この素晴らしい世界にCHEMY×STORYを!   作:山田プロキオン

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本当に申し訳ないです。プライベートで色々と忙しくてまた投稿が遅れてしまいました。


王都が沈む日、オロチ事変

 夜も進み、王城でのパーティはお開きとなった。会場では王城の召使達がてきぱきと後片付けに入り、パーティに参加した貴族達の中には談笑をして余韻を楽しむ者達もいた。

 その一方、会場の隅にいたダクネスは目に見えて不機嫌な表情を作っており、下唇を噛み締めながら無言を貫く。滅多に見せない仏頂面の彼女に、めぐみんとゆんゆんもどう声をかけていいのか分からず、互いに顔を合わせていた。

 

「(全く…せっかくのパーティだったのに重苦しくなっちゃったわね…)」

 

 アクアもシリアス顔で雰囲気だけ(・・)は一丁前に装ってはいる。そう、雰囲気だけは。内心何故ダクネスが機嫌を損ねたのか、知りもしないし知ろうという気もない。彼女の頭の中は、パーティの為に王宮から支給された高級シュワシュワだけである。

 遡ること数刻前。ことの発端は、ダクネスが父のイグニスと面識のある貴族達と対談していた時だった。

 

「先程の言葉……取り消してはいただけないでしょうか?」

 

 貴族達との話の中でカズマのことが話題にあがった。王都において忌み嫌われる錬金術師。その生き残りであるガッチャードを、中身がアイリスの時だったとはいえ庇ったことを彼らは揃って咎めた。カズマがこの世界において最弱職とされる冒険者で、上級職揃いのパーティの先導者を担っていることへの疑念も加わり、彼らのカズマに対する根も葉もない憶測は止まることを知らなかった。

 事情を知らないとはいえ、カズマに加えて錬太郎まで侮辱されたことに、ダクネスの腸は煮え繰り返った。そして我慢の限界を迎えた彼女は、父の知人の前であるにも関わらず、声に鋭さを纏わせた。

 

「だ、ダスティネス卿……⁉︎」

 

「い、いやしかし……」

 

 お淑やかな雰囲気から一転、蒼炎の如く滾るダクネスの両瞳に睨まれ、思わずどよめく貴族達。その中の1人が言い訳を連ね、何とか機嫌を取ろうとするが、そんな小細工はダクネスには通用しない。

 

「大切な仲間を愚弄されて、黙っていられる筈がございましょうか?貴方方は彼の何を知っていらっしゃるのですか?

彼がいなければ、私1人では救えなかった町がありました!!救えなかった命がありました!!

 

 

そして……救えなかった仲間の心がありました……」

 

 ダクネスは感情に任せて自身の目で見てきたカズマの勇姿を言葉に出して綴る。

 カズマとの冒険の記憶が、色鮮やかにダクネスの脳内を駆け巡る。アクセルの街、アルカンレティア、紅魔の里、その場所に住む人達、そして錬金事変以降、心を痛め続けた錬太郎を受け入れた時。

 時より誘惑を優先するけれど、時に情けない姿を晒すけれど、それでもダクネスにとってカズマは(冒険者としても自分の性癖としても)理想のリーダーだった。

 そんなカズマを、そして誤解を抱かれながらも戦い続けてきた錬太郎や、己の正義に準じたアイリスをも馬鹿にされてダクネスが平常でいられる訳がなかった。

 ダクネスと貴族達の間に生じた不破は、瞬く間にパーティに参加していたもの達の注目の対象となってしまい、辺りから好奇の視線が向けられ始める。普段なら大衆の視線に興奮するところだが、今のダクネスはそんなこともお構いなしに発言を続ける。

 

「詳しい事情を知らないにも関わらず、私の仲間を侮辱することはやめていただきたい!!」

 

 いつになく強気な女騎士から溢れ出す気迫。その圧は辺りにいた貴族達へ怖気を催し、息を呑んだ。

 沸騰したダクネスの熱は、尚も収まる様子はない。流石に看過できないとしたのか、ダクネスと貴族達の間にはクレアとレインが割って入り、両者を宥めて事なきを得た。というのが、ここまでの流れである。

 

「ダスティネス卿、あなたの胸中は痛くわかります。カズマ殿を愚弄されたこと、さぞかし無念だったでしょう。ですが……」

 

「……レイン殿」

 

 静寂の続いた空間を裂くようにダクネスへ話しかけるレイン。事態を収めてくれた彼女に対してバツが悪いようで、ダクネスは2秒程間を置いてから目を合わせる。

 ダクネスの事情も理解している。しかし王家の懐刀というダクネスの立場上、このような場で激情的になるのはもっての外。長年クレアと共に王宮でアイリスに仕えてきた身の彼女だからこそ、作法というは叩き込まれている。

 それ以上、レインはダクネスに続かなかった。ダクネスも謝罪と礼の意を込めて小さくお辞儀をし、レインは優しく笑った。

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ〜シュワシュワぁ〜、おかわりにゃい〜?」

 

 空気の読まない一言に周りが呆れ返る。パーティが終わって尚、シュワシュワを飲み続けていたアクアは遂に酔い潰れて呂律も十分に回っていない様子で、おかわりを要求し始めた。やはり駄女神は駄女神なのだった。

 そんなアクアを他所に、ゆんゆんは自身のケミーライザーを手に取ると皆の前からひっそりと姿を消した。

 

「えみりんさんから渡された王城の人達の避難経路……しっかり覚えなきゃ……」

 

 

 

 

 所変わり、カズマとクリスは王城にあるとある神器の回収の為、準備を進めていた。暗闇を動く際、なるべく目立たない全身黒の衣装を身に纏う。そして顔を見られぬようにと、カズマがどこからともなく黒と白の半々で塗り分けられた仮面を2つ取り出し、片方をクリスに手渡した。

 

「へぇ〜気が利くね。顔バレ防止のための仮面なんて……」

 

「まぁ、前に知人からな…」

 

「ふぅ〜ん?」

 

 カズマからの返答に、どこか訝しむような視線を送るクリス。その刃物の如く鋭い眼光に思わずカズマは身震いする。

 あの目だ。強引にクリスに義賊活動の協力を求められた際に悪魔のようと例えた際に向けられたあの目。汚物に対して向けるような冷え切ったカサカサの目。

 

「ど、どうしたんだよ⁉︎な、なんか不満か⁉︎」

 

「いやぁ、なーんか悪魔が放つ独特の異臭に似た臭いがしてちょっと、ね?」

 

 クリスの指摘にカズマの心臓はドキリと跳ね、心拍数を加速させる。なぜこんな所で鋭いのだろうか。最後のねに含まれる圧的に仮面の秘密を知られれば半殺しにされるかもしれない、カズマはそう思った。

 この仮面はアイリスを送り返す前にアクセルにいた時、バニルから渡されたものだった。彼曰く後々に必要になることを見通したと踏んで渡してくれたのだが、あのバニルのことだ。何か裏があるのではとカズマは警戒していた。しかしそれが自身の命に関わることになるとは流石に予想だにもしてなかった。

 ここまで見通して仮面を渡したのならかなり悪趣味である。しかしこのことを突き詰めたとして、バニルは高笑いしながら自分の悪感情を堪能するだろうと思い、カズマはため息を吐くしか無かった。

 

「溜息なんてついてどうしたの?」

 

「いや、なんでも。あと、俺は悪魔と関係なんて持ってないからな。クリスがちょっと敏感すぎるだけなんじゃないか?」

 

「なんか言い方がちょっといかがわしい気がするんだけど……。まぁいいや。それじゃ、改めて説明させてもらうね。

 

今回の狙いは王女アイリスの持つペンダント。あれは昔、この世界にやって来た日本人が使っていたものなんだ」

 

「俺と同じ日本人が?だからペンダントに日本語が刻んであったのか…」

 

「そういうこと。それに、あのペンダントには入れ替わりのチート能力がある。そして、使いようによっては永遠の命を手に入れることだってできるんだ」

 

「それってどういう…?」

 

「あのペンダントの入れ替わりは、入れ替わっている最中に片方が死ぬとその効用は永続的になる。調べた結果、元の使い主がいなくなった後はアルダープの手に渡っていたみたいなんだ」

 

「アルダープって、デュラハンの件で借金押し付けた挙句、俺と錬太郎に冤罪ふっかけたアイツ⁉︎もしかして神器を王族に送って、その力で国乗っ取ろうとしてたの?碌でもねぇなぁ……」

 

「この神器の存在が公になると、絶対にアルダープのように悪用する輩が現れる……」

 

 カズマの背中に、ゾッと寒気が走る。もしもアイリスの中身がある日見知らぬ貴族のおっさんに変わってたらと思うと、そしてそれに誰も気付かずまた次の入れ替わり犠牲者が現れるかもしれないと思うと。

 

 なんとしてでも神器を回収する。例え法を犯そうと、アイリスを始めとする王族の未来のために。カズマは強く誓った。

 

「そんな危険なもん、何がなんでも回収しないとな。クリス」

 

「クリスは駄目だよ。名前も立派な公開情報だから。私のことはお頭って呼んで。君は助手くんね」

 

「はぁ⁉︎いやもうちょっとマシな呼び方……「それじゃ出発!!」俺に決定権はないのかよ……」

 

 意気揚々と夜の世界へと出発するクリス。その後をカズマも追いかけた。

 

「そういえば確認なんだけど、助手くんは王女様の部屋の場所を把握してるの?」

 

「まぁな。なんせ遊び相手だったもんで」

 

「そっかぁ。そこだけ聞くと凄いねぇ」

 

「なんか褒められてる気がしねぇ……」

 

「あはは、ごめんごめん。それにしても驚いたなぁ。助手くんが盗賊スキルの殆どを覚えてたなんて。あたし教えること殆どなかったよ」

 

「前にマツルギのパーティの1人に教えてもらったんだよ。それもあって使い方は熟知してっから」

 

「それは頼もしいね。期待してるよ♪」

 

 右肘でカズマを軽く小突き、八重歯を輝かせて笑うクリス。2人は闇夜を駆け抜け街を過ぎ去り、いよいよ城門の前に迫っていた。

 

 

 

 

「なんだか簡単に侵入できちゃったね。ちょっと拍子抜けだったかな?」

 

「パーティの片付けやら今日がパーティだからやらで油断してたんだろ。衛兵も何人か立ったまま寝てたし」

 

 王城にやってきてからは随分と順調に進んでいた。カズマの述べた通り王城の警備が普段と比べて穴があったこともあり、衛兵に気づかれることもなく侵入することに成功した。

 

「助手くんのロープ捌きは見事だったよ。まさか狙撃スキルを応用するなんて」

 

「スキルのカッコいい使い方は常々妄想してんだ。ただただ王城でグータラしてたわけじゃないぞ?王城の造りもそれなりに把握してるし」

 

「助手くんは本当に光るものがあるねぇ。もし冒険者業引退したら、あたしの下で一緒に働かない?対悪徳貴族用の盗賊団結成しちゃおうよ!!」

 

「……まぁ、何もすることなくなったら選択肢に入れとくよ……。そろそろ勘付かれたか……」

 

 薄暗い通路を進む中、2つの人影がカズマとクリスの前に立ち塞がる。1人はカズマ達とも共闘経験のあるいつぞやの魔剣の勇者、ミツルギ。もう1人は王女アイリスの護衛にして熟練の剣術の担い手、クレア。

 

「王城に忍び込み盗みを働こうとは。君達、義賊か?」

 

 怒りと呆れ、嘆きの入り混じった声でミツルギは問う。その主人公が発しそうな台詞を完璧な声色で綴る様がカズマには鼻についたのだが、変にボロを出してはならぬと心を沈めた。しかしカズマ以上に心に異常を来すものが現れることとなる。

 

「茶髪の方はともかく、あんな年端もいかない頃であろう銀髪の少年まで盗みに手を染めようとは……」

 

 クレアが分析のために零した些細な一言。それはクリスの心を深く抉った。

 

「お、お頭…?」

 

「助手くん……あたしそんなに男っぽい……?」

 

 声に覇気が全く感じられない。完全に消沈してしまっている。クリスは胸があるわけでもないし、背もそれほど高くはない。加えて短髪ということもあっての結果だろう。しかし流石に少年と堂々と間違えられるとは思ってもおらず、ダメージは深刻だったようだ。

 

「おぃぃぃ⁉︎ここからが大事な場面だってのにぃぃぃ⁉︎⁉︎」

 

 予期せぬタイミングで落ち込んでしまったクリスに、カズマは頭を抱える。そんな2人を待ってくれるはずもなく、ミツルギとクレアはじりじりと距離を詰めてくる。

 

「クレアさんは銀髪の少年を。僕はもう1人を」

 

「了解した」

 

 崖っぷち、絶体絶命のこの状況。クリスは頼れる精神状態ではない。焦燥感がカズマの胸中を満たしていく。

 

「一か八か……やるしかねぇか」

 

 カズマは腹を括る。何もせず大人しく捕まるか、抵抗して僅かな可能性に賭けるか。カズマは後者を選択した。カズマの攻勢を悟り、ミツルギとクレアも剣の柄を握りしめた。

 

「今しかねぇ!!」

 

 2人が剣を構えたと同時にカズマは駆け出す。まさか丸腰で迫るとは思ってもおらず、クレアとミツルギは内心動揺した。しかしそれこそがカズマの狙いだった。

 

「『クリエイト・ウォーター』!!」

 

 低姿勢のカズマの手から初級魔法によって水が生成される。水はミツルギとクレアの足下に広がり、不安定となった足場でミツルギは体勢を崩してしまった。

 

「うおっ⁉︎」

 

「すかさず『スティール』!!」

 

 今度は盗賊スキルの1つを発動し、カズマの右手にミツルギの得物である魔剣グラムが収まる。流石の幸運値のようだ。形成の逆転した様に、ミツルギは顔を青ざめさせながら尻餅をついた。

 

「か、返せ!!僕のグラム!!」

 

「やなこった、代わりにコイツをくれてやる!!」

 

 未だ体勢を整えられないミツルギの口に向かって、カズマは容赦なくクリエイト・ウォーターによる水で追撃する。さらにカズマの猛撃は止まることを知らない。

 

「おまけに『フリーズ』だ!!」

 

「ちょ、待っ…あがががが!!!!」

 

 口の中が水で溢れかえったかと思えば、今度は水がみるみる凍結して口呼吸が封じられ、ミツルギは目を白黒とさせる。

 王都で名声を総なめしている魔剣の勇者が、ものの数秒で見知らぬ盗賊相手に完封負けしてしまうというあまりにも情けない光景がそこにはあった。

 

「ミツルギ殿⁉︎おのれ……」

 

 今度はクレアがカズマへと迫る。足場が不安定な中、転倒に注意を払って攻撃を仕掛けようとするのは流石王族の護衛といったところ。

 しかし、それでもカズマの手札には及ばなかった。

 

「おっと、危ねえ……」

 

 眼前に舞うクレアの銀の一閃を間一髪で躱し、今度はカズマがクレアの懐へ潜り込む。

 

「喰らえ、『ドレインタッチ』!!」

 

 どさくさに紛れてクレアの胸に触れながら、カズマはリッチーのスキルでクレアの魔力を吸い取った。魔力は体力と連動していることもあり、魔力のなくなったクレアはその場に力無く体を預けるしかなった。

 

 

「くっ、盗賊を捕らえられず辱めを受けるとは……」

 

「フハハハハ!!余裕余裕!!お頭さっさといくぞ!!」

 

 強敵2人を一蹴し、カズマはクリスの手を引いてアイリスのいる部屋へと急ぐ。

 道中で漸くクリスは立ち直り、同時に次の門番達が現れた。

 

「お前達が騒ぎの元凶か!!」

 

 今度現れたのはダクネス、めぐみん、ゆんゆんの3人。恐らくパーティでの酒でアクアは酔い潰れたのだろうとカズマは察した。そして一番恐れていた錬太郎の姿はどこにもなく、ホッと胸を撫で下ろした。

 ゆんゆんは難所ではあるが、ダクネスとめぐみんならばなんとかなるかもしれないと、カズマの中で希望が芽生えた。

 

「なんですかあの仮面は……⁉︎義賊とはあんなにカッコいいものだったのですか⁉︎」

 

「落ち着いてめぐみん、犯罪だからカッコいいわけないじゃない!!」

 

「ゆんゆんにはあのセンスの良さがわからないのですか⁉︎」

 

「分かりたくもないわよ!!」

 

 相手するのが難しそうなゆんゆんも、めぐみんの制御に手を焼いているようで本当にどうにかなりそうである。後はダクネスなのだが、何やらカズマとクリスの方を凝視し、固まっている。

 刹那、稲光が走ったかのように持っていた大剣を手から落とし、呼吸を荒くし始めた。

 

「ま、まさか……」

 

 ダクネスの反応からカズマとクリスも理解した。バレのだ。ダクネスに完全にバレてしまった。義賊の正体が自分達であると。

 

「し、しかし!!道を踏み外した者を更生するのも騎士の務めだ!!これ以上先へは行かせん!!」

 

 地面に落ちた剣を拾い直し、改めて構えるダクネス。カズマとクリスもアイリスの部屋へと急ぐべく、各々のスキルを発動した。

 

「ごめんねダクネス、『バインド』!!」

 

「な、なんだこれは⁉︎体が締め上げられて…ひゃあん!!」

 

 盗賊スキルの1つ、『バインド』を発動し、クリスはダクネスの動きを止めた。抵抗する様子を見せてはいるものの、艶のある声を発しながらどこかダクネスは嬉しそうにしている。何はともあれ、ダクネスを封じることには成功した。残るはゆんゆんとめぐみんだが……。

 

「何をしているのですかゆんゆん?貴方の上級魔法でちゃっちゃとやっちゃってくださいよ。あ、仮面は傷つけちゃダメですよ?」

 

「わかった、わかったから急かさないで!!」

 

 何故かゆんゆんは攻撃という攻撃を仕掛けてこない。爆裂魔法しか扱えないめぐみんは兎も角、中級・上級魔法に長け、体術も優れているはずのゆんゆんが中々動かないのは妙である。

 

「(まさかゆんゆんも気づいているのか?)」

 

 そんな予感がカズマの脳裏を過ぎる。停滞が続く状況の中、更なる乱入者がやってくる。

 

「ふわぁ〜、何何?」

 

 寝巻きに身を包み、だらしなく欠伸をしながらソイツはやって来た。アクアである。酒が残っているのか、千鳥足で足下がおぼついていないようだ。

 

「あ、アクアさん危ない危ない!!」

 

「酒で酔ってるんですから来ないでくださいよ!!」

 

 紅魔族2人は、義賊そっちのけで慌ててアクアの下へ寄った。その隙を見逃さず、クリスとカズマはアイリスの部屋へと向かった。

 カズマの手引きの下、王城の中を進んでいき、遂に部屋の扉の前までやって来た。

 

「いよいよ、か…」

 

 扉の取っ手を捻り、アイリスの部屋へと足を踏み込む。部屋の中にはなんとかカリバーを携え、戦う意思を見せるアイリスの姿があった。

 

「王城を荒らす義賊達よ!!王女とはいえ、私も代々勇者の血を引く者!!王家の宝を狙おうものなら、容赦はしません!!」

 

 漲るアイリスの魔力にクリスとカズマは冷や汗を流す。特にカズマはアイリスの戦いぶりをアクセルで見て来た身。挑むことは無謀であることは重々承知している。

 

「アイリス様〜!!」

 

 さらに悪いことに、遠くから声が聞こえてくる。間もなく退けて来たダクネスやクレア達もやって来る。まさに四面楚歌。今度こそカズマとクリスは窮地に立たされてしまった。

 

「こうなったら……一か八かだ!!助手くん、スティールを使った後に全速力で逃げよう!!」

 

「それしかないよな……」

 

 一縷の望みに賭け、2人はアイリスへと手を伸ばす。

 

「「『スティール』!!」」

 

 スキルの詠唱と同時に、眩い光が発動を告げて2人の手の中に何かが収まった。

 

「成功したのか?」

 

「多分……、それより速く!!捕まる前に!!」

 

 一目散にカズマとクリスは、王城からの脱出に移る。幸い近くに窓があり、クレア達追手に捕えられることはなかった。

 

 

 

 

「ここまで来れば大丈夫だよ……」

 

「ぜぇ、ぜぇ……。つ、疲れた……」

 

 逃げるのにかなりの体力を要し、カズマはへなへなと地べたに座り込んだ。クリスは懐に忍ばせていた水を、労いのためにカズマへ手渡した。

 

「さんきゅ、クリス」

 

 飲み口を唇に押し当て、勢い良くカズマは水を飲み干す。渇いた喉を緩やかな水の流れが行き渡って潤して行く。

 

「ぷはぁ、生き返った」

 

「お疲れ様。今日はありがとうね。お陰で目当てのものも手に入ったし……」

 

 クリスは得意げに例のネックレスを掲げる。どうやらスティールの賭けに女神は微笑んでくれたようだ。もっとも、彼女は一応女神なのだが。

 

「あれ?んじゃあ俺が盗んだのって……」

 

 

 

 

「おやおや、こんなところでお会いするとは……」

 

 背後からかけられる不気味な声に2人は振り向く。カズマ達に話しかけたのは一部金色の装飾が施された黒いスーツに身を包み、丸渕メガネを掛けた男。嫌という程見慣れたその容貌に、カズマも眉を顰めた。

 

「ロード……」

 

「やぁやぁカズマくん、久しぶりだねぇ…隣の君は……何だ?数十年前に私を狙ってきた堕天女神達と似た気配を感じる……」

 

 へらへらとしたいつもの調子で挨拶をするロード。その後クリスを方へと視線を移すと、探りを入れる口調で威圧する。沈黙を続けていたクリスは、ロードに臆することなく口火を切った。

 

「君がロード……九十九道一(つくもみちかず)か…せんぱ、アクア様が百年近く昔に転生させた日本人……」

 

「ほぉ、随分とお詳しいようで…」

 

「この世界で暗躍してたらしい君は天界から秘密裏に目をつけられていたってエリス様から聞いていたんだ。そして君の調査に赴いた女神様達が行方不明になったことも…」

 

「ああ〜、あの女神様達ねぇ……捕まっちゃって、私の寿命の糧にされちゃったあの無能共のことかなぁ〜?懐かしいねぇ……」

 

「あの人達をどうした?」

 

 クリスの怒気を孕んだ問いにロードは不気味に口元を歪ませる。眼鏡の奥から覗く瞳孔が大きく開かれ、残酷な真実が綴られる。

 

「力も寿命も奪い取られて搾りかすになった女神なんて、都合の良い実験材料だと思わないかい?」

 

 ロードからの答えに、クリスの中の理性の糸が千切れた。烈火の如く怒りを露わにし、ロードに挑もうとするクリスを慌ててカズマが羽交締めにして食い止める。

 

「ちょ、落ち着けよお頭!!」

 

「こんなこと話されて落ち着けるわけないでしょ!!離して助手くん!!」

 

「おお、怖い怖い。まぁそうカッカしないで。折角だから面白いものを見せてあげるよ」

 

「面白いもの?」

 

「そっ、王都が破滅する瞬間を……ね」

 

 そういってロードが指を鳴らす。その瞬間、カズマとクリスの頭上を一筋の光が過ぎ去り、大地が爆ぜた。その一発だけではない。上空の四方八方より熱線が縦横無尽に降り注ぎ、王都の街を火の海に変えて行く。

 眠りについていた住民達は、熱線の雨によって叩き起こされ、訳もわからぬ災害に逃げ惑い始めた。

 混乱に狂う人々を伺うように、上空からのっそりと覗く顔が1つ。2つ、3つ、否8つ。蛇のようでもあり龍のようでもある。その恐ろしい怪物の姿は王都の人々の恐怖心を一層高まらせ、王都に悲鳴が響き渡る。

 

「オロチマルガム……8本の首と不死身に等しい耐久力を併せ持つマルガムの中の傑作。どうだい?」

 

 王都中の嘆きの声に心地良さそうに浸るロード。オロチマルガムによって放たれた熱線は着弾した瞬間に火の粉を踊らせ、さらにその場所の色を奪い石へと変えていた。8本の首から繰り出され、最早王都の四分の一は石へと変わり果ててしまっていた。

 

「マルガムの石化能力、美しいだろう?活気あふれていた街がどんどん鼓動を止めていく。本当はもう少し時間がかかる予定だったけど、王都の防衛網が機能停止も同然だったのは嬉しい誤算だったね」

 

 にんまりと悪意のある笑みを浮かべ、ロードはクリスに告げる。

 

「ありがとう、君達のお陰で楽に王都を潰せそうだよ」

 

「そんな……あたしの、せいで……」

 

 世界を想っての自分の行動が、図らずも結果としてロードの破壊活動の促進の一因となってしまった。その事実にクリスの心は折れてしまった。

 

「お頭……おい、しっかりしろ!!お頭、クリス!!」

 

 カズマの呼びかけにクリスは応じる気力もなかった。その様子を楽しみながらロードは巨大なフラスコを手に取り、錬成に用いることのできる感情エネルギーの回収を行なった。

 

「いいねぇ、上質な感情エネルギー……これはいい錬成に使えそうだ……」

 

 王都の人々の恐怖、クリスの絶望、カズマの焦燥から得られるエネルギーは大層高純度のものだった。このままオロチマルガムになす術なく王都は滅ぼされてしまう。

 

 筈だった。

 

「『ライトニング』!!」

 

 上空から稲光がロード目掛けて迫る。間一髪、ロードには躱されてしまったが、先程までの愉悦に浸っていた面は、不快感に満ちたものへと変わっていた。

 

「またお前か……一体何者なんだ……」

 

 雷撃の主に問いただすロード。その人物はホークスターによる加護を受けながら上空より舞い降りた。

 

「初めて会った時に語った通りですよ。私はそれ以上でもそれ以下の者でもない」

 

 

 

「えみりん……」

 

 思わぬ展開にカズマも乱入者の名前を口にする。カズマとクリスを庇うようにして前に出たえみりんは、懐から紅のエクスガッチャリバーを取り出し、その剣先をロードへと向けた。

 

「ロード、貴方の思い通りにはなりません。オロチマルガムは

 

 

 

私達によって倒されるからです」

 

 

 

 

 

 一方、王城でもオロチマルガムによる襲撃で大混乱が巻き起こっていた。

 

「ちょっとちょっと⁉︎どーなってんのよこれ⁉︎」

 

 完全に酔いが覚めたアクアは、窓より外の様子を伺う。龍のような首が縦横無尽に動き回り、熱線を吐いて王都を石へと変えていたのだ。

 

「あんなモンスター、見たことないです…まさか、マルガム⁉︎」

 

「無理無理無理よ、あんなデカブツ!!こんな時にホント何してんのよかじゅまさぁぁぁん!!助けて〜⁉︎」

 

「アクア様、気を確かに⁉︎」

 

「皆さん、避難経路を確保してあります。クレアさんとレインさんの指示に……」

 

 突然の事態に平常を保てていないアクアをミツルギとゆんゆんが落ち着かせようと宥める。しかしその隙にオロチマルガムの首の一本が迫り、王城の壁を破壊してゆんゆん達に襲いかかって来た。

 

「しまっ……⁉︎」

 

 

 

「『『万物はこれなる一者の改造として生まれうく』」

 

 刹那、どこからともなく黒いローブを纏い、フードを深く被った男が現れ、錬金術の詠唱を行う。術によって生成された巨大な金属塊がオロチマルガムに炸裂し、容赦なく壁に叩きつけた。

 

「無事か…?」

 

「え、ええ…… ありがとう」

 

「はい……お陰で助かりました……」

 

 謎の男の助けにめぐみんとアクアは戸惑いながらも礼を言う。男は軽く腕を回して首を鳴らすと、右人差し指には嵌めていた金色で縁取られ赤い矢印の装飾が施されたアルケミストリングを右中指に嵌め直した。

 

「漸く普通に喋れるようになった……義体とはいえ、元の世界がやっぱり肌に合うな……」

 

「えっと、貴方は……?」

 

 恐る恐るといった様子で尋ねるゆんゆんに、男はゆっくりと振り向くと、フードの下で軽く笑って答える。

 

「俺か?俺は……

 

ただの錬金術師さ」

 

 次の瞬間、男のアルケミストリングは二対の白い翼を模したような装飾の「ハイアルケミストリング」に変化し、同時に腰部に同様の装飾が施されたベルト、「アルケミスドライバー」が出現する。同時に王都を巡回していたコズミックケミー達、ファンタスティックケミー達が男の手の中へと集まった。

 

「お前達、苦労をかけたな…。また一緒に戦ってくれるか?」

 

 男の問いに、ケミー達はカードの中から元気よく返事をする。男は2枚のケミーカードを選択すると、ハイアルケミストリングをアルケミスドライバーの天面、「アルケミスリンカー」に2回翳した。

 

『アルケミスリンク!』

 

 アルケミスリンカーを通じて錬成の調律が始まり、男はアルケミスドライバー左右のスロットそれぞれにケミーカードを装填する。

 

『ハオーディン!』

 

『ゴキゲンメテオン!』

 

 ベルトが装填したカードに宿るケミーの名前を読み上げるとともに、男の背後に強大なエネルギーを孕んだ銀河のようなものが出現する。男は銀河を背に己の外套を翻した。

 

『One thing…all things… One thing…all things…』

 

 調律が完了し、男はガッチャードに変身する際の錬太郎のように腕を前に突き出して矢印を形作る。そして猛々しく叫ぶ。戦士として戦うための言葉を。

 

「変身!!」

 

『ガガガガッチャーーンコ!!』

 

 ベルトのレバーを操作し、背面の銀河が光となって男を包み込む。光が収束して現れたのは、蒼き装甲に身を纏い、右手に巨大な槍を、左手に大盾を携えた錬金戦士だった。

 

『ハイテンションダンディ!ゴキゲンオーディン!』

 

「超高等錬金戦士ウインド……久しぶりに暴れるとするか……」

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