「艦これ」いつかあの海で×ドリフトスピリッツ 第二幕 2024 -いつかあの頂で- 作:カービィ改二
情報収集と武者修行のため、あるイベントに飛び込むことに…
そこで待つ者とは?
サマンサとの密会をすることになった奈美子と時雨。
しかしケミックのコーディネーター、アビゲイルの罠にはまってしまう。
連戦する時雨だったが、箱根や首都高での連戦経験を活かし、ペースを落とすことなく連勝。アビゲイルから勝利をもぎ取る。
一晩で大勢のケミックドライバーとバトルをした時雨と奈美子。サマンサは目立った行動は取らないように2人に言って聞かせたのだが―――
―――ニューヨーク、マネーストリート付近特設ステージ。
繁華街に大音声と共に煙が巻き上がる。特設ステージの上には、容姿端麗スタイル抜群のブロンド美人が、セクシー衣装に身を包み、笑顔で登場した。
ステージの周りには大勢のギャラリーがいる。
すると話しかけるかのように、女性が大きな声で話し始めた。
「ハーイ!ニューヨークのみんなー!毎日ドライブしてるぅー!?えっ?故障?どこの車?カスタムカーに乗ってる?パーツは?」
するとパーツ名を聞いたその美人は明らかに不機嫌そうな顔をしてこう言った。
「…えっ、グレートオクティカスタムズ!? Jeez!You suck!そんなスクラップ付けてちゃ、車が可哀想!あなたの車をより華やかに!エンジンルームを芸術品へと変えるケミック&モレック社、待望の新パーツがお目見えよぉ〜ん!!」
その声にギャラリーが沸き立つ。
文字通りのモデル体型の美人がそうも声をかければ当然と言えば当然だ。
「(イヤでも目立つ…ケミックの比較宣伝か。オリビア・フローレス…車好きでスーパーモデルからケミックへ転身。今や宣伝広告部課長…まあいいわ。関係者パスも入手したし、もぐりこんで情報収集をしなきゃ)」
そのギャラリーの中に、1人のフードを被った女性。
その人物こそ、時雨と奈美子が世話になっている女性の1人…サマンサだった。
コソコソと舞台裏に向かい、関係者パスを見せて関係者側へと向かう。
「さてさて〜、この最新のパーツですが…ケミックが誇る宣伝部のドライバーとバトルで勝利したらプレゼントします!社長に許可とってませーん!イエーッ!もし負けたら…あなたの小汚くて貧相なエンジンルームをモニターいっぱいに晒しちゃいまーっす!」
サマンサがそう言うと、会場のギャラリーは余計に沸き立っていた。
やはりビッグゲームが浸透しているということなのだろう。
そして同時にそれほどのバトルを期待しているということの裏返しでもあるようだ。
「このビッグゲームの挑戦者は、このコンビ!チャレンジャーズ、カモーン!!」
そう言ってオリビアが右手を天高く上げると、煙が巻き上がり…そこから2つの人影が表れた。
その姿を見たサマンサは、ついギョッとするしかなかった。
「……!?」
サマンサが驚くのも無理はない。何せそのステージにいたのは…先日、「大人しくしていろ」と指示したはずの例の「ドライブモンスター」とその相棒だったのだから。
「Welcome!So…What's your name?」
「ぐ…Good Evening,Ms.Olivia and Everybody. I am 時雨 西野. Nice to meet you.」
「相楽奈美子です。ど、どうも〜…がんばりまーっす!」
「が、頑張ります…」
2人の東洋人のドライバーがステージでそう挨拶して頭を下げると、ギャラリーから多くの歓声が沸いた。
「はーい!挨拶ありがとうね!ニューヨークのドライバーのみんな、フォーリナーのチャレンジャー2人を応援してあげてねーっ!」
「あ…あの、バカ……」
サマンサとしては愕然とするのも当然だった。
しばらく目立って行動するなと口を酸っぱくしていったはずなのに…それを無視して、どうしてこんなことに。
彼女にとっては呆れるしかなかった。
「それでは早速、2人にはケミック広報部のドライバーと戦ってもらいまーす!Are you ready?」
「い、Yeah…」
「OK!それでは早速マシンに乗り込んで準備してもらうわー!よろしくー!!」
ぎこちない時雨の回答に対しても、オリビアは明るくふるまってそういうのだった。
「…OK.I'm ready to go」
バトルを認識した時雨は、冷静に我に返ってそう言うのだった。
そう言ったところで、時雨と奈美子はステージからバトルの舞台となるコースへと移動していく。
―――vsケミック宣伝部員A
推奨BGM:TAKE MY HAMMER(from EUROBEAT FLASH vol.14)
相手の車は青色のJZX100マークⅡである。
コースはマネーストリート往路。左レーン、Z33。右レーン、マークⅡ。
「(相手の車がいくらチューンされていても、ケミックの平均的なドライバーくらいなら…)」
Z33の車内で、時雨はそう思っていた。
ラージやアビゲイルの仲間たちと戦ってきて、ある程度高が知れた。
同時に相手のマシンのノーマルの性能についても時雨はある程度知っていた。
国産280馬力セダン。当時としてはすごい性能ではあるのはわかるし、ドリフト競技のベース車両としては最適なマシンの1台。
だが一方で、それは当時の話。
仮に自分がかつてのワンエイティに乗っていたら先手を取られるかもしれないが、何せそれを覆すほどのパワーがある。
こんなところで躓いてなんていられない。
まずは確実に勝利をつかみに行く。
そんな思いが時雨の中に渦巻いていた。
カーナビのカウントダウンの数字は確実に減っていく。
3
2
1
GO!
「―――!」
「……」
タコメーターは7000回転。「GO!」という表示とともに時雨はギアをPレンジからDレンジへと一気に切り替え、アクセルを全開で踏み込む。
バックファイアーを噴き出しながらZ33は一気に150キロ以上へと加速していく。
一方でそれに追いつかんとマークⅡのドライバーもアクセルを踏み続ける。
だがそれでもマシンのチューニングが施されていても、やはりZ33の戦闘力の高さには敵わないようだった。
「(くっ、速い…!!)」
「(思った通り…いくら相手のマシンがチューンされていても、こちらもチューニングは施されている。直線区間が多いコースでは明らかに不利だ)」
時雨にとってはもう慣れっこだった。
以前のワンエイティでケミックに挑んでいたとしたら多少は苦戦していただろうが、今乗っているのは「怪獣」の名をモチーフにしたマシン。
そんなマシンに乗っている以上敗北は許されないが、同時にそうやすやすと敗北することはあり得ないのである。
Z33とマークⅡの差は一気に車3台以上に広がる。
チューニングされたZ33の加速性能をフルに生かした、文字通りの大逃げだ。
Z33が上り坂を上り切ったところで、第1コーナーの左直角コーナーが迫る。
マークⅡのドライバーは先を見越してハンドルを曲げ、マークⅡを左レーンへと移した。
「(ストレート区間で一気に差をつけた以上、もう振り切るまでだ)」
ストレート区間で風の音を軽く感じながらも、繁華街の中にある第1コーナー…左直角コーナーへと飛び込んでいくZ33。
速度は180キロは出ている。
オーバースピードであるが、時雨にとっては計算ずく。
これまで2人の幹部とその多くの部下たちと戦ってきた。
それにより、時雨にとっては「どれだけの速度で飛び込んでもいいのか」を把握していた。
繁華街のネオンが光る中、時雨はアクセルをリリースしてブレーキを踏み込む。
「―――!」
アクセルオフからブレーキを踏み込み、速度が180キロ台から150キロ台まで減速する。
そんな中で時雨はハンドルを軽く右に曲げたかと思いきや一気に左へ切り返す。
軽いフェイントをかけたところでアクセルを再び踏むことで、Z33はぐるんと向きを変えて一気に後輪を滑らせ始める。
走行レーンの右端から一気に回頭し、左フロントが左端の壁スレスレ…隙間数十センチ程度をかすめていく。
カウンターを当てながらも隙間数十センチというクリッピングポイントを射抜いたZ33はお手本のようなアウトインアウトのラインを描き、一定のドリフトアングルを維持したままそのままアウトへと膨れていく。
「(そのまま…)」
ハンドルを右に曲げてカウンターを当て続ける時雨。
クリッピングポイントを抜けたことを認識し、アクセルをリリース、ハンドルもニュートラルに戻してドリフト状態からグリップ状態へと移っていく。
コーナー出口が迫る中で、空転していたタイヤが徐々にグリップを回復していく。
そしてコーナー出口で空転は収まったところで時雨は再びアクセルをある程度踏み込む。
だがすぐに次の第2コーナーが迫る。
次のコーナーも同じように左直角コーナーだ。
「(そのままの速度で…)」
アクセルオフから再びブレーキを踏み込み、ハンドルを左に曲げる。
速度は170キロ近くから140キロ台まで下がる。
アンダーステアが出始めたところで、時雨はハンドルを右へと切り返して再びアクセルを踏み込む。
走行レーンの右端から左端へとラインを描きながら、Z33はタイヤを滑らせながらドリフトしていく。
先程と同じように左端の壁との隙間数十センチのところをZ33はスピーディに駆け抜けていく。
時雨はハンドルを右に曲げ続けながらドリフト状態を維持させるようにする。
アウトインアウトのラインを描きながら、コーナーを脱出していくZ33。
出口が迫るにつれて、Z33は走行レーンの外側へと膨れていく。
「(この先のストレートでケリをつける…!)」
時雨の斜め右前方に見えたのは吊り橋上のロングストレート。
勝負をつけるとしたらやはりここだろう。
それを認識したところで時雨はアクセルをリリースして徐々にハンドルをニュートラルに戻す。
空転していたタイヤが徐々にグリップを回復し、ドリフト状態からグリップ状態へ。
そしてコーナー出口でタイヤの空転が収まったところで、時雨は再びアクセルを踏み込む。
目標はやはり目の前の超ロングストレートだ。
この加速で一気に相手を突き放す…そのつもりでいた。
速度は140キロ台から190キロ台…200キロまで一気に加速していく。
ニトロを使っていないにも関わらず、この速さだ。
ポテンシャルの高さを見せつけるかのようだった。
ストレート区間をZ33は一気に駆け抜ける。
「(このロングストレートで後方にいなければ…もう問題ない)」
吊り橋上のロングストレート中盤でバックミラーを確認し、マークⅡが追い付いてきていないことを確認した時雨は、アクセルを徐々に抜いて速度を徐々に落とし始める。
第3コーナーへ備えるのと同時に、吊り橋上で一定の差がついていればもう追いつけないと認識していたのだ。
速度は180キロ台を維持し、メーターは5速5000回転を維持し続けている。
Z33の目の前には第3コーナーの左直角超ロングコーナーが迫っていた。
「は、速い…いや、速すぎる……!!」
一方のマークⅡのドライバー。
第2コーナーをドリフトで立ち上がったのはいいが、既にZ33は遥か彼方。
第3コーナーをドリフトしながら駆け抜けていく姿が映っていた。
抜群の加速を生かした超大逃げ走法に殆ど太刀打ちが出来ていないも同然。
だが無理もない話なのかもしれない。
何せ相手はあの「ドライブモンスター」。
ドライバーもモンスターだが、マシンもそれ相応にモンスターである…嫌でもそんな現実と向き合わされた。
勝負はこの時点で完全に付いていた。
結果として時雨のZ33はマークⅡに7秒以上の圧倒的な大差でゴールするのだった。
◇ ◇ ◇
1度目のバトルを終えてステージへと戻ってきた2人。
その姿を見たドライバーたちは歓声を上げた。
そして歓声の中、時雨にオリビアが話しかけに行く。
「Wow!オープニングからすっごいスピードね!『ドライブモンスター』のニックネームは本当みたいね~!」
「さ、Thank you」
オリビアの言葉に対し、ステージ上に戻ってきた時雨がぎこちなくそう答えた。
やはりステージの上というのは時雨は慣れていないようだ。
「さーて、ダブルアップチャーンス!!宣伝部のドライバーを全員倒したら…何と私の愛車をプレゼント!さぁて時雨ちゃん、ナビちゃん、どうするぅ〜?勝って勝って勝ちまくって、ドライブが大・大・だぁいすきなナビちゃんのパパへのプレゼントにしちゃう〜?」
オリビアの言葉にハッとした時雨。
奈美子の父親の事を知っているというのであるならば、選択肢はもう1つしかない。
「そ、そうですねぇ〜!時雨と2人で頑張りたいですね〜!」
「Me too…I try it(奈美子のお父さんを知ってるなら…)」
2人の声を聴いた観客たちが一斉に歓声を上げる。
やはりバトルを望んでいるようだ。
「はぁ〜い!それじゃあビッグゲームチャレンジ!ドライバーの準備が終わり次第、スタートよ〜ん!2人は先に準備しててね~!」
オリビアの言葉に対して無言で頷いた時雨は、奈美子を連れてそそくさと舞台裏へと戻るのだった。
すると、舞台裏に戻った時…そこにいたのは、例の女性だった。
3人が対峙する。サマンサは顔こそよく見えないものの怒り心頭というべきだった。
「さ、サマンサさん…」
「Are you kidding me?(あなた、ふざけてるの?)ニューヨークでの父親探しをただのアメリカ冒険で終わらせるつもり?」
サマンサは威圧するかのようにそう言った。
だが、それを落ち着かせようとするかのごとく奈美子がこう口を開いた。
「ち、違うのよ!『何の冒険もしなければ何も得られない』ってコト!」
「そうそう。それに、僕には時間がないから…」
「いや、だからって…」
「アビゲイルが教えてくれたの。宣伝用に走るドライバーは限られてる…ケミック幹部のオリビアから、奈美子のお父さんの行方を聞くチャンスなんだって」
「そ、そうなの?(せめて一言あっても…いや、私ならNoを突きつけていたか。そこまで考えての判断ということね…)」
奈美子の言葉に対し呆れ蛾ながらもどこか納得するかのようにサマンサは答えた。
するとそれを見た奈美子が頭を下げた。
「相談しなくてごめん…サマンサ。でも、私たちは負けるつもりはない。何かトラブルがあった時には…その時は力を貸して!」
「僕からも、お願いするよ」
奈美子が頭を下げると、時雨もそれに応じて頭を下げた。
するとその様子を見かねたサマンサは「はあ…仕方ない」と言ったかと思うと、こう口にした。
「頭を上げて…ナミコ、時雨。2つ約束して」
「2つ?」
「一体…?」
「1つ目は、バトルで絶対に負けないこと。何でもいいから盛り上げて時間を稼いで。もう1つは…カイザーバーガーのギガカロリーセット。4人前で80ドルをおごること。ワガママはこれでおあいこ。いいわね?」
その言葉にハッとした時雨は、奈美子と軽く顔を合わせてこくりと頷いた。
そしてすぐにサマンサの方を向いてこう言った。
「わかった…いいよ」
「サマンサ…ありがとう!なんとか盛り上げて時間を稼いでみせる!運転は時雨に任せてるし…パフォーマンス、頑張ってみるわ!」
「フフ…いいのよ。頑張ってね」
そう言ったところで、スタッフが時雨と奈美子を呼び出してきた。
「挑戦者のお二人ー!準備してくださいー!!」
「…じゃあ、行ってくるね」
「ええ、気を付けて」
「そっちもね」
そう言ったところで3人は別れた。
時雨と奈美子は次のバトルへと向かっていく。
―――数戦後、特設ステージ。
「圧倒!まさに圧倒!車の中も東洋の神秘が詰まっている!?ケミックドライバーも唸る腕前に、私もメロメロよぉ〜ん!!」
「え、えへへ…どうも」
何度もバトルをこなしているうちに、ナビである奈美子がステージに呼ばれていた。
どうやらインタビューのようだ。
「ナビさんナビさん、教えてちょうだい!ドライバーの時雨さんの車には、何か特別なチューンがされていたりするのかしら〜ん?」
オリビアが奈美子にグイグイと質問していく。
マイクを向けられた奈美子がドキッとした。
その様子は明らかにしどろもどろというべきだろう。
「(この状況でそんな質問を…ナミコ…舞い上がってバカ正直に絶対に話しちゃダメよ…時雨の車のことは絶対に)」
「特別なチューン…あの車の特別なチューンね…ええっと…うーんと…なんて言ったらいいのか…」
サマンサが冷静に思う中、奈美子はあわあわとしながらも何とかこたえようとしていた。
「……!!(だから話しちゃダメだってば!どうして真剣に考えてるの!?)」
サマンサは奈美子が馬鹿正直に答えようとしていることに動揺するしかなかった。
前もって話したことがちゃんと伝わっていなかったのか?
◇ ◇ ◇
―――ことの発端はバトルの前まで遡る。
バトルでゴールラインを切るたびにドライバーたちから歓声が上がっており、数戦ごとに行われるブレイクタイムで時雨と奈美子はサマンサとミーティングしていた。
時雨はミネラルウォーターを飲んでいる。
「それにしても…純粋にバトルを楽しむニューヨークのドライバーも多いんだね」
奈美子がそう口にする。
「ええ。ビッグゲームはケミックとオクティの取り決めだから…最近じゃビッグゲーム見たさに、海外から来るドライバーも珍しくないわ」
「そうなんだ」
サマンサの言葉に、ミネラルウォーターのボトルを口から離した時雨もどこか納得するかのようにそう言った。
だがサマンサの表情はすぐに暗くなる。
「でも…人手の足りないリブラには痛手みたい。ビッグゲーム仲裁のため急行したら海外から来たドライバーがモメて、賭けバトルをしてたこともあったそうよ。」
「そんなことが?」
「手が回ってないのはキツそうね…少しでも小競り合いを減らしてリブラも市民も安心させないと!」
「うん、そうだね(まあ僕の修行にもなるだろうし)」
奈美子が決心する中、時雨もそう思っていた。
とはいえ武者修行をメインとする時雨にとっては「多くのドライバーとバトルできること」自体がこの上なくうれしい事だった。
「オリビアがバトルをする前提でバトルをしてるみたいだけど…本当に勝ち続けていれば、オリビアとバトルできる保障はあるの?」
「そ、それはその…ごめん、そこまで考えてなかった」
奈美子は申し訳なさそうに言った。
するとサマンサは「まあいいわ」と軽くいったかと思いきや、こう口にした。
「…まあ、手は打ってある。あとは時間の問題よ。ナミコ、何を話すか考えておいて。どんな質問が来ても、冷静にね。時雨も頑張って」
「…わかった。よろしくね」
そう言ったところでブレイクタイムは終わり、次のバトルへと時雨と奈美子は向かっていく。
◇ ◇ ◇
「(馬鹿正直に答えちゃダメだって言ったのに、あの子は…!!)」
舞台裏のサマンサからしては焦るしかなかった。
何せ前もって言った内容が全くもって伝わっていないも同然。
こんな状況ではもうどうしようもないのではないか。
そう思った瞬間、奈美子はこう口を動かした。
「時雨がチューンしてるとこ何度も見てるし、整備は手伝っているけど…何をやってるかサッパリわかりません!」
奈美子の言葉に、ギャラリーがザワっとしたかと思いきや笑い声が聞こえてくる。
どうやら受けは悪くなかったようだ。
「Are you kidding me?(ふざけてるの?)助手席に座るナビなのにぃ~?ナビさん、それ本気で言ってるぅ~?」
「そ、そんなこと知らなくても、ナビはできますから!車の癖を見抜いて、タイミングよくドライバーに知らせるのがナビですから!」
そう言ったところで、サマンサは「はぁ~」とため息をついた。
脇を見ると、トイレ休憩から戻ってきた時雨の姿があった。
「時雨!」
「サマンサ、さん?」
時雨にぐい、と迫ったサマンサ。
だが会場の爆笑とは裏腹に、近づいてきたサマンサは時雨に視線を合わせようとしない。
悩んでいるのか、目が泳いでいた。
「時雨…ナミコの言っていた事、本当なの?」
「言っていたこと?」
「『あなたがチューンしてるところは何度も見てて、整備も手伝ってるけど何をやってるかわからない』って…」
「そんなことを奈美子が?ま、まあ…あながち嘘じゃないね」
「……その、時雨、私、何て言ったらいいか…とにかく、色々と頑張ってね」
「え?ああ、うん…そうだね。じゃあ、次のバトルがあるからまた後で…」
そう言って時雨は再びバトルへと挑んでいく。
◇ ◇ ◇
―――さらに数戦後。
時雨の活躍にニューヨークのドライバーたちはオリビアとの対決を期待し始めていた。
「(誰かが期待を声に出せば、みんな賛同してくれる。仲間にはコーヒーをおごらないとね)」
サマンサはこの状況を待っていたかのようだった。
「さあさあ!盛り上がってきたわねぇ〜!ケミックのスタッフの誰も、こんな事態になるなんて少しも思ってなかったわぁ〜!ケミックのみんなは…あー元気ないわね…ハイハイ、元気だしてぇ~!ヘーキよヘーキ!勝利の女神はケミックに微笑んでるわ〜!!」
オリビアが投げキッスをすると、ケミックのドライバーが片腕を上げて、雄叫びを上げている…やる気マンマンだ。
その様子に対しては時雨と奈美子も「おおっ」と反応するかのようだった。
「すごいやる気だね。あの人も人を励ますのが得意みたいだ」
「私たちも負けてられないわね!絶対に勝とう!時雨!」
「そうだね…行こうか」
スタッフの誘導の下、時雨と奈美子は次のバトルへと挑んでいく。
―――vsテレビ通販担当宣伝部員
推奨BGM:FACE TO FACE(from SUPER EUROBEAT vol.144)
コースは復路、相手の車はオレンジ色とボンネットの一部が黒色のフォード・(2代目)フォーカスST。
ここに来てアメ車がやってきた。とはいえこのフォーカスSTは前輪駆動のFF車両なので、所謂ヘビーで後輪駆動なアメリカンマッスルカーとは一線を画す存在ではあるのだが。
左レーン、Z33。右レーン、フォーカスST。
「(フォード、ってことはアメリカ車か…)」
時雨はアメリカ車の事を聞いてはいた。
フォードと言えばアメリカの代表格ともいえるメーカーであるということも。
とはいえアメリカ車ならではのマッスルカーというわけではない以上、決して強敵というわけでもなさそうだ。
如何せんフォーカスSTの馬力は良くて280馬力。向こうの車と大差はない。
バイパーのような超高出力マシンというわけでない以上、決してパワー負けすることはない。
そう思う中で、カーナビのカウントダウンが始まる。
3
2
1
GO!
「―――!」
「……」
1速に入れて発進するフォーカスST。
ギアをDレンジに変え、スタートダッシュを決めて加速するZ33。
だが当然、チューニングされているZ33が一気に加速する。
だがそんな加速をする中で、すぐに第1コーナーの左直角コーナーへと2台が飛び込む。
「―――!」
スタートダッシュの加速が収まったところで、アクセルオフから軽くブレーキを踏み込む。
速度が160キロ台から130キロ台まで下がったところで、ハンドルをぐいと左へと曲げる。
オーバースピード気味に突っ込んだことでアンダーステアを誘発し、後輪を滑らせる。
滑り始めたところでアクセルをある程度踏み込み、ハンドルを右に切り返す。
カウンターを当て続けて一定の速度を維持しながら、後輪を滑らせ続けてコーナーを駆け抜ける。
走行レーン上に存在するレール上をグラインドするかのようにZ33は颯爽と駆け抜けていく。
「(パワー差があるというなら、今のコースでは最初の2つのコーナーで勝負をつけられる…)」
マネーストリートのコースは首都高のそれに比べるとはるかに単調なものだった。
高速コーナー、ブラインドコーナー、ヘアピン、複合コーナーなど様々なコーナーが存在した首都高に比べるとはるかに簡単である。
そして同時にストレート区間も長く、どこまで速度が伸ばせるかという勝負でもあった。
素のパワーもさることながら、コーナーでも速く走れるようにカスタムされているZ33にとって、ケミックのドライバーたち…幹部の部下たちは、もはや敵ではなかった。
そう思う中、第1コーナーの出口が迫る。
「(この先のコーナーに向けて…)」
アクセルを抜き、ハンドルを右に曲げ続ける時雨。
左を向いていたZ33は徐々に右へとノーズを回頭させていく。
舵輪に例えるなら面舵一杯。90度以上曲げながら、Z33を一気に曲げていく。
そんな中で第1コーナーを抜けて第2コーナーへとZ33は飛び込んでいく。
「―――」
右ウインカーを出し、後輪を滑らせながら左レーンから右レーンへ。
コーナー区間にラバーポールが存在するのでそれをなぎ倒してはいけないのであって、コーナー区間と間の間を「ドリフトしながら車線変更してはいけない」とは誰も言っていないのだ。
逆ドリフトの状態でZ33は左レーンから右レーンへと進路を変える。
そしてZ33が右を向いていく中で、時雨はハンドルを左へと切り返してアクセルを再び踏み込む。
エンジンパワーを再び与えられたZ33は後輪を滑らせながら第2コーナーをドリフトしながら駆け抜けていく。
「(速度を維持して…)」
ドリフトしていくZ33は、徐々に右端の壁へとノーズを接近させる。
隙間としては数十センチ。
だがそれでもアクセルをフルには踏み込まず空転を維持させる程度…パーシャルスロットル状態で踏み込む。
ハンドルをある程度左に曲げ続け、カウンターを当てながらも速度は140キロ台を維持するZ33。
第2コーナーの右ロング直角コーナーをインベタの状態で駆け抜ける。
アンダーステアを出すこともなく、インベタのラインを描く。
コーナー中間を抜け、目の前に吊り橋上のロングストレートが迫っていく。
「―――」
コーナー中間を抜けたところでアクセルを抜き、ハンドルをニュートラルに徐々に戻す。
インベタのラインを描いていたZ33はコーナー出口が迫る中でアウトへと膨らんでいき、同時にタイヤの空転も収まっていく。
速度は130キロ台まで落ちている。
ドリフト中に速度が下がったかと思いきや、同時にタイヤのグリップも回復していく。
そしてコーナー出口…繁華街と吊り橋の境界に到達するところで、Z33のグリップは完全に回復していた。
「(…ここだ!)」
目先のストレート。
それを見た時雨はハンドルをしっかりと握り、タイヤが暴れないようにした上でアクセルを踏み込む。
アクセルを全開に踏み込んだことで加速を得たZ33は、バックファイアーを噴き出して加速していく。
速度は130キロ台から180キロ台まで加速する。
Z33は大逃げの態勢に入った。
ストレートを掛けぬけていくZ33はあっという間に後方のフォーカスをバックミラーから消し去っていた。
「(は、速すぎる…!こんな車じゃ追いつけない…!)」
一方のフォーカスSTのドライバー。
第2コーナーをZ33が立ち上がろうとしていた時、フォーカスは第2コーナーに飛び込む寸前だった。
サイドブレーキを引いて無理くり後輪を滑らせるのはいいが、あっという間に振り切られていく。
相手の車がただの車ではないということをわかっていても、同時に馬力の違いを分かっていたとしてもこうもあっさり振り切られるとは思っていなかった。
自分のような雑魚相手にはもはや敵う筈もない。
やはりモンスターというのはどうやら本当のようだ。
ラージやアビゲイルが敵わなかったのは知っていたとはいえ、ここまで相手にされないとは思ってもいなかった。
アクセルを必死に踏み込むのはいいが、速度は110キロ台しか出ていない。
右レーンでドリフトしていくのはいいが、Z33はフォーカスSTのスペックを完全に凌駕していた。
諦めずにアクセルを踏むのは良かった。だが追いつけないという状態に変わりはなかった。
「(それにしても不思議と向こうの車とバトルすることが多かったけど、その理由が分かった気がする…JDMの話は本当だったんだ)」
一方、第3コーナーをドリフトで駆け抜けて立ち上がるZ33。
そんなZ33の車内で時雨は、アメリカに渡る前にショウから「アメリカでもこの国の車たちと多く戦うことになるだろう」と言われた事を思い出していた。
そしてキーワードとして「JDM」という言葉があると聞いていたのである。
JDMは、Japanese domestic marketの略であり、日本国内市場を表す。
そしてそれが転じて、現在では「アメリカ人が日本仕様にカスタマイズした車」、もしくは「25年ルールで輸出が可能になった右ハンドルの日本車」を「JDM」と呼んでいる。
しかし、25年ルールの車両に関しては、オリジナルコンディションでも「JDM」として認識されており、最近は「JDM」=カスタマイズとは言い切れない部分もあるらしい。
まあ言い換えれば、向こうの車が多く輸入され、同時にカスタムの文化が広まったことでアメリカでも多くの「向こうの車」によるストリートレースが見受けられるようになったということである。
「(25年ルールによる車の大量輸出と、映画による影響…か)」
第4コーナー直前でブレーキを踏み、ハンドルを右に曲げる時雨。
ニューヨークに来ても向こうの車が多く見受けられたのは、やはり中古車で安いということもあるし、同時に人気であるという事でもあるのだろう。
あとはやはり頑丈ということもあるのか。
映画やラジオの影響というのは時雨もある程度わかるが、それはアメリカに来ても同じのようだ。
そんな様々な考えが渦巻く中、時雨はZ33をドリフトさせる。
単調なコースの攻め方を覚えてしまった以上、よそ事を考える程の余裕が生じているのだった。
「(もし僕が仮にあのワンエイティをここに持ってきていたら…どうだったんだろう)」
JDMのカスタムが流行している中、あのワンエイティをニューヨークに持ってきていたらどうなっていただろうか。
あの車は確かにいい車だが、やはり2000cc級のマシン。SR20エンジンにに限界がある。
峠を攻めるならともかく、首都高やアメリカのような速度域が高いコースでは苦戦することは間違えない。
今に比べたら明らかに苦戦するのは間違えないだろう。
一方で同時に今後レーサーになる以上、ワンエイティばかりにこだわってはいられない。
何せワンエイティも20年以上のシロモノだし、D1グランプリでもエンジン載せ替えを行っている車だってある。
もし仮に国内最高峰のレースにおいてはそれこそ、RZ34のフェアレディZやGRスープラ、FL5シビックといった最新クラスのマシンに否が応でも乗る必要がある。
多くのマシンに乗り、経験を積んで、そしてなるべく速く走らせたい。
今は何が何でも経験を積む必要がある以上、様々な車に乗り込んでバトルをこなすことが一番なのだ。
あの宝石のようなワンエイティを…絶対に壊さないためにも。最初のワンエイティと同じ悪夢を繰り返さないためにも。
そして同時に、数々のバトルをこなせるようにマシンマネージメントも忘れてはならないのである。
「(いけない、よそ事だった。油断するな…長期戦である以上、大将が出てくるまではマシンをしっかり労るんだ。集中して、初心を忘れるな…)」
第4コーナーをドリフト状態から立ち上がり、アクセルを再びある程度踏み込む時雨。
ボーっとよそ事を考えていたことを自覚しつつも、油断は全くしていなかった。
空転が収まっていたタイヤは地面を蹴るかのように加速していく。
最終ストレートの下り坂を駆け抜け、Z33は130キロ台から160キロ近くまで加速していく。
全開で踏み込まないのは、長期戦である以上エンジンを労わってのことだ。
そして同時にバックミラーを確認して、相手が追い付けないだろうと判断したからでもある。
そのままZ33は下り坂を駆け下り、そのままゴールするのだった。
―――バトルを終え、路肩に停車したZ33。
サイドブレーキをかけて停車したところで、時雨が一息ついた。
そこに奈美子が話しかける。
「よし、勝ったわね!うわっ…すごい歓声だわ。盛り上がってるわね!」
「僕たち、かなり注目されてるみたいだね」
「それにしても何だかとっても新鮮!いつか東京や箱根でもこんな感じでバトルしてみたいわねぇ…」
「うーん…どうなんだろう?ここまでの環境、あるのかな…?」
コースから少し離れた会場の歓声が、Z33の車内まで聞こえてきていた。
一方でバトル後…ケミックのスタッフたちの間では動揺と怒号が飛び交っていた。
「クソッ、参ったぜ…オリビア、どうなってる!ドライブモンスターが来るなんて聞いてないぞ!」
「私も聞いてな〜い!ついでに、ここまで立て続けに歴戦のケミックのドライバーが負けるとか…!」
ケミックのドライバーたちからしたら時雨と奈美子の余りの速さに動揺するしかなかった。
既に10戦以上。それでいてあの2人のペースが全く落ちる気配がない。
その速さはまさに衝撃的というべきだろう。
するとざわつく中、オリビアがこう言った。
「それにしても…噂には聞いてたけど、これほどとはねぇ〜!それでいて車も取らないってんだから、ヒュウガみたいな戦い方よねぇ~!カンシンカンシン!」
「感心している場合じゃないぞ…ビッグゲームをしているようなものだ。もしバトルを放棄しようものなら…幹部だったラージやアビゲイルのように、テリトリーをグレートオクティに奪われるぞ…!」
「よし、行ってくる!ドライブモンスターだか知らないが、ケミック宣伝部のメンツにかけても、絶対にバトルに勝つ!」
そう言ってケミックのドライバーの1人が時雨たちの方へと向かっていく。
すると撮影されていることに気が付いたオリビアは、カメラに向かってこう言い放った。
「こんな感じでケミックは社員一同、素晴らしいパーツを作るために夜遅くまで仕事してるのよ~ん!みんなー!ケミックをよろしくねーッ!」
オリビアの言葉に歓声が巻き起こり、ケミックのドライバーがバックステージへと降りてくる。祈るように手を合わせると、スタッフたちがドライバーの肩を叩いた。
「頼んだぞ」「行ってこい」「負けるなよ」「任せたぞ」激励の声がケミックのピットから聞こえる…あっちはあっちで必死のようだ。
するとその様子を見ていた時雨と奈美子に、サマンサが話しかけに来た。
「2人とも、順調みたいね。こっちは何とかなった。いいバトルをしてくれれば万事OKよ。みんなオリビアとのバトルを期待してる」
「ありがとう。僕たちも頑張るから」
「サマンサ…ありがとう!その、ごめんなさいね。お父さんの情報を引き出すために、こんなに頑張ってもらって…」
時雨と奈美子は軽く頭を下げた。
だがサマンサは「大したことはしていない」と言いたげに言葉を続ける。
「…前にも言ったでしょ。ニューヨーク市民はケミックとオクティのバトルに困ってるって。市民の義務を果たしているだけ…私は情報提供と応援することしかできない。一緒に走れなくてごめん。でもオリビアは逃がさないようにしたから。頑張って、時雨」
「う、うん…頑張るよ」
そう言ったところで、時雨と奈美子は再びバトルへ興じる。
◇ ◇ ◇
―――その後、再び勝利した時雨。
バトル後に会場へと戻ると、会場のドライバーたちはオリビアが出てくるまでのカウントダウンの声を上げていた。
「オリビア、どうするんだよ!?時雨が勝ち続けたら、お前、絶対にバトルせざるを得なくなるぞ!イベントを中止するしかない…販売部の売り上げが好調らしいが、あの時雨とバトルするぐらいなら、いっそ…」
ケミックのドライバーの一人がそう言った。
もし本当にパーツを与えることになったら文字通りの大赤字だ。
大言壮語はよかったが、まさかそれが噓から出た実になるとは誰も思っていなかったのだ。
だがそんな中でも、オリビアは明るくこう立ち振る舞う。
「Hey,Hey,Heeeeeeeeeeeey!!いつの間に宣伝部のクルーたちは心にヒラヒラのスカートをはいた気弱なお嬢様になったのかしらん?…相手が勝ち続ける?大いに結構!何とかならない?なんとかする!じゃあどうしようか?走るしかない!心折れるのは、まだ早いんじゃなぁ〜い?」
「だ、だけどよ…」
「ハイハイ!バトルの準備よ!お客様にアツいバトルを存分に見せる!バトルで負けてもパーツを売ればメンツも保てるわ!がんばるわよ~ん!」
オリビアの鶴の一声に、ケミックのドライバーたちは再びバトルに挑んでいく。
「ZERO!」の声と共に、スモークがたちこめる。
バトルのスタート地点方面を向きながら、オリビアの愛車…SRT8型のダッヂ・チャレンジャーが唸りを上げながら現れた。
「ハーイ!お・ま・た・せ!まさかの展開に私もビックリよ〜ん!もしかして、私が逃げちゃうかもって心配した人とかいるかな?『ちょっとした小細工』なんてしなくても全・然・大・丈・夫!お客様へアピールする宣伝部のオリビアはこの通り、逃げも隠れもしないのよ〜〜ん!!」
元モデルのオリビアのウィンクが画面いっぱいに映る。歓声と指笛が、同時に沸き起こった。
「(このドライバー…手ごわい。それほど自分の腕に自信がある…モデル上がりだからといって油断できないわね…)」
サマンサは静かにそう思っていた。
どうやらサマンサにしてもオリビアの実力に関しては折り紙付きという認識のようだ。
「…というわけで、ナミちゃん、時雨、よろしくねっ!お互いに全力でバトルしましょ~!」
そう言ってオリビアが時雨と奈美子にウインクをした。
それに対して2人は軽く会釈するのだった。
「…よろしくお願いします」
「私も全力でナビします!手加減するつもりはありませんから!」
「ウフフ…元気があってGood!私に勝ったら教えてあげるわ。ナミちゃんのお父さんに励まされて、ここまで頑張ってこれたことをねっ!」
するとその言葉と共に、驚きの表情をしたのは…言うまでもない奈美子と時雨だった。
「えっ…お父さんが励ました!?どういうことなんだろ…どうして対立してたケミックを…?」
「ハイハイ、お喋りはここまで!…時雨、ヒュウガとバトルした私には分かる。凄いのは車じゃない。ドライバーだって…!みんなが見ている晴れ舞台で勝負よ!お互いに恥をかかないように、全力でバトルしましょ!Are You Ready?」
「…わかりました」
「よろしくお願いします!」
「OK!車に乗ってスタンバイしてね〜!!」
時雨と奈美子が互いにそう反応し、3人はバトルの舞台となるコースへと移動するのだった。
「(いよいよ正念場よ…頑張って、2人とも)」
スタンバイする様子をサマンサは静かに見届けていた。
◇ ◇ ◇
―――vs宣伝部のオリビア
推奨BGM:JAM JAM JAM(from EUROBEAT FLASH vol.17)
相手の車はダッヂ・チャレンジャー(SRT8)。
所謂後期モデルで、6.4LのV8エンジンを搭載。馬力としては470馬力をマークするマシンである。
一言で言ってしまえば、典型的なアメリカンマッスルカーである。
時雨のマシン…Z33の馬力はデフォルトで280馬力、チューニングして600馬力。
細かな部分でチューニングはされているとはいえ、容易く力でねじ伏せることはできない。
今回のコースであるマネーストリートはやはりストップアンドゴーのコース。
ストレートの後、直角コーナー2つ。そこからロングストレート。その後ロングコーナーと最終の直角コーナー。
マシンのスペックも求められるが、どこまでコーナーで相手に差を付けられるか。
そこが勝負のカギである。
なおコースは往路。左レーンにチャレンジャー、右レーンにZ33。
「(相手は例の『ドライブモンスター』だけど、とにかくやるしかないわね…!)」
オリビアにとっては例の「モンスター」と戦えることは光栄だった。
ラージやアビゲイルが負けたマシンがどれ程のものなのか?
東洋人が操るその車の性能とはいったいどれほどのものか?
そんなことに興味があった。
そして興味がある以上、自分は全力で挑んでいく…そう認識した。
「(相手のエンジン音が窓を閉めていても、しっかりと聞こえてくる)」
チャレンジャーのエンジン音がZ33の車内まで聞こえてきている。
獰猛な爆音だ。典型的なマッスルカー、パワー主義のマシンと言ってもいい。
トシゾウさんのバイパーやエニシさんのCTRに負けず劣らずの爆音である。
エンジンもかなりのものであるに違いないし、そうである以上パワーも間違えない。
これは今までの雑魚みたいにストレート区間では大逃げは難しいだろう…そう時雨は思った。
「(直線区間で無理なら、コーナーで差をつけるんだ…)」
相手に応じて戦い方を臨機応変に変えていく。
そのやり方でなければ、プロでは通用しない。
一辺倒すぎる戦い方では相手に手札を全て見せてしまうも同然。
複数の手札を用意し、それを臨機応変に出していく。
パワーで互角ならテクニックで差をつける…そう時雨は認識した。
そしてそう認識する中で、カーナビのカウントダウンが始まろうとしていた。
アクセルを踏み込み、エンジン回転数を上げていく。
3
2
1
GO!
「っ…!」
「―――!」
オリビアのマシン、エンジン回転数6500回転。時雨のマシン、エンジン回転数7400回転。
互いにアフターファイアを噴き出しながら、ロケットスタートを決めて加速していく2台。
サイドバイサイドの状態…いや、僅かながら加速が上のZ33がノーズの部分だけ先行する。
「(Wow…!このチャレンジャーに引けを取らないどころか…!)」
オリビアは驚くしかなかった。
いくら相手の車がチューンされていても、自分のマシンには加速では追いつけないだろう。
そう高をくくっていた部分があったようだ。
わずかながらZ33の方が加速が上だ。
そしてそうなった以上、Z33が先行するのは時間の問題だった。
「(マッスルカーの事は聞いていたけど…加速に限れば僕の方が有利か)」
上り坂のストレート区間で加速し続けるZ33は、確実にチャレンジャーを引き離しつつある。
それでも少し油断をしたらパワーですぐに食らいつかれてしまうかもしれない…そう時雨は思った。
そしてそうである以上、時雨はあることに興味があった。
興味を持つ中で、Z33とチャレンジャーの位置はテールトゥノーズまで広がっていた。
「(それじゃあ…あなたの運転技術は、どうなのかな!?)」
テールトゥノーズの状態である以上、時雨は左レーンに移動することは可能だった。
だが同時に、時雨は相手の実力が気になった。
ストレート区間で自分に追いつけるマシンである以上、コーナーではどうなのか?
同時に相手の実力はどうなのか?
そう思う中、上り坂を上り切ろうとしていた2台の前に第1コーナーの左直角コーナーが迫っていた。
チャレンジャーの速度計は167キロ。Z33の速度計は187キロを示していた。
「……」
「っ…!」
アウトコースである以上早めにアクセルオフからブレーキを踏む時雨。
一方で、攻め込まないと追いつけないと思ったオリビアはZ33のブレーキランプが点灯したワンテンポ後にフルブレーキを踏み込む。
先行する以上時雨には余裕があった。コースに順応したのもあるのだろう。
追いつかんと必死な相手をどこかせせら笑うかのように、冷静にブレーキを踏み込んで軽くハンドルを右に曲げる。
ちゃんと踏み込むときは踏み込むが、基本は相手に踊らされずマイペースな時雨ならではであった。
「くっ…!」
「……」
フルブレーキングで思いっきり飛び込んだチャレンジャー。
一方でどこか冷静にコーナーに飛び込むZ33。
ブラックマークを路面に残すチャレンジャー。
ブレーキリリースからアクセルオンでハンドルを90度以上左に曲げるオリビア。
アクセルオンで右に20度ほど曲げていたハンドルを一気に120度近く左に切り返す時雨。
ブレーキングドリフトで後輪が滑り出すチャレンジャー。
フェイントモーションで後輪が滑り出すZ33。
走行レーン上にあるレールをグラインドするようにドリフトしようとするチャレンジャー。
走行レーン上という限られて範囲にもかかわらず、レーン幅いっぱいに攻め込みつつも高速域を維持してドリフトするZ33。
だが、足が負けているチャレンジャーはレールから外れるかのようにアウトコースへと膨れていく。
左レーンと右レーンのちょうど真ん中にあるラバーポールスレスレをチャレンジャーの右リアが駆け抜けていく。
一方で足回りも強化されているZ33はインコース目いっぱい…コース中央のラバーポールと左フロントとの隙間が数十センチと迫る勢いでドリフトし、コーナー中間からアウトへと膨れる。
「(ジーザス…攻め込んでやっぱりアンダーが…!)」
走行レーン上に何とかとどまるチャレンジャーだが、速度は120キロ台まで落ちている。
何とかアウトコーススレスレで必死にドリフトさせるオリビア。
だがやはり重い車重が影響してか、アウトに膨れてしまうのは必然といえば必然だった。
レーンギリギリを立ち上がるチャレンジャー。
コーナー出口が迫る中でアクセルをリリースし、ハンドルをニュートラルに戻す。
そして空転が収まったところでアクセルを全開で踏み込む。
普通であればインコースであるチャレンジャーが先行できるだろう。
だが次の瞬間だった。
「(アウトコースなのに食らいつかれている…?追いつけてない!?)」
第1コーナーを立ち上がったチャレンジャー。
だが、立ち上がった瞬間にZ33がサイドバイサイドという形で横に並んだ。
それどころかわずかにノーズを先に取られている。
Z33の方が加速が鋭いのだ。
ノーズの部分だけ先行するZ33。普通であればチャレンジャーの方が有利なのに、先手を取られている。
一体どういうことなのか?
「(スタート直後の加速で差をつけて、コーナーでも先行できている…)」
実はチャレンジャーの車重は2008年式の場合1870キロ。一方Z33の車重は2002年式のVesrionSTの場合1550キロ。
ノーマルの状態でもZ33の方が300キロ以上軽い。
アウトコースを駆け抜けていたZ33の方が先行したが、その理由は…やはり単純と言えば単純だった。
車重の軽さは間違えなくコーナーリングに影響がある。
おまけにZ33はある程度とはいえ軽量化も施されている。少なくても50キロは軽量化されているのだ。
同時に足回りも強化されているZ33は、その車重を感じさせないほどの軽やかさを兼ね揃えていた。
そしてそれらがからみ合ったところで、相手のチャレンジャーよりも先行することが出来た。
僅かにZ33が先行する中、第2コーナーの左直角コーナーが2台の前に迫る。
「……」
「―――!」
冷静にアクセルオフからある程度ブレーキを踏み込む時雨。
速度は160キロ台から140キロ台まで下がる。
一方で必死になるあまりフルブレーキを踏み込むオリビア。
その姿は完全に焦りが出ていた。
インコースであれば余裕だと思っていた以上、早々に動揺していたのである。
ブレーキング中に軽くハンドルを右に曲げたかと思いきや一気に左に切り返す時雨。
一方でフルブレーキングからハンドルを左に曲げるオリビア。
やはり余裕を持ったドライビングの時雨と、必死に攻め込むオリビア。
2人のドライビングは間違えなく互いのマシンに影響を及ぼしていた。
「(くっ…アウトに膨れる!)」
「(……)」
ギリギリのブレーキングドリフトで辛うじてコースに残るオリビアのチャレンジャー。
一方で限られた範囲でのフェイントモーションからのアウトインアウトというラインを描き、ドリフトしていくZ33。
アンダーステアを出してアウトに膨れていたチャレンジャーに対し、一本の曲線を描いてドリフトしていくZ33。
やはりラバーポールギリギリを駆け抜けるチャレンジャー。一方でアウトインアウトのラインを描き、立ち上がっていくZ33。
速度差もあり、Z33の方が先行するのはもう言うまでもない。
同じラバーポールにチャレンジャーの右リアとZ33の左フロントが迫って駆け抜ける。
焦りながらも隙間数センチでギリギリを駆け抜けたチャレンジャーに対し、隙間数センチのところを狙って駆け抜けたZ33。
焦りと余裕、オリビアと時雨の感情は逆だった。
2台の前にすぐコーナーの出口が迫る。
「……」
コーナー出口寸前でアクセルをリリースする時雨。
カウンターを当てるべく右にハンドルをニュートラルに戻す。
すぐに後輪の空転が収まった。
コーナー出口の先にある吊り橋上のロングストレートが時雨の視界に入った。
「(…ここだ!)」
「っ…!」
タイヤの空転が収まったところで、再びアクセルを全開で踏み込んだ。
Z33がチャレンジャーを引き離す勢いで加速する。
アウトコースであったZ33は、コーナー脱出の時点でチャレンジャーを完全に追い抜いていた。
一方でインコースであるながらもアンダーステアを出していたチャレンジャーは、アクセルを踏み込んでも立ち上がりでスピードが乗らない。
前方のストレートに向けて、全力疾走するZ33。
一方でそれを追いかけようとするチャレンジャー。
だがコーナー脱出時の速度は…Z33、160キロ近く。チャレンジャー、130キロ近く。
明らかに差があった。
車間距離はあっという間に車2台分近くまで広がる中で、Z33はウインカーを出して左レーンへと移っていた。
「(っ…こうなったら!)」
差が広く中で、オリビアとしてはもう何が何でも食らいつくしかなかった。冷静さもなくなっている。
何せ前方にはロングストレート…スピードを出すならここしかない。
そう思ってオリビアはハンドルに取り付けられていたニトロスイッチを押した。
青いアフターファイアを噴き出しながらチャレンジャーは130キロから170キロまで急加速する。
前方を走っているZ33が、小さくなりかけたところからどんどん大きくなっていく。
「(やはり使ってきたか…でも)」
相手がニトロを使っていても、時雨は全くもって冷静だった。
時雨は数々のバトルの中で、どこでニトロを使うべきかをずっと考えていた。
最低でも1本使うとしたら、やはり超ロングストレートに飛び込んだ瞬間だろう。
いくらロングストレートという事であっても、次のコーナーは超ロングの直角コーナー。
インコースであってもアウトに膨れていたあのチャレンジャーで、コーナーで自分のZ33に勝るドライビングができるのか?
そう思う中で、後方から迫ってきたチャレンジャーが右ウインカーを出して追い抜きにかかっていた。
ストレート区間で何が何でも追い抜こうとしているのだろう。
ロングストレートをアクセル全開で踏み込む時雨、Z33の速度は170キロ台。
一方でアウトコースを走るオリビアのチャレンジャーの速度も170キロ台。
普通ならストレート区間でオーバーテイクはできるだろう。
だが、それでもオリビアはあることを忘れているかのようだった。
「くっ……!!」
「(もし足回りが弱いのを考えずに使ったら…そういうことだよね)」
吊り橋上のロングストレートを駆け抜け、第3コーナーの左直角コーナーへと迫るチャレンジャーとZ33。
明らかにオーバースピードで突っ込んだチャレンジャーはフルブレーキからサイドブレーキをかけて強引にドリフトさせる。それでも足回りが限界を超えてアウトへと膨れていく。
そんな最中でオリビアはブレーキを踏み込んで必死に壁に接触させないように必死だった。
そしてそんなドライビングをした暁には…速度が160キロ台から100キロ近くまでという大減速をしてしまうのはもう時雨でもわかっていた。
「No……!!」
完全にアンダーステアを出していたチャレンジャーは、大幅に減速をして右端の壁スレスレを駆け抜けていく。
だがその速度は90キロ台と到底「速い」とは言い切れず、大幅なタイムロスというのはオリビアでもわかっていた。
アンダーステアがいつまでも収まらないチャレンジャーを必死にインコースに移動させようとしても、全くもってラインが変わらない。
ずーっとアウトコースを走り抜けているのだ。
コーナー中間を走っていても、オリビアのチャレンジャーは進路を走行レーンの内側に変えることが出来ないままだった。
「(強大なパワーを手に入れた以上、必要になるのはそれを適切に扱える技術と足回り…)」
一方の時雨。第3コーナー直前で130キロ台まで減速し、ハンドルを右から左に切り返してフェイントモーションを誘発。
そのまま後輪を滑らせ、適正ともいうべき速度でインコーススレスレ…インベタのラインを駆け抜けていく。
左端の隙間と左フロントの隙間が十数センチに迫る中で時雨はハンドルを右に曲げ続けてカウンターを当て、アクセルを踏んでドリフトの「飛距離」を伸ばしていた。
130キロ台から徐々に加速していくZ33。
一方でアウトコースでアンダーステアを出してばかりのチャレンジャー。
コーナー中間でZ33はチャレンジャーを追い抜き、そのままわずかに白煙を上げながらドリフトしていく。
コーナーの出口に向けて、繁華街の中を切り裂くように美しくドリフトしていくZ33。
「(もう後ろは見ない、これで決める!)」
第3コーナーを駆け抜けた勢いのままハンドルを右に曲げ続け、逆ドリフトで第4コーナーの右直角コーナーもインベタのラインを描いてドリフトしていく。
速度は140キロ台を維持しながら、ドリフト状態で第4コーナーを立ち上がっていく。
そして第4コーナーを駆け抜けたところにあるゴールに向け、コーナー出口寸前でアクセルリリースをすることでグリップを回復したZ33は、アクセルオンとともにフルスロットルで…ゴールラインを170キロ以上の速度で颯爽と駆け抜けていくのだった。
「の、No way……」
オリビアにとってはもう負けを認めるしかなかった。
チャレンジャーが第4コーナーに飛び込んだ時点で既にZ33はゴールラインを駆け抜けていたのだ。
相手が「モンスター」と呼ばれていた以上覚悟をしていたとはいえ、ここまで圧倒されるとは思っていなかった。
とはいえ必死になるあまり自分を見失ったことが最大の敗北要因であることに、オリビアは気が付いていたのだった。
時雨のZ33がゴールした後、オリビアのチャレンジャーもゴールはした。
だがもう既に時雨の姿はゴールの先だった。
―――勝者、時雨。
タイム差は5秒近くあった。
―――バトル後。
ゴールしたZ33は、ゴールから少し離れた場所のの路肩にハザードランプを点滅させて停車していた。
会場の熱気がコース近くまで伝わってきていた。
「時雨の勝ちね!すごい歓声だわ…!!」
「ふう…まあ、こんな感じなのかな」
「お疲れ様、時雨!相変わらずすごいわね…」
「うん…まあまあ、かな」
Z33車内で、時雨に対し奈美子が話しかけた。
奈美子は時雨を褒めたが、時雨は決してそれを鼻にかけることはなかったのだった。
すると、遅れてきたオリビアのマシン…チャレンジャーが時雨のZ33の前に止まり、オリビアが左手を出して前方を指さした。
どうやら「ステージへ戻ろう」という事らしい。
「オリビアさんが誘導してくれるみたいだ。行こうか」
「ええ、行きましょう!」
そう言ったところでパッシングをした時雨。
それに応じてチャレンジャーが発進し、それに誘導される形でZ33も後方へついていくのだった。
◇ ◇ ◇
2台がステージ脇に止まり、オリビアは2人を特設ステージに招く。
ステージに3人が揃うと、その雄姿をたたえるかのように大歓声でステージが埋め尽くされた。
向こうの人間らしくお辞儀をすると…ニューヨークのドライバーで溢れる会場は、更に盛り上がった。
「時雨!」という歓声と「奈美子!」と名を呼ぶ歓声も聞こえる。
「いやー、負けちゃった!悔しい!でも楽しい!ケミック&モレック社は、そんなドライバーにパーツを提供してるわよ〜ん!」
「(自らの敗北も宣伝のネタにするか。予想以上のメンタルね…ん?スクリーンの映像が乱れてる…?)」
オリビアの言葉に対し、ギャラリーも再び沸き立った。
やはりオリビア単体の人気も相まっての事だろう。
すると、そんな中で口を動かしたのは…誰を隠そう、ドライバーの時雨だった。
「それじゃあ、バトル前の話の通り…奈美子のお父さんのことについてお話してくれますか?」
時雨がオリビアにどこか詰め寄るかのようにそう言った。
だがオリビアも約束通り「わかったわ」と一息つき…こう口にし始めた。
「OK、約束だから勿論よ。元々私はね…ケミックに入ってもモデルのときとやる事は変わらなかった。ホント悔しくってね。で、私も走れるんだって、練習してたの。そこにヒュウガが現れて、こう言ったわ――」
「それって、一体?」
「それはね…”どうすれば社長に会える?”だって!だから私はこう言ったの。”女性に言う最初のセリフがそれ?”って。そしたら彼ってば、目を丸くしてた!」
オリビアがそう言うと、ギャラリーがどっと爆笑している。そして爆笑と同時に、歓声も上がった。
アメリカンジョークとしては悪くなかったのだろう。そしてオリビアの対応もファンの想像通りだったっということでもあるのかもしれない。
「は、はあ…」
「お父さんったら…レディの扱いが雑なんだから…」
「でね、その後はギブアンドテイク。彼が車の走り方を助手席で教えて、私がCEOを見かけた場所を教えた。それで――ってあれ?」
オリビアがそう話しかけると同時に、ノイズが走っていた大型モニターにエンジンルームの開かれた1台の車と1人の男が現れた。
どうやら見たところ黒人のようだ。
「わ、What's!?」
「これは…!?」
「えっ、何これ!?」
スクリーンの様子を見たオリビア、時雨、奈美子が驚愕する。それどころかギャラリーたちも動揺している。
この映像は一体…?そう皆が思っていると映像が流れだした。
「Yo,Yo!ケミックのイベントに集まってるニューヨークのドライバーの皆!オクティからHotなニュースだ!この車を見てくれ!」
そう言って映像中の男が示したのは、先ほど映っていたケミックの車だった。
「あれは…?」
「ケミックの車?」
「それに、あのパーツは?」
3人が動揺しながら見ていると、映像の男が説明するかのようにこう言い出した。
「このパーツに見覚えが無いとは言わせねぇ。そう、オクティのCoolなパーツだ。だが、この車はどこの車だ?見ろ!ケミックの車じゃねぇか!騙されるな!本物のパーツはグレートオクティ!グレート・オクティ・カスタムズだ!」
映像の男がそう言い放つと、ステージを見ていたギャラリーの多くが動揺し始める。
不気味な程にザワザワザワザワと言い出し、「これは一体どういうことなのか?」と疑問を呈する事態になっていた。
「なんだこれは…パソコンが入力を…受け付けない?ハックされてるのか!?回線を抜いても…映像が止まらない!!」
ステージの端で映像を担当していたケミックの担当者が映像を止めようとするが、映像は止まらない。オクティのプロパガンダは続いていく。
だがあんなものをいつまでも流されては企業の信用失墜になりかねない。どうすれば…と思っていた時だった。
「そこをどいて」
「あ、あんたは…!?」
そう男が反応したかと思いきやサマンサはケミックの工具箱からモンキーレンチを手に取ると、力任せにノートパソコンに振り下ろす。
ガシャンという音と共に音声と映像は止まったが、関係者パスをぶら下げたサマンサに、全員の目が点になった………
「Wow…」
「だ、大胆に…」
「…動画を止めたんだけど、何か問題でも?」
つい声を上げたオリビアとスタッフ。
同時にサマンサの言葉に対し、一同は静まり返ることしかできなかったのだった。
(第14話End)