「どこも癖が強すぎる……」
小早川先輩からもらった弓場隊のデータを見ながら俺は愚痴をこぼす。
対策を立てるとは言ったものの、どうすればいいのか見当もつかない。
「大丈夫ですか?」
「うーん。大丈夫って言ったらうそになるけど……なんとかはなる……かも?」
そんな俺にくっついて一緒に戦闘記録を見ている黒江。
ランク戦に備えて弓場隊の戦闘スタイルのイメージを固めておきたいそう。こういうところは本当に真面目だ。
「実際に戦うとしたら、あたしが弓場さんの相手ですか?」
「本当なら弓場さんは二宮隊に押し付けたいのが本音だけど、ぶつかるとしたら黒江か俺が相手にしなきゃだね。加古さんでもいいけど、それはもったいない気がする」
加古さんほど厚みのある存在を弓場さんだけに使いたくない。
厚みのある存在だからこそ弓場さんに使うべきかもしれないけど。
分からない。というより、難しい。
「部隊じゃなくてマップで勝負するべきかなー」
幸いなことに次のマップ選択権はうちにある。
こちらが圧倒的な有利を確保できるようなマップを選べば、幾分か実際の戦場の指揮もマシになるだろう。
「どこにしますか?東さんがいるので射線が切りやすい方がいいとは思いますけど」
「そうだね。そこは間違いない。狙撃手には積極的に不利を押し付けるつもりだよ」
東さんを自由に活動させるデメリットを上回るメリットは基本的にない。
うちに狙撃手がいない以上、他の部隊の狙撃手はより一層注意して選ぶべきだ。
「そうなると、次第に候補は絞られてくるわけだけど、歴で言えば俺たちよりも東さんの方が長いから、戦い方は向こうの方が熟知してるんだよなあ」
「あたしたちが考えそうなことは、もう東さんがやってそうですよね」
「ほんとそれ、もしくは価値がないと判断して行われていないか」
「加古隊らしさを出すのなら、韋駄天とかですか?あとは、先輩のメテオラとか?」
「そのへん……だけど」
いやはや、難しい。
東さんと戦うって言うのはここまで面倒くさいのか。何を考えても、あの人の顔が浮かぶ。――全部、却下される気がする。
なんなんだあの人。
「…………」
「先輩?」
「分からん!!ちょっとリフレッシュしてくる!」
「分かりました」
「黒江も行く?」
「私はもう少しデータを見ていきます」
「りょーかい。がんばってねー」
解決策が見えず、頭がこんがらがってきたのでちょっとばかりリフレッシュだ。こういう時は全く違うことをするといい。
悩みをすべて忘れることで、解決策が見えてくることもある。見えないことも多々あるけど。
広いわりに何もないボーダーの廊下をプラプラと歩いていると、大きなスペースが見えてきた。
公式の名称は特にないらしいが、他の隊員は休憩室なんて呼んでいた。ラウンジよりもこじんまりとしていて、あるのは椅子と机、あと自販機ぐらい。
ただ広いだけの空間だ。
ラウンジほどの設備を増やすわけにもいかず、余り物のように用意された場所――そんな印象だった。
だけど、一人でぼーっとしていたいみたいな隊員には人気な場所でもある。
本当に一握りの隊員だけど。一人か二人はいつもいる。
あそこで無駄にスタイリッシュにコーヒー飲んでるマキリサ先輩とか。
「マキリサせんぱーい。上位入り記念に一本どうですか?」
「いや」
「残念」
残念ながら祝いのジュースはないようだ。
「たいして上位入りを目指してたわけでもないでしょ」
「そうですけど。良いことではあるでしょ?」
「良いことね……良いことって思ってるんだ」
「嫌な言い方しますね。ちょっとした冗談ですよ」
俺が上位入りについて特別な感情を抱いているわけではないことを理解しているご様子。
ま、ちょくちょく会ってA級に戻ることが目的だって言ってたし、おかしくない反応ではある。ちょっと厳し目の激励だと捉えておこう。
「A級になるなら次からが本番でしょ。特に次の試合」
「そうですね。メンバー的にもほぼA級ランク戦と言っても過言じゃないです」
そのおかげで俺は頭を悩ませている。
東さんばっかり意識しても二宮さんもいるし。B級上位は忙しいなあ。
「その割にこんなところほっつき歩いていいと思ってる?」
「思ってはいませんよ。でも、一人で考えたって作戦は立てられませんから。そういうわけで、どうか知恵をお貸しください!!」
「話して損した」
「ここから有益な会話になるかもしれないじゃないですか!!」
冷たい先輩だこと。
けど、俺の周りには全体的に冷たい先輩しかいないので慣れっこではある。
あの人もこの人も容赦のないことをずばずばという人だ。かわいい新人の心が折れてしまうよ。
「東さんに勝ちたいなら、目標をしっかり持ちな」
「目標……?」
勝ちたいって気持ちを強く持て、なんて精神論を言っているわけない。
マキリサ先輩はそんな熱いタイプの人じゃない。
なら、おそらく言葉通りの意味のはず。目標……。
それだけ言って、先輩はコーヒーに口をつけ、明後日の方向を向いてしまった。
これ以上何か語るつもりはないようだ。
もうちょっと話してほしいのが本音だが、致し方ない。
このアドバイスを胸に秘め、もう少し作戦を考えるか。
「俺、行きますね。アドバイスありがとうございました」
「別に気にしないで」
マキリサ先輩と別れ、俺は作戦室へと戻る。
目標。このランク戦での目標だよな。
うーむ。東さんに勝つとか?
華麗な作戦で、東さんを撃破することで盤面をこちら有利に進めれば勝てる……か?
でも、そちらばかりに気を使って二宮隊や弓場隊がフリーすぎるのも……。
もんもんと考えている間に、隊室に帰ってきてしまう。
何かが見えそう。言葉にできない何かが。
「弓場さんの解析は終わった?」
俺が出て行った時と変わらない場所に座っている黒江に声をかける。
向こうも難航しているのだろうか。
「得られたことは多いですが、まだ勝ち筋は見つかってません」
「そっか、弓場さんも一筋縄ではいかないね」
「先輩の方はどうですか?」
「いやあ、東さんに勝てそうな作戦はなかなか。やっぱり、個々の実力で押し切るのが一番いいのかな」
全員エースができるぐらいの実力者ぞろい。
加古隊で集まって、確実に敵を撃破していく作戦がなんやかんや一番ハマる可能性もある。
「あと、神田先輩の方もいくつか対策を立てました」
「そっちも見たんだ」
「弓場さんだけが敵になるとは限りませんから、別々に動くスタイルですし、接敵の可能性も高いです」
「確かにね」
弓場さん以外もか。
そう……か。
「はは、なるほどね」
「どうかしました?」
「いや、理解した。あの人が言ってたこと。目標を見誤ってたってことか」
確かに東さんは強敵だ。
雑な作戦で価値をとれる相手じゃない。
なら、それ以外。
東さん以外を目標にするなら、そこには無限の組み合わせがある。
二宮隊に弓場隊。こんなに最高の可能性がいるんだ。
「黒江、作戦変更」
「はい」
「弓場さんに、無理に勝つ必要はない」
「いいんですか?」
「うん。その代わり