Blue Archive vol.AGITΩ 作:mukugawa
合宿所の自室。
日が差し込み、明るくなり始めた時間に俺はベッドから起き上がった。
俺は昨晩のアズサの告白の衝撃でうまく寝つくことができず、少々の寝不足気味であった。
隣のベッドにはすやすやと寝息を立てる先生がいる。
熟睡できて何よりだが、こんな感じだと起こすのが躊躇われる。
本音としては、今すぐに叩き起こして相談がしたいのだが、この人も寝不足続きな人だった。
夢の世界を堪能する先生を置いて、俺は部屋の扉を開けた。
日の入り始めた廊下を歩く。
もういっそのこと、開き直ってジョギングでもしてこようかな。
「あら、テツヤくんじゃないですか」
かけられた声に振り返ってみると、ハナコが寝間着姿のまま立っていた。
目をこすっている辺り、起きたばかりなのだろうか。
「おはよう、ハナコ」
「おはようございます。テツヤくんは早いですね。誰よりも早起きじゃないですか」
「まあ、ちょっとな」
「アズサちゃんとの内緒話はどうでしたか?」
……今なんて言った?
アズサとの内緒話を聞かれてたのか?
ヤバいんじゃないか、絶対に人に聞かれちゃまずい会話をしたんだけど。
「ふふ、そんな顔をしなくても大丈夫です。昨日の夜、アズサちゃんが部屋を出ていったのを偶然目にしただけなので」
「そ、そうか……」
「テツヤくんは隠し事が苦手なんですね。可愛いです」
「可愛いは止めてくれ」
ハナコはノノミさんと同じタイプだ。
ただでさえ隠し事が向かない俺の心の中をコンビニて雑誌を立ち読みするような感覚で看破してくる。
このまま話しているとボロが出そうだ。
「ちょっと歩いてくる」
「朝ごはんには戻ってくるんですよ?」
「子どもか」
「はい。子どもですね」
……駄目だ、勝てない。
俺はその場を逃げ去るように後にした。
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「とりあえず味方を増やしたい」
今日の勉強が終わった夜。
再びアズサと客間で会議をする俺は、今日一日考えた優先事項をアズサに伝えた。
「味方か。確かに、私たち二人ではできることも限られる。だが、一体だれを────」
「先生」
逡巡するアズサに即答する。
というか、先生を味方に引き入れない理由がない。
先生なら、事情を話せば必ず俺たちに協力してくれるはずだ。
シャーレの力を借りることができれば、できることが格段に増える。
「先生か……確かに先生なら、私たちを助けてくれるかもしれない」
「ああ、だから来てもらった」
「え?」
先生が客間の扉を開けて入ってくる。
「やあ、こんばんは」
「先生! まさか、もう協力を取り付けていたのか」
「こういうのは早い方がいい。先生によれば、ゆっくりしている暇もないみたいだからな……」
「どういうこと?」
この話を先生に持ちかけた後、守らなければならないはずの桐藤さんの目論見を先生に知らされた時は頭を抱えた。
「補習授業部が全てのテストに落ちた場合、所属の生徒は退学になるらしい」
「なに!?」
エデン条約という条約がある。
かつて連邦生徒会長主導のもとで締結されるはずだったその条約は、連邦生徒会長の失踪により白紙になったが、それを桐藤さんが復活させようとしている。
条約の内容は、ゲヘナ学園とトリニティ総合学院が構成員を出し合ってエデン条約機構『ETO』を設立。
ETOによって両自治区の紛争を解決し、学園間の全面戦争を回避することが目的だという。
ゲヘナとトリニティの仲が非常によろしくないことは、外部の生徒の俺でも知っているほど有名な話。
つまり犬猿の仲の二校が手と手を取り合って、友好に舵をきるための条約ということだ。
「そのエデン条約の障害……トリニティを脅かす裏切者候補が、補習授業部に集められたんだよ」
「……裏切者か」
アズサは顔を伏せて答える。
そう、補習授業部は落第寸前の生徒を救済するための部活などではない。
トリニティ内の危険因子をまとめて校内から放逐するために桐藤さんが整えた、ダストボックスなのだ。
成績不振=裏切者という図式にはちょっと物申したいが、今はいいだろう。
「桐藤さんを守る前にアズサたちがトリニティを追い出されたら終わりだ。俺も先生も補習授業部のサポートという理由があるからトリニティに残っていられるが、理由がなくなったら留まるのも難しい」
補習授業部がなくなってしまえば、俺と先生はトリニティに残れないだろう。
用が済めば十中八九、桐藤さんは俺たちを追い出す。
そうなれば暗殺を防ぐ手立てが消える。
それだけはなんとしても阻止しないといけない。
「私がナギサを説得できればいいんだけど、今のナギサはセイアの襲撃の件で疑心暗鬼に陥っているみたいなんだ。忠告を素直に聞いてくれるかどうかはわからない」
一番手っ取り早い方法を先生が否定する。
桐藤さんからしてみれば、エデン条約が目前に迫る中での襲撃事件だ。
ただでさえ神経の張りつめていた時期にそんな事件があれば、トリニティ内に疑いの目を向けるのも当然だろう。
条約に反対する勢力が身内にいる可能性は否定できない。
なにせゲヘナ嫌いの生徒は、トリニティに数多くいるのだから。
先生が無理だというなら、直球の説得は効果がないと切り捨てるべきだ。
「今はとにかく試験の合格に集中するしかない。アズサたちの合格が、俺たちに時間をくれるんだ」
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一次試験模試。
本試験の前に設けられた練習日。
トリニティの本校舎に戻ってきた俺たちは、先生の採点を待っていた。
合宿所の成果は出ているのか。
トントンと教卓で書類の角を揃えた先生が結果発表を始める。
「アズサは……45点」
「……そうか」
1回目に比べれば大した向上。
夜に先生と俺が代わる代わる勉強を教えている成果が出ているらしい。
本番の試験までならまだ、十分間に合う可能性はある。
「コハルは……21点」
「うう……」
お前はもうちょっと頑張れ。
次の模試も怪しいようだったら、いっそ巻き込んでアズサと勉強させるのもアリか。
「ハナコは……2点」
「あらら……」
……ハナコについては後だ。
今は考えることじゃない。
「ヒフミが78点」
「……そうですか」
ヒフミさんは流石の高得点だ。
しかし、勉強合宿の成果が出ていないことがヒフミさんには気がかりなのだろう。
合格点をとっても、その表情は未だ暗いままだ。
しかしヒフミさんは立ち上がり、全員を見て話し始める。
「これが、今の私たちです。このままでは私たちに明るい未来はありません」
言い切ったヒフミさんの目に迷いはなかった。
ヒフミさんは言葉を続ける。
「これからの一週間! これまで以上の努力が必要です! ハナコちゃんは私と一緒にアズサちゃん、コハルちゃんの勉強を見ましょう。 コハルちゃんもアズサちゃんも1年生の内容ですし、ハナコちゃんは一年生の時は高得点でしたよね?」
「……まあ、そうですね」
「ハナコちゃんは今の状態になった原因を把握して、みんなと一緒に解決策を探しましょう! テツヤさんには模試の制作を依頼しているので、引き続きよろしくお願いします!」
「了解だ」
ヒフミさんの采配に同意する。
アズサは転校生なので一年生のテストを合格すればいい。
元から一年生のコハルも同様だ。
あとはヒフミさんとハナコが教えて、俺が模試を作り、先生が全体的にサポートする。
これ以上の役割分担はできないだろう。
「そして、優秀な成績を収めた方には……」
ヒフミさんはリュックサックからモモフレンズの人形を取り出して宣言する。
「このモモフレンズのグッズをプレゼントします!」
古今東西、テスト勉強に躓いた子供にやる気を出させるのはおもちゃだと相場が決まっている。
ヒフミさんとしても勉強のモチベーションを高めるために出したのだろうが、ハナコもコハルも微妙な表情を浮かべていた。
どうやら二人にはモモフレンズは刺さらなかったようだ。
しかし、
「可愛い……」
アズサには効果覿面らしい。
目を無邪気な子供のように輝かせている。
いつもは固い表情も崩れているあたり、本当に心をくすぐられたようだな。
「やむを得ない、全力を出すとしよう───必ずあの不思議でふわふわした動物を手にしてみせる!」
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模試づくりは大変な作業だった。
先生に手伝ってもらいながらでなければ、仕上げにはもっと時間がかかっていたかもしれない。
なにせ一年、二年生の範囲を扱ったものを作らなければならないのだ。
勉強合宿で成績が戻っていなければもっと苦労したかもしれない。
そうして何とか第二回目の模試を作りあげた俺は、1人外を歩いていた、
「ふぃ……」
あまり根を詰めるのは良くないと先生に休憩を言い渡されたが、何をしたらいいかわからない。
……いや、何もできることがないというのが正しいか。
救世主なんて期待をされたくせに情けないことこの上ないが、一生徒である俺にできることはどこまで言っても限りがあるのは確かであった。
「はあ……」
「ため息なんてついてちゃ幸せが逃げちゃうぞ~?」
聞いたことのない声だった。
ここには補習授業部の面々と先生しかいない。
俺は声に釣られて視線を向けた。
そこにいたのは白い服に白い翼を備えた、綺麗なピンク髪の少女だった。
「どちら様ですか?」
「私はトリニティ総合学院3年の聖園ミカ。ティーパーティーの一人だよ」
「はあ……新条テツヤです。よろしく」
「う~ん。私としてはよろしくする気はないんだけどね」
いきなり妙な言葉を投げかけてくる人だな。
よろしくする気がないならなんで話しかけてきたんだ。
聖園さんは笑いながら俺に口を開いた。
「単刀直入に言うんだけどさ、出てってくんないかな」
「嫌です」
「あれ、即答? 出てってくれるならお土産は弾むけど……」
「俺は先生の手伝いに────」
「別に君、いなくてもいいじゃん」
「なんで出ていかないといけないんだ?」
「私が君のこと嫌いだから」
……予想以上の答えだな。
こうも堂々と嫌いと言われたらいっそ清々しく感じる。
無論、好感など抱かないが。
しかし嫌われる理由は気になる。
理由がないと言われればおしまいだが。
「俺、あなたに何かしましたっけ?」
「わからないかなー、気持ち悪いんだって。 見たよ、あの姿。 ゲヘナよりもゲヘナらしいバケモノじゃんね。 ナギちゃんは先生の頼みだからって受け入れたけどさ、そんな人が自治区内にいたら迷惑なんだよ」
そうか。
「話は終わりですね。俺はここで」
「ちょっと、ちょっと。 話は終わって────」
俺に向けて伸ばされた手を払い除ける。
この手の人間に会うのは久しぶりだが、どんな対応をするかはもう決めていた。
俺は今一度聖園ミカに向き直る。
「俺もあなたのことが嫌いなので、あなたの言うことは聞きません」
「……へえ」
「じゃあ、さようなら」
俺は合宿所の扉を開け、中に入ると鍵を閉めた。
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また、夜がきた。
「いっそ俺がベアトリーチェを直接叩き潰せればいいんだがな」
「それは……難しいと思う。本拠地のカタコンベは常に動き続けている。辿れるのはサオリだけだ」
「アズサの師匠だっけ。その人と会えないのか?」
「会える。だが、サオリからアリウスの情報を引き出すのは無理だと思う」
「そうか……今は桐藤さんの周辺を固めて、いざという時に備えるしかないな」
「今度の襲撃は多数の戦力が投入されると聞いている。タイミングを先遣隊の私が計る手筈になっているから、しばらくは時間を稼げるはずだ」
その気になれば襲撃を早めることもできるわけだ。
補習授業部の退学を阻止し、さらに戦力を増やしてこちらの都合のいい時に迎え撃つ。
それが今持っているリソースで実行できる作戦だろう。
「なら、もっと味方を増やさないとな。その気になれば
しかし、トリニティ内の勢力には頼り難い。
打ち明ける人間を間違えればエデン条約は破綻し、トリニティは大混乱になる。
とはいっても、外部の人間に助けを求める手段がない。
今は待つしかないのか────
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「テツヤ、君の慎重さは確かに美徳だ。情報を安易に他者に広げるべきではないという点にも納得する。しかし、君はもっと君自身の力を信じるべきだと私は思うんだ。小鳥遊ホシノという規格外の人物と共に生活しているからあまり自覚がないのは仕方がないが、君の力はハッキリ言って『規格外』だ。君はその気になればこのキヴォトスを滅ぼすことさえできるんだからね」
白い空間の中、金髪の狐耳少女は俺に近づきながらそう捲し立てた。
ここはどこだ?
周囲を見渡せばすべてが白一色で覆われた空間。
そこにポツンと洋風のテーブルと二つの椅子が置かれている。
テーブルの上には湯気を上げる液体が入ったカップがあった。
金髪少女はなおも俺に言葉を投げかけ続けている。
熱が篭りすぎてちょっと怖い。
「えっと、どこのどちら様?」
俺の問いかけにようやく口を閉じた少女は、顔を赤くしながら椅子に腰かける。
「すまない。君に会えると思うと気分が高揚してしまってね。私はトリニティ総合学院3年、百合園セイアだ。以後、よろしく」
「ああ、よろしく……百合園セイア?」
アズサの言っていた、生死不明の百合園セイアか?
「君が思っている百合園セイアだ。私が夢に関する力を持っていることはアズサから聞いているだろう?」
そう呟いた百合園さんが手を握って開くと、そこになかったはずの本が現れる。
なるほど、この現実感のない空間も夢の中だからということか……
「さあ、どうぞ座ってくれ」
俺は百合園さんに促されるまま、もう一つの席に腰を下ろす。
「あなたは……生きているのか?」
「ふむ、確かに君はその確認をしたがると思っていたよ。安心したまえ、私は生きている。君の友人は人殺しにならずに済んだ」
「それはよかった……具合はどうなんだ?」
「まだベッドの上さ。快調に向かってはいるはずだが、ダメージは大きかったからね」
口調は元気そうだが。
今にも死にそうな病人のような話し方をされても困るが、今の彼女の様子は病弱というイメージにはそぐわない。
むしろ元気で満ち溢れているような気がする。
とても死にかけたようには見えなかった。
「百合園さん」
「セイアと呼んでくれ、君のことを私はテツヤと呼んでいるだろう?」
「わかったよ、セイア。でも、なんで俺の夢の中に現れたんだ?」
ただ俺に生存報告しに来たわけではないのだろう。
彼女には生存報告を待ちかねている人間が大勢いるはずだ。
部外者の俺にそんなことをする理由はない。
そう尋ねた俺にセイアは穏やかな笑みを浮かべながら答えた。
「救世主に会ってみたかった。それは理由にならないかい?」
……またそれか。
救世主と呼ばれても俺にできることは少ないというのに。
そんな風に考える俺をよそにセイアは俺の手を掴み、ゆっくりと自分の額に当てた。
「…………」
うっすらとセイア周りを何かが覆っていた。
あれはアギトの力だと、俺はすぐに気づいた。
この体から力がセイアの中に流れ込み包んでいくのを感じた。
しかし、それだけではない。
同時にセイアの中の何かが、俺の中にも流れ込んでくる……胸の奥が暖かくなる。
「なにをしているんだ?」
「交信、というヤツかな? 私たちの持つ『神秘』とアギトの力は相性がいいのだろうね。近くで触れ合えば触れ合うほどにお互いの力が流れ込む」
「大丈夫なのか、それ」
「私は君の存在を予知したことで、予知能力のほとんどを失った。君のアギトの力が私の予知能力に干渉したんだろうね」
「それは……悪いことをしたな」
「気にすることはない。予知が消えたことで、私の体にかかっていた負担は軽くなったんだ。むしろ夢見がよくなったから、君には感謝しているんだよ」
能力を持つが故の代償か。
俺の力がセイアの負担を消したと言われても実感はないが、本人は嬉しそうだ。
それならばよかった。
アギトの力が人の役に立つのなら、アギト冥利に尽きるというものだ。
「太古のキヴォトスに現れた救世主も、その力を民たちに分け与え、共に厄災に立ち向かったと言われている。君にも同じ力を使えても不思議じゃないだろう」
アギトの力か。
ただ強くなる以外にもこんな使い道があるのか。
外にいた時よりもその力に詳しくなっていくのは、なにか複雑な気分だった。
「俺は救世主なんてタチじゃないけどな」
アビドスでも結局は仲間の力に頼るしかなかった。
しかし、俺の発言を聞いたセイアは首を振って否定した。
「私にとっては間違いなく救世主だよ。私の悪夢を祓ってくれたんだからね」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
「うん、それでいい……さて、話を本題に戻そうか」
穏やかだったセイアの表情が真剣味を帯びたものに変わる。
「君が今、助力を求めるべき相手についてだ────」
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また、早く目が覚めた。
俺は先生を起こさないように部屋を抜け出す。
まだ朝日が昇りきらない合宿所は暗い。
俺は客間へと続く廊下を歩き始めた。
誰もいない廊下に俺の足音だけが響いている。
「……」
客間のドアは開いていた。
昨日、最後に客間を出たのは俺だ。
扉を閉めたのは確認している。
俺は半端に開いたドアを開き、客間の中へと入る。
「おはようございます、テツヤ君」
ソファーに腰かけていたのは寝間着姿のハナコだった。
「おはよう」
俺はハナコとは反対の席に座る。
「なあ、ハナコ」
「あら、なんですか?」
「セイアさんの容態はどうなの?」
「今日、目を覚ましました。抜け出そうとしたところを救護騎士団のミネ団長に捕まっていましたね」
何やってんだあの人。
「そんな顔をしてはいけませんよ? セイアちゃんの乙女心が突き動かしてしまったのですから」
「いや乙女心で怪我人が脱走しちゃまずいだろうよ」
大人しく病室で大人しくしてほしい。
体調が改善したところで怪我人が歩き回ってると思うと落ち着かない。
「ていうか、やっぱ俺たちの会話聞いてたんじゃねえか……」
「テツヤくんたちはもう少し隠す努力をしたほうがいいですね。そこまで隠密に長けてない私にもバレてるんですから、自覚した方がいいですよ?」
「もっと器用になりたいんだけどなあ……」
「まあまあ、テツヤ君にはテツヤ君の長所がありますから。そう落ち込まないでください」
「長所?」
「人を頼れることですよ」
いや、ウインクしながら言われてもな。
結局人頼みってことは変わらないし……
「必要な場面で人に頼れるのは間違いなく長所です。先生に早く声をかけたことは英断でしたよ」
「そうか?」
「はい。シャーレの力は強力ですから、利用しない手はありません。ねえ、先生?」
「素直に頼ってくれたのは嬉しかったよ」
いつ来たのか俺の隣に先生が座っていた。
本当に音も気配も感じなかったんだけど……忍者か先生。
だが、このタイミングで先生を読んでいたということはアズサもいるのだろうな。
その予想は外れず、ガチャリと開いた扉からアズサが客間に入ってきた。
「テツヤ……」
事情は先生に聞いたのだろうが、やはりハナコを巻き込んだと勘違いしているようだ。
だが、アズサが気に病むことは何一つない。
すべてはベアトリーチェのせいだ。
この状況も、コハルのテストの成績が伸びないのも、明日の天気が悪いのも全部ベアトリーチェのせいだ。
絶対に許さんぞベアトリーチェ。
「ここまできたら二人にも話すべきかな」
「ええ。ここまできたら一蓮托生です。私たちでアリウスも、ついでにトリニティもひっくり返しましょう!」
「ついででひっくり返していいのか?」
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「ということなんだけど……」
「ええええ!?」
「───ほえ?」
素直に驚いてくれたヒフミさんはいいとして、コハルの方はちょっと重症だな。
先生から補習授業部の真の設立理由を聞いていたから、アズサの事情と桐藤さんの暗殺だけで済んだけど、コハルは本当に何も知らないからな……ああ、FXで有り金全部溶かしたみたいな顔になってる。
おもし……気の毒に。
「テストに合格しなきゃ退学で、テストをさせるトリニティのお偉方は合格させるつもりがなくて、私たちはトリニティの裏切者候補で、アズサが他校のスパイで、ナギサ様が暗殺のターゲット……って、いったいどういうこと!? わけわっかんない!!!」
「コハル、無理に理解しようとするな。とりあえず大変な事態だからみんなで協力しようって話だよ」
「そ、そう? そうなのかしら……」
「そうだよ。今までとやることは変わらないってことだ」
「ま、まあ確かにそうですけど。まさかアズサちゃんにそんな事情があったなんて……」
「ヒフミ、コハル。隠していてすまなかった」
アズサが頭を下げる。
その様子に困惑を隠せなかった二人も落ち着いたようだった。
未だ頭を下げ続けたままのアズサを見て声を上げたのはコハルだった。
「……頭、上げなさいよ」
「コハル……」
「話を聞く限り、アズサはただの被害者じゃない。こんな話、軽々しく話せることじゃないわよ……」
「コハルちゃんの言う通りです。アズサちゃんが言い出さなかったのは、私たちを危険に巻き込まないためなんですよね?」
「ヒフミ……」
アズサが顔を上げる。
コハルとヒフミさんはアズサの事情を知ったうえで受け入れることを選んだんだ。
その一部始終を見守っていたハナコがすっと前に出る。
「アズサちゃんはスパイとして任務を全うする選択肢もあったはずです。命が助かったとはいえ、暗殺任務は表向き完了ですから。たとえアリウスに帰ることができなくても、そのまま誰にも知られず、ひっそりと身を隠すこともできた……でも、しなかった。アズサちゃんは、自分が信じたものを守るために戦う道を選んだんですよね?」
ハナコの言葉にアズサはゆっくりと頷いた。
「vanitas_vanitatum……その言葉が世界の真実だと私たちは教えられて育てられた。私たちの人生は灰色で、無価値のまま終わると。でも私は……この生活が楽しかった。たとえ世界からみればどれほどの無価値でも、私の
アズサはその両手を握りしめた。
「───私はみんなを、トリニティを守りたい。そのためにはみんなの力が必要だ……どうか、私に力を貸してほしい」
その言葉に頷かないものは、この場にはいなかった。
補習授業部が一致団結したところで、ハナコが今後の対策について話し始める。
「とりあえず、乗り越えないといけないのは二次試験ですね。ナギサさんのことですから、間違いなく妨害をしてくるはずです」
「ナギサ様……いえ、たとえナギサ様が相手でも、私はやってみせます!」
「退学なんてごめんよ!」
「うん。みんなが一緒なら、何とかなると信じられる」
「それにしても……うふふ」
ハナコがこっちを見て妖しく笑っている。
「なんでこっち見て笑うの?」
「だって……最終兵器があると安心するじゃないですか」
「最終兵器?」
「テツヤさん、知っていますか? どんな策も、圧倒的な力の前では無意味なんですよ」
キャラが難しい……