硝煙立ち込める市街地。瞬きの一つもせず、突貫を繰り返す。
足に力を込め、敵の認識を置き去りにして前へ跳ぶ。無防備な脳天を盾の端で撫で、体一つが宙を舞う。勢いのままに回転を付けて盾を投げ、顔面に直撃でさらに一つ。
「次」
一挙動遅れた敵の発砲。先の十数発余りを目視で避け、宙に浮いた堅く重い二つの敵兵を足場に遮蔽に使って後のいくらかを対処。自動車の陰に隠れる。ここらの車は防弾ガラスが標準装備とは言え、遮蔽物としてはやはり心もとない。スモークグレネードを取り出し、ピンを噛んで外し投擲する。手の届く場所に落ちていた適当な瓦礫を拾って放る。
敵が飛来物を警戒し各々遮蔽に隠れるなど反応を示したタイミングで片手で自動車を浮かせ、下から這い出るような格好で飛び出した。煙幕の中を突っ切り、敵に銃口を向ける。敵の数と配置は概ね把握している。細かい物音から姿勢その他についての予測は済んでいる。
「はっ」
腕を滑らせるように動かしながら掌中のショットガンを連射。一つを除いて直撃。腕に痺れるような痛みが走る。ズキズキと側頭部が疼く。片目に汗が入って視界が滲む。熱いような寒いような変な感じがする。体がもう動くなと言っている。しかし体は問題無く動く。上体を傾けつつ全速力で駆けて盾を拾い、横に跳んで、先ほど直撃を避けた敵を盾で殴り上げる。また跳んで、浮いた敵を足場にまた跳んで、遮蔽に隠れていた敵に突撃を仕掛ける。
「っ!」
何かが飛んでくる。手榴弾。
盾が光り青色のハニカム模様が展開され、白色の炸裂を打ち消した。こちらに届く衝撃は肩で抑え込める。足止めにもならない。続く銃撃を盾で全て受け止め、蹴りを胴に入れ、動きが止まったところに銃口を直接当てての一撃で止めを刺す。次はビルの屋上にいる狙撃手だ。
「はあ、はあっ! 次......!」
一歩一歩、仕事を投げ出そうとする膝に力を込め、ビルの壁を駆け上がる。
心が煤に塗れていく。青空に太陽に近づくごとに視界が暗く曇っていく。全身が温度のあやふやな水に沈んでいくような感覚。息が苦しい。だが体は問題無く動く。足は前に、上へ、問題無く動いている。
窓ガラスを爪先で蹴破り、フレームを靴底で踏み潰し跳んで、屋上へ。太陽の穏やかな光が目を刺す。そよ風が肌を刺す。胸元に込み上げてくる嫌な酸っぱさに、目を閉じてうずくまりたくなる衝動に駆られるが我慢する。とっくにからからに乾いた目のすぐ傍で、涙を出す器官がしくしくと痛んだ。
首を傾げ、走り出す。一拍で六歩。七歩目で弾が頬を掠めた。あちらの二発目よりもこちらの蹴りが届く方が早い。蹴りを食らった体が屋上から落ちていった。
「うああああッ」
落ちていく声が遠く、遠く、伸びて。ばらばらと音が聞こえるの同時にヘリの影が見えて。
敵の増援だ。対処しなければ。音が反響して耳をつんざく。頭が痛い。頭が痛い。方向が分からない。目が見えない。
「ホシノ先輩!!!」
「!?」
一瞬で状況は理解できた。今のは夢で、ここは学校の屋上。ヘリなどどこにもいない。月が無表情でこちらを見下している。
「げほっ、げほっ。はあっ」
呼吸の激しさが収まらない。喉が痛みを発し咳が出て、月が明滅する。月の光を遮って、優しい緑色がこちらを覗き込んだ。ジェスチャーを送り、楽な姿勢になるのを手伝ってもらった。
「はあっ! はあっ!」
後輩が背中を撫でてくれる。五分くらい経っただろうか。しばらくしてから息苦しさは楽になった。
「先輩、すごい熱です。もう暗いですし先輩の家までおぶって行きますが、いいですか?」
「うへぇ~~」
力を抜いて後輩に身を任せる。目を閉じて匂いと温もりを感じる。
もう風が何度吹きつけても、受ける肌に痛みは無かった。
「寂しかったらいつでも言って下さいね、言葉にしないと分からない時もありますから」
後輩の背中に乗せた顎を少し引いた。また一つ風が吹いて、なびいた髪が自分の鼻先をくすぐった。
読んでくださりありがとうございます。感謝を。