不良品と呼ばれた俺が剣と手に入れた力で夢を叶えるまで 作:飽き性boy
「なあ、これ本当に来るのか?」
完全に扉を閉め、何かに備えるように佇んでいる城壁。その外に、城壁に背を向けて話をしている男女の二人組がいた。
「絶対に来ます。魔物の大群の目撃情報、それに偵察隊がこちらに向かう土煙を確認しています」
男性は珍しい黒髪で、スラリとした脚の根元には一振りの剣を携え、動きやすいレザーアーマーを身に付けている。退屈です、という気持ちを隠そうともしない表情は、隣で緊張している面持ちをした女性とは対照的に余裕を感じさせた。
緊張している面持ちの女性は、頭以外をプレートアーマーで覆い、剣と鉄盾を身につけている。眩く光を反射している金髪は風に流れ、揺らめいていた。
「お、見えた見えた。あれが例の土煙かな」
男が指を差した方向には、高く登る土煙。それは魔物の大群によって起こっているもののようだ。しばらくすると魔物の足音が、そして地面を震わせる振動が伝わってきた。
「もう一度、作戦を確認します。私たちの役割はあくまでも扉を破壊してしまう可能性のある魔物の間引き。ほとんどの魔物は城の上の騎士たちに任せます。そしてーー」
「限界を感じたら大人しく二人で退避、だろ?わかってるって」
「本当に分かってるんですか?そもそも、この数の魔物、正面切って戦うこと自体が無謀。この作戦自体、あまり上作とは言えないんですからね」
「ほんと、騎士様はお堅いな。大丈夫、引き際を間違えたりしないって。お前の命もかかってるしな」
ならいいんですが、女性はそう呟いて腰に備えていた武器を構える。それを追うように武器を構える男性は先ほどまでの表情が嘘のように真剣な表情をしていた。
「まあでも、出来るだけ頑張ろうぜ。俺たちがお世話になってる街だしな」
「ええ、私も同じ気持ちです」
視界を埋め尽くす魔物の群れ。その進行方向にいる。
「それにただ魔物に潰されて壊滅なんて、ロマンがない」
二人は示し合わせるかのように、前へと飛び出した。
この世界には、魔物と呼ばれる化け物が生息する。時に商人を襲い、時にいたいけな少女を犯し、時に活気ある村を壊滅させ、時に国自体の存続を危うくさせる、そんな化け物が。
そんな化け物に対抗するために人が身につけた技能。それは
『隣の村に魔力を生み出すことさえままならない不良品がいるらしい』
そんな噂が私が住む村に流れていた。私が住む村はいわゆる田舎で、噂話は数少ない娯楽らしく、2日もしないうちに村中にその噂が広まった。
当然、私の耳にもその噂は入る。魔力は生物なら誰しもが待ち、そして操ることで様々な現象を起こす、そして何より
幼いながらに王都の騎士を夢見ていた私は、そんな騎士の強さの源でもある魔力を生み出すことができないというその人物に、憐れみのような感情、そしてどんな人なのだろうという好奇心を持った。
今にして思えば、なかなか実力を身につけることができなかった焦りから生まれた、『自分より下の人間を見て安心したい』という浅ましい気持ちがあったのだろうと思う。
そんなある日、隣の村まで仕事をしに行くという親バカのお父さんに無理を言って、邪魔をしないという約束のもと、その仕事に同行させてもらった。
仕事は隣町に用のある村長の護衛というもので、魔物と遭遇する危険性のある仕事であったが、元騎士であるお父さんに村長が護衛を頼んだのだという。私が馬車の中でうつらうつらと船を漕いでいる間に、目的の村へと到着、私はすぐに戻ってくるとお父さんに伝え、駆け出すようにその人物を探し回った。
少し疲れを感じてきた、そんな時。村の隅っこにある家の庭から、風切り音が聞こえてきた。お父さんに教えてもらって剣を振っている自分には、それが誰かが、それもそれなりの腕前を持つ人物が素振りをしている音だということがわかった。
元々の目的である、噂の人物を探すという目的はどこへやら。私は好奇心の赴くままに、音の聞こえる方へと駆け出した。
ついに視界に入ってきたその人物に、私は唖然としてしまったことを覚えている。
全てを飲み込むような黒髪と、髪と同じ色をした瞳。勿論、それらも珍しかったが、それを持つ人物、つまり素振りを行なっている人物の年齢に、私は思わず立ち止まってしまったのだ。齢は見たところ、7から8歳、そんなところだろうか。同じ年齢の子どもたちの中で、背が低く気にしていた私よりも背が低く、もうすぐ11歳になる私よりも歳下であろうことが見て取れた。
そんな男の子が、昔騎士をしていたというお父さんに剣を習っている私よりも上手く剣を扱えている、その事実に、私は唖然としたのだ。
「ん、そこのお姉ちゃん、なんか僕に用?」
男の子は、ただ唖然としている私に気づいたようでそう声をかけてきた。
「え、えっと、剣を振る音が聞こえたから」
「お姉ちゃんも剣が好きなの?」
「う、うん!その、騎士になりたくて」
突然の問いかけにタジタジになりながらも答える。今にして思えば歳上としてあのタジタジ具合は恥ずかしかったなと感じるが、元々人と話すのが得意ではない私にしては、逃げ出さなかっただけよく出来たものだ。
「え!僕も!かっこいい騎士になって、沢山人を守るんだ!」
その夢を聞いた途端、私の目が輝くのを自分ごとながら感じた。
同じ夢を持っている、自分と同じ剣の練習をしている子。仲間を見つけたような気になった私は、先ほどまでの緊張はどこへやら。自分も沢山魔物を倒して王国を守る!だの、もっともっと強くなって騎士団長になるんだ!だの。あの頃の夢を熱く語り合ったのを覚えている。
「へー、そうなんだ。隣の村からきたんだ。村の外は危ないって聞いたのにすごいね」
「もともと騎士だったお父さんに守ってもらったからね!お父さんはすごいんだよ!」
そんな父の自慢までして。私にしては珍しく、沢山話をすることができた。
そうしてしばらく話をした後、ふと、「こんな強い子はどんな魔物に
しかし、先ほど見た剣の腕前、この歳であんなに強い子が、どんな魔物に
私の中でどんどん膨れ上がる期待。今している話も全て打ち切って、私はその疑問を口にした。
「ねえ、君はどんな魔物に
なんのことないその疑問。一般的に少しデリカシーのない、とされるような質問だが、子どもの会話ではよくする質問で、私は特に何も考えずにそう発した。
「あー、僕、魔力練れないんだよね」
「え、?」
二度目の唖然。
感じていた楽しい気持ちも、わくわくも、全て吹き飛んでしまったことをよく覚えている。私が元々探していた『魔力を練ることができない不良品』、それが目の前の男の子だったのだ。
つまり、というのは戦闘を行う上で必ず必要とされる能力であり、それが出来ないということは剣の扱いや槍の扱いがどれだけ卓越していても力で押されてしまう、ということだ。
その日、私はこの男の子の年齢からは考えられないほどの力量と、その夢。そしてそれが絶対に叶わないものであるという現実を知ったのだった。
私は適当に理由をつけてその場を去り、お父さんの元へと帰った。そして、その胸に抱きついて、大きな声で泣いた。
親バカであるお父さんはずっと、「何かあったのか!この村の子にいじめられたのか!」なんて騒いでいたけれど、私はただ泣き続けた。
なんであんなことを聞いてしまったのだろう。どうしてあんな強い子が魔力を練ることができない身体を与えられてしまったのだろうか。あんなに剣が上手なら、騎士にだってなれたはずなのに。
そして、私はそんな子を。魔力を練ることが出来ないというマイナスを背負いながらも努力を続ける少年を。どんな気持ちで見に行こうとしていたのだろう、と。
現実のあまりの非情さに、そして自身のあまりの醜さに。私は大きな声で泣いたのだった。
私はそれから大人になり、夢を叶え、騎士になった。今でもたまにあの少年を思い出す。
夢を諦め、村で穏やかに暮らしているだろうか。それともまだ夢を諦めずあの庭で剣をひたすらに振るっているのだろうか。
どちらにせよ、彼があの輝くような笑顔を失っていないことを、私は切に願う。
ーーーーー
「おー、見えた見えた。これがシーラスか。立派な城壁だなぁ」
手で日光を遮りながらシーラスという街へと繋がる道を歩く汚れたレザーアーマーと使い古された剣を身に付けている少年はそう呟いた。どうやら歩いてここまで来たらしく、額には大粒の汗が滲んでいた。
「よーし」
すぅーと大きく息を吸う。
「なるぞー!!!騎士!!!!」
飛び立つ鳥の音。突然の凶行に驚く通行人。
突然叫び出した黒髪の少年は、大きく笑みを浮かべた。
評価、感想よろしくお願いします。
誤字脱字や違和感等の報告もあれば是非。