GM:では、皆さんは疲れ切ったアンナを背負って王都ログレスの城壁までたどり着き……。
アオイ:やれやれ、これで何とかなりますね。
GM:……赤枝の騎士に取り囲まれます。
レイ:ちょっ!
レオン:ひょっとして、主戦派に取り込まれた部隊ですか?
GM:その通りです。恰幅の良い幹部騎士が現れ、皆さんを拘束すると宣言します。「赤枝の騎士団大隊長のオーレリーである! 待機命令を無視して勝手に出撃した罪状で、諸君を逮捕する」
バジル:待ってくれ! 俺たちはアンナを救出したんだぞ!
GM:「おおかた魔法による幻影であろう」
レオン:こいつ、開戦の詔が下るまで状況を引き延ばす気ですね!
レイ:どうします? 正直もう一戦するほどMPに余裕は……。
バジル:ここまで来てっ!
「黙りなさいっ!」
膠着した状況を吹き飛ばすように、凛とした良く通る声が響き渡った。騎士たちはうさんくさそうに声の主に視線を合わせ、すぐにバッタのように飛び跳ね、直立不動になった。
「彼らは命がけで私を助けてくれた英雄です。恩人への侮辱はこのアンナ・エルーランが許しません!」
流石のオーレリーも「ぐうっ」とうなり声をあげて包囲を解くように命じるしかない。
「た、大変失礼いたしました。それでは某が先導を……」
大方王に謁見して救出の手柄に自分を割り込ませる腹だろうが、アンナはそれも許さなかった。
「いいえ。まだ魔族が近辺にいるかも知れません。貴隊は王都周辺を警戒してください」
オーレリーは悔しそうに奥歯を噛み締め「畏まりました」と敬礼した。
アオイ:ざまぁwww
バジル:アンナ、ありがとな。
バジルの言葉に、アンナは疲れ切った顔で、しかし嬉しそうにぺろりと舌を出した。
「えへへ、どうだった? 私の王女ぶりは?」
銃士たちは半ば呆れ、半ば頼もしそうに将来の主君を見つめた。
こうして、「英雄の時代」最初の1日が終わったのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ここからはその後の話となる。
王宮では、最愛の一人娘を拐かされて憔悴しきった国王エル13世の午前に、開戦派のベアトリス枢機卿と、慎重派の王弟ケストナーが論戦を繰り広げていた。
ベアトリスは昼行燈と奇行癖で有名なケストナーの豹変ぶりと、その支持者の意外な多さに舌を巻いていたが、このままではアンナは殺されると煽り立て、王の心を開戦へと傾けていた。
そんな中救出されたアンナ王女が御前会議に現れ、事情の説明と開戦の即時中止を具申した。もとより戦争に興味のない国王はこれを認め、貴族たちの目も構わず娘を抱きしめたと言う。
この時国王は、かつて改革に燃えていた頃の冴えを一時的であっても取り戻した。ただちに非常事態宣言を行い、円卓の騎士団及び赤枝の騎士団全軍に臨戦態勢と教団軍の捜索と撃滅を命じた。足りない戦力は国庫から資金を捻出し、冒険者を雇って各地の警備と捜索に当たらせる。
一通りの指示を出した時、客室で死んだように眠っていたバジルたちが起きてくるのを待ち、彼らの手を取って感謝の言葉を述べた。討伐若しくは捕縛された教団軍は200余名にも及んだが、ほとんどの者が事情を知らない傭兵で、幹部である魔族は全て自害して果てていたと言う。
王はエルーランの沽券にかけて教団なる組織を摘発すると宣言し、その手足となる事を期待されたのが王立銃士隊だった。
国王は救出に関わった銃士及び騎士全員に勲章を与え、銃士隊を円卓の騎士団、赤枝の騎士団と並ぶ正式な騎士団と位置付けた。騎士爵の授与も考えられたようだが、これはケストナーが止めたとされる。平民の部隊である銃士隊の良き文化が失われないよう、爵位ではなく恩賞で報いるべきだと主張したのだ。王はこれを受け入れ、銃士たちにボーナスを大盤振る舞いした。
だが直接王女を救出したバジルは話が別だった。将来アンナの側近となることを見込まれた彼は、準男爵位を与えられる。
レオンの手記では、気楽さを好むバジルはこの打診を固辞しようとした。「王様の顔が潰れます!」と周囲から説得され、不承不承受ける事になった。英雄バジルの躍進はここから始まる。
同じく、エトワール、ヴァレリーの両名も準男爵位が与えられ、赤枝の騎士随一の出世頭となった。
ひとり面白い行動をした人物がいる。バジル隊の支援に駆け付けた新人隊長ユーリである。彼は王の御前で堂々と語り始めた。
「どうしても欲しいものがありますが、それは今回の功績では足りません。また手柄を立てますので恩賞はその時まとめて頂きたい」
温厚そうな彼のあまりの言い草に一同が唖然とする中、王は何か気づいたように「そうか、そなたが……」とつぶやき、彼の願いを認めた。恩賞を蹴ってまで彼の望んだものが、たったひとりの女性だと知った時、貴族たちはまたもや唖然とし、噂好きの街人達は彼に喝采を送った。
かくして、激動の1年間を彩る英雄たちが歴史の表舞台に顔を出した。
その中心人物である英雄バジルは回顧録を残さなかったが、右腕である銃士レオンと後輩ユーリは、そろって以下のように書き残している。
「彼はその後も準男爵の地位などなかったかのように振る舞い、その溌溂とした生き様は欠片も揺らぐことは無かった」
これにて大団円。お付き合いありがとうございました(`・ω・´)ゞ