「毒の入った聖杯」――この言葉を軸に、リンとカヤの政治が交錯する。
連邦生徒会の3年生2人が、どのように治めていくのか……そんな「もしも」の話。
短編の予定ですが、続きがあるかもね
「連邦生徒会長代行としての権威を使って役員に命令すれば、手間取ることなく仕事をこなせるのでは?」
「権威、ですか……。それは毒の入った聖杯のようなものですよ、防衛室長。たしかに便利な切り札かもしれませんが、使えば使うほど自分の身を滅ぼします。それに自分の考えと違うからといって、権威を掲げて他人を抑圧することはできません」
「毒の入った聖杯……良い喩えですね。ではお聞きしますが、リン行政官、あなたはその権威を使うべき時というものを知っているのですか?」
「それは……」
「分からないのなら、あなたはただ危険性を恐れて統治手段に目をつぶっているだけ、毒を呑む覚悟ができなければ、聖杯の意味がありませんよ」
「……いえ、この代行という立場に聖杯はいりません。例え簡単に理解が得られなくても、私は一つ一つ言葉を尽くして協力を得るだけです」
統治者としての自覚の無い発言……仲良しこよしで上手くやろうなど、理想主義としても生温い……私は、やる気が失せてしまいました。
「……臆病者ですね」
そう吐き捨てて、私はその場を後にしました。
「それでは次の議題に入ります。大手自動車メーカー『アドミラル・モーターズ』の大規模リコール問題ですが──」
連邦生徒会の会議は長い。ですが簡単に結論がでない問題はそうありません。大体はどうすべきかは決まってます。
「やはり自動車の欠陥なのですから、業務停止を含めた厳しい対応を取るべきです!」
「いや!『アドミラル・モーターズ』のシェアはかなり大きいのですから、強硬に処罰すれば自動車流通に影響がでます!罰金の請求のみにとどめるべきでしょう!」
外堀埋めもなく処断はできませんし、甘くすれば増長するのみ。発言権のために思い思いの意見を述べても意味のないことです。
「みなさん、落ち着いてください。交通室はどのように考えますか?」
「えーわたしー?そんなの改善計画書出させておけばいいじゃん、どうせキヴォトスにはあれよりオンボロな車いくらでも走ってるよ?」
その通りです。別に一社潰したところで、餌場を奪うように粗悪な企業は沸いてくるのですから、根本的な解決にはならないでしょう。
この手の問題は、手早く、かつ強かに解決の主導権を握らなければなりません。暢気に会議をしている間に、「大人」共は責任も取らずに行方をくらますでしょう。そのためには、「権威」を振るわなければならない……。
「それでは、連邦生徒会主導で公聴会を設置し、リコールおよび品質管理について報告させることにするのはどうでしょうか?具体的な処分内容は、それを吟味してからということに──」
リン……私は言いましたよね?毒を呑まなければ聖杯の意味は無いと、あなたが鶴の一声を発することがどれほど大事かを……
「リン行政官!そんなものになんの意味があるんですか!?」
「政治的パフォーマンスですよ!市民のためになりません!」
「違います!」
リン……私の忠告をふいにするなら、相応の「手腕」というものを見せてくださいよ……そんな有象無象の野次など、捻じ伏せてくださいよ……できないのならやはり今一度あなたの席を……
「リン行政官!どうなんですか!」
「行政官!」
リン……!
「私は……!」
やれッ──!!!
「……っ!カヤ防衛室長は、どう思われますか!?」
「!?」
議場がどよめきに包まれました。
「ヴァルキューレの警察車両にも『アドミラル・モーターズ』製の物がありましたよね?あなたにも関係のある話だと思いますが、どうでしょうか?」
リンはこちらを真っ直ぐ見つめていました。まるでこれが自分のやり方だと言うように……虫酸が走りました。ですが問われたからには、私は身を乗り出して口を開きました。
「まず、この件は企業側の逃げ場を塞ぐことをまず考えるべきです。ただのリコールでは、前例以上の処罰を与えることは不可能でしょう」
「あなたには、その手があるのですね?」
「ええ、リコール対象の部品の故障を原因とする事故は10年前にも起きています。それは即ち製品の欠陥が意図的に放置されてきたことを意味します」
「『リコール隠し』……ですか、確かにそれは悪質ですね」
「そうです、なのでここはまずこの点を追求すべきです。クロノスにもこの論点を取り上げさせ、世論の関心を得ましょう。その上で刑事訴追を行い、裁判を経て処分を決定すべきだと考えます」
そう言うと取るに足らない反論が飛んできました。
「クロノスと手を組むのですか?防衛室長!あんな奴らに情報を渡すなんて、癒着ですか!?」
「ではあなたはご自身で経営陣を問い詰められると?まさか自分が悪く書かれた恨みで言っているのでは?私怨で反対するなど、凡人の発言ですね」
「ぐぬぬ……」
その後も些末な恨み言が投げかけられましたが、有意義な問答ではありませんでした。
「リン行政官、私からはこんなものですが、満足ですか?」
「ありがとうございます。他に意見がなければ、防衛室長の意見を採用しようかと思いますが、どうでしょうか?」
その議題は沈黙をもって承認されたも同然でした。
「ありがとうございました、カヤ防衛室長、良い議論になったと思います」
「いえ、私は抱いて当然の疑問をぶつけただけですよ」
どれだけ本心なのか分からない言葉に反吐が出そうになりましたが、ひとまずここは抑えました。
「カヤ、どうかしましたか?不機嫌そうな顔をして……私が何かしたのでしょうか?」
「いえ、何も、こちらの話ですよ」
こちらの気も知らないで……よく言いますよ……
「……カヤ、先ほど、聖杯の話をしましたよね」
「ええ」
「あれから少し考えたのですが、やはりこの代行という地位に、聖杯は必要ないと思います」
「そうですか」
「私たちは、私たちの力を合わせて問題に立ち向かっていくべきなのです。カヤ、あなたの力も貸してほしいのですよ」
リンに聞こえないように歯ぎしりをして答えました。
「お断りします。手と手を取ってパワーアップだなんて、ヒーロー漫画じゃないんですよ?」
「……カヤ、私たち、同じ3年生じゃないですか。ここまで一緒にやってきたあなたの力を借りたいんです」
少しだけ歪んだリンの口角と目尻は、極めて不愉快でした。情の残った心が、絆されてしまいそうだったから……
「まあ、そこまで言うなら、裏の仕事くらいは手伝いますよ。あなたも腹芸が得意な訳ではないでしょう」
「ありがとうございます、カヤ」
「……」
私は、リンが差し出した手を握らずに会議室を後にしました。一刻も早くこの場から離れたかったので……、
嗚呼、こんな風に逃げてしまうなんて――
――私もきっと、臆病者ですね。
お読みいただきありがとうございます。
リンカヤには和解して欲しいんだ……という祈りを込めました。
好評なら続きを書きます。
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