牧野に対するキャラ崩壊があります。雰囲気牧野で読んでください。

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白石沙季 は アストロン を となえた !

 

「ふぅ……」

 

 とあるオフィス街の一角。風通しの良い立派なオフィス中で、牧野は深く息をついた。

 

 目の前にあるのは一台のノートPC。次の仕事への先方との調整を終え、ようやく本日のタスクが終了。帰宅の時を迎えていた。

 

 飲み物片手に時計を見ると、すでに時計は十時を回っていた。今日は早く終わった方だな、なんて考えつつ、牧野は席を立つ。

 

 三枝さんは事務所にいないことがざらだし、橋本さんはもう帰らせたから、事務所は自分一人だ。昼間は騒がしいこの事務所も、この時間になると静かになる。

 

 ふわっと欠伸を零しながら、帰る前に事務所の点検をしていると、事務所の休憩室、普段はアイドルたちがのんびりと談笑を重ねているソファーに人影が見えた。

 

 不審者……ということはないだろう。ここのセキュリティは万全だし、扉が開く音がすれば牧野自身気づく。

 

 ならば誰が?と、牧野は不審がりながらソファーへと近づく。

 

「……芽衣?どうしてここに」

 

 そこにいたのは、担当アイドルの一人である早坂芽衣の姿。彼女は身を丸めるようにしてソファーですやすやと眠っていた。

 

 牧野は口ではどうしてと言いつつも、一つ思い当たる節があった。確か橋本さんが帰宅すると同時に、誰かが入ってきた気配があった。仕事に夢中で気づかなかったが、それが芽衣だったのだろう。

 

「……何か話したいことがあったのだろうか」

 

 そう考えると申し訳ない気分になってくる。仕事中だったとはいえ、気付けなかった事に後悔の念を覚えた。

 

 とはいえ、今はそんなことを考えている時ではない。

 

「おーい、芽衣?」

 

 今は時間も時間だ。事務所も消灯させないといけないし、寝るにしても寮に帰ってからの方が体を休ませれるはずだ。

 

 そう思い、牧野は芽衣に声をかける。

 

 うにゃむにゃ猫ちゃん、なんて返答が返ってきた。駄目だ、完全に眠っている。

 

 とはいえ牧野も今まで年頃の少女達をまとめてきた自覚がある。ここで甘えさせるのは違うと、芽衣の肩をさすりもう一度声をかけた。

 

「芽衣ー。寝るなら寮に帰ってからだぞ」

 

「むにゃむにゃ……にゃにゃ」

 

「お、おい!」

 

 芽衣は寝ぼけて肩に伸びていた牧野の腕を絡め取ると、そのまま強く抱きしめた。

 

「えへへ」

 

「め、芽衣?起きているのか?」

 

 すーすーと寝息が返ってくる。完全に寝ている。

 

「参ったな……」

 

 腕を完全に取られてしまった以上、こちらにできることは限られてくる。無論、強引に引っ張るなんてことはしたくない。

 

 こうなったら仕方がない。起きるまで待つか、と言いたいところだったが、そうもいかない理由があった。

 

 腕に当たる感触。横向きの姿勢で抱きつかれた牧野の腕は芽衣の胴体に強く密着している。

 

 それはつまり、柔らかい感触が腕に強く当たっているのだ。

 

「め、芽衣さーん?お、起きてくれませんかー?」

 

 牧野航平はマネージャーだ。担当アイドルに対してそういう目を向けるなど言語道断。決して許されざる禁忌だ。

 

 とはいえ、牧野とて男だ。男である以上、そういう感情は持ち合わせている。

 

「芽衣……」

 

 牧野は抱きつかれていないもう一方の手を血が出るほど強く握りしめた。自らに罰を与えるため、自らを律すため、己の弱さを裁くため。

 

 ここは戦場だ。気を抜けば死ぬと思え。

 

 そんな思いで牧野は必死に堪えた。

 

「うーん…………」

 

「め、芽衣?起きたのか?」

 

 銃撃戦の最中、一筋の光明が差す。戦争は悪だ。そこに正義はないと、冷静な感情がゆっくりと戻って来る。

 

「うみゃ……」

 

 正義はなくとも、戦わなくてはならない。再び鉄の心を取り戻した牧野は鉄の塊を手に取る。もう何も失わないように、俺は戦い続けなくてはならない。

 

 せめてこの手で全てを終わらせてやる。そんな思いで再び始まった戦争は、突然終戦を迎えた。

 

「……まねーじゃー……めい…がんばれて……いる…かな………」

 

 冷水をかけられた気分だった。

 

 改めて芽衣の表情を覗くと、そこにはどこか不安げな表情を浮かべている芽衣の姿があった。

 

 ……元々芽衣はわざわざ事務所に来てまで相談をしに来ていたのだ。なのに俺はどうして。

 

 牧野は自分自身に嫌悪した。愚かだ、無様だった。きっとこうして抱きついているのも不安だったからに違いない。

 

 そう思うと、一気に芽衣を見る目が変わってくる。なんだが、とても愛おしいもののように思えてきた。

 

「芽衣はよく頑張っているよ。俺が断言する」

 

 実際のところ、芽衣の活躍はわざわざ聞かずとも聞こえてくるものであった。常に明るく元気に振る舞う姿は皆を元気にさせる。ファンはもちろん、共演者やスタッフ、月ストの皆や牧野自身も、芽衣の明るさに助けられ、勇気づけられている。

 

 早坂芽衣というアイドルに、皆、笑顔を貰っているのだ。

 

「えへへ……」

 

 声が聞こえたのか否か、芽衣は小さく笑顔を浮かべる。

 

 ……この小さな肩にどれだけのものが背負っているのか。

 

 牧野は改めて思う。

 

 マネージャーとしての歴はまだまだ浅いが、それでもサニピ、月スト、リズノワ、トリエル、スリクス、そして長瀬麻奈という多くのアイドルたちを見てきた。そして、彼女たちがいかに多くの想いを背負ってきているのか見守ってきた。そしてその想いがいかに重たいものであることも理解させられた。

 

 できることならば肩代わりしてあげたい。でもそれは不可能だし、何より彼女たち自身がそれを断るだろう。

 

 だからこそ、俺はマネージャーとして、彼女たちを守り通さなければいけない。青春をかけた彼女たちの道が輝かしい道であるように。

 

 自然と手が芽衣の頭へと伸びる。小さなその姿も大切なアイドルの一人だ。もっと相談に乗っていこうと牧野は改めて思った。

 

 

 ガチャリ。

 

 

「ん?」

 

 牧野がそんなことを思っていたその時だった。

 

 扉が開く音と同時、休憩室の扉がノックされる音が響く。

 

 まずい。

 

 マネージャーとしての牧野の頭脳がそう訴える。牧野は鈍感ではあるが、客観的視点は持ち合わせている。

 

 それはつまり、今のこの状況がどう見えるかくらい理解できている。

 

 このままじゃ、守り通すどころか、俺自身が道を汚してしまう。アイドル人生における汚点は牧野でしたなんて言われたくないし、言わせたくない。

 

 そんなことを考えていると、いよいよ最後の要であった扉がガチャリと開かれる。

 

 だが、牧野の思考は冷静だった。

 

 事務所のセキュリティを突破できる時点で関係者であることには違いない。そして、その関係者はあろうことか休憩室の扉をノックしたのだ。これはどういうことか。

 

 厳密に言えばノックすること自体に意味はない。大事なのは休憩室に入るに当たって、ノックする行為を行う人物が現れかけているといったことだ。

 

 それはつまり、ノックするほど礼儀を持った人物であるということであり、それほど由緒正しいのならば話せばわかってくれる人物の可能性が高いということ。

 

 いでよ莉央さん!りおりおりおりおりおりおりおりおりおりおりおりおりお。

 

 そう願いつつ、極めて冷静に扉が開いた先を眺める。

 

「あ、マネージャー。芽衣ちゃん見かけ」

 

 ベージュの髪に縦ロール。端正な顔立ちの少女。

 

 牧野は凍りついた。

 

 その少女…白石沙季は休憩室を一目眺め、そしてそのソファーで密着している芽衣と牧野を見て、凍りついた。

 

 

 

 

 白石沙季 は アストロン を となえた !

 

 

 

 

 

 長い時が流れた。お互い凍りついたままの時を過ごし、先に解凍されたのは牧野だった。

 

 牧野は必死に言い訳を考えるが、それよりも先に一刻も早く誤解を解くほうが優先だと判断した。

 

「沙季!誤解だ!」

 

「…………」

 

 返事はない。それもそのはず、白石沙季は自らが唱えた呪文によって固まっているのだから。正確に語るならば、牧野と芽衣が密着している状況を目にして、自らのキャパを超えてしまったため立ったまま気絶しているのだ。

 

「さ、沙季?」

 

 白石沙季像に返事はない。

 

 そのことを心配に思いつつも、牧野は少しだけ安堵した。変な誤解をされるのは止したいからだ。

 

 となると優先すべきは、やはりこの掴まれている腕だ。どうやら先程より圧迫感が少ない。今ならうまいことすり抜けられるかもしれない。

 

 その時だった。

 

 優秀な牧野の耳に足音が響く。ドタバタとしたこの足音には聞き覚えがある。

 

 まずい。

 

 アストロン使いの沙季だったから先程はなんとかなったのだ。それ以外の相手だと分が悪い。

 

 そして寄りにもよってこの相手だと勝ち目が見当たらない。

 

「沙季!置いておかないでくださいまし!」

 

 案の定。現れたのはブロンド髪の少女。その少女…成宮すずは、部屋を一瞥し、牧野と目が合うや否や、その目を丸くした。

 

「な、ななななななななな」

 

 ななななーななななーななはちきゅうじゅうー。

 

 先日仕事でご一緒したからだろう。脳内に現実逃避の音が流れる。いきなり出てきてごめーん、誠にすいまめーん。

 

 こじまかな、さかな。

 

 そんなことを考えている場合じゃない。

 

「た、大変ですわーーーーー!!!!!!!!」

 

「待ってくれ、すず!!!!!」

 

 しかし悲しきことに牧野の声は届かず、足音はどこかに去っていく。

 

 牧野はその足音を聞いて、深く項垂れた。

 

 どう説明するべきか。そしてどう説明すれば芽衣に被害が及ばないか。

 

 牧野は考えるため顔を上げようとしていると、いつの間にかその頭に手が乗せられていることに気がついた。

 

「きょうは……もう…おしまい……」

 

 芽衣は寝ぼけた声でそう呟くと、その手でゆっくりと牧野の頭を撫でた。

 

 今日はもうおしまい。その言葉は理解できるが、今おしまいにしてしまうと、自分の未来がおしまいになってしまうのだ。

 

 だからもう少しだけ、と芽衣の腕をつかむが、彼女は牧野の腕をするりとすり抜け頭をなで続ける。

 

 しばらくその攻防を続けていると、なんだかその手が徐々に心地よいものに感じてきた。それを実感した途端、牧野に一気に疲れが襲ってきた。そういえば今日は昼食の時間さえあまり取れないほど忙しかったから、いつも以上に疲れているのかもしれない。

 

 まるで子供のころに戻ったかのような懐かしい温かさを感じながら、牧野は微睡みの世界に旅立つ。

 

 明日ちゃんと説明しよう。

 

 そんなことを考えたが最後、牧野の意識は落ちるのだった。

 

 

 

 

 

 

「うーん、よく寝たー!!ってあれ、ここどこ?ってマネージャー!?なんでこんなとこに!?」

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、牧野はいつの間にか寮の皆に伝わっていた今回の事件について顛末をきちんと説明した。

 

 一部不満気な表情を浮かべる子はいたが、それでも理解はしてもらえたようだったので安堵した。

 

 沙季は事件の全ての記憶を全て失っているようだった。

 

 

 




 沙季さん可愛い。

 それはそれとして、書いている最中ジョ〇マンのネタフレーズ一覧を調べていたんですが、めちゃくちゃフレーズが多くて感心しました。芸人ってすごいですよね......。

 追記 投稿日がすずにゃんばーすでーということに投稿して気が付きました。ごめん、すずにゃん。おめでとう、すずにゃん。

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