見向きもされていない、ひまわりを見つけて
配属前の、ひまわりの前でのある事を思い出す。
某所に投稿したフブキのSSです。
「あっつい・・・なんでこんな日差しに外仕事なの・・・?」
朝のニュースでキヴォトス最高気温なんてキャスターが言っていたのを思い出す。
今日は、D.U.地区でモモフレンズのイベントがあるため
イベント会社のスタッフ以外にも私たち、生活安全局が駆り出されていた。
「イベント会社から人が来てるなら、私たちがいる必要ないと思うけど?」
「フブキ、いつ何があるか分からないのですから
私たち生活安全局にお声がかかったんですよ。」
「それに、市民を助けるのは我々警察官の責務ですよ!」
いっしょに行動していたキリノに漏れ出たぼやきを窘められる。
相変わらずの殊勝な心がけは、今日の暑さとあいまって私のやる気をどんどん奪う。
イベントが開始して、まだ1時間も経っておらず私は巡回警備をどうやって
切り上げようかと思案していると、スタッフの1人がこちらに駆け寄ってきた。
どうやら、この暑さでグリーティングスタッフが熱中症で倒れてしまい、
助っ人になってくれないかと近くにいた私たちに応援を頼んだ。
めんどくさぁと表情を隠しもせず、私とキリノはスタッフに連れられ
イベント本部まで歩く、適当な理由つけて本部の冷房で涼んでようかなと
考えながら会場の外周を進んでいると、花壇に咲くひまわりの群れが目に入った。
ひまわりは太陽があるほうへ目を向ける。
ここに来ている人たちもひまわりのように、モモフレンズがいる方に目を向けている。
誰もが誰かを見ている。私は、生活安全局に配属されるずっと前のことが蘇る。
「あっつい・・・、こんな日に野外合宿なんて最悪だよぉ~。」
固いベンチに体を溶かし、どうしてこんなめんどくさいことをと天を仰ぐ。
隣に置いていたポータブルラジオからは、
ここ一週間で最高気温を記録していると流れてきた。
訓練を適当付けて切り上げ、1人休める穴場を見つけたはいいけど
青空という天井しかないここは、サボりを痛めつけるのに絶好の場所だったみたいだ。
目の前に咲き誇るひまわり達は私の後ろで、さんさんと照らす太陽を眺めている。
私にはそれが、サボっている私を罰する大きな目に見えた。
見つかったらめんどうだなぁ・・・言い訳どうしようか。とうんざりしていると
1つの影が私を刺した。
「ひまわりに見守られながらサボりか。贅沢な見張りだな・・・」
「お姉さん・・・」
一息つきながら私の隣に腰を下ろした
着崩したパンツスタイルのヴァルキューレ制服を着たお姉さんは、
私の先輩にあたる人らしいが、実は所属も名前も知らない。
今みたいにサボっていたら偶然知り合って、それからお姉さんと呼んで
たまに世間話をする仲になっている。
お姉さんは深くため息を吐いて、私と同じようにベンチに体を預け天を仰ぐ。
その横顔は以前、会った時よりもとても疲れているみたいだった。
私の視線に気づいたお姉さんは私と一瞬、目を合わせ反対側に体をよじる。
「差し入れだ。」
「ドーナッツ・・・!!」
お姉さんは、私との間にマスタードーナッツの箱とたっぷりの氷が入った
アイスコーヒーのプラカップを置いた。
ドーナッツに手が伸びる気持ちを抑え、まずは乾いた喉を潤すために
アイスコーヒーに口をつける。
結露したカップの水滴が気持ちよく、口に広がる酸味とほのかな苦みが
心地よく鼻孔を吹き抜ける。
次はドーナッツと手を伸ばすと、お姉さんがコーヒーよりも渋かった表情を崩して
幼い子供を見守るような目で私の事を見ていた。
気恥ずかしくなって、伸びた手を引っ込めそうになるけど
それはそれとして、差し入れなのだからありがたく頂戴する。
「お前は、どうしてヴァルキューレに入ろうと思ったんだ?」
オールドファッションとコーヒーの王道コンビを再確認していると
普段のお姉さんからは、あまり聞かれない質問をされた。
お姉さんの声が何処までも平坦なのが少し気になったけど、
隠すことでもないから素直に答える。
「公務員になったら将来安泰、めんどうなことはマニュアルに従って右から左。
のんびり仕事ができるでしょ~。」
「そうか・・・随分と夢みてるんだな。」
「・・・もしかして、ヴァルキューレに入学するのを止めたいの?」
お姉さんは何も答えず、コーヒーを一口飲みこんだ。
肯定の意思表示には十分だった。
ラジオからは、知らないDJが知らないアーティストの知らないタイトルを流し始めた。
「この仕事をしていると、見たくないものも見られたくないものも
充分すぎるくらいに経験することになる。」
「フブキ、ヴァルキューレ警察学校に夢を見るのは止めておけ。」
変わらない平坦な口調、だけどとても疲れた声だった。
いつもの私だったら、めんどうそうな話題は蛇が顔を出す前にやめていたけど。
今日だけはその先を知りたくなった。
ドーナッツを貰った代わりに愚痴吐きに付き合ってあげるというのを言い訳に。
「配属された局によって違う気がするけど・・・
例えば生活安全局は?」
「生活安全局は止めておけ。
身内と市民の、体のいい使いっぱしりだ。」
「警備局」
「警備局は止めておけ。
威勢の割に腰が重すぎる。」
「公安局」
「公安局も止めておけ。
24時間、犯罪とのイタチごっこだ」
「捜査局」
「止めておけ。
・・・疲れるだけだ。」
お姉さんはドーナッツを一口齧ると、美味いな。と呟いた。
「犯罪も市民も身勝手なものだ。
お前も、見つける事に見られる事にうんざりする前に
転校手続きでもするんだな。」
「友人と喋り、授業を受け、不満と不自由を享受する。
うんざりするが、それこそが学生だ。」
警察、市民の安全を守り犯罪を無くすために日夜奔走する公権力の番犬。
だけど、それは権力という鎖に市民という姿見に常に縛られている。
きっとお姉さんには、私が感じた以上に目の前のひまわりにさえ
“見られている”と感じているのだと思う。
正直、ここまでめんどうな感情をお姉さんが抱えているとは思わなかった。
このまま、そっか。ってあっけなく流すのは簡単だけど、
ドーナッツ、貰っちゃったしね~。
ドーナッツを手の中でくるりと回して、真ん中の穴を覗く。
目の前のひまわりと目が合った。
「お姉さんは、真面目過ぎるんだよ。
もっと肩の力抜いて、リラックスした方がいいよ~。」
「・・・」
ドーナッツを持ったまま横を向く。
穴の向こうには、疲れ果て今にも縮こまってしまいそうな女の子がいた。
「警察官も市民も犯罪者も、このドーナッツから覗いた景色みたいに、
ひとつの限られた側面からしか見てないと思うよ~。」
「だーかーらぁ・・・」
私とお姉さんの間を遮るドーナッツを避ける。
「誰もが見えないところで、自由にサボろうよ~。お姉さん。」
横に避けたドーナッツの穴からはひまわりが太陽のように顔を出していた。
「そうか・・・、真面目過ぎたのか・・・」
お姉さんは一瞬目を丸くした後、隠すように目を伏せ私から視線を外した。
顔を上げたお姉さんの表情は、ひまわりのようにとても晴れやかに見えた。
「つ、疲れたぁ、もう今日の業務終わり・・・」
「ダメですよフブキ、報告書の作成が残ってますよ。」
「え~・・・」
イベントは何事もなく終わり、私たちは生活安全局本部に戻ってきた。
事務所の扉を開けると、待機していた同僚とアロハシャツを着た
銀髪の女性が話していた。
「入れ違いになってしまいましたね。」
「えー、あの人どこでサボってるんすか。」
どうやら生活安全局に用事があったという訳ではなさそうだ。
一応、挨拶もかねてキリノは同僚と話していたコノカ公安局副局長に事情を聞きにいった。
「どうされました?」
「書類確認で捜査局局長にお伺いたてなきゃいけなくてさ。
生活安全局に来てるって聞いたから来たんすけど・・・」
「ちょうど、入れ違いになってしまったみたいで・・・。」
めんどうそうな事じゃなくて良かったと自分の席に座ると、
いつもよく見る箱が机の上に、それどころか隣の机にも置いてある。
「捜査局局長から、外で頑張ってるみなさんに差し入れだそうです。」
その一言で、私含め外仕事していた同僚は色めき立つ。
みんな仕事の後始末そっちのけで、ドーナッツを食べる準備をし始める。
キリノが仕事が先と真面目な正論を適当に諭して、
私もサボらず仕事をしたご褒美のドーナッツタイムを楽しむことにする。
「そういえば、捜査局局長ってどんな方なのですか?」
「仕事は優秀っすけど、結構なサボり魔っす。
昔はそんなことも無い真面目な人物って聞いたことが・・・」
「あたしもドーナッツ貰っていいっすか?」
「どうぞどうぞ。」
「サボり・・・?」
キリノが私を見てる気がするけど、気にせず
コーヒーを入れてラジオを点ける。
私は座りなれた椅子に体を預け、オールドファッションとコーヒーの王道コンビを
再確認することにした。