの魔物の一件でかなりピリピリしております。もしかしたら…あなた方全員、遺体となって故郷へ…」
真剣な表情なうえに、かなり低い声で物騒なことをいう彼に6人がみんな戦慄する。
しかし、すぐに表情を緩める。
「ホッホッホッ!そんなに硬くならなくてもよろしいでしょう。あくまで、冗談…ですじゃ」
「…」
とても冗談に聞こえなかったと言いたかったが、もう既に後ろには参加希望者が並んでいる。
すぐに5人とも住所を書く。
なお、記憶喪失であるバーバラと現実世界の記憶を持たないレックは念のため、レイドックと記載し、アモス自身はクリアベールと書いた。
アモス曰く、クリアベールが彼の故郷らしい。
「これでよろしい。では、第1試験はわしの後ろの扉の先で…」
「よーし、じゃあ行こうぜ!!」
ハッサンが真っ先に扉を開き、試験会場に足を踏み入れる。
そして、急にハッサンの目の前を矢が通る。
「な…!?」
数センチ先に行っていたら、鼻がなくなっていたかもしれないその攻撃に腰を抜かす。
「ほぉ、次の相手はあんたか…」
「ハッサン!!」
レック達が急いでハッサンのそばまで行き、レックが楯を構えながら矢と逆の方向に目を向ける。
しかし、そこには誰もいない。
部屋の中は箱や石の柱など、障害物が多い空間だ。
「第1試験官はここにいるぞ」
「ここ!?」
声がした方向に全員が目を向ける。
自分たちの目の前にある部屋中央の一番高い柱の上だ。
そこには魔法陣が刻まれたクロスボウを持つ、アークボルト兵の服を着た薄い金色の7:3分けの青年がいる。
「俺はガルシア。さあ…誰が俺と戦う?」