アカギファルコに脳を焼かれた作者による9.9割妄想のファルコ主戦騎手のお話。

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第1話

 

 

『鞍上の鞭に応えてぐんぐん加速!』『……今1着でゴールイン!』『中山の第4レース、3歳未勝利戦を制したのは──』

 

 

 

 

 

 ベテランと呼ばれる年齢に達した男は数度目の挑戦で遂に勝利を掴んだ相棒の首筋を労わるように優しく撫でる。

 すると彼女は心地好さそうに顔を揺すった。

 

 良い牝馬だ。穏やかな気性ながら競走馬に必須な闘争心も確かに持ち合わせている。道中は上手く折り合いをつけられ、こちらがゴーサインを出せばキレのある末脚を炸裂させる。

 それがかつて男が乗っていたとある馬を想起させた。

 

 一世一代の大番狂わせ。当代最強、圧倒的1番人気だったパルメニオンを破った希代の一発屋アカギファルコ。数多いるお手馬の中でもGⅠ勝利馬を差し置いて男の脳裏に色濃く焼きついた存在だ。

 レース後は散々マークの有無やあくまで前哨戦だったパルメニオンとの仕上がりの差を比較されたし、男自身も展開が味方してくれた事は否定しない。

 マッチレースならほぼ確実に負けていただろう。けれどパルメニオン以外の馬も蹴散らしたあの時のアカギファルコは紛れもない本物だったと断言出来る。

 

 会心の騎乗だったと自負するあのレースは男にとって誇りであり、同時に苦い記憶だ。

 完全な勝ちパターンのパルメニオンを外から強襲した豪脚。あれを自在に引き出せていたならGⅠも勝って種牡馬入りさせてやれたのではないか。

 何年も経った今でもそう考えてしまう。

 当て馬という仕事を侮辱するつもりはない。競馬界の一端を担う重要な役割だろう。しかし、彼の子供に乗ってみたかったというのが偽りない本心だ。

 ジョッキーが一頭の馬に固執していつまでも引き摺るのは良くない傾向だと自覚しながらも心の片隅には後悔が燻っていた。

 

「……っと」

 

 ふと気付くと首を曲げた彼女の視線がこちらを向いていた。上の空だったのを心配してくれたのかもしれない。

 いかんいかんと気を取り直して検量室に誘導する。

 

 レースに勝った直後に別の馬の事を考えるという、男にとって珍しい心境に陥ったのには理由があった。

 現在跨っている牝馬の母はアカギファルコの姉妹にあたる。

 地方ですら中々勝てずそのままなら廃用だっただろうが、ファルコが重賞を勝利した事で繁殖入りが叶ったのだ。

 

 ファルコの走りが繋いだ命。彼女は初年度産駒となる。

 そんな背景を持つ馬の主戦を務める事に奇妙な縁を感じずにはいられない(念の為エージェントに確認してみた所、向こうは自分とファルコの関係を知らなかったので本当に偶然らしかった)

 

 彼女をファルコの代用品や悔いを晴らす為の道具にするつもりはない。

 それでも彼女が活躍する事でアカギファルコという馬の存在を思い出したり新たに知る人間が増えればそれは望外の喜びだ。

 

 ──アカギファルコの血は途絶える。けれど彼が生きた証を残す事は出来る。

 自己満足かもしれないが、それがかつての相棒に自分が捧げられる手向けだった。

 

 

 

 






姪っ子ちゃんは重賞でもそこそこ活躍。
弟妹が結構な額で売れた事で生産者が調子に乗ってお母ちゃんにイスカンダルを種付けしたらバケモンが生まれるけどそれはまた別のお話。

「アカギファルコ、令和のブゼンダイオーになれ」VS「アカギファルコの直系が残るのは解釈違いです」
心の中で二者が戦って後者が勝利しました。

※Pixivと自ブログにも掲載中。


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