男性管理委員会副委員長という肩書きは非常に重い。
特に客人ではなくガサ入れとしてやって来た時の重みは胃に穴が開くほどではないかというレベルの圧がある。
本人ことタルラは飄々としているが、屋敷に住まう人間にとって気が気ではない。
「ねえ、なんで今更来たんだと思う?」
「分からないわよ、ここの面々が情報を売るような真似はしないと思いたいんだけど」
「デメリットが大きすぎるわ」
「どこからタレコミが?というか普通に心当たりがないんだけど」
男性管理委員会の面々が来てから物を隠さないように敢えて集められたメイド達がコソコソと話し合う。
確かにケイ家にはたった1人の男性が居る。それも愛くるしいと屋敷に関わる人々が口を揃えていうほどの男の子だ。
少なくとも悪い扱いは一切していない。むしろ女性陣の方が夜のベッド上で荒く扱われている。
メイドの殆どが性癖異常者とはいえスウェンに対する忠誠及び敬意による団結は固い。
少なくとも内部告発的なものはないと全員が考えるほどに。
ヒソヒソ話している間にも男性管理委員会の黒服が慌ただしく物を捜索しながら目を光らせている。
現在はガサ入れのみではあるが、いずれ尋問が始まるのだろう…………メイド達にとって目を丸くさせ、そして心底呆れるような溜息が出る話し合いが。
そんな中、トテトテと空気を読まない足音が慌ただしく動く中で聞こえた。
普通なら忙しくて小さな足音など聞き逃すのだが、何故か、どうしてか、妙に捉えてしまう。
理屈ではなく本能でという点が一番嫌らしいことである。
「ふぁあ、何してるの?」
「「「「坊ちゃま!!!」」」」
「「「「坊ちゃま!?!?」」」」
慌ただしい喧騒を聞きつけ、寝起きのパジャマ姿のまま現れた美少年ことスウェンの登場である。
「知らない人がいっぱいいるけど、なに?誰かやらかした?」
「坊ちゃま、やらかした時点で我々で然るべきところに突き出しているので何もない筈なんですが…………」
「ふーん?あれ、じゃあ僕の部屋も漁られる感じ?」
「………………………………恐らく」
まるで日常と言わんばかりにメイドと会話をする男性を見て男性管理委員会の面々はどう思うのだろうか。
彼女達にとって男性とはそこそこの頻度で会うと同時に恐れられてしまうか弱き存在である。
そもそも、男性管理委員会が突入する時は大抵が虐待されていて女性の事を拒絶してしまっている状態である。
そんな心身が弱った男性を相手に劣情を抱く女は居るにはいるとはいえ、そのような趣味を持ち合わせて男性管理委員会の下っ端を任されることは無い。
むしろ弱った子をデロデロに甘やかしてあげたいタイプの人間が集まっており、それとなく配慮が出来る人材が揃っている。
現実は厳しく、虐待を受けた男性を保護したところで甘やかそうとしても怯えられるばかりで心を開いてくれず施設送りになってしまうのだが。
そのような男性とは全く違うスウェン・ケイという完全な自然体の男性を眼にして彼女達は何を思うのだろうか。
「どど、どうする?」
「待って、男の子ってあんな感じだっけ?」
「コミックから出てきた感じがする…………幻か?」
「誰か話かけてみてよ、向こうは普通に話してるよ」
まるで処女の如く話しかけることすらままならない。仕事を放棄して集まりチラチラと雑談をするスウェンとメイドをチラチラと見ていることしか出来ていない。
「坊ちゃま、まだパジャマ姿というのは…………」
「さっき起きてこれから着替えるつもりだったけど、それどころじゃなさそうだね」
今のままでは着替えすらままならないと感じているようで、メイド達と並んでぼーっとガサ入れの様子を観察し続けている。
そんな目(何も考えていないが)で見られてしまえば慣れてない者は動きが悪くなる。
「どうかしたの?ここの動きが悪くなってるわ」
微妙になってしまった雰囲気を壊すように男性管理委員会副委員長であるタルラ・カイザーがやって来た。
ハイヒールを履いているにも関わらず、足音がない登場の仕方であったため周囲には驚かれていた。
独特な雰囲気を持つのに気配がないとはこれいかに。
「おや?まあまあ、君がケイ家の男の子かな?」
流石に1人、最も身長が低くてメイド服ではない人がいれば気づいてしまう。
世界でも数少ない男、それも大富豪が大金を叩いて囲った男が居るのだ。
近づこうとしたらメイドが阻むように前に立つ。流石に秘蔵っ子に触れさせないという団結力はあるようだ。
「そうだよ。お姉さんは?」
「私はタルラ・カイザー。男性管理委員会は知っているかい?」
「知ってるよ。あんまりいい噂は聞かないし、そもそも僕たちの家に何し来たの?」
一気に切り込んだ!口に出さずともスウェンとタルラ以外の現場はそう思っただろう。
しかし、話の中心となる2人にとっては何てことのない、むしろさっさと終わらせようとしている。
「そうね、主題は男性の連れ込みといったところよ。坊やには心当たりあるかな?」
「別に?だってここには僕しかいないもん」
とぼけるように、愛嬌を振りまくように首を傾げ考えるように言うスウェンである。
普段はしない猫被った様子を見せたことに普段を知るメイド達の脳が急速に沸騰し、見たことのないタイプの男の子に男性管理委員会の面々は何らかの扉が開かれる。
どこがとは言わないが、どこかが濡れた音が一斉に聞こえた気がした。
それは一旦無視して、嘘は言って無さそうに言うスウェンに対してタルラは涼しい表情で問い続ける。
「そうかな。ケイ家と言えばあるゲーム開発に関わっていると聞いたけど、そこでたくさんの男の人が必要と聞いているんだ。何か、知ってるかな?」
「スリップ工房?」
「そう、スリップ工房だ。何か知ってるね?」
「それ、僕だよ」
あっけらかんと言い放ち、ミステリアスな雰囲気を纏っていたはずのタルラの目が点になる。
「声の話だよね。全部僕だよ」
あちゃーと重大な秘密を暴露してしまったことにメイド達が頭を抱えるが、その最高責任者である母親が未だに到着していない。
しかも『スリップ工房』の最大の秘密を持っている責任者があっさりとこぼしてしまったが、その責任者が可愛すぎて叱るに叱れない。
「…………坊やが、1人で?」
「そうだよ。『その方が面白れぇだろ?』」
「え、キューリューくん!?」
「いいい、今のって、え?え?」
少年の口からいきなり飛び出す聞き慣れた声。毎日のように画面越しに居る彼氏と同じ声がいきなり聞こえてメイド達以外の女性は戸惑う。
「(これは、思ったより面倒くさい案件になるね?)」
目が点のままであるが、その内心では『多数の男性を囲っている企業がいる』から『1人の子供が多数の役を担っている』という可能性に行きつき背中に汗が流れるタルラ。
しかも本人がノリノリでやっているあたり、強制されている雰囲気ではない。
「……………………お茶、出る?」
「誰が出すか!」「無礼者め!」「帰れ帰れ!」
「ちょ、刺激しちゃダメだった!」
焦りのあまり混乱した発言で文字通りお茶を濁そうとしたが、大顰蹙を受けるのであった。
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