「艦これ」いつかあの海で×ドリフトスピリッツ 第二幕 2024 -いつかあの頂で-   作:カービィ改二

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第27話です。
ニューヨークから戻ってきた時雨。
そしてそこに迫る影とは。

遂に彼女が「ゴジラ」と出会います。
そしてもう一人の艦娘のチームの全容が明らかに。


究極局面編 -ザ・スピリッツ-
act.27「The Birth(世紀末女王の目覚め)」


―――『ライジング・サン 0500』というメモを頼りに、何年も家に戻らない奈美子の父『ヒュウガ』を探すために首都高へ遠征した時雨たち。

奈美子と時雨は、かつてのヒュウガの愛車であった『ライジング・サン』の現オーナー・エニシから、ヒュウガがニューヨークに渡っていた事を聞かされる。

『ライジング・サン』初代オーナーのトシゾウ、更には北関東の強豪チーム連合「御伽走子」のリーダーたち…「四傑」、更には奈美子の母親であるミナコの助力を得て渡ったニューヨークは、『ケミック』『オクティ』『リブラ』の3大勢力が泥沼の争いを繰り広げる魔窟と化していた。結果として時雨たちはヒュウガの行方を調べつつも、いつしかこのニューヨークでの抗争に深く関わることになっていった。

時雨は各組織に勝利し、ニューヨークの覇者として平穏を取り戻した。しかし肝心のヒュウガは、既に別の場所にいることが判明する。

『ケミック』と『オクティ』はヒュウガをおびき出すために、首都環状及び首都高でのレース大会の開催を決定。

この前代未聞の大規模な誘導作戦は、果たして成功するのか?

そして、既に別の場所にいるヒュウガの行方とは一体?

最終戦争(ファイナルウォーズ)の時は確実に近づいていた。

 

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―――時雨と奈美子がニューヨークで話題を席巻し始めようとしていた頃。

ここは、北欧の小さな国…「ドリスピア王国」。

国土面積こそ比較的小さな国であるが、希少な天然資源を豊富に持つ、超裕福な資源産出国。

そんな国の一角において、ある一大プロジェクトが遂に完遂しようとされていた。

 

「フフフ…遂に完成だ!ドリフトの聖地、ハコネを…我が国の一角に作ることが出来たぞーーーーー!!!!!」

次期国王となる男が、その地の全てを見渡せる展望台からそう叫んだ。

目の前には、かのドリフトバトルが盛んな地…箱根を模した、大規模なテーマパークが出来ていた。

コーナーやトンネル、スタート地点や湖、更には一般道路に至るまで…それら全てが極限まで箱根の峠に似せた、究極のレプリカとも言うべき光景が広がっている。

 

「いやー、遂にできたんだな。このプロジェクトに9ヶ月間縛り付け。まあ、俺としてもこのプロジェクトに携われて良かったぜ…ルクトさんよ」

「フフフ…相楽ヒュウガよ、ここまでの尽力に感謝する。私の車好きもここまで極めれば、国民も喜ぶに違いない!」

そう言って、比較的横長の男…皇太子は、逆立てた白髪と薄い髭が特徴の男に感謝の言葉を告げた。

―――「皇太子ルクト」。

本名は「ルクト=ド=バンナーム=ドリスピア4世」。

「ドリスピア王国」の次期国王で、かの国の文化とドリフトが大好き。

お忍びで箱根にやってきたこともあり、既に箱根の地に魅了されている。

いい年の大人なのだが、その性格は子供っぽく、自分の思い付きに固執する癖がある困った男。

その財力と権力を使って無理やりにでも実行しようとするため、周りに常に迷惑を掛けてしまうのが玉にキズ。

ドラテクもまだまだ発展途上と言うべきであり、どちらかと言うとマシン頼りな面も多い。

愛車はキャデラックのCTS-Vであるが、最近になったニスモのBNR32(NISMO S-tune)を購入した。

 

「こうやって一望できる場所から見ると、本当に壮観デスネ!とんでもないものを作り上げてしまったと、つくづく思いマスヨ!」

そう言ったのは、赤紙ツインテールの若い少女。

彼女もまたこの開発の関係者だ。

―――「超ロボ工学のエイミー」。

18歳という若者でありながらも、世界的なロボット工学の権威。

「走りの聖地・箱根」に憧れを持つ外国人ドライバー。

実はその正体は人工体(ヒューマノイド)であり、実際は遠隔操作されている。

知人である王太子ルクトの依頼を受け、箱根の実力派ドライバーである相楽翔、そして「神の手」を持つ男ヒュウガ、更にはヒュウガの娘である奈美子のを模した3体の人工体を生み出した超天才博士。

基本的に明るくて陽気な性格で、漫画やアニメ、ドリフト競技の動画配信にハマっている。

普段はゲームと近所の広場でその腕を鍛えているが、同時に「峠ドライバー」に深く傾倒している。

愛車は金色のS13シルエイティ"金剛"。

 

「ハッハッハ!そうだろうそうだろう!吾輩の念願であり、永遠の憧れの地…「走りの聖地・箱根」をこのドリスピア王国に作り上げる前代未聞のプロジェクト!私としてもとんでもないことをやってしまったと思うよ」

ルクトがどこか鼻高々にそう言いつつも、まさか出来るとは、と多少驚きながらそう言った。

 

「いやあ、ハハハ…遂に出来てしまったんですね。私たちもヒュウガさんのおかげで手っ取り早くコース対応のプログラムを最適化されましたし、頭が上がらないとはこれの事ですね…タハハ」

「本当にスゴイよねー!ヒュウガのオヤジさん、オレたちにこの広大な箱根の各コースの走り方を1から10まで徹底的に仕上げてくれたんだもん!」

「まさに神の手と言われている実力は、伊達ではないという事でしょう。私からも感謝するしかありませんね」

そう口々にしたのは、エイミーが作り上げた人工体たち3人。

―――「ロボヒュウガ 1UG」。

その名の通り、ヒュウガを模した人工体。自信家なヒュウガとは打って変わって比較的弱気な性格で、心配性な一面があるヒューマノイド。

しかし伊達にヒュウガのヒューマノイドなだけあってそのセンスは高く、時にヒュウガにも匹敵する才能を発揮する。

愛車は黒とグレーのフェアレディZ(RZ34)"God Hand"。

―――「ショウマシン C4U」。

その名の通り、相楽翔を模した人工体。クールで冷静な相楽翔とは打って変わって明るくチャラ男な性格で、どちらかと言えば不真面目な性格でもあるヒューマノイド。

こちらも伊達にショウのヒューマノイドだけあって実力は高く、ショウとも負けず劣らずの性格を持つ。

愛車は茶色のGT-R Premium edition(MY24) T-spec(R35) "Augstus"。

―――「メカナビ子 7B5」。

その名の通り、奈美子を模した人工体。明るくて明朗快活な性格である奈美子とは打って変わって、冷静沈着で分析好きな性格。

こちらは奈美子をはるかに凌駕する実力を持ち、走り自体もかなりクールなものとなっている。

愛車は白色のフェアレディZ(Z32) -Version 735- '24。

 

「へへっ、そう言われると俺としても嬉しいな。俺からは箱根の走り方全てをお前らに教えてつもりだ。これくらいあれば王国の市民も、ルクトやエイミーも満足するに違いねえだろ」

「うむ。相楽ヒュウガよ、実に大儀であった。褒美は勿論金と車だ。1UGに与えたマシン…RZ34のレプリカだ。受け取ってくれたまえ」

「おう、約束通り頂くぜ…まあ、俺はやれることの全てを3体に施したが、まあもし困ったらまた連絡してくれよ。これからまた忙しくなるから難しいかもしれないが、アドバイスくらいならできるぜ。お前さん方もそいつらに教われば、きっとさらに速くなれるはずだ」

「うむ!まずはやはり箱根の地を知り尽くしてこそ…だ!私もまだまだだと実感した以上、頑張らなくてはな!」

「何から何まで本当にありがとうございマース!ヒュウガさん、やっぱり頭が上がりまセーン!」

ルクトは仕事に深く貢献したヒュウガに多額の賃金と同時に、1UGのために用意されたマシン…RZ34"God Hand"のレプリカをプレゼントするのだった。

ルクトもエイミーも、ヒュウガの言葉に対して感謝を伝えた。

すると、あることを思い出したルクトがこう質問する。

 

「ところでヒュウガよ。貴様の娘…ナビ子が最近、シュトコウという場所で話題だそうだが…」

「ああ、知ってるさ。今度帰国するのも別の仕事の事があるが…それも気になったからな」

「そうだったんですね…ナミコさん、箱根を飛び出して首都高へ…」

ルクトは奈美子が首都高で話題であることを聞いていた。

父親であるヒュウガはその話題を知っていた。ヒュウガとしてもやはり、そのことが気になっているらしい。

ロボヒュウガもどこか心配するようにそう口にした。

 

「でも、そのナビ子だけじゃやっぱりマズいんじゃなーい?その人、S30Zだけでしょー?」

「実は最近、立派なパートナーが出来たって話なんだ。それも…女のな」

「女、ですか?それは珍しい…」

ショウマシンの言葉に対してヒュウガが答えると、メカナビ子は「珍しい」と答えた。

 

「ああ。だがそいつはショウを破って、今の箱根の『皇帝』って呼ばれている。実力はそれなりにあるみたいだぜ」

「噂は聞いてマス!たしか、時雨さんですヨネ!」

「ああ、そうだ。俺もそいつが入院してるときにちらっと見舞いに行ったくらいだが…マジで女なんだよ」

ヒュウガと時雨は面識がある。時雨が入院した時に軽く会ったくらいではあるが、それなりに印象に残っていた。

 

「ほほう…貴様の娘を支える、若き女のドライバーか。首都高を席巻するほどの実力と言うのならば、それなりにあるのだろう。吾輩もそんなドライバーに負けてはいられぬな」

「ま、もし困ったときはお前さんのためにも、マニュアルを用意してある。SPに渡しておくから、困ったら呼び出して読むんだな。色々とヒューマノイドたちにもインプットしてあるから、きっと答えてくれると思うぜ」

「いやあ、上手く答えられるかはわかりませんが…頑張りますね」

「もしもの時は僕たちに任してね、ルクト王太子~!」

「うむ、勿論頼りにしているぞ。ヒュウガも何から何まで本当に助かった。だがたまには、この地を訪れてみてくれ。その時はまた頼むぞ!」

「ああ…それじゃあ軽くこっちの箱根を走り回って、RZ34のシェイクダウンだけ済ませたら、次の仕事があるからおさらばさせてもらうぜ」

「うむ、わかった。それでは行くとしよう!」

そうしてヒュウガはマシンのセットアップも兼ね、ドリスピア王国に作られた「箱根」を駆け抜け、最終仕上げを終えた。

 

―――そしてヒュウガはその日のうちに、ドリスピア王国を去ったのだった。

 

 

 


 

 

 

 

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時雨たちが帰国して数日後。

―――東京某所。

 

「(ここか…)」

貸し倉庫を発見したヒュウガはその手前でRZ34を停車させ、車から降りた。

貸し倉庫に入り、挨拶に向かう。

 

「よう、久々だな。巷の文房具屋に収まっていたアンタが、まさか腰を据えてチューナーの仕事を再開するとはな…」

「~~~~~」

ヒュウガが貸しガレージに入ると、そこにはヒュウガとほぼ同年代の男がいた。

どうやらヒュウガの知り合いのようだ。

 

「噂は聞いてるぜ…まあ、今日アンタのところに来たのは言うまでもない。俺が持ってきた車を、首都高用にリセッティングしてもらいたいわけよ」

「~~~~~」

ヒュウガは「神の手」と呼ばれる男ではあるが同時に、一定の場所に合わせたセッティングに関してはその道のプロにやらせるべきであるという事をわかっていた。

今日知り合いの元を訪れたのは、それをやってもらうことが目的らしい。

 

「ああ、既にメールの内容の通りだ…頼むぜ。ところでその後ろの車のカバーは?」

「~~~~~」

ヒュウガはガレージの隅に止められていた1台の車を気にした。

どうやら知り合いのチューナーがチューニングしたマシンのようだ。

 

「首都環状屈指のドライバー?」

「〜〜〜〜〜」

「へえ…2人の女ドライバーが首都環状を、ねえ。じゃあ、その片割れってことか」

「~~~~~」

知り合いのチューナー曰く、その場に置かれていた車は首都環状を席巻する2人の女性ドライバーの片割れのマシンらしい。

この日もリセッティングで置かれていたようだ。

すると、チューナーの男は言葉を続けた。

彼は、女性ドライバーの事を語っていた。

 

「で、もう1台は…チョロチョロとSNSで話題になっていた、首都環状の『究極の不沈艦』?そのマシンもアンタが?」

「~~~~~」

「なるほどなぁ…ま、最速と呼ばれるヤツには興味がある。その2人、いつ首都環状に行けば会える?」

「~~~~~」

「ほう…ここ最近しばらく走り込んでるから、2日に1回でも行けば確実に会えるって?」

「~~~~~」

「…じゃあこの車をよ、あそこにあるアンタが仕上げた車と似た感じでリセッティングしてみてくれよ。細かいとこは俺が後々やるが、大体の方向性を決めてくれねぇか?」

「~~~~~」

「…ああ、もちろんお金はきっちり払うよ。ボッタクってもいいぜ?まあ俺としても、『最強のドライバー』には興味があるから…頼むぜ」

チューナーである男はヒュウガのマシンのリセッティングを承諾。

こうして、ヒュウガのマシン…RZ34のリセッティングが始まったのだった。

 

 

 


 

 

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―――時雨と奈美子が帰国して1週間と数日後。

時雨は期限ギリギリにアメリカから帰国し、「D1ライツ」の第1戦に参戦した。

この大会は地元である箱根サーキットで開催されたこともあり、時雨は決勝で3位に入賞するという大健闘を見せた。

デビューしたての新人が表彰台に入る、という話題は走り屋たちを席巻し、時雨と奈美子が互いにアメリカで修行をしてきた成果を見事に披露することに成功していた。

ちなみにマシンはアメリカに持っていたそのマシンをナンバープレート失効の上で使用したものである。

そして、D1ライツ第1戦を終えて数日後…帰国から2週間後の事だった。

 

 

―――葦柄病院会議室、夕方。

 

「こうやって腰を据えて話をするのは、ひょっとしたら初めてかもしれないね」

「はい…今日はお時間をいただきありがとうございます」

「今日は、よろしくお願いします」

机を挟み、対面と言う形で座るメガネの医者と時雨、奈美子。

Dr.ソウイチ…葦柄病院に勤務する外科医であり、時雨のチーム「TimeRain Racing」の経営陣兼オーナーの1人。

嘗ての皇帝…相楽翔との対決の際、モンスタースペックのRZ34を時雨に与えた張本人である。

 

「まあ、そこまで固くなる必要はないよ。今日は近況報告と…相談があると聞いているが」

「あ、はい」

「最初君たちからニューヨークに行く、と聞いた時は驚いたよ。遥か彼方のアメリカの地に行って何をするんだろう、と思ったら…まさか奈美子君の父親であるヒュウガさんを探しに行くとはね」

東京・首都高でバトルをした後、時雨と奈美子は経営陣であるソウイチと、神風のトオルに相談していた。

東京の実力派ドライバー…エニシ、トシゾウ、更には御伽走子の「四傑」のドライバーたちの資金援助。

それらもあって実質的な負担は少なかったが、期間的にはあと1週間遅れていたらD1ライツに欠場していた可能性が高かった。

デビューレースを欠場、何て言ったらプロの面目は間違えなく丸つぶれだっただろう。

 

「…色々と、勝手言ってすいません」

「謝る必要はないよ。結果として君たちは期間ギリギリで帰ってこれたし、君にとってもニューヨークに行って様々な経験をしてきたんだろう。その部分がどうだったのかを詳しく教えてくれないか」

「あ、はい…」

ソウイチはニューヨークでどのようなことがあったのかを説明するように口にした。

それを聞いた時雨は、ニューヨークで何があったのかをポツリポツリと話し始めた。

 

「そもそもニューヨークのレースシーンは、『ケミック』『オクティ』という2つのパーツメーカーがしのぎを削っていて…奈美子のお父さんは、その2つの組織の関係の雪解けを狙っていたんです」

「ケミックとオクティ、か。片方はアメリカ屈指のパーツメーカー、オクティは新興系のパーツメーカーだね」

「はい。なんですけど、実際2つのメーカーがしのぎを削るようになっていたのは…『リブラ』というプロレーサー集団が、裏で糸を引いていたのが原因だったんです」

「プロレーサー集団の実態は聞いていた…が、何のために?」

「リブラの目的は治安維持を名目にした、失職したレーサーたちの救済…代表の人曰く、『必要悪』だったそうなんです」

「それで…向こうで最初に知り合った人が、リブラの副代表で…それで、結果的に奈美子は近づいてきたその人に裏切られる形になって…」

そう口にしたのは時雨だった。

やはりどこかまだサマンサを恨んでいる節があるのだろう。

 

「裏切りか…それはまた大変だったね」

「はい…」

「しかしケミックとオクティがしのぎを削ることで、リブラのドライバーたちが治安維持に貢献できていた…ということか。そしてヒュウガさんはその2つの関係を改善しようとしていた、ということか」

「はい…でも、私たちがニューヨークを訪れた際には既にお父さんはニューヨークにはいなくて、もう別の場所にいる…と、オクティの代表の人が言っていたんです」

「そうか…結局奈美子君のお父さんはニューヨークにいなかったと?」

「はい…」

「今の行方は?」

「わかりません…別の仕事に携わっていて、アメリカにもこの国にもいない、と言う話は聞いています」

「ふむ、なるほど…しかしSNSで話題になっていたが、ニューヨークの混沌の原因は、失職したプロレーサー集団だったというわけだね」

「そういうことみたいです。でも、リブラのドライバーたちも皆事情があったみたいで…」

「まあ、そこは察するよ。既にSNSで多くの情報が出回っている以上、君たちがあまり詳しく気にすることはないさ」

「はあ…」

時雨がどこか申し訳なさそうに言うと、ソウイチは慰めるようにそう言った。

するとソウイチは言葉を続ける。

 

「しかしそうなると、これから奈美子君のお父さん探しはどうするんだ?これから時雨君は本格的にプロレーサーへの道を歩むことになる。今はD1ライツだけだが、今後ラリーやサーキットレースなどにも参加することになるのは間違えない」

ソウイチとしては疑問があった。

これから時雨は本格的にプロレーサーとしての活動を始めることになる。

今はまだレースは少ないが、D1ライツだけであったとしてもプロレーサーとしてのトレーニング…それこそ肉体的にも頭脳的にも積む必要と言うものが出てくるのは確実だった。

それらのトレーニングや選手キャリアに当たっては、雪風のバックにいるコンツェルンが協力してくれるそうだ。

これまではシーズン前という事待って比較的しがらみが少なかったが、これから本格的なレースシーズンとなる以上、地元である箱根での活動自体はともかく、海外に勝手に行くなどの行動は難しくなってくる。

すると、その質問に答えたのは時雨だった。

 

「その件ですが…ケミックとオクティの方々から、ある計画について送られてきたんです」

「ある計画?」

「はい…ただこれは、ご内密にしていただきたい話なんです」

「…まだ公式通知がされる前の情報と言う事か?」

「はい」

「……ちょっと待ってくれ」

そう言ってソウイチは一度会議室を出て、会議室入口のドアに「面会謝絶」の札を掲げてドアにロックを掛けた。

そして部屋全体を見渡し、監視カメラなどの類を確認。情報が漏れないように確認するのだった。

 

 

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―――数分後。

部屋から一旦出て戻ってきたソウイチ。

再び机を挟んで時雨、奈美子と対面する。

 

「悪いね。君たちが秘密にしておいてほしい、という情報があるというから、監視カメラなどもオフにさせてもらった。あとこの部屋は防音だから、情報が漏れることはないよ。ただ…この個人用のスマホにだけはその情報を記録させてほしい」

「あ、はい…」

「では、その情報とやらを教えてくれ」

そう言ってソウイチはスマホのボイスレコーダーを録音し始めた。

 

「実は…1ヶ月後に、東京の首都環状エリア、首都高を舞台に、大規模なストリートレースイベントが実施されることが決まったんです」

「ストリートレースイベント?」

「はい。高速道路全体を貸し切って、クローズドサーキット化してレースを行うみたいなんです」

「首都環状や首都高を舞台に、大規模なレース大会が行われると?」

「はい。その大会の名は『ザ・スピリッツ』…国内最速のアマチュアドライバーを決める、前代未聞の大規模な大会です」

「…それと奈美子君のお父さんに、どういう関係が?」

「ケミックとオクティ、そしてリブラの人々が協力して…お父さんを、大会のチャンピオンとして祀り上げ…時雨と決勝戦で対決をすることで、再会させるそうなんです」

時雨が口にした、ケミックとオクティの計画…それは、東京・首都環状エリアや首都高を舞台にした大規模なレース大会の開催だった。

その大会にヒュウガをチャンピオンとして呼び出し、決勝戦で対決させるように仕向けたという。

 

「…なるほど、噂は聞いていたが『神の手』と呼ばれるドライバーを現役チャンピオン扱いで参加させ、決勝戦で対決をすると」

「はい…」

「随分と大規模だな…ところでこの話は、いつ告知されるんだ?」

「明後日には告知されるそうですが、まだ事前情報なので…」

「ふむ、なるほど」

そうソウイチが言うと、時雨はあることを口にした。

 

「そして…その大会に関して、僕は既に出場することが決まっています」

「主催者の計らいという事か。レースの規模は何か決まっているのかね?」

「かなり大規模なものになるみたいなので、抽選以外の予選はありません。トーナメントだけの話ですが…決勝以外1レースは各レース6台の周回レースです」

「トーナメント自体はAブロックとBブロックの2ブロック制、それぞれ1回戦、2回戦、ブロック決勝戦があって…最後に総合決勝戦が行われるそうです。総合決勝戦ではブロックごとの1位と、チャンプ…お父さんとのバトルになるそうです」

時雨と奈美子が各々説明していく。6人のレースを最低3回こなし、最後の最後にブロックごとの勝者とチャンピオンとのバトル。

とんでもない大規模なものになるという事は想像が容易いだろう。

 

「なるほど…しかし1レースが6台となると、これは前代未聞の大規模なものになるという訳だ」

「はい。あと、各レースでは1位のみが勝ちぬけになるみたいです」

「ほほう…なかなかし烈だな。結局のところ勝つことが最優先という訳か。しかしいくら勝者のみが次のレースに進出となっても、6人のレースが最低3回。6の3乗、さらに2倍で…少なくとも参加者は400人以上だ!アマチュア大会ではこれは大規模なものなのではないだろうか…」

「あ、一応抽選は行われるみたいですけどね。走り屋って結構多いですし…海外からも参加したいって人もいるみたいなので」

「あと、このレースはプロレーサーとしてある程度のキャリアを積んだ人は出場が出来ません。抽選もそうですが、必ず審査があるみたいです」

「ある程度のプロは排除する、ということか…具体的には?」

「たしか、4年以内にプロレースでシリーズ参加したり、一定以上の成績を残した者は出場が出来ないそうです。特例もあるみたいですが…」

「特例もあるのか」

「みたいです…」

ザ・スピリッツの決勝トーナメントは1レース6台のバトル。だが、1位でゴールした者しか次のレースには出場できない。

しかし1レースが6人出場という事もあり、参加者の数はとんでもなく膨大になってしまっている。

その為、予選は不要と言う扱いらしい。

当然、総合優勝したものには莫大な賞金が支払われる見込みらしい。

 

「そしてその大会が開催されるにあたって…僕は、ケミックやオクティの偉い人に、あるお願いもしているんです」

「お願い…というと?」

時雨は既に例の大会に出場が決まっていた。

本来開催される予選を抜きにして出場できるというのであるならば、それはとんでもなく大きいだろう。

そして同時に、時雨はケミックやオクティにあるお願いをしていた。

 

「僕が今、最大のライバルであると認めているドライバー…『ゼロヨンチャンプ』こと、ユキ…雪風を、僕と同じ扱いで参加させてほしいって伝えたんです。そして…大会開催にあたっては、ユキのバックにいる藤原コンツェルンにも協力を要請してほしい、と」

「…なるほど。君も少なからず根回しをしたという訳だね」

「はい。僕の名前を出せば、きっと向こうも快諾してくれるだろう…そう伝えておきました」

「あと、余談ですけど…いきなり対決にならないように考慮はしてくれるみたいです」

「ふむ…雪風君のバックにいる藤原コンツェルンの協力があるというのか。これはかなり大きいね…しかしそうなると、遂に君も雪風君と頂上対決をすることになる、という訳か」

時雨は、最大のライバルである雪風も必ず参加させるように依頼していた。

これはやはり、彼女との決着を付けたいという事なのでもあろう。

そしてそれは快諾され、大会の協賛として藤原コンツェルンも参加することになったらしい。

 

「あと…それだけじゃないんです」

「ん?というと?」

「藤原コンツェルンを通して、先代と先々代のゼロヨンチャンプ…そして、今世界でレーサーとして活動しているショウさん。この3人にも、スーパーシードで参加することが、既に決まっています…」

「ほう…これはいわゆる、招待選手という訳か」

「はい。ショウさんはプロのレーサーではありますけど、シリーズに通しては参加していませんからね」

「一部の抜け穴を使って、ショウ君を出場させるという事か…なるほどな。だが、ショウ君はまだ連絡がないようだが?」

「実は、この内容が送られた直後にショウさんに連絡があったみたいなんです」

「兄さん、今は東南アジアにいますからね。確かシンガポールだったかな?」

「ああ、その話は私も聞いているよ。だが彼もまた、この情報を持っているという訳か…」

「僕がソウイチ先生に直接挨拶に来たのは、先日のD1ライツの件もあったのですが…やっぱり、対面でこの情報は伝えた方がいいと思ったので」

「…そうだな。これはまだ公表される前の情報なんだろう?君の判断は間違っていないよ」

雪風だけでなく、先代や先々代のゼロヨンチャンプ、更には相楽翔が出場者として決まっていた。

これはアマチュアレースとしては前代未聞だが、一種の特例を使ったらしい。

時雨の願いはゼロヨンチャンプである雪風との対決だが、同時にショウや先代、先々代のゼロヨンチャンプとの対決も出来る。

これは時雨にとっては願ったり叶ったりだった。

ゼロヨンチャンプのドライバーたちがどれ程のものかはわからない。

だが、ユキと同等の実力者であることが間違えない以上…時雨としてはバトルすることを望んでいた。

それがどうやら叶うようだ。

すると時雨はある言葉を口にした。

 

「そういえば…総合決勝では、主催者側で用意したマシンでバトルをするそうです」

「ほう…それは何か理由があると?」

「公平性を期すため、と言われていますが…まだ詳しいことはわかりません。ただ、その方針は既に決まっているみたいです」

「そうか…となれば、エリア決勝までが大勝負という事か。そして総合決勝は各々のドラテクが全て、と」

「はい…そうみたいです」

どうやら「ザ・スピリッツ」の総合決勝ではケミックやオクティ、更には藤原コンツェルン側で用意されたマシンでバトルをするようだ。

それは言ってしまえば、エリア決勝までが総合力勝負であるが、そこから先は単純な実力勝負という事なのかもしれない。

 

ここまでの事をまとめるとこうだ。

・ザ・スピリッツの大会が東京・首都高や首都環状で開催される。

・2ブロック制で、それぞれ1回戦、2回戦、ブロック決勝が開催。

・AブロックとBブロックの勝者、そして主催者側が用意したチャンピオン…ヒュウガとの3台の対決。

・ブロックごとの各レースは各々のマシンで勝負だが、総合決勝では主催者が用意したマシンでレース。

・時雨と雪風、更には先代や先々代のゼロヨンチャンプが出場することになっている。

これだけまとめてもとんでもなく大規模なものであるという事は言うまでもないだろう。

先に書いた通り、1ブロックで6の3乗、216人。それが2つで432人。

ここまで大規模なレースイベントは開催されることはあり得ない。

大手メーカーであるケミック、新興メーカーであるオクティ、そして大財閥である藤原コンツェルンの3つが合わさってこそ、ここまでの超大規模なものが実施できる見通しが立ったのだろう。

すると全てを話し終えた時雨に対し、ソウイチはふと疑問を口にする。

 

「…かなりの大規模な大会に君が出場するという事はわかった。となると、やはり…」

「はい…僕が今日、ここに来た理由は言うまでもありません。あのRZ34で、その大会に出場したいんです」

これまでどこかモゾモゾと話していた時雨だったが、ここに来てしっかりとソウイチと向き合った。

時雨が所有権を持つマシン、日産・フェアレディZ(RZ34) Version ST。

700馬力以上の超モンスタースペックを誇るマシンを、普段はソウイチの元へと預けていた。

それはやはり、時雨がワンエイティを気にいっていたこともあるが…同時にあまりにもハイパワーすぎて、使うことにどこか躊躇していたこともあったからだ。

だが例の大会が開催されるというのであるならば話は別。

あのマシンでなければきっと雪風には勝てないだろうし、もし使っても勝てる保証がないくらいなのだ。

頂点に駆け上がるためには、それくらいの力を頼ってでもしても勝ちに行く必要があることを、時雨は嫌と言うほど理解していた。

そして同時に、その車に乗って勝負をするという覚悟も決めていた。

 

「おお、遂に究極のマシンを目覚めさせる時が来たと言うんだね…」

「はい」

「ショウ君のバトル以来にあの車に乗る機会が出来たことはとても嬉しく思うよ。あの車はやはり、時雨君にしか操縦できないシロモノだと思っている。それも、君がずっとライバル視している雪風君との戦いのために使うとなると…それもまた嬉しいね」

ソウイチとしては、あのマシンを乗りこなせる数少ない人間が直接相談しに来たことは嬉しかった。

あの時のバトル依頼ずっと封印同然の扱いを受けていたRZ34だが、その禁断の封印を解く時が来たのかもしれない。

だがそう思っていたソウイチだが、少しだけ顔を曇らせてこう口にする。

 

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「それに関してはぜひ使ってほしいと思っているし、あとでマシンをガレージから出しに行こう。だがその前に…」

「…その前に?」

ソウイチはバッグの中からあるものを取り出して机に置いた。

 

「実は、だ。ショウ君から手紙を預かっていてね…これだ」

クリアファイルの中に入れられていた1枚の手紙。

そこには以下の内容が記述されていた。

 

「ー・ー・・ ー・・ーー ・・ー ー・ー・・ ーー ・・・ー ・・ーー ー・・ー ーー・ー・ ・ー・ー・ ・ー・ーー ・・ ・・ー・ ーー ・・ー ・ー・ーー ・ー・ー・ ・ ・ー・・ ー・ーー ーー・ーー ・ー・・ ・・ ・ーー・ ・ー・ーー ーーーー ・ー」

「・ーー・ ー・・・ ・・ ー・ー・ー ー・ー・ ーー・ーー ・ー ー・ー・ ・ー ー・ーー」

「・ー・・・ ーーー ・ー・・ ・・・ ・ー・・・ ー・・ー ー・ーーー ・ ・・ーー ー・ー・ー ・ー ー・ ・ー ・・ ・・ーー ーー・・ ・・ーー・ ーーー ・ーーー・ ・・ ・ー・ー・ ・・ー・・ ・ーーー ーー ・・ー ・ー ーー・ー・ ー・」

書かれていたのは、点と線である。

これは一体何なのか?

 

「こ、この手紙は…」

「え…何これ?点と線?」

「うむ…私にもよくわからんな」

3人にはわけがわからなかった。

文章にはひらがなもカタカナも漢字もアルファベットも何も書かれていない。

描かれているのはただの点と線。

いったいこれで何を伝えようとしているというのか?

暗号の類なのだろうが、これは一体どういうことなのか?

そう3人が思っていると、時雨は手紙の右下に書かれていたある文言に注目する。

 

「(机を叩け…?ここが下って?)」

手紙の一番下に書かれていた文言、「机を叩け」「こちらが下」。

これが一体どういうことなのか?

その指示を見た時雨は、トン、トン、トンと机を右手人差し指先で叩く。

 

「時雨?」

「時雨君?」

「……」

2人はその行動を疑問に思った。

一体何をしているのか?

だが、トントンと何度も机を叩いているうちに、時雨の顔はあることに気が付いたかのようにハッとした。

 

「そうか…わかりましたよ!」

「えっ、本当!?時雨、何が書かれているの!?」

驚いた声を出した時雨に対し、奈美子が反応する。

 

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「これは、モールスなんです!」

「…モールス?」

「まさか!?モールス信号か!」

「はい。これ、きっと線は長音、丸は短音なんです」

「通信の方法、ってこと…?」

「うん。長音と短音を掛け合わせて様々な文章を表現することが出来るんだ」

時雨が導き出した答え、それは線と点が意味しているのは「モールス信号」ということだった。

長音と単音の2つを用いて通信をする形式だが、それを文字に起こすと長音は線、単音は点になる。

やり方次第では濁音や半濁音も可能な通信である。

 

「そうか…海上での通信は、基本モールスだからね…」

「はい…僕も、これに関しては勉強したので知識はあります」

「じゃあ、時雨はこれがわかるの!?」

「うん…ちょっと待って」

時雨はやはり艦娘であったという事もあり、通信の類に関しても知識はあった。

海の上で戦う以上、やはり電信は必須科目と言うべきだからだろう。

そう言って時雨は手紙の内容を読み解いていく。

 

「き、ゆ、う、き、よ、く……」

机を指先で叩きつつも最初の数文字を呼んだところで、時雨は黙りこくった。

 

「読めた…!」

「わかったの!?」

「時雨君、なんて書いてあったのかね?」

奈美子とソウイチが質問すると、時雨は一呼吸おいて答えを出した。

 

「上から…『究極のマシンで頂点まで駆け上がってこい』、『ツバサ先生に会いに行け』、『俺からお前への最大のプレゼントを用意した』…って!」

「まさか…!?」

「兄さん、また車を!?」

モールス電信の内容は、ショウが新たなるマシンを用意したという事を意味するものだった。

その内容からして、誰に会いに行くべきなのかも明白だった。

ツバサ先生…時雨と奈美子ならはっきりとわかったが、やはり白鳥ツバサに違いない。

ツバサは以前、時雨がニューヨークに旅立つ前にショウが用意したマシンの素体を用意していたのだ。

今回もやはりショウが用意したマシンを預かっているのは確実だろう。

これは何が何でも会いに行くべきだろう。

 

「時雨君、これはすぐにでもツバサ君に会いに行くべきだろうね。用意してもらった車とRZ34を比べて、どちらにするかを考えるのもいいし…スペアカーにするのもいいだろう」

ソウイチはどこかドキドキした気持ちでそう言った。

彼としてもニューマシンの話は気になっているようだ。

だが時雨としてはある困ったことがあった。

 

「でも、僕にはツバサさんの連絡先なんて…」

そう、時雨はツバサの連絡先を持っていないのだ。

何より彼はただでさえ多忙な身…連絡先を手に入れてもすぐに連絡することが許されるという訳ではない。

だが、ソウイチはあることを話した。

 

「問題ない。私とツバサ君にはプライベートでも付き合いがあるからね…連絡くらいできるさ」

「いいんですか?」

「ああ。車を預かっているという事は、きっと彼も事情を知っているに違いないからね」

「じ、じゃあお願いします…」

「うむ。早速だがかけてしまおう」

「ええっ?今から…?」

「今後の大会の事もあるだろう。このことは速めに伝えた方がいいに決まっている」

「はあ…」

そう言ってソウイチはスマホからツバサへと電話を掛けた。

 

「……ああ、もしもし?ええ、どうも。実は、時雨君が私の下に来てまして…それで……」

電話は非常に淡々と進んでいく。

すると、ソウイチが時雨にスマホを手渡した。

 

「時雨君、本人と直接話をしたいと」

「あ、はい…もしもし?」

『やあ、時雨君。遂にニューヨークから戻ってきたそうだね』

「はい…」

『手短に話すけど…ソウイチ先生を通して電話をしてきたという事は、ショウ君からの例の手紙の内容を見て、という事で間違えないだろう。暗号文が書かれていたそうだが、よく解読してくれたね』

「いえ、そんな…」

『ともあれこういう形で連絡をしてきたという事ならば、僕も準備を整える必要がある。そうだな…2日後の夜なんてどうだろう?』

「2日後ですか?いいですよ」

『僕が駅に迎えに行くから、電車で来てほしい。そうだな…前と同じ、成城学園前駅がわかりやすい。2日後の夜9時に、この前と同じ場所に頼む」

「わかりました…2日後の夜9時に、成城学園前駅の駅前…ですね」

『ああ、それでいい。僕も今回の件はとても楽しみなんだ…期待しているよ。それじゃあまた2日後にね』

「あ、はい…」

そう言ったところで電話は切れた。

奈美子が話しかける。

 

「どうだった?」

「2日後の夜9時に、成城学園前駅前に来てくれ…って。迎えにくるって」

「前と同じ形で迎えに来るのね。まあその方が分かりやすいからかしら」

「うん、そうだろうね」

「よしわかった。今回の件は一旦RZ34は保留として、そのマシンを受け取りに行ってみてほしい。最終的な判断は君に任せるよ。今日はこのくらいにしておこうか」

「あ、はい…あの、大会の方ですけど、どうか秘密にしてくださいね」

「ああ、わかっている。安心していいよ」

そう言ってソウイチとの面談は終わりを迎えたのだった。

 

 

 


 

 

 

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―――2日後、成城学園前駅前。夜9時前。

この日もまた、時雨と奈美子は私鉄電車に乗って箱根から東京へやってきていた。

夜の東京方面行という事もあり、帰宅ラッシュの下り線に比べればましな方だった。

それぞれが小柄なバッグを持ち、駅へと辿り着いた。

 

「ここに来たのも、数か月ぶりだね…」

「ええ。ずっとニューヨークにいたからね」

駅前のキラキラした景色を見て、ふと時雨は呟いた。

駅前は夜という事もあり、多くの人でにぎわっている。

多くの人々の中で、時雨と奈美子は駅の入口から通りへと出る。

すると、通りに出たところで見覚えのあるミニ・クーパーが駐車されているのが見えた。

 

「多分、あれだね…」

「行きましょうか」

そう言ってクーパーの方へとやってきた2人。

運転席をノックし、ドライバーに気が付かせる。

 

「来てくれたね。早速だけど後ろに乗ってくれ」

窓を開けたドライバーの男…白鳥ツバサは、待っていたかのようにそう言った。

その言葉を聞いた時雨と奈美子は軽く頷いた上で、後部座席へと乗り込む。

乗り込んだところでクーパーは発進した。

 

「ツバサ先生、ショウさんから車を預かっているって…」

「ああ、ショウ君はしばらく海外にいるからって、車の管理を依頼されていたんだ」

「そうだったんですね」

「今はレンタルガレージに止めてある…そこに行けば、すぐにでも乗れるよ」

「じゃあ、今はこの車で?」

「ああ、そのガレージに向かうのさ」

そう言ったところでクーパーは成城六間通りから東宝スタジオ前を通過、そのまま国道3号線へ移動する。

すると、移動する中でツバサが時雨に話しかけた。

 

「時雨君。今回のマシンに関しても、ショウ君から複数のテーマを与えられている」

「テーマ…やっぱり、ゴジラですか?」

「フフッ、察しがいいね。それもテーマの1つだ。ショウ君から長々とゴジラに関する講釈を受けただけはあるみたいだ」

「ショウさんから聞いたんです。ゴジラの事、ゴジラの映画の内容、スカイラインGT-Rはアメリカで『ゴジラ』って呼ばれてるって…それに、アメリカとこの国で、ゴジラの扱いって色々違うって…」

時雨はショウから、スカイラインGT-Rがゴジラの異名を持つことを聞いていた。

例のマシン、M6やZ33も…ゴジラシリーズに登場する怪獣を模していることも、彼女はしっかりと覚えていた。

そしてそうである以上、やはり今回もゴジラに関する何かを与えられるのではないかとある程度察していた。

 

「ふむ、なるほど。ではそのことを聞いている以上、話が早いかもしれない。折角だからここでテーマの1つについて話してしまおう」

「あ、はい…お願いします」

そう言って運転しながら、ツバサは口を開いた。

 

 

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「あるゲーム作品における話だ。この国が宇宙人による侵略…怪獣たちに襲われてピンチに陥った際に、防衛省はゴジラにコントロール装置を取り付けて、ゴジラを制御して怪獣と対決させるという方針を示した」

「ゴジラを制御して、怪獣と対決させる…?」

「防衛省の人間である主人公は、ゴジラを制御して怪獣たちを倒していく。だがその戦いの最中、研究者たちがゴジラの細胞を研究をしていたところ…あることがわかったんだ」

「あること?」

あるゲームにおいて、人類の危機においてゴジラを制御して対決させる。

そしてその裏側で、研究者たちがある事実に気が付いた。

ツバサが話を続ける。

 

「ゴジラが持つ細胞に別の怪獣の細胞を融合させてエネルギーを与えると、強力なパワーを伴った反応が起こるという事が実験の結果で判明した」

「ゴジラの細胞に…別の怪獣の細胞とエネルギーを与えることで、強化がされるってことですか?」

「ああ。そしてその工程を、工夫した上でゴジラ本体で行った結果…ゴジラはとんでもないパワーを得ることに成功したんだ」

「更なるパワーを得たゴジラ…」

「ゴジラを超えた究極のゴジラと称された…その名は超ゴジラ!ゲームのみに登場し、長年立体化もされなかった幻のゴジラであり、同時にゲームの名前だ」

「幻のゴジラ…超、ゴジラ…ですか」

「超、ゴジラ…!」

ゲーム・超ゴジラ。1993年末に発売されたゲームソフト。

ゴジラを操作することで、キングギドラやメカゴジラといったライバル怪獣たちを倒していくアクションゲーム。

ゴジラを移動させる移動モードで進軍、怪獣との遭遇でバトルモードに移り、パラメーターを読み取りながら相手を攻撃、必殺技を当てていき、相手怪獣の体力をゼロにすれば勝利となるアクションゲーム。

199X年、地球征服を企む宇宙人がこの国を攻撃すると宣言、キングギドラを大阪に送り込んできた。

防衛庁は防衛のため、この国の近海で眠っていたゴジラに対して、コントロールボックスを頭脳に撃ち込んで遠隔操作することを決定。

プレイヤーはそのコントローラーで、ゴジラの闘争本能を制御つつも怪獣達を倒していくことになる。

そしてそんなゲームの終盤において、キングギドラ細胞にエネルギーを蓄える性質があることが研究の末に判明。

ゴジラにそれを付与したことにより、ゴジラにキングギドラの細胞を取り込むことで突然変異させた「超ゴジラ」が操作可能となる。

その性能は圧倒的の一言であり、ただでさえ攻撃力が通常のゴジラの倍近くある。

おまけに腹や尻尾からビームを発射可能で、格闘戦においては強力なダッシュパンチを繰り出せる。

また防御力も高く、通常時はダメージを受ける場面…障害物を破壊したり、進路上で攻撃を受けてもダメージを受けない。

文字通りの究極のゴジラと言っても過言はないだろう。

 

「そして、それに相当するマシンを…僕はショウ君から預かっている。そのマシンはショウ君だけじゃなく、僕や別のプロレーサーの監修付きだ」

「やっぱり、ショウさんはツバサさんに…」

「まあ以前、ショウ君が君へプレゼントしたマシン4台のうち3台の素体を用意したくらいだからね」

「…そういえばそうでしたね」

ショウはやはりツバサを信用しているのは間違えない。

元々時雨に与えた4台のマシンのうち3体の素体を用意したこともある以上、それなりに信用されているのだろう。

だが、ここでふと気になったことがあった時雨はこう口にする。

 

「でも、別のプロレーサーって?」

「ああ、それは行けば分かるよ」

「……」

新たなるマシンに関与する、別のプロレーサーとは一体。

時雨が疑問を抱きつつも、クーパーはそのまま国道3号から環八へ移動、北上していく。

 

 

 


 

 

 

―――数十分後。

クーパーは環八を北上、千歳烏山、仙川を経由し、高井戸まで移動。

高井戸に到達したところで都道413号との交差点を右折。

そのまましばらく走ったところにある、浜田山と高井戸の間にあるレンタルスペースの前にマシンを止めた。

 

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「さあ2人とも、ここが目的地だよ」

「ここ、ですか」

駐車場に止まったクーパー。

そこから3人が降りて、レンタルスペースへと向かっていく。

すると、そこには既に先客がいた。

先客が3人に気が付き、やってきた。

 

「久しぶりだな、時雨、ナビ子。ニューヨークではご苦労だった」

「し、シノブさん!」

「じゃあ、あなたが…!」

「フフフ、そういうことさ。今回の車は、プロレーサーでもあるシノブ君に監修してもらったんだ…遅くなって悪かったね」

「いや、問題ない」

"鬼面レーサー"シノブ。越境走り屋チーム集団「御伽走子」のリーダー群、「四傑」のドライバーの1人であり、現役のプロレーサー。

そして時雨と奈美子がニューヨークに行く際に仕事を依頼した人物だった。

そんな人物が、今回のマシンに関して協力していたのである。

レンタルスペースの端には、彼女のRZ34プロトタイプも駐車されていた。

すると、シノブは軽く頭を下げてこう言った。

 

「ニューヨークの件に関しては…色々と本当に申し訳なかった。詫びとして、私も例の車に協力させてもらうことにしたんだ」

「そんな、お詫びなんて…」

「いや、いいんだ。例の車に関しては私も興味があったからな…」

シノブがマシンに協力したのは、やはりそれなりに時雨と奈美子に対して申し訳なさを持っていたからだろう。

そうでなければ、わざわざ協力するなんてことはあり得ない。

仕事を依頼して辛い経験をさせてしまったのだから、そんな態度をとるのもおかしくはない話だった。

すると、どこか暗い雰囲気になりかけたところを見かねたツバサが話しかける。

 

「さて、今はそれよりも車の事を優先しよう。ここにあるのが…時雨君の新たなるマシンだ」

「これが…」

4人の前にある、カバーが掛けられている1台のマシン。

そのマシンはどちらかと言えば角ばっている。

ゴジラのくだりからして、おそらくスカイラインGT-Rの何かだろう…そう時雨は思った。

ゴジラの異名を持つマシン、スカイラインGT-R…そしてGT-R。

だがその形からして、GT-Rにしては角ばりすぎている。

間違えなくスカイラインGT-Rであろう。

 

「それでは早速紹介しよう…これが君の新たなるマシンだ!」

そう言ってツバサは、車に賭けられていたカバーを剝がした。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

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カバーを剥がした後に現れたマシン…それこそが、禍々しい雰囲気を漂わせる紫色のBNR32型スカイラインGT-Rだった。

 

「これが時雨君への究極のプレゼント…BNR32型スカイラインGT-R、"Super-Purple Lagoon"だ!!」

「す、スーパー…」

「パープル、ラグーン…!!」

「遂に来たか…!」

ツバサの言葉に対し驚く時雨と奈美子。

それどころかレーサーであるシノブですらも息を吞んでいた。

するとここで、奈美子はあることに気が付いた。

 

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「この車って、まさか前に用意されていた…メカチューンのR32よね?」

そう、BNR32と言えば兄であるショウが最初に乗っていたマシンだ。

そのマシンと言えば時雨に手渡す前はわざとツインターボを外してメカチューンにするという魔改造をしたはずだ。

一体どういうことなのかと思っていると、ツバサが言葉を続ける。

 

「ああ、ショウ君が初めて皇帝を名乗った時に乗っていたマシンだ。だが中身は普通のBNR32とは、全くもって別物と言っていいね」

「別物、ですか?」

「このエンジンに搭載されているのは…VR38DETTなんだ」

「VR38…?」

「R35GT-Rに搭載されているエンジンと言えば、わかるだろうか」

「えっ!?BNR32に、GT-Rのエンジンを!?」

「ああ…もはやBNR32という枠に囚われない、究極のプレゼントだというね」

なんとこのBNR32にはVR38DETTエンジンが搭載されている。

VR38をエンジンスワップ…つまりエンジンを載せ変えた事例はBNR32でも、D1グランプリに出場したS15シルビアでもあるものの、まさかそれをここでやってのけるとは誰も思わないだろう。

それもプロの競技レースならともかく、一般のストリートレースでここまでやってのけるとは想像が出来る筈もない。

 

「性能はとんでもないスペックになっている…ブースト1.5で800馬力以上。パーツとしては、基本的にTRUST製のピストン、コンロッド、カム、タービン、ウエストゲート、更にはトランスミッションにインタークーラー。大体はTRUSTやGreddy製のパーツを搭載しているんだ」

「TRUSTとGreddy…あの大手メーカーのよね?」

「ああ。コンピュータもすごいよ…伝説のメーカー、ベントルーフのCPUだ。LSDとサスペンションはHKS製、燃料ポンプはR35GT-Rのそれに置き換えたんだ。特徴的なのは、R35GT-Rの強化パーツをも取り入れているという事かな」

「…パーツだけでもかなり取り換えてますね。しかも、R35GT-Rのそれを…」

「まあ、膨大なパワーを押さえつけるためにはこれくらい取り替えないといけない…という事だよ。この車のエンジン性能はとんでもないものだからね」

「本当にすごい車になったな…」

このBNR32におけるパーツは多くが大手メーカーであるTRUST/Greddyのパーツに取り換えられており、それも一部はR35GT-Rのパーツのそれを搭載していた。

どうやら強大なパワーを制御するためにはこれくらいしないといけないという事だろう。

内部のパーツは何から何まで超モンスター使用のマシンを制御するために相応しくなるよう、1から10までほとんどが強化されていた。まさしく「ゴジラ」の名にふさわしい…いや、ゴジラをも超越しかねないマシンとなったと言っても過言ではないだろう。

その超モンスタースペックに対しては、時雨も奈美子もシノブもただただ驚くことしかできなかった。

 

 

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「ちなみになんだけど、この車には3つのテーマがあるそうだ」

「3つも?1つはゴジラだと思うんですが…」

「ああ。2つ目のテーマ、それは『魔王GT-R』をモチーフにしているという事だ」

「魔王?そんな車が?」

「ああ。あるチューニングショップが開発した、エンジンも足回りも、全てを一度バラして新たに作り直された究極とも言うべきBNR32。約25年前に当時オーバルコースで叩きだされた最高速度記録、343キロは市販車による国内最高速を記録したんだ」

「25年前で、343キロ…!?当時の車で、そんなに出せるものなの!?」

「ああ。ちなみにこの記録はまだ破られていないんだよ」

「いくらレーシングカーでも300キロ以上は怖い時があるのに…それを市販のスポーツカーでやってのけるのはハッキリ言って、狂気の沙汰のレベルだな」

「フフッ、そうだろうね。そしてさっき教えたパーツ類は、そのBNR32とほぼ同等、あるいはそれ以上の性能になるようにしているんだ」

「…現代に、魔王と呼ばれたBNR32を復活させるようなものか」

ツバサの言葉に対し、シノブはどこか恐怖するようにそう言った。

レースカーでも300キロ以上は怖いと思うことはあるのに、それを市販車であるスカイラインGT-Rで記録してしまうほどの飛んでもスペックを持つマシン。そんなマシンが、今目の前にあるBNR32のモチーフとなっていた。

するとツバサはまた言葉を続ける。

 

「そしてもう1つ…3つ目のテーマが、『Monster-R』だ」

「モンスター?」

「これはゴジラとは関係ないが…あるゲームの宣伝のために、R33型のスカイラインGT-Rをベースにチューニングカーが開発された」

「R33?じゃあ、R32の次のモデルってことでは…」

「その通り。その名は『Blue-Lagoon』号といい、馬力はこの車同じ800馬力以上!プロモーションのために首都高を走ったり、ショーへの出展もされていたんだ」

「800馬力のR33型GT-R…そんな車があったんですか?」

「ああ…だがその後、マシンは富士スピードウェイで大破。製作を担当したショップは夜逃げ同然で倒産し、従業員の中には自殺者まで出してしまった。そんな曰く付きのマシンがあったのさ」

「そんな車が…」

「噂自体は有名だが、やはりとんでもない車だな…」

Monster-R。それは1999年に発売されたカルト的人気を誇るドライビングRPG「レーシングラグーン」のプロモーションのために開発された、800馬力を誇った青いBNCR33型スカイラインGT-R。

元々その車はあるチューニングショップがプロモーションのために開発したマシンであり、首都高を走ったりショーへの出店がされていた。またそのゲームにおいても特殊ライバルとして登場、勝つとパーツなどを手に入れることが出来た。

だがプロモーション後、実車は富士スピードウェイでクラッシュして大破。後に制作したショップも倒産、ショップ関係者の中には自殺者まで出すというとんでもない曰く付きのマシン。

それが、時雨のマシンのモチーフの1つになっていた。

 

「ゴジラに魔王、そしてモンスター…3つのテーマが、この車に込められているんですね」

「聞いているだけでも、とんでもないマシンね…!兄さんが究極のマシンって言っていたのも、過言じゃないわ!」

「ああ…正直言って、ここまでのものになるとは…!」

ツバサの説明に対しては、説明を聞いていた3人各々が驚愕していた。

800馬力オーバーのVR38載せ替えモンスターマシン。そんな言葉を聞いただけでも驚くしかないだろう。

 

「さてあとは…とりあえず中に乗ってみてくれないか?色々と説明をしておきたいんだ」

「あ…はい」

そう言ってツバサはBNR32のドライバー側のドアを開けた。

時雨がその中に入り、シートに着く。

シートはレーシング仕様のバケットシートであるが、目の前は不思議とスッキリしている。

様々なタコメータや計測器が搭載されているワンエイティに比べると、それらが存在しないのだ。

 

「目の前は結構すっきりしてる…」

「水温系、油温系とかは助手席側に付けられているからね。ほら」

「あ…本当だ」

「あとは君が慣れているように、この車はパドルシフトに換装している。君のワンエイティやニューヨークでのマシンとほぼ同じ感覚で走らせることが出来るはずだよ」

「このパドルはやっぱり…そうなんですね」

前方がすっきりするように、水温計や油温計はナビシート側に取り付けられていた。

前方がすっきりしており、不思議な感覚になっている。

また、トランスミッションに関してもパドルが取り付けられており…やはり6速のパドルシフトのようだ。

その上でメーター類を確認する。

 

「速度計は…340キロ、タコメーターは11000回転が上限…」

「現在のギア比でも最高速度320キロ以上…それくらいのマシンだ」

モンスターマシンの最高速度は最低でも320キロ以上。

これ程のマシンではないと、例のドライバーに勝てないという事なのかもしれない。

すると、時雨があることを口にする。

 

「あの…エンジンを動かしてもいいですか?」

「フフッ、そうだね…やはりそれを確かめてもらわないとね。さあ、付けてみてごらん」

そう言ってツバサは、鍵穴に差しっぱなしだったエンジンキーを取り出して時雨に手渡した。

静かに受け取った時雨は、エンジンを起動させようとする。

 

「世紀末覇王ならぬ、世紀末女王の誕生の瞬間か…」

ぼそりとツバサは呟いた。

ゴジラが「世紀末覇王」と呼ばれるのであるならば、時雨が駆るこのBNR32は…「世紀末女王」と言うべきなのかもしれない。

そう静かに呟いたところで、時雨がエンジンキーを差してエンジンを始動させる。

 

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「―――――!!」

日産が誇るV型エンジンの激しい音が、ガレージ内に響き渡る。

レーシングカーをも凌駕しかねない、超強大なパワーを時雨はそのシートから感じ取る。

ゴジラが目覚めた。

世紀末女王が目覚めさせた。

常識にとらわれない究極のBNR32が目覚めた。

それをその場にいた誰もが思った。

 

「こ、これは…なんてマシンなの!」

「まさしく、ゴジラ…これは、もはやゴジラそのものだ…!」

「怪物の雄たけびのようなエンジンサウンド…レーシングカーにも負けないそれだ。いつ聞いても壮観だな…!」

ツバサ以外の3人は驚くしかなかった。

そんな中でも時雨は、この車はゴジラをも凌駕しかねないとんでもないマシンになったとはっきりと自覚した。

互いに驚いていた中で、ツバサがこう告げる。

 

「時雨君、どうやら君は『怪獣王』を目覚めさせたようだね…この車の力をどれだけ引き出せるかは、僕でも想像がつかない。何せ伝説のマシンをモチーフにしているからね」

ツバサは時雨が「怪獣王」を目覚めさせたことをはっきりと告げた。

やはり彼でもそれくらいのとんでもないマシンであるという事を自覚していたのだろう。

だが同時に時雨に期待するかのようにこうも告げる。

 

「この車はこれまで君が今までに乗ってきた、そして戦ってきたマシンたちをも遥かに超える存在であるのは間違えない!ヘタをしたら、君の命も危ういかもしれないくらいだ…だが同時に、この車の性能をフルに生かせるのも、君しかいない!」

この車は時雨が以前に乗ったRZ34をも凌駕しかねないトンデモスペックであるということをツバサは告げた。

しかし一方で、このマシンを乗りこなせるのは時雨自身であるという事を期待を込めるかのようにも言った。

そんな言葉を聞いた以上、時雨が言えるのはたった一言だけだった。

 

「…乗りこなしてみせます。自分の限界まで戦うって…決めたから!」

ツバサの方を向いた時雨の目ははっきりとしていたものだった。

怪獣王を覚醒させるだけの覚悟はどうやら彼女にはある…そうツバサは認識した。

 

「フフフ、いい覚悟だよ…ところで、今日告知されたばかりだが…首都高や首都環状を舞台に、国内はおろか世界でも屈指の超大規模なアマチュア大会…『ザ・スピリッツ』が行われるそうだね」

「あ、はい…そうですね」

ツバサは例の大会の事について既に情報をキャッチしていた。

告知されたのはこの日の朝10時である。

その話題は瞬く間に世界中に広がり、多くの走り屋たちが参戦表明をし始めていた。

 

「出場は抽選らしいそうだが、君たちならトーナメントへの参加自体はできるだろう。そしてこの車を得た以上、君はこの車で出るべきだと思っている。もし出場をするというなら、君たちが大会で頂まで駆け上がることを…期待しているよ」

「…はい!」

ツバサは時雨たちであるならば、この車で例の大会へと出場するべきだとはっきり告げた。

そしてそれは、時雨でも同じことを考えていたのだった。

すると、その言葉を聞いたツバサはこう告げる。

 

「では、ここからはこの車の最終仕上げだ。確かに僕たちは君に合うようにマシンをセッティングした。だが最後の最後の詰めをやるのは、ドライバーである君自身だと考えている」

「今からこの車のシェイクダウンと、最終調整をするの?」

「ああ。そしてそれに付き添ってもらうのは…シノブ君だ」

そう言ってツバサはシノブの方を向いた。

ツバサからの視線を受けたシノブは、軽く頷いた。

 

「…プロレーサーのアドバイスをもらいつつ、マシン調整を?」

「そうだ。だから今日、私はこの場にいるんだ」

「そういうことだったんですね」

シノブのマシン、プロトタイプのRZ34フェアレディZ。

彼女がこの場にいたのは、マシンの監修もそうだが…BNR32のシェイクダウンにも付き合うためだった。

 

「早速だが首都環状の方へ行ってみよう。シノブ君のRZ34と一緒に、この車をしっかりと詰めるとしようか」

「夜は案外短いぞ…さあ、行くとしよう!ツバサ先生は私の車へ…ナビ子はBNR32に乗ってくれ」

「…はい!」

「じゃあ、行きましょうか!」

ツバサとシノブの言葉に対し、時雨はそうはっきりと告げた。

そしてその言葉を聞いた3人は、各々がそれぞれのマシンに乗り込んだ。

4人がそれぞれの立ち位置に乗り込んだ後、RZ34がエンジンを始動してレンタルスペースから出る。

それを追うかのように、BNR32もゆっくりと慎重にガレージから出た。

レンタルスペースの照明を落として鍵をかけたところで、都道に出た2台はそのまま首都環状へと移動していく。

 

「(この車で、『ザ・スピリッツ』へ…待っていてくれ、ユキ!!)」

BNR32を走らせる中で、時雨はその高い目標へと向けて照準を定めた。

高い目標…自分の最大の相棒であり、ライバルであり、そして宿敵である雪風。

いずれ行われるであろう戦いに、最終戦争(ファイナルウォーズ)に勝つための究極のマシンに仕上げてみせる。

そんな思いが時雨の中に生まれるのだった。

 

BNR32はその後、RZ34と共に1晩かけて首都環状各地を走行。

時雨ははっきりとマシンのセッティングを詰めるのだった。

 

 

 


 

 

 

 

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―――2週間後、午前。

都内、プリンセスホテル東京ベイ。

都内屈指のウォーターフロント、天王洲アイル。

その一角にある高級ホテルの大部屋、大会議室において…ある人物たちが集っていた。

 

「本日はお集まりいただきありがとうございます。今回の会合の主催者であり、レーシングチーム『WhiteOut』のオーナー…藤原大輔と申します」

長い机を迎えに、それぞれのチームのメンバー…ドライバーと首脳陣、そしてチューナーが対面している。

長机の一番左端において、マイクで話す茶色のジャケットを羽織った男が本日の主催である藤原大輔である。

時雨の向かいは雪風、奈美子の向かいは赤いジャケットを着た20代の若い男、ハルカの向かいはある程度年のいったチューナーらしき男、トーコの向かいはそのチューナーの息子とも言うべき男が座っていた。

 

「今回の会合…顔合わせですが、今後の大会『ザ・スピリッツ』に関する、雪風さんのチームと、時雨さんのチームの事前打ち合わせのために開催しました。形式上お堅くなっていますが、どうぞリラックスしてください。あくまで顔合わせです」

この日は例の大会、「ザ・スピリッツ」の主催者である藤原コンツェルンの御曹司、藤原大輔の呼びかけにより…時雨のチーム、「TimeRain Racing」と、雪風のチーム「WhiteOut」の両チームの関係者を集めた会合が開かれているのだった。

雪風のチーム「WhiteOut」は、藤原コンツェルンの出資によってできたチーム…いわばお抱えのチームだ。

ゼロヨンチャンプになった雪風に対して、「ゼロヨンから世界的なレーシングドライバーを育成するプロジェクト」の一員になるよう依頼した藤原大輔によって、彼女のチームが設立されたという経緯がある。

ゼロヨンチャンプになった雪風は現在までに、国内A級ライセンス、国際C-R級ライセンス、そしてゼロヨンライセンスの3つを保持している。

それもやはり、身軽な雪風に対して藤原コンツェルン側が何から何まで手ほどきをした結果だとされているし、とんでもなく呑み込みが早い雪風のスペックもあるようだ。

また、出場したレース全てで完走済み、複数回の入賞という経歴から早々にライセンスが交付された。

現在は国際C-C級ライセンスを取得するために勉学に励んでいるらしい。

 

「来月に開催される、世界屈指の超大規模アマチュア最速決定戦…『ザ・スピリッツ』。この大会においては、私たち藤原コンツェルンも合同主催として参画しています。そしてその上で…アメリカ側の主催者から3名、そして我々藤原コンツェルンから、3名の推薦ドライバー枠が与えられ…この度その出場者が決まったため、その顔合わせ、自己紹介もかねています。それでは出場が決まっている選手3名、そして関係者の皆様の自己紹介を、我々藤原コンツェルン側からいたします。まずは雪風さん、お願いします」

「ユキ…」

「雪風ちゃんから…」

藤原からマイクを受け取った雪風が、一呼吸ついて離し始めた。

 

「『TimeRain Racing』の皆さん、こんにちは!あたし、雪風…赤沢雪風って言います!もともとあたしは台湾とこの国のハーフで、留学で来ていました。その上で、赤沢さんにゼロヨンの事を教えてもらって、そこからあれよあれよという間に『ゼロヨンチャンプ』になっちゃいました。今は藤原さんからお声がけいただいて…大学に通いながら、マシンテスターとレーサーの3足のワラジ履いてます!…よろしくお願いします!」

雪風の自己紹介に対し、時雨たちは多少驚きつつも静かに拍手した。

 

「噂には聞いてたけど、やっぱりすごい経歴ね雪風ちゃん…あの藤原コンツェルンでマシンテスターやって、しかもレーサー修行中で、それに台湾から留学してきた大学生?バイタリティがあるというか、さすが時雨の『相棒』というか…」

「やっぱり、ユキだよ…何でも乗り越えちゃうんだよね。ユキは」

雪風の説明に対し、奈美子は驚いていたが、時雨は「まあ彼女の事なら」とどこかわかっていたかのようだった。

やはり「あの時代」において相棒だったこともあるのだろう。

そう互いに口にすると、藤原が補足をするかのように説明する。

 

「雪風さんは台湾出身、この国出身の母親と台湾人の父親のハーフです。元々台湾国籍なのですが、現在は既にこの国に帰化しております。また名字の方も、現在のホームステイ先の赤沢姓を名乗っています。台湾からの留学生ということもあり現在は早稲田大学に在学中、来年度で卒業の見込みです。卒業までに国際B級ライセンス取得を目指し、その後世界視野でレーシング活動を開始する見込みです」

藤原が補足するようにそう説明した。

その補足説明に関しては、やはり「TimeRain Racing」のメンバーたちも多少動揺していた。

 

「ゼロヨンデビューからまだ1年とちょっと程度だというのに既に国際ライセンスを持ってるなんて…やっぱりスゲェや」

「ああ…伊達に時雨がライバルと認めるだけはあるな」

関係者として同席していたヒロシとトオルが互いに驚いていた。

まだ20歳くらいだというのに、アマチュアからプロの世界へと飛び込み活動している。

20歳はレーサーとしてはそこそこなのかもしれないが、台湾からやってきてそのままこの国でレーサーになったというのだから、とんでとんでもない異色の経歴であるというのは間違えない。

 

「次は先代のチャンプ…と申し上げたいのですが、あいにくチャンプは現在北欧でラリーレースに出場しており…今回は欠席とさせていただきます。次に…3人目の推薦ドライバー、赤沢さんお願いします」

この日、先代のチャンプはプロレーサーとして海外でレースに参加していた。

あいにくこの日の会合には出れなかったが、やはりプロレーサーという事は言うまでもないだろう。

そう言って雪風からマイクを渡された赤いジャケットを羽織った男が口にする。

 

「えーどうも、赤沢っす。一瞬だけだったとはいえ先々代のゼロヨンチャンプ…でした。今は雪風と同じ大学に通っていて、雪風のホームステイ先が俺の家になっています。今回はチャンプ挑戦時代のライバルである、藤原さんからお声がけいただきました。大会に向けてリハビリしてる途中ですが、どうぞよろしくお願いします」

藤原と赤沢は親交があるために普段は下の名前で呼び合う仲だが、今回の場はあくまで「さん」付けだった。

赤沢が軽く頭を下げると、周りから拍手が沸いた。

ほんの一瞬だったとはいえ、ゼロヨンチャンプになっただけの実力者であること自体は認められているのだろう。

 

「(あの人が先々代の『ゼロヨンチャンプ』…見たところ年齢は雪風ちゃんと大して変わらなそうだし、才能でここまで成り上がってきたって雰囲気がするわね。まあ、時雨ちゃんや同じ『艦娘』の経歴を持つ雪風ちゃんほどじゃなさそうだけど)」

赤沢の様子を見て、トーコは静かにそう思っていた。

雪風が時雨同様とんでもない経歴の持ち主であることは知っているが、赤沢の方もまた…「何も知らない素人から1年足らずでゼロヨンチャンプになった」と言う経歴から、それなりの経歴の持ち主なのだろうと考えるのだった。

だが次の人物…赤沢の右隣りにいた若い女性…赤沢や雪風とほぼ同じ年は、更に異色の経歴だった。

赤沢からマイクを渡された女性は、丁寧に話し始めた。

 

「始めまして、松永まゆみといいます。赤沢さんたちとほぼ同じ年ですが、幼少の頃から車に触れていたのでチューニングには自信があります。今回の大会では赤沢さんと雪風さんのマシンのチューニング、セッティングを担当します。よろしくお願いします」

松永と名乗った彼女。どうやら女性のチューナーのようだ。

自己紹介を終えると、藤原が補足の説明をする。

 

「彼女は幼少の頃から車に触れ、先々代のチャンプが挑戦していた時代…四天王と呼ばれるドライバーのうち1人、姉の松永麻美さんが駆るトヨタスポーツ800を15歳でチューンしていました。麻美さん自身は既にゼロヨンとレースの世界から引退していますが…それでも、たった800ccのヨタハチでランキング3位まで到達したという伝説は今でも語り草です。その後は『自らチューンした車でチャンプを生み出したい』という要望から赤沢さんの車をチューン。現在は赤沢さんの車をチューンした経験と彼からの依頼により、雪風さんの車のチューニングも担当しています」

「(あのヨタハチのチューナーさんを…!?まさか、こんなに若い人が…!)」

同じチューナーであるハルカとしては驚くしかなかった。

かつてゼロヨンの世界で活躍していたトヨタスポーツ800。往年の旧車でありながら、国内ランキング3位まで到達するマシンは知る人ぞ知るマシンで、ハルカもその話は聞いていた。

そしてそうである以上、まさかこんなところで会えるなんて思ってもいなかった。

これはあとで何が何でも話がしたい…そうハルカは思うのだった。

そしてそう思っていると、松永は後ろにいた初老の男性にマイクを渡した。

多少白髪交じりの頑固そうなオヤジとも言うべき男性は、マイクを手にしてこう口にする。

 

「始めまして、岩本ガンジと申します。先々代のチャンプと雪風君の車をチューンしていました。今回のチームにおいても先々代のチャンプと雪風君のマシンのセッティングやチューニングを担当する予定です。客を選ぶ頑固オヤジなんて言われることも多いですが、気兼ねなく話しかけていただければと思います」

「(幻のチューニングファクトリー、練馬オートのオーナー…!そんな方が、雪風さんのチームに…!)」

岩本ガンジと名乗った男は、先代のチャンプと雪風のマシンのチューニングを担当するようだ。

だがその存在は「彼に選ばれた人間にしか車をチューンされない」という言ってしまえば超客を選ぶチューナー。

それゆえに、「幻のチューナー」と言われているのは珍しい事ではなかった。

そんな彼と次の人物には深い因縁があるのだが…それを先代のチャンプが解決したらしい。

 

「ガンジさんは通称『ガンさん』と呼ばれ…選ばれたドライバーの車しかチューニングしません。しかしその分、認めた人間に対しては超一流のチューニング技術を提供し…それゆえに『幻のチューナー』とも呼ばれています」

藤原がそう補足すると、ガンジは横にいた中年の男にマイクを手渡した。

こちらの人物は、先ほどの「ガンさん」と何かしらの縁がありそうだ。

 

「皆さんこんにちは、レーシングチーム監督の岩本ヨシマサと申します。私自身は何年も前の話ですが、私は4代前のゼロヨンチャンプ…当時は『ゼロヨンキング』と呼ばれるほどのドライバーでした。現在は一線を離れていますが、レーシングチーム監督としてご存じの方もいるんじゃないでしょうか。今回の大会においては、『WhiteOut』のチーム監督を務めることになったので参加しています。よろしくお願いします」

岩本ヨシマサと名乗った男は、この大会においては「WhiteOut」のチーム監督のようだ。

その正体はかつて、先代のチャンプが初めてチャンプになった際にランキング1位だった男。

実際は4WD化したトヨタ2000GTを駆り、周りを圧倒した超実力者である。

とはいえ現在は年齢が年齢のために引退しており、基本的にチームマネジメントの方がメインである。

 

「ヨシマサさんは元々お父様であるガンジさんと不仲だった時期がありました。しかしその際先代のチャンプに間を取ってもらったこどもあり、その御縁から今回の大会でチームに協力していただくことになりました」

藤原がそう補足したところで、「WhiteOut」側のチーム関係者の挨拶が終わった。

ドライバーである雪風、赤沢、先代チャンプ。チューナーである松永と岩本ガンジ。マネージャー兼オーナーの藤原大輔。そしてチーム監督の岩本ヨシマサ。

これが現在の「WhiteOut」の全容である。

 

「えー皆さま、自己紹介ありがとうございました。なお『WhiteOut』のチームマネジメント自体は、私藤原大輔が担当いたします。それでは続きまして、『TimeRain Racing』の皆様、自己紹介の方をお願いいたします。なお、本日は相楽翔さんは欠席のため省略させていただきますがご容赦ください」

そう言って、藤原が時雨に対してマイクを渡しに行く。

マイクを渡された時雨は、前もってある程度考えていた自己紹介を口にし始める。

 

推奨BGM

「『WhiteOut』の皆さん、こんにちは。僕は、時雨…西野時雨って言います。1年近く前に箱根にやってきて、そこから…相棒である奈美子と出会って、当時行方不明だった奈美子のお兄さん…ショウさんを探すべく箱根の峠を走り込んでいました。走り込んでいるうちにあれよあれよとしているうちに、『皇帝』と呼ばれるようになって…今は、その経験を生かしてD1ライツにシーズン出場しています。ドリフトの方が得意です。一応、英語も喋れます。よろしくお願いします」

時雨の自己紹介に対しては、「WhiteOut」のメンバーたちは拍手しつつも驚いていた。

たった1年足らずで「皇帝」と呼ばれるようになり、そこから一気にD1ライツへステップアップ。

これはとんでもない才能と言うべきだろう。

 

「(箱根でドライバーデビューして、たった1年間でD1グランプリの下位カテゴリ…D1ライツ出場。やっぱりグレはすごいね。どういう道を歩みたいか、はっきりしてる)」

雪風自身、時雨の話に関しては聞いていた。

箱根においてたった数ヶ月で「皇帝」と呼ばれるようになったドライバー、時雨。

やはりそう呼ばれるだけの実力はあるのは違いない…そして相棒でありライバルにふさわしいと、雪風は思うのだった。

そう思っていると、時雨は隣の青髪の「相棒」へとマイクを渡す。

 

「あっ、えっと…初めまして!私、相楽奈美子と言います!気軽に奈美子って呼んでください。えっと、時雨とは1年ほど前に偶然出会って…そこから色々と時雨に助けられながら、普段は時雨のマシンの助手席でナビをやっています。今回の大会でも…時雨のナビを無線と言う形ですが、やらせてもらうことになりました。よろしくお願いします」

奈美子が自己紹介を終えたところで、「WhiteOut」のメンバーたちから拍手が上がる。

 

「(グレの『相棒』…かぁ。少しだけお話したことあるけど、やっぱりいい人だよね。でも、潜在能力もありそう…)」

雪風にとっても奈美子は好印象。

あの時代の相棒が走り続けていられるのは彼女がいるからということを考えると、少しだけ雪風は感謝していた。

ナビシートでの相棒と、戦場での相棒とは別の意味かもしれない。

だがそれでも、走りの世界で大きな支えでなっていることに関しては雪風は評価していた。

そう思っているうちに、奈美子は次の相手にマイクを渡していた。

マイクを渡した相手は…神風のトオルだった。

 

「こんにちは、オレは大久保トオルっていいます。普段は御殿場のアウトレットで『疾風』ってレザーショップを経営してますが…同時に『TimeRain Racing』のレース監督をやってます。あと、箱根じゃ『神風連合』ってチームのリーダーとして若い奴らを指導しています。今回の大会においては、時雨、ショウと共に選手として出場することになりました。どうぞよろしく」

トオルが自己紹介を終えたところで、「WhiteOut」のメンバーたちから拍手が上がる。

 

「(この人は…チームに必要そうな人だね。うん、グレも世話になってるみたい)」

雪風はトオルも「時雨にとっては必要な人間」と認識していた。

チーム監督をやっている以上、これからのプロのレースにおいては必要不可欠な存在。

同時にチームの早朝であるという話を聞いたため、「この人はそれなりの実力者だろう」と認識するのだった。

そう認識したところで、トオルは次の人物にマイクを渡す。

その人物は、時雨や奈美子でも顔馴染みの…あのアフロ男だった。

 

「は、始めまして…伊藤博ッス…普段はトオルさんの元で走り屋やってて、ナビ子や時雨ちゃんともよく走っています。今回の大会…では、トオルさんのアシスタント、ナビゲータやらしてもらうことになってます。まあ、ナビ子と同じナビだと思っていただければ嬉しい…ッス。場違いかもしれませんが、よろしくお願いします…ッス」

慣れない場において、たどたどしく話したヒロシ。

とはいえ役割を話した以上、メンバーたちから拍手が上がった。

 

「(ホントにこの人、ナビなのかなぁ。どっちかと言えば…腰巾着?)」

一方で、雪風はヒロシの本性を察していた。

やけにたどたどしい態度が、雪風にとっては怪しさを感じる切欠になっていた。

自信なさげな彼は、言ってしまえば時雨やトオルには到底及ばないだろうが…まあ、トオルのナビとしては期待できるかもと静かに思うのだった。

そんな中でトオルは次の人物にマイクを渡す。

 

「皆さん、こんにちは。私は高島ソウイチと申します。普段は箱根にある病院、葦柄病院の外科医として働きつつ、『TimeRain Racing』のチーム代表兼メカアドバイザーとして活動しています。私は箱根から次世代のドライバーを育成するプロジェクトを掲げており、時雨君もその一環で参加してもらっています。また、今度の大会の車は違いますが…その一環で時雨君にマシンを提供したこともあります。今回の大会でも時雨君とトオルの全面支援を実施する予定です。よろしくお願いします」

ソウイチが話を終えると、やはり拍手が上がった。

 

「(お医者さんかぁ…お金は持っていそうだけど、頭もよさそう。グレもチーム以外でひょっとしたらお世話になっているのかもね)」

医者と聞いただけではあるが、雪風は「理論派だろうか」と思った。

やはり頭が言い分は知りも深く考えている可能性がある、と察したのかもしれない。

チームのオーナーではあるが、同時に時雨の大きな支えになるかもしれない…と思うのだった。

そんな中でソウイチは次の人物にマイクを渡す。

 

「は、初めまして!松平ハルカと言います!箱根で整備工場『ピット』のオーナーをやっていて、ピットで時雨さんに働いてもらっています。今回の大会では…全体的に、チームのマシンのメカニックを担当しています。不束者ですが、よろしくお願いします!」

ハルカが緊張しながらも紹介を終えると、拍手が上がった。

 

「(へぇ~…グレの雇主さん、かぁ。いい人そうだね。それに、何か秘めたるものを持っている感じ)」

時雨の雇主と聞いただけで、雪風にとっては好感度が上がった。

同時に、彼女は緊張しつつも芯があるのを雪風は見切った。

この人は小さな工場を切り盛りしてはいるものの、間違えなく実力は底知れないに違いない。

そう思っている中で、ハルカは次の人物にマイクを渡す。

 

「初めまして、私は藤田=ジュリア=トーコ…普段は箱根でカーディーラー『BNワークス』のオーナーとして働いています。ご想像できるとは思いますが…普段は車の販売は勿論の事、時雨ちゃんへマシンパーツを提供したりなど…幅広く業務しております。今回の大会では、主にマシンメンテナンスやセッティングのアドバイザーなどをする予定です。皆さん、どうぞお見知りおきを」

トーコがすらすらと言ったところで、拍手が上がる。

 

「(…なんだろう、この人はどちらかといえばお金で動きそうな人。まあグレもパーツとかそういうのでお世話になってるんだろうね。でも、複雑な過去がありそう)」

自己紹介の内容から、雪風はトーコの本性をある程度感じ取っていた。

お金で動くような人だが、それでも人間関係はそれなりに大切にするのだろう

ここまでの内容からしても、雪風は相手の素性を見通すのがある程度できてしまうのかもしれない。

そう言っている中で、藤原が再び話し始める。

 

「『TimeRain Racing』の皆様、ありがとうございました。それでは双方のチームメンバーの自己紹介も終えたところで、本大会の内容について改めてお話しておきたいと思います…」

そう言って、会合の内容は次の議題へと移っていく。

―――この後、会合の内容としては大会内容の打ち合わせ、具体的な今後のスケジュール、トーナメントの見込みなど…既に参加が決まっている者のみが知れる情報などが共有され、会合は2時間ほどで終了した。

 

 

 


 

 

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―――その後、会合終了後。

藤原コンツェルン側の計らいにより、プリンセスホテルのバイキングレストランを開放。

食事会兼懇親会が開催された。

 

「皆さん、本日はお忙しい中ありがとうございました。食事会の方も楽しんでいってください。この部屋で食べられる料理は全部食べ放題、出来たて新鮮な料理を心行くまでどうぞ!」

藤原によって通されたレストランには、既に多くの料理がセットされていた。

ビッフェ形式の食べ放題である。料理人もいて、その場で調理してくれる料理もあるようだ。

 

「藤原さん、今日はお招きいただいてありがとうございます」

「まさかご飯まで頂けるなんて思いませんでした」

「あ、あの…本日は、その、お招きにあずかり…ま、まことに、ありがとうございます!!」

「ハハハ、皆さん緊張しなくていいよ。わざわざ時間を割いていただいてくれたんだ…楽しんで!」

緊張するハルカ。まあ無理もない話である。

何せ相手は巨大財閥の御曹司。国内屈指の財閥の御曹司が主催する食事会なのだから、緊張しても無理はない話だった。

 

「うわ、な、なんじゃこりゃ!!藤原コンツェルン傘下のホテルでのバイキングってスゲー評判いいっていったけど、こんなうまいローストビーフは今まで食ったことないぜぇ…!?本当の牛肉ってこんなにヤバいのか!?」

「ハッハッハ!こっちの寿司もイケてるぜ!!本日卸したての新鮮なマグロを使ってるって聞いたが、マジみたいだな!!」

「流石国内屈指の大財閥の跡取り息子・藤原大輔…料理も経営ホテルも一流ね…これは玉の輿間違いなしだわ!!」

「TimeRain Racing」の面々は、その料理の数々に舌鼓を打っていた。

流石に国内最大規模のホテルグループの料理なだけあって、彼ら彼女たちを満足させるのには十分であるという事だろう。

「TimeRain Racing」と「WhiteOut」の各チームのメンバーたちが互いに親睦を深めるために食事しつつも同時に会話している。

そんな中で料理を取り終えた時雨は、ビッフェの端っこからテーブルへ移動しようとしていた。

するとその時だった。

 

「あ、グレ!ねえねえ、一緒に食べようよ!」

「ユキ!…そうだね、お願いするよ」

テーブルに移動しようとする時雨の前にやってきたのは、配膳トレー上の皿にたくさんの料理を敷き詰めた雪風。

一応時雨もさらにはそれなりの料理数を盛り付けていた。

一緒に食事することを誘った雪風は、そのままテーブルへと向かっていく。

互いに机にトレイを置き、椅子に座ったところで互いに「いただきます」と言って食べ始めた。

盛り付けた料理を食べていく2人。

すると、ある程度食べたところで雪風が質問してきた。

 

「そういえば聞いたよ?グレってアメリカの方でも大活躍だったみたいだね!」

「ああ、いや…大したことはしてないよ。必死になって走ってきただけだから…」

「それでも3つの勢力のドライバーたちを軒並み倒した、って言うんだから…すごいよね、グレは!」

「…そうかな?僕は今後のために必死になって走ってきただけだから、大したことはしてないよ」

「またまたぁ~あたしを追いかけて、でしょ?グレがあたしのことをずっとライバル視しているのは知っているんだから」

「た、たはは…まあそんなところかな」

雪風は時雨がアメリカでも大活躍していたことを知っていたし、それは十分に称賛に値することもわかっていた。

そして同時に謙遜する時雨をおちょくる算段でもいた。

そんな中である人物が2人が座るテーブルにやってきた。

 

「おうおう雪風、おめーさん相変わらず時雨ちゃんの事を心配してるのか?全く変わらねえなぁ!」

「赤沢さん…!だって、グレはあたしの最大のライバルですから!」

先々代のチャンプ…赤沢。

彼はやはり雪風のお目付け役とも言うべきドライバーであるため、基本的に雪風と一緒にいることが多い。

今回もまた、雪風と同じ席へと料理を持ってきた。

 

「まあ、そうらしいな…んで、時雨ちゃんはアメリカに行ってたそうだな」

「あ、はい…」

「なんだかプロドライバーとのパイプがあるだの聞いてたけど、マジだったんだな」

「みんな、箱根で走り合った人たちなんです。そこでの縁がなければ、こんなことにはなりませんでしたよ」

「にしても、箱根ってすごいんだな…なんか走り屋同士のバトルが盛んって聞いたけど、マジなわけか」

赤沢はどちらかというと今はエンジョイドライバーで、競技シーンに出ることはめったにない。

おまけにゼロヨンチャンプ挑戦時代は基本的に横浜近辺で過ごしていたため、箱根においてバトルが盛んなことはあまりしなかった。

それゆえに、時雨から箱根の事を聞けるのは多少なりとも新鮮だった。

すると話している中で、赤沢があることを疑問にする。

 

「そういえば、時雨ちゃんは最近車を乗り換えたんだって?それで今度の大会に出るって聞いたけど」

「あ、はい。BNR32に乗り換えて…」

「スカイラインGT-R?そうなんだ」

「でも今の時期スカイラインGT-Rか…GT-Rでもよかったんじゃねえか?ほら、先代のチャンプもGT-Rだし」

「うーん…僕にとってそのスカイラインGT-Rは、特別なんですよ」

「特別ぅ~?何それ?」

「…今はちょっと、言えないかな」

「ええーっ、教えてよーほらほら~」

そう言って雪風は時雨の背後に行ったかと思いきやオッパイを服の上から揺さぶる。

巨乳な時雨だが、やはりそういうスキンシップには慣れてないようだ。

 

「わわ、ユキ!恥ずかしいよ…」

「お~し~え~て~よ~ほらほらぁ」

「ダメなものはダメ!それに公共の場でそういうのをするのも…」

「(…この子オッパイでけぇな。あまり揺さぶるのもなあ)」

スキンシップの最中、赤沢は時雨のその巨乳をちゃっかり気にしていた。

まあそれを公の場でやるのはどうかと思っていたのだが。

するとそれを見かねた赤沢がこう口にする。

 

「…しかし珍しいよな」

「何がですか?」

赤沢の言葉に反応した時雨。

そこで雪風も赤沢の方を向いた。

 

「だってよぉ、雪風は俺の前じゃそんなスキンシップをすることなんてねえじゃねえか。まあ男女の違いもあるんだろうが…強く嫌がらないのを見てると、昔からの顔馴染みって話は本当らしいな」

「ああ、えっと…そうですね」

「まあ、顔馴染みってことは…お前さんも雪風とどっちが速いかは気になってるんだろ?」

「は、はい…」

「実際どっちが速いんだろうね?あたしも特訓はしてきたけど、グレもアメリカ行ってたわけだし」

「う~ん…」

実際、時雨と雪風のどちらが速いのかという事に関しては多くの人間が気になっていた。

アメリカで腕を磨いた時雨、国内でダートやスノー、更にはマシンテスターで腕を磨いた雪風。

どちらも才能の塊であることは言うまでもないのだが、その2人がもし真剣勝負をしたら…

それはやはり、時雨と雪風以外でも、気になっている人間は多かった。

 

「まあ、俺としても歴代のゼロヨンチャンプと箱根のドライバーたち…どっちが実際速いのかは気になってるんだよ。大会本番じゃ、いいバトルを出来るようにしようぜ」

「あ…はい」

「あたしもさぁ、期待してるから!グレの底力、ってものをね」

「は、はは…」

赤沢と雪風の期待に、時雨は多少から元気ながら笑うしかできなかった。

 

懇親会はその後90分程したところで終了。

懇親会終了と共に解散となった。

 

 

 


 

 

 

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―――懇親会終了後。

この日、会合・懇親会においては皆が送迎バスでやってきていた。

これもやはり藤原大輔からの計らいらしい。

現地解散となり、地元まではそれぞれのバスで送迎となる。

そんな中、バス出発前に時雨と雪風は顔を合わせていた。

そこで互いに思っていることを口にする。

 

「それにしても…遂に来るんだね。あと少しで、ユキとバトルできる時が!」

「うん…この数ヶ月間、あたしもずっと待ってた!グレと、思い切ってバトルできる時が来るのを!」

時雨も雪風も、最大の相棒とバトルすること自体は強く望んでいた。

そしてその時が近いのは、既に2人でもしっかりと自覚していた。

例の大会、「ザ・スピリッツ」…この大会で総合決勝戦まで行けば、チャンピオンとの三つ巴になるとはいえ…最高の舞台で戦いをすることが出来るのであろう。

2人は互いにそう思ってやまなかった。

 

「トーナメントは最低でも3回は勝たないとダメだから、壁はかなり高いと思う…でも、僕たちなら」

「出来るよ!あたしも、グレも…!鍛え上げてきた走りと車ってものが、あるでしょ?」

トーナメント自体は6人レースの1位勝ち抜け。それを3回も戦い抜く必要がある。

だが同時に、2人は「自分ならできる」とどこか自信を持っていた。

最大の相棒とバトルするためにも絶対に負けられない…そう互いに思っていたのは言うまでもない。

 

「…そうだね。君とのバトルのためにも、大会では絶対負けられない。負けないように頑張るから…ユキも頑張って」

「うん!次は『頂』で…大会の決勝で会おうね!」

雪風と時雨は車の前でしっかりと握手するも、その視線には火花がすでに飛び散っていた。

 

「(大会まであと数週間…これで、どっちが速いかが決まる)」

親しく会話する2人を見て、奈美子は静かにそう思っていた。

だがそんな中で…

 

「(君だけには…)」

「(あなただけには…)」

 

 

【挿絵表示】

 

「「(絶対に負けない!!!!!)」」

 

 

2人は既に火花を散らしながらも互いにそう思っていた。

 

「時雨ー!雪風ちゃーん!そろそろバス出るよー!」

「あっ…はーい!」

「すぐ行きまーす!」

握手をした2人だが、奈美子の声掛けによってそこで2人だけの空間は終わった。

互いのバスに乗り込み、それぞれの自宅へと2人は帰宅するのだった。

 

 

―――いつか、あの頂で。

最大の相棒であるあなたと。

どちらが速いかを決める、最高のバトルを。

 

2人のその願いが叶えらえる時は近い。

 

 

 


 

 

 

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―――会合の1週間程前、首都環状都心環状線内回り、銀座付近。

2台のマシンが駆け抜けていくが、先行するマシンにRZ34が離されていく。

 

「(バカな…!世界一のテストドライバーを自負する、俺が…!?)」

首都環状であるドライバーに勝負を挑んだ相楽ヒュウガは、その実力に驚愕するのだった。

自分のマシン…首都環状仕様に仕上げたRZ34"God Hand"は、あるドライバーが駆るマシンに振り切られるのだった。

 

相楽ヒュウガの敗北。

誰も見ていないその時間帯に首都高で行われたそのバトルは、噂になることもなかった。

しかしこのバトルは、その大会にも大きな影響を与えることになる…。

 

首都環状という裏の舞台で暗躍する、あるドライバーが覚醒する。

(第27話End)

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