今ひとたび、英雄たらんことを   作:blue man

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英雄の一歩

 

 褪せ人。かつて狭間の地を追われた、瞳の褪せた者達の末裔。

 彼等は一度祝福を失いながらも、大いなる意思によって再び彼の地に導かれた。

 

 導きの果て、エルデンリングに見え、王となる為に。

 

 この男もまた、そんな有象無象褪せ人の一人であり、しかし本来は何も為し得ず死んでいく無名の戦士であった。

 

『巫女無し』

 褪せ人を導き、ルーンの力を与え、円卓へ招く者。本来ならば褪せ人と共に王を目指す彼女は、目覚めた時には既に物言わぬ骸と化していた。

 

『エルデの王に、おなりください。たとえ導きが壊れていても』

 

 故も知らぬ巫女の亡骸。ただ足元に刻まれた死蝋の文字のみが褪せ人の使命を伝えていた。

 

 そんな褪せ人の旅の始まりは、ヴァレーが示したように決して楽なものではなかった。

 律が壊れ、正気を失った者達が闊歩し、獣達が血肉を求めて彷徨い歩く。褪せ人の味方など誰一人として居ない。ただ孤独に、傷付き、時にその命を散らしながら褪せ人は前へと進む。

 

 イリスにとって、その光景はあまりに胸が痛いものであった。誰も彼を助けてはくれない。この世界を救おうという彼に、出会う者達は敵意を剥き出しにして襲いかかるのだ。

 

 力は得られず、向かう先も覚束ない。辛うじて、祝福の光が導く先へと歩みを進めるのみ。暗闇を手探りで進むようなものだ。その歩みは酷く遅いものであった。

 

 だが、そんな褪せ人にも転機が訪れる。

 拠点を制圧し、祝福の前に座り込み、傷だらけの身体を癒していた時だ。褪せ人の前に、一人の女が現れた。

 

「はじめまして、霧の彼方から来た人よ。私はメリナ……貴方と、取引がしたいの」

 

 左眼を閉じた赤髪の女。彼女はメリナと名乗った。

 突然現れ、単刀直入に取引を持ち掛ける姿は、どこか褪せ人によく似ていた。

 

 メリナもまた、エルデンリングに見える為、黄金樹を目指しているのだという。取引とは、彼女を黄金樹に連れて行く事と引き換えに、褪せ人が失った巫女の代わりを務めるというものだった。

 

「……良いだろう」

 

 利害は一致している。巫女無しの褪せ人に選択肢などありはしなかった。メリナは褪せ人に霊馬の指笛を渡すと、彼の持つルーンを力に変えた。

 後に無二の相棒となるトレントとの出会い。そして、彼が褪せ人として真に歩みを始めたのはこの瞬間からであった。

 

「良かった……独りでは、無かったのですね」

 

 彼の旅路には、共に目的を同じとする仲間がいた。たとえそれが契約という希薄な関係であったとしても、ただ孤独で辛い道のりでなかったという事にイリスは安堵した。

 

 褪せ人の歩みは確かなものとなった。トレントに跨り、ありとあらゆる場所を駆け回った。

 

 崖の端、褪せ人は地面に刻まれた死蝋の文字を見つめる。

 

『この先、ジャンプが有効だ』

 

 崖の先を見れば、確かに足場となりそうな岩場があった。だが、その岩場は崖から遠く、些か届くかは怪しい。

 イリスは嫌な予感がしながらも、それを見る事しか出来ない。

 

「……行けるか」

 

 褪せ人がトレントに問い掛ければ、いななきを一つあげて褪せ人を見つめ返した。その眼は雄弁に語っていた。

 

「分かった」

 

「えっ行くんですか!? どう考えても届きませんよ!?」

 

 相棒の言葉を信じ、褪せ人はトレントを駆けさせる。思わずイリスが止めるも、当然声が届くはずもない。

 トレントは崖の先、力強く大地を蹴る。無論、それだけで届かないのは承知の上。だが、トレントはただの馬の霊ではないのだ。

 トレントが空中を蹴ると、まるで見えない地面があるかのように再び跳び上がった。そして——イリスの予想通り、岩場に届く事なく一人と一頭は崖の下へと落ちていった。

 

「うぅ……だから言ったのに……」

 

 祝福の前で蘇生した褪せ人。トレントは居た堪れないとばかりに小さく嘶いた。

 

「……お前は悪くない」

 

 悪いのは、あんな場所に文字を書いたどこかの褪せ人である。褪せ人は再びトレントに跨ると、再びリムグレイブの地を駆けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは暗い洞窟だった。湿り気の帯びた空気、苔むした洞窟はどこか生暖かい。

 褪せ人は腰に点けたランタンを灯し、洞窟の中を歩く。

 

 しばらく進めば、出迎えたのは薄汚い襤褸を纏った追い剥ぎ達だ。彼らは褪せ人を見つけると動きを止め、ぼんやりと焦点の合わない視線を向けてくる。

 

 褪せ人は足元の鳴り子を鳴らさないように注意しながら、追い剥ぎ達の脇を通り抜ける。既に一度来た場所だ。目的地には迷う事なく辿り着いた。

 

 開けた空間、松明の明かりが照らすそこに、一人の禿頭の男がしゃがみ込んでいた。

 男は褪せ人の姿を見つけると、大きく目を見開き、慌てた様子で口を開いた。

 

「あ、ああ……あんた、無事だったのか。びっくりしたんだぜ、急に消えちまうもんだからよ」

 

「ふん、罠を張っておきながら白々しいものだ」

 

 男——フーテンのパッチが冷や汗を流しながら言い訳を垂れる様に、金光聖菩は冷たい視線を送る。

 ひょんな事から知り合い、商売を持ち掛けてきたこの男は、あろう事か褪せ人に対して宝箱を開けるように促し、転送の罠に嵌めたのだ。

 

 霧の立ち込めた森の中、見上げる程の巨大な熊に追われながら、褪せ人は辛うじて生き延びた。そうして暫くして、再びパッチの居る洞窟へと戻ってきた。

 

「…………」

 

 褪せ人は何も言わない。無言の大男の圧に耐えかね、パッチは早口で言葉を紡ぐ。

 

「まさか、あの宝箱にあんな罠が仕掛けられてるなんてな、知らなかったんだ。不幸な事故、ノーカウントってやつさ。同じ褪せ人じゃないか、そうだろう?」

 

 これは不味いか。必死で言葉を紡ぎながら、逃げる算段を立てるパッチ。そんな彼をよそに、褪せ人はその重い口を開いた。

 

「ルーンを貯めてきた」

 

「……あ?」

 

「欲しいものがある」

 

 端的な男の言葉を一瞬飲み込めなかったパッチだが、取引の話だと気付くと先程までの慌てっぷりなど嘘だったかのように笑みを浮かべた。

 そんな褪せ人に、金光聖菩は呆れたように溜息をつく。

 

「へ、へへへへへっ……勿論だ、あんたになら色を付けて売ってやる。パッチ商店、見て行ってくれよ」

 

 目的の品を手に入れ、納得したように懐に仕舞うと、褪せ人は洞窟を後にする。

 褪せ人の姿が見えなくなると、パッチは息をつき、どっかりと洞窟の地面に尻餅をついた。

 

「ふぅ……間抜けなのか、器がでかいのか知らないが助かったぜ」

 

 こんなクソッタレな世の中だ。騙し騙されは当たり前、当然、それに対する報復も当たり前だ。パッチはそんな狭間の地を抜け目なく生き抜いてきたつもりだったが、今回ばかりは死を覚悟した。

 

 あの褪せ人は、まだ弱い。大角のトラゴス、背律者ベルナール、パッチの知る中で名うての戦士に比べれば大した事はない。

 だが、彼の勘が囁いているのだ。あの男は敵に回すべきではないと。或いは、先に挙げた者達よりも余程恐ろしい何かであると。

 

 そこまで考えて、パッチは笑みを浮かべる。

 

「まぁ、どれだけ強くてもカモ……もといお得意様なのは変わらねぇか。精々稼いでくれよな。へへへへへっ……」

 

「小悪党め……褪せ人もさっさと殺してしまえばいいものを……」

 

 嫌らしく笑うパッチを心底見下しながら、金光聖菩は不満を口にする。

 この男に同意する訳ではないが、お人好しなのか、或いはこの程度の小物は相手するまでもないと考えているのか。

 かつて一方的に襲い掛かった身で言う事ではないが、どうにも脇が甘いのは昔かららしい。

 

「ふふ……まぁ、そういうところも嫌いではないがな。少しくらい隙が無ければ、支え甲斐がないというもの」

 

 私がしっかり側で見張ってやらなければ。金光聖菩は蠱惑的な笑みを浮かべながら、遠ざかる褪せ人に思いを馳せるのであった。

 

 尚、この場面を見た王子含めた大半の者達が似たような感想を抱いていたのは誰も知る由も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——円卓

 それは褪せ人達にとっての安寧の場所であり、志を同じくした英雄達の集う場所。

 かつては多くの褪せ人が出入りしていたが、最早その往来は途絶え、数える程の者達が時折顔を見せる程度となった。円卓を照らす祝福の光は翳り、薄暗く、陰鬱な気配が立ち込める。

 

「……ほう、随分と久しぶりだ。新しい褪せ人が、円卓を訪れるなど」

 

 老いた声が、褪せ人の耳を打つ。

 百智卿、ギデオン・オーフニール。無数の目と耳を散りばめた異形の鎧を身に纏ったその男は褪せ人に冷たく言い放つ。

 

「先達として、一つ忠告しておこう。君はまだ、この円卓を訪れただけに過ぎぬ。その事を忘れず、弁えてくれたまえよ」

 

 歓迎されていない事を感じ取りながら、褪せ人はギデオンに背を向けて円卓を歩き始める。

 己が何者でもない事など、他ならぬ己がよく知っている。

 

 ギデオンの態度はどうあれ、ここには今の褪せ人に必要なものが集まっていた。鍛冶師、商人、情報。己の記憶すら不確かな褪せ人が、ここに滞在しない理由はなかった。

 

「へぇ……」

 

 円卓で、不器用ながらに交流を始めた褪せ人。その様子に、アブグルントは興味深そうに目を細める。

 ここに来るまでの道のり、いずれも興味深いものがあったが、些か物足りないというのが彼女の感想だった。

 ただ一人、孤独な道のりを行く。それも確かに悪くはない。だが、そんなものを彼が苦にする筈がないのだ。

 

 裏切り、謀略、離別……物語を彩るには登場人物が足りていない。彼の感情を引き出すには、生半可な苦痛では足りないのだ。その点、この円卓は期待が持てそうだった。

 

 誰もが陰鬱で、疲れ果て、しかし諦めきれない闇を抱えている。この円卓での関わりは、きっと彼を侵すだろう。

 

「ふふ、楽しくなりそうね?」

 

 可愛らしく小首を傾げ、褪せ人の暗い旅路に思いを馳せる。

 悲劇あれ。私の英雄は、困難と苦痛の果てに輝くのだ。

 

「英雄様、ほんの一時、私に抱かれてくれませんか」

 

「——は?」

 

 アブグルントの表情は、唐突に放たれたその一言に急速に凍りついた。

 褪せ人が訪れた円卓の一室、暖炉の前に置かれた寝台に腰掛けた黒衣の女。彼女は褪せ人に対してそう求めたのだ。

 死衾の乙女、フィア。彼女は無言で見下ろす褪せ人に再び口を開く。

 

「……卑しいと、お思いでしょうか。けれど私の故郷では、これが聖なるやり方なのです」

 

「駄目よ、そんなの。どうせ他の男にも声を掛けてるのに、彼の無知につけ込むなんて!」

 

 自分の過去の所業を棚に上げ、アブグルントが必死に訴える。だが、此処に在るのは所詮過去の出来事。既に起きた事に、彼女の声は届かない。

 

「……? まぁ、良いだろう」

 

「!?!?!?」

 

 意図は読めず、されど悪意も感じず。褪せ人は然程深くは考えずに彼女の求めに応じた。

 

「ああ、ありがとうございます、英雄様。どうぞ此方へ……」

 

 褪せ人が促されるままにフィアへと近づく。円卓は静かで、暖炉の火が弾ける音だけが響いている。

 しかし、それを見ている者達は阿鼻叫喚であった。

 

「……流石に親友の情事を覗くのはな」

 

 王子はこれから起こるであろう出来事に気まずそうに頭を掻くと、背を向けて終わるまで待つ事にした。

 

「……まぁ、そうですよね。別に、初めてとかそんなんじゃないですよね」

 

 フーロンは務めて冷静に振る舞おうとしていたが、狼狽は隠せていない。目を泳がせ、その声は震えていた。

 

「ほ、封神台で……歴史を書き換えないと……!」

 

 アスバールがうわ言のように呟く。こんな事はあってはならない。現実逃避するように、荒唐無稽な事を考え始める。

 

 他の者達も似たようなものだ。狼狽、焦り、混乱。唯一全てを把握しているヒュープが、酷く煩わしげな表情を浮かべていた。

 英雄なのだから、このくらいは当たり前ではないか。何故、人の子だけでなく亜神達までそのように取り乱すのか。そう思わずにはいられなかった。

 

 周囲の混乱など全く関係なく、夢は進む。

 褪せ人は促されるままに寝台の前に跪く。フィアはそんな褪せ人を包むようにして両手で抱きしめた。

 

「ああ、貴方はとても、暖かい……」

 

 どの程度そうしていたか。

 しばらくすると、フィアは褪せ人から離れる。褪せ人は、己の内に何かが宿ったのを感じながら、立ち上がる。

 

「……それだけ?」

 

 目覚めた後、一体どうしてくれようか。そんな事を考えていたアブグルントは拍子抜けとばかりに呟く。

 フィアは褪せ人を見上げながら、口を開く。

 

「帳の恩寵がまた必要になったら、いらしてください。私は貴方を、何度でも抱くでしょう」

 

「……よく考えたら抱擁も十分に駄目よね?」

 

 それ以上を覚悟していたから拍子抜けだっただけで、男女が抱き合う時点で論外である。それはそれとして、初対面の彼女が通ったのだから、自分達がお願いしても通るのではないか。アブグルントはそう考えた。

 

 褪せ人は身の内に宿したそれを確かめた後、フィアを一瞥し、やがて背を向けた。

 

「……ごきげんよう、貴方」

 

 去りゆく褪せ人に、フィアが声を掛ける。

 彼が去った後、自らが宿した新たな英雄の温もりを反芻する。

 

 生に満ちた鼓動。強く、ただ導きのままに突き進む意思の強さは紛う事なき英雄のそれ。

 

「……貴方は果たしてどちらなのでしょう。英雄として、黄金を戴く王となるか、それとも——」

 

 ——弱き者達の王となり得るか。

 

 新たな英雄に、フィアは僅かな期待を寄せながら、ただ部屋の出口を見つめるのであった。

 

 

 

 

 

 

 褪せ人は円卓から得た情報から、己の向かうべき場所を定めた。

 ストームヴィル城。黒斑と茨に蝕まれた古城。

 かつての城主は既になく、今は悍ましき儀式の為の贄を求める君主が座して待つ。誰もが忌避し、恐れたその城に、褪せ人は踏み入れる。

 

 悪意と敵意に満ち、悍ましい接ぎ木の所業の痕跡と、それとは別の呪い。ただ夢の記憶を追っているだけだというのに、思わず眉を顰めずには居られない。

 狭間の地がいかに壊れ、蝕まれた地であるかという事をストームヴィル城はまざまざと見せつけてくる。

 

 幾多の死を繰り返し、褪せ人は遂に城主と相見える。

 黄金の一族にして破片の君主——デミゴッド、接ぎ木のゴドリックに。

 

「これが、デミゴッドだって……? 化け物じゃないか……」

 

 ゴドリックの異形の姿に、タラニアが思わず声を上げる。

 数多の褪せ人達を狩り、自らに接いでは己が力とする。己が弱さが故に誰よりも強さを追い求めたゴドリックは、人の姿など留めてはいなかった。

 

「……汚れた風だ。お前のような者が破片の君主などと」

 

 褪せ人と同じくしてストームヴィル城に足を踏み入れていた女戦士、ネフェリ・ルーが双斧を抜き、構える。

 褪せ人もまた、バスタードソードを抜いた。

 

「褪せ人風情が、不遜であろう」

 

 ゴドリックが身に纏うマントを脱ぎ捨てる。無数の接がれた腕が、顔を覗かせた。

 蠢くそれらは全てこの地に訪れた褪せ人達のもの。目の前の二人など、何ら脅威になど感じていない。ただのこのこと贄が己のもとに来ただけなのだから。

 

「地に伏せよ!!」

 

 ゴドリックは吠える。そこにあったのは、弱者への優越。破片の君主、黄金を継ぐ者としての強さへの自負がそこにはあった。

 

 最初のデミゴッド、ゴドリック。貪欲に強さを追い求めた老醜の王は、確かに強かった。地を砕く大斧の一撃。嵐を纏う一撃は地面を抉り、墓石すら砕く。

 

 だが、ネフェリと褪せ人はそんなデミゴッドを相手に退く事はなかった。一撃受ければそれだけで致命。この時の褪せ人は未だ未熟であり、振るう大剣の一撃も今と比べればまるで冴えがない。

 だが、ここに来るまでの戦いで得た経験は、デミゴッドを相手取るだけの力を齎した。

 

「いけー!! 回避! 攻撃! 回避! 攻撃! 頑張れ! 頑張れ!!!」

 

「うるさいね……」

 

 興奮したカゴメの応援にヒュープが鬱陶しそうに呟く。

 盛り上がるところなのは認めよう。だが、静かに見させてほしいと心の底から思った。

 気がつけばカゴメは分身して一人で応援団を結成する始末。夢の中でどうやって増えたのか。これと一緒に暮らしている目の前の男の苦労が察せられる。

 

「父祖よ……御照覧あれい!!」

 

 溜息をつく間にも、戦いは佳境を迎える。

 接ぎ木のゴドリック。その狂的な強さへの執着と、接ぎの儀式は死した竜すらも力へと変える。

 竜炎と嵐が吹き荒れ、ゴドリックは己がより高みへと到達したのだと確信した。

 

 苛烈さを増すゴドリックの攻撃。さしものネフェリも肝を冷やす中、褪せ人は臆する事なく死地へと踏み込む。

 如何に攻撃が派手になろうとも、その動きに大きな変化はない。それどころか、付け焼き刃の竜に振り回され、隙が増えていた。

 

「馬鹿な……我は、黄金の君主なるぞ……!」

 

 地を砕く一撃が躱され、炎と嵐の中を褪せ人が踏み込んでくる。

 接いだ腕は次々と断ち切られ、ゴドリックは憎悪と共に睨みつける。

 

 何故当たらない。何故読まれている。褪せ人など、数え切れない程に狩り尽くした。今の己は、竜すらも接いだというのに。

 顔色一つ変えない褪せ人に、ゴドリックはあり得ないものを見た。遠く、偉大なる己が父祖。最初の王の姿を幻視したのだ。

 

「何が……違うというのだ! 我と、貴様で……!」

 

 振り下ろした斧は躱され、隙だらけだとばかりに褪せ人が貫通突きを放つ。それは確かにゴドリックの肉を抉り、血を流させた。

 

「何も……何も違いはしない」

 

 褪せ人はゴドリックの言葉にそう返す。他者から奪い、己が力とする。接ぎ木も、褪せ人も、結局のところやっている事は何一つ変わらない。

 

「ただ、お前が奪われる番が来ただけの事」

 

「おおおぉぉぉぉ!!!」

 

 取るに足らぬと、ただの贄だと考えていた褪せ人に負ける。屈辱に顔を歪める黄金の君主の臓腑を、褪せ人のバスタードソードが貫いた。

 返り血が褪せ人を汚し、破片の君主が膝をつく。

 

「いつかまた……共に、帰らん……黄金の麓、我らの故郷……」

 

 その悲願が果たされる事は無かった。死したゴドリックは、見る間に痩せ細り、その矮躯を晒す。褪せ人は、その骸から目的のものを取り出した。

 

「見事な戦いだった。その大ルーンは、お前のものだ。私の義父も、きっと喜んでくれるだろう」

 

 褪せ人は、己の手の中にある破片を見つめる。幾重にも重なった光の輪。実体があるのかないのか、それすらも不確かなそれを握り締め、褪せ人は前を向く。

 

 まずは一つ。使命に一歩近付いた事を実感し、褪せ人は歩みを進める。

 ゴドリックにとっては死守すべき唯一。しかし、褪せ人にとっては集めるべきものの一つに過ぎない。

 エルデンリング。砕けた破片を集め、あるべき姿に。その為には、この世界に君臨するデミゴッドを殺す必要がある。

 

 褪せ人はゴドリックを踏み付けるゴストークの横を通り過ぎ、ゆっくりと大扉を開くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 扉が開き、褪せ人が歩みを進める中で、唐突に地面が揺れる。

 

「ここまで、かな」

 

 突然の揺れに、慌てたイリスを他所にヒュープが呟く。

 

「目覚めの時が来たみたいだ。まぁ、キリのいいところだし今回はお開きとしよう」

 

 今回は。

 また次がある事を示唆しながら、夢の世界は崩れていく。心地よい浮遊感、自らが意識が眠りの世界へと誘われるのを感じながら、イリスはただその身を委ねた。

 

 イリスは、自身の寝室で目を覚ました。

 夢の中での出来事。褪せ人の過去を思い起こしながら、イリスは枕を抱きしめる。

 褪せ人の過去だ。彼がこの世界で英雄となるだけの理由が、確かにあった。だが、それ以上にイリスの中ではある想いが強くなっていた。

 

 褪せ人。この世界においてはただ一人を指し、尊敬と畏怖を集める名前。

 だが、彼の世界では故なき者達の総称であり、侮蔑と敵意を込めて呼ばれる言葉。

 

「……名前、知りたいなぁ」

 

 あんまりではないか。本人は気にしないとはいえ、真実を知ってしまえば気になってしまう。ましてや、憎からず想う相手なのだから。

 いっそ呼び方を変えてみようかな。そんな事をイリスは考えながら、ベッドから降りると、いつも通りに身支度を始めるのであった。

 

 その日、褪せ人は周囲の視線が妙に生暖かく、異様に此方を気遣っている事に気が付いた。

 覚えのない褪せ人にとってその優しさはあまりに気味が悪く、ミケラの魅了を思い出してしまったのは無理からぬ事だった。

 

 尚、アブグルントがお願いがあると言い出したが、邪悪な企みを感じた褪せ人は普通に断ったのであった。




頑張ってダイジェストに。やりたい部分はひとまず拾いました。
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