仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

138 / 138
さあ、物語も佳境です。

津田と、艦娘たちの再会。そして最終決戦の前に、彼にはやらなければならないことが残されています。


第137話『再会。そして贖罪』

Starring:霞

 

日本本土 紀伊半島南端より七〇海里

 

 丹賑島艦隊の、随伴用高速艇。さっきから大淀がずっと、ヘッドセットをつけて、ぶつぶつ言ったりメモを取ったりしている。霞は腕時計を確認する。もうすぐ日没だ。

 

「おかしいですね」

 

 提督の密命だとかで、内地までの進軍を全艦隊に命じておいて、ランデブーポイントに着いてみれば音沙汰無しである。あのクズ司令官、本当にいつも心配をかけてくれるのだ。

 

「大淀さんもそう思う?」

 

 大淀に賛同し、瑞鶴が彼女の意図を問う。

 

「ええ、これは普通の無線封鎖じゃありません。呉だけ何の通信も行ってないのに、他の三大鎮守府は狂ったように電文が飛び交ってます。呉に何かあったと考えるべきでしょう」

 

 そして彼女は、一言付け加え。

 

「普通軍隊は、パニックを起こすと平文の交信を始めるものですが、日本海軍の練度は流石ですね。皆暗号通信を徹底してます」

 

 しかし今は、それが災いしている。通信を傍受してもそれは暗号。権限の問題で解読用のキーを与えられていないから、「何かある」としか言えない。

 

「それでどうするの? あいつの言う通り、連絡が無かったら呉に突っ込む気?」

 

 半分八つ当たりで言ってしまったことに気付き、後悔する。しかし返答は迷いのない見敵必戦だった。

 

「そうですね。突っ込みましょう」

「そうね、突っ込むわ!」

 

 このコンビ、クズ司令官から悪影響を受け過ぎである。

 

「ちょっと大和、何とか言ってよ!」

 

 後ろで、海図を確認していた大和は振り返ると、迷いなく言った。

 

「私も突撃するべきだと思います」

 

 そうだ、彼女も悪影響受けた勢だった。

 

「あんたたち、司令官が無策で敵に突っ込めって言ったらやるの?」

「いいえ、提督がそのようなことをおっしゃるわけがありません。その提督は偽物です」

「提督さんのことだから、何か裏があって察して欲しいんでしょ。まずはアイコンタクトじゃない? いつものことよ」

「そうですね。提督に監視が付いて言わされている可能性があります。まずは泊地内のカメラを確認して怪しい影が無いか調べます」

 

 こ、こいつら……。

 しかしまあ、頼もしくもあるし、彼の見えているものが見えている三人が、少し……ほんの少しだけ羨ましくもある。

 

「まずは索敵網を維持しつつ西進しましょう。もし呉が襲撃を受けているなら、遊弋(ゆうよく)している潜水艦の数が大きく増えている筈です」

「新人たちの腕を見たいから、雲龍たちを前に出していい? もちろん私と大鳳とで面倒みるわ」

「了解です。本隊の防空は加賀さんと翔鶴さんにお願いしましょう」

 

 丹賑島はもう提督を失って右往左往する組織ではない。ちゃんとそれぞれがやるべきことをやれる艦隊だと実感した。

 自分も負けていられない。

 

「呉が襲われてるなら、大発で物資を強行輸送する場合もあるかも」

「敵前上陸になるかもよ?」

「朝潮型をなめないで」

「では長門さんたちもお呼びして、今後の作戦を……」

 

 大淀が切り出した時、上空の彩雲が高速艇の接近を告げてきた。

 

「友軍のものですね。ようやく会えそうね。霞さん」

 

 彼女は、からかうように言った。

 

 

 

 感動の再会は存在しなかった。霞は呆然と見つめる。そこにあったのは、立ち尽くす艦娘たちと、慟哭する海防艦たち。

 そして、片手を失った”みんなの提督”だった。

 

「殺してやる! 殺してやる!」

 

 足柄が叫んでいる。その怒りが誰に向かっているのか。きっと彼女自身も分かっていない。

 

「提督! ごめんなさい! 提督!」

「また、また守れなかった……」

「死なないでくれよぉ、なあ!」

 

 さっきまで張り切っていた自分はなんて愚かなんだろう。自分はなんて弱くて、何もできない存在なんだろう。司令官は漣の肩を借りて立ち上がり、海防艦たちを順番に抱きしめて行く。でもそんなのきっと、焼け石に水なのだ。

 

「……あんた。何してんのよ。……何てことしてんのよ」

 

 気持ちが、伝えちゃいけない気持ちが。あんたのために頑張ったのよって、押し付けたくなんかないから。でも、でも止まらない。

 

「こんな事にならないようにって、私がどれだけ」

 

 すすり泣いた。こんな顔見せちゃ駄目だって、分かってるのに。

 

 彼は、悲しそうに笑った。よしてよ! そんな顔しないでよ! 叫び声が洩れそうになった時。

 

 陣形の中央で航空爆弾が炸裂した。

 

「みんな! 何やってるの!?」

 

 250kg(二五番)爆弾を炸裂させた瑞鶴は、仁王立ちで司令官の横に立った。

 

「あんたはっ!」

 

 いつもの余裕も冷静さも失い、足柄が食ってかかる。しかし瑞鶴は、それを全て無視した。

 

「提督さんがここにいるってことは、大きな戦いがあるんだよ! 私たちが動揺して、誰か沈んでみなさいよ! 一番悲しむのは誰!?」

 

 二人はにらみ合いになる。瑞鶴の行動は、本来足柄がやらなきゃならないことだ。だから、彼女が冷静じゃなきゃ困る。若手からベテランへの、必死の諫言だった。

 

「……それもそうね」

 

 そして足柄という艦娘は、そういう想いを汲み取れない女ではない。

 

「提督! どんな相手でもすぐに粉砕するわ! それで世界で最高の病院に連れて行くから!」

 

 艦娘たちの戸惑いと悲しみが、少しずつエネルギーに変わり始める。

 

「足柄の言うとおりだ。提督の治療もある。即座に決着をつけよう!」

 

 長門が腕を組み、言う。

 

「そうだよ! 生きてさえいれば! 全力の戦いが出来る! 私、提督の手になる!」

 

 飛龍がこぶしを握って宣言する。

 

「世話が焼けるテートクデース。でも今回ばかりは終わったらグーパンデス」

 

 金剛が宣言し、皆が少しずつ「いつもの艦隊」に戻り出す。気が抜けたのか、瑞鶴がへたり込んで、翔鶴に助け起こされ、ついでに抱きしめられている。

 

 みんなだいじょうぶ。

 だから、自分も。駆逐艦霞も。戻ら、ないと。

 

 司令官が、漣に、何か告げた。

 

「霞ちゃん。来て欲しいって」

 

 なぜ自分が? 大丈夫だと示さなきゃいけないのに。弱みを見せちゃいけないのに。

 

「……何よ?」

 

 ぶっきらぼうに告げる。気遣う言葉なんて出したら、自分の方が泣いてしまうから。でも司令官はそっと霞の頭を撫でて、それから右手を背中に回した。

 

「ごめんな。でも俺はさ、もうお前たちのものだから。全部もらってくれないか? 心も、体も」

 

 その言葉で、身体が軽くなる。ああそうか。この人は、全部分かっていたんだ

 

「馬鹿、ころすわよ」

 

 凶暴で可愛げのないことを言ってしまう。でも彼はいつものように笑っていた。

 

「構わないぞ。……それで困るのはお前だけどな」

「なっ! クズ司令官!」

 

 彼の呼吸は苦しそうに乱れていたが、調子に乗った笑顔はいつも通りだった。

 

「大淀、時間がないのは承知してる。だけど今いる全員と言葉を交わしたい」

「ふふふ、それでこそ提督ですよ」

 

 こうして、丹賑島艦隊は最強の提督を得た。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(必須:5文字~500文字)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

艦娘恋物語(作者:青色3号)(原作:艦隊これくしょん)

戦いの海を駆ける艦娘たちが、今、ひとりの少女として、ひとりの女性として、恋に出会う。戦いの日々、絆の重み、そして新たに芽生える想い──提督と艦娘たちが織りなす、優しくも切ない恋の物語。▼提督と艦娘の恋模様。一話完結。▼お好みのヒロインのお話をどうぞ。▼本シリーズ登場の一部の艦娘のその後につきましては拙作「Pieces of a Story about the…


総合評価:1134/評価:8.3/連載:126話/更新日時:2026年08月09日(日) 12:35 小説情報

スケベ提督と元ブラック鎮守府(作者:ルフレオ)(原作:艦隊これくしょん)

▼劣悪な環境だった元ブラック鎮守府に着任する事となった優しく、それ以上にバカでスケベなクソ提督が心を閉ざした艦娘達と少しずつ打ち解けていくお話。▼


総合評価:1504/評価:7.31/連載:84話/更新日時:2026年09月02日(水) 20:58 小説情報

離島鎮守府再建記(作者:フェレッ党)(原作:艦隊これくしょん)

庁舎全壊、人員ゼロ、艦娘ゼロ、物資少々、食料ほぼなし。▼離島の鎮守府に着任した艦娘提督の新任少尉に突きつけられる現実。▼そんな中で襲い来る深海棲艦。一縷の望みをかけた高速建造の結果、現れたのは――▼これは、1人と1隻から始まる、鎮守府を建て直す物語。▼


総合評価:2788/評価:8.78/連載:52話/更新日時:2026年09月13日(日) 22:29 小説情報

柱島泊地備忘録(作者:まちた)(原作:艦隊これくしょん)

 ブラック企業に勤めていた、とある男。▼ そんな彼が目覚めると、見知らぬ車に乗っていて、紅紙一枚で左遷を言い渡される。▼ 事情も分からない彼に課せられたのは提督業。そして彼はどうやら罪人の扱いを受けているらしいが……?▼ あらゆる鎮守府から欠陥品として見捨てられた艦娘達と共に、暁の水平線に勝利を刻むべく奔走する――。▼ 艦これ? 知ってる知ってる。攻略サイト…


総合評価:25173/評価:9.26/完結:106話/更新日時:2022年06月24日(金) 01:43 小説情報

ある鎮守府のエンゲル係数(作者:ねこまんま提督)(原作:艦隊これくしょん)

地方の小さな漁港にある、地域密着型鎮守府。▼これは食にこだわる提督と、彼に率いられた季節と食を楽しむ艦娘たちの物語。▼深海棲艦から海の平和を守りながら、提督と艦娘たちは今日も楽しくご飯を食べる。▼注意▼艦これの独自解釈など含まれます。▼そのくせ、壮大な世界観とか緻密な設定などはありません。▼重厚な人間ドラマとか手に汗握る熱い展開なども一切ありません。▼提督と…


総合評価:5591/評価:8.38/連載:269話/更新日時:2026年09月12日(土) 14:43 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>