当作品は、樽見京一郎先生の著作『オルクセン王国史 ~野蛮なオークの国は、如何にして平和なエルフの国を焼き払うに至ったか~』の二次創作品です。ネタバレになる部分がありますので原作本編読了後に読んでいただけますようお願いします。

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騎兵は甦る~オルクセン王国史二次創作~

 

後の世に「第一次世界大戦」と呼ばれる、星欧諸国を巻き込んだ大戦争。

 

武装中立を宣言していたオルクセン連邦は戦火を免れたものの…グスタフ王の懸念通り、その大戦は次の世界大戦の火種を燻ぶらせ続けた。

 

グスタフ王の崩御後、その「予言書」ともいえるほど緻密な遺言の順守を進めるオルクセン政府とオルクセン軍。

 

だが、世界大戦中、あまりに広大な戦地を派遣した観戦武官のみでは把握することができなくなり、オルクセン軍は合法すれすれの…他国に「スパイ禁止法」があるならば完全に非合法な諜報活動を行わざるをえなくなってゆく。

 

そうして星欧諸国に伸びた「目と耳」から集まってくる情報に、オルクセン軍上層部は頭を抱えることになる。

 

「第2の産業革命」とも称される、内燃機関…ガソリンエンジンの発明は、オルクセン国内において物流と旅客に一大変革をもたらしていたが…戦場においても同じく、革命が起きていたのだ。

 

悪路走破性の高い軍用トラック。輓馬を率いていたオルクセンからすれば、飼葉を必要とせず、水替わりに燃料を兵站するだけでよい、となれば兵站への負担軽減になる、としか考えられていなかったが…

 

人間族はそれに兵員を乗せ、一気に戦場を運動。オルクセン軍の専売特許ともいえていた戦場運動能力を超える速度を得ていたのだ。

 

トラックに戦闘力はないものの…まるでかつての「乗馬歩兵」のようなその展開力。滅びたはずの騎兵は、新しい戦場に姿を変えて蘇ってきたのだ。…「機械化歩兵」として…

 

「…で、ヴィッセル社からの返答はなんだと?」

 

オルクセン連邦の首都は現在もヴィルトシュヴァインに置かれている。

その中央省庁の1つ、「M七八」の1室に集まったオルクセン軍の中枢を担う幕僚幹部たち。

グスタフ王の時代から、部署の垣根を超えた自由討議の場を活発に設けていた風土は、現在のオルクセン連邦となっても受け継がれていた。

 

「…こちらからのスペックの要請に応えるなら…馬力は現行の4倍、そうなると車格は倍以上になるかと、とのことですが…」

 

議長役を務める総合参謀本部のオークの牡の質問に答えたのは、兵站局のオークの牝(自由選挙により男女平等の風土が根付いた現在のオルクセン軍では、女性の入軍も認められ始めていた)だった。

 

「…戦場で使用するものです。車格は仕方ないのでは?」

「おいおい、平時での運用はどうするんだ?倍以上の車格になったら幹線道路をふさぐことになる。それに…」

「それに、上空から見れば…「的」に過ぎませんな。」

 

陸軍幕僚のオークの牡と議長の参謀本部のオークの牡の会話を引き継いだのは…近年設立された「空軍」の幕僚のコボルト族の牡だった。金色の毛並みをもつダックス種。

内燃機関の進歩は、ついには大鷲族の力を借りずともコボルト族を大空に舞い上がらせるほどに至り…さらには大鷲族にはできなかった火力をもつことにも成功していた。

 

「なにしろ…飛行機?っつったか?20mm機関砲が載ってるんだぞ?バカでかいトラックなんざ一瞬でハチの巣だろうが。」

「ですがそれは…新しい概念…なんでしたっけ?」

「『制空権』ですかな?たしかに制空権を得ていれば「的」にならずには済むでしょうが…」

「いずれにしても一長一短にはいかんのは織り込み済みだな。ひとまずは…」

「…こちらで研究を受け付ける、という形になりますか…」

 

参謀本部のオークの牡の視線をうけ、肩をすくませてみせたのは、ベレリアント方面軍の白エルフの幕僚だった。

 

「人間族と体格が近いのと…ベレリアント半島方面はオルクセン本土より鉄道網が希薄な土地が多い。機械化歩兵の研究には向いてるだろう。さて、次だが…」

 

そういって参謀本部のオークの牡が広げたのは…軍用トラック以上の悪路走破性をもつ無限軌道をもち、車体上部に山野砲クラスの75mm砲を搭載した異形の内燃機関の車種の設計図だった。

 

「人間族は「戦車」…と呼んどるらしい。線路を引かんでもすこし整備しただけの道を走ってくる軍用トラックでも厄介なのに…文字通り「道なき道」をその無限軌道で踏みつぶして走破してくる山野砲付きの車ときた。こんな攻勢兵器を前に…」

 

嘆息とともに設計図をまわしていた参謀本部のオークの牡の目に…おずおずと挙手している手が目に入り、言葉をきってその手の主をみれば…アンファウグリア旅団のダークエルフ族の参謀幕僚だった。

 

「その…「戦車」の本質を見誤るべきではないと思いますが…」

「ほぉ?」

 

ダークエルフ族の発言に興味深そうに方眉をあげた参謀本部のオークの牡は着席し、彼女に発言を勧めた。

 

「…走破性を持つ火力で前線を構築、小銃クラスの火器ならば装甲で防弾し、後方からの歩兵展開を補佐する…この戦車の本質は…「防御兵器」かと。」

「…なぜそう思った?」

 

参加していた幕僚質誰もが思いつかなかった戦車の「本質」をついたダークエルフ族の参謀の言葉にざわめく会議室を制し、参謀本部のオークの牡の質問に…すこし怯みながらも彼女は続けた。

 

「…このような防御的な火器の運用に…覚えがあるからです。…ベレリアント戦争の折に。」

「…!グラックストン…!グラックストン機関砲か…!」

 

ベレリアント戦争、そしてそののちの世界大戦でも猛威を振るったグラックストン環状機関砲。

そのグラックストン環状機関砲を世界で初めて実戦運用したのは彼女たちダークエルフ族のアンファウグリア旅団だった。その言葉の説得力に参謀本部のオークの牡もうなずかざるを得なかった。

 

「…なら、この戦車の運用研究については…アンファウグリア旅団に預けたい。よいかな?」

「…お受けいたします。」

「と、なると規模的に旅団規模では手に余るだろう?アンファウグリアを師団に再編成するとして…そうだな。装甲師団。アンファウグリア装甲師団というのはどうかな?」

 

…こののち、オルクセン国産戦車を中心としたアンファウグリア装甲師団が誕生することとなる。

 

そして…

 

オーク族がその足だけでなく、内燃機関の力を借りて戦場に展開するようになるには…

 

さらに時代が下り、大型回転翼機が実用化されるまで待つことになる…

 


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