不良品と呼ばれた俺が剣と手に入れた力で夢を叶えるまで 作:飽き性boy
「はーい、次ー」
やる気のない声。その声に呼ばれて俺は歩を進める。
ここはシーラスという街の城門。一人一人身分証や積荷などを確認し、不審な人物や物が街に入らないよう監視する。そんな大事な役割を任せられている兵士は、その役に似合わず覇気のない声であった。代わり映えのない日常にだらけていることが見て取れる。
俺が身分証を取り出すとサッと確認をし、順番待ちをしている次の若いにいちゃんを呼んだ。
「ようこそ!シーラスへ!みたいなのが欲しかったわけじゃないが、なんだかなあ」
自分にとってそれなりの一大イベントであるシーラス入街が拍子抜けするように終わってしまったことに少しがっかりしながらも、気を取り直して歩を進める。
俺がこの街に来たのは、騎士の入団試験を受けるためだ。定期的に行われる入団試験が一週間後、この街で行われる。経歴の確認と面接、そして実技試験を通して騎士になる資格があるかを見定めるらしい。
俺はその試験を受けるためにこの街へやってきた。
ちらっと視線を大きな看板に移せば、大々的に入団試験を告知している。騎士はこの国の英雄のようなもので、とても人気の高い職業である。当然、この街に訪れる人も増え、一種の祭りのような賑わいを見せていた。
「兄ちゃん、騎士志望かい?」
「ああ、そんなところだ」
「だったらうちのオークの串焼きでも食べて、今のうちに活力付けねえとな!!どうだい?安くしとくぜ」
そんなわけで、こうした入団志望者を狙った出店が大通りに並んでいる。周りを見渡せば、俺と同じように田舎から出てきたであろう人達が出店を楽しんでいた。
「二つ頼む」
「お、流石だぜ兄ちゃん。まいど、二つで5ガーラのところ、4にまけといてやるぜ」
「助かる、金欠なもんでな」
銅貨を4枚渡し、串焼きを二つ貰う。合格祈っとくぞー!なんていう大声に軽く手を挙げ、道を歩いていく。
まず目指すところは、入団試験の受付会場だ。前日までに受け付けをしなければ、そもそも試験を受けることすら出来ない。香ばしい匂いを発している串焼きを口で頬張りながら、俺は受付会場まで歩き出した。
「えっと?ラウム、家名はなし。15歳で、ツイ村から入団試験を受けるためにやってきた、と」
「はい、子どもの頃から騎士に憧れてまして」
受付会場に着いた俺は列に並んだ。流石、人気のある職業なだけあり、それなりの時間を待たされた俺は、ようやく順番が回り、今こうして受け付けを行なっている。
「ふーん、ツイ村の黒髪、ね。なんか聞いたことある気するなあ」
「そうですかね。辺鄙な村の小僧が騎士様のお耳に入ったなら嬉しい限りですけど」
「なんだったかなぁ」
20代後半と思われる男性は、どうやら俺の名前が気になるらしい。本来流れ作業のように進んでいくはずの受付に時間をかけるものだから、後ろの人の視線が痛い。
「あ、思い出した。君、魔力練れない子でしょ」
しばらくして、俺が魔力を練れないことを言い当てたその男性。どうやら気のせいでもなんでもなく、俺のことを本当に知っていたようだ。
「そんな有名ですかね、俺」
「いやあ、2年前ぐらいに入団してきた子が言っていてね。隣村に黒髪で魔力を練れない、でも大人並みの剣術を扱う子どもがいたって」
「へー、家の庭で剣の練習してたんで、それを見てた人でもいたんですかね」
「素晴らしいね、魔力も練れないのに剣の練習をずっとしていたなんて」
小馬鹿にするようにそう言う男性。魔力も練れないのに必死に剣術の鍛錬をする俺が、滑稽で仕方のないようだった。
「剣しかなかったんでね。受け付けはこれで終わりですか?次の方も待ってるので行きますね」
そう言って去ろうとした俺の腕を、その男性は掴んだ。
「あー、君。試験の日来なくていいから」
「それはどうせ落ちるから、という意味ですか?」
「いや」
「この受け付けを、俺は受理しない、という意味だ」
ニヤニヤとした笑みを浮かべながら、そいつはそう言った。
「入団試験の要項に、魔力が練れること、なんて書いてありましたっけ?」
「書いてないな。ただこの国の"人間"に限る、とは書いてあったと思うが」
「先ほど、ツイ村出身だと伝えたはずでーー」
「察しが悪いな。魔力を練れないやつは人間じゃないって話をしてるんだよ。そもそも
そいつは何がおかしいのか、机を叩きながら大きな声で笑い出す。
「魔力は練れませんが、
「はいはい、わかったわかった。次の人が待ってるから早くどきな。入団試験は来なくていいから」
必死に弁明しようとするも、遮られてしまう。後ろを見ると、皆一様に迷惑そうな表情を浮かべていた。
何も悪いことはしていない。していないが、その場の空気に流される形で、俺はその受け付け会場を後にしてしまった。
後ろからは、まだあの馬鹿笑いが聞こえてくる。俺は屈辱で肩を震わしながら、来た道を戻ることしかできなかった。
『旅亭 ゴブリンの杖』
この街、シーラスにある旅亭で、俺のような金のない旅人や冒険者に人気の場所らしい。御伽噺にちなんだ名前なんだそうだ。
あの後、とりあえず安い宿を探してここに辿り着いた俺は、食事もそこそこに部屋に入った。
今まで、魔力を練れないことで侮辱を受けたことは何度もある。しかし、それが騎士の入団試験にまで影響するとは思ってもいなかった。
ベッドに倒れ伏す。少し前まで希望に満ち溢れていたのに、一転して失意のどん底に落とされてしまった。これからの当てもなく、路銀もそう多くはない。夢だった騎士の道も閉ざされてしまった。
顔を横に向ければ、壁にかけてある剣が目に入る。何回か買い替えはしたものの、長い間一緒に過ごした剣だ。柄は薄黒く汚れていて、立派なものではないが、俺の唯一の取り柄といっても良いものだ。しかし、それも今日ばかりは澱んで見える。これだけは、と磨き続けたが、魔力を練れないというマイナスを打ち消すには、どうやら足りなかったらしい。
「あー、
まあ、何で出来たかわかんねぇけど。
あの時、魔物であるフォレストウルフの子供を幼い正義感で助けたあの時。
グッと身体の奥に力を入れるとうちから解放された力が流れ込んでくる。あの時何故か出来た
来たのに。
「まさか、入団試験どころか、受付で躓くとは」
現実が残酷すぎて、涙さえ出ない。それでもこれから先のことを考えなければならなかった。
「とりあえず、村まで戻って家売った話をなかったことにしてもらうか?いや、そもそも売って得たお金使っちゃってるしな」
シーラスまでの旅費、そして宿代にあの時浮かれ気分で食べた串焼き。帰りの旅費も考えると簡単に稼げるお金ではなくなってしまっている。
「かといって、もう一度受付に行くか?あの態度じゃ絶対受理してくれないだろうな」
あの時の受付の態度。あれが数日で変わるとは思えなかった。
完全に手詰まり。あとはどこかで雇ってもらって地道に金を稼ぐ方法だが、生まれてこの方、剣しかやってこなかった俺が接客だの皿洗いだの、うまくできそうにない。
困った時は人に聞こう。そう考えた俺は身体を起こし、下の酒場へ向かう。正直言うと酒というものに興味があったのもあるが、何かいい方法がないか相談することでこの状況を打開できないかと考えた。まさに、藁にもすがる思い、というやつだった。
酒場に着く。そろそろいい時間だというのにここは驚くほど賑わっていて、えんやわんやと皆で酒を飲み、騒いでいた。
「すいません、お酒を一つ。飲みやすいもので」
「なんだい?酒デビューかい?まあ、待ってな」
カウンターに座った俺は酒場の店主であろう年配の女性に声をかけ、お酒を頼む。
後ろを向けば、ものものしい鎧を見に纏った人々が飲み比べをして騒いでいた。何かのお祝いだろうか、皆一様に笑みを浮かべ、楽しんでいるのが一目でわかった。こんな状況に置かれている俺でもその雰囲気に釣られて少し気が楽になるようだった。
「おまちどー!ミードっていうキラービーの蜜から作ったお酒だよ。あとサービスのつまみ、せっかくの酒デビューだからね」
「ありがとう、しかもサービスまで」
「あいつらのおかげで今日はガッポガッポだからね、特別だよ」
そう言って指を差した先は、先ほど自分が見ていた人たちと同じで、確かにあの騒ぎようなら稼ぎはそれなりになるだろうと納得した。
もう一度礼を言い、ミードというお酒に口を付ける。昔、一度だけ食べたことがある蜂蜜の風味や甘味が口に広がり、お酒特有の苦味はあるものの確かに飲みやすいものだった。おつまみとして出してくれたジャーキーも塩味が効いていて、とても美味しい。
「このお酒もつまみも、すごい美味い」
「だろ?気に入ったら常連になってくれると嬉しいね」
軽くウインクをこちらに向ける姿を見て、この店がここまで賑わっているのはこの人の人柄もあるのだろうなと感じた。
「是非常連になりたいんだけどな、食い扶持がなくて」
「なんだい、鍛えてそうだったから冒険者か、入団試験に挑みに来たやつかと見てたんだけどね」
「冒険者、?」
あまり聞き馴染みのない単語。思わず問い返す。
「あんた、冒険者も知らないのかい?簡単に言えば剣持って魔物狩って売る、そんな仕事だよ」
冒険者も知らないなんて、どんだけ田舎から来たんだいあんた、そんな呆れたような声を聞きつつ、考える。それだったら、金も稼げて、尚且つ俺の剣も活かせる。
「もう少し詳しく教えてもらっていい?」
「うーん、詳しくって言っても、今説明した通りだよ。そのジャーキーはオークの肉で作ったものなんだけどね。そいつみたいにみんなが必要とする素材を依頼を受けて取ってくる。それを売ることで生計を立ててる輩さ」
つまり生活に必要な素材を取り、売る。それで暮らしている人たちのことを冒険者と言うらしい。
「まあ騎士の成り損ないなんて馬鹿にする奴らもいるけどね」
「おっーと、聞き捨てならねぇなぁ!」
ガン!!
そう音を立ててビールが注がれたジョッキを俺の横のカウンターに打ち付けられた。
その手を辿って顔を見れば、先ほど後ろで大騒ぎしていた人たちの一人だと言うことに気づく。
「若者に悪い印象を与えないでくれよ、なあ?みんな」
「そーだそーだ!」
「俺たちは誇りを持って冒険者をやってんだ!」
ジョッキを叩きつけた男の人がそうみんなに尋ねると口々に賛同の声を挙げる男達。
「そう言っても、あんたも元々騎士志望じゃないか、ジェイク」
「うぐ、ま、まあそうだが」
ジェイクと呼ばれた男は図星をつかれたのか先ほどの勢いは何処へやら、項垂れるように隣の席に座った。
「でもな、冒険者には冒険者の良さってのがあるのよ。色々な国々を渡り歩いて、様々な料理を味わうも良し!未知のダンジョンに挑んで自分だけの宝を手に入れるものよし!未開の地を探検して、どこかにあるとされてる黄金で出来た大陸を探すもよし!」
横に座ったジェイクは本当に楽しそうに冒険者について語りはじめた。色んな人々、色んな土地、色んな魔物に色んなダンジョン。それは俺の冒険心を擽るもので、瞳を輝かせながら語るジェイクに釣られるように俺も瞳を輝かせていた。
「俺は、まあ騎士の成り損ないかもしれないが、冒険者になりたくてなってるやつも沢山いる。いいもんだよ、冒険者ってのは」
一通り話終えたジェイクは、そう締めくくった。店主の女性はまた始まった、と言いながら何処かに行ってしまったが、それに気づかないぐらい、俺はこの話に惹きつけられていた。
「それに冒険者になって活躍すれば騎士からスカウトが来ることもある。今日はそれの祝いだ、俺じゃねぇのが残念だがな」
ガタッと思わず立ち上がる。騎士からのスカウト。それなら魔力が練ることが出来なくても活躍さえすれば入団出来るかもしれない。これだ、俺がやるべきことはここで冒険者になること。そして実績を積み、大成し、騎士からのスカウトを受けることだ。
座り直し、グイッとグラスに残った酒を飲み干す。そうと決まったら情報収集だ。冒険者への成り方、そしてどうすれば大成することが出来るのか。
俺はジェイクに一杯奢る約束をし、冒険者について、もっと初歩的な話を聞くことに決めた。
「と、まあこんなところだな」
「ありがとう、すごくためになった。本当にな」
ジェイクの話をまとめると、冒険者になるためには、冒険者ギルドという場所に行き、手続きをすること。ランクを上げていき、シルバーランクで上澄みの方まで上がればスカウトが来る可能性があるということ。ここでいうランクとは、冒険者を実力に分けてランク付けするもので、順にアイアン、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナとなっているらしい。基本的には皆、アイアンから始まり、依頼を達成することでランクを上げていく。そのランクがシルバーになり、その中でも実力が上の方である者にスカウトの目が止まる可能性があるようだ。今回スカウトを受けた冒険者もシルバーの上澄みで、もう少しでゴールドに上がるのではないか、と呼ばれていたそう。最初は簡単な採取依頼やゴブリンなどの弱いとされる魔物の討伐依頼から実力を試していくのが一般的らしい。
またブロンズに上がるためには、パーティを組み、それなりの経験を組まないといけないらしく、その為にも機会があれば同じランク帯の冒険者と仲良くなっておけ、というアドバイスもいただいた。
「話は変わるが、お前はどうしてこの街に来たんだ?」
「入団試験を受けに来た。騎士になりたくてね」
「やっぱりそうか。しかしまだ入団試験は終わってないんじゃないのか?」
「そうなんだけどな、どうやら俺の入団試験だけは終わったらしい」
ふっと、あの受付を思い出しながらそう告げる。
「それはまたどうしてだ?」
そう尋ねてくるジェイクに俺は今日会ったことを一から話した。この街に来てから、この宿に着くまで、全部。
「お前、魔力練れないのか」
「ああ、剣には自信あるんだけどな」
険しい顔をするジェイク。自分が思っていたより、戦うものたちにとって魔力がないことは重大なことらしかった。この人も騎士など無謀だと蔑むのだろうか。
「いいな、それは」
「ん、?」
「いいじゃねえか!物語の序章としては悪くない!」
突然テンションを上げてそう話すジェイクに困惑する。
「魔力がない主人公が冒険者として大成して騎士になる、いいな!ロマンがある!むしろロマン以外何もない!!」
ロマン以外何もない、そう褒めているのか悪口なのかよくわからないことを叫び出し、俺の頭を刮げおとすかのようにジェイクが撫で始めた。
「よし!お前、名前なんだ」
「ラ、ラウムだ。そういえば名乗ってなかったな。」
「ラウム!お前は冒険者として大成して、騎士になる!そしてそのクサレ受付野郎を見返してやるんだ!」
ジェイクは上がりきったテンションをそのままに捲し立てる。ただただ圧倒されている俺は視界には入っていないようだった。
「あー、ごめんね。ジェイクのやつ、ロマン中毒というか、なんていうか」
「全然大丈夫。びっくりはしたけどな。貴女は?」
「私はマーラ。ジェイクと同じパーティの魔法使いよ。こいつは私が預かっとくから安心して」
後ろから現れたマーラという人物は、そのまま高笑いを続けているジェイクを引き連れて、あの楽しそうな宴の輪に戻っていった。
嵐のような出来事に、数秒の間唖然として、その後、全身を焼き尽くすような熱い気持ち。そして胸を満たす充足感を感じた。
ジェイクはひどく酔っ払っていて、適当なことを言っただけなのかもしれない。もしかしたら明日になったら忘れているのかもしれない。
それでも俺はこの感覚を、酔いによるものだとは思いたくなかった。
部屋に戻り、つい先程倒れ伏したベッドの上。俺は冒険者になり、そしていつか必ず、騎士になってみせる、そう決意を固めた。
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