よい子テスト~悪い子は死んでください~ 作:崖の上のジェントルメン
結局、その日は文化祭の話どころではなくなってしまい、数日後、改めて話し合いの場を設けることになった。
11月6日金曜日、四時間目のことだった。
「えーと、それでは文化祭の出し物について話し合いたいと思います」
以前のように、文化委員の浜田さんが教卓の前に立って、進行を行っていた。
前の時とは違い、今回はちらほらと出し物の意見が集まっていた。
「まあ無難に……出店かな?たこ焼きとか焼きそばみたいな」
「文化祭と言えば、お化け屋敷じゃない?脅かすのも楽しそう」
「いやー、お化け屋敷は止めようよ。よい子テストで怖い思いは死ぬほどしてるし……」
「じゃあ、王道の劇とかは?」
「劇か~。やるとしたら何の話?やっぱシンデレラとか?」
活発……とまではいかないけど、前回の硬直していた雰囲気に比べたら、だいぶ柔らかくなった気がする。それだけでも一歩前進だ。
「えーと、じゃあ……それなりに意見が出たので、まずはどんな出し物をするか、多数決を取りたいと思います」
浜田さんは、みんなから出された出し物の意見を黒板に列挙した。
・出店(焼きそばとか)
・お化け屋敷
・劇
・音楽系(ダンス&バンド)
・合唱
(ふーむ、なるほどなあ……)
個人的な好みは一旦考えずに、やりやすさだけで言うと、合唱は簡単かもしれないな。
他の案と比べて準備するものが格段に少ない。出店のようにお金の計算もいらないし、ダンスのような複雑な練習もいらない。
(まあでも、やるからには面白いやつをやりたいよな)
そんなことを思いながら、俺は黒板に書かれた案をじーっと眺めていた。
「あ、あの、ごめん。あと1個だけいいかな?」
その時、直樹が申し訳なさそうに手をあげた。
浜田さんが「どうぞ」と告げると、直樹はおそるおそるこう言った。
「劇から派生したものなんだけど……映画って、どうかな?」
「映画?」
「そう。僕たちで動画を撮影して、それを編集して映画にするんだ」
この言葉を聞いて、真っ先に反応したのは俺と海斗だった。
「へえ、映画は新しい試みかもな」
「さすが直樹、おもれーな!俺やりてーわ!」
クラスメイトたちも、映画という案は珍しく感じたようで、わりと好感触な印象だった。
ただ、現実的な観点として、浜田さんは直樹へひとつ確認をいれた。
「あの、浅倉くん。映画いいと思うけど、編集とかって上手くできるものなの?」
その疑問に、他のクラスメイトも何人か乗っかった。
「確かに、なんか映画って機材とか必要なイメージあるわ」
「少なくともパソコンいるよね?学校ので編集とかできるのかな?」
そんなみんなの疑問に対し、直樹はこう答えた。
「実は最近、趣味で映像を作ったりしてるんだ」
「え?そうなの?」
「うん、昔から映像方面に興味があってさ。今はスマホ一台あれば結構なんでもできちゃうんだ。アプリで編集できるし、動画も綺麗に撮れるし。案外難しくないよ」
「へ~、凄いね浅倉くん」
「は、ははは、そんなことないって。ただの趣味だよ」
直樹は照れ臭そうに笑っていた。
この思いがけない案は、クラスメイトみんなの心を掴んだ。直樹の説明で、思っていたよりも難しくなさそうだというのを聞けたのも大きかったのだろう。
多数決では、「映画制作」が一番票を獲得した。
「おいおいおいおい!直樹!お前まさかそんな趣味があったのか!」
お昼休みの時間。俺たちはいつものように机をくっつけて、お弁当を食べていた。
海斗は目をキラキラさせて、「なあ!なんかお前が作った映像見せてくれよ!」とせがんでいた。
直樹はまたもや照れ臭そうに、「さ、最近始めたばっかりだから、あんまりクオリティ高くないよ?」と謙遜していた。
「何言ってんだよ!俺は直樹が作ったやつがみてーんだよ!」
熱くぶつかる海斗に並んで、俺も直樹へせがんでみた。
「直樹、俺も観たいぞ!なんか観せれるやつないか?」
「え、ええ?うーん、そうだなあ……」
直樹はポケットからスマホを取り出して、動画の一覧を遡っていた。
「……んと、じゃあ、これはどうかな?」
そうして、直樹はそのスマホを俺たちの机の真ん中に置いて、俺と海斗が観れるようにした。
俺も海斗も身体を前のめりにして、スマホの画面に食いついた。
「「………………」」
俺と海斗は、言葉を失った。
その映像は「チュブラーベルズ」という曲に合わせた、ホラー映画の予告編風の映像だった。
正直言って、ハンパないクオリティだった。
友だち補正もあるかもしれないが、映像として普通に観れるレベルだった。
誰もいない夜の学校、路地裏に見える人影、ほんの少し開かれた扉、チカチカと点滅する街灯……。
どーん!と派手に幽霊や怪物は出てこないのに、嫌な汗が滲んでくる。
選曲もよく、冷たくも物悲しい雰囲気が、作品を包んでいた。
全体的には怖いのに、どこかおしゃれにも見えてしまう。不思議な映像だった。
「……と、まあ、こんな感じ」
動画が終わると、直樹ははにかみながら、スマホをポケットへ戻した。
「え?ちょ、マジ?これお前が作ったの?」
海斗が目をぱちくりさせながら、直樹に聞いた。
「う、うん、まあね」
「やべーーーーー!いやお前これはすげーって!かっけえわ!」
海斗は心底興奮した様子で、直樹の肩をばしばし叩いていた。
俺も海斗に続き、「いやほんとに凄いぞ直樹!」と叫んだ。
「いやー、まさかあんなクオリティ高いとは思わなかったわ!マジの予告編観てるみたいで、一瞬直樹が作ったやつって忘れそうになったぜ!」
「いやマジそれな!やべーわ!すげー!」
「ふ、二人とも、褒めすぎだよ。まだまだ凝ったことできないから、カット割りを細かくして、それっぽく演出しただけだよ」
「それっぽくできてるからすげーんだって!はー!いやあなんかすげー!すげーしか出てこねえ~!」
「はははは!なー!」
海斗も俺も、テンションが上がりすぎて笑いが出てきた。
「何をそんなに盛り上がってるのよ?」
谷口が俺の横に立って、そう尋ねた。
「おお谷口!いやあ直樹の作ったやつが凄くてさ!」
「ああ、さっき言ってた趣味の映像かしら?」
「そうそう!なあ直樹!谷口にも観せてやれよ!」
「え、ええ?うーん……」
直樹は恥ずかしそうに頬を赤らめて、谷口にスマホを渡した。
「………………」
そして、これにはあの谷口も驚いていた。珍しく目を見開いて、食い入るように映像を観ていた。
「ちょ、ちょっと待って。これは、本当にはない映画なのよね?」
「う、うん。映画予告編風の動画ってだけ」
「……凄い、わね。正直びっくりしたわ」
谷口は驚きと微笑みの混じった顔で、直樹にスマホを返した。
「な!谷口、凄かったろ!?」
「ええ、技術も凄いけど、何よりセンスがいいわ。ベタに幽霊を出さずに、緊迫感を演出してる。SNSにあげたらバズるんじゃないかしら?」
「いやいやいや!そんな、僕がSNSだなんて恐れ多いよ……」
直樹は相変わらず謙遜しているが、俺たち三人は少しも疑っていなかった。
(直樹がいたら、今回の映画……絶対すげーのができるぞ!)
胸が踊るとは、こういう時のことを言うのだろう。とにかく、ワクワクして仕方なかった。
まるで遠足前の子どものように、浮き足立つような心持ちだった。