「艦これ」いつかあの海で×ドリフトスピリッツ 第二幕 2024 -いつかあの頂で- 作:カービィ改二
遂にビッグママとの連絡役と接触に成功する時雨。
しかしその男は一癖も二癖もあって…
ヒュウガの行方を知る人物「ビッグママ」。
彼女と繋がりのある「ウーゴ」に会うため、時雨と奈美子はクロエから指示されたダイナーへと向かった。
ダイナーの用心棒「ビクトル」とのコミュニケーションに成功したものの、ウーゴは酔いつぶれており、会話ができる状態ではなかった。
5日後、奈美子のスマホにウーゴから連絡がくる。
応対した奈美子は眉間にシワを寄せながら、黙って終了のボタンをタップしたのだった。
―――ダイナー「ゲレーロ」に向かうZ33の車内。
運転中の時雨に対し、奈美子はこう交渉していた。
「ウーゴとの会話だけど…お願いッ!!今度から時雨が応対してッ!」
突拍子もない交渉だった。
時雨にとっては不思議だった。
一体何があったというのか?
「珍しいね…どうしたんだい?電話で何か言われたの?」
「ううん、普通のこと。ダイナー『ゲレーロ』に着く時間の確認だけ…だけど……その…なんていうか…」
「なんていうか?」
そう言うと奈美子はトラウマを思い出すかのようにこう口にした。
「声がネットリしてて…人生で初めて、スマホ越しに生暖かい吐息を感じたのよ!!ちょっと私…電話ムリ…」
「そこまで…?まあ、そう言うのなら次は僕が出るよ」
「ありがとう!あ、もうすぐウーゴと待ち合わせしたダイナーね!」
ウーゴと待ち合わせしているダイナーの駐車場へと入っていくZ33。
駐車場の端にマシンを駐車した2人は、ダイナーの入口へとやってきた。
そこにいたのは、2人も良く知る顔だった。
「よく来たな…二度手間をかけてすまない」
そう言った例の高身長男…ビクトル。
やはり2人を待っていたようだ。
「今日は、大丈夫なのよね?」
「ああ、仲間に監視を付けている。さあ、こっちだ」
「お邪魔します」
そう言って時雨と奈美子は、ビクトルに連れられてダイナーに入るのだった。
◇ ◇ ◇
ビクトルに案内されたテーブルには、メキシカンハットを被ったメキシコ系男性とその仲間たちがいた。
ビクトルに案内されたところで、時雨が話しかける。
「失礼、あなたがウーゴさんですか?」
「イヨーゥ!待っていたぜェ……オイラと仲間たちのお迎えさァ…まぁまずはオーナーのオイラから、特製オリジナルカクテルを送るぜェ…」
そう言ってウーゴはシェイカーでカクテルをシェイクし始めた。
そしてそのまま2つのグラスにカクテルを入れるのだった。
「セニョリータァ…ナミコォ…時雨ェ…チミたちにィ、情熱のォ…赤ァいカクテルをォ…作ってあげるよォ…大丈夫ゥ、ノンアルコォールさァ…」
甘くネットリとした声にウーゴの取り巻きから「さすが兄貴ィイィー!」と声が上がった。
差し出されたカクテルだが、時雨としては断ることしかなかった。
「すいません…僕はジュースも飲めないので、結構です。それよりあなたに聞きたいことが…って、奈美子?」
時雨が奈美子を見ると、既に奈美子は顔が青くなっていた。
どうやらよっぽど相性が良くないようだ。
「(う、うわぁああ!!今、さぶいぼが凄い出てる!喋るの無理無理無理の介無理太郎!)」
顔面蒼白で彼女は何も語らない。
こうなってしまった以上、時雨が話を進めるしかないのである。
「(奈美子は話せなさそう…仕方ないか)…すみません、今日は聞きたいことがあって」
すると、時雨の言葉を遮るようにこうウーゴが口にした。
「例の国から来たスーパーセクシィな2人組ィ…時雨、ナミコォ…。チミたちにあった人はみんなァ…協力しようと頑張っているなんてねェ…」
ウーゴはやはり時雨の存在に興味があるようだ。
一体何が彼女へと引き付けるのか。
一体彼女の魅力は何なのか。
その美形以外に何か理由があるのではないか。
そうウーゴは勘ぐっていた。
「ニューヨークの初めてのバトルでサマンサと会って、成り行きでこうなったんです。たまたま目的が同じだっただけで…」
「それでもみんな知りたいんだよォ……チミたちが何者でェ…どうしていろんな人間が協力しようとしているかをォ…オイラも含めてねェ…!」
ウーゴは実力を示してほしいかのようにそう言った。
挑戦状というべきウーゴの発言に、時雨は「まあ、そうなるよね」と言いたげにこう言った。
「…バトルして腕を確かめたい、ということですね?それなら、お相手しますよ」
「ほほォ…話が早くて助かるぜェ…!それじゃ、早速オイラの仲間たちと頼むぞォ…!」
「奈美子」
「う、うう…」
立ち上がった時雨は奈美子の腕を軽く引っ張りつつも、ダイナーを出て再び愛車の下へと向かう。
◇ ◇ ◇
―――vsウーゴの舎弟A
推奨BGM:SPIDER BOY(from EUROBEAT FLASH vol.9)
相手の車は赤色でファイアーパターンのペイントをまとったダッジ・チャージャー(SRT8)。
チャージャーの3代目…典型的なアメ車である。
コースはビッグストリート復路。
左レーン、チャージャー。右レーン、Z33。
2台がスタート地点となる吊り橋の中腹に並んでいる。
「(まずは…小手調べ)」
同じコースを舞台にしたバトルとはいえ、相手のドライバーたちが徐々に速くなっていることは時雨でも感づいていた。
ここまで来た以上、ウーゴの舎弟たちもきっとそれなりの実力があるのだろう。
そう時雨は思いつつも、油断せずに挑んでいくことを決めていた。
奈美子の父親の事を知る人物まであと少し…
そうである以上、絶対に負けることは許されない。
そしてそんな気概を自覚しつつある中で、カーナビのカウントダウンが始まろうとしていた。
3
2
1
GO!
「―――!!」
「……!」
2台のドライバーが互いにスタートシグナルと共にギアを切り替え、アクセルを全開に踏み込む。
スタートではほぼ互角だったが、徐々に加速の伸びでZ33が先行していく。
馬力勝負ではZ33の方が上なのである。
おまけに空力でもZ33の方に分があるようだ。
速度は軽く160キロは出ているだろう。
「(っ…速い!だが…)」
チャージャーのドライバーはアクセルを全開にして踏み続けるが、それでも徐々に差を付けられていく。
伊達に600馬力のマシンとはいえ、こちらだってアメリカンマッスルカー。
決して負けてはいなかったとはいえ、徐々に車間が開いていく。
車間距離が車1台分ほどまで開いたところで、Z33はブレーキをフラッシュさせたかと思いきやウインカーを出して右レーンから左レーンへ。
そしてそのまま後輪を滑らせ、第1コーナーである左直角コーナーへと飛び込んでいく。
どうやらハンドルを左に曲げている途中でサイドブレーキを軽く引いたようだ。
車線変更からそのままスピーディにドリフトしていくZ33は、みるみるうちに後方のチャージャーを引き離しにかかっていた。
走行レーンの中央から左端へと移動するZ33は、そのままインベタのラインを描いてドリフトしていく。
「(そんなスピードで飛び込んで…!)」
チャージャーのドライバーにとってはその走りは速すぎた。
自分が同じ速度で飛び込んだら、間違えなくアウトに膨れてしまうだろう。
マシンの限界をある程度把握している以上、あそこまで踏み込めないことは自分でも嫌と言うほどわかっていた。
だが、なんとしてでも食らいつかなければならない。
多少の無茶をしてでも飛び込まないと、追いつけない。
オーバースピードで突っ込まないとあのZ33には追い付けないと確信した。
速度は150キロ以上出ているが、それでも限界までブレーキを我慢している。
「くっ…!」
限界までブレーキングを我慢して思いっきり踏み込み、ハンドルを左に曲げる。
強く踏んだことでマシンは一気に態勢を左に向けてドリフトし始める。
左を向いたところでハンドルを右に切り返し、アクセルを踏み込むことでドリフト状態へ。
走行レーンの中央を走りながら、カウンターを当てつつドリフトしていくチャージャー。
だが、アクセルを全開に踏み込み続ける最中にあることに気が付く。
「(…曲がり切れない?)」
オーバースピードで、タイヤが徐々に外に膨れている。
走行レーンの中央から右側へと徐々にチャージャーが進路を移動しているのに気が付いていた。
だが、アクセルを踏み込まないと先行するZ33には追い付けない。
ただでさえ今でさえ車間距離が徐々に開き続けているのである。
自分の車よりも車重があるZ33なのに、なぜあんなにもインコースを攻め込んでいられるのか?
それもどうして、自分の車では到底曲がり切れない速度で自分よりもインコースをドリフトさせ続けていられるのか?
わけがわからなかったが、この状況ではアウトコースに膨れてタイムロスは必至だろう。
「っ…!」
多少のタイムロスをとってもアウトコースに膨れすぎないことを優先したチャージャーのドライバーは、アクセルをフルスロットルからパーシャルスロットルまで調整することでアウトコースへ膨れすぎることを抑えようとした。
右リアサイドがラバーポールスレスレまで膨らみかけたところでチャージャーは何とか内側へと移動していくが、同時に速度は140キロ台から120キロ台まで下がってしまう。
やはり足回りが付いてきていないようだ。
アウトコースに膨れないのは良かったが、結果として速度が落ちてしまっている。
おかげで前方を走っているZ33との車間距離は車3台近くまで開いていた。
Z33はチャージャーが第1コーナーの中間をドリフトしている最中にはすでに第2コーナーへと飛び込んでおり、おまけに右レーンへ移動して、第2コーナー中間にあるトンネル区間へ飛び込んでいた。
こうなった以上距離が開くのは当然だろう。
「(とにかく、食らいつかなくては…!)」
チャージャーのドライバーはとにかくコーナーを脱出してレーンを移ることを優先していた。
第1コーナーの出口が迫る中、チャージャーのドライバーはハンドルを右に曲げたままアクセルをリリースし、チャージャーを左向きから右向きへと方向を変えていく。
そしてコーナーを脱出してコーナーとコーナーの間でウインカーを出しつつもアクセルを踏み込むことで、チャージャーを左レーンから右レーンへと移動させていく。
そしてその移動した勢いのまま、チャージャーは再び後輪を滑らせてドリフト状態へ。
だが…
「(くっ…速度が乗らない!)」
左から右へと体制を変えた時において、チャージャーの速度は120キロ台から110キロ台まで下がってしまっていた。
アクセルオフの時間が長すぎてしまっていたのである。
本来ならパーシャルスロットルでも問題なかったのに、アクセルオフにしてしまったことで失速してしまった。
アクセルオフの時間が長かった、あるいはパーシャルスロットルであるべきだったのにアクセルを抜いてしまったために、速度が失速してスピードに乗らなかったのである。
ハンドルを右から左に切り返してアクセルを踏み込むも、ドリフト状態である以上思ったほど速度が乗らない。
失速してしまった速度を回復させるためにはグリップを回復させる必要があるのだが…やはりドリフト状態と言うこともあり、速度が上がらないのは当然と言うべきだろう。
速度は120キロ台までしか加速しない中で、チャージャーはトンネル区間へ。
そしてチャージャーがもたもたドリフトしている間にも、先行しているZ33は第2コーナーを立ち上がって第3コーナーへと飛び込みインベタのラインを描いてドリフトしていた。
まるで氷上を颯爽と滑るように、あるいは上昇気流に乗るかのように加速しながらドリフトしていくZ33は、あっという間にチャージャーのドライバーの視界から消えようとしていた。
「(前みたいに一方的、というわけではなさそうだ…あのドライバーはミスをしたけど)」
一方、最終コーナーの左ロング直角コーナーでハンドルを右に曲げてカウンターを当てつつも、アクセルを踏み続ける時雨。
Z33は最終コーナーにおいて、右レーンから左レーンへ移動してインベタのラインを描きつつもドリフトしていた。
これまでのバトルにおいて、自分は幹部たちを除いて殆ど一方的な勝負ばかりをしてきていた。
だが、相手のマシンは少しずつではあるものの確実に速くなってきている。
実際、ストレート勝負では僅かにこちらが有利なだけで、もしあのままストレートが長かったら食らいつかれていた可能性だって十分にあったのである。
やはり必要なのは、相手のマシンを見極めてどこで勝負を決めに行くかを見極めることなのかもしれない。
今回のバトル相手の場合だったら、コーナーで勝負を分ける結果となった。
もし今後軽かったりコーナーで素早いマシンだった場合は…やはり逆になるのだろう。
「(相手の車の特性を理解しないと…今までのゴリ押しは間違えなく通用しなくなるだろう)」
これまでのようなゴリ押しではなく、相手の車に応じて戦術を変える必要性に関して時雨は気が付き始めていた。
ストレートで速いマシンは大抵コーナーで遅い。
一方でコーナーで速いマシンは大抵ストレートで遅い。
オクティのマシンはどこかが必ず強い一方で、必ず弱点もある…そんなマシンたちなのだ。
もし自分が、相手や相手の車の弱点を突く走りをすることが出来るのであれば…今後さらに有利なのかもしれない。
そう時雨は直感するのだった。
同時に時雨はアクセルをリリースし、徐々にハンドルをニュートラルに戻していく。
Z33が前方のストレートを向いた瞬間、時雨は再びアクセルをゆっくりと踏み込んで加速する。
今日一日長い夜になりそうであると感づいていた以上、時雨はマシンを労わるようにアクセルをゆっくりと踏むのであった。
そしてそのまま最終ストレートをZ33が駆け抜けていく。
速度はコーナー脱出時の150キロ台を維持し続けたまま、ゴールへと駆け抜けていくのだった。
―――勝者、時雨。
タイム差は5秒ほどだった。
バトル後、一旦停車していたZ33の車内で奈美子はこう口を開いた。
「うう…ウーゴも、取り巻きのドライバーたちも、普通じゃないわ……」
「確かに…ヒュウガさん譲りのドライビングテクニックは粗削りだけど、光るものがある。パーツも、少しはいいものを作っているようだね…」
これまでのドライバーたちに比べると多少は速くなっている。
それほど腕がいいという事だろう。
だがそう時雨が思っていると、どこか怒るようにこう奈美子が口にした。
「そうじゃないわよ!さっきみたいに私を口説いてきたじゃない!ネットリと!ネットリとした声で!みんな影響されすぎよ!あの話し方、伝染でもするっていうの!?」
「は、はは…」
奈美子の言葉に対し、時雨は苦笑いするしかなかった。
「あはは、じゃないわよ時雨…あなたは何も思わないの?気持ち悪いとか…」
奈美子にとってはやはりウーゴのあまりにもネットリした口調が気に入らないようだ。
だが、当の時雨はと言うと…
「うーん…僕は別に。まあ、あんな人もいる、ってくらいかな」
「……(ど、鈍感だ…時雨って意外とそういうところがあるんだった!)」
時雨はどこか困惑しながらもそう言ったが、奈美子にとっては逆にそれが驚きでしかなかった。
どこか鈍いフシもあったとはいえ、まさかここまでとは思いもよらなかったのである。
「まあ、一旦は車で待っているといいよ。僕がウーゴさんと話を付けてくる」
「あ…」
そう言って時雨はZ33を降り、ウーゴの下へ向かった。
「ウーゴさん、とりあえず最初の相手は倒しましたが…」
「やるなァ…さぁ、この調子でどんどんやっていこォ。時雨ェ…準備はできてるかなァ…?」
「…いつでもいいですよ。始めましょう」
「クックック…じゃあ、頼むぜェ……!」
ウーゴの言葉に軽く頷いた時雨は、再びZ33へと戻って乗り込んだ。
「奈美子」
「うう…」
「話を付けてきた。またバトルだからよろしくね」
「う、うん…」
奈美子が頷く中、時雨は再びZ33を発進させた。
すると時雨は疑問を浮かべていた。
「それにしても…これって、策略なのかな?マシンそのものではなく、乗っている人に対して妨害を…?」
「…ありえなくないかも。実は時雨がバイトに行っている間に、アビゲイルやオリビアにオクティの要注意ドライバーを聞いたの。満場一致でウーゴって言ったわ」
「そうなのかい?」
奈美子が周囲から聞いたウーゴの評判は、次の通りだった。
まずは野心家のアビゲイルから。
「オクティのドライバーの要注意人物?ウーゴね、間違いなく。え?何で断言できるのかって?うちの受付嬢がバトルで負けた時にね。"部下の車はカンベンしてあげるよオ…代わりにチミの心がオイラは欲しいィ…”って。思い出しただけでも鳥肌が…!受付嬢が泣きながら車を差し出してたわ」
次に宣伝部のオリビア。
「もちろんウーゴよ〜ん!色気があるのは認めるけどぉ〜、なんていうかぁ〜、生理的にダメなのよねぇ〜!男女の愛だってぇ〜、駆け引きだけじゃないでしょぉ〜?なぁんかダメだったのよねぇ〜!」
やはりケミックの女性幹部2人からは明らかに評判が最悪のようだ。
「理由は本人の前でちゃんと話す…伝えなかったら何の意味もないもの!あとは、それ以外にも質問したいことがあるの!」
「…分かった。また一段落したら、ちゃんとウーゴに伝えようか」
そう言って時雨はZ33を発進させ、再びバトルへと挑んでいく。
◇ ◇ ◇
―――数戦後。
奈美子は時雨と共にウーゴの下に向かい、オクティのドライバーたちからの評判を彼に伝えていた。
「オイラの悪い評判をォ…わざわざ聞かせるなんてェ…クックックッ…ナミコォ…やるじゃないのォ…」
そう言うとウーゴは微笑を浮かべたまま膝からガクンと崩れ落ち、頭から路上へと倒れた。…どうやら致命傷を与えたらしい。
「兄貴ィィーッ!!しっかりして下さいッ!」
ウーゴの仲間たちがウーゴを介抱する。
「どうやら今日が天に召される日だァったく、夜だってのにィ…空が明るくなってきやがったなァ…」
「それはたぶん街灯の光ですよ!く、くそっ…ヒュウガの娘…バトルする前に言葉で兄貴を殺しにきたぞ!」
「ちくしょう、ドライビング以外でここまでコケにされるなんて………絶対に負けるわけにはいかねぇ!」
ウーゴの仲間たちが奈美子に対して「よくも俺たちのウーゴを」と言わんばかりに非難する。
同時に彼らのやる気も自然と上がっているようだ。
「…よし、計画通りよ!オクティのドライバーは怒ったけど、あのネットリした声は聞こえなくなったし、イ、イーブンよ、イーブン!それにほら!ウーゴが仮にバトルに出てきても、こっちが有利にバトルできるじゃない?はいっ!この話はこれで終わりっ!」
「…あとウーゴさん?奈美子からまた質問があるそうなんですが」
時雨がウーゴをどこか誘惑するようにそう言った。
「…なに、どうしたんだ…?オイラに話してェ…ごらんよオ…!その可愛くてツヤツヤな…唇でよオ…!」
時雨がウーゴに話しかけると、ウーゴはすぐに立ち上がった。
どうやら先ほどの気絶は大したことでもなかったようだ。
「ううっ、気持ち悪い………ええっと、オクティの車と人の数が一致しなかったの。誰の車がないの?」
「そりゃあアレだァ…」
奈美子が質問すると、ヘラヘラと笑っていたウーゴの顔が固まったかと思いきや…ワンテンポ遅れて話しはじめた。
「悪いなナミコォ…いくらチミからの質問でもォ…それには答えられないィ…」
「答えられない?…どういうこと!?」
「………」
奈美子が驚くと、ウーゴは完全に黙り込んでしまった。
するとその様子を見かねたウーゴの仲間が勝負を仕掛けてくる。
「ウーゴから離れろ!それ以上聞きたかったら、俺とバトルをして勝ってからにするんだな!」
「…まあ、いいか。バトルしましょう」
そう言って時雨は再び奈美子を引き連れてZ33へと乗り込んでいく。
再びバトルが始まろうとしていた。
―――vsウーゴの古い舎弟
推奨BGM:X-MAN STORY(from EUROMACH7)
相手の車は赤色のV37スカイライン、そのハイブリッド車両。
コースはビッグストリート往路。
左レーン、V37スカイライン。右レーン、Z33。
「(ユキの車と同じモデルか…)」
時雨の最大のライバル、雪風が搭乗するマシンもV37スカイライン。
だが、あのマシンはV37スカイラインの中でも最高級とも言うべきニスモのマシンなのに対し、こちらのマシンは350GT HYBRID Type SP。
420馬力あるV37スカイラインニスモに対して、こちらのV37スカイラインハイブリッドはおおよそ300馬力と言ったところだった。
外観こそV37スカイラインではあるものの、雪風のそれとは明らかに違うことを時雨はエンジン音で感づいていた。
何せハイブリッド車のスカイラインとガソリン車のスカイラインではエンジン自体が全然違うし、雪風のそれはニスモ仕様にさらに独自のチューニングが施されていた以上、明らかに格が違うのだ。
仮に雪風のそれと、今の相手のそれを対決させたら…まあ、雪風が勝つだろう。
だがそうであったとしても、時雨としては油断をすることはできなかった。
どんな相手でも油断してしまったら、足元をすくわれる可能性は十分にあるのだ。
そう意識したところで、カーナビのカウントダウンが始まろうとしていた。
3
2
1
GO!
「っ…!」
「……」
2台がスタートと同時にマフラーからアフターファイアを噴き出しつつ加速していく。
ギアを切り替えつつも加速していくV37スカイライン。
一方でオートマ状態で加速していくZ33。
ストレート区間を並走する2台のうち、先手を取ったのはやはりエンジン面で優位なZ33だった。
スタート直後に頭を取ったかと思いきやすぐにスカイラインを追い抜き、徐々に差を広げていく。
「くっ…速い!だが…」
「(ストレート有利の大逃げ…かな。でも、)」
相手が雪風のマシンと同系列のマシンである以上、時雨としては油断するわけにはいかなかった。
相手がどんなマシンだからと言っても見くびるわけにはいかないのだ。
ほんの一瞬の油断が勝敗を分けてしまうということは彼女自身がよくわかっていた。
そうである以上、連戦だからある程度手を抜いても絶対に油断はしないということは彼女自身が強く認識しているのだった。
スタート直後のストレート区間を駆け抜ける2台だが、Z33の速度が180キロまで到達していたにかかわらずV37スカイラインは150キロまでしか到達していない。
車間距離が車2台分まで開いたところで、Z33は第1コーナー…右直角ロングコーナーへと飛び込んでいく。
「……」
コーナー直前で時雨はアクセルオフからハンドルを僅かに左に曲げたかと思いきや、ブレーキをかける。
ブレーキを掛けつつハンドルを右へと切り返し、速度が140キロまで下がったところでアクセルを踏み込んでいく。
後輪が滑り出してドリフト状態になるZ33。
ある程度右を向いたところで時雨はハンドルを右から左へと切り返し、カウンターを当ててドリフト状態を維持させる。
速度は140キロ台から150キロ台になり、走行レーンの左端から右端へと移動したZ33はそのままインベタの状態で路肩にタイヤを乗っけるような形でドリフトしていく。
一定の舵角を維持しながらドリフトし続けるZ33。
完全に後方を振り切る前提で時雨はアクセルを踏み続けていた。
だが本来はパーシャルスロットルでも問題ないのに、この時時雨はアクセルを全開に踏み込んでいた。
それはやはり、後方に食らいつかれないようにしたいという意識があったからかもしれない。
コーナーの4分の3を過ぎたところで、時雨はアクセルをリリースしてハンドルをニュートラルへと戻していく。
ドリフト状態から推進状態へと変化していくZ33。
速度は150キロまで下がったが、この時点でタイヤのグリップは回復していた。
「…!」
タイヤの空転が収まったことを認識したところで、時雨はハンドルをしっかりと握ってアクセルを再び踏み込む。
とはいえ全開ではなく、4分の3程度。
言ってしまえば僅かに加速できる程度である。
速度は150キロ台を維持しながらZ33は加速するが、前方には第2コーナーである左直角コーナーが迫る。
だが、時雨はウインカーを出すことはなかった。
もしここで変に左に曲げてしまった場合、タイヤを使ってしまうことになる。
いくら自分のマシンが履いているタイヤが長距離を走っても問題ないハードタイヤであっても、やはり変にタイヤを使うわけにはいかないのだ。
そうである以上、時雨は一定のハンデとして右レーンを維持させることを決めた。
目の前に第2コーナーが迫る中、時雨はハンドルをまた僅かに右に曲げた。
僅かに右に曲げつつブレーキを軽く踏み込む時雨。
速度は150キロ台から140キロ台まで下がる。
車の荷重が前へ移ったのと同時に、ハンドルを左に切り返してアクセルオン。
後輪が滑り出したところでハンドルをニュートラルに戻していき、一定の角度…20度に満たない状態でドリフトさせるようにハンドルを右へと切り返してカウンターを当てる。
カウンターを当てられたZ33は、一定の角度を維持しながらコース中央のラバーポールにノーズを接近させたままドリフトしていく。
「っ…!」
一方、後方で追いかけるV37スカイラインのドライバー。
V37スカイラインは第1コーナーを右レーンでドリフトしていてコーナーを立ち上がろうとしていた。
先程までのバトルをある程度観察していたとはいえ、何故かそれ以上の速さに感じられる。
一体どういうことなのか?
先程のバトルでは本気を出していなかったという事なのか、それとも自分が相手だから本気を出したのか。
だが何にせよ、同じ速度でコーナーに飛び込めない。
前方のZ33は既に第2コーナーのトンネルに飛び込み、それを脱出しようとしていたのである。
相手の車のパワーも足回りも到底追いつけるような相手ではないのかもしれない…そう思うのには時間がかからなかった。
「……」
第2コーナー中間にあるトンネル区間をドリフトで駆け抜け、コーナーを脱出しようとしているZ33。
前方にコーナー出口が迫る中で、時雨はアクセルをリリースしてハンドルを徐々にニュートラルに戻す。
タイヤのグリップが回復するようにアクセルをリリースし、ハンドルを右に曲げ続けたことでタイヤの空転は徐々に収まっていく。
そしてZ33が目の前を向いたところで、時雨はハンドルをニュートラルにした上で再びアクセルを軽く踏み込む。
速度は140キロ台から150キロ台まで加速するが、すぐに次のコーナーが迫っていることも時雨は把握していた。
最終コーナーは右直角ロングコーナー。
右レーンを走っている以上、車線変更は不要だ。
だがそれでも、長いコーナーである以上フェイントモーションで飛び込むことは必要不可欠だろう。
そう思った以上、アクセルを踏み込みつつもハンドルを僅かに左に曲げ、Z33のノーズを僅かに左に向ける。
そこからアクセルをリリース、ブレーキを軽く踏み込んでマシンの荷重を前に持ってきたところでハンドルを右に切り返してアクセルを踏み込む。
速度が140キロ近くまで下がったところでコーナーに飛び込んだZ33は後輪を滑らせ始め、ドリフト状態へ。
一定の角度…15度程度を付けたところで、ハンドルを右から左へと切り返す。
左にハンドルを切り返したことでZ33はアングルを維持しながらドリフトしていく。
走行レーンの左端から右端へとラインを描くZ33は、路肩に前輪を乗っけるような形でドリフトしていく。
ドリフトし続ける中で時雨はアクセルを踏み続け、勢いを維持したままドリフトし続けていた。
後方のV37スカイラインは完全に完全にバックミラーから消え去っていても、時雨はアクセルを踏み続けることをやめなかった。
「(やっぱり、意識しちゃったのかな)」
Z33をドリフトさせ続ける中で、時雨はV37スカイラインの姿に雪風のそれを知らず知らずのうちに重ねていることに感づいていた。
そう簡単に自分が負けるわけにはいかないのだ。
自分が追いかけるべき壁はとんでもなく高い以上、何が何でも負けたくないという意識が自然と強くなっていた
連戦である以上あまり本気は出したくなかったのだが、自然とアクセルを踏む力もハンドルを握る力も強くなっていた。
やはり彼女の事を思い描いていたのかもしれない。
そう思う中で、Z33の前方にコーナー出口が迫る。
「(でも、負けるわけにはいかないから)」
自分たちには走る目的がある以上、そう簡単に負けるわけにはいかない。
そう認識したところで時雨はアクセルをリリースし、そこから左に曲げていたハンドルをニュートラルに戻す。
エンジンパワーが伝わらなくなったZ33の後輪タイヤは空転を徐々に収めていく。
右を向いていたZ33のノーズも、やがてコース前方の吊り橋を向いていた。
そしてタイヤの空転が完全に収まったところで、時雨は再びアクセルを踏み込んだ。
140キロ台から150キロへと加速していくZ33。
だが時雨はアクセルを全開に踏み込むことはしていなかった。
やはり連戦がまだ続くと認識していたからだろう。
速度は良くて160キロ台。
だがこれでも時雨には余裕があった。なにせコーナー区間で完全に振り切っていたのだ。
そして振り切った以上、最終ストレートである吊り橋区間はもう消化試合。
マシンを多少労わるように時雨が操縦する中で、Z33は吊り橋を渡り切ったのだった。
―――勝者、時雨。
タイム差は時雨が多少本気を出したこともあって、7秒以上はあった。
◇ ◇ ◇
―――バトル後。
「時雨、車をダイナーの方へ移動させて。ちょっとウーゴと話してくる」
バトル後、吊り橋を渡り切って一旦停止した車内で奈美子が時雨に話しかけた。
「あれ…どうしたの?あれだけ話すのイヤだって言ってたのに…」
「ウーゴが何か隠してる。ここにバトルしに来ている人と、オクティの車が合わないの」
「さっきの質問だよね?まあ、そういうことなら一旦行こうか」
「よろしくね」
そう言って時雨は再びZ33を発進させ、ダイナーの方へ移動するのだった。
―――ダイナー付近。
「ちょっと待って…バトルをする気がない?…どういうこと!?」
ウーゴと対峙する時雨と奈美子だが、声を上げたのは奈美子だった。
なんとここにきてウーゴは時雨たちとバトルする気がないと言い出したのである。
「どうもこうもないよォ…オイラは元々車なんて…持ってないんだよォ…貧乏ダイナーのオーナーだからねェ…」
周りを囲むオクティとの間に緊張が走る。
するとその時だった。
プルルルル、と音が響く。
「…電話?」
沈黙を切り裂いたのは奈美子の持つスマホの着信音だった。
どうやらサマンサからのようだ。
「もしもし、いま取り込み中で…はぁ!?…ごめん、びっくりしただけ。うん……うん…行けたら行くわ」
奈美子は通話を終えるなり、ものすごい形相でウーゴを睨みはじめた。
その様子を不穏に思った時雨が話しかける。
「…奈美子、どうしたの?」
「サマンサから連絡があった。ケミックのテリトリーでウーゴの車が…無差別にバトルを仕掛けているって」
「え…なんだって?それって、一体…?」
そう言って時雨と奈美子はウーゴを見つめる。
だが、ウーゴはどこかヘラヘラしていた。
「無差別にバトルねェ…ナミコォ…オクティのドライバーとバトルだァ…まだ全員、納得してないぜェ…」
「待ってくれ、ケミックとバトルをしているのは誰なんだい?」
「…ウーゴ、あなたは本当は誰なの?」
だが、問い詰める2人にしびれを切らすかのようにこう口にした。
「質問をするなァ………!!黙ってバトルするんだよォ…!!チミたちにはァ…それ以外に…方法は無いんだからなァ………!」
「…まあ、いいさ。次の相手をよこしてよ。待ってるから」
「言われなくてもォ…やってやるさァ……!」
ウーゴがそう言ったところで2人は再びZ33へ向かっていく。
「ごめんなさい、時雨。私はナビなのに、判断を間違ったわ。ここはニューヨーク。サマンサの言うことを聞くんだった…」
Z33の車内で奈美子はそう呟いた。
だが時雨はそれもあまり気にしていないようだった。
「…いや、ちょっと待って。僕には少しずつ分かってきたことがあるんだ」
「え…?何が分かったって言うの?」
奈美子が落ち込む中、時雨はあることに気がついていた。
「ヒュウガさんの行方を知りたいのは僕たちだけじゃないってことだよ…きっと、あの人達もヒュウガさんと走りたいんだと思う」
「それってまさか…ケミックを追い出してオクティのテリトリーに…」
「…どうだろう。でも、可能性はあるかもしれない」
時雨の言葉に対し、奈美子は嘆きながらこう呟いた。
「サマンサ…ごめん。相談もせずに動いたから、こんなことに…ケミックも助けに行けそうにない…」
自分に情報をくれたサマンサの援護に回りたいが、こんな状況ではとても無理だ。
そう思っていると、それを聞いた時雨が鼓舞するかのようにこう口にする。
「…まあ待ってくれ、奈美子。まだ希望がないわけじゃない…残りのオクティのメンバーを倒して、現場に行くことが出来れば」
残っているドライバーたちを倒せばいけるはずだ。
そう言った時雨は、次のバトルへと向かっていく。
「…そうね、さっさと倒してしまいましょう!」
時雨の言葉に奈美子もどこか元気を取り戻した。
そしてそれに応じるかのようにZ33は再びコースインするのだった。
―――時雨と奈美子がバトルに取り組んでいると、ダイナーの前に時雨と奈美子でもよく知る例の交渉役が現れていた。
その男とウーゴが会話して様子を見守っている。
「参ったな。なんでこんなことになっている。ウーゴ、時雨達とは戦う必要がないのは前来た時に言っただろ?」
「みんな根っからのドライバーなんだよォ……コイツはいい奴だって自分で一緒に走って確かめてえんだよォ………オイラ含めてなァ…」
どうしてこうなっているのかが気になったリチャード。
一方でみんな時雨の実力を気になっているというウーゴ。
やはり皆走り屋でありドライバーであるということの照明なのだ折る。
「…しかし予想以上にヒートアップしてるなァ…まあでも大丈夫だろォ…お前が見込んだドライバーだしィ…パートナーはあのヒュウガの娘だからなァ…」
「だがダラダラやってもしょうがない。ウーゴ…もう10分もすれば、キミの車が戻ってくる。それで収集をつけてくれよ」
「…あァ…心配するなァ。俺だってェ、やるときはやる男だぜェ…」
ウーゴはヒートアップしている状況を憂慮しながらも、自分だってやるときはやると言うのだった。
◇ ◇ ◇
何人ものドライバーを相手に勝利を収め、残る相手はダイナー「ゲレーロ」のオーナー、ウーゴだけとなった。
時雨と奈美子、そしてウーゴが対峙する。
「ブラボー!流石だぜェ…時雨ェ、ナミコォ…遂にオイラだけ、ってことかァ…」
ウーゴは時雨と奈美子と褒めたたえるかのようにそう言った。
だがこの時点で、時雨と奈美子の間にはやはり疑問があった。
「でもウーゴさん、今あなたの車はないですよね?」
そう、まだこの時点でウーゴの車は用意されていないのだ。
こんな状態でどうやってバトルをするというのだろうか?
「車もなしでどうやっ…て?」
奈美子がそう口にする前に、ダイナーの前に1台の車が停まった。
かつて時雨が首都高でバトルをしたマシン…RUF CTRだった。
だが、カラーは真っ赤ではない。
灰色のマシンにカーボンボンネットが取り付けられ、エアロも派手なものとなっていた。
中から出てきたのは―――
「…ボス、仕事を終えて来た。客人は裏口からVIPルームに通した」
「ご苦労さまだァ…ビクトルゥ………お飲み物でも出してェ…もてなしておいてくれェ…」
そうウーゴが言ったところでビクトルは軽く頭を下げたかと思いきや、何も言わずにダイナー「ゲレーロ」のドアの前に立った。
どうやら仕事モードになったようだ。
「これは、一体…」
「どういうことなの…何を考えているの、ウーゴ!客人って誰!?」
「クックックッ…これからバトルをするのにィ…そんなこと…どうだっていいじゃないかァ…」
奈美子の言葉に対し、ウーゴはのらりくらりとかわす様にそう言った。
だがそう言った以上、やるべきことはただ1つ。
もうそれは決まっていた。
「だったら…このバトルで勝ったら、その客人とやらに会わせてもらうわ!」
「いいぜェ…ただし負けたらァ…2人はオイラがァ…いただいていくぜェ…!!」
「わかりました…バトルしましょう」
「…時雨は負けないから。絶対に!」
バトルで全ての謎を明かす。
それだけだ。
そう互いに言ったところで、それぞれのマシンにドライバーたちが乗り込んでいく。
―――vsネットリ口調のウーゴ
推奨BGM:DRAGOSTEA DIN TEI(EUROBEAT Remix) ~恋のマイアヒ ユーロビートミックス~(from SUPER EUROBEAT vol.154)
先に書いた通り、相手の車は灰色のCTR。
エアロが大きくカスタムされ、カーボンボンネットを装着している。
コースはビッグストリート復路。
左レーン、CTR。右レーン、Z33。
2台が吊り橋の中間でスタンバイする。
「(さァて…)」
ウーゴとしては相手の実力はある程度わかっているとはいえ、やはり多くのドライバーを感心させる実力が気になっていた。
ビクトルを感心させる力がある以上、きっと速いのは間違えない。
だが、そうであったとしてもやはり自分でも実力は気になるのだ。
そしてそうである以上、バトルをして相手の実力をしっかりと見極めたいと考えていたのだった。
そうこう思索しているうちに、アクセルを軽く踏み込んでエンジンの調子を確認する。
「……」
一方の時雨。
相手は一度戦った車である以上、どのような性能なのかはある程度わかっている。
RRのマシンを操縦している以上、きっと実力があるのは間違えない。
そして間違えなく、先手は向こうがとるだろう。
相手のマシンをある程度理解している以上、そう時雨が思うのは当然と言えば当然だった。
では、どうやって勝ちに行くかとなるとやはり追い込んでいく形にするしかない…
コーナーで相手は振り回される可能性がある以上、やはりそこが肝だろう。
コーナー勝負で持って行く。
そんな方針を立てたところで、カーナビのカウントダウンが始まろうとしていた。
3
2
1
GO!
「っ…!」
「……」
2台のマフラーからバックファイアーが吹き出る中、スタートダッシュを決めて2台が加速していく。
先手を取ったのは…CTRだった。
「(一気にィ…逃げさせてもらうよォ……!)」
アクセルを踏み込むウーゴ。
トラクションの良さを生かし、CTRは160キロまで加速する。
加速では僅かにCTRが先に出て、そのまま先行する。
「(やっぱりCTRか…)」
一方、第1コーナーに向けてアクセルは抑えめに踏んでいた時雨。
ウインカーを出して左レーンへと移動し、次のコーナーへと備える。
CTRの真後ろに付き、テールトゥノーズの状態を維持する。
「(でも、コーナーはどうかな?)」
時雨自身、CTRの特性はある程度知っていた。
RRというマシンならではのトラクションの良さ。
そしてコーナーリング時や立ち上がり時の不安定さ。
もし相手がそれなりの実力でも振り回されているとしたら…勝機はそこにある。
時雨はそう思っていた。
テールトゥノーズの状態を維持し第1コーナーへ2台が飛び込んでいく。
「っ……!」
コーナー直前でブレーキを踏み込み、荷重を前に持ってくる。
そしてそのままハンドルを左に思いっきりグイと曲げるウーゴ。
アクセルを踏み込むことで後輪が滑り出し、そこから右へとカウンターを当てる。
走行レーン上の中央をグラインドするようにドリフトし続ける。
速度は170キロ台から140キロ台まで下がるも、そこから上がることはほぼない。
如何せんパーシャルスロットルが限界だったのだ。
それでも他のドライバーに比べれば十分に速い。
伊達に実力者なだけはあるのだ。
だが…
「(んぐ、食いつかれてる…ゥ!?そんな内側を、攻めて…ェ!?)」
「(やっぱり、甘いね…)」
ウーゴが左サイドを見ると、Z33はCTRにかなり接近している。
隙間は数メートルにも満たないパラレルドリフトを披露していた。
だがそれでも向こうがアクセルを緩めることはない。
まるで押しのけようとするかのごとくCTRの内側をZ33はドリフトしていた。
その速度も軽く160キロ近くは出ているだろう。
そして同時にウーゴへのプレッシャーを大きく与える要因にもなっていたがゆえに、ウーゴはわずかながらアクセルを踏み込んでしまった。
「(くっ…やっぱりコイツ…はァ……!)」
アクセルを僅かに踏み込んだだけで挙動が乱れるCTR。
もちろん、スピンするというわけではないのだが…それでもやはり滑らかにドリフトをするという事には陰りが出ていた。
コース中央からやや外側…コース全体の中央へと膨らんでしまう。
一瞬でも操作ミスをすればすぐにどこへ吹き飛ぶかわからないマシン。
やはりそれなりの馬力を持っている以上、マシンを繊細に扱うことが求められる。
だが時雨が後方で食らいつくことで、その繊細さに陰りが出てしまった。
「(…そこだ!)」
CTRがコース中央へと膨れるのを時雨は見逃すわけがなかった。
相手へのプレッシャーをかけるためのパラレルドリフトではあるが、まさかこうもうまくいくとは思わなかったが、こんなチャンスはめったにない。
ハンドルを右に曲げてカウンターを当てつつも、強引にZ33のノーズを左端の壁とCTRの間にねじ込んでいく。
CTRの左ノーズとZ33のボディが隙間数十センチともいうべき際どさだったが、時雨は遠慮なくアクセルを踏み込んでZ33を加速させつつ追い抜いていく。
「くっ…!!」
「……!」
ウーゴとしてはあまりにも歯がゆかった。
アクセルを踏み込んで加速させる必要があるが、逆にそれをしたらマシンの挙動が不安定になるのは言うまでもない。
そしてそう思う中で、Z33はあっという間にCTRを追い抜いてしまった。
インコースを許したがゆえにCTRはあっさりとその座を譲ってしまうのだった。
Z33とCTRはテールトゥノーズの状態でコーナーの出口が迫る。
「……」
アクセルをリリースし、ハンドルを右に曲げ続ける時雨。
左を向いていたZ33は右へとそのノーズを回頭させていく。
第1コーナーを脱出し、第2コーナーへと飛び込む寸前で時雨はアクセルを踏み込んで左へとハンドルを切り返す。
走行レーンを切り替えず、そのまま左レーンでドリフトし続けることを時雨は選んだのだ。
アクセルを踏み込むことで後輪が滑り出し、ドリフト状態となって第2コーナーのトンネルへと飛び込んでいく。
「(もらったァ…!)」
だが、その様子をウーゴは見逃さなかった。
第1コーナーと第2コーナーの間で、ウーゴは右ウインカーを出してそのまま右レーンへと移動する。
そして移動した反動を生かして、そのまま第2コーナーへと飛び込んでドリフト状態となるCTR。
アクセルをパーシャルスロットルのまま踏み込み、ハンドルを左に切り返すことでCTRをドリフトさせる。
速度はやはり150キロ台は出ていた。
だが…
「(…追い抜けないィ…!?)」
トンネル区間においても、Z33はアウトコースでコース中央のラバーポールスレスレのインベタのラインを走り抜けていた。
だがどうじに、速度は少なくともウーゴよりも素早いものだった。
インコース絶対有利なはずなのに、ウーゴはZ33を追い抜くことが出来ない。
それだけあのZ33が速いという事か、それとも策略か。
Z33とCTRはサイドバイサイドの状態でトンネル区間を脱出し、そのまま第2コーナーの出口へ。
「(さて追い抜くか、それとも…)」
時雨としては相手の出方を見定めたかった。
サイドバイサイドになったら相手はアウトコースを維持するのか、それとも意地でも追い抜きに来るのか、あるいは後ろに食らいついてくるか。
だが何にせよ対策はもうできている。
どれであっても自分は対応できると時雨は認識していた。
そんな中で時雨はアクセルオフから左に曲げていたハンドルを左に曲げ続け、右を向いていたZ33のノーズを左へと向けていく。
第2コーナーと第3コーナーの間のちょうど真ん中でZ33のノーズは12時の方向を向き、そこから左へと回頭していく。
2台がサイドバイサイドの状態で第2コーナーを脱出し、そのまま第3コーナーへと飛び込もうとしていた。
「(こうなればァ…!)」
第2コーナーを脱出したところで、ウーゴは軽くブレーキを踏み込んでCTRを僅かに減速させる。
減速と共に左ウインカーを出し、CTRの荷重が前方へと抜けたところでハンドルを左へと曲げてそのまま後輪を滑らせる。
Z33の後方に付いたCTRは、そのままZ33よりもインコースへと飛び込む算段へと出た。
先程時雨がやったことの仕返しと言えば仕返しだった。
140キロ台で飛び込んだCTRは、そのまま左に回頭したかと思いきや後輪が滑り出してドリフト状態へ。
一方、前方のZ33もほぼノーブレーキで第3コーナーに飛び込んで後輪を滑らせていた。
インコースまで攻め込めば追い抜ける…そうウーゴは確信した。
ドリフト時にパーシャルスロットル状態で踏み込み続けるウーゴ。
速度は150キロ近くは出ている。
だが…
「(同じラインをォ…!?)」
「……」
自分が走りたいインベタのラインを前方のZ33は完全に潰しにかかっていた。
それどころか潰されたライン上をZ33は自分よりもスピーディにドリフトしてる。
おまけにドリフトアングルは50度程度あり、縦長のZ33の車体は完全にライン潰しに成功していた。
だがそれでも速度はウーゴのそれよりも素早い。
前に出られたならインコースを突っ走って強引に追い抜き、並走されたらインコースへのラインを潰してアウトコースへ膨らませ、後ろに食らいつかれたらドリフトアングルを深めにして追い抜かせないようにライン潰し。
それが時雨の算段だった。
先程対策が出来ていると言ったのは、時雨にとってそれらの対策がすでに成り立っていたからだった。
Z33がアクセル全開であるのに対し、CTRはパーシャルスロットル。
速度はZ33の方が上であり、確実にCTRを引き離しにかかっていた。
「離され…るゥ…!」
「(前には出させない…でも)」
左直角ロングコーナーにおいて、Z33は完全にCTRを引き離しつつあった。
車間距離は数メートルから十数メートルまで広がっていく中で、2台はコーナーの出口へと迫っていく。
第3コーナーを駆け抜けたら残るは最終ストレート。
だが相手は実力者のウーゴだ。
何をしてくるかはわからない…いや、間違えなくニトロを使ってくるだろう。
そう時雨は認識した。
「(最後まで油断するつもりはない…)」
コーナーの出口が迫る中で、時雨はアクセルオフからカウンターステアとして右に曲げていたハンドルを徐々にニュートラル状態へと戻していく。
タイヤの空転が徐々に収まっていく中でZ33は左向き…10時15分の方向から12時の方向へ。
そしてそうなった瞬間、時雨はアクセルを全開に踏み込んでZ33のエンジンパワーをタイヤに伝えて加速していく。
速度は140キロ台から170キロ近くまで加速する。
一方、ウーゴのCTRもZ33に連なる形でコーナーを脱出し、こちらも加速していく。
だが、立ち上がりの加速としてはZ33の方が上なのか…CTRはストレート区間でも追いつけない。
それどころか下手をしたら離されていく。
車間距離はあっという間に車2台分まで開いていた。
「こうなったら…」
「……」
最終ストレートを駆け抜けるZ33とCTR。
このままでいけば確実にZ33が勝てる。
だがそれでもウーゴは勝負を捨てたわけではなかった。
「っ……!」
「……!」
ウーゴはハンドルに取り付けられていたニトロスイッチを押し、CTRを加速させる。
だが、時雨もそれを見越していたかのようにハンドルのニトロスイッチを押した。
ボタンを押したタイミングとしてはほぼ同じタイミングだった。
ハンドルをがっしりと握り、アクセルを踏み込み続ける2人。
そしてそれらに応じるかのように加速する2台。
一瞬CTRが追い付くかと思われたが、すぐにZ33も加速して速度がCTRよりも勝った。
スリップストリームに入ったかと思われたが、それでも距離は縮まらない。
空気抵抗の軽減を含んでもZ33の加速が上であり、それは一定距離は知っても変わらなかった。
Z33の速度、200キロオーバー。一方でCTRの速度は180キロオーバー。
速度は明らかにZ33の方が上であり、CTRは引き離されていく。
そして引き離していく中で、Z33はストレートエンドのゴールを駆け抜けていくのだった。
「(負けたなァ…いいドライビングだァ…)」
時雨のその走りに、ウーゴは満足したかのように言い聞かせた。
ここまで走ればどんな結果でももう関係ないと思うのだった。
―――勝者、時雨。
タイム差は2秒近くだった。
―――ダイナー「ゲレーロ」の前。
3人がバトルから戻るとオクティのドライバーたちが時雨と奈美子を拍手で迎え入れた。
受け入れられた時雨と奈美子の前に現れたのは…ビクトルだった。
「…受け取れ。バトルの報酬だ」
そう言ってビクトルはウサギのぬいぐるみを奈美子へ、カメのぬいぐるみを時雨へプレゼントした。
「え?なに?どういうこと…?っていうか、このウサちゃんとカメ、すごい!ビクトルが作ったの?」
「ウサギとカメ、ということですか…素敵だね」
そういうと、ウーゴが説明するようにこう言った。
「ビクトルはバウンサーだがァ…オクティでは車の内装をォ…シートの縫合全般を担当しているんだァ…」
「車の内装を?そうだったんですね」
「……ちょっと待って!プレゼントはありがたく受け取っておくけど…話してもらうわよ!客人が誰なのか。なんでウーゴの車がケミックのテリトリーで暴れてたのか…!」
「(プレゼントはとりあえず貰っておくのかァ…こういうのがヒュウガっぽいねェ…)」
すると奈美子の言葉に、ビクトルが口を動かし始めた。
「…俺がケミックのテリトリーに踏み込んだ理由は幾つかある…その中でも大きな理由は、『ケミックのお客人』を迎えるためだ」
「ケミックに行ってたのは…ビクトルなの!?」
「そっか……サマンサはビクトルが暴れに来たんだと勘違いしたんだ」
そう、ビクトルがケミックに行ったのは、「ケミックの客人」を迎え入れるため。
そしてそれをする際に、バトルになってしまったというのが実情だった。
だが、ここである疑問が浮かぶ。
「でもちょっと待って…お客人って、リチャードさん?彼ならもう何度もオクティを出入りしているはずじゃ?」
奈美子はケミックの客人と言うのはリチャードであると考えていた。
だが彼は何度も何度もオクティの地を踏んでいる。
そうである以上、何故バトルになったのかが分からなかった。
するとその時だった。
「ああ、そうだね。わざわざボクなんかを送迎する必要なんかない」
そう言ってリチャードが時雨と奈美子の後ろから現れた。
「リチャードさん!?」
「あれ…いたんですね」
「ああ、まあね」
「ご、ごめんなさい。そういうつもりじゃ…というか、今日も打ち合わせか何かでここに?」
奈美子がそう質問すると、リチャードがこう口を動かす。
「ボクが今日来てるのは、そのお客人と話すため。ようやく重い腰を上げてくれたよ。やっとここまできた」
「それって…」
するとダイナーの扉が鈍い音を立てて開き、「ケミックのお客人」が姿を現す。
「彼」の姿に、時雨も、奈美子も言葉を失った。
「…久しぶりだな。ヒュウガの娘、ナミコ。そして凄腕ドライバー…時雨」
「え…あなたは…」
「ジェレマイア!?ケミック&モレックのCEOがどうして…」
現れた男こそ、かつて時雨と雌雄を決した「ケミック」の現社長…ジェレマイアだった。
「………」
「………」
奈美子の言葉に対し、ウーゴもリチャードも黙り込んでいた。
「ウーゴ…リチャードさん…2人とも何を考えているの?」
「一体、何が起きようと…?」
黙り込む2人に対し、奈美子も時雨も互いに疑問を口にすることしかできないのだった。
オクティの最後の壁とも言うべきドライバー、ウーゴを倒した時雨。
だがそんな中で、彼らが考えていることは彼女たちにもわからなかった。
最後の最後の壁の前に、また波乱が起きようとしていた。
(第20話End)