Raider&Bacher   作:ダウナー黒色刀大好き侍

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第1話

 

 

 

 

 

 

 雨が降っている。

 

 

 

 あのときのようだ。

 

 

 

 ところどころ剥がれた乱雑な作りの冷たいアスファルトの上。

 

 

 

 無造作に、無防備に、無様に転がるように倒れている。

 

 

 

 声が聞こえる。こんな虫けらのような俺に、叱責でもするかのように鋭くも、どこか懇願しているような声が。

 

 

 

 

「──────なにやってんの……っ!早くっ、早く立ってよ!アンタはそんなもんじゃやられないでしょ……っ!だから早く立ってよっ!」

 

 

 

 

 降り注ぐ雨のように冷たくなっていく体。黒色のアスファルトに被さる俺の体から流れる血。それでも、そうだな。立たなくては。

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

 

 

 大丈夫。最後くらい思いきり無理しよう。だからこの無理に付き合ってくれ、俺の体。

 

 

 

 

「──────これで決別としよう」

 

 

 

 

 だからどうか、どうかせめて眠ってほしい。これからずっと目覚めることなく、永遠に。

 

 

 

 

 最後を前に、俺は目を閉じてこれまでのことを走馬灯のように思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────お母さん!この本がいい!」

 

「欲しいのあったのね、よかったぁ。店長さん。この本をプレゼント用に包んでもらえますか?」

 

「……かしこまりました」

 

 

 

 小さな男の子の要望を叶えるために本屋へやってきた母親。目当てのものを見つけたのか、小さな男の子は嬉しそうに本を抱えてレジまで持ってくる。対応する店員兼店長の男性は20代と思われる。愛想が良くなく笑顔の一つも浮かべやしない。

 

 しかしその店長の手は本を雑に扱う様子もない。小さな男の子から差し出される本を丁寧に受け取ってプレゼント用の包装で本を包んでいく。あっという間にシワ一つなく出来上がり、可愛らしくリボンまでついている。

 

 代金を母親から受け取って本を男の子に渡す。だがその瞬間、視界がぐにゃりと曲がった気がした。

 

 

 

「……っ!!お母さんっ、なんかへんだよ!!」

 

「ま、まさか()()()()()っ!?うそっ、しっかり掴まっててっ!!」

 

 

 

「……はぁ。厄日だ」

 

 

 

 小さな男の子を抱きしめる母親。天井を見上げながらレジの下に手を入れて何かを手に取る店長。外を歩いていた通行人の何名かを巻き込み、フィールドが辺りを呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────グレイ〜?ホームルーム終わったよー?」

 

「ん、んー」

 

「ありゃ、グレイちゃんはオネムですか」

 

「いつも眠そうっていうか、ダルそうじゃん」

 

「……活気的なの、むり」

 

「ほらほら!それでも帰らないと!ねーねー、帰りにどっか寄って行こうよ!帰りの寄り道でかわいい感じの飲み物は現役女子高生の定番だよ!」

 

「そんな定番初めて聞いたわ」

 

 

 

 机の上に上半身をベッタリと倒して気怠そうな声を出して返事をする現役女子高生の2年。グレイズ・シルヴァーバッヂの周りには、友人の女子高生が3人。いつも通り一緒に帰るために彼女を囲っている。

 

 楽しそうにワイワイしている友人に囲まれているグレイズは、少しめんどくさそう。でも強く否定しないのは友人である彼女達を大切に思っているからだろう。それを知っているのか、友人達は強めに腕を引っ張り、甲斐甲斐しくバッグを持ってやって教室から出ていった。

 

 

 

「今日どこ行く?サクバ行こうよサクバ!新しいのが出たんだって!」

 

「なんてやつ?」

 

「イチゴライムマンゴーメロンクリームフラペチーノ!」

 

「なんて?」

 

「ゼッタイやめたほうがいいやつ。味が喧嘩通り越して戦争してそう。グレイはどうする?」

 

「あー……アタシ、パス。お金ないし」

 

「えー!グレイってばバイトしてるのにいつもお金ないじゃーん!たまには奢ってよー!」

 

「やだよ」

 

 

 

 友人が持ってくれている通学用のバッグを受け取って自分の足で歩いているグレイズ。親しい者からはグレイと気安く呼ばれている。彼女は肩まである黒い髪。気怠そうな声色が特徴のダウナー気質な女の子。雰囲気は独特だが普通の女子高生。

 

 グレイズはスカートに入っている携帯端末に着信があったことをバイブレーションにより察した。あることのために、特定のところからの着信があった場合、判別できるようバイブレーションが通常時と違うものに変化するよう設定している。今回のバイブレーションはその違う方。つまり、“急用”だ。

 

 

 

「……はぁ。バイト先の子が熱出て休んで人手足りないから来てだって。ということでアタシいち抜け〜」

 

「えーっ!?グレイのバイト先の子体弱すぎない!?この前もだったじゃん!」

 

「仕方ないじゃん。……アタシだってめんどいからイヤだし」

 

「まーまー。用事があるなら仕方ないじゃん。グレイ、また今度行こうね」

 

「うるさいのは黙らせておくから、ここは私たちに任せて先にいけぇ……っ!」

 

「あそ。じゃあまたー」

 

「ちょっ、2対1はずるいっ。か、勝てないよぉっ!グレイっ、カムバァーーーーーックっ!」

 

 

 

 友人の悲しい叫びを背中に受けながら、手をひらひらと振って雑に答える。バイトなので仕方ないとはいえ、グレイズは小さく溜め息を吐いた。

 

 

 

「……アタシも一緒に帰りたかったな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 零災(れいさい)。嘗て人類に与えられた試練とも言える大災害。それは世界規模にもなり、途方もない数の人々が犠牲となった。人類は一度零へと戻り、絶望することを強いられた。

 

『フィールド』と命名された、球状の特殊な黒い空間が生まれる。外から中に入るのは容易い。フィールドに向かって入っていけばいいのだ。しかし中からは独自の力だけでは無理だ。今でこそフィールド内に現れる謎の生命体“虚人(ホロウ)”を倒した際に現れる結晶のような物質『マテリア』を使用することで実現した、フィールド専用空間移動装置があるから出られるものの、昔は入ったら最後出られなかった。

 

 フィールドは時間の経過と共に範囲を広げていく。やがては地上を呑み込むことだろう。それを阻止するため、フィールドに自分から侵入し、中に居るフィールドを形成している元凶の管理者を倒す者達が居た。人々はその者たちをレイダーと呼んだ。

 

 

 

「──────来ましたよー」

 

「──────学校お疲れさま。急に呼び出してごめんなさいね。1時間後にフィールドが生まれるとの情報が入ったの。着いて早々だけれど用意してくれる?」

 

「えー……レベルは?」

 

「4くらいかしら」

 

「じゃあ、別にアタシじゃなくてもいいじゃん」

 

「お願いね?グレイ」

 

「ちぇっ……着替えてきまーす」

 

 

 

 帰り道、黒塗りの車に拾われてやってきたのは、見上げるほど高い高層ビル……の裏側。関係者以外の出入りは完全に断たれており、撮影なども禁止されている場所。グレイズはそこから中に入ってエレベーターに乗り、社長室とプレートが貼られた一室に遠慮なく入った。

 

 そこに居たのはシワ一つないスーツを着た美人な女性が下を見下ろせるガラス張りの壁から下を見ていた。プロポーションが抜群によく、豊かな胸の下で腕を組んでいることで胸部が押し上げられ、見る人によっては視線を送ることは間違いないだろう。そんなできる女を体現したような見た目と雰囲気を醸し出す女性と少し話したグレイズは、すぐに社長室を後にしたのだ。

 

 

 

「──────仮面ちゃんだ!」

 

「本当だ!こっち見てくれー!!」

 

「仮面ちゃーん!頑張ってくれー!」

 

 

 

「『──────見えますでしょうか!?たった今フィールド形成現場に仮面少女が到着いたしました!エレクヴァイトの生産でお馴染みの大企業、スターインダストリーが抱える超新星レイダーです!彼女はこれまでにも何度もフィールド攻略を行っており、その速度は凄まじいものがあると専門家が舌を巻くほど!ここ、オアシスである新生ゼイレス大都市の大人気レイダーです!今回のフィールドレベルは4とのことでしたが、今回はどれだけ速いスピード解決を見せてくれるのか!?今回も仮面少女の相棒『月詠』が火を吹くことでしょう!』」

 

 

 

 レイダーとなって日が浅いにもかかわらず、既に人々から認知されて人気を博している仮面少女。その名の通り顔には西洋のパーティーなどで使われるような仮面をつけている。服装は見た目高校生のようでありながら、遊びがある感じの独自の制服を身に着けており、その腰には二振りの刀が差してある。銘を『月詠(つくよみ)』といい、エレクヴァイトで造られた特注の対ホロウ用特殊武装である。

 

 人類が追い詰められたことで1から作り上げたオアシス。新生ゼイレス大都市の内部であろうがフィールドは発生する。ホロウから落ちたマテリアを解析することでフィールドの大まかな発生タイミングがわかるようになった。フィールドレベルとは、そのフィールド内に居る管理者のおおよその強さを示す数値であり、1から10まである。

 

 

 

「仮面ちゃーーん!!」

 

「応援してるよー!!」

 

「今回も管理者を倒してくれー!!」

 

 

 

「……うるさ。人の視線集めるのムリなんだけど。もっと違う入り方ないの?」

 

『仕方ないでしょ。こうした方がうちの会社の宣伝にもなるの。女子高生みたいな制服に刀と仮面なんて皆好きそうでしょ?現にこんなに人気なんだもの』

 

「……一応現役女子高生なんですけど。あとアタシは客寄せパンダかなにか?」

 

『使えるものはどんどん使っていかないとね。さぁお喋りはおしまいよ()()()。あなたには簡単な攻略だとしても気を抜かないで。サポートはいつも通り私がするわ。頑張ってね』

 

「はーい。じゃあカウント。さーん。にーい。いーち──────突入」

 

「仮面少女に続け!陣形そのまま!空間移動装置は何があっても手放すな!」

 

「「「──────はっ!!」」」

 

 

 

 大都市に作り出されてしまったフィールドは120メートル程の大きさをしていた。その間にあるものは呑み込まれており、中に入らなければどうなっているかわからない。グレイズは他のフィールド対して適性がある者達でのみ作られた部隊の先頭を切って中へと入っていった。

 

 メディアや見物人達の視線を浴びながら入ったフィールドの中は、フィールドの外の街並みを荒廃させたような空間となっていた。フィールドの中は外から見た大きさと比例しておらず、別の世界のように感じてしまうくらい広い。

 

 そんな場所で取り残されてしまったフィールドに適性がない一般人は、グレイズ達のようなレイダーの助けを待つしかない。そしてその適性がない一般人を早速5人見つけた。彼等彼女等は突然現れたグレイズ達に驚いた様子だが、レイダーだとわかると憔悴した表情から活気が少し戻り、急いで立ち上がった。

 

 しかしその一般人達の体にはところどころ結晶がくっついている。いや語弊があった。くっついているのではなく、皮膚が結晶化してしまっていた。フィールドの中では適性がない者には死の空間そのもの。体が少しずつ結晶化してしまい、最後は結晶の塊となって死ぬ。

 

 

 

「空間移動装置の設置を急げ!手が空いた者は要救助者の確保!負傷していれば傷の手当てだ!残りの者はホロウが来ないか見張れ!」

 

「んじゃ、あとよろしく〜。アタシは管理者探してくるから」

 

「はっ!お気をつけて!」

 

「息子……わたしの息子が見当たらないんです!どうか見つけてください!」

 

「お母さん落ちついてください。我々が来ましたから。もちろん探しますが、仮面少女が管理者を倒せばすぐに再会できますので」

 

 

 

「んー、大きなエネルギー反応はっと……」

 

 

 

 対ホロウ観測用端末を取り出して、ホロウが内包するエネルギーの大きさから位置を割り出す端末を片手に、拠点を作っていく部隊から離れていくグレイズは、背後から聞こえる息子を探してほしいという声を聞きながら、荒れている建物の残骸と、その瓦礫の山を滑るように移動していく。

 

 空は青く、太陽が一つ昇っている。フィールドの外と対して変わらない風景。建物が倒壊していたり植物が覆っていたりと、荒廃してしまった光景以外はそのままの中を1人で進む。すると、端末の画面に赤い点がいくつも表示された。敵の存在を示すマーカーで、ホロウがやってきた。

 

 ホロウは金属のような表面をした人形の怪物である。関節部分は隙間があり、上腕と前腕と思わしき金属が浮いた状態で並び、腕を作っている。それらが脚や手にも同様に見られ、頭は人の頭を滑らかな球型にし、結晶で作ったような見た目をしている。胸部には明らかに色の違う部分があり、それが弱点とされるコアと呼ばれるものだ。

 

 そんなホロウがグレイズを囲むように現れた。多勢に無勢という状況に陥ってしまう。だがそんな状況であろうと、グレイズの表情に焦りはない。

 

 

 

「ホロウに囲まれた。『月詠』使うから」

 

『わかったわ。怪我のないようにね』

 

「わかってるって……」

 

 

 

 両の腰に差してある二振りの刀は対ホロウを想定して作り出されたグレイズの専用装備である。特殊強化装備というものの一つである。この二振りの刀『月詠』の他にも、グレイズが着用している制服型のスーツがそうだ。着用者の動きに連動するナノテクノロジーを使用しているため、見た目以上の超人的動きを可能とする。

 

 ホロウが近づいてグレイズに手を伸ばそうとする。捕まれば確実に殺そうとするだろう。しかしその手は彼女に触れることはなかった。何せ、その場にはもう居なかったからだ。忽然と姿を消し、ホロウが集まっている場所から少し離れた場所を歩いている。いつ抜いたのか判らない『月詠』を鞘に納刀して歩き続ける。

 

 首を傾げてホロウが追いかけようとする。がしかし、ホロウの脚が細切れに斬り刻まれていた。バランスを崩して地面に手をつく……はずが手から始まり腕、頭、コアと細切れになっていった。囲っていたホロウ7体があっという間に消滅し、その場には7つのマテリアが落ちていた。

 

 

 

「回収任せたから」

 

『はいはい。私の方から連絡入れておくから、グレイはそのまま管理者を探してちょうだい』

 

「んー、了解」

 

 

 

 散歩でもするように先を進む。連絡を受けた隊員がグレイズが倒したホロウから落ちたマテリアを回収しているのを聞きながら、彼女は手元の端末に視線を落とす。取り敢えず近くにホロウは居ないようだ。

 

 だだっ広い空間の内側。まるで違う世界に思えるそれに、広すぎて探すのめんどくさいんだけどと小さく呟きながら、歩みは止めない。が、グレイズは咄嗟にその場から横に回避行動をとった。次の瞬間には、先程まで居た場所に細いレーザーが着弾した。

 

 レーザーが飛んできた方角を回避しながら見ていたグレイズはめんどくさそうにその方向へ目を向けると、今にも倒れるのではと思える角度に傾いた廃ビルの屋上にホロウを発見した。右腕に当たる部分が他と違い砲台のようになっていて、高い音を出しながらエネルギーを充填している。

 

 

 

『狙われているわよ。当たらないように気をつけて。頭なんて撃ち抜かれたら即終わりなんだから』

 

「そんなの誰でもアウトでしょ。はぁ……めんどくさいから、そんな高いところにいてほしくないんだけど……っ!」

 

「■■■■■■■■っ!!」

 

 

 

 グレイズが駆け出す。目指すはもちろん距離と高さを確保しながらスナイパーが如く狙い撃とうとしているホロウ。大きく傾いていることをいいことに、強化装備の性能を存分に使って目にも止まらぬ速度で駆けると、急な登りをものともせず向かう。

 

 ホロウは向かってくるグレイズに狙いを定め、右腕に左手を添えてレーザー状のエネルギーを放った。しかしそれは当たらない。跳躍して上へ避けると、今度はチャージされていない弾丸状のエネルギー弾がマシンガンのように放たれるが、それを空中で体を捻り回転して避け、着地すると同時にジグザグの軌道を取りながら弾を全弾避けつつ接近する。

 

 そして左腰の刀のみを抜いてすれ違い様にホロウを斜めに、袈裟斬りにした。斜めに体がズレていき、最後は消滅した。手の中の刀をくるりと回しながら器用に納刀すると、振り返って斜めの足元を利用して滑り落ちていく。

 

 単独で8体のホロウを撃破。数としてはマテリアの回収は少なめだが、8体目のスナイパーのようなホロウは他の個体と比べて内包するエネルギーの量が多かったので大きめのマテリアが落ちていた。これは凄まじい戦闘力を示していた。しかも本人は無傷である。

 

 このままなら管理者も余裕だろうと考えていたとき、耳につけている通信機から社長が新たな情報を入れた。このまままっすぐ進んだところに子どもの反応がある……と。それを聞いて、フィールドに入って最初に保護した女性が子どもを探して……などと叫んでいたのを思い出した。

 

 

 

「多分あの女の人の子供だよね。適性が少しはないと時間的に危ないかも」

 

『それじゃあ急いでちょうだい。保護できそうなら保護。ダメそうなら管理者優先よ。任せたわね』

 

「了解でーす」

 

 

 

 指示に従い、案内される方角に足を伸ばす。グレイズがフィールドに入ってから肉体に何も起きていないので勘違いされるかもしれないが、本来は適正がないと体が結晶化していき、最後は死に至る。ここはそういう理不尽な領域。子供は体が小さく、その分面積も少ないので完全な結晶化にかかる時間は短い。

 

 生存者を助けないといけないのは確かだが、それでも選択に迫られれば優先すべきはフィールドの破壊。ないしは管理者の打倒だ。そうしないとフィールドが広がっていき新たな犠牲者が出てくるかもしれないからだ。

 

 さっさと片づけて帰りたい。家でゆっくりしたい。そんなことを延々と考えながら瓦礫の上などを渡って先を進むと、広場らしき場所の跡地にポツンと立ち尽くす子どもの男の子の姿を発見した。耳につけた通信機で社長に生存者を見つけたと報告。次いで少し急ぎ足で少年の傍までやって来た。

 

 

 

「こんなところで何やってんの」

 

「……っ!?ぁ……仮面ちゃんだ!」

 

「はぁ、はいはい。それで、なんでこんな場所にいるの。アンタの母親が探してたよ」

 

「お母さんに買ってもらった本がなくて……さがしてたら……えっと」

 

「勝手に動いて迷子になったってことね。……適正があるのか結晶化してるところは今のところなし……と。よくホロウに襲われなかったね。運いいじゃん」

 

「え?んーん。()()()が助けてくれたの。ホロウがきても、バンバーンってやっつけて、パンチとかで倒してたよ!すっごくつよかった!ヒーローみたいだった!」

 

「黒い人?……どんな格好だった?」

 

「うんとね、黒いヒラヒラだった!」

 

「あー……顔は?見た?」

 

「黒いヒラヒラの帽子で見えなかったよ?」

 

『わかってると思うけれど、そんな外見的特徴の人を送り込んでいないわ。今回はウチだけが突入しているし、あなた以外の隊員は全員強化アーマーを身に着けてるから見た目はゴツい。おそらく黒いヒラヒラっていうのはローブの類ね。しかも丁寧に顔まで隠してる。バッカーで決まりね』

 

「強化装備もなしにホロウ倒すとか。しかも子どもの言うことを信じるなら、拳でも倒してたみたいだし」

 

『不可能じゃないわ。コアさえ破壊できればいいのだもの。けれど、ホロウのコアは最も硬い部位。普通の拳銃じゃ全く刃が立たない。だから対ホロウ用強化装備が生まれたんだもの』

 

 

 

 子供は興奮したように、如何に黒いヒラヒラの人がすごかったのかを身振り手振りで教えようとするが、グレイズ達にとってはそのかっこよさはどうでもよくて、既にバッカーが中に入り込んでいたことに思考を割いていた。

 

 バッカーとは、正規の攻略者であるレイダーとは違って認可もされずにフィールドに立ち入る者達のことを指す造語である。裏稼業の者達で、そういった者達は大体マテリアを売ったときの金額に目が眩んで目論みやすく、入ってから空間移動装置がないことで出られないことや、普通の兵器ではホロウを倒せないこと、そもそもフィールドに適正がないことに絶望することとなる。

 

 だが、中には例外があったりもする。適正があり、裏ルートで手に入れたホロウにも対応できる武器を手にし、フィールドに入って管理者を倒し、マテリアを回収することができるバッカーも居る。そして、そんなバッカーにも伝説があったりもする。

 

 世間の反応は様々で、フィールドをいち早く消し去ってくれるならば、例え目的が金儲けだとしても助かるから否定しない者達と、正規でもないのに勝手に入って勝手に絶望して、レイダーの足を引っ張ることを良しとしない否定派に分かれる。

 

 黒いヒラヒラを着て顔を隠し、素手でもホロウを倒せるような裏稼業に身を置くバッカー。グレイズは少し目を細める。まさかと思いながら子供に他に何か知っていることはないか聞こうとしたとき、少し距離があるところから爆発音が響き渡った。

 

 

 

「あ、あっちは黒い人がいったところだよ」

 

「……フィールドが崩れてきてる。管理者を倒したんだ」

 

『驚いたわね。人数はわからないけれど管理者を倒すだなんて。相当な武器を裏ルートで手に入れたのかしら。とにかくグレイズはその子供を連れて隊員と合流。空間移動装置で戻ってきて。最後まで居るとどこに戻ってくるかわからないから、一応ね』

 

「はーい。ほら、さっさと行くよ」

 

 

 

 管理者のホロウが倒されたことでフィールドに亀裂が入る。虚空に罅が入っているように見える不思議な光景がフィールドの崩壊を物語っており、完全に壊れるまで時間がある。その間に空間移動装置を使って脱出する。そのまま待っていても元の世界に戻れるが、フィールドの範囲の中の何処かにランダムで戻るので、生存者がまた何処か行ってしまう可能性がある。時には空中に放り出されることもあるので空間移動装置で帰ることが推奨されている。

 

 グレイズは子供を抱え、制服型の強化装備の力を使ってその場から大きく跳躍した。空を跳ぶ感覚に子供がはしゃいでいるのを他所に、彼女は爆発音が響いた方向へ首だけ振り向かせた。バッカーの姿を目で見ることはできなかったが少し気になった。視線の先には爆弾でも使ったのか爆煙と砂煙が上っているのが見える。

 

 グレイズはすこし、ほんのすこしだけ後ろ髪を引かれる思いを胸に残しながら前へ向き直し、隊員と合流したのだった。後に子供の母親に会って子供を引き渡し、しつこいくらいの感謝の言葉を貰うと、その瞬間をメディアに撮られて世間からの評価が更に上がった。本人はめんどくさそうに仮面の向こうで溜め息を溢していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────……はぁ」

 

 

 

 フードがついた黒いローブを身に着けた人物が、遠くからレイダーの帰還に対するけたたましいくらいの歓声を聞きながら、人があまり通らない細道を歩いている。その手にはフィールド内でホロウを倒さねば手に入らないマテリアが握られている。色も他と違い鮮やかなので管理者の類を倒した時に落ちるレア度の高いものだ。

 

 本当ならばレイダーに任せるところを、つい出張ってしまったと思っている。手の中にあるマテリアをローブの中に入れて仕舞い込み、代わりに一丁の拳銃を取り出す。普通よりも大きめのそれに視線を落とし、装填されている弾を確認する。

 

 

 

「……3発。それと小型爆弾を1つ。補充……か」

 

 

 

「──────てっきり伝説のバッカーは引退したものだとばかり思っていたが、そうでもないらしい」

 

 

 

「……何故」

 

 

 

「偶然だ。こういう場面を求めて届く範囲のフィールドには訪れるようにしている。6年かけて初のヒットだ。今日の私は幸運の女神がついてくれているらしい。宝くじでも買っておいた方が賢明だと思うか?」

 

「俺は何も見なかったことにして今すぐこの場から消えることを賢明な判断と思う」

 

「そうか。ではこのあと共に宝くじでも買いに行くとしよう」

 

 

 

 そう言って懐からタバコを取り出して咥え、火をつけながら黒いローブの人物を見るスキンヘッドに左目を眼帯で覆った男。いかにも堅気ではないこの隻眼の男は裏稼業で仲介人をやっている。報酬を貰い、求める人材を紹介するのが仕事だ。特に紹介するのは裏稼業……バッカーが多い。

 

 そして伝説のバッカーと呼ばれている黒いローブの男は、弾の確認のために取り出した拳銃のカートリッジを中に戻した。ガチャンと音が鳴り、タバコの煙を吐き出す音と重なる。2人には面識があった。しかしとても仲が良い雰囲気には感じられない。重苦しい雰囲気の中、仲介人が本題から先に話すこととなった。

 

 

 

「6年もかかって奇跡的に見つけたんだ、話くらいは聞いてくれるだろう?依頼だ」

 

「俺は引退した。今回動いたのは巻き込まれて仕方なくだ。依頼は受けない」

 

「まあそう焦るな。依頼者はあのスターインダストリーからだ。手を貸してほしいんだとよ。かつて今と違い対ホロウ用特殊強化装備の性能が低くて有効打になり得ず、裏にも出回ってすらいない時代に、過去最高の9.3レベルを単独で攻略した伝説のバッカー、ジェーン・ドゥ(何者でもない男)に」

 

 

 

 口からタバコを離し、それで指し示しながらそう言う仲介人に、今でも伝説として語り継がれている元バッカーのジェーン・ドゥは顔が見えないように被っているフードの中で眉間にシワを寄せたのだった。

 

 

 

 

 

 

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