宇宙世紀0079年12月29日。連邦軍はジオンの宇宙要塞ア・バオア・クーの間近に迫っていた。地球で敗退し、宇宙要塞ソロモンも失ったジオンに勝ち目はなく、連邦とジオンの間では終戦協定の話し合いが進んでいた。だが、ギレン総帥だけは諦めていなかった。父デギンをソーラーレイで殺してでも、和平を妨害しようと企んでいたのだ。そうしたギレンの動きに連邦軍も警戒を強めていた。和平が失敗に終わっても、実力で宇宙要塞ア・バオア・クーを落とす作戦計画がたてられていたのだ。

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機動戦士ガンダムの一年戦争終結につながったア・バオア・クーの戦い。
ソーラーレイによる奇襲という父殺しの選択を、ギレンはなぜ選んだのか。
ソーラーレイでレビル将軍と艦隊の1/3を失った連邦軍は、なぜ即座に要塞攻略に動けたのか。
こうした背景に、ジオン本国でのギレン失脚の動きと、連邦軍の名参謀の作戦立案があるという想定で、二次創作を書いてみました。
連邦軍の名参謀役は、銀河英雄伝説からミラクルなあの人に登場いただきました。


ア・バオア・クー異聞(ガンダム、銀英伝、ヤマト二次創作)

 レビル将軍はマゼラン型戦艦〈フェーベ〉司令官室に、次席参謀を呼び出した。

 大佐の階級章をもつ参謀は、外見こそ冴えない学校教師で──事実、開戦前まで大学で講師をしていた──着の身着のままな軍服からは酸っぱい臭いすら漂わせていたが、男の真の価値はその内面にあることをレビルはよく知っていた。

 

「君の作戦案を読ませてもらった、ヤン大佐」

「はあ」

「高濃度のミノフスキー粒子下でも艦隊運動を行える、見事な案だ」

「どうも」

「これなら、我が艦隊の半分‥‥半個艦隊でもア・バオア・クー要塞は落とせるだろう」

 

 艦内ブザーが鳴る。レビルは尻にかかる荷重がなくなったのを感じた。

 加速が止まった。艦内放送が、艦隊に近づくジオン艦が中立信号を発する特使である旨を伝える。識別信号はグワジン級戦艦〈グレートデギン〉。

 

「我々とジオンが、これから終戦協定を結ぶ予定なのは知っているな」

「はい。ですが、まだ協定は発効していません」

 

 眠そうな目のまま、ヤン大佐は指摘した。

 

「ア・バオア・クーに集結したジオン艦隊に動きはない」

「先日来、サイド3のマハル・コロニー周辺とア・バオア・クーの間で、活発な通信が交わされているのが報告されています」

「マハル。つまりコロニーレーザーだな」

「はい」

 

 コロニーレーザーは、密閉型コロニー一基を丸ごとレーザー砲に改造したものだ。

 本土防衛のための決戦兵器として、ジオンでは“ソーラーレイ”の名前をつけ、これあるかぎり連邦軍がジオン本国に近づくことはできないと国民に喧伝している。連邦情報部は、新兵器開発はついでで、コロニーからの集団疎開を行うことで厭戦気分の引き締めと本土決戦での住民避難ノウハウを蓄積することが真の目的であると分析している。

 

「私が受けた報告では、粒子ビームならともかく、ただのレーザーでは戦艦はおろか、モビルスーツ一機すら落とせないと聞いたが」

「はい。ただのレーザーなら、その通りです」

「何か手があるのか」

「将軍は、次元波動理論をご存知でしょうか」

「オキタ博士の研究だな」

 

 間髪を入れぬレビルの回答に、ヤンが眠そうな目を瞬かせる。

 連邦内ではオキタの次元波動理論を、開戦前のミノフスキー理論と同じく、現実味のない空論と考える空気が一般的だからだ。

 

「さすがです」

「レジュメに目を通しただけだ。詳しくは知らない。空間湾曲航法につながる基礎理論だと聞いている」

「そこまでご存知ならば、話は早いです。次元波動理論には、空間を湾曲させる波動粒子という概念があります」

「その波動粒子を兵器に転用すれば、コロニーレーザーをただのレーザーではなく、威力あるビームにできるのか」

「はい。私も本職ではありませんが、友人のサナダ技術大佐は、コロニー内に波動粒子を充満させることで、強力な破壊力のあるビームを発射できると分析しています。サナダ技術大佐は、これを波動砲と仮称しています」

「波動砲か。どれくらいの威力だ?」

「想定幅が大きすぎ、確かなことは‥‥ですが、最大威力のシミュレーションモデルでは、我が艦隊の半分が消滅します」

「とんでもないな」

「とんでもありません」

「ギレンは使うだろうか‥‥いや、絶対に使うな」

「はい。座して待っても、ギレンを待っているのは戦争犯罪人としての裁判と極刑です。それくらいなら、父殺しの汚名をかぶることになっても、賭けにでるでしょう」

「私もそう思う。だが、使ったとして、ギレンの望む結果になる可能性はどのくらいだと考える?」

 

 ヤン大佐が、指をおりまげて数える。

 

「低いでしょう。コロニーレーザーは発射できるのか。波動粒子は理論通りの威力を発揮するのか。失脚寸前のギレンの命令に部下は従ってくれるのか。すべてが揃う確率は、1/20‥‥5%にも満たないかと」

「それでも、備えるべきだというのだな」

「はい」

「わかった。確かに、このまま強化型ソーラーレイ──波動砲の直撃を受ければ、ジオンと連邦の和平はご破産だ。ア・バオア・クーを落とす作戦は別に用意しておきたい」

 

 レビルはシミュレーションを起動する。

 解像度の低いワイヤーフレームのア・バオア・クーの周囲に、ジオン軍を示すアイコンが浮かぶ。

 

「ヤン大佐。きみの作戦案は、艦隊をふたつに分け、NフィールドとSフィールドを時間差で攻撃する、というものだったな」

「はい。まず艦船中心の分艦隊でNフィールドに攻撃をしかけ、要塞の防衛戦力をNフィールド側に誘引します。しかる後に、モビルスーツを主力とする分艦隊でSフィールドから攻撃をかけ、要塞を落とします」

「作戦としてはシンプルだな。ミノフスキー粒子下でも混乱しにくい」

「はい」

「だが、作戦の成否は敵次第という面は否めない。Nフィールドが陽動であると見抜かれたらどうする? ジオンが要塞から突出せず、手持ち戦力を有効活用して持久すれば、継戦能力の低いモビルスーツ部隊を主力とするSフィールドの分艦隊は打つ手を失う」

「そうですね。持久戦となれば、〈ドロス〉級空母二隻の活用が鍵になります」

 

 ヤンは〈ドロス〉と〈ドロワ〉の二隻の空母を示すアイコンを点滅させた。

 

「この二隻は、要塞の出城として使えます。要塞所属のモビルスーツ部隊は、燃料や弾薬を要塞の外に配置した空母で補給することで再出撃の時間を短縮できます」

 

 大坂の陣における真田丸。

 太平洋戦争における装甲空母〈信濃〉。

 単体としての戦力は小さくとも、要塞と組み合わせることで戦術の幅が広がる。

 

「放置はできんな。要塞に攻め込む前に空母を落とす必要がある」

「はい」

「どうする気だ?」

「力押しで。空母なら飽和攻撃で潰せます」

 

 淡々と語るヤンに、レビルは目で解説を促す。

 

「仮定の話ですが、ジオン側が高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に空母を運用して戦えば、連邦に勝ち目はありません」

「そうだな」

「ですが、それは不可能なのです」

「理由は?」

「この作戦の前提はギレンがソーラーレイを使って和平を阻止するところにあります。味方を巻き込み、自分の父である公王にソーラーレイを発射するなどという暴挙を成功させるためには、ギレンは徹底的に情報を秘匿せねばなりません。それも味方に対してです」

 

 ヤンはシミュレーターを動かし、情報が分断されたジオン軍の戦いを再現してみせる。

 Nフィールドに配置された空母〈ドロス〉はモビルスーツ隊の中核として八面六臂の活躍をみせ、連邦軍の攻撃を何度も撃退する。しかし、それゆえに引き際を失う。蓄積するダメージはついに限界に達し、〈ドロス〉轟沈と共にNフィールドの防衛ラインが破断する。

 

「こうなる前に前線指揮官が独自判断で後退できればいいのですが、ギレンには、そのような自主性を現場部隊に与えることができません。すべてを自分のいる要塞司令部で判断することになります」

「ギレンは頭がきれる男だ。〈ドロス〉が限界だとわかれば後退させるだろう」

「間に合いません」

 

 わかってていってるでしょう、という顔でヤンがレビルをみる。

 要塞司令部にすべての情報を集約させることは物理的に不可能だ。

 情報の処理速度ではなく、情報の入力速度が先に限界となる。

 ギレンがどれだけ頭の回転が早くとも、入ってこない情報を元に判断は下せない。

 

「だからこそ、あらかじめ部下に権限を委譲し、風通しのよい組織を作ることが大事なのですが、それをやれば今度はギレンの身が危なくなります」

 

 ヤンが身振り手振りで、部隊の自主性を尊重するジオン軍で起きそうな展開を実演する。

 

 「おい、このゲルドルバ照準に、本当に味方はいないのか?」

 「チェックしよう‥‥なんてこった〈グレートデギン〉がいるぞ」

 「発射は中止だ。やれやれ、味方を後ろから撃つところだったぞ」

 「総統はどうして、ゲルドルバ照準で撃てだなんていったんだ」

 「しかも、発射時間を早めてまで」

 「「「 まさか‥‥ 」」」

 

 ヤンの解説を、レビルは面白そうに聞く。

 

「名将は心理学の心得をもつようになるというが、さすがの洞察力だ」

「いえ、わたしはそのような名将では‥‥」

「勤務時間中に私物の本を軍の端末で読んでいるとは思えないほどだ」

「うぐっ」

「なぜわたしが知ってるか、知りたそうな顔だな。きみの同僚や上官が、気づいてないとでも思ったのか? みな気づいていたとも。気づいた上で、きみのような優秀な軍人なら、この程度の息抜きは必要だと目こぼしされてただけだ」

「‥‥」

「ヤン大佐。きみと話をしてよくわかったよ。きみは、その高い洞察力を味方には向けないのだな。敵に偏らせることで、己の洞察力を深めているんだ」

「‥‥恐縮、です」

「組織内の立ち回りには不向きだが、失うには惜しい才だ。この戦争が終わったら、きみをジャブローの友人に紹介しよう。ゴップという男でね。きみの真逆で、常に政局を泳いでないと窒息して死んでしまう回遊魚のような男だが、才を見抜く目は確かだ」

「戦争が終わったら、わたしは退役したいのですが‥‥」

「ばかを言ってはいかんよ。きみの生は、きみの才を愛する誰かに支えられてこそ維持できるんだ。ゴップは間違いなく、きみの才を愛でてくれる。金と力のあるゴップなら、きみに悪いようには決してしないと保証する」

 

 ゴップがヤンを悪いことに使うのも確実だが──という言葉は胸にしまった。

 艦内ブザーが再び鳴った。〈グレートデギン〉とのランデブーポイントに到着したのだ。

 

「わたしはブリッジに上がる。きみは今のうちに各艦に作戦内容を転送しておきたまえ」

「はっ」

「何かわたしが命令しておくことはあるかね」

「それでしたら──第13独立部隊。ホワイトベースの配置を」

「Sフィールドか」

「はい。ホワイトベースは、モビルスーツ中心で再編する必要があるSフィールド分艦隊に最適です」

「わかった。ホワイトベースは分艦隊旗艦候補の〈ルザル〉に向かわせよう」

「お願いします」

 

 ヤンは何やら心の重荷をおろせた気分になり、おさまりの悪い髪をかいた。


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