Q.命削ってる系の個性でもヒーローになれますか?   作:盛岡冷麺

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「緑谷ちゃん。私、思ったことは何でも言っちゃうの―――あなたの個性、オールマイトに似てる」

「そっ!? そそそそうかな……!?」

 

「……」

 

 マスコミによる雄英への侵入騒ぎが起きた翌週、ヒーロー基礎学の時間。

 訓練施設へ向かうバスの中、私は思案に耽っていた。

 

 オールフォーワン―――AFOという敵の存在については、以前から知っていた。

 今から約6年前に起きたオールマイトとAFOの戦いには、当時の公安も関わっていたのだ。

 私が見た記録では、彼は到底助からない致命傷を負った状態で姿を晦ました、ということだったけど……どうやら生きていたようで。

 そんな彼が、今年は雄英で何かやりたいことがあるらしい。

 今のところ、私が把握している事実はそれだけだ。

 

「―――しかし増強型のシンプルな個性はいいな! 派手だし応用の幅も広い! 俺の “硬化” は対人戦向きっちゃあそうなんだろうが、地味なんだよなぁ」

「切島くんの個性は全然地味じゃないよ! 鍛えれば鍛えるほど応えてくれる、良い個性だと思うよ!」

「鍛えれば鍛えるほど……筋肉みたいでいいなそれ!」

「ぼ、僕もすごくかっこいいと思うよ。プロにも十分通用する個性だ」

「プロなー! でもやっぱヒーローっつっても人気商売(、、、、)みてえなトコあるぜ!?」

 

「……」

 

 まあ何かも何も、AFOはまず間違いなくオールマイトに執着しているのだろう。

 オールマイトは平和の象徴であり、この国を支える柱となった。

 それは素晴らしいことだ。彼がこの国に生まれたこと自体が奇跡と言ってもいい。

 ただ結果として彼という抑止力に依存したヒーロー全体の質は低くなり、私のような日陰者の仕事が増えたんだけど。

 

 ヒーローは人気商売。

 そう囁かれるようになった時勢にも、やはりオールマイトは深く関わっている。

 彼が悪いわけではない。

 彼はむしろ日本全国の敵発生率を大きく低下させたのだけど、全国の高校に “ヒーロー科” などという学科が一斉に設立されたのはオールマイトの登場以降である。

 彼の活躍によって以前よりも平和になったのに、彼が人気になり過ぎたあまりヒーローになりたいという人口も増え、主に私立高校がその受け皿となった。

 こうした私立ヒーロー科は、伝統のある雄英や士傑といった国立高校ヒーロー科に比べ特に人気を重視したヒーロー育成を図る傾向がある。

 

 もちろん、災害に遭った人や敵に遭遇した人々を安心させるためにはヒーローにもエンターテイナーとしての側面が求められているわけだけど、それに傾倒して私の仕事を増やされるのは堪ったものじゃ……って、話が逸れた。

 

 とにかく、AFOが雄英に目を付けたからには私を送り込んでそれで終わり、なんて話はあるまい。

 オールマイト関連で必ず何かさせてくるはずだ。

 ただ私がAFOと交わした契約は『三度、AFOの指示に従う』、これに尽きる。

 見方を変えれば、指示に真っ向から逆らわない限りはAFOの思惑に反する動きをしても構わないのだ。

 AFOが雄英で何か企んでいることを知っている私が、だ。

 

 余程彼の気に障ることをやってしまったら、私は実質的に両親を人質に取られている状態なので危険が危ないけど、まあその辺りの線引きはね、フィーリングで。

 AFOに “あなたの手駒の邪魔して良い?” なんて聞くわけにもいかないし。

 聞いてダメだって言われたら困るし。

 

「爆豪ちゃんはキレてばっかりだから人気出なさそうね」

「ア"ァ!? 出すわコラ!」

「お前のそのクソを下水で煮込んだような性格じゃ無理だろ。っぱ爽やかさがねーと」

「テメェそのボキャブラリは何だこらアホ面ァ!」

「みんな元気だねー」

「……少々低俗に過ぎる会話ではなくて?」

「でも、こういうの好きだ私!」

 

 私はこれでもプロヒーローなんだから、目の前にいるこの子たちを見捨てるなんて選択肢はありえない。

 口の悪い爆豪くんも、ちょっとチャラい上鳴くんも、今は少し馴染めていない様子の八百万さんも。

 彼らはまだ子どもで、きっといつか本物のヒーローになってくれるから。

 なら私は、どんな指示があるかはわからないけど、なんとかするしかないよね。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「相ざ―――イレイザーヘッド! 敵です!」

 

 恐らく、広場に現れた敵に最も早く気が付いたのは私だった。

 13号先生のありがたいお話に耳を傾けながらも、“公安でもこの先生が講習会開いてくれたら良いのに” なんて、若干集中しきれていなかったことが理由だろうか。

 そんな私に次いで、あるいはほぼ同時に襲撃を察知したのが相澤先生だ。

 私の警告が耳に届くよりも早く先生は私と同じ場所へ視線を向け、そしてすぐさま声を張り上げた。

 

「っ全員ひとかたまりになって動くな!」

 

 いつになく緊迫した声の先生に、生徒はざわつく。

 この時点で完全に意識を切り替えることができていたのは、相澤先生と13号先生、あとは轟くん、爆豪くんか。

 そういえば一年前のヘドロ事件、被害者の一人は彼だったっけ。

 

「えっハタチちゃん、敵って―――」

 

 声を掛けてきた葉隠さんに答えている時間はない。

 私はスーツの胸ポケットから携帯を取り出し、通知を確認した。

 

「……」

 

 ない。

 連絡は何も来ていない。

 つまりこれは、AFOが計画した襲撃ではない。

 もしくは、AFOの計画の内だったとしても私が妨害して構わない襲撃だ。

 私は即座にそう判断した。

 携帯を仕舞いながら、視線を広場へと戻す。

 

 黒いモヤの中から次々と飛び出してくる敵。

 蛇頭、牛頭、肥大化男、カメレオン男、脳みそ丸出し男、手だらけ男。

 私は頭の中でざっくりと彼らの外見情報を照合した。

 ……特に公安でリストアップされていた容姿は見当たらない、と思う。

 ということは、殆どの敵は精々がチンピラ、小物だ。

 

 警戒すべきは、これだけの人数をどこからかワープさせてきた黒いモヤの個性の持ち主、それから……手だらけ男、脳みそ丸出しの敵だろう。

 異形タイプの個性でもなくあれだけの『手首』をコレクションしているヤツを警戒しないわけにいかない。

 脳みそ丸出しの敵は……見た瞬間に心臓が跳ねた。

 アレが一番ヤバい。

 直感がそう告げていた。

 

 だからこそ、アレは私が受け持つべきだ。

 

「イレイザーヘッド、13号! 脳みその敵は私が!」

 

 会長からの説明で、雄英の学校側には私の経歴を共有したと聞いている。

 相澤先生と13号先生は私がプロヒーローであることを知っているはずだ。

 普段は私を一生徒として扱う方針のようだけど、この非常時にそんなことも言っていられないだろう。

 私は広場に向かって飛び出そうとして―――

 

「うぐっ!」

 

 相澤先生の拘束布で引き止められ、転んだ。

 そのまま後ろへとぶん投げられる。

 

「何言ってる。お前もとっとと避難しろハタチ! ……13号、生徒の避難誘導を」

「分かりました! ハタチさん、ここはイレイザーヘッドに任せて、君は早く避難してください!」

 

 え、あれ……?

 

 相澤先生の反応が何だかおかしい。

 私を引き下げることになんの躊躇いもなく、まるで私が本当にこの学校の生徒であるような言葉。

 

「さあ早く! みなさん、入口から外へ!」

 

 13号先生もだ。相澤先生の指示に何ら疑問を抱く様子がない。

 起き上がった私は13号先生に背中を押され、生徒たちが集まっている方へ一歩二歩とよろける。

 

「っとと……!」

「だ、大丈夫?」

 

 肩を支えられて顔を上げれば、目が合ったのは困惑と不安を瞳に浮かべた耳郎さん、それに見えないけど葉隠さんも。

 見渡せば、同じような表情をした生徒は多い。

 

「……ハタチ?」

 

 ――― “君は最大限を救いなさい。君にはそのための個性があるのだから”

 

 そうだ。

 

 私がいるべきなのはここじゃない。

 私はここにいちゃいけない。

 ヒーローの卵は、守らないと。

 

「―――点火(イグニッション)

 

 言葉で先生たちを説得する時間はない。

 私は個性を使った。

 

 

 

 多くのヒーローは、必殺技を持つ。

 必殺技とは言っても、別に敵を直接攻撃する技じゃなくていい。

 自分に有利な環境を整える技だったり、もしくは救護を必要としている人を素早く安全圏へと助け出す技でもいいのだ。

 私がよく用いるこの『点火』も、どちらかといえばそういう類の技だった。

 

 自分の心臓及び肺を対象に『早送り』することによって、心肺機能を上げる。

 これに伴って瞬時に(、、、)運動機能を上昇させる。

 

 個性の効果としてはそれだけの、簡潔な使い方。

 要は、ウォーミングアップを一瞬で済ませて、一気にランナーズハイまで持って行くような必殺技だ。

 …… “必殺技” ってなんだっけと言いたくなるけど、要は戦闘ルーチンに名前を付ければ必殺技ってことになるらしいから。

 誰がなんと言おうとこれは私の必殺技だ。

 

 『点火』後の私の心拍数は分間240程度まで引き上げられる。

 あらゆる運動機能――殴る蹴るといった攻撃手段や、走る跳ぶといった移動手段――が強化された状態になる。

 ついでに、エンドルフィンの分泌によって爽快感や幸福感、高揚感を得る。

 この脳内麻薬(エンドルフィン)は幸福感を与えると同時に痛覚を鈍化させる……というか、痛みを全く感じなくさせるのだ。

 これが瀬戸際の戦いでは有利に働くことも多い。

 その上、集中力も跳ね上がる。

 普段なら目で追えないような攻撃にも反応できるようになって、回避から反撃までをこなせるようになったりする。

 

 開発したのはずいぶんと昔だけど、今振り返ってもかなり汎用性の高い必殺技である。

 プロヒーローになりたての頃はまだ実力も低かったため、ほとんど毎戦闘で使っていた記憶がある。

 

「ハタチちゃん!? どうしたの!?」

 

 そんなハッピーセットな『点火』に問題点があるとすれば。

 

「凄い汗……呼吸も……!」

 

 傍目には、何も運動をしていないのに急に異常なほどの汗をかきはじめて、頬は紅潮し、5km走ってきましたってくらいの短い呼吸が抑えられなくなってしまうこと。

 心配してくれる葉隠さんには申し訳ないけど、これ個性なんだよね。

 

「だい、丈夫」

 

 発声もままならない私は一言だけ告げて、耳郎さんと葉隠さんの手を振り払った。

 相澤先生はもう交戦してる。

 

 行こう。

 

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