やっぱアンケートって大事だね。
カタカタと、キーボードを叩く音が狭い部屋で鳴る。
窓は開いているが、部屋の主が吸うタバコの煙のせいで室内は薄ら白くなっていた。
「ふむ…」
部屋の主――ここ最近、おじさんの配信に登場する心理学者は論文を纏めているパソコンから目を離し、もう1つの業務用パソコンに映った配信者――異世界おじさんの映るYouT〇beの画面を目を移す。
同居人:――では、続いての質問に参りましょう。「初めまして。いつもおじさんの過ごした理不尽な異世界を楽しんで見ています。おじさんはソニ〇クのことが大好きですよね? なら、おじさんが異世界に行った3年後から放送したソニ〇クのアニメはご存じでしょうか? おじさんの反応が気になって7時間しか眠れません」とのことです。いつも見てくれてありがとうございまーす。……さて、おじさんが転移した3年後に放送したアニメといえば「ソニ〇クX」ですね。後から知って俺も驚いたのを覚えてます。
おじさん:実は配信を始める少し前に知ったんです。異世界から帰ってきて2年以上経ってから知ることになるとは一生の不覚でした。
同居人:ネットの記事でたまたま存在を知ったのが切っ掛けだったと記憶してますが、確かどうなったんでしたっけ?
おじさん:目玉が飛び出て過呼吸になるぐらい驚きました。
同居人:下手なホラーよりも怖かった。
おじさん:だってあのソニ〇クが動いて喋るんですよ! 感動して同居人にTSUTAYAでDVD借りてきてもらい、全話見るのにレンタル期間の1週間掛かったんです! あの出来なら50話以上作ったって良かったのに……今の俺ならスポンサーにだってなれるのに……っ!!
同居人:でも十分楽しめたでしょ?(「事情を知っている人向けに言いますが、おじさんには第1期しか見せてません。ちょっとしたことなら勘が悪いのもあって誤魔化せたけど、2期以降は難しいので」と書かれたフリップを出す)
おじさん:あれ? それ、久々に見たけど何してるの?
同居人:気にしなくていいよー。
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・場も暖まってきましたー
・オシャレなカフェで飲み物のサイズがS・M・Lじゃなかった件は超共感
・私も最初は戸惑ったなー
・ついに出たぞあの質問!
・アニメ「ソニ〇クX」!!
・薄らと記憶の片隅にある
・途中から見なくなったんだけど理由が思い出せない
・アニメあったの初めて知ったぞ
・うん。格好良かったんだけど、内容がね……
・ビックリしたおじさんの表情が想像でき――ごめんできねえわ
・↑できないんかい!
・あの独特の顔で驚いたときが想像しにくいのが悪い
・絶対劇画風になったのだけは確実だろ
・オマエが怖がるなよ同居人w
・まぁ、自分の押しキャラが喋って動いているとなったら感動するよ
・マジ今のおじさんならスポンサーになれる
・えぇっ! 「ご覧のスポンサーの提供で~」って部分でおじさんの名前が!?
・……うん。マイナス要素が無かったらね
・ちょっとぐらいなら許せるんだけど……
・同居人のフリップといい、もしかして問題作なの?
・誤解を招きたくないが要所要所は素晴らしいぞ
・2期からはシャドウも出てきて好きなエピソードもある
・だけどなぁ……
・書いててダルいし、後は個人で調べてくれ
・おじさん、1期だけ見たっぽいけど気付いてない?
・『エヴァンゲリ〇ン』の理解が浅すぎる男だぞ
・どうせソニ〇クが動いてるのにばっか気を取られている
・隣で見てただろう同居人もおじさんが違和感を感じたら話題逸らした疑惑が……
・だから気にしろって
「こうやって元気に配信しているのが奇跡なのだよね……」
心理学者が『異世界おじさん』を知ったのは1ヶ月ほど前だ。
ゼミの学生が異世界に行った不幸な青年の心理について尋ねてきたのが始まり。
最初は「何を言っているんだ?」となったが詳しく調べれば当然興味の対象になる。アーカイブを確認して、最新の配信を見るようになって、我慢できずに初めてコメントをして……と、時間はあっという間に過ぎてしまった。
「これまでの日常の話や、ある程度分かった心理状態からどうにか紐解いたが……“異世界に転移した”というのが前面に出ているせいか皆が気付いていないだけで、ようするに彼は“悲惨な戦場からようやく故郷に戻れた兵士”の心理に近いじゃないか。かく言う私も途中まで気付かなかったが」
チャンネルに登録している人間の内、どれくらいが気付いているのだろうか?
“異世界に行って冒険していた”“本物のモンスターや異世界美女がいる”、そんなフィルターが掛かっているせいで視聴者の認識が若干ズレていた。
“異世界”は“見知らぬ海外の土地”に。
“転移”は“意識を失っている間の誘拐”に。
“オーク差別”は“外国人に対する地元民の過剰反応”に。
“魔獣・魔物”は“未知の病原菌を持った攻撃性の高い動物”に。
“記憶消去の躊躇い無さ”は“兵士が辛い記憶を必死に忘れようとすること”に。
“敵対者への躊躇いの無さ”は“人を撃つ兵士の指がどんどん軽くなること”に。
――それぞれ似ている。
同居人:続いての質問に参りましょう。「こんばんにちは。体育の成績【2】とはいえ、魔法ありきならスポーツ選手にも成れたんじゃないですか? おじさんによるリアル超次元サッカー、興味あります」とのことです。実は俺たちの間でもちょっとだけ話題になったんですよね。
おじさん:えぇ、技術はともかく『身体強化魔法』を使えば力と速度は十分以上に出せますし、それっぽく魔法を使えば急カーブでゴールに向かうボールやキーパーが止めても無駄な威力の超絶シュートなんてのも可能だったでしょう。
同居人:それこそこうやって配信する前だったら、『突如現れた謎の新人おじさん! W杯へ!』なんて記事になるのも夢物語ではなかったのに、どうしてそうしなかったんですか?
おじさん:すでにYouT〇berという職業に就いていたから、というのも理由ですが……俺は、中学・高校と朝早くから練習して頑張っているサッカー部の学生たちを見てきたんです。みんな、真剣に前を向いて汗水垂らしてました。そんな中で特に頑張って成果を上げた人たちの枠に、魔法という明確な“ズル”をして入り込むのは……何か違うと思ったんです。サッカーが好きな人たちの頑張りを無下にしたくありませんでした。
同居人:俺なら生活に困ってれば手段の1つとして迷わず候補に入れてただけに、耳が痛い話です。視聴者の何人かもダメージ受けてる。
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・3つ目~
・スポーツ選手か
・超人になった状態で地球に戻ったらそりゃ考えるわ
・「イナズ〇イレブン」みたいなサッカーを1人だけしてるのズルっ
・ひょろひょろのおじさんから放たれるシュートで吹っ飛ぶキーパー!
・「おおっと! 急に強風が吹き荒れてボールの軌道が変わったー!」
・「ボールを取ろうとした相手選手が急に転けたー!(土魔法)」
・「何とおじさんが大ジャンプして空中でボールを取った!?」
・どんな少林サッカーだよ
・インチキだとは思うけどそれはそれとして見たい
・1度なら偶然でも何度も起こるならインチキ(魔法)だとはバレるだろ
・敢えて魔法使いだと公言してサッカーするとか?
・少なくても実況は楽しそう
・普通の動画で撮ってくれない? ¥300
・サッカーコート借りるお金は問題ないおじさん
・例えはサッカーだけど他のスポーツでも活躍できるだろ
・野球→本当に燃えるボール! 消える魔球!
・ボールが燃えたら弁償案件でしょ
・走り幅跳び→跳ぶ――と見せかけて飛んで飛距離を伸ばす
・距離を測るの面倒だろ。会場内で収まるわけがねえ
・ジャンプしたポーズのまま水平に移動するおじさん想像して噴いた
・↑ゲームのバグ技かよ
・あー……おじさん、やっぱ善人だよ ¥500
・他人の努力をインチキで穢したくないってことね
・趣味の延長だけど朝早くから練習するのは青春だった
・メンバー全員が相手も含めて魔法使えるとかだったら話は違うけど……
・1人だけが自分たちの常識の枠外から踏み込むのは、な
・お客さんも最初の内は「うおー!」ってなりそうだけど
・しばらくすれば萎えた反応ばっかになると予想してる
・壁に向かって勝手に1人でしてくださいって感じ
・ゲームで急にチーターが現れた時の気持ちに近いかな
・間違った選択をしなかったおじさんへ ¥400
・本当にそれやってたら、みんなおじさんから離れたと思うよ
・多少変でも誠実なら誰かしら側にいて助けてくれる
・その通り(おじさんが無職になりかけてた時にチャンネル登録で助けた1人)
・何か……すまん(女の子にモテそうとか単純にしか考えてなかった)
・努力しなくてもお金持ちになれそう――なんて考えてました
・同居人共々、俗物たちがダメージ受けてるの草
「興味深いよ。本当に」
心理学を学ぶに当たって、努力をしてきた。
何度も本を読んだし、何度も別の先輩心理学者に話を聞きに行ったりもした。
自分で体験してみなければ分からないことも実際にしてみるなど、理解を深める努力は怠らなかった。
「だけど、本物の異世界を経験した人物の辿ってきた出来事は分からないことばかりだ。特にマガツコトノヌシは良かったな」
我慢できずにコメントを書いてしまった理由もそれだ。
1000年以上前の日本人であること、その時代から転移した子供だったこと、裏切りに会い闇堕ちしたこと、国を滅ぼしたこと、1000年以上に渡って無機物に魂を移していたこと、それほどの期間を空けて肉体を再び得たこと、虚無空間が広がっているであろう『収納魔法』の中に1週間近くいたこと、そして……おじさんという理解者を得られたこと。
もしもマガツ本人にインタビューする機会があれば、『異世界おじさん』と一緒に是非話を聞きたかった。全財産を渡してでも聞く価値はある。そのような経験をした人間などまず他にいないのだから。
「少なくとも『異世界おじさん』は聞ける可能性は残っているが……SE〇Aを経由したとして、素直にインタビューに答えてくれるか……かと言って、私にはSE〇Aに利をもたらして彼に恩を売ることも難しい」
同居人:それでは最後の質問と参りましょう。「配信、いつも楽しく見てますファンの1人です。おじさんの現代日本の話ではSE〇Aと17年のギャップが多いですが、そういうの以外でおじさんがテンション上がったことはありますか?」
おじさん:そうですねー……同居人とゲームしている時に思った「龍虎相打つ」って言葉にふと疑問を抱いた時でしょうか。
同居人:「実力が拮抗している実力者が激しく戦う」みたいな意味ですよね。
おじさん:そう! それなんだ! 俺は当然の疑問として思ったんだよ。「あれ? 龍と虎って同格っぽい雰囲気出してるけど、釣り合ってなくね?」と。どう考えても龍の方が強いでしょ。虎って動物園とかにいる奴でしょ?って。
同居人:諸説あり――って話になりますが、大昔の中国に7メートル級のワニがいて、それを見た人が「龍」だと思った……という説があります。
おじさん:でもその説なら辻褄が合うとテンションがどんどん上がっていきました。十二支で「龍」は唯一幻想生物なのに子丑虎兎の4匹に負けててふがいないと思ってたんですよ。
同居人:ふがいない……
おじさん:ワニだとしたら、あの面子で5位は頑張った方ですよ。
同居人:その説で行くと「竜虎対決」はワニvs虎ってことになりますね。
おじさん:それならどっちが勝つか分からない見応えのある対決になるだろ!と。
同居人:白熱ですね。
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・最後の質問だぞ注目~!
・お? 意外に気になる質問が……
・現代にいるおじさんの話題というと9割SE〇Aか浦島案件だからね
・それ以外となるとYouT〇be関連か「アレおじさんじゃね?」関連か
・都内のスイーツバイキングにいたらしい3人の美少女は見たかった
・美少女(内約:おっさん、青年、???)
・メイベルちゃんが誰か知りたい
・↑マナー違反ですよ
・龍虎相打つ?
・あんまり使わない言葉
・同居人の説明聞けよ~
・あぁ…、あーあーあーあー!(どんどん首を縦に振る速度が上がる)
・意味を考えると…釣り合ってねえな
・龍って胴体の長い中国系のはずだしな
・大きさも違うだろうし、制空権を取られてる
・虎、勝てなくね?
・もしかしたら、その虎は翼持ちだったのかも
・「虎に翼」って言葉もありますよ
・意味:元々強い力を持つ者にさらに強力な力が加わること
・「鬼に金棒」とほぼ同じ
・翼が生えた空飛ぶ虎ならワンチャン?
・大きさに差がありすぎるだろ
・虎と同じだったかもしれないじゃん
・↑それアナコンダでは? ボブは訝しんだ
・イメージが空飛ぶアナコンダvs翼の生えた虎になったやんけ!
・え? ワニ?
・7メートルとかホラだろ
・外国のゴルフ場に巨大ワニが出没したぞ
・CGだろ(笑)と思いきや…まさかの本物
・種類によってはタヒぬまで成長し続けるらしい
・ググったら最大6.5メートルだとよ
・でかすぎいいいいいいいいいいい!!
・でもワニなら十二支の話で5位は確かに快挙だぞ
・神様「先着12体チキチキレース開幕じゃ!」
・ワニ対トラ、か
・ほぼ同格だな
・ワニが虎に上手く噛みつけるかが勝負の分かれ目
・デスロールの使い方でも変わりそう
・白熱の戦いだ
・でも十二支レースでは虎が3位でしょ? 負けてるじゃん
・ワニ「なんだぁ…テメぇ…?」
・キレた!
・バナナ上げるから許して
「くふっ」
心理学者は思わず笑ってしまった。
それまでこのような動画を全然見ていなかったからか、いざ見始めるとつい表情筋が緩んでしまう。
――コンコン
「開いてるよ」
「准教授? 失礼しm――うわっ、タバコ臭っ!?」
「ん? どうしたんだい。キミ、来るのは次の講義の時だったろ?」
「別の要件で大学に来たんで、ついでに寄ったんですよ。というか、タバコは喫煙所で吸ってくださいって」
「誰かが訪ねてくる予定がなかったから良いと思ってたんだよ」
「ただでさえ肺を悪くしてるの確定なのに、副流煙で余計体調を悪くしたらどうするんですか。仕事場だといる時間も長いから余計酷いですし…完全に換気仕切るまで喫煙所で吸っててください。それと1人の時だからってここで吸うのはもう止めてくださいよ」
「キミは私のママか」
「誰がママですか誰が! こんな手の掛かる大きな娘は要りません。大体ボクはもっと小柄な女性がタイプで――」
「ロリコンか?」
「いいから出ろや!!」
「はいはい……」
「“はい”は1回です!」
「やっぱりママじゃないか」
バタンと閉められた扉を見つめながら大学生はため息を吐く。
「はぁ……美人なのに、心理学者としては普通に優秀なのに、何で“ああ”なんだろ。バランスを取るためなのかなぁ?」
大学生は棚からうちわを取り出して、充満していたタバコの煙を開いた窓に送る作業を始めた。
・心理学者(准教授)
大学で心理学を教えている。
眼鏡を掛けた高身長ダウナー系美人のヘビースモーカー。
実年齢より若く見えるので大学内でも人気は高い。
ただし、生活力は終わっている。
な、難産だった。
この作品にしては今回短めなのに……
心理学者さんのシーン、何度も書き直したんですよ。100文字以上書いてから「何か違うなー?」って消して書いてを繰り返して。
ついでにいよいよ雑談にするようなネタが尽きてきた……
新連載始めました!
原作「ブルーアーカイブ」の三次創作です。
『【青学三次】青学生は今日も元気です』
https://syosetu.org/novel/430404/
ネタが思いつき次第投稿する形です。
今のところ3つぐらい溜まっている。
実は“あっち系”でも「ブルアカ」のIFを書いていたり……
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作者よ、己だけで頑張れ