「艦これ」いつかあの海で×ドリフトスピリッツ 第二幕 2024 -いつかあの頂で-   作:カービィ改二

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第9話です。
特訓の末に現れた乱入者。彼らとのバトルが始まります。


act.9「Come Back(俳優凱旋)」

時雨と奈美子は、奈美子の父親の手がかり「ライジング・サン」と「エニシ」を探し求め、ある人物と出会う。

首都高トップクラスのチーム「東京マッドブリッツ」の元メンバーだと告白した男「タスク」は、時雨の力に可能性を感じ、エニシ打倒に向けて協力を申し出てきた。

それから1週間と数日程経過したその日…トレーニングを終えた時雨と奈美子の2人は、PAでタスクの到着を待っていた。

 

 

 

 

―――迎島PA、夜11時。

推奨BGM

 

その日、時雨と奈美子は迎島PAにいた。

タスクから「話がある」と言われ、やってきたのだ。

だが、すでに予定の時刻はオーバーしていた。

 

「話があるって言ってたけど…遅いわね」

「きっと、忙しいんじゃないかな?」

愛車のワンエイティを駐車場の隅に駐車させ、時雨と奈美子はタスクの到着を待っていた。

するとその時だった。

 

「…あっ!」

「来たわね」

駐車場によろよろと入ってきた赤色のフーガ。

駐車場に向かい、駐車されたその車から降りてきたのは…2人が良く知るあの男だった。

男は2人のほうへと向かってきた。

だが、顔色は明らかに悪い。

 

「すまない、遅くなったな」

タスクはどこか疲れたかのようにそう言った。

その様子に時雨と奈美子が心配そうに声をかける。

 

「いや、その顔は一体…?」

「タスクさん…目のクマが、顔色が悪い!」

だが、タスクはわかりきったかのようにこう答えた。

 

「分析にちょっと手間取ってな…仕事しながらの3徹は骨身に染みる」

「3徹って…」

「気にするな、いつものことだ」

「は、はあ」

奈美子と時雨が心配そうに見る中、タスクが言葉を続けた。

 

「今日来てもらったのは他でもない、エニシを呼んである」

「―――!」

「遂に、ですか」

「ああ。今から行ってバトルを―――」

だが、その時だった。

タスクの言葉を遮るようにして、車の一団がPAに侵入してきた。

 

「あれは…?」

時雨たちが音のほうを見る。

一団はあっという間に出入口を塞ぐようにして停車。

そこからメンバーたちがあっという間にぞろぞろと時雨たちを取り囲んだ。

取り囲まれた時雨たち。

するとそこへやってきたのは、帽子をかぶった…どこか派手なアクションを得意そうとする男だった。

男はタスクを見てこう呟く。

 

「よう、久しぶりだなタスク。相変わらずひでえクマだな」

「レツ…!?今は映画撮影で海外にいるはずでは…なぜこの国に!?」

驚きを隠せないタスク。だが、レツと呼ばれた男は「それよりも」と言いたげに、時雨のほうを向いてこう言葉を続けた。

 

「…そっちのお前が『箱根の時雨』…首都高の『新星』か?挨拶抜きで悪いが、早速バトルと行こうぜ」

「…失礼ですが、あなたは一体?」

男に言葉をかけられた時雨にとっては「ちょっと待ってくれ」と言いたかった。

するとそこへ奈美子が驚きの表情を露にして言葉を口にする。

 

「もしかして…確か、アクション俳優の東条烈!?」

「ん?ああ、そうだが…」

「奈美子、有名人かい?」

「アメリカ・ハリウッドでも活躍する有名な俳優さんよ」

「そうなんだ…」

「でもたしか、ハリウッドで撮影を始めるって先日ニュースになってたけど…」

「(よくわからないけど…もしかして、『東京マッドブリッツ』の結成メンバーの1人…?)」

時雨は男の存在が何者なのかについて感づいていた。

東京マッドブリッツの結成メンバーは3人だ。

タスク、エニシ、そして……目の前にいるレツ。

すると奈美子の言葉に対してレツがこう答えた。

 

「タスクから話を聞いたその日に、監督に事情を説明したんだ…4日間だけ待ってやると言ってくれた。明日の朝にはこの国を出なきゃならねぇ」

「そんなことをしてまで…?」

「ああ…エニシを倒すのはこのオレだ!『箱根の時雨』とかいう、たかが美人ゆえに話題だけが先行するヤツとエニシの勝負なんざ認めるわけにゃいかねえ…このオレがつぶしてやらぁ!」

レツはどこか、時雨のことを気に入っていないようだ。

時雨がここまで話題になったのは、その容姿が原因であり…実力が伴っていないと見ているようだった。

 

「(レツのヤツ、最近は俳優業にかまけてロクに走りこんでいないくせに随分と大口を…待てよ)」

タスクはどこか呆れ気味だったが、ここであることを閃いた。

そしてそれを実行するべく、即座に口を動かす。

 

「レツ、バトルはいいが確認したい。俳優業や帰国の時差ボケで、コンディションに問題があるのではないか?それに、首都高で走るのは何年ぶりだ?」

タスクの言葉にどきりとしたレツは明らかに動揺していた。

 

「うっ…そ、それは…」

「(あれ?となれば…)」

「(これなら、時雨が圧倒的に有利だわ!)」

レツが動揺する姿を見て、時雨と奈美子は互いにそう思っていた。

すると、レツが動揺する姿を見てタスクが喝を入れるかのように圧を強めてこう口を動かした。

 

「準備不足でバトルを挑むとは何事だ!相手のドライバーに対して失礼だろう!!こっちは準備万端なんだぞ?調整を手伝ってやる…私と走るぞ」

「…は?」

「え?」

「え…」

レツ、奈美子、時雨がそれぞれ驚きの感情を口にする。

まあ無理もない話である。いきなり乱入してきた相手を鍛え上げようとしているのだ。

するとレツは言い返した。

 

「待て待て、タスク待てよ。お前、どっちの味方なんだよ!?『新星』をエニシと戦わせたいんだろ!?」

「そ、そうですよ!私たちをエニシと会わせるために付き合ってくれたんじゃないんですか!?」

レツの言葉に加えて奈美子も質問する。そんな中で時雨はポカンとしていた。

だが、タスクは言葉を続けた。

 

「勝ち負け以前に『礼儀』の問題だ!レツ、さっさと車に乗れ!どれだけ怠けていたか、見定めてやる…」

「う、うぐ…わかったよ」

圧を強めて言葉を放ったタスクに対し、レツは「わかった」としか言い返すことができなかった。

そしてタスクが、時雨たちを取り囲んでいた集団に対し再び言葉を放つ。

 

「元『東京マッドブリッツ』のメンバーは、私がレツと走る間、時雨の相手をしろ!」

「「「は、はい!!!」」」

「―――!」

タスクの号令に対し、取り囲んでいたメンバーたちが声を上げる。

その号令の言葉ではっとした時雨の表情は、すぐに戦闘モードへと変わった。

タスクに連れられ、レツは愛車のほうへと向かう。

そして取り囲んだ集団の真ん中に、奈美子と時雨が残された。

 

「最初は俺だ…バトルしろ!」

「……」

立候補したチームメンバーの男に対し、時雨はこくりと頷いた。

そして奈美子共々静かに集団の間を潜り抜け、自分のマシン…青色のロケバニワンエイティのほうへと向かった。

 

「(…勝てよ、時雨。特訓の成果を見せてみろ!)」

愛車に乗り込み、レツのマシンを誘導する中でタスクは、時雨に期待するかのようにそう強く思った。

 

「(タスクさんがここまで鍛え上げてくれたんだ…そう簡単に負けられない!)」

ワンエイティに乗り込み、そのままエンジンを始動させた時雨も静かに闘志を燃やすのだった。

 

 

 


 

 

 

―――vs元東京マッドブリッツメンバーA

推奨BGM:HEART OF THE LION(from EUROBEAT FLASH vol.18)

 

相手の車は白色の、エアロが改造されたハコスカ(KPGC10)。

コースは迎島PAから佐々木PAまで。

左レーン、ワンエイティ。右レーン、ハコスカ。

2台が並走して本線へと合流していく。

 

「(東京マッドブリッツのメンバーは…本当に様々な車に乗っているみたいだ)」

ワンエイティの中で時雨はふとそう思っていた。

何せ相手のマシンは初代スカイラインGT-R。

走り屋というのは様々なマシンに乗っているのはわかっているが、それでもまさか奈美子のフェアレディZと同じくらい古いマシンに乗っている走り屋がいるとは。

それも、大幹部とかではなくチームメンバーである。

やはりそれほどのチームであるということをわかっている以上、相手のマシンはかなりチューニングがされているのかもしれない。

 

「(でも…どんな相手でも油断しない。タスクさんたちとの特訓で鍛えた以上、速く走るだけだ…!)」

どんな相手でも油断はしない。

それが時雨の考えでもあった。

もしこんなところで黒星をつけてしまったら、それこそエニシには追い付けない。

そしてそうである以上、絶対に手を抜くことは許されない。

そう思いつつも、2台は本線へと合流するのだった。

並走していたハコスカが加速し始めたのを見て、時雨もアクセルを踏み込む。

 

「―――!」

ハコスカにワンテンポ遅れて加速するワンエイティ。2台がストレート区間を立ち上がっていく。

だが、ワンエイティはあっという間にハコスカに追いつき、スタート直後のストレート区間で追い抜いた。

2台はそのままトンネルに入る。

トンネル入り口には第1コーナーの右直角コーナーがあるが、ワンエイティがリードを取った状態で、2台が飛び込んでいく。

 

「(…飛び込む!)」

コーナー直前で右ウインカーを出し、コーナー方向である右車線へと移る。

速度は170キロを出していた。

後方のハコスカとの距離はじりじりと開く中、コーナーへと飛び込んでいく。

 

「(そんなスピードで飛び込むというのか!?)」

相手のドライバーにとっては明らかにオーバースピードだった。

ハコスカのドライバーはブレーキを踏み込むしかなかった。

スペックもそうだが、久々に走るということもあってウォーミングアップも足りない。

ある程度リハビリをすればまだ同じように飛び込めるかもしれないが…

何せいきなりの収集からの、いきなりのバトル。

復調なんてできていない。

先行するワンエイティがブレーキをフラッシュさせたかと思いきや、軽く左を向いたところでぐいっ、と右へと角度を曲げ、後輪から白煙を上げだした。

後輪が白煙を上げる中、ワンエイティはそのままの勢いでドリフトしていく。

速度は明らかに160キロは出ているだろう。

必要最低限の減速で、右端の壁スレスレを狙ったかのようにドリフトで駆け抜ける。

2車線+右端と左端の路肩の0.5ずつをもつ司馬庭園線だが、その右端の路肩まで踏み込み、壁すれすれのクリッピングポイントを狙ったかのような走りだった。

 

「(―――速い!?)」

コーナー直前で130キロまで減速し、サイドブレーキを引いたハコスカのドライバー。

そしてそのままハンドルを右に曲げ、後輪を滑らせる。

オールドカーであるハコスカをドリフトさせる分、技術はあるのだろう。

そしてマシンも、伊達に東京マッドブリッツの元メンバーである分チューニングはされていると思われる。

走行ラインもワンエイティと同じようにクリッピングポイントを射抜いていた。

過別の隙間数十センチまで迫る勢いで、アクセルを踏み込み続けてそのままコーナーを立ち上がっていく。

だが、相手が悪い。

何せ相手は現役の「新星」。

若さも勢いも、そしてそれ以上にテクニックもあるドライバーに差をつけられ始めていた。

 

「(い、一体何キロ出しているんだ…!)」

ハコスカがコーナーを立ち上がったところで、ワンエイティは第2コーナーと第3コーナーの連続高速コーナー地帯へと飛び込んでいた。

左高速コーナー、右高速コーナー。

それを、フェイントモーションの応用である連続ドリフトで…ほぼ減速なしの高速ドリフトで駆け抜ける。

 

「……」

コーナー中間でハンドルを45度程度右に曲げ続け、アクセルを抜いてワンエイティの態勢を一気に変える。

左側をわずかに向いていたワンエイティは、そのまま右方向を向く。

ハンドルを左に軽く曲げなおしてアクセルオン。

第2コーナーから第3コーナーへと駆け抜け、ワンエイティは右向きにドリフトし続ける。

 

「は、離される…!」

第1コーナーを立ち上がったハコスカ。

だが、すでにワンエイティは第3コーナーを立ち上がろうとしていた。

次のコーナーはほとんど減速しなくていいコーナーであるのはわかっているが、それでも元の速度…正確にはマシンスペックに明らかな差があった。

こちらだって140キロは出している。

だが、あのワンエイティは明らかにそれ以上の速度を出している。

ぐいぐいと引き離される中、ハコスカのドライバーは必死にアクセルを踏み続けるのだった。

 

「(古い車だから遅い、とは限らないし、チューニングもされているんだろうけど…やっぱり最初のドライバーということなのかな)」

時雨はトンネル内のストレートを駆け抜けるワンエイティの中で静かにそう思った。

いくら相手が「東京マッドブリッツ」の元メンバーだとはいえ、マシンがあれでは限度というものがある。

こちらのワンエイティもかなりのチューニングが施されているのである。

絶対に負けない、とは断言できないが…それでもやはり、リーダー格のドライバーたちに比べてしまえばやはり程度はそれなりに知れているということなのかもしれない。

そしてそう思った以上、時雨はストレート区間で相手を振り切る…文字通りの大逃げを手段に選ぶのだった。

ストレート区間で左車線へと移り、第4コーナーの左ロングヘアピンへと準備を整える。

トンネル出口に存在するヘアピンコーナーに向け、アクセルオフからブレーキを踏み込む。

速度は180キロ以上は出ていた分、ヘアピンを曲がり切れるように減速するのは絶対だ。

トンネル出口付近で時雨はハンドルを右に90度近く曲げた。

コーナー入口でワンエイティは完全にコーナーと逆向きを向きかけていた。

 

「―――」

ブレーキリリースからハンドルを一気に左へ…それこそ135度以上曲げ、アクセルを踏み込む。

150キロ近くという速度から文字通りのフェイントモーション。

後輪が滑り出してワンエイティがぐるんと左端のコーナーの方向を向いた。

そして曲がっていく中でハンドルを左から右へと切り返し、ワンエイティがドリフトし続けるようにカウンターを当てながらアクセルを踏み続ける。

速度はコーナー突入時の速度を維持…否、徐々に加速し続けていく。

コーナーの路肩部分と車線部分の上にある境界線上をインベタ状態でドリフトするワンエイティ。

豪快なフェイントモーションから、インベタ状態を維持し続けて、レールの上をグラインドするかのように高速でドリフトし続ける。

 

「(2つも長いストレート区間さえあれば…でも、バトルである以上油断はしない!)」

司馬庭園線はロングコーナーと複合コーナーが両立するコース。

コーナーで食らいつかれるのであれば向こうに分があるかもしれないが、如何せんストレート区間が長すぎる。

最初のロングストレート区間の時点で完全にハコスカを振り切りかけていた。

もう完全にハコスカのヘッドライトはバックミラーに映らない。

それでも何か自分がミスをしてしまったら、食らいつかれてしまうかもしれない。

そう思った時雨は、アクセルを踏み続ける中で意識をハンドルさばきに集中し続ける。

ロングヘアピンの中間を抜け、コーナー出口に見えるロングストレートが見えた時点で徐々にアウトへと膨れるように時雨はハンドルを調整する。

そしてそのままワンエイティはコーナー出口から立ち上がっていく。

 

「―――!」

アクセルオフからハンドルをニュートラルに戻し、第2ロングストレートへ向けてアクセルを再び踏み込む。

勝負が分かっていても、時雨はアクセルを全開で踏み込んだ。

後方のハコスカの距離を完全に振り切るかのように、時雨は踏み続ける。

 

「(くっ…速い…)」

一方、第3コーナーを立ち上がってストレート区間を走るハコスカ。

目の前のヘアピンコーナーを駆け抜けていったワンエイティを必死になって追いかける。

トンネル出口へと駆け抜けるハコスカは、そのまま左車線へ移って左ロングヘアピンへと飛び込んでいく。

 

「(あれだけ速いんだ、そういうマシンに限って曲がらない…!)」

あまりに最高速偏向なマシンは曲がらない。

それがハコスカのドライバーの考えだった。

まあわからなくもないことではある。

ストレートで速い直線番長…もしかしたらあのワンエイティはそうなのかもしれない。

そう思いつつも、ハコスカのドライバーはブレーキを踏み込んでハンドルを左に曲げた。

後輪が滑り出したところでハンドルを右に切り返してカウンターを当てることで、こちらもドリフト状態を維持するようにする。

速度は120キロ台だった。

読者の皆さんならもう追いつけないというのはわかるかもしれないが、それでもハコスカのドライバーは勝負を投げ出すということはしなかった。

何が何でも追いついてみせる。

その根性だけはプロ並みだったのである。

走行レーンである左車線上をドリフトし続けるハコスカは、そのままコーナー中間を抜けて徐々に立ち上がっていく。

アクセルを踏み込むことで、ハコスカも徐々に加速する。

速度は120キロ台から130キロ台まで加速する。

そしてコーナー出口でアクセルを踏み込み、加速していく。

だが、そこにはとんでもない光景が広がっていた。

 

「…いない!?」

第2ストレート区間を見ても、ワンエイティはすでにそこにいなかった。

そう、第2ストレート区間で時雨は完全にハコスカを振り切ることに成功したのだ。

それくらいなまで、あのワンエイティは全力疾走で駆け抜けた。

ワンエイティの速度が190キロ台まで加速したのに対し、ハコスカは頑張っても150キロ近く。

こうなるともう否が応でも結果を受け入れるしかないだろう。

 

「あのワンエイティ…なんて奴だ…」

ハコスカのドライバーは観念するかのようにアクセルを抜くしかなかった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

―――迎島PA。

 

「やったわ、時雨!特訓の成果が出ているわね!」

「うん、そうみたいだね」

迎島PAへと戻ってきたワンエイティの車内で奈美子が時雨の速さを見て褒める中、時雨も微かながら速くなっていることを感じ取っていた。

いくら相手が先鋒とは言え、「東京マッドブリッツ」の元メンバー。

それでも容赦なく振り切れているということを考えると…どうやら自分たちはそれなりに速くなっているのかもしれない。

そう時雨は考えた。

 

「レツさんたちが戻ってくるはずだ。いったん出よう」

「あ、そうね。行きましょうか」

時雨と奈美子は互いにそう言って車を降りてPAの方へと向かう。

そこには、すでに待機していた元「東京マッドブリッツ」のメンバーたちがいた。

そしてちょうどその集団たちのところへ行ったとき、レツとタスクのマシンも戻ってきた。

だが、車を降りたレツの様子が明らかに変であることに奈美子が気が付いた。

 

「あれ…何か、レツさんの表情が暗い?」

「本当だ。どうしたんだろう」

奈美子と時雨が互いに疑問に思う中、タスクはレツに話しかけに行った。

 

「………」

「何だその顔は。まるで納得いかないと言いたげだな。お前らしくもない…ハッキリ言ったらどうだ?」

タスクの言葉に対し、レツは重い口を動かした。

 

「おい、タスク…首都高ってこんな道だったか?」

「え?」

「ええっ?『東京マッドブリッツ』のナンバー2がなんでそんな質問を?」

するとレツは時雨をにらんでこう言い放った。

 

「うるせーな!忙しくて首都高なんかロクに走れてねぇんだよ!地方では乗り回して練習してたが…首都高で乗るのは8年ぶりだ、クソッ!!」

時雨と奈美子が疑問を口にしたところで、レツは反論するかのように、そしてどこか開き直るかのようにそう言葉を荒らげた。

そう、レツは人気俳優として多忙な日々を送る男。

いかんせん地方や海外での撮影が多かったが故、首都高を走りこむことが全くもってできなかったのである。

そしてそれを見透かしたかのように、タスクはこう呟いた。

 

「フフフッ、相変わらず無茶苦茶だ。そんな腕で、よくあんなタンカを切れたものだ」

「……」

タスクの言葉に対して歯ぎしりをするレツ。

だが、タスクは同時にこう言葉を続けた。

 

「まあいい。走り続けていれば昔のカンも戻ってくるだろう。さあ、続きだ。レツ、行くぞ」

「お、おう…」

「ち、ちょっと待ってくださいタスクさん!」

タスクの行動が目についた奈美子が、間髪を入れる。

 

「どうした?」

「レツさんは、私たちがエニシに会うのを妨害しに来たんですよ!何を言ってるんですか…!?」

動揺する奈美子。

だが、レツはその姿に呆れたかのようにこういった。

 

「随分と甘い考えだな、ナビの姉ちゃん。高々妨害された程度で止まるような車なら、バトルなんかやめちまえ」

どうやらレツにとっては奈美子の行動は目に余るものがあったようだ。

すると、言い返すかのように奈美子が反論する。

 

「ナビの姉ちゃんじゃないです!私にはちゃんと『相楽奈美子』って名前があるんだから!」

ナビの姉ちゃんと言われたことに関しては奈美子は不満だった。

だが、レツは聞き流すかのようにこう口にした。

 

「ああはい、ナミちゃんね。ベストコンディションに仕上げてみせる…それまで元『東京マッドブリッツ』の面々がお前たちの相手をするぜ。ドライバーの女も逃げんなよ?」

レツは時雨に対して目線を向けてそう言った。

 

「…わかりました。相手します」

「まあ頑張るこった」

時雨の言葉に対してそう言ったところで、レツはタスクとともに再び車に乗り込んだ。

2台が出発すると、再び「東京マッドブリッツ」のメンバーたちと奈美子、時雨がPAに残された。

その数は20人程度だろう。

 

「エニシとのバトル前に、こんな大勢と…夜も浅い時間でよかったわ。レツさんに負けないためにも、頑張るしかないわね!」

どこか覚悟を決めたかのように奈美子が時雨に言った。

 

「―――そうだね。今は、この人たちを倒していこう」

奈美子の言葉に対し、時雨も覚悟を決めたかのようにそう言うのだった。

だがその口調は、「沢山のドライバーと戦える」ということに喜んでいるかのようだった。

 

 

 


 

 

 

―――最初のバトルから数戦後、佐々木PA。

 

「バトルは順調ね!私も時雨も、確実にレベルアップできてる!」

そうひとり呟いた時だった。

 

「何がレベルアップだ、奈美子!時雨へ路面状況の支持を忘れてただろう!?ほんの少しの違いが勝負を左右するんだ!!」

どこから現れたのか、怒りの感情を露にしたタスクが時雨たちへ説教しにやってきた。

 

「た、タスクさん!?」

「びっくりした…」

動揺する2人に対し、タスクは説教を続ける。

奈美子に対して怒りをあらわにしたかと思いきや、矛先は時雨の方へと向いた。

 

「時雨、まだドリフトするタイミングを迷っているな!?」

「そ、それは…はい」

「集中しろ!多少なりとも走りなれた首都高でまだ迷うとは何事だ!!」

「す、すいません…」

その威圧的な態度に対し、時雨は「すいません」としか言うことはできなかった。

女子供相手にも容赦しないその様子はまさにスパルタといっても過言ではないだろう。

 

「レツさんにつきっきりかと思ったら、ちゃんと見てたのね…そ、そんなに怒らなくても…」

そう奈美子がつぶやいた時だった。

 

「おいタスク、落ち着けよ。いくら出来が悪いって言っても、相手はよく見たらなかなかのカワイ子ちゃんなんだぜ?走りが不満だからって、そこまで怒鳴る必要は…」

怒りに満ちたタスクに対し、呆れ気味に言ったのは…レツだった。

さすがに女相手に怒る様子に関して、レツにとっても目に余るものがあった。

 

「何が『カワイ子ちゃん』だ!それよりもレツ、お前も昔取った杵柄が今でも通用すると思うな!!『バトルでしか成長できない』などと妄言を吐いたところで勝つことはできんぞ!!」

タスクの怒りの矛先は遂にレツにも向いた。

一触即発と言わざるを得ない状況の中、レツもどこかカチンと来たかのように口を動かす。

 

「言わせておけばこの野郎…!!そこまで言うなら昔取った杵柄が通用するかどうか、俺の仲間が証明してやるよ!この2人を箱根に送り返してやるぜ!…よし、お前だ!行ってこい!!」

そう言ってレツが指をさしたのは元「東京マッドブリッツ」のメンバーの1人だった。

あまりに突然の指名に対し、男は自信を指さして「オレ?」と呟いた。

だがその様子は、レツにとっては苛立たせる要因になりかねなかった。

 

「そこは『うっすオレが行きます!』だろ!これだからこの国のヤツらはアドリブに弱いって言われちまうんだよ!!早く行け!!」

「は、はい!!」

そそくさと車に向かう男を追いかけるように時雨と奈美子も再びワンエイティの方へ向かい、そのままワンエイティに乗り込んだ。

 

「まったく、打ち合わせなしに突然話を振られたら誰だってびっくりするわよ…」

「まあ、そうだよね。でも…バトルは油断せずに行くよ」

「ええ…頑張って、時雨!」

そう互いに言ったところで時雨はイグニッションキーを入れ、ワンエイティを始動させるのだった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

―――vsレツのマネージャー

推奨BGM:PIONEER OF LOVE(from SUPER EUROBEAT vol.89)

 

相手の車は銀色のUCF10セルシオ、コースは佐々木PAから迎島PAまで。

左レーン、セルシオ。右レーン、ワンエイティ。

2台が本線に合流し、セルシオが先行して加速していく。

目の前には第1コーナーである右高速コーナーが迫る。

 

「―――!」

ブレーキをフラッシュさせ、そのままの勢いで第1コーナーに飛び込んだセルシオは車線を変えずにドリフトしていく。

第1コーナー直前でテールトゥノーズの状態となった。

第1コーナーの右高速コーナーでセルシオが白煙を上げてドリフトする。

速度は120キロ台だった。

後方で追いかけるワンエイティも緩やかにドリフトしていくが、徐々に差がついていく。

 

「―――」

一方の時雨は、どこか心理的に余裕を持っていた。

相手の車はワンエイティよりも素の戦闘力は高い。

だが、こちらだってチューニングしてある。

東京マッドブリッツのメンバーだか何だか知らないが、自分はとにかく勝ちにいくまでである。

そう時雨は考えていた。

コーナー出口直前でハンドルをニュートラルに戻し、再びアクセルをゆっくりと踏み込む。

速度は120キロ台から130キロ台までゆっくりと加速する。

先行するセルシオに対し、一定の距離を維持しながら追いかけるワンエイティ。

相手のドライバーたちは確かに速いが、それぞれのドライバーたちには必ず弱点があるはずである…

ここは相手に分析される覚悟の上で、相手の技量を確かめてみたい。

そう時雨は思いつつ、ワンエイティのアクセルを踏みながらハンドルを左にわずかに曲げてカウンターを当て続ける。

 

「(攻め込んでこない分不気味だな…)」

一方のセルシオのドライバーは、時雨が攻め込んでこないことを不気味がっていた。

抜こうと思えば抜けるはずだが、何故攻め込まない?

だがそう思っている暇もない。

第2コーナーへとセルシオは迫っていく。

コーナー直前でブレーキを思いっきり踏み込み、サイドブレーキを引いてから思いっきりハンドルを左に曲げる。

後輪が滑り出したセルシオのドリフトを維持するべく、ハンドルを右に曲げてカウンターを当て続ける。

セルシオは長いヘアピンコーナーをレーン場を駆け抜けるかのようにドリフトしていく。

 

「(次のロングヘアピンコーナーで…)」

一方の時雨。

第2コーナーに飛び込む直前、時雨はウィンカーを出して右レーンから左レーンへと移った。

前方を走るセルシオを追跡するチェイサースタイルである。

前方のセルシオとの車間距離は車1台歩かないかくらいだ折る。。

 

「―――!」

アクセルオフ、ブレーキをかけてハンドルを軽く右に曲げたかと思いきや…とっさにハンドルを135度以上左に曲げ、タイヤを滑らせる。

速度は130キロ台だった。

お得意のフェイントモーションで前方のセルシオを追跡する。

派手なドリフトではあるが、それでもインコース目いっぱいに攻め込み…左端の壁スレスレをインベタ状態で駆け抜けていく。

そしてその状態のまま、セルシオへと徐々に迫っていく。

 

「…!?」

一方のセルシオのドライバー。

彼も負けじとアクセルを踏み込み、後方の追撃をかわさんとする。

ドリフトし続けるセルシオだが、後方を攻め込むワンエイティは、インコース目いっぱいに攻め込み、セルシオよりも明らかに速い速度だった。

そして次の瞬間には、セルシオのインにつけていた。

一言でいえば、パラレルドリフト状態。

セルシオの左サイドとワンエイティの右サイドの隙間は数十センチ程度しかない、まさに攻めまくった状態だった。

 

「(なんというドリフトだ…!)」

2台がドリフトし続ける中、ワンエイティはインコースを取っていた。

一歩踏み込めばすぐにセルシオを追い抜いてしまうだろうが、あえてワンエイティはそれをしていない。

強引な追い抜きはしないということだろうか。

一方のセルシオは何とか車線上でドリフトし続けており、ノーズの部分だけリードを取っていた。

 

「っ…!」

動揺はしているが、我を通しているセルシオのドライバー。

向こうが動揺を誘っているというのは、ドリフトしている最中に気が付いてはいた。

ミスを誘っているのだろう。だがそれがわかっている以上絶対に譲らない。

そう思っているうちに、ワンエイティは左サイドから後方へとポジションを変えた。

一方で車線上を駆け抜けたセルシオは第2コーナーを突破して立ち上がっていく。

そしてワンエイティもそれを追いかけるように、テールトゥノーズに張り付いていた。

 

「(伊達に、『トップクラスのチーム』のメンバーなだけはある。揺さぶるためにインコースギリギリまで攻め込んでも、動揺していない)」

ミズキの時と同じように、インコース目いっぱいまで攻め込んで相手のマシンとの隙間をセンチ単位まで接近させる。

これは時雨にとっては、相手の動揺を誘うためのやり方だった。

そしてその結果、相手の車は動揺を誘っても引っかからない。

相手は自分のペースを維持できている…揺さぶりは難しいだろう。

 

「―――」

そのままの勢いで第3コーナーの左高速コーナー。

セルシオがブレーキングから後輪を滑らせるのに合わせて、時雨もブレーキを一瞬だけ踏み込んでタイヤを左に曲げる。

テールスライドからわずかに後輪を滑らせるワンエイティ。

揺さぶりが通用しない以上、あえてインコースに攻めすぎる必要はないと考えた時雨はセルシオの後方で高速ながらも、インコースに攻め込むことなく車線上をドリフトし続けるように工夫していた。

だが一方で、ワンエイティを操縦する最中に時雨はあることにも気が付いていた。

 

「(揺さぶりには強いけど、僕よりは…攻め込めてない?)」

時雨にとっては自分よりも明らかに遅いようにしか思えなかった。

正確には、安全マージンを明らかにとっている。

攻め込もうと思えばもっと攻め込めるはずなのに、攻め込めない。

それもあの「東京マッドブリッツ」のメンバーだというのに、何故?

相手のドライバーはそれなりに実力があるはずなのに?

すると、時雨はレツが言っていたことを思い出した。

レツは、「首都高は8年ぶりだ」と言っていた。

もしそれが、今さっきいたメンバーたちにも通用するというのであれば?

そう思った以上、時雨が考えた原因はたった1つだった。

 

「(やっぱり、10年ぶりだからか勘が鈍っているのかな)」

東京マッドブリッツは10年前に解散した。

もしそれでここにいる走り屋たちが皆引退し、今日自分と戦うために収集されたというならば…

兵隊としては退役軍人を一線に呼ぶようなものだ。

それじゃあ、現役のドライバーには敵うことはないのかもしれない。

何せここ数週間ずっと首都高ばかりを走っていた若者と、10年前首都高を全開で攻め込んでいた…いわば「嘗ての」一線のドライバー。

そうである以上、自分の身体能力も実力にも差があっても何も間違えはなかった。

経験こそ相手のドライバーの方が上なのかもしれないが…それだけでどうにかなる問題なんかではないのである。

そして仮に自分が今後エニシたちと戦うことが分かっているというなら…

そう思ったところで、ワンエイティは第3コーナーを立ち上がりセルシオとテールトゥノーズの状態を維持し続けていた。

 

「(ちょっと失望したよ…その程度というなら、ダラダラと走るよりかは…すぐに追い抜いてしまった方がいいんだろうね)」

時雨にとっては、対戦相手の実力にどこか幻滅していた。

相手の実力の底が知れた以上、変に長引かせてはマシンコンディションを下げてしまうだろう。

たくさんのドライバーとバトルする以上長期戦は後々響いてくるはずだ。

そうならないためにも、今は瞬間的に攻めて逃げてしまおう…そう時雨は認識した。

そしてそう認識した後、両手両足に力がこもっていく。

前方のセルシオは第4コーナー…右高速コーナーに向けて車線を右に変えた。

セルシオはブレーキをフラッシュさせ、後輪を滑らせている。

 

「(前方が開けた…?)」

セルシオのドライバーの方はアウトコースから攻め込んでは来ないと思ったのだろう。

だがそれはひっくり返せば、時雨にとってまたとないチャンス。

前方がガラ空きである以上、やることはただ一つ。

速度計が150キロを示した瞬間である。

 

「(ならば、攻め込む!)」

アクセルオフからハンドルを軽く右に曲げ、そのままの勢いで慣性に任せて後輪をテールスライド。

ワンエイティは前方のセルシオを追い抜かんとする勢いのままコーナーに飛び込み、そのまま浅い角度のままドリフトしていく。

アウトコースでありながらも、セルシオよりも素早い速度でドリフトするワンエイティはあっという間にセルシオを追い抜いてしまった。

 

「なっ…!?」

セルシオのドライバーにとってはアウトコースから追い抜かされるとは思っていなかった。

追い抜かされるとしても、もっと勝負ポイントは先であると思っていたのである。

相手の車がスペックがあっても、こう易々と追い抜かされるとは。

完全に油断していた。

 

「(前方のストレート区間…ここで振り切る!)」

第4コーナーを立ち上がり、アクセルを全開にして加速するワンエイティ。

速度はあっという間に200キロ近くまで到達する。

流れる景色の中で、ワンエイティはその闇夜を割く流星のごとく駆け抜けていく。

後方のセルシオはストレート区間で完全に置き去りだった。

 

「(は、速すぎる…!?)」

セルシオのドライバーにとっては相手の車が自分よりも格下とはいえ、まさかこうもあっさりと振り切られるとは。

第4コーナーを立ち上がったセルシオだが、アクセルを踏み込んでも速度は180キロ近くまでしか加速していなかった。

いくらチューニングされているとはいえ、相手のマシンの性能は桁違いといってもいいだろう。

いくらエアロがかなり武装されていたとはいえ、ワンエイティというマシンに油断してしまったのかもしれない。

もっと前方を取っておくべきだった…そう後悔しても遅い。

先行するワンエイティは、ブレーキをフラッシュさせたかと思いきや豪快なフェイントモーションで第5コーナーである左ヘアピンをドリフトして立ち上がっていく。

ワンエイティは自分の視界から完全に消えた。

 

「(む、無理だ…あそこまで、俺はもう攻め込めない…)」

第5コーナー直前でフルブレーキングからドリフトするセルシオだったが、この時点でもうワンエイティとは同じ走りができないことに気が付いていた。

そしてそう思ってしまった以上…ドライバーはあっさりと勝負を降りるのだった。

ワンエイティはそのまま第2ストレートでもアクセル全開で踏み続け、完全にセルシオを振り切ることに成功した。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

―――佐々木PA。

 

「うん…いい感じよ!時雨、タイミングよくドリフト出来てる!」

「そうかな…まあ、奈美子がそう言ってくれるなら嬉しいよ」

佐々木PAの駐車スペースに止まったワンエイティの車内で、奈美子と時雨はそう互いに口を動かした。

すると、奈美子にある疑問が浮かんだ。

 

「そういえば、タスクさんたちはどうなんだろう?どんな感じで教えているのか、ちょっと気になるわね」

奈美子にとってはレツとタスクがどうなっているのかが気になった。

そしてそれは時雨も同じだった。

 

「偵察しに行くのはどうかな?きっと戻ってきていると思うよ」

「そうね…行ってみましょう!」

そう言って時雨と奈美子はワンエイティから降り、PAの共有スペースへと向かう。

そしてそこにいたのは…やはり、タスクとレツだった。

どうやらバトルが済んだようだ。

 

「へっ、見たかよタスク!次のドライブではアレをアレして、ドリフト中にアレするから見てろ!そして絶対に勝つ!!」

レツの言葉をタスクは冷静に受け流すかのように口を開いた。

 

「相変わらず負けず嫌いだな…繰り返し立ち上がるのも変わっていない。しかし過去、お前の成長のために何度私がダシにされたことか…」

「(レツさん、『アレ』ばっかりで何言ってるかわからなかった…)」

「(…戻ろうか。参考になるかどうかも分からないよ)」

「(そ、そうね…)」

遠目でレツの話を聞いていた奈美子と時雨だったが、そそくさとワンエイティの方へと戻っていった。

そしてそれを見たかのように、タスクが再び口を開く。

 

「まあいい、練習の再開だ。車に乗れ…徐々にスピードに慣らしていくんだ」

「……」

だが、タスクの言葉に対しレツはどこか呆れ気味だった。

 

「…何を呆けている?」

「違ぇよ。お前の狙いが分からねえんだよ。『新星』を潰そうとやってきたオレを鍛えてどうすんだ?お前は、『新星』の味方じゃねえのかよ?」

だが、レツの言葉に対しタスクはさらに受け流すようにこう言った。

 

「私は誰の味方でもない。速くなろうとしているヤツを、私は支えてやりたいだけだ。エニシを超えられないかもしれない、誰かをな」

タスクの言葉に対し、「そうだよこういう奴だった」という顔をしたレツは、こういい返す。

 

「…質問したオレがバカだったよ。アレだ、悪りぃところの指摘を頼む。昔みたいに頼むぜ、タスク」

そう言って再びレツとタスクはバトルへと望むのだった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

―――次々とバトルに勝利する中で、元「東京マッドブリッツ」のメンバーたちは久々のバトルを楽しんでいた。

どうやら首都高でのバトルは何年も前に引退しているらしい。昔話に花を咲かせるドライバーたちの誰もが笑顔だった。

一方、時雨と奈美子の元へは、差し入れもかねてジュリアがやってきていた。

奈美子は思った事をジュリアに話すのだった。

 

「…なるほどな、タスクが何考えてんのかは知らネェが、アイツの事だからきっと考えがあるんじゃねぇのか?」

奈美子にとっては、タスクがレツを鍛えることがあまりにも違和感しかなかった。

なぜ、自分たちではなくレツなのか?

そう思った奈美子は、ジュリアに相談していた。

 

「私達に力がないから?だから、タスクさんはレツさんに回ったのかも…エニシとレツさんを戦わせるために…でも、明らかに時雨のワンエイティは速いし……」

「奈美子…」

思い悩む奈美子に対し、時雨も静かに声をかけた。

だがその様子を見て、ジュリアはこう言いだした。

 

「…何言ってるのかはわからねえけど、タスクを信じても大丈夫だと思うぜ。ほれ、レンコンチップス明太味!これ食ってバトルでも行ってきな?」

そう言ってジュリアはフリーザーパックに入ったレンコンチップスを差し出すのだった。

奈美子はそれを受け取った。

 

「ありがとう、ジュリアさん!時雨、行こう!タスクさんとレツさんが待ってるし…」

「…そうだね、行こう。エニシを追いかけるためにも、勝ちにいかないとね」

奈美子の言葉に頷いた時雨は、再びバトルへと臨むのだった。

 

―――同じ頃。

 

「どうよ、タスク!練習とはいえなかなかだろ?8年ぶりの首都高復帰で、ここまで速くなれんのはオレくらいだ!褒めてくれたって全然いいぜ!『新星』だか『箱根の時雨』だか何だか知らないが、今の首都高の程度が知れるぜ…!」

レツはタスクとのバトルの間に実力を取り戻しつつあった。

そしてタスクも実力を認めるかのようにこういった。

 

「…まぁ及第点だ。あと2回もやれば現役時代に匹敵する技術が戻るだろう。そうすれば時雨に勝てる…では、最終調整と行こう」

するとその言葉に、レツは再び疑問を口にした。

 

「タスク、オレとしてはありがてえんだけど、あっちはいいのかよ?」

「…今の間行けばきっと『箱根の時雨』はエニシに相手にされないだろう…少なくとも、レツに勝てなければな」

「……」

「私は私の持つ知識を最大限に使い、マシンの性能の引き出し方を教えた。だが、私にでも教えられないものはある。それはお前やエニシが持っているものだ」

タスクの抽象的な話に対し、レツは呆れ気味にこういった。

 

「お前の言ってることは毎度のごとくながらサッパリだ。でも最後は『生き残りたかったら速くなれ』…そんだけの話だろ?」

「……そこについてはイエスともノーとも言えない。さあ、最終調整に行くぞ」

「お、おう…」

そう言ってレツとタスクは再びそれぞれの車に乗り込んだ。

フーガに乗り込んだタスクは静かにこう思うのだった。

 

「(レツ、お前は何もわかっていない。生き残るために速くなる、それを実践することがどんなに難しいことか…)」

レツに対してどこか呆れ気味にそう思ったタスク。だが同時にこんなことも思っていた。

 

「(…ここで負けるようじゃ、エニシに会う資格などない…這い上がってみせろ、時雨!)」

それはどこか期待にも近いものであった。

 

 

 


 

 

 

―――そこからさらに数戦後、迎島PA。

推奨BGM

 

この時点で、先ほどレツが引き連れていた「元東京マッドブリッツ」のメンバーたちは皆時雨に敗れていた。

さすがにこの状況に対し、タスクも驚きを隠せなかった。

 

「元『東京マッドブリッツ』のメンバーたちがここまで相手にされないとは…予想以上だ。そう思わないか、レツ」

タスクの言葉に対し、レツも動揺していた。

 

「この光景は…見たことがあるぞ。あの迷いのない『新星』の走り方…まるで昔のエニシじゃねえか…」

「そうだな、まるでエニシのようだ。あいつが『ライジング・サン』に乗る前の…純粋にスピードを追い求めていた、あの頃のエニシに似ている…」

レツの言葉に、タスクも同意するかのようにそう言った。

すると次の瞬間、レツははっと何かに気が付くかのようにタスクに詰め寄った。

 

「……タスク、お前…まさか……!こいつらを…第2の……!?」

「黙っていろ、レツ。あいつらが来るぞ」

その顔は明らかに憔悴していた。

これは是が非でも止めなくてはいけない…そうレツは認識していた。

そしてそう認識したところで、時雨と奈美子がタスクたちの元へとやってきた。

 

「タスクさん、レツさん。僕たち…先ほどまでいた人たちはみんな倒しました」

時雨の顔つきははっきりとしていた。

その瞳は純粋であり、そして迷いがない。

そうタスクには見えた。

そしてそう見えたからには、タスクも実力を認めるかのようにこう呟いた。

 

「いい仕上がりだ時雨、奈美子。レツもバトルの準備はできて…むぐぐ!?」

だが、次の瞬間だった。突然タスクの言葉をレツが強引に遮ったのである。

力で強引にタスクを押さえつけ、発言させないように口を当てている。

 

「れ、レツさん!?」

「何を…!?」

奈美子と時雨がその光景に動揺する中、レツが口を動かす。

 

「おい、時雨、奈美子!エニシなら今、都心から佐々木PAへと向かっているそうだ!!バトルのことはいいから、早く行け!!」

「えっ…!?」

「レツさん、どうしたんですか?私たちをエニシに会わせないためにバトルを仕掛けたんじゃ…」

時雨と奈美子が互いに反応する中、レツが言葉を続ける。

 

「最初こそそうだった…だが、タスクはとんでもねぇこと考えてやがったんだ!!」

「とんでもないこと…?」

「それって?」

「お前らを第2のエニシにするつもりだ!さっさと行け!!潔くバトルして…負けてこい!!」

「第2の、エニシ…?」

「タスクさん、レツさん、どういうことなんですか?それに、負けてこいって…!?」

時雨と奈美子が動揺しながら反応する中、レツが釈明するかのようにさらに口を動かす。

 

「エニシのようになるぐらいなら、アレだ…負けた方がマシなんだ!負けても走り続けられるが、勝ったらバトルできなくなるぞ!!」

「そ、そんな…!勝ったら、バトルできなくなるって…!?」

「首都高の頂点に立ち、新たな『ライジング・サン』となったその日に、エニシはバトルをやめると言った。バトルへの情熱を失ったんだ!!」

「そんなことが…!?」

「でもそれって、燃え尽きたってことですよね?だったらそこまで…」

時雨の言葉に対し、レツは言葉厳しめにこう言った。

 

「そんな生ぬるい言葉で済んだのならどれだけよかったことか…『ライジング・サン』には何かある!信じろっていう方が無理かもしれねぇ。だがお前たちのようなヤツを潰す道理も、こっちにはねぇんだよ!!」

「で、でも…」

レツと奈美子がそう会話する中で、黙り込んでいた時雨が遂に口を動かす。

 

「―――レツさん、バトルしましょう」

「時雨!」

口を動かした時雨に対し、レツはさらに動揺する。

 

「おい、時雨!!人の話を聞いてんのか!若いお前には未来への希望も可能性もある!!それを無駄にするな!!ナミちゃん、お前も止めろ!!」

だが、レツの言葉を聞いた奈美子は腹をくくったかのようにこう口にした。

 

「ある人が言っていました…車に魅入られた馬鹿野郎は歩くことは許されない、走り続けろって」

「僕たちは…その『馬鹿野郎』なんです!そうである以上、止められません!!」

決意を示すかのように、奈美子と時雨がそう強く言った。

そこまで言われてしまうと、レツとしてはもはや認めざるを得ないようだ。

 

「~~~っ!!チックショウめ!!この大馬鹿野郎どもが!オレが止めてやる…全力で止める!とっとと準備しやがれ!!」

「奈美子!」

「うん!」

レツの言葉を聞いた時雨が奈美子を呼び止め、愛車であるワンエイティへと向かっていく。

そしてそれに応じて、タスクを離したレツも愛車の元へと向かっていった。

 

「―――全く、相変わらず早とちりな奴だな。やれやれ」

PAに残されたタスクもそう呟き、2台を追いかけるかのようにフーガへと乗り込みに行くのだった。

 

本線へと向かっていくレツのマシン…RX-8とワンエイティ。

そしてそれを追走するようにタスクのフーガも動き出す。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

―――vs人気俳優のレツ

推奨BGM:FAST CARS IN MY DREAMS(from The Speed&The Furious)

 

相手の車はエアロがカスタムされた赤いRX-8。コースは迎島PAから佐々木PAに向けてである。

左レーン、ワンエイティ。右レーン、RX-8。

 

「(タスクとのバトルでマシンもオレも少しは疲労がある…だが、それはアイツも同じなはずだ)」

本線に合流するまでの車内において、レツはどこか高をくくるかのようにそう思っていた。

自分はタスクとの特訓で速さを取り戻したと思っている。

だがそれでもそれが自分やマシンにとっては疲労やコンディション低下に繋がるのではないかとも思っていた。

とはいえそれはあのワンエイティのドライバーだって、あのワンエイティだってそうだ。

だったらもう正真正銘の実力勝負。

エニシの二の舞を防ぐためには何が何でも勝ちにいかなくてはいけない。

そう思うしかなかった。

 

「―――」

一方の時雨。

ジュリアから言われたことを思い出すかのように口の中がひりついていた。

そのひりつきがいい具合に、ジュリアから言われた言葉を思い出す。

 

『いいから聞け!反省すべきところが多いのもわかるし、追い詰められてんのもわかる。でもな、出来ることなんか限られてんだ!あんたらの手伝いをロクにできなかったけど、檄を飛ばすことはできる。応援してるぜ…負けるなよ、『新星』!!』

ジュリアから強引に押し込まれた特性辛子味のレンコンチップスの味が口の中にまだヒリヒリと残っている中、時雨はジュリアからそう言われたことを思い出していた。

そう言われる直前、奈美子はどこか弱気になっていたのに対してジュリアはそう言った。

ナビゲーションの課題を奈美子は自覚していたがゆえに、勝利しても歯がゆい思いをしていたのである。

同時に時雨も「まだまだ課題は山積みである」ということに関してもよく理解していた。

そしてそれらの悩みに対し、「2人も口開けろ、思いっきりだ!」と言われ、ジュリアから「特性辛子味レンコンチップス」の束が放り込まれてしまったのである。

あまりの辛さに水を飲むしかなかったし、その辛さが今でも口の中に残っていた。

一方で同時にそれが、自分にとっては大きな激励になっていたのもまた事実である。

 

「(今後僕が、プロの世界でも活躍できるようになるために…)」

今後プロの世界へ進む以上課題というのは出てくる。

だがそれでもそれらに対して解決策がないわけではない。

そしてその解決策も必ず限られている。

だからこそ、暗中模索でも必死にもがいて、そして同時に全力で走り抜ける。

それこそが、今の自分にできることだ。

そう時雨は強く認識した。

 

「(ジュリアさん…ありがとう。僕は、新星として…壁を乗り越える!誰が相手でも、僕は勝ちに行くんだ…!)」

ジュリアの言葉に対し、時雨は静かにそう感謝した。

ここまで来た以上、誰にも負けない。

自分の実力を披露する時。

絶対に勝って見せる…そう思いつつ、前方に意識を集中させた。

 

「っ…!」

「―――」

RX-8とワンエイティが並走状態で本線へと合流し、RX-8がワンテンポ進んで加速していく。

だが、ワンエイティもゆっくりと加速しつつ追いかける。

一瞬先行したRX-8だが、ワンエイティはそれに食らいつく。

ターボ化されたRX-8とはいえ、それでもワンエイティのスペックはそれを凌駕していた。

 

「(モタモタすることは出来ない。畳み掛ける!)」

スタート直後からアクセルを全開に踏み込む時雨。

これからのバトルが待ち構えているとはいえ、大トリ相手故に遠慮することは一切ない。

スタート直後のアタックであっという間にRX-8をオーバーテイクした。

 

「(一気に逃げる気か!?)」

レツにとってはあくまで計算内。

序盤から大逃げで仕掛けてくるであろうドライバーなんてものはたくさんいる。

そしてそうである以上、追撃のスタイルに変えるまで…そう思った。

トンネルに入り、第1コーナーの右直角コーナーにワンエイティが飛び込んでいく。

そして同時にウインカーを出して右車線に移るワンエイティ。

そのまま第1コーナー直前でブレーキをかけ、ハンドルを一気に右に曲げる。

速度は150キロ台は出ていた。

するとコーナーに飛び込んだ次の瞬間だった。

 

「―――!」

両手から全身へと伝播する、「炎に包まれる感覚」。

下手したら車から振り落とされてしまう可能性のあるあの感覚が、時雨に戻っていた。

青い炎がワンエイティを包み込み、白煙を上げつつも高速でコーナーをドリフトしていく。

そしてそんなドリフトの最中も、ワンエイティは後方のRX-8を振り切りにかかっていた。

 

「(速い…!?いや、なんだありゃあ!?)」

RX-8を操縦するレツにも、ワンエイティが青い炎に包まれるのを目撃していた。

正確に言えば青い炎というよりは青いオーラというべきか。

そしてそんな炎に包まれたワンエイティは、自分よりも速く走っているようにレツは感づいた。

 

「(向こうのコーナーリングが…速い…!!)」

青い炎に包まれたワンエイティが、明らかに自分よりも速い。

フルブレーキングからハンドルを曲げて後輪をテールスライドさせるが、自分のRX-8よりもワンエイティは速くコーナーを駆け抜けていた。

そして同時に、カウンターを当てながら第1コーナーを立ち上がる瞬間にレツはあることにも気が付いた。

 

「(まさか…)」

自分が遅いのには複数の原因があるのは間違えない。

相手が速いのはもちろんだが、自分にも何かがある。

首都高は何度も走っていて、カンも戻っている。

だから、攻め方自体はある程度はわかる。

それでも、あのワンエイティはみるみるRX-8を引き離している。

何故、追いつけない?

そう思う中、レツは連続高速コーナーである第2、第3コーナーをドリフトしていくワンエイティを追いかける。

ドリフトの角度をかなり抑えつつも連続ドリフトでコーナーを駆け抜けるワンエイティは、文字通りの高速移動を実現できている。

もし相手にあんな走りができるなら、自分でもできるのではないか?

レツはそう思った。

ブレーキをフラッシュさせ、軽くハンドルを左に曲げたレツ。

だが、次の瞬間だった。

 

「(くっ…やっぱり少しずつタイヤが…!)」

RX-8はタイヤのピークを過ぎていたのか、高速コーナーでもアンダーステアを発生させて外側に膨れてしまった。

連続高速コーナーである第2、第3コーナーを駆け抜ける2台。

だが、そのコーナーリングには大きな差があった。

タイヤのグリップが残っているワンエイティに対し、タイヤのピークが完全に過ぎてしまったRX-8。

グリップが残っているワンエイティはさらにペースを高めている。

一方、レツのRX-8はタイヤが悲鳴を上げていた。

その最大の理由は、やはりタスクとの特訓で全力疾走し続けたことだろう。

だが同時に、ある考えもあった。

 

「(だが、このRX-8は首都高セッティングだ…!少しでもストレートさえありゃあ、あんなワンエイティすぐに追い抜けるんだよ!!)」

最高速まで一気に立ち上がることのできるようセッティングされているRX-8。

少しでもストレート区間があれば追いつけるであろう…そうレツは高をくくった。

ニトロを使えば…追いつけるに違いない。

そしてそのまま第3コーナーを右レーンギリギリ…つまり左レーンに膨れかけた時だった。

 

「(このっ…!!)」

ハンドルに取り付けられたニトロスイッチを左手で押し、RX-8を強引に加速させるレツ。

タイヤが多少空転しつつもRX-8は一気に180キロ近くまで加速する。

トンネル区間内の長いロングストレート。

キセノンライトが光る中、RX-8は右レーンから左レーンへ。

そのまま前方を走るワンエイティに肉薄すると思われた。

だが、次の瞬間だった。

 

「……!?」

トンネル出口付近で、レツは追いつけないことを直感した。

ワンエイティは第4コーナーの左ロングヘアピンコーナーを、青い炎に包まれながら…ブレーキをフラッシュしただけで、一瞬右を向いたかと思いきやそのまま左へ角度を付けてドリフトしていったのである。

そう、レツの視界から完全に消えようとしていたのだ。

それくらいまで、あのワンエイティは速すぎた。

 

「(ニトロを使っても届かない?嘘だろ…!?何でオレと同じくらいバトってるはずなのに、あんなにも余裕なんだよ!!)」

ストレート区間での伸びは明らかにワンエイティの方が上だった。

相手は間違えなく200キロ以上は出ているだろう。

こちらだって立ち上がりで多少ミスったとはいえ170キロ以上は出しているのに、全くもって追いつく気配がない。

向こうの速度は一体何キロ出ていると言うのか?

そしてなぜ追いつけないのか?

疑問渦巻く中で、RX-8も第4コーナーの左ロングヘアピンへと突入する。

 

「(く、くそっ…!)」

ブレーキをかけたかと思いきや強引にサイドブレーキを引き、ハンドルを一気に左に曲げるレツ。

オーバースピードで突っ込むRX-8。速度は150キロ台。

向こうは明らかにそれくらいの速度は出ている。自分にできないわけじゃない…そう思った。

だが、実際は違った。

速度が乗りすぎたのか、RX-8はドリフト中に左レーンから右レーンへとはみ出てしまった。

どんなにカウンターを当てても、アウトコースに膨れてしまい大幅に速度が落ちてしまう。

勢い任せにコーナーに飛び込むというスタンドプレーだったが、完全に失態を演じてしまっている。

それどころか、完全にタイヤが悲鳴を上げていた。

そしてワンエイティに食らいつかんとアクセルを全開に踏み込んだ瞬間だった。

 

「しまっ…!!」

アクセルを踏みすぎてカウンターを当てるタイミングが遅れただけでなく、グリップを失っていたRX-8は左回りに回転を始めた。

グリップアウトしたRX-8は完全に限界を超え、スピンしてしまったのである。

右レーンから左レーンへと回転していくRX-8。

制御不能同然の中、レツはアクセルを抜いてブレーキを踏みながら必死にハンドルを右に曲げ続けた。

一回転したRX-8はなんとかグリップを回復し、進路を佐々木PAへと取った。

スピンしたとはいえ、まだ勝負が終わったわけではない。

 

「(まさかあいつ、マッドブリッツの奴らに対して手を抜いていたのか…!?いや、ありえねえ!!)」

スピンから回復し、アクセルを踏み込んで何とか走らせるレツ。

そんな中で、時雨はマッドブリッツのメンバーたちに手を抜いていたのではないかと思うようになっていた。

自分のマシンがスピンするほどまであのワンエイティは攻め込んでいた。

その異様さはレツにとっても信じられないものだった。

今回のバトルのような速さを実現するためには、タイヤのグリップを維持する必要がある。

それを、自分と同じくらい連戦を重ねたあのワンエイティができたということは…あのワンエイティは、マッドブリッツのメンバーたちに対しても手を抜いていたか、よっぽどの余裕があったかのどちらかなのだろう。

そう結論付けたレツだが、最後の最後まで走りぬくことだけは捨てなかった。

 

「(能ある鷹は爪を隠す、か。してやられたな、レツ。あの勢い任せの走り…私たちも決して若いというわけではないということだな)」

一方、こちらは2台を追いかけていたタスク。

赤いフーガは2台のバトルを見届けていたが、ワンエイティのその異様な速さに関しても感嘆するしかなかった。

あの少女は今までのバトルにおいて。勢い任せながらもマシンコンディションを低下させないような走りを出来ていたということになる。

彼女の走りに関しては課題は数多くあったが、マシンを労わる走り、タイヤマネージメントということに関しては間違えなく自分たちよりも遥かに優れている。

そしてそんな走りが、レツとのバトルにおいて大きな差を生んだ。

レツと時雨はほぼ同じくらいのバトルを特訓で積んだ。

タスクとレツがバトルする中、レツはずっと全開走行だった。

がむしゃらと言うべきか、限界知らずと言うべきか、勢い任せという言葉がぴったりな彼の走り。

だが一方であのワンエイティは、その特訓の中において「全力をあえて出さない」走りでマシンを労わっていたのであろう。

それは意識していたのか、無意識なのかはわからないが。

そしてその結果が、このバトルの様子に出ていた。

 

「(どんなに経験があったとしても、やはり加齢には抗えない…私も少しずつ綻びが生まれつつあるくらいだ。10年前とは同じようには走れない。だがそれだけでなく…ヤツは頭がとてもいい。いい意味で、手を抜くのが上手なんだ。今までのハッキリしない走りというのは、手の内を探らせないためだったとしたら…人の心理を見抜けない私も、まだまだということか…)」

雑魚相手には全力を出さない。

そんな時雨の走りはタスクにとっては「時雨の賢さ」という評価に繋がった。

そしてそれでいて、あそこまで思い切りのいい走りができるというのは…やはり彼女が、10年前の自分たちとほぼ同じ年齢、或いはそれ以下の年齢であるということ…つまり若さならではの勢いだとタスクは結論付けた。

レツのRX-8を後方で追い続けるタスクだったが、もう完全に勝負はついていた。

 

「(追いつけない…畜生。箱根の時雨の実力は…まさにバケモノってわけかよ…)」

第5コーナーである右ヘアピンをドリフトしていくレツのRX-8と、それを追うタスクのフーガ。

完全に2台はワンエイティから振り切られていた。

ワンエイティは青い炎に包まれながら、第4コーナーの時点で2人の視界から消えた。

そしてそのまま、ストレート区間で完全に振り切っていたのである。

 

「(壁は取り壊された…)」

一方の時雨のワンエイティ。

第9コーナーの右ロングヘアピンを150キロ以上の速度で駆け抜ける。

ハンドルを少しだけ左に曲げてカウンターを当てながらも、アクセル全開で駆け抜けるその姿はまさに新星…否、流星と言うべきだろう。

レツという最後の壁は、自分のタイヤマネージメントによってアッサリと崩された。

東京マッドブリッツのメンバーたちも熟練度こそあれどブランクが長かったのか、苦戦するほどではなかった。

気分が不思議と高揚する中、時雨はアクセルオフからハンドルをニュートラルに戻し、再びアクセルを全開にしてコーナーを立ち上がる。

シフトアップと共に赤いアフターファイアがマフラーから吹き出たかと思いきや、そのままの勢いで加速していく。

 

「(最後の扉を開く…ライジング・サンに勝ちに行くんだ!)」

最後の敵への覚悟を決めた時雨が操るワンエイティは、そのまま最終コーナーの右高速コーナーをドリフトで駆け抜け、青い炎に包まれたまま佐々木PAへと滑り込むのだった。

 

―――勝者、時雨。

相手のスピンということもあって9秒近い差をつけていた。

 

 

 


 

 

 

―――佐々木PA。

推奨BGM

 

「勝ったわ、時雨!これでエニシに会えるわ…!お父さんが首都高で何をしたのかが、やっとわかる!」

「うん…そうだね。やっと『首都高最速』に会えるんだ」

佐々木PAの端っこで駐車したワンエイティの車内で、奈美子と時雨は互いにそう言った。

 

「とりあえず、レツさんのところに行こう」

「あ、そうね…行きましょう」

時雨がそう言ったところで、2人はワンエイティから降りてレツとタスクの元へと向かった。

既に到着していたレツは憔悴しきった様子でベンチに座っていた。

 

「おい時雨、なんであんなに迷いなく…勢い任せで走れるんだ?『ライジング・サン』が怖くねぇのか?エニシをバトルから遠ざけた車が…」

レツの言葉に対し、時雨と奈美子は互いに顔を合わせたかと思いきや…すぐにレツの方を向いた。

 

「怖くないですね。誰が相手だろうと、どんな車だろうと…僕はバトルするだけです。これまでもそうしてきたし、これからもきっと…いや、これからが本番なんです」

時雨の言葉を聞いたレツが、どこかはっとしたかのように言葉を続ける。

 

「これからが本番…?じゃあなんだ?お前にとってエニシを、『首都高最速』を相手にするのは、『通過点』でしかないと言いたいのか?」

「え?ええっと…そうかもしれませんね。僕は数か月後には、レーシングチームのドライバーとして活動することになっていて…最終的には、サーキットにせよ峠にせよ首都高にせよ、どこまで戦えるのかを…自分の限界を試してみたいと思うんです」

時雨の言葉に対し、唖然とするレツ。

するとこう言いだした。

 

「…エニシを探してるってんで、てっきり『首都高最速』にこだわってると思ったぜ。あれ、つまり…アレか?俺の早合点か?」

「多分…そうだと思います」

時雨の言葉を聞いたレツは、すぐに立ち上がったかと思いきやタスクの胸元を両手でつかんだ。

 

「…タスク!何で黙ってたんだよ!心配させるようなことしやがって…!!」

「黙ってるも何も、勝手にPAに押し込んで、話をする暇すら与えなかったじゃないか。10年前と何も変わってないな…お前は」

タスクはレツの両手を振り払い、そう言った。

だが、レツはさらに言葉を続ける。

 

「うるせぇよ腹黒メガネ!!あれだ、お前こそ、俺を利用して時雨をレベルアップさせようとしただろうが!!」

するとその言葉に対し、タスクは「ふっ」とわかっていたかのようにこう呟いた。

 

「予想外のお前の参戦を、利用しない手はないと思っただけだ。お前も本来の腕は悪くないが、如何せんブランクがあったからな」

「えっ…そうなんですか?私はてっきり、私たちより可能性のあるレツさんに鞍替えしたものだとばかり…」

奈美子もようやく腑に落ちたかのようにそう呟いた。

だが、タスクはさらに言葉を続ける。

 

「私は私の言ったことに責任を持つ。どんな形であれ、サポートはしてきた…だが、それも今回で終わりだ」

「そ、そんな…せめてエニシとのバトルまでお願いはできないんですか?」

タスクに懇願するかのように、奈美子はそう言った。

すると、タスクはこんなことを言い出した。

 

「正直、私は時雨がレツに負けると思っていた。だが君たちは本気のレツに勝った。予想を超えたドライバーにアドバイスすることなど、私ごときができるはずもない」

すると、タスクの言葉を聞いたレツも軽く頷いた後こう言った。

 

「…そうだな。この状況で進化して勝てるなんて、そんなドライバー見たことねぇぜ。エニシに勝てるかもしれねぇ…『新星』、いや…『箱根の時雨』、なら!」

「僕、なら…」

レツの言葉に時雨は静かに呟くことしかできなかった。

すると、その様子を見たタスクがこう呟いた。

 

「―――さて、もう間もなくエニシは来るはずだ。時雨、奈美子…ここからはきっと長丁場だと考えている。ここまでのバトルで消耗したタイヤやガソリンを回復しておくべきだろう」

「…あ」

エニシとのバトルはきっと長丁場になるだろう。

そうタスクは予見した。

するとそこで口を動かしたのは奈美子だった。

 

「タスクさん。ワンエイティのスペアのタイヤと、補給用のガソリンを入れたタンク、ラジエータ水なら…私が佐々木PAに移動させておいた私の車にあります!取り替えることは…」

奈美子がそう言った。

するとタスクとレツは顔を合わせたかと思いきや、奈美子の方を向いてこう口にした。

 

「…ギリギリになるかもしれないな。だが、私たちがいればガソリンもタイヤ交換も…」

「ああ、きっと出来る!お前たち2人がエニシとのバトルをする以上、オレにもサポートさせてくれ!何が何でも間に合わすぞ!!」

「タスクさん、レツさん…!」

「あ、ありがとうございます!」

そう言って奈美子と時雨は頭を下げた。

 

「礼なんていらない。だがエニシはもう近いだろう…急いで取り掛かるぞ」

「よっしゃあ!そうとなったらタイヤとかを取り換えて万全な状態にするぜ!!」

「は、はい!」

「じゃあ、急ぎましょう…!」

そう言って4人は急いでワンエイティのタイヤ交換、ガソリン補給、ラジエータ水補給を行うことになった。

 

ついに最後の障壁である男、レツを倒した時雨と奈美子。

父親が首都高で何をしたのか…その手掛かりを知る男、エニシとのバトルは刻一刻と迫っていたのだった。

(第9話End)

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