可愛い銀髪美少女天使カードとして転生した私、マスターを導く 作:にゃっとう
デッキ強化講座が終わって解散となった後、私とホロエル、そしてモモリの三人は、デュエル科学研究部の準備室に足を運んでいた。
ホロエルが憑依していた義体――SHAをメンテナンスドックに戻すためだ。
ホムラとエミリアは先に寮へと帰っている。人付き合いが苦手なモモリに、これ以上負担をかけないようにと気を遣ってくれたのだろう。
もちろん、それはあの二人とモモリの仲が悪いという意味じゃない。
ホムラの「またねー!」という屈託のない笑顔と手振りに、モモリも控えめながらしっかりと手を振り返していた。
今日一日の交流を通じて、皆とモモリの距離が縮まったことは間違いない。
「接続完了、メンテナンスモード移行……よし。あとはデータを同期させて……」
ホロエルがSHAへの憑依を解除すると、モモリは慣れた手つきでメンテナンスドックに義体を固定し、端末の操作を始めた。
ホロエルの見た目をしていた義体が元の無機質なマネキンの姿へと戻り、その表面を走る回路が青白く明滅する。
稼働データのコンピュータへの収集と、エネルギーの充電が開始された合図だ。
ホロエルは皆にも姿が見える程度にまで存在の強度を強めた半透明の姿に戻ると、モモリが操作するコンピュータの画面を興味深そうに覗き込んでいた。
「……モモリはまだ帰らないの?」
「あともう少しだけ……念のために今日のデータのバックアップをアップロードしておきたいから……」
モモリはコンピュータの画面をジッと見つめたまま答えた。
コンソールの明かりに照らされる真剣な横顔は、普段の気弱な雰囲気ではなく、一途な研究者としての側面を色濃く映し出している。
「無空ちゃんたちは先に帰っても大丈夫だよ。私もデータの整理が終わったら、すぐに帰るから。心配しないで」
「……」
確かに、SHAの返却は済んでいる。
テスターとしての私とホロエルの今日の役目は終了し、私から彼女にしてあげられることは残っていない。
そう考えつつも、私は気がついた時にはモモリのそばにあるパイプイスに腰を下ろしていた。
「……今日は、ありがとう」
「へ?」
モモリが目をパチパチとさせ、キョトンとしたように私を見る。
藪から棒過ぎただろうかと、私は慌てて言葉を続けた。
「その……講座に来てくれたこと。私のために」
――私なんかでも無空ちゃんの力になれるなら、ぜひ協力させてください……!
それは講座が始まってすぐに、モモリが語ってくれた参加の理由だ。
すると、モモリは恐縮するようにパタパタと両手を振る。
「お、お礼を言われるようなことじゃないよ! あれはホムラちゃんとエミリアちゃんが企画してくれたものだし、私はその誘いを受けたってだけで……むしろ私の方こそ、上手く説明できてたかどうか……!」
「大丈夫。人と話すのは……私もあんまり得意じゃないから。モモリの話すペースは、私にもちょうどよかった」
「そ、そう……?」
「うん。モモリのおかげで、今日はいろいろ勉強になった。だから、ありがとう」
「……えへへ……うんっ! ちょっとでも無空ちゃんのお役に立てたなら、私も嬉しいな……!」
極度の人見知りであるはずのモモリが講座に参加してくれた理由を知ってから、ずっとお礼を言わなきゃと思っていた。
中々タイミングが掴めなくて、結局こんな遅くになってしまったけど……存外遅すぎたわけでもなかったようだ。
モモリは少し照れくさそうに頬を赤らめながら、嬉しそうに目尻を下げて微笑んでいる。
「……その、ね。実は私……ホムラちゃんたちが講座に誘ってくれた時、本当はちょっと怖かったの」
「怖かった?」
「うん。私……上がり症で、こんな性格だから……私が混ざっても皆の迷惑になっちゃうんじゃないかって、そんな風に思っちゃって……」
自信なさげに俯いたモモリだったが、ふっと顔を上げると、私とホロエルを見て穏やかに微笑んだ。
「でも、勇気を出してみてよかった。皆、私の話を真剣に聞いてくれて……皆の優しさと温もりに触れられて。皆と出会えて良かったなって、心から思えたから」
「モモリ……」
「だから今日のこと、むしろお礼を言いたいのは私の方なんだ。ありがとう、無空ちゃん。私とあの子たちの仲を繋いでくれて……私と友達になってくれて」
……友達……。
「あっ、もちろんホロエルちゃんもだよ! 部室でホムラちゃんたちと初めて会った時、勇気を振り絞って声をかけられたのは……ホロエルちゃんが私の手を握って、勇気を分けてくれてたからだもん」
モモリがホロエルに向かってはにかむと、ホロエルもニコニコと嬉しそうに微笑みを返した。
――私はモモリの背中をほんのちょっと押しただけだよ。一番頑張ったのは、モモリだよ。
タブレットが使えない今、ホロエルの意思はそれを読み取れる私が代弁して伝えるほかない。
だけどその必要はないとすぐにわかった。
私のように完璧でなくとも、ホロエルの気持ちがモモリに伝わったことは、モモリの気恥ずかしそうな笑みから一目でわかったから。
「――ねえ、モモリ。モモリはどうして、SHAを作ろうと思ったの?」
「私が……SHAを作った理由?」
自然と口をついて出た質問。
どうしてそんなことを聞くのか、自分でも意外な問いかけだった。
「『私の研究は、人間とソウルハート・サーヴァントが肩を並べて生きていける未来を作るために始めたことなんだ』って……モモリは以前、私にそう教えてくれた。でも、モモリがどうしてそんな風に考えるようになったのか、そこまでは聞いたことがなかったから」
「……夢を目指そうと思ったキッカケかぁ……」
モモリは小さく呟きながら、メンテナンスドックに佇むSHAへと視線を移した。
彼女は時折、なにかを言おうと口を開いては、逡巡するように口を閉ざす。
そんなことを二度、三度と繰り返して……しばらくの間、沈黙が続いた。
私とホロエルは、急かすことなくじっと彼女の言葉の続きを待った。
「……うーんと……あんまり楽しいお話にはならないかもだけど……それでもいいなら」
「大丈夫。私はそれでも、モモリのことをもっと知りたい。モモリは……私の友達だから」
「……そっか。えへへ、そうだね。私たち、友達だもんね」
モモリは花が開くように微笑みを咲かせると、そっと瞼を伏せて語り始めた。
「いきなりちょっと重い話になっちゃうけど……昔ね。小学生の頃の話だよ。私――両親を事故で亡くしちゃったの」
「え……事故……?」
「うん。交通事故。車同士の正面衝突で、後部座席にいた私だけがかろうじて助かったんだって。気がついたら私は病院のベッドに寝てて……パパとママが亡くなった。私だけが無事だったって……そう聞かされた」
小学生の頃の話。つまり、もう何年も前の話。
おそらく彼女の中で、すでに整理がついている出来事ではあるんだろう。
それでも……心の傷痕を指の先で撫でるように過去を語る彼女の声音は、かすかにだが震えていた。
……彼女にこの話をしてほしいと促したのは私だ。
だから私も目をそらすことなく、そんな彼女の言葉に真剣に耳を傾ける。
「退院してからはね。パパとママと一緒に暮らしてきたお家を離れて、叔父さんや叔母さん、親戚の人たちのお家を転々としながら生活することになったんだ」
「……その人たちは、親切な人たちだった?」
「うん。とっても優しい人たちだったよ。パパとママを亡くした私のことを気遣って、実の娘でもない私の面倒を嫌な顔一つせず見てくれた……でも」
「でも……?」
「……急にいろんなことが変わりすぎて、心が追いつかなかったの。パパとママがいなくなって、住む場所も学校も関わる人もなにもかも全部変わって……なんだか別の世界に迷い込んで、帰れなくなっちゃったみたいだった」
その瞬間、ホロエルがわずかに表情を変えた。
モモリが抱いた感覚に心当たりがあるかのように、その眼差しが共感に揺れる。
「世界に独りぼっちになったみたいで……なんだかすごく心細くて……でも、これ以上親戚の人たちに迷惑をかけちゃダメだって思ったから。私……いつも一人で隠れて泣いてた」
「……モモリ……」
「……でも……そんな時、独りぼっちだった私に寄り添ってくれたのがモグルンだったの」
――ぐすっ……パパ、ママぁ……。
――キュー! キューキュー!
――……え? あなたは……。
――キューッ!
「初めてモグルンが姿を見せてくれた時、私、すっごく驚いたんだ。いつの間にかモグルンがソウルハート・サーヴァントになってたのもそうだけど……ソウルハート・サーヴァントって、主人が求めた時か主人の身が危険に晒された時以外はほとんど姿を見せないって聞いてたから。どうして今実体化したんだろうって不思議だった。でも……すぐに気づいたの。モグルンは私のために出てきてくれてくれたんだって」
「モモリのため?」
「うん。私を励まそうとしてくれてたんだ。あなたは一人じゃないよ。ボクが一緒にいるよ、って。ソウルハート・サーヴァントとしての正しい在り方なんて放り出して、自分から姿を現して……悲しみに押し潰されそうだった私のこと、ずっとずっと元気づけてくれてた」
……同じだ。
両親に見捨てられて、ホロエルと一緒に教団を脱走し、二人だけで生きていた頃の私と同じ。
両親に捨てられた心の傷が癒えず、悪夢ばかり見ては飛び起きていた私のために……彼女は私が眠りにつくまでの間、その半透明の手を私の手に重ね続けてくれた。
「小学校を卒業しても、結局人見知りで上がり症なのは治らなかったけど……それでもあの辛い時期を乗り越えてこられたのは、モグルンが一緒にいてくれたからなの。パパとママがいなくても、一人じゃないんだって思えるようになったから」
「……うん」
私は深い共感を覚えながら相槌を返す。
私が悪夢に苛まれていたのは、もう何年も昔のことだ。
でも、瞼を閉じれば今でも鮮明に思い出せる。
小さな私の手を包み込む、私より少しだけ大きくて優しい手。
慈愛に満ちた瞳。弧を描く唇。その柔らかな笑顔が。
今では私の方が手も背もずっと大きくなってしまったけれど、あの温もりは今も変わらずにここにある。
私にとってホロエルは、ただの1枚のカードじゃない。付き従う従者でもない。
モモリも同じなんだ。
ホロエルが私にとってそうであるように……モグルンもモモリにとって、かけがえのない唯一の存在。
「この学園に入学して寮に入ってからは、叔父さんたちのお家を転々とすることもなくなって……将来のことを少しずつ考えられるようになってね。それで真っ先に浮かんだのが、モグルンのためになにかしてあげたいって気持ちだったの」
「モグルンのために……」
「それにね……私だけじゃない。私の他にも、ソウルハート・サーヴァントに助けられて生きてきた子がたくさんいるはずだって。そんな子たちの力になれたらいいな、なんて風に思って」
「それで、SHAを作ろうと思ったの?」
「うんっ! 人間とソウルハート・サーヴァントが肩を並べて生きていけるようになったら、それってすっごく素敵なことじゃないかなって思ったんだ」
モモリはふわりと微笑んで、メンテナンスドックの中で佇むSHAを見つめた。
「もちろん、最初から順風満帆ってわけじゃなかったんだけどね。途方もない時間とお金と労力が必要だったし、失敗もたくさんしたよ。でも、ノゾミちゃんに資金援助してもらえるようになってからはどんどん研究が捗るようになって、機械の身体にソウルハート・サーヴァントの心魂を宿らせるっていうSHAの構想も固まって……今の第四試作型までこぎつけることができたの」
「……でもモモリの夢は、まだ道半ば」
「だね! もっと性能を上げなきゃいけないのは当然として、今は汎用性に富んだ中型規模の人型モデルしか開発できてないから、いつかは人の形をしていない子の分のボディも手をつけていかなきゃいけないし。小型化や大型化をしても機能を落とさずに量産するための仕組み作りも必要になる」
「確かに……今のSHAは、人型のソウルハート・サーヴァント限定の構造なんだっけ。今のままじゃ、モグルンは義体に乗り移れない」
「無空ちゃんの言う通りだよ。それにね……たった一機、モグルンのためだけのSHAがあればいいってわけじゃない。私はこの世界を、誰もが当たり前にソウルハート・サーヴァントと一緒に生きていける世界に変えていきたいから」
「世界……改めて考えてみると、壮大な話ね」
「えへへ、そうだね……! 壮大すぎて実現できるのかもわからないけど……できるかどうか悩むのは、ずいぶん前にやめることにしたんだ。できるにしてもできないにしても、やらなきゃ絶対に実現しないんだから、やるだけやってみよう! って!」
「ふふ……そっか」
SHAを見つめるその眼差しは、情熱の炎に照らし出されたように煌めいていた。
しかしモモリはふと視線を落とすと、どこか自嘲めいた苦笑いを浮かべる。
「……けど、本当はね。モグルンは自分が自由に生きられる世界なんてなくても、私が……マスターが幸せならそれでいいって、そう答えると思うの」
「え……」
「だってモグルンがそういう子だったからこそ、私が今ここにいるんだもん。だから結局は……これは私のエゴに過ぎないのかもしれない」
「……エゴ……」
……私はモモリの話に耳を傾けるホロエルを横目で盗み見て、モモリにとってのモグルンの立場を、私にとってのホロエルに置き換えてみる。
身近な人の幸せと、自分自身が自由に生きられる未来。
どちらか一方しか選べないとしたら、彼女はどちらを選ぶのか。
……悩まなくてもすぐに答えは出た。
きっとホロエルも、モグルンと同じように答えるだろう。
「でも……私は欲張りだから。それでもやっぱり目指したいの。当たり前に私の隣を歩くモグルンの姿を見てみたい。他のソウルハートの子と出会って意気投合して、友達になるところを見てみたい。実体化できる時間なんて気にしないで、のびのびとお散歩したり、お昼寝してるところを見てみたい」
「……」
「いつだって私のためを想ってくれるモグルンが、いつの日か自分のために生きられるようにするために――私は私の人生を懸けて、この夢を叶えるって決めたんだ」
そう力強く言い切ると、モモリは話を締めくくった。
これが……地伏田モモリという少女の生い立ち。
人間とソウルハート・サーヴァントが肩を並べて生きていける未来を作ろうと思い立った、彼女の原点。
「……ご……ごめんねっ! な、長々と自分語りなんかしちゃって……! SHAを作ろうと思ったキッカケを知りたいって話だったのに、なんだか余計なことまで話しちゃったかも……」
モモリがふと我に返ったように慌てふためく。
語る間は真剣そのものだったが、いざ話し終えると照れくささと気恥ずかしさが一気に押し寄せてきたらしい。
さながら茹でダコのごとく顔を真っ赤に染め上げながら、モモリはモジモジと忙しなく指先を弄ぶ。
「ううん。余計なことなんてない。モモリのことが知れてよかった」
「ほ……本当……?」
「ん。モモリのこと、教えてくれてありがとう」
「……えへへ……うんっ! ……なんだか不思議だね。私……人と話すのが苦手だったはずなのに……無空ちゃんとホロエルちゃんの前だと、全然緊張しないや」
モモリははにかむように笑いながら、不思議そうに私とホロエルの顔を交互に見る。
思えば私も、モモリの前だと普段よりもリラックスして話せている気がする。
もしかしたらそれは、私と彼女が似た者同士ゆえの感覚なのかもしれない。
モモリとモグルンの関係は、私とホロエルのそれにとてもよく似ている。
私もまたホロエルに支えられて生きてきた。
お父さんとお母さんがいなくても、一人じゃないってホロエルが教えてくれたから、暗闇に包まれた道だって歩いてこられたんだ。
そしてノゾミとの戦いの最中で、自分の全部を捧げて私を幸せにしようとしてくれるホロエルの想いと向き合い……ホロエルが自由に生きられる世界が欲しいと、そう強く願うようになった。
けれど……私とモモリで違うところもある。
それは彼女はすでに自分で考えて答えを出し、研究者になって夢の道を歩んでいることだ。
……やっとわかった。
モモリは、私が抱いた夢の先駆者なんだ。
私はまだ願うばかりで、ホロエルになにもしてあげられていない。
こうだったらいい、こうなってほしいなんていう、天に託すような子どもじみた淡い願望。
でも、モモリは違う。彼女は私よりずっと先を歩いてる。
夢を見るのではなく、叶えるために。可能と不可能を試行錯誤して、現実に落とし込むための工程を日々一つずつ積み重ねている。自分の人生すらも懸けて。
……すごい。
この人は、すごい。
教団に追われて学校にろくに通えなかった私は、年上の人を尊敬するという感覚がイマイチよくわからなかった。
ただ少し先に生まれたってだけなのに。敬語だって使いづらくて、いちいち話し方を変える意味がわからなくて。
でも今この瞬間……私は生まれて初めて、心の底から誰かを尊敬する感覚を知った。
「……モモリ先輩」
「へ? せ、先輩……?」
鳩が豆鉄砲を食ったように、モモリの目が点になる。
「ど……どうしたの急に……? な、なんで急に先輩なんて……?」
「モモリの話を聞いて……モモリのこと、すごいって思ったから。そうしたらモモリが私の一つ上だって思い出して……尊敬する人に向ける言葉ってなんだろうって考えたら、これが出てきた」
「そ、そそそ、尊敬っ!? 私を!?」
私はこくんと頷きを返した。
それから、こてんと首を横に傾ける。
「……変だった?」
「へ、変ってわけじゃないけど……! 私なんてそんな大層な人間じゃないし、なんだかむず痒いっていうか……! い、今まで通りの呼び方で大丈夫だよ! 私と無空ちゃんは友達なんだから、先輩なんて堅苦しい呼び方はしないで……ねっ?」
「……わかった。モモリがそれでいいなら」
すっかりしどろもどろになってしまっていたモモリが、ホッと安堵の息を吐く。
……どうやらちょっと困らせてしまったみたいだった。
やっぱり人付き合いの正しいやり方は、私にはまだよくわからない。
でも……。
――ありがとう、無空ちゃん。私とあの子たちの仲を繋いでくれて……私と友達になってくれて。
――えへへ、そうだね。私たち、友達だもんね
――私と無空ちゃんは友達なんだから、先輩なんて堅苦しい呼び方はしないで……ねっ?
「……ねえ、モモリ」
「こ、今度はなに? 無空ちゃん」
「――私とデュエルしてほしい」
意を決して告げると、モモリが再び意表を突かれたように目を丸くする。
同時に私の横でホロエルも驚愕をあらわにするように目を見開かせていた。
「その……デュエルって、私と……?」
「うん。モモリとデュエルしたい」
「……えっと……急だからちょっと驚いちゃったけど……どうして、私とデュエルしたいと思ったの? その……無空ちゃんの相手なら、ホムラちゃんやエミリアちゃん、ノゾミちゃんの方がもっと良い相手になってくれると思うけど……」
「……うまく説明できるかわからないけど」
そう前置きして、私は今の自分の気持ちを正直に打ち明ける。
「私の最初の友達は、ホムラ。ホムラと友達になった時、私たちはデュエルでぶつかり合った。それから、次に友達になったエミリアの時も。デュエルは私にとって戦うための手段でしかなかったけど……それだけじゃないんだって、彼女たちは私に教えてくれた」
「無空ちゃん……」
「……私はあの二人とのデュエルの時、二人を倒すことしか考えてなかった。こんな私が、あの二人みたいにできるかはわからない。でも……生まれて初めて自分から、してみたいと思ったの。誰かとのデュエルを。モモリのことを、デュエルを通してもっと知りたいって……そう思ったの」
モモリは暫しの間、呆気に取られたようにポカンと口を開けていた。
だが私の言葉を咀嚼すると、ふにゃりと顔を綻ばせる。
「えへへ……無空ちゃんって、私が思ってたよりずっと積極的な子だったんだね。うん、わかった。いいよ。私で良ければ、無空ちゃんの相手になるよ」
「ありがとう、モモリ」
「うんっ! それじゃあ、とりあえず場所を変えよっか。部室棟にはデュエルスペースがあるから、そこでやろうよ」
「わかった」
モモリに案内されて、私たちは準備室を後にした。
高窓から夕日が差し込むデュエルスペースに到着すると、自動的に照明が点灯し、床に広がったデュエルフィールドが青白く発光する。
私とモモリは向かい合わせの位置についた。
「準備はいい? 無空ちゃん」
「うん。いつでも」
……不思議な感覚だ。
私にとってデュエルは、冷たく張り詰めた命のやり取りでしかなかったはずだ。
なのに今は、その瞬間を待ち望んでいる自分がいる。
私のこの変化……これはきっと、ホムラのせいだろう。
私が最も長く一緒に過ごしているのはもちろんホロエルだけど、この学園に来てからはホムラが二番目にその名前を連ねる。
彼女はいつだって心の底から楽しそうに、デュエルやカードの話ばかりするから。
まったく……困ったものだ。
でも、どうしてか嫌な気分じゃない。
デュエルが楽しいものだと、まだそんな風に感じられたことはないけれど……。
ただ敵を倒すためだけに収まるものでもないのだと、私はホムラたちから学んだんだ。
誰かと関わるたび、心を通わせるたびに、私の世界は少しずつ、けれど確実に広がっていく。
「ホロエル。行こう」
「モグルン。やるよ……!」
私たちは互いに自らのパートナーに声をかけ、デュエルガントレットを構える。
ホロエルは普段より一段とやる気に満ち溢れた様子で頷きを返すと、その半透明の姿をゆっくりと薄れさせていった。
意識を切り替えて、感覚を研ぎ澄ます。
この戦いは、今までのデュエルとは違う。
必要に駆られたわけでも、誰かに望まれたわけでもない。
生まれて初めて、私が自分だけの意思で能動的に望んだデュエル。
……だとしても、負けてあげるつもりなんて毛頭ない。
モモリと視線が交錯した。
いつも誰に遠慮しているような彼女の瞳が、今はどこか凛とした光を宿しているように見えた。
……モモリの実力は未知数。
だが、決して油断はできない。
彼女は気弱な印象に反し、その内面は自分の理想のために世界をも巻き込もうとしている、正真正銘のエゴイストだ。
そんな彼女が本気でデュエルに挑んでくるのなら……まず間違いなく一筋縄ではいかないだろう。
「行くよ、無空ちゃん……!」
「始めよう、モモリ」
「デュエルガントレット、スタンバイ」
「「――デュエルスタート!」」
次話はメイvsモモリを書き終えた後に投稿します(⁎ᴗ ᴗ⁎)
〇オマケ(※読まなくても本編に支障無し)
・モモリの中等部時代からこれまでの経歴
☆中等部一年
デュエル科学研究部に入部。当初はほとんど無知だったが、瞬く間に知識を吸収して才能を開花させる。さらにソウルハート・サーヴァントのみが保有するエネルギー、ソウルハート・エネルギーに目をつけて研究を始める。
☆中等部二年
ソウルハート・エネルギーに関する新たな理論を提唱して学会に波紋を広げる。さらにそれを足がかりに苦手ながら学外の研究者ともコンタクトを取り、更なる技術を身につけたのち、SHAの製造に本格的に着手し始める。
SHAは当初の構想(第一試作型)では「ソウルハート・サーヴァントが自由に実体化できる限定的な空間を作る(名称:ソウルハート・エリア)」ことを目的としていたが、エネルギー不足等の様々な問題が積み重なり失敗。
解決しようにも糸口が見えず、さらに資金不足で研究環境が思い通りに整わず難航する。
☆中等部三年
モモリの噂を聞きつけたノゾミが接触してくる。
モモリはノゾミの過去を聞き、「ラフィエルの失われた力を取り戻す手伝いをする代わりに、研究に資金援助してもらう」取引に応じる。二人は友達になる。
さらに諸々の円滑なコミュニケーションのため、モモリはノゾミの提案で生徒会にも入り、書記となる。ただし研究優先で大事な時だけ手伝ってくれればいいとのことで、ノゾミからの呼び出しがない限りは幽霊生徒会役員。
研究設備が整い次第、研究のコンセプト見直し。
ノゾミの話にあった「他者の身体を依り代とする力を持つソウルハート・サーヴァント」から着想を得て、SHAの方向性を「ソウルハート・サーヴァントを義体に憑依させる(名称:ソウルハート・アバター)」に変更する。
大型化や小型化を見据え、まずは汎用性を重視した中型規模の人型で製作。第二試作型(最低限の機能)を完成させ、ラフィエルにテスターをお願いする。その研究結果から確かな手応えを感じ、このアプローチであれば自分の夢が実現可能であることを確信する。
☆高等部一年
第三試作型を製作。基礎の骨組みは完成。テスターは変わらずラフィエル。
高等部二年に上がる直前で、モモリの熱意と才能に脳を焼かれた前任の部長からデュエル科学研究部の部長に任命される。
モモリは当然恐縮し拒否したが、モモリがこれまで上げてきた成果やその研究へのひたむきな姿勢を見てきた他の部員たちから「この子ならヨシ!」と受け入れられ、なんだかんだで部長にさせられる。
☆高等部二年
改良を重ねていくための本格的なベースモデルとなる第四試作型を製作。
ノゾミの紹介でメイと出会い、テスターがラフィエルからホロエルに交代。
第四試作型の稼働データ収集中←今ココ!
・メイちゃんたちがノゾミと敵対してた時にモモリも生徒会室にいたらどうなってたの?
普通にメイホロの味方をする。ノゾミも大事な友達なので、ホロエルちゃんのことを信じてあげてと必死にノゾミを説得する。
ただし憤怒に憑りつかれたノゾミ、略してヌゾミは決定的な間違いに直面しない限りは止まることはないので、モモリの話は聞き入れない。
本編では「モモリさんにも声をかけておくべきだったかもしれません」とか言ってたが、この場合は「ここに呼ぶべきではありませんでしたね」とか言い出す(ヌゾミは余裕がなさすぎて他人の気持ちがまったく見えてないので、モモリがメイホロの話を聞いてどう感じるかが想像できない)。
メイホロがヌゾミを倒してノゾミに戻った後は、イサネと一緒にノゾミのメンタルケアをする。
ノゾミからは「酷いことを言ってしまい申しわけありません」と謝られるが、モモリもモモリでノゾミがこれほどまでに自分を追い詰めていたことに気づけなかった自分が友達として情けないと感じているので、そのまま仲直りする。ノゾミもモモリのことを改めて友達として認識する。
メイちゃんたちとノゾミ&イサネが和解した後は、ノゾミの提案でメイホロにテスターの役目を代わってもらう。その後は本編に合流する。