本編で暴かれた闇によって高まった公安への不信に付け入り、国家転覆を目論むテロリストの手先となってしまった澤先生の遺族と彼らを止めようとする八神が対峙するお話です。
澤先生の捏造父が登場します。龍が如く7のネタバレもあり。
本当はもうちょっと救いのある後日談も書きたいんだけどメンタル底辺すぎてバッドルートの話しか浮かばない。
ロスジャ最終章の章タイトル、事件を解決した八神達とケジメをつけた桑名にとっては確かに『夜明け前』だけど
「娘が国の身勝手な正義によって恐怖のどん底の中殺された」という残酷な真実を突きつけられる澤先生の遺族からしたらこれからが長い長い夜になるんじゃないかと思うとなんか皮肉めいた章タイトルに感じるのは自分が穿ちすぎなのだろうか?
というわけで(?)アンケート取ってるのでご協力をお願いいたします(土下座)
あー九十九課スピンオフでかつての自分と同じ境遇にいる澤先生の遺族を救う杉浦の話とか出してくれないかなー龍スタさん(チラッチラッ
厚労省事務次官のイジメ加害者殺害、そしてその弱みを握らんとした政敵の意を受けた公安による一般市民殺害という国家の闇が明るみになり、日本は大きく揺れていた。
そのわずか数年前にも近江連合との癒着をはじめとした都知事の数々の不祥事・警視総監の汚職と大きな事件が相次いでおり、元より燻ぶっていた大衆の国家不信は極限へと達していた。
その状況は、国家転覆を狙う反体制組織にとって千載一遇の好機であった。やがて、とあるテロ組織が行動を起こす。その組織は昭和時代に暗躍して多くの事件を起こし、当時の公安の活躍により壊滅した……と思われていたが、息を潜めていた残党たちは水面下で長い時間をかけ、その人心掌握術で徐々に同志を増やしていた。
そして、先の公安の事件を奇貨にした彼らは集めた同志を駆使して大衆を扇動し、東京都で大規模なテロを起こした。やがて、その不信と怨嗟の炎は全国に波及し、夥しい死傷者を出していく。
曲がりなりにも保たれてきた日本の秩序は、皮肉にも公安の失態によって崩壊したのだ———。
「ナベさん、そりゃ何かの間違いじゃないのか?」
八神がそう問いただすと、気だるげな中年男性の声が返ってくる。
「俺も、間違いであってくれと思ってたさ。だが、澤先生の遺族がテロ組織に加わってるのは残念ながら確定だ。それも、『国家権力に踏みつけにされた市民の代表』として連中の旗印として担ぎ上げられてる。まぁ無理もねぇ。娘があんな殺され方して、それが公安の差し金となっちゃ誰も信用できないだろ。それだけでも、動機としちゃ充分すぎる」
全てに疲れ諦めたような渡辺刑事の声色に、八神の感情は逆撫でされる。
「じゃあ、テロリストなら信用できるってか?無関係な人が何人も巻き込まれてんだぞ、なに勝手に納得してんだ!」
「落ち着け八神、俺に怒ってどうなるっていうんだ。誰も納得してるなんて一言も言っちゃいない、ただ今回に関しては警察組織の蒔いた種だ。現に澤先生の件の真相が明るみになってからは、警察からの離職者も相次いでる。それに俺も、公安の圧に屈してしまった身だからな。遺族に対しちゃ、あまり強く言えないのが正直なとこだ」
「それを言うなら、澤先生を守れなかった俺だって同じです。だからって、これ以上犠牲が出るのを見過ごすわけにはいかないだろ?」
「それは勿論だ。俺らも今、全力を尽くしてる。異人町も穏やかじゃないしな。まぁただ少し、愚痴りたくなっただけだ……そろそろいいか、八神?桜井に呼ばれてる」
「分かりました、彼にもよろしく伝えてください。ま、俺によろしく言われてもあっちは困るでしょうけど」
いつも渡辺刑事の隣にいた後輩刑事。若干の口髭をたくわえた、いかにも頭の固そうな顔が否が応でも浮かんでくる。
「フッ、だろうな。あまり無茶はするなよ、探偵」
「そりゃ無理な相談ですよ。それじゃ、また何かあったら」
八神は渡辺刑事との電話を切り、思念に入る。
澤先生の遺族が、テロに加担している。彼女の犠牲と命懸けで向き合ってきた彼にとって余りに受け入れがたい真実に、八神は打ちひしがれた……。
事件が解決してから何度か、澤先生の実家に線香を上げに訪れた事がある。本当はもっと前に出向きたかったのだが、事件直後は調査が最優先だったのもあり到底彼女の葬儀には顔を出せず、また調査が進んでも公安に目をつけられていた為に下手に遺族と接触すれば彼らが危険にさらされてしまう。結局、初めて彼女の実家を訪れ遺族と対面できたのは、その四十九日が過ぎてからだった。それ以降も、事あるごとに遺族を気にかけてきた八神だったが……
「八神さん、うち……引っ越すことになったんです。」
「え……?」
突如、澤先生の父親にそう告げられた八神。
「いろいろきっかけはあるんですが、まずは裁判で負けて終わった事ですね。娘を殺した犯人達には実刑を受けさせることが出来ましたが、国に損害賠償を求める裁判には負けてしまって……。国賠訴訟は勝率が著しく低いとは聞いてましたが、まさか今回のような事でも負けるとは……正直、もう限界に達したんです」
日本の法律は、どこまでも被害者に冷たいという彼の悲憤が感じ取れた。探偵となった今も弁護士バッジを持つ八神としては、耳が痛い話だ。だが、被害者に冷たいのは法律だけではなかった。
「それでも、陽子の育ったこの家だけはどうにか守りたかったんですが、世間やマスコミの好奇の目に耐えきれなくなりましてね……それでこの家を売り払い、誰も私達の事を知らない所に越そうかと」
「そうだったんですか……。すみません、何のお力にもなれず」
「八神さんのせいじゃありませんよ。悪いのは陽子を殺した奴らと、無責任なバッシングをする世間ですから」
どういうわけか、犯罪被害者やその遺族に対して心無い声が向けられる。悲しいかなありふれた話であるが、澤陽子の場合は国家権力や過去のイジメ事件との関連で話題性が高く注目を集めてしまった事、さらに彼女が過去の裁判で抱えていた脛傷により、殊更多くの誹謗中傷が死体蹴りのように浴びせられた。
「敏郎君の遺族に言われるならまだ、ぐうの音も出ませんがね。娘があんな死に方をしてなお、何も知らない連中からああも毎日ネットで罵倒される様なんて……愉快なわけがないでしょう?」
「ええ……お察しします。本当に、何と言ったらいいか……。」
ここ最近ネットでの誹謗中傷を取り締まる法改正が強化されたものの、現状そうしたものに逐一対処できるのは多くの金やコネクションを持つ芸能人や資産家くらいのもので、一般家庭ではせいぜいネットを見ないようにする程度の対策しか取れない。
まして澤家は国との裁判で経済・精神共に疲弊している上、娘同様の真面目で抱え込む人柄が災いしそうした中傷を真っ向から受け止めてしまってよりダメージを受けていた。
「それを見ている内に、街で会う人達まで信じられなくなってきてしまって。こいつらも全員きっと、裏じゃ娘の事を悪く言ってるに違いないって……」
「そんなことある訳……」
「実際、今も陽子は叩かれているんです。そりゃあの直後に比べれば少しはマシになってますが、何かの気まぐれでニュースに取沙汰されるたびに思い出したように娘の死体に鞭打つ連中が出てくるんです。それが毎回なんですよ?」
RKの魔の手から彼女を救えなかった負い目がある八神は、父親の嘆きをただ黙って聞いているしかできなかった。
「そういうわけですので、線香ももう大丈夫です。新しい住所も、どこから漏れるか分かりませんから教えるわけにはいきませんので。娘にもきっと、八神さんのお気持ちは十分伝わってますから……今まで、ありがとうございました」
「待ってください!でしたら、これを」
遺族との接点をなくしては、二度と助ける事ができない。八神は食い下がるように、『八神探偵事務所』と書かれた名刺を渡す。
「もし何かあったら、こちらに連絡ください。俺たちはいつでも、あなた達の味方です。だから……どうか一人で抱え込まないでください」
「ええ、分かりました。改めて、ありがとうございました……」
澤の家から八神に電話がかかることは、それからも一度としてなかった……。
八神が渡辺刑事から、澤先生の遺族がテロに加担している事を聞かされた数日後。
八神の仲間にして同業者である、横浜九十九課所長・九十九から有力な情報がもたらされた。
「澤先生の父親が、桃源郷に?」
桃源郷。かつては高級ソープランドとして名を馳せたが、東城会の抗争に巻き込まれて以降何故か取り壊しもされず十五年以上もそのままになっている廃墟。そこに、澤陽子の父親がテロ組織の構成員と共に潜伏しているという。
「ええ、間違いありません。目的は分かりかねますが、桃源郷は神室町でもわりと目立つ場所です。あえてそこに潜伏するという事は、近いうちに何らかの計画を実行するのかもしれませんな」
「ああ。彼を止めて、テロリストの尻尾を捕まえるなら今しかない。早速向かうよ」
「八神氏、くれぐれもご注意を。相手はテロリスト、何をしでかすか分かりませんぞ」
「了解。ありがとうな、九十九」
八神が電話を切ると、彼の相棒である海藤が神妙な面持ちで話し始める。
「桃源郷か……組にいた時の兄貴分が何度も話題にしてたが、まさか廃墟になってからこんな形で行くことになるとはな」
「俺も助太刀するぜ、八神。テロリストの連中をなんとかしなきゃ、シャルルも商売あがったりだからな」
海藤の弟分・東が口を開く。八神を煙たがりながらもなんだかんだと協力してくれるお人好しだが、今回はれっきとした大義名分がある。というのも、このテロの最中にシャルルで不審物騒ぎがあったのだ。結果的に爆発などはせずテロとの関連も現時点では不明だが、以降安全を優先してシャルルは営業を停止している。従業員の生活、何より店に来てくれる客や子供達の笑顔の為にも、この現状を黙って見ているのは東の仁義が許さなかった。
「ああ、助かるよ。九十九も言ってたけど、相手はテロリストだ。今回ばかりは勝手が違う」
「へっ、誰に言ってるんだ?なぁ東」
「えぇ、海藤の兄貴。この頃退屈してましたからね、何なら血が騒いでるくらいですよ。生きてるって実感が湧いてきます」
「なんか、前も同じような事言ってなかった……?まぁいいや、海藤さんも東も、頼りにしてるよ」
八神は早速、海藤や東と共に桃源郷へ向かう。途中、何度か構成員の妨害を受けながらも四階へ辿り着いた時だった。大勢の構成員が、三人に襲いかかる。
「チッ、こんな暗いとこにどんだけ伏せてやがんだ……!」
「先行け、八神!ここでいつまでもグダグダしてたら逃げられちまうぞ!」
「東の言う通りだ!ここは俺らに任せとけ、ター坊!」
「ああ分かった……じゃあ、またな!」
頼れる二つの背を後ろに、八神は再び走り出した…………。
桃源郷四階奥の部屋。八神は、澤陽子の父親と久方ぶりの対面を果たす。その姿は、最後に会った時よりも更にやつれた印象だった。開口一番、八神は彼に思いの丈をぶつける。
「何かの間違いであってくれ……。ここへ向かいながらずっと、俺はそう思っていました。そして、あなたを目の前にした今もその気持ちは同じです。
……なぁ、いつからテロリストと繋がってた?俺に引っ越すって言った時?いや、もっと前からか?」
八神の問いに、男は答えない。
「何とか答えろ!!なんでだ……何でこんな事を!!」
「決まっているでしょう……娘をゴミのように殺した公安から秩序を奪い、私らと同じ『大事なものを奪われる痛み』を味わってもらうためですよ」
その語り口もまた、最後に会った時よりもずっと草臥れている。まるで誰かに言わされているような抑揚のなさに、違和感を覚えながらも八神は問答を続ける。
「要は意趣返しって事か……そんなんで、相馬や坂東が反省するとでも?きっとあいつらは、ムショん中であんたを逆恨みしてるだけだ。それで痛みを感じるような殊勝な奴だったら、そもそも澤先生は殺されたりなんてしてない。
なぁお願いだ……本当に娘の事思うんなら、今すぐにでも自首してくれ。んな事したって…」
「『澤先生は喜ばない』…と言いたいんでしょう?元弁護士と言うからにはどんな言葉で説得してくれるのかと思ったら、存外ベタな事を言うんですね。正直、ガッカリですよ」
まるで生気のない淡々とした語り口で、娘の無念を晴らした恩人である筈の探偵の言葉を遮る。それに反比例するように、八神の言葉はますます熱を帯びる。
「ベタだろうが何だろうが、俺はあんたの暴走を止めなきゃならない。
俺が真実を追ってきたのは、あんたを犯罪者にする為じゃない!」
「暴走とは人聞きが悪いな、八神さん……。
私たちはただ、腐敗した国に灸を据えようとしてるだけです。もう二度と天下国家の馬鹿げた正義のせいで、陽子のような犠牲を出させないために…」
「その為に、こんなに多くの人を巻き込んでか?世の中の為だと題目掲げて無関係な人間を犠牲にする……それが暴走じゃなきゃ何だって言うんだ!!そんなん、あんたが憎んでる公安のやり方と何が違う!?いい加減目ぇ覚ませ!!」
今度は八神が、澤の父親の語る『正義』を遮り一蹴する。その一喝に動じず、澤の父親は続ける。
「目なら、とっくに覚めてますよ。陽子を殺した犯人が、国家の犬と知ったその時からね……」
そう語る父親の姿は八神の方を向いているものの、焦点の定まらないその視線はどこを見据えているかも分からない。
「いいや、違うな。あんたはその真実に付け入ったテロリストの黒幕に洗脳されてる……今話してるあんたの目見て確信した。でなきゃ、澤先生に似て繊細で優しいあんたが、そんな大それた事できるわけがない」
「違う……私は洗脳などされてない、これは私の意思だ!」
それまで表情を一切変えなかったのが嘘のように、澤の父親が激高する。彼が八神にナイフを向けると、その後ろに控えていた構成員達が、徐々に八神を取り囲んでいく。
「あなたは娘の仇を捕まえてくれた恩人だが、それとこれとは話は別だ。……ここで死んでもらう」
迷いながらも構えを取る八神。今度こそ負の連鎖を断ち切る為にも、ここで死ぬ訳にはいかない。
「あんたがそうするしかないってんなら……俺は何が何でもそれを止める。それが、俺にできるせめてもの償いだ…………行くぞぉ!!」
怒りと涙を振り絞るような八神の叫びと共に、戦いの火蓋は切られた…………。
あの後、澤先生のご遺族は結局
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救われたと思う
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闇堕ちしたと思う
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日本を出たと思う
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分からないけど救われてほしいとは思う
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分からないし、正直別に……。