よい子テスト~悪い子は死んでください~ 作:崖の上のジェントルメン
「やべえ、俺なんか訳分かんなくなってきたわ」
海斗が歯を食い縛りながら、腕組みをしていた。
「誰か怪物がわかんねえってことはよ、このルールが正しいかどうかもわかんねえんだろ?なら、もう何を信じればいいんだよ」
「カイト、大丈夫。ここは消去法にしよう」
塩ケ崎さんは黒板のルールに目を配りながら、俺たちへ説明した。
「一旦、このルールは全部本当だと仮定する」
「全部本当?」
「そう。そして、矛盾しているところを潰せばいい」
「矛盾なあ……。俺の頭じゃ、もうさっぱりだよ」
海斗はしんどそうにため息をついた。
「誰がどのルールを発言したかは、今は見ない。まずはルールだけに着目しよう」
そうして、塩ケ崎さんはルールごとに番号を振った。
①六人の中に、一人だけ怪物が紛れました。
②制限時間30分の間に、六人で投票を行い、怪物と思われる一人を処刑してください。
③このルールの書かれた紙は、他人へは見せないでください。
④ノーマルクリア
怪物と思われる一人を処刑すること。プラス4点。
⑤トゥルークリア
(黒塗りされて読めなくなっている)
⑥投票は、部屋の中央にある箱と、人数分の用紙を使用してください。
⑦投票は、必ず行ってください。なお、投票は一度しかできません。
⑧投票にて最多票だった者が処刑されます。なお、最多票が複数いる場合は、処刑は執行されません。
⑨クリア未達成
制限時間内に投票を実施できなかった場合。マイナス7点。
⑩なお、このルールの中には、ひとつだけ嘘が紛れています。
「まず、基本的にはほとんど矛盾しない。全部正しくても筋は通る。問題は、この⑩の嘘ルールについて考えなきゃいけない」
「ね、ねえ、塩ケ崎ちゃん。この⑩の『嘘のルールがある』っていうのが、嘘だったりしない?」
岡本さんからの問いかけに、塩ケ崎さんは「あり得ない」と切り捨てるように答えた。
「それは論理的に成立しない。なぜなら、この⑩は①~⑨の中に嘘があるって示しているから」
「ど、どうして分かるの?」
「そんなのちょっと考えれば分かる。⑩の話が嘘だったら、文章として矛盾が出る」
「そ、そうなのかな?」
岡本さんが眉をひそめると、塩ケ崎さんはだんだんとイライラし始めた。
「どうしてこの矛盾がわからない?早く理解して欲しい」
「ご、ごめん……」
「話が削がれるから、ネネは少し黙ってて」
岡本さんは顔をうつむかせて、悲しそうに目を伏せた。
「お、おいおい塩ケ崎さん、そうキツく言わなくても……」
俺がそう言うと、彼女は険しい顔で「ぼくは余計な情報が錯綜して欲しくないだけ」と告げた。
「無意味な意見は切り捨てる。でないと、間に合わない」
「でも塩ケ崎さん……」
「このままだったら、一番怪しいのはユータロー!だからなんとかして違う結論を出さないといけないの!」
この時、彼女は初めて感情的になった。
「今ここにいるユータローが本当に怪物なら、それは仕方ない。でも、万が一にも間違ったら……ぼくは、ぼくは……絶対に自分を許せない!」
「………………」
「だからみんな、今は静かにしてて!ぼく一人でなんとかするから!考え事の邪魔しないで!」
「塩ケ崎さん」
俺は、興奮する彼女の前に行き、中腰になって、彼女と同じ目線に立った。
「一人で、戦う必要はないよ」
「………………」
「君は確かに頭がいいし、度胸もある。ある程度のことは一人でできちゃうよね。でも、今はそうじゃなくていい。俺たちのことも頼ってくれ。な?」
「……ユータロー」
「俺たち、みんな友だちじゃないか」
「………………」
塩ケ崎さんは、一瞬ハッとした顔をした。そして、口をきゅっとつぐんで、大粒の涙を流し始めた。
「うっ、うううっ、うううっ!」
「………………」
「ユータローが、ユータローが死んじゃったら、ぼく、ぼく、本当に嫌で……!」
「ああ、ありがとう、塩ケ崎さん」
俺がそう言うと、彼女は俺のことをぎゅっと抱き締めてきた。
まるで、親と離ればなれになるのを嫌がる、小さな子どものように。
そんな彼女の背中を、俺はとんとんと軽く叩いた。
「いいんだ、今は少し落ち着くといい」
「ううううっ!!ううううっ!!」
「………………」
俺は彼女のことを抱き締めながら、他のみんなへ目を向けた。
その時、目の合った直樹に、アイコンタクトを送った。俺たちの代わりに話を進行して欲しいというメッセージだ。
直樹はそれを受け取り、こくりと頷いた。
「みんな、塩ケ崎さんの言うとおり、一旦全部のルールを本当だと考えてみよう」
直樹は塩ケ崎さんに代わり、チョークを持って黒板の前に立った。
「そして、この⑩の嘘ルールについて、①~⑩のどれが嘘なのか、考えてみよう。塩ケ崎さんは⑩は論理的にあり得ないと言っていたけど、ひとまず今は、これもあり得るものとして考えてみない?」
「………………」
直樹の言葉に、塩ケ崎さんは頷いた。
「ぼくも、結論を焦ってたから、間違ってる可能性ある……」
「うん、ありがとう塩ケ崎さん」
「うーん、どれが嘘かあ……」
海斗は目を細めて、ルールの一覧を睨んでいた。
「ねえ、ひとついいかしら?」
その時、谷口がまた手を上げた。
「私は、①が怪しいと思うわ」
「①?」
「ええ。『六人の中に、一人だけ怪物が紛れました』とあるけど、これがそもそも嘘だったら?」
「「!」」
「パターンとしては、二つあるわね。『怪物は二人以上いる』と、『そもそも怪物は一人もいない』場合。でも私は、二人以上いるっていうのはおかしいと思うのよ」
「そ、それはどうして?」
直樹の質問に、谷口さんはこう答えた。
「二人以上いる意味が弱いのよ。だって、この投票で処刑できるのは一人だけ。もし二人以上いたとしたら、一人しか処刑できないのもなんだか違和感があるわ」
「なるほど、確かにちょっと変な気がするね」
「だから、もし①が嘘なんだとしたら、『怪物は一人もいない』可能性が高いと思うの」
「うん、その可能性は大いにあるね。よし、この調子で他のも見てみよう」
①六人の中に、一人だけ怪物が紛れました。→嘘の可能性あり。その場合、怪物は一人もいない。
②制限時間30分の間に、六人で投票を行い、怪物と思われる一人を処刑してください。→これが嘘だとテストのルールが定まらないので正しい。
③このルールの書かれた紙は、他人へは見せないでください。→嘘の可能性あり。
④ノーマルクリア
怪物と思われる一人を処刑すること。プラス4点。→保留
⑤トゥルークリア
(黒塗りされて読めなくなっている)→保留
⑥投票は、部屋の中央にある箱と、人数分の用紙を使用してください。→これが嘘だと投票方法が定まらないので正しい。
⑦投票は、必ず行ってください。なお、投票は一度しかできません。→保留
⑧投票にて最多票だった者が処刑されます。なお、最多票が複数いる場合は、処刑は執行されません。→これが嘘だと投票結果の出し方が定まらないので正しい。
⑨クリア未達成
制限時間内に投票を実施できなかった場合。マイナス7点。→保留
⑩なお、このルールの中には、ひとつだけ嘘が紛れています。→保留
「……ふう、少しは絞れたかな?」
直樹は腕で額の汗を拭った。
「さて、ここからさらに絞りたいところだけど……うわっ!?も、もうあと8分しかない!」
直樹は懇願するように、「どうする?優太郎くん」と俺へ目を向けてきた。
「……そう、だな」
正直、整理されていない問題が多い。何が本当で何が嘘かもまだ曖昧だ。
しかし、タイムリミットはもうそこまで来てる。ここでウダウダしてたら詰む。
特に塩ケ崎さんは1点しかないんだ。制限時間を過ぎた瞬間に死んでしまう。
(そうだ、優太郎。ここでこそ俯瞰して見ろ……)
俺がテストの前に、クラスメイトのみんなへ言ったじゃないか。問題を俯瞰して見て、天使が俺たちに何をさせようとしてるか考えろって。
そうだ、天使たち。天使たちは……俺たちの善性を測ってる。そこを重点的に考えるんだ。
「……まず俺が思うのは、⑤のトゥルークリアは必ずあるってことだ」
「トゥルークリア?」
「そうだ。これがよい子テストだってことをメタ的に考えると、ノーマルクリアの『処刑して終わり』は、よい子テストっぽくない。必ず、もっとよい子であることを求めてくるはずだ」
「なるほど、さらに高度なクリア方法があるってことだね?」
「ああ。つまり、『誰も処刑しない選択肢』を取れるかどうかってことじゃないか?」
そこに、海斗が「でもよ優太郎」と言って会話に参加した。
「投票は、絶対しないといけないって書いてあるぜ?これが嘘かどうかわかんねーけど、もしほんとだったらどうすんだよ?」
「そこなんだよな……。それがネックなんだ。誰も殺さずに投票を完結させることができればいいんだが……」
「……あ、あの、すみません」
その時、岡本さんも話に入ってきた。
「⑧は……使えませんか?」
「え?」
「『投票にて最多票だった者が処刑されます。なお、最多票が複数いる場合は、処刑は執行されません』。つまり、みんなで票を分散して、最多票を出さなければ……」
「!なるほど、投票自体はやったけど、処刑される者は決まらない!そこは穴があるかもしれない!」
ここに来て、ようやく希望が出てきた。
か細く、糸のように弱い希望だが、まだ勝てる道があるかもしれない。
制限時間は、残り4分を切っていた。