フリーゲーム「四月馬鹿達の宴」に関して思いついた概念があったので備忘録的な投稿。誰かもっと素晴らしい文章力の持ち主にこの概念を出力していただきたく思う。

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それをくれたのは

 冒険と夢物語を取り戻すため、そして1人の女の子を救うために戦ったあの日から数日が経ったある日のこと。

 『あなた』とシルクちゃんは再び顔を合わせていた。

 

「いや……なんというかまだちょっと気恥ずかしいね。やっぱり盛大に暴れて次の日にはスッキリ気分一新!なんて出来るのは子どもだけの特権なんだろうね。そして、未だに思い出す度に身悶えしてしまう私はもう子どもではないらしい」

 

 たしかに自分が逆の立場だったら思い出しただけで顔から火が噴き出そうだなと『あなた』は思う。あんな格好で塔の頂上で大暴れはちょっと真似できそうにない。

 そんな風にあの時の事を思い返してジト目で見つめてきた『あなた』に対してバツが悪そうにうめく。

 

「……なんかすごく失礼な事を思われてる気配がするけど、自分がやらかした事を思うと何もいえないな。あの空想塔は私の『そうぞう』そのものでまるで家にいるような安心感があったのだけど、それもあって心が大きくなっていたというのも否定できない。魔法の本当の名前を思い出した私ならなんだって出来ると思っていたのもあるだろうけど」

 

 本当の名前……そういえば、と『あなた』は尋ねる。

 

「……え、結局私の本当の名前を聞きそびれているって?あの時言ったじゃないか。全ては一夜の夢になってしまった、と」

 

 ……?答えになっていない。

 

 Q.君の名前は?

 A.夢になった

 

 ……というのはあまりにも脈絡がなさすぎるように思う。まさか本当に夢のように消えてしまったわけでもないだろうに。

 

「まぁたしかに私にだって、この忘却の国での所謂本名ってやつは持ち合わせているさ。だけど、あの時言いたかったのはそう単純な話じゃないんだ。……君は気づいているかい?あの日冒険していた君の名前は貰い物だってこと」

 

 ……。

 

「きっと何処かの誰かが……あぁ、君の親って事じゃなくて本当に姿形も分からない誰かがくれた名前。今の私達が呼ぶ事が叶わない名前。あの時の私達にはどんな意味を持つのか分からなかった名前。そして、誰かにとっては誰かにとっては大切な意味を持つであろう名前。それがあの時の君が持っていたものだ。……いや、きっと今でもその誰かなら名前を呼べるんだろうさ」

 

 『あなた』がずっと大切にしていたもの。それが『あなた』の名前。あなたがくれた名前。だけど、それがシルクちゃんの名前となんの関係があるのだろうか?

 

「いや、そう難しい話でもないさ。思えば私だってあの世界で名前を貰っていたな、とそう思ったんだ……。

 ……あぁ、別に君みたいな形で名前を貰った訳じゃない。だけど確かに誰かから貰っていたんだろうなと思うんだ」

 

 シルクちゃんが名前を……貰っていた?

 

「単純な話さ。私は一度も名乗っていなかった。だから君達にとっては私はシルクハットの少女という以上には説明しようがない存在で、それゆえに呼びようのない人間だった、はずだ。だけどいつの間にか君達は私の呼び名を決めていた。そう、『シルクちゃん』という呼び名をね」

 

 それはただ、見た目からとりあえずの呼び名をつけただけじゃないかと『あなた』は思うも、シルクちゃんは大袈裟に首を横に振り否定する。

 

「君達にとってはそうかもしれない。だけど私にとってはそうじゃない。最初に私がそう呼ばれたのは……お菓子の国だったかな。あの時はそれどころじゃなかったけど、実は結構嬉しかったんだ。年甲斐もなくはしゃぎそうになるくらいには」

 

 正直、呼び名をつけられたぐらいでそんなに喜ぶ事なんだろうか、それも見た目まんまのとりあえず感の漂う名前を。

 

「まぁ、確かに見たまんまの名前だったけど……それでもあの世界で貰った名前っていうのが大切なんだよ。名前というのはその世界での自分を定義するものだ。つまり……私はあの時初めてあの世界での自分を見つけることが出来たんだ。この嬉しさ、他ならぬ君なら分かってくれるだろう?名前を貰って、世界壁の向こうから見つけ出してもらえた君になら」

 

 ……説明されてみれば、当然のことだと納得するしかなかった。名前をもらうということは……その世界での自分を見つけてもらえるというのはとても得難いものだという事をきっと『あなた』はこの世界の誰よりも知っているのだから。

 

「つまりはね、あの世界から出てきてしまった私にとって『シルクちゃん』は一夜の夢になってしまったということさ。短い間とはいえ、自分そのものを表していたものを無くしてしまったんだ。正直今でも少し寂しいな……と思ってたんだけどね?」

 

 だけどね?

 

「再開した君が変わらず『シルクちゃん』と読んでくれた時……嬉しかったんだ。それはこの世界での私を示す名前じゃない。だけど君がそう呼んでくれるなら、私は君の前でだけあの世界の『シルクちゃん』でいられる。……正直、未練がましいなと我ながら呆れてしまうけれど、これが正直な気持ちなんだ」

 

 気恥ずかしそうに、でも喜びを隠しきれずにそう話すシルクちゃんを見た『あなた』は、きっと本当の名前を知っても彼女のことを『シルクちゃん』と呼ぶんだろうな、とそうぞうするのだった。




『あなた』の名前は貰った名前
→『シルクちゃん』も貰った名前なのでは?
という与太話です。

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