一日五食食べる配信者の叶星シャノンです。
わたしは小さいころから親にも、今でも周りから雨女と言われています。
修学旅行の度に、
デートの度に、
旅行の度に雨が降ります。
そんな中で思いついたありそうで現実にない話をここに記そうと思います。
お時間あれば
良ければ読んでいってください。
その日も雨だった。雨が降るたびに言われる。
「また雨降ってるよ。お前が雨女だからしょうがないよな。」
もう何回、何千回と過去に聞いた言葉だ。
本当は今日もデートに行く予定で家を出た。
彼と会い、歩き始めて10分もしないうちに雨が降り始めた。彼がまたか、という顔で空を見上げる。
「あ~あ、また雨降ってきたよ。ほんとお前といると毎日雨だよな。」
そう言って、彼は一つ大きなため息をつく。
ため息をつきたいのは私のほうだ、と言いたいところだが、毎回毎回大事な日に限って雨が降るのを見てきた私からすると自分に呆れすぎて、いや、自分が外出する=雨が降る、が当たり前すぎてため息すら出なかった。それくらい、私が外出すると雨が降る。
その日は、デートでもあったけれど、祭りの日でもあった。
一年に一回、三日間だけ行われる祭り。祭りに出演する踊り子たちが一年ずっと練習し、その集大成を発表する日でもあった。しかしこう雨が降っては、祭りも中止になるだろう。
本当は二人で祭りにでも行って、出店を楽しんで夏の思い出作りをするはずだった。
一応行ってみるか、と出店が出ている辺りまで二人で行ってみた。しかしやはり雨が降ってきたため、出店はたたみ始め、踊り子たちも中止であちらそこらで悲しみの表情を浮かべていた。
「あ~あ、やっぱりだめか。ほんと、おまえが雨女のせいで祭りも中止だわ。」
そう、また彼が言った。
なんでこんな彼氏と付き合っているんだ、という人がいるかもしれない。
私もそう思っていた。なんで私はこんな彼と付き合ったんだろう、とたまに思う。でも別れようなんて言えるほどの勇気は私にはなかった。
それに別れてそのあと一人になるのはもっと嫌だった。私は、いうなれば臆病者と言われても仕方のないくらいだと思っていた。
彼がイライラしているのを感じ、私は黙って下を向いて彼の後をついて歩いていた。二人で駅に戻ってきて、この後どうしようか、と話し始めた時だった。
いきなり誰かに肩を思い切りつかまれた。
え、と思う間もなく目の前にぱっと見でわかるほどお怒りな40代くらいのおじさんが立っていた。
何が起こっているのか意味が分からなくて、ぼおっとしていると男性は急に大きな声で彼に言った。
「お前、さっきこの女が雨女って話してたのはほんとか?!」
突然のことに彼がびっくりしたのか、反射的にうんうんと頷く。それを見るなり男性は私を怖い顔でにらみつける。
「今日の祭り、俺の娘が踊り子として出る予定だったんだよ!
一年ずっと練習してきたんだぞ!
せっかくの祭りがお前のせいで雨になったじゃないか!どうしてくれるんだよ!」
怒られた内容が内容なだけに、私は意味が分からなかった。
雨女というだけで赤の他人に怒られる日がこようとは。
「いや、雨女って彼が冗談で言っただけで、本当に私が雨を降らせているわけではないんですけど……。」
一応訂正しては見たが、男性の表情は一切変わらない。それどころかますます怒りに満ちていた。
「冗談だか何だか知らないが、雨女って言われてるのは事実なんだろ?
それだけで今日の祭りの中止はお前のせいなんだよ!!」
……もうめちゃくちゃすぎる。もはや私は何か言い返す気すらだんだん失せてきた。どうしたらいいのか、もうわからない。
「あー……俺帰るわ!じゃ!」
不意に彼はそう言って、逃げるように帰ってしまった。何か嫌な予感を察知したのかもしれない。
先に説明しておこう。この国は、裁判大国だった。
この国に住む人は、何か嫌なことがあるたびに裁判を起こし、それで正義・悪を決めていた。しかし裁判を起こすにもお金はかかる。
結果、お金のある者は当然裁判を起こせる。しかしお金のない者は裁判を起こせないし、負けた時には高額な慰謝料を払わされる。
まさに弱肉強食の国だった。
そしてこの国はSNSが発展していた。人々は何かもめ事を街中で見かけるとすぐに自身のスマホで撮り、SNS拡散するのが常だった。
ニュースで使えそうな画像、映像は高額で買い取られる。そのため、撮られる側が嫌がっても、少しでも良い映像、画像を撮ろうと、人々はすぐに撮り始めるのが常だった。
彼が帰ってしまい、帰ったほうを向いたことで、わたしはようやく周りの野次馬からスマホを向けられ撮られていることに気づいた。
きっと彼は先にこのことに気づいていたのだろう。そして彼が察知した嫌な予感はもう一つあった……。
「おいお前、俺の娘の晴れ舞台をめちゃくちゃにしたんだ!
しっかり裁判で責任取ってもらうぞ!!」
男性は大きな声でそう言い放った。
男性のその言葉に周りの野次馬たちがざわざわと騒ぎ出す。
そのうち誰かが通報したのか、警察までやってきた。
「何があったんですか?」
困った顔で聞く警察に、
「こいつが雨女なせいで俺の娘の晴れ舞台がめちゃくちゃにされたんだ!
お巡りさん、こいつに対して裁判を起こすつもりだから住所と名前聞きだしてくれよ
こいつ教えてくれないんだよ!」
そう言いだした。
いや、まずまだ名前も聞かれてないし何勝手に話を進めてるんだ、と内心憤りはしても、あまり強くも言えなかった。
多分、いや当然、相手の男性は私よりお金持ちだ。ということは、このままいくと私は裁判に負けるし、多額の慰謝料を払う羽目になる。どれだけ暴れても、もうこの先の未来はこの国にいる限り、決まっていた。
結局私は男性に連絡先と名前を教えることになり、その日はとりあえず帰ることになった。しかし、本当の地獄はここからだった……。
次の日、ピンポーンと呼び鈴が鳴り、私は慌てて外へ出た。しかし、外には誰もいない。
(気のせい……?)
首を傾げつつ部屋へ戻り、鍵を閉める。と、5秒も立たないうちにドンドンドンドン!!と背後で強めにドアが叩かれた。
びっくりして思わず部屋の奥に私は逃げてしまった。すると……。
「ここに住んでるのはわかってるんだよ!!
早く出てこい!!この雨女!」
聞いたことのない男性の声だ。
怖すぎて、私は声も出なかった。
「どうせSNS見てるんだろ?
みんながお前の顔を見たがってるぞ!!
出ていって謝罪しろよ!!!」
(SNS……?)
まさか、と思い私は慌ててSNSのアプリを開いた。
そこには……トレンド1位の所に『雨女』の文字が。こわごわ開いてみると、そこには昨日の男性と私の会話が映像だったり画像だったりで大量に載せられていた。
書いてある文章はどれもひどいものだった。中には自分の予定が中止になった原因も私のせいだと書いている人もいた。
そして……。
見ている間にツイートが更新され、その一番上にトレンド『特定』の文字が出てきた。見たくない気持ちと、でも確認しないと、という気持ちで胸の中がざわざわしていた。
震える手で『特定』の欄を押す。と……。
出てきたのは私の個人情報の大方全てだった。一人暮らしなこと、彼氏がいること、実家の住所、今までの学歴、そしてこれから起こされる裁判のこと……。
彼氏の名前まで載せられているのを目にし、私は慌てて彼のプロフィールをタップした。そこには新しい呟きが投稿されていた。
『トレンドにある雨女の件だけど、あいつとはもう付き合っていません。
昨日起こったことはもう知れ渡っていると思うけど、あんな被害すら出すような雨女と付き合っていたら俺の命すら危なそうなので、さっさと別れました~!』
私は、知らないうちに別れられていた。
ショックで頭の中が真っ白になった。彼が、いや、だれも信用できなくなりそうだった。涙も出ないくらい、思考が停止していた。
どれくらい経っただろう? やけに外が騒がしいと気づいた私は、ふと窓のところまで行ってカーテンを開けてしまった・・・・・。
と急に外でシャッター音があちらこちらから聞こえだす。
「いたぞ!!あの雨女だ!やっぱここに住んでる!!!」
外には多くの人がいた。家が特定され、知らない人が窓の階下からこちらへスマホを向けていた。その数、10とか20とかをはるかに超えてもう数えきれないくらいだ。
逃げるようにカーテンを閉め、その場にしゃがみ込む。もう、どうしたらいいかわからなかった。
と、急にスマホが鳴り出した。画面には『母』の文字。それを見て、私は慌てて電話に出た。
「もしもし? 大丈夫?といっても、大丈夫なわけないよね……。」
久しぶりに聞く母の声に、思わず泣きそうになる。久しぶりの電話の内容が内容なだけに、申し訳なかった。実家の住所も特定されていたから、実家にも誰かきっと行っているはずだ。
「お母さんごめんなさい、私のせいで……。」
「こっちは大丈夫、大丈夫だから。強く生きるのよ?私は、大丈夫だから。」
大丈夫と言う声の向こうがガヤガヤ騒がしい。やはり特定された住所を見て、行っている人がいるようだった。
「ありがとう」
そう言って私は電話を切った。と同時に目から涙があふれだした。
なんで、なんでこんなことに……。
まさかこんなことで両親に迷惑をかける日が来るとは思ってもいなかった。
悔しさと訳も分からない恐怖と怒りで、しばらく私は涙が止まらなかった。
それからは怒涛の毎日だった。
裁判の通知が本当に来て、私は裁判に出ることになった。
SNSでは毎日トレンドに私のことが入っていた。
そして……最悪の事態はこれでも当然終わらなかった。
あの事件から数か月が経ち、私の人生は大きく変わった。
まず、裁判に当然負けた。私は『雨女』なせいで例の男性の娘さんの人生をめちゃくちゃにした、とかいうことで1000万円の慰謝料を払うことになってしまった。しかしそんなお金、私が払えるわけがなかった。
私は結果的に1000万円の借金を強制的にすることとなり、両親はその一部を払ってくれた。しかしそれでも、まだ数百万の借金は残っていた。
私の住むところは無くなった。実家には帰れなかった。両親は私を決して責めなかった。帰っておいでとも言ってくれた。しかし私は帰る気はなかった。これ以上、迷惑はかけられない。
SNSではいまだに私の書き込みは大量にあったし、どこに行っても居場所をさらされる。それも考えると実家には帰れなかった。
私の手荷物は少しの現金と、黒いフード付きのパーカーだけになっていた。パーカーは母が、まだ私が実家にいたころに買ってくれたものだった。
夜の1時を回り、その時私がいた街もようやく人が少なくなってきた。しかし、さっきからずっとついてくる人がいる。一定距離でずっと。
私は覚悟を決めるとパーカーのフードをきちんとかぶりなおし、走り出した。私を付けてきていた謎の人物も後ろを走ってくる音がした。
(絶対追いつかれる……)
追いかけてくる足音は、確実に私を追いかけていた。
私は薄暗い高架下を走って通り過ぎ、路地へと逃げていった。
もう、どうなるか私にもわからなかった。ただただ息が切れるまで逃げ続けるしかなかった。すぐそこまで、謎の人物は迫ってきていた……。
私がストーカーに遭ってから1年後、桜が散る季節になった。桜の下には小さなお墓が建てられていた。そこには、私の名前が刻まれていた……。
END