ヒトミミウマ息子がゆくウマ娘プリティーダービー   作:コウハクまんじゅう

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読者の皆様、新年あけましておめでとうございます。
申し訳ございません、2025年内での完結叶いませんでした…orz
ですがその分、内容は濃密な物となっております故許してくださいorz
最後のお話になります。どうぞごゆるりと。




終章/ To the next stories…

 

 

「源治ー!やったぜ1位だ!!」

 

「あ、ああ、そりゃよかった。」

 

 両耳に手をしっかり当ててガードしても関係なく貫通してくるポッケの声量に気圧される。見るとダンツとカフェも耳をペタリと頭につけた上で手でおさえていた。

 

「2000そこらで走りたかったな。やっぱり中距離が一番走りやすい。」

 

「お、おい、さっき一番で走り抜けた男の子はどこだ!?是非うちのチームに欲しい!」

 

 といった様子でにわかに周りが騒がしくなってきた。想定の範疇ではあったが、あれだけ派手にやったらそうなるか。

 目をつけられないうちにポッケ達と共にそそくさとその場から離れ、リレー前にココアを買った自販機へと移動した。

 

「モテモテだなァ源治。」

 

「冗談じゃねぇ、全く。俺はアスリートで食ってつもりはねぇんだって」

 

 フ、と鼻で笑いながらも、ポッケは財布を出して自販機へと向かった。

 

「代打出てくれた礼に奢るぜ。ダンツもな」

 

「サイダー。」

 

「ええっ、大丈夫だよ、私は…」

 

「いーんだよ。お前らのデートに水差しちまったしな。」

 

「デッ…!?お、お前何言ってんだよポッケ!」

 

 ずっと頭の片隅に追いやっていたが、いまだに消し去ることのできなかった思いを指摘されたように感じ思わず叫ぶ。

 

「ああ?ちげーのか?お前ら傍から見りゃカップルのそれだぞ」

 

「うるせーよ」

 

 怪訝そうな目を向けられながら、投げ渡されたサイダーを開けた。サイダーを飲みながらダンツを見やったが、顔を赤くしながら耳をピコピコさせて時折こちらをちらちらと見てくるだけだった。

 

「ゲン」

 

 喧騒を分けて誰かが近づいてきたと思ったら…

 俺の事をその名で呼ぶ人は、この世で2人しかいない。1人は母さん、もう1人は…

 声のした方向を振り返ってみると、そこには緑の帽子に緑の制服という特徴的な服を着た女性が歩いてきていた。その目にはこちらを優しく見守る暖かい緑の光が輝いていた。

 

「姉貴」

 

「あっ、たづなさん」

 

 俺の姉、駿川たづなその人である。

 

「…もうすっかり大きくなったのね。少し前まで私の後ろをずっとついてきていたのにねぇ」

 

「えっ、源治さんの小さい時ってそうだったんですか!?かわいい…」

 

「へぇー?んだよーかわいいとこあんじゃんか、うりうり」

 

「う、うるせぇよ。姉貴もいつの話してんだよ」

 

 ダンツやカフェからは暖かい目を向けられ、ポッケからニヤニヤしながら肘で突っつかれて小っ恥ずかしくなっていると、姉貴がフフッと小さく笑った。

 

「仲のいい友達も大勢できたみたいで、よかった。こんな弟ですが、これからも仲良くしてあげてくださいね。ゲンの姉としてのお願いです。」

 

 そう言ってペコリと頭を下げた。笑って快く承諾したり、丁寧にお辞儀を返したり、小さく笑って承諾したりと三者三様の反応を見せていた。

 またもや小っ恥ずかしくなってそっぽを向くと、そこには目を丸めたタマとオグリが立っていた。既視感のあるこの光景に、もはやこの後の展開は容易く想像できた。

 

「な、げ、源治、今姉貴て…言うたんか??」

 

「…源治、お姉さんがいたのか?しかも、その人は…」

 

 まさに開いた口が塞がらない、と言った様子で俺と姉貴を交互に見ていた。そんな2人を見て姉貴は小さく笑って口を開く。

 

「オグリキャップさん、タマモクロスさん、こんにちは。まさかお2人もゲンと仲が良かったとは…ええ、そうですよ。」

 

「ああ。俺、姉がいるんだ。今まで黙ってたけどな。」

 

「た、たづなさんが源治のお姉さんなのか?」

 

「そうだ。」

 

な、なんやてぇええ!?(な、なんだって!?)

 

 2人は息をそろえて尻尾をとがらせ、絶叫。

 俺と姉貴は姉弟だが、タマとオグリの2人は姉妹みたいだ。そんなことをぼんやり思う。

 

「おまっ、源…ほんまか!?ほんまにたづなさんがあんたの姉ちゃんなんか!?」

 

「ああ。」

 

「『ああ。』やない!何しれっとえらいこと暴露してんねん!名前の時もそうやったけどなぁ、何でお前はそういう大事な事言わんのや!」

 

「言わなくてもいいかなって…」

 

「言えや!ほんまお前の報連相どないなっとんのや!」

 

 小学生の子供から、弁当が必要な事を当日に知らされた母親の如く怒れるタマ。このままだと小一時間詰められそうな勢いだ。タマの迫力に気圧されていると、マイペースなオグリが入ってきた。

 

「源治はたづなさんがトレセン学園に来る前の姿を知っているのか?」

 

「あ?ああ、まぁな」

 

「たづなさんはトレセン学園に来る前は何をやってい─」

 

「オグリキャップさん。」

 

「うわっ!?」

 

 すると、それまでポッケ達と話をしていた姉貴が音も無くオグリのそばに立っていた。

 オグリは目を丸くしながら「いつの間に…」と驚いているようだった。俺を詰め、当事者ではないタマですらギョッとして怒りが引いたようだ。

 

「イナリワンさんとスーパークリークさんが呼んでいましたよ」

 

「イ、イナリとクリークが?」

 

「ほ、ほなウチらはここで。またなー源治!ほら、行くでオグリ!」

 

 そうしていそいそとオグリを引っ張って行くタマを、ニコニコしながら姉貴は見送っていたが、背中が見えなくなるとあきれたようにため息をついて俺を振り返った。

 

「また名前言ってなかったの?私が姉だって事も言ってよかったのに」

 

「名前は言う機会が無かったし、姉貴のことに関してはほんとに言わなくてもいいかなって思ってた。」

 

「まったく、小さいときから変わらないわね」

 

「あぁ、まあ。」

(タマとオグリを圧だけで引かせた…やっぱ姉貴おっかねぇな)

 

 俺の面倒をよく見てくれる世話焼きな姉としての一面は昔から見てきたが、それと同時に怒ると誰よりも怖い面があることもまた昔から見てきていた。

 今まで見てきた中で一番すごかったのは、姉貴と買い物に出かけた時に絡んできたウマ娘の不良達(7,8人はいた。)をひと睨みで退散させたことだろうか。

 

「じゃあ、私はまだ仕事があるから戻るわ。お祭り楽しんでね」

 

「うーい」

 

 そう言って淑やかな所作で場を後にした姉貴に軽く手を振って見送る。

 

「じゃあ、私達もそろそろ行きましょうか」

 

「ん、おう」

 

 機を見計らって声をかけてきたダンツに頷き返し、歩き出そうとするとポッケが「源治!」と呼び止めてこんな事を訊いてきた。

 

「ホントの所よ、たづなさんって何やってたんだ?スッゲー気になってんだ!秘密にする!誰にもゼッテー言わねぇから、教えてくれ!な?」

 

 両手を合わせ懸命に頭を下げられる。こうも友人から頼まれて何も教えないのも不義理というもの。少しくらいならいいだろうと思い口を開いた。

 

「俺も詳しくは知らねぇ。けど、まだ俺が小さい時に姉貴の部屋に入ったことがあってな。まぁすぐに姉貴がすっ飛んできてつまみ出されたが、部屋にトロフィーが飾られてるのは見えたな。」

 

「トロフィー?たづなさん、昔はアスリートしてたのか?」

 

「さぁな。俺が知ってんのはそこまでだ」

 

 じゃあな、と今度こそポッケに背を向け、ダンツと共に屋台が並ぶ通りへと入った。

 

 

 

 その後、道すがら寄った屋台をその都度楽しみながら学園中をまわった。そうして時間は過ぎて行き、陽は傾きかけちらほらと帰り始める人も出てきた。

 

「さて、時間もいいところだしそろそろ締めと行くか。」

 

「そうですね。何かこう、スッキリと終われる屋台がいいですね」

 

 手にした串カツとにんじん焼きを齧りながら最後の屋台を探す。そうして屋台を探すうちに人通りが少ない所に入った。

 

「あっ、源治さんあそこに何かありますよ」

 

「ん?」

 

 ダンツの指差す方には『表はあっても占い』という看板を掲げ、紫の幕を下ろした屋台があった。

 

「なんだ、あれ」

 

「占い…最後ですし、何か占ってもらうのも面白そうですね」

 

 「怪しげな店」を絵に描いたような屋台に怪訝そうに眉をひそめてみせるが、ダンツは心の琴線に触れたらしく興味があるようだ。

 

「まぁ、ダンツが言うなら行ってみるか」

 

 そうして店に近づくと、いきなり幕をかき分けて何かが飛び出してきた。

 

「い゛や゛ぁ゛、疲゛れ゛ま゛し゛た゛ね゛え゛え゛」

 

「「!?」」

 

 突然現れた何かは学園の制服を身に纏っており、オレンジ色の短髪の間からは同じくオレンジのとんがった耳がニョキっと生えていた。よかった、どうやら学園のウマ娘みたいだ。

 

「ふ、フクキタルさぁ〜ん、待ってくださぃい〜」

 

 そしてその後ろをドタドタと走ってついてくるウマ娘がもう1人。こちらは見覚えがあった。

 

「あれ、メイショウドトウ?」

 

「ふぇっ!?だ、だだ誰─あ、あれ、源治さん?」

 

 こちらに気づいたメイショウドトウは一転して、きょとんとした顔でこちらを見つめてきた。

 彼女とはラーメン屋で一度会ったきりであったが、初対面で強烈過ぎるインパクトを残したので互いにハッキリと覚えている。

 

「こんにちは〜フクキタルちゃんとドトウちゃん。ここでお店やってたんだ」

 

「おお!誰かと思えばダンツさんではないですか!ひょっとして、私たちのお店へ占い、に…」

 

 段々と声が小さくなるのと同時に、いっそやかましいくらい2キラキラと輝く目がこちらをがっしりと捉えた。

 

「…フ」

 

「フ?」

 

「フンギャロオオオオオ!」

 

「!?」

 

「ダンツさんが殿方を連れているうううう!!?」

 

 ポッケに勝るとも劣らない大音声で、奇妙な叫び声を上げるのだった。さっきから耳が痛い。

 

 

 

 

■□■

 

 

 

 

「えー、先程は失礼しました」

 

 しばらく1人で盛り上がっている所をメイショウドトウに幾度となく宥められ、ようやく落ち着きを取り戻したウマ娘─「マチカネフクキタル」。さきほどの特徴的な叫び声や得意と言う占いを鑑みるに、彼女もこのトレセン学園の例に漏れずかなりの個性派であるようだ。

 今は屋台の中で、自分の将来について彼女に占ってもらうところ。

 マチカネフクキタルはコホンと咳ばらいを一つすると、目を閉じてテーブルに置かれた水晶玉に両手をかざした。

 

「ふんにゃか~はんにゃか~#$%‘*;…」

 

 呪文とも念仏とも言い難い何かを発しながら水晶玉をこねくり回すその姿に、ある種の緊張感を抱きながら見守っていると、突然カッと目を開いた。

 

「あなたは今、就きたい職業がありますね?」

 

「…ああ。」

 

 ズバリと言い当てられて一瞬動揺するが、俺と同世代の人の中には既に心に決まった進路や職業を持っている人も少なくないと言い聞かせて心を鎮めた。

 

「源治さん。あなたが考えている進路の運勢は…」

 

 ゴクリ、と反射的に生唾を嚥下した。正直、占いというのを甘く見ていたが、ここまで緊張するとは思わなかった。

 マチカネフクキタルの隣ではメイショウドトウがおどおどして成り行きを見守っている。次の言葉を文字通り固唾を飲んで待っていると、こちらをまっすぐに見据えて口を開いた。

 

 

 

 

「ズバリ、大吉です!そのままあなたの道を行くのが良いと出ています!」

 

 その言葉を聞くと同時に、肩から力が抜けて一気に脱力した。

 

「はあぁぁ~、焦った…」

 

「よ、よかったですぅぅ、救いはありましたぁ~」

 

 別に危機に陥ってはいないのだが、同じく固唾を飲んで見守ってくれていたメイショウドトウも共に喜んでくれた。そうして冷静になってくると、緊張で追いつかなった頭が働き始めてきた。

 

「…え、大吉?」

 

「大吉です!…えっ大吉?」

 

 結果を言い渡した本人でさえ気づいていなかったようだ。慌てて水晶玉をのぞき込み…

 

「大゛吉゛た゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」

 

 大発狂。お陰でリアクションする暇もなく、耳を守ることに専念することになった。

 

「す、すごいです大吉です!源治さん、あなたは強運の持ち主です!最後に大吉を見たのはいつだったか…はぁ~ありがたやありがたや」

 

「わ、わかったわかった」

 

 発狂した後に拝み倒され、勢いに押されっぱなしだが、とにかく自分の進路は明るいということが分かった。わちゃついているマチカネフクキタルに変わり、メイショウドトウ曰く「大吉の方はほんとうに、滅多に現れないんですぅ」とのこと。

 

「だ、大丈夫ですか?何か叫び声が聞こえましたけど…」

 

「ああ、大丈夫。次はダンツな」

 

 大吉発狂を聞きつけ、幕を恐る恐る開いたダンツに平穏無事を伝えた後、マチカネフクキタルに礼を告げて占い屋を出た。聞き耳を立てるのはよくないと考え、離れた所に生えていたウロに腰かけて彼女を待った。

 

 

 

 

 

■□■

 

 

 

 

 

「さて、ダンツさんは何を占いますか?」

 

 椅子に腰かけ、ふぅと息を整える。高鳴る鼓動を抑えて口を開いた。

 

「その、恋愛について…お願いしますっ」

 

「おお、恋愛!やはり先ほどの殿方…源治さんが気になっていると!?」

 

 普段から輝いている目をさらに輝かせ、鼻息荒くずずいっと身を乗り出してきた。

 

「う、うん…」

 

「おぉおおぉおおお!これは早速占わなければ!!」

 

 フンギャロ、フンギャロと興奮しているのを横からドトウちゃんがやんわりと宥め、フクキタルちゃんは水晶玉へと向き直った。

 

「ふんにゃか〜はんにゃか〜…」

 

 しばらく呪文のようなものを唱えながら、水晶玉とにらめっこをしているフクキタルちゃんを見て、緊張できゅっと胸が締め付けられるようだった。

 そうして待っていると、突然カッと目を見開くと「出ましたッ!」と叫んだ。

 

「ど、どうかな…?」

 

 フクキタルちゃんは水晶玉から目を離してこちらを見ると、頬を緩めてにっこり笑ってみせた。

 

「お二人の関係は良好!すぐにでも告白するが吉と出ています!」

 

「す、救いに満ちていますぅう」

 

「ほ、ほんと!?」

 

 思わずこちらも身を乗り出してしまった。フクキタルちゃんは何度も頷いて、占いの結果を確固たるものだと強調している。

 

「よ、よ〜し…!」

 

 占いの後押しもあり、決意を固めた私はお礼を言って屋台を後にした。

 

 

 

 

 

■□■

 

 

 

 

 

 

「源治さーん!お待たせしました!」

 

 屋台の幕をかき分けてダンツが走ってきた。俺はウロから腰を上げてダンツへ向かって歩いた。

 

「おう、占いどうだった?」

 

「えっとぉ…良い感じ、です!」

 

「そっか。ならよかった」

 

 どうやらいい結果だったようだ。頬を赤らめて、目をそらして合わせてくれないのが気になるが。

 

「んじゃ、この後は…」

 

「げ、源治さん!」

 

「ん?」

 

 意を決したように声を上げ、ようやくこちらを向いた。目を見てみると、何かを決意したかのような真剣な目をしていた。

 何か俺に話があることを察し、口をつぐんで続きを待った。

 

「今から、河川敷行きませんか?」

 

 絞り出すような声で、やっと声を出した。

 しばし呆気に取られていると、ダンツが我に返ったように慌てて「す、すみません、遮ってしまって」と謝罪の言葉を口にした。

 

「げ、源治さんは何を言おうとしていたんですか?」

 

 その言葉に俺は気まずそうにポリポリと頭をかくと、ぽつりと言った。

 

「俺も同じ。」

 

 

 

 

■□■

 

 

 

 

 

「わわっ、蹄跡がいっぱいある。」

 

「死ぬほど走り込んだからな」

 

 俺達は、いつも走り込んでいる河川敷のコースへと来ていた。芝には今まで走り込んできた蹄跡が深く刻まれ、どれほど走ってきていたかを雄弁に物語っていた。

 思えば、ウマ娘たちとの縁はフリースタイル時代に会ったポッケとこの河川敷でたまたま知り合ったタマから始まったなと、柄にもなく感傷的になっていると前を行くダンツが突然止まってこっちを向いた。

 

「源治さん。」

 

「ん?」

 

「私、源治さんの事が好きです。」

 

「!?」

 

 突然の事で面食らって思考が止まり、立ち尽くしているとこちらへ歩み寄ってきた。

 

「宝塚記念の前、私が自分に自信がないって弱音を吐いていた時に『諦めない所が取り柄』って言ってくれましたよね。あれ、ほんとうに嬉しかったんです。」

 

 言いながら、俺の隣までやってきた。そして俺はダンツへ、ダンツは俺へ向き合い、お互い正面から相対する事となった。

 

「…実は私、小さい頃はお父さんの転勤で転校を繰り返していて、友達がいなかった…というより、心から繋がって仲良くなった友達を作ることができなくて。自分の事をちゃんと見てくれる人がいなかったんです。」

 

 だから、トレセン学園に入って自分を見てもらえる『主役』になりたかったと、ダンツの独白は続く。

 

「けど、トレセン学園に入ってもすごい子たちばかりで…同期のみんなに埋もれて、私を見てくれる人なんかいないって焦っていたんです。でも、そんな時に私をちゃんと見てくれたのがあなただったんです。」

 

 そこで言葉を切り、言葉を選ぶように目を迷わせていたが、キュッと口を引き結ぶと勢いよく頭を下げた。

 

「お願いします!私と…付き合ってください!」

 

「……」

 

 沈黙が互いの間を流れる。

 しばらくの時を置いて、俺は気まずそうに口を開く。

 

「あー…っと」

 

 ダンツはびくりと体を震わせ、不安そうに耳と尻尾を揺れ動かしている。俺はやかましく鳴る鼓動に耐えながら、言葉を紡いだ。

 

「…先に言わせちゃったな。」

 

「…えっ」

 

 あっけに取られた様子で顔を上げたダンツは、目を丸くしてこちらを見つめる。

 

「…最初に気づいたのは、宝塚でダンツが走っている姿を見た時だったな。思い返せば一目惚れだったんだな…あんまこういうの得意じゃねーから、一回だけな。」

 

 そっぽを向いて頬をポリポリと引っ掻き、頭を掻いた後にダンツとしっかり向き合った。

 

「ダンツ。お前が好きだ。こんな俺でよけりゃ…どうか、付き合ってください」

 

 深々と頭を下げ、右手を差し出す。

 正直、心臓バクバク頭真っ白でいつぶっ倒れてもおかしくない。またもや沈黙が場を支配し、今度は俺が不安と緊張に襲われる事になった。

 

「……」

 

 不意に、手を暖かな感触が包み込んだ。

 びくりと体を震わせて恐る恐る顔を上げると、そこには涙を零しながら満面の笑みを浮かべたダンツがいた。

 

「はいっ…はい!喜んで!!」

 

 斜陽の光が差し込む河川敷に、2つの影が重なった。

 

 

 

 

■□■

 

 

 

 

 

「はっ…はっ…はっ…」 

 

 まだ街も起きる気配を見せない早朝に、一人の男が河川敷を走り込んでいた。

 男が駆ける芝には無数の蹄跡が深く刻まれており、幾度か慣らされた跡も見受けられたが、それでも残っている。

 

「ふっ…!」

 

 一度気合を入れて加速するだけで、飛ぶような速さで男は駆け抜けていった。走るのを純粋に楽しむその様子は、まるでウマ娘のようであった。

 男はそのまま河川敷の芝生を素晴らしいスピードで駆け抜けていたが、前方から何かが近づいてきていた。

 

「ハァッ…!」

 

 滑らかに輝く栗色の長髪を靡かせ、男に勝るとも劣らないスピードで前から突っ込んできた。

 しかし、互いにコーナーに差し掛かってしまっていた事と見通しの悪さから、目の前に現れるまでお互いに気づかなかった。

 

「うおっ!?」

 

「きゃぁぁああ!?」

 

 コーナーを曲がっている最中に突然現れた人物にお互い仰天し、男の方は迷わず河川敷の斜面へと飛び上がり、少女もまた進路を河川敷の斜面へと急転換した。

 

「うおっとっと…」

 

「はぁ…はぁ…ビックリした…」

 

 男は躓きながらもなんとか着地。少女も斜面を駆け上がったことで減速し、止まった。

 

「す、すみません、気づかなくって…怪我はないですか?」

 

「いや、見通しも悪かったしな…俺は全然大丈夫だ。君こそ怪我は無いか?」

 

「はい」

 

 互いにペコペコと頭を下げながら、少女は冷静になってきた頭である違和感を覚えた。

 

(あれ?さっき、この人ウマ娘並みに速かった…?)

 

 思い返せば、彼の立っている場所はジャンプした地点から3メートル近くはある。到底常人の為せる事ではない、と聡明な少女の頭はさきほどから一転して目の前の男を疑い始めていた。

 

「この時間帯なら誰もいないと思ってたんだが…君、随分と努力家なんだな」

 

「あぁ、いえ、全て勝つためですから…って、あれ?そのバッジ…」

 

「ん?あぁ、これ?」

 

 いくつもの疑問が生じたが、男の襟元に輝くバッジを見て意識が思考と疑いの渦から引っ張り出された。

 男は薬指に指輪をした左手で、バッジを掴んで少女に見せた。

 

「見ての通り、トレセンのトレーナーだ。こないだ修ぎょ…研修が終わってな。見た所、君はトレセン学園のウマ娘かな?」

 

 どうやら、男はトレセン学園のトレーナーのようであった。少女はトレセン学園指定のジャージを着ていたので一目見て分かったようだ。

 

「はい。まだデビュー前で、来週開催される選抜レースに向けて鍛えています。」

 

「デビュー前…奇遇だな、実は俺も丁度担当がいなくてね。そうか、来週選抜レースか…」

 

 男は確かめるように呟くと「こうして会ったのも何かの縁だ」と言って、来週の選抜レースを見に来ると言った。

 

「じゃあ、楽しみにしていてください。私は来週の選抜レース、必ず勝ちますから。」

 

「はっはは、実力者が大勢集まる選抜レースで自信満々に勝利宣言か。これは随分な大物と出会ったもんだ…ところで、名前は?」

 

 栗毛の少女は、数多の星と自信を映す瞳を以て男を見据える。ふいに一陣の暖かい風が2人の間を吹き抜けた。

 春一番。新たな季節の訪れを告げる風とともに、少女は己の名を口にする。

 

 

 

「アーモンドアイよ。あなたの名前は?」

 

 栗毛の少女はさも当然、と言わんばかりに男の名を訊ねる。

 男は登りかけてきた太陽から受ける暁光を背に、たった一言短く口にした。

 

「駿川源治。」

 

 

 





ということで、本編完結しました!
見切り発車の勢い任せで始まった拙作が、ここまで評価されるとは当初は微塵も思いませんでした。付き合ってくださった読者の皆様方、本当にありかとうございました!

我々が観測出来るのはここまでになりますが、彼の物語自体は続いていくのでこのような終わり方になりました。
以下は本編に入り切らなかった設定や空白部分などです。ここまで付き合ってくださった読者の皆様への特典みたいな感じです。面白いぞ!(雑なプレゼン)
↓↓↓


源治はスティルトレの助言で、サブトレーナー(トレーナー見習い)としてトレセン学園に入った。そして、スティルとスティルトレのコネで、ジェンティルトレ率いるチームに一年間研修に行っていた。(二人にはたづなが事情を説明済み。)

満期除隊…もとい任期を終えた源治曰く、「たくさん世話になったし、礼も言い足りないが二度と行きたくない」とのこと。しかし、たまにチームへ差し入れと共に挨拶に行ったり、ジェントレとジェンティルが不在の間はチームを任されたり、ジェントレとはオフ日に筋トレやバスケに興じ、サシで飲みに行ったりするなど仲は良好な模様。
研修中、源治は貴婦人に割と気に入られていたようで、並走に付き合わされたり、貴婦人自ら筋トレの指南をしたりしていた。研修の期間が終わりに近づいてきた時には何とかして囲い込めないものかと思案していたとかしていないとか。

ダンツとはトレーナー試験合格の通知が来た日に源治の方からプロポーズした。当時、源治がダンツにプロポーズしたと聞いて、ダンツ及び源治の友人達は蜂の巣をひっくり返したような騒ぎになったという。

源治と一緒のチームで頑張るため、今はダンツもトレーナーになるべく勉強中だそうだ。なお内心では、源治が他のウマ娘に言い寄られていないか不安な様子。

本編の最後に出てきた、後に彼の担当ウマ娘となるアーモンドアイとは、専属トレーナー兼ライバル兼師匠的存在として彼女にいい刺激を与えていたそうな。
なお、某アーモンドアイを溺愛する先輩ウマ娘からは「私のアイちゃんはあげないしぃ!?」としょっちゅう追いかけ回され、その度にチームアスケラのトレーナーと一流ウマ娘から詫びられていたとか。なお、なんの因果か、後にそのチームアスケラにアーモンドアイと共に加入するのはまた別のお話である。

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