KV_another_Archive   作:器具類プロジェクト

11 / 17
番外編なので初投稿です。


#01 黒猫亭 ランチ

 

 

 

 

―――カラン、カラン

 

来客を告げる金属音の鈴が鳴り、店主の視線が入り口へと向かう。

 

「いらっしゃいませ、お二人様でよろしいですか?」

 

黒猫の獣人、落ち着いた雰囲気の店主が入店してきた2人の男女を観察する。

 

片方は黒いスーツの上から、白い連邦生徒会のコートを羽織っている大人の男性と

また片方は頭に光輪を浮かべ、ここでも珍しい日本刀、しかも背丈程もあるそれを背負った少女

そんな異質な組み合わせの2人組が店内に入ってくる。

時計の短い針が12の文字に差し掛かろうかという時間という事もあり

広くない店内にはそこそこの人数がテーブルに着いて、思い思いの時間を楽しんでいた。

 

▷『はい、そうです。』

 

「それでは空いてるお席にどうぞ。」

 

グラスを拭く手を止めて、来店してきた2人の応対をする店主。

顔に期待の表情を浮かべたこの姿を見れるのは、この職のやりがいそのものであろう。

その期待を裏切る事のないように身体に染み付いた動きを繰り返す。

 

「えへへ、お邪魔します。」

 

入り口から程近いカウンター席に座った少女は、刀をテーブルの下の荷物置きにしまいながら

気恥ずかしそうに店主へと挨拶をする。

 

「再びご来店いただきありがとうございます、

 まさかこんな早くに再び訪れて貰えるとは。」

 

そうコロコロと笑いながら来客との会話を行う。

自分からお勧めしたとは言え、数日をおいて来店して貰えるのは喫茶店冥利に尽きる。

約束を律儀に守ろうとする目の前の2人は、生来の基質が善良なのだろう。

良い出会いを運んできた巡り合わせに感謝しながら、グラスの水気を拭き取る。

 

『サンドウィッチの味が忘れらず…。』

『お腹ペコペコにしてきました。』

「それはそれは、大変光栄ですね。」

 

自信を持って提供した料理が、こう直接的な言葉で称賛を受けると

自分の事であるかのように嬉しくなるもので、日頃の仕込みの意義を再確認出来る。

 

「それでは…ご注文はお決まりで?」

 

「私はこのスペシャルホットサンドセットをお願いします。」

 

▷『ナポリタンとホットコーヒーを。』

『お冷を……。』

 

「スペシャルホットサンドセット1つとナポリタンにホットコーヒーが1つね。」

「お飲み物はレモンティーで良かったかな?」

「はい、大丈夫です!」

「承りました。少々お待ち下さいね。」

 

ブレッドボックスからホットサンド用のパンを取り出す。

サンドウィッチ用の物とは違い、加熱した時により香ばしさを感じられる様に小麦の配合を少し変えている。

表向きにまな板の上に並べたパンにバターと少しのマスタードを塗って行く。

ベーコンの肉の臭みを消して、味からくどさを拭い去ってくれる。

 

振り返って後ろの冷蔵庫から挟む具材とナポリタン用の麺を取り出す。

出来合いの物を提供する店もあるが、パスタはやはり麺が重要なのだから

ここに妥協する事は出来ないだろう。

 

手早くパンと材料を重ね、その間に温めておいたプレートにバターを溶かす。

焦げ付かないように、というのもあるが鉄板にこれをやるとやらないでは香ばしさが違う。

充分暖まった事を確認してから、重なったパンを挟み込みロックを掛ける。

これで後は出来上がりを待つだけである。

 

ホットサンドが出来上がるの待つ間に、ナポリタンの作業を進める。

微沸騰程度のの湯がたっぷり入った鍋にパスタの麺を滑り込ませる。

箸で麺をほぐしながら、湯の中で麺を躍らせていく。

麺がほぐれたら、タイマーをセットして具材の下拵えに移った。

 

といっても大体の野菜は既に切り終えており、ベーコンや

ホットサンドの付け合わせの野菜を切るだけである。

このタイミングで店内を見渡すと、殆どのお客は既に料理に在り付いており

ラッシュとラッシュの合間の穏やかさが流れていた。

 

そもそもあまり席数を多く、設置して居らず

回転率を高くする事を意識していないため、昼前でも賑やかさはあっても

仰々しい忙しさは殆ど感じたことが無い。

こんな経営方針ではあるが、店が傾いた事がないのは偏にお客様たちのご愛顧あっての事だろう。

そんなささやかな誇りを噛みしめながら、茹で上がりを告げるタイマーが鳴る前にボタンを止める。

麺を鍋から上げて湯を切る。当然茹で上がりはアルデンテ。

水気が取れたらオリーブ油を掛けて麺を休ませる。

 

フライパンで熱した油でトマトケチャップを炒めたら、野菜を入れて更に炒める。

馴染んだと思ったら、休ませていた麺を入れて少し焦げる位まで炒める。

この時に焦げるのを恐れると風味が麺にしっかりと着かないので焦らない。

 

もう少しだろうかという頃合いで、ばね式のタイマーが終わってロックが外れる。

一度火からフライパンを降ろして、香ばしい匂いのする鉄板を開く。

程よいきつね色が着いたホットサンドを取り出して熱い内に切り分ける。

昔は焼き立てのパンを触るのにも苦労したのを思い出し、苦笑してしまう。

懐古もそこそこに炒め合わせるに戻る。

 

ケチャップが焦げているの見てから、皿へと流し入れる。

中央に盛り上がりをつけながら寄せて、千切りにしたキャベツを添える。

切断面からの湯気が落ち着いたホットサンドを重ねて、断面の向きを揃えて半分に割ったミニトマトを乗せる。

 

もう何年も使い続けているサイフォン式だが、やはり慣れ親しんだ道具が一番手に馴染む。

フラスコの中に戻ったコーヒーを揺らして、沈殿した成分を均一化する。

傍らで茶葉が落ち着いたポッドの様子を確認して、輪切りにした檸檬を準備する。

それぞれカップに注いだ後に、檸檬を添えて今か今かと待ちわびているお客様達の元へと

盆にのせた料理を運び、目を輝かせる彼女らに幾度も繰り返した言葉を告げる。

 

「お待ち遠さま、ご注文のランチです。」

 

 

 

 

 

 

 




リハビリがてらなので短めです、失踪します
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。