罠にハメられ、宿舎にて籠城戦を強いられたスネジンカとアブレックの行く末は……。

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殲滅のアブレック

「一人であんなに倒しちゃうなんて……すごいわねスネジンカちゃん」

 ほぼ全壊した宿舎にて、スネジンカとアブレックという女性兵士が籠城戦を強いられていた。

 無尽蔵とも呼ぶべき機械仕掛けの敵兵士達の猛攻に、二人とも苦境を強いられていた。アブレックの方は負傷し、もはやハンドガンによる支援射撃さえままならない。

 そんな状況で大型戦車クラスの機械兵が宿舎の壁を突き破って現れた時は、絶望的とも思われた。本来ならば、歩兵一人に繰り出すべき戦力ではない。

 スネジンカという女性兵士――正確にいえば少年兵、あるいは少女兵――はそれを繰り出すに値する相手と見積もられたのだろう。

 

 ――実際、その敵の判断は正しかった。しかしそれでも、スネジンカの事を過小評価していた。

 スネジンカは、宿舎の片隅に押し込められていた兵器――マルフーシャという英雄が愛用している電熱砲という兵器らしい――を手に取ると、迷わず大型の機械兵に向けて撃ち放った。

 

 瞬間、砲の先端から他の電熱製の銃器とは比較にならない、太くハッキリと視認出来る赤い光線が真っ直ぐに放たれ、大型の機械兵を文字通り一閃に切り裂いた。

 

 大型の機械兵は一瞬にして破壊。連日続いていた機械兵の増援は、一旦ここで途切れた。

 スネジンカは敵の増援が止んだのを確認してから、すぐにアブレックに駆け寄る。

「アブレックさん、酷い顔色です! 医療物資がないかもう一度探してきますから!」

 そう叫ぶスネジンカの腕を、アブレックはそっと握る。

「まってスネジンカちゃん……あなたのお姉さんの事、少し分かったの……」

 血が混じった咳を吐き出すと、アブレックは言葉を続ける。

 その顔面は蒼白で、出血も酷い。スネジンカの応急手当でも、もはや手の施しようがない。ちゃんとした物資がある上で治療を受けなければどうしようもない様態なのはスネジンカの目にも明らかだ。

 そんな状態で、何を言おうというのか。スネジンカは焦りを感じながらも、アブレックの言葉を一旦待つ。

「テレビでは、敵を圧倒して……この地区を……一人で守り続けていたって言ってた。けど、この地区の荒れ方。どう見てもそんな状態じゃ……ない」

 アブレックは、ある種の悟りを込めて、言葉を紡ぐ。

「追い詰められて、追い詰められて敗走を続けた……ようにしか見えない」

 そんなアブレックは周囲に染みついた血痕を指で撫でる。自分達のものではない。古く、既に乾ききった見知らぬ誰かが垂らしたであろう血痕。

「一番激しい戦闘が行われたのは……間違いなくこの宿舎。沢山の血痕や治療の跡……きっと、仲間がいたんじゃないかな……」

 血が染みつき、カビが生えた古い包帯を地面から拾い上げる。染みついた血痕は量が尋常でなく、この出血量でマルフーシャが十全に戦い続けられたというのは、彼女がどれだけ『化け物』でもありえない。

「仲間といたはずなのに何故か……一人で戦っていた事にされている。何があったのかまでは……分からない」

 アブレックは、スネジンカに向かって微笑む。その笑みに、スネジンカは強い焦燥感と恐怖を抱く。

「けど、あなたのお姉さんの思いつめてるあの表情……今考えると……罪悪感と後悔に押し潰されて死に場所を……探してるように見えるの。私も……その気持ちが……、分かっちゃったんだ……」

 なぜなら、それは"死を覚悟出来た者の顔"――戦い続けていたあの時の姉、マルフーシャと同じ表情だった。

「スネジンカちゃん。お姉さんを助ける事が出来るのは……家族であるあなただけ。このピンチを切り抜けて……お姉さんに会いに行ってあげて」

 アブレックの説得に、スネジンカは狼狽する。

「けど、どうやって……」

 今は、敵に取り囲まれた状態。大型の戦力を排除したとはいえ、後続は無尽蔵にやってくる。スネジンカの戦力を適切に把握した次回以降は、もっともっと大量の戦力を投入してくるだろう。

 

 ――今のスネジンカの首は、それくらいして討ち取る価値がある。どれだけ戦力を投入しても、お釣りが来るくらいには。

 

 アブレックは、この期に及んでスネジンカが投降しても、意味がないと悟っていた。

 アブレック自身は助かるかもしれない。だが敵の目的からして、スネジンカだけは――。

 それに考えが行き着くと……アブレックの"覚悟"は完了した。

「ふふ、任せて。これ、借りるね」

 スネジンカが持っていた副兵装をアブレックは半ば奪い取る。

「え、ちょ……」

「頑張ってね。スネジンカちゃん」

「アブレックさ……うぐ!」

 アブレックは、自分が外へ出て行こうとするのを止めようとするスネジンカを当て身で気絶させる。

 アブレックはスネジンカを安全そうな瓦礫に寝かせると、宿舎から静かな歩みで出口に向かった。

 

「包囲している兵士の皆さん! 私は民間会社ブルーピーコックのアブレック! 抵抗する気は一切ありません! 今出て行きます!」

 アブレックは、大声で包囲している敵にそう呼びかける。その呼びかけに、人間の兵士達が銃口を向けたまま遮蔽物から様子を見に来る。

「スネジンカは気絶させています。逃げ出す心配はありません。お話があります。どうぞお集まり下さい」

 ――アブレック?

 ――爆弾魔の?

 敵兵士達が、口々にアブレックの名を口にする。

「あぁ、間違いない。テレビで見たぞ。生徒を狙って学校を爆破しようとしたクズ教師だな」

 兵士達の一人がアブレックに向けて言う。

「あらあら、ご存じの方が多いようで、光栄ですね」

 アブレックは、物怖じせずに笑顔で兵士達に語りかける。

「さすが犯罪者、仲間を売って自分だけは助けてもらおうってか」

「ええ、そうですよ」

 アブレックは周囲を見やる。機械兵に突入を任せ、主に包囲網の形成へ注力していた人間の兵士がアブレックを嘲笑するように取り囲んでいた。

「ふふ、これだけ一カ所に集まっていただけるとは、一度は犯罪者にもなってみるものですね」

 兵士達の嘲笑の表情が、ますます強まる。さりとてアブレックは気にする様子はなかった。

「けどそんな爆弾魔の教師らしく、かわいい教え子……いえ、後輩の為、ひと肌脱ごうかと思いまして」

 アブレックは、すかさずスネジンカから奪い取った副兵装を構える。

 

 

 ――その副兵装の名は、『ディフェンダーキャノン』。

 

「ディフェンダーキャノン!? 離れ――」

 瞬間、周囲に居た兵士達は爆風に呑み込まれていく。銃を手に取って応戦しようとするも、アブレックが砲口を傾ける方がわずかに早かった。

 アブレックが構えたディフェンダーキャノンは、凄まじい速度で爆風をそこいらにばらまくように連射していく。

「何事だ!?」

 周囲からの爆発音を聞きつけ、上官兵を思われる出で立ちの者が遠巻きに様子を見た。

「ディフェンダーキャノン……相手も破れかぶれというわけか。砲熱に耐えきれずに連射が途切れた時に一気に機械兵を特攻させろ。それで終わりだ」

 上官兵は、アブレックの暴挙をそう分析した。

 ディフェンダーキャノンは、強力無比の威力と連射力を持つが、砲熱により一定休ませる為の時間を要する。

 その隙を機械兵に突かせれば、そこを一気に攻めてアブレックを討ち取る算段だった。

 

 ――ボボボボボボボボボ……。

 

 人間兵達は爆風が届かない位置から見守って散発的に小型機械兵を送り込んでみるが、爆発音が鳴り止まない。

 何十秒、あるいは何百秒経っても……鳴り止む気配がなかった。

「………………………………どうなってるんだ?」

アブレックの暴挙、そして尽きる事のないディフェンダーキャノンの砲撃に、人間兵達は動揺を隠せない。

「あ、アブレックさん……?」

 もうしばらく経って、砲撃の爆音で起きてしまったであろうスネジンカが、宿舎の出口からおずおずとアブレックに呼びかける。

 その呼びかけに、アブレックはディフェンダーキャノンを構えながらも笑顔で答えた。

「あ、スネジンカちゃん。包囲網は解けたわよ♪ このまま車を探して、それでお姉さんに会いに行っちゃいましょう」

 ボボボボ……ディフェンダーキャノンから爆風を放ちながら、アブレックはスネジンカにそう笑いかける。

 ――この爆発音で包囲網が解けた?

 そんな馬鹿なとスネジンカは周囲を見やるが。実際、人間兵達はディフェンダーキャノンが届かない超遠距離に退避せざるを得なくなっている。時々高速で飛んでくる小型爆弾兵も、アブレックが構えてるディフェンダーキャノンに勝手に巻き込まれ破壊されている。

「え、えっと! じゃあ私ちゃんとした治療物資を探してきます!」

 スネジンカは、慌ててアブレックに言う。スネジンカには、アブレックが何をしたのかはさっぱり分からない。しかしそれが極めて強力な武器である事は本能的に理解していた。

「あんまり離れないようにねー。じゃあ、お姉さんのところ――北部戦線にこのまま行くわよ」

「はい!!」

 アブレックはディフェンダーキャノンを構えたまま、スネジンカに治療物資と、車を盗む手配を任せ、そしてそのまま共に北部戦線へと向かっていった。

「……………………なん、なんだ……あの、兵器…………」

 包囲していた兵士達は、とんでもない超兵器に、呆気に取られるしかなかった。

 

 ……数日後。北部最前線。

「……スネジンカ? どうしてここに。噂では東部戦線に配属されたって、聞いたけど……」

「お姉ちゃん!! 間に合った!?」

 車を全力で飛ばしてきたスネジンカは、マルフーシャと再会した。姉との再会に喜んだスネジンカだったが、そのマルフーシャには明らかな疲れが見える。

 顔色も悪く、立っているのも辛そうな様子である。所持している電熱砲や特級マルチバレルライフルも、もはや使い物にならない事が見てとれる。

「スネジンカ、会えて嬉しいけど……私は……もう……」

 マルフーシャが、弱音を吐こうとする。機械兵を専門に相手をし続け『溶鉄』とあだ名された英雄である彼女でさえ、あの兵器の群れとの連戦で完全に力尽きていた。既に物資もない。

 ブルーピーコックから正社員に誘われるほど優秀な戦力として評価されているスネジンカ。それが救援に来たとしても、もはや北部戦線の状況は、最悪だった。

「だいじょうぶだよお姉ちゃん! なんだか分からないけど、アブレックさんっていう人がね――」

 けたたましい警報が鳴り響く。機械兵の襲来を告げる音だ。

「行かなきゃ……ッッ」

 マルフーシャが痛む身体に鞭を打って、立ち上がる。マルフーシャがやらねば、共に北部戦線を担当する他の誰かが死ぬ。

 スネジンカは、姉を労りたいと思いながらもそんな姉の気持ちを察して、肩を貸す。

 マルフーシャは、スネジンカに支えられながら機械兵と戦おうとするが――

 

 ――ボボボボボボボボ……

 

 その戦場に、砲声のような音が鳴り響く。恐ろしい数の機械兵が…………一瞬で全滅した。

「……他の人が電熱砲を? いや、違う……あれは実弾兵器……」

 何が起きたのか理解の追いつかないマルフーシャの前に現れたのは、一人の女性兵士だった。

「初めまして、溶鉄のマルフーシャさん。私はアブレック。ブルーピーコックの、元社員です」

「あはは……私達、無職になっちゃっいましたねぇ……」

 ボボボボボ……。

 スネジンカとアブレックは談笑紛いの会話を交しながらも、彼女の構えたランチャーから砲撃が止む事はなく。

 そしてこの日から、北部戦線の戦況が一変する事になる。それこそ、相手国がこの戦線の維持へ匙を投げるほどに。

 ――この戦果のおかげで(マルフーシャと同じ部隊に入隊し、今後も他の激戦地へと転戦し続ける事を条件に)東部戦線からの逃亡が不問とされた事は、スネジンカとアブレックにとっては幸いだった。

 国の上層部は、これを好機と見て北部戦線の戦況を喧伝し、そしてその戦線を維持した者達を英雄として祭り上げる事になる。

 

 のちに彼女達のこの戦線での評価はこう語られている。

 援軍が来るまで戦場を維持してみせた『溶鉄のマルフーシャ』。英雄であり実姉の窮地に見事援軍にきた『救国のスネジンカ』。そして……北部戦線の機械兵を全滅させた『殲滅のアブレック』と。


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