KV_another_Archive 作:器具類プロジェクト
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夢を見ている。
夢を見ていると自覚しているのを明晰夢と呼ぶと聞いたが、正に今の私はその状況であった。
見たことのないのに見覚えのある部屋で炬燵に脚を入れ、蜜柑を剥いていた。
丁寧にアルベドを取り除き、一個一個丁寧に解してから口に運ぶ。
テレビに映る光景を羨ましげに、されど画面の向こうの出来事であると片付けながら、ふとすれば時間を無為に潰している。
望むものが手元に無いのにそれに手を伸ばす訳でもなく、さりとて現状への不満を口から漏らすのを辞めない。
暫くすると、人影のようなものが部屋に入ってくるが、それに驚く訳でもなく…嫌悪ではないが、煩わしさが胸中を渦巻いた。輪郭もぼやけている人影に口が出来ると、くぐもった声が飛び出す。
「■■■、てれびなんぞ見てないで夕餉の手伝いでもしたらどうなんだい。」
「……今やるからちょっと待ってよ、■■■■■■。」
納得したのか人影は出て行ったが、どうやら家族らしいアレと私はあまり上手く行っていないようだ。
渋々とヌクヌクと温かい炬燵から足を引っ張りだして廊下へと出る。
外では山や木々が生い茂り、稲刈りを終えた田畑と流れる小川がせせらいでいた。
秋の田園風景という眺めで、風景画かのようではあるがどこか心がささくれ立つ。
綺麗な風景ではあるが、私はこの風景をどこか疎んじていているようだった。
ぎしぎしと音を立てる床を進みながら、向かった場所はどうやら台所らしい。
だが、影の手伝いをする訳ではないようでそのまま横切り、桶を手に取る。
そのまま勝手口に置いてある下駄を履き、外へと向かう。
どうやら行き先は井戸らしく、古めかしい手押しのポンプと屋根が存在している。
慣れた手つきで水を汲み上げて、ものの数分で桶に水を溜め終えた。
秋といえど寒が深まっているのか、悴んだ手を擦ると呼気で温めようと試みる。
再び桶を手に取り、台所に向かおうとして空を仰ぐ。
そこには雲一つなく、ただ青い青い空が
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ピピピピッピピピピッ カチッ!
すっかり聞き慣れたアラームで私は起床する。デジタル時計のボタンを押して、ベッドから出るとカーテンを開く。
日が昇りかけている空には何時も通りの光輪が浮かび、目下ではビル群が所狭しと犇めいている。
キヴォトスにきてまだ日は浅いが、すっかりこの部屋になれてしまったようで朝の身支度を始めた。
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『夢を見た?』
『どんなものだったのかな。』
先生と朝食を食べながら、話題として今朝の夢について話すと存外先生は食いついてきた。
キッチンで焼いたハムエッグとトーストをテーブルを挟んで胃袋に次々に仕舞い込んで話を続ける。
「ん~よく覚えてないんですが、蜜柑を剝いていました。丁寧に。」
『もしかしてお腹減ってる?』
『夢の中の物を食べるとお腹を壊すっていうよね。』
「やめてくださいよ、縁起でもない。」
そんなふざけた会話をしながら笑っていると、あっという間に時間が過ぎて始業時刻となった。
今日の業務について確認を行っていると、シッテムの箱からアロナが挨拶をしてきた。
「お二人とも、おはようございます!」
「ここ数日間、シャーレに関する噂もたくさん広まってるみたいですし、他の生徒達から助けを求める手紙も届いています。」
「良い兆候です!私たちの活躍が始まるということですから!」
確かに先生は困っている生徒たちの相談に乗り、時にはしっかり指導を行い、
問題を解決することで、シャーレはネットでも話題に上がることが増えていた。
アロナはと言うと先日の銀行強盗に留まらず、防犯カメラの映像の解析や生徒の経歴の調査。
高性能AIの名に違わぬ働きを見せていた。……シャーレの権限でなければ行えないと思いたいが。
ハッキングからリマインドまで熟せるアロナは、幼いながらに立派に秘書であった。
「ですがその中に……ちょっと不穏な、こんな手紙がありまして。」
「これは先生に一度読んでもらった方が良いかなと。」
先生が手紙を開く横で覗き込むようにすると、見えやすいように横にずれてくれる。
白い便箋には綺麗な文字で以下の内容が記されていた。
連邦捜査部の先生へ
こんにちは。私はアビドス高等学校の奥空アヤネと申します。
今回どうしても先生にお願いしたいことがありまして、
こうしてお手紙を書きました。
単刀直入に言いますと、私たちの学校は追い詰められています。
それも、地域の暴力組織によってです。
こうなってしまった事情は、複雑ですが……。
どうやら、私たちの学校の校舎が狙われているようです。
今はどうにか食い止めていますが、
そろそろ弾薬などの補給が底を突いてしまいます……。
このままでは、暴力組織に学校を占領されてしまいそうな状況です。
それで、今回先生にお願いできればと思いました。
先生、どうか私たちの力になっていただけませんか?
手紙はその一文でそう〆られていた。
とんでもない一大事だ。仮にこの手紙の内容が真実であれば、事態は一刻を争うものだろう。
アビドス高等学校とは、一体何処なのか先生が尋ねると、アロナは唸りながら情報を見つけたようだ。
「うーん……アビドス高等学校ですか……。」
「昔はとても大きい自治区でしたけど、気候の変化で街が厳しい状況になっていると聞きました。」
「どれほど大きいかというと、街のど真ん中で道に迷って遭難する人がいるぐらいだそうです!」
「あはは、まさか、そんなことあるんでしょうか……?いくらなんでも街のど真ん中で遭難だなんて……。」
「さすがにちょっとした誇張だと思いますが……。」
誇張抜きであれば、かつての大学校に相応しい広大な自治区であるのだろう。
それでも流石に広すぎないだろうか?それはもう迷宮の一種ではないだろうか。
気候の変化でとなると、余程大きな自然災害に巻き込まれたのだろう。
そんな中でも学校を維持しようとするこの手紙の主の学校愛に感服する。
「それより学校が暴力組織に攻撃されているなんて……ただ事ではなさそうですが……。」
「何があったんでしょうか?」
厳しい状況であるといっても、このキヴォトスにおける国家と同等である学校を狙うなんて出来るのだろうか?
そんな大規模な暴力組織が、とまで考えた所でリンさんとの会話を思い出す。
《何か大きな問題に巻き込まれたと考えるのが妥当ですね……。》
もしかして私をここに連れてきた組織なのではないか?と少し飛躍した推理をしていると、先生が立ち上がる。
アロナにスケジュール調整を依頼し、アビドスへの経路を尋ねる。
薄々分かっているが、先生に確認を取るとやっぱりアビドスへ出張するとの事だった。
「すぐに出発ですか⁉さすが、大人の行動力!」
「かしこまりました!すぐに出発しましょう!」
『こはねはどうする?』
『勿論、私の出張中でも書類整理のお給料は出るからね。』
分かりきった問をしてくる先生に私も身支度を進める。
「先生に着いてきますよ、もしかしたら私の故郷が分かるかもしれませんし。」
「それに自分は助けて貰っておいて、困って居る人を見捨てるなんて訳にはいきませんよ!」
少し固まって直ぐに破顔した先生は、ネクタイを締めなおして号令をかける。
『それじゃあ、行こうか。』
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電車での移動中、先生は連邦生徒会の方々に連絡をしているようで、忙しなくキーボードで指を躍らせていた。
「リンさん達にですか?」
『一応連絡はしておかないとね。』
『数日間はかかるかもしれないし。』
あれ以降停滞していた業務と並列して連邦生徒会長の捜索を行っているリンさん達は、
只でさえ緊急性の無い捜査で、しかも求心力の低下している状況もあって交渉は難航していた。
遅延の謝罪を受け取ったが、変な話ではあるが性急な依頼という訳ではなく
知りたくはあるが、急いで帰りたいという事でもないのが実情であった。
そんな事を考えながら、背後に流れていく景色を眺める。
何度か人の入れ替わりを経て、目的の城森駅への到着を告げるアナウンスが鳴り響く。
ここからアビドス本線へと乗り換えを行い、最寄り駅まで移動する予定なのだが
D.U.付近に比べて本数が無く、次の電車まで猶予があるので早めの昼食を取ることにした。
本日の昼食を探しに駅を出ると、乾いた空気が私達の頬を撫でる。
駅前の光景を眺めると、そこは砂に埋もれつつある街並みであった。
アビドス自治区は数十年前から発生し始めた砂嵐によって環境が一変した。
無論アビドス高校も対策を行い、経済及びインフラの維持を試みた。
だが、砂嵐は年々勢いを増して、砂漠が今も拡大を続けているという。
車内で調べた際は、街を呑みこむ砂嵐など発生するのだろうかと疑っていたが
砂漠から遠く離れているこの城森においても道路脇に薄く砂が積もり、
遥か遠くには砂に呑まれた高層ビルが見えていた。
「……凄い、ですね…。」
『本当の砂上の楼閣だ。』
自然の規格外の脅威に脅かされた街は風の音が響き、人の無力さを痛感する。
暫しその光景を呆然と眺めていたが、気を取り直して飲食店を探しに行く。
やはり商売には向いていないのだろうか、営業している店舗も少なく、人通りも多くは無かった。
幸い駅に程近い場所で営業している店を発見する事が出来た。
砂を巻き上げる旋風から逃げるようにそそくさと入店した。
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【トフェニスの水車小屋】とある看板をくぐると
店内は異国情緒のある内装で、何やらアラビアンな雰囲気であった。
「イッラッシャイませ~、お席空いてルとこ座ってネ~」
少々イントネーションが怪しい縞模様の店主が席を促してくる。
この数日間でしっかりキヴォトスに順応した私は、逡巡もなく座る。
「イヤ~今日はオキャクさん来ないかと思って店シメちゃうとこだたヨ~」
「メニューはこれね、カラいのとカラクナいのが選べるヨ」
「これ、オシボリとオヒヤね。アビドスはハジメて?砂埃がヒドイでショ~」
マシンガンの如き店主のお喋りを受けながら、ご厚意に甘えて服を少し拭うと
真っ白だったおしぼりはあっという間に黄ばんでおり、この調子だと髪も拭いた方が賢明だろう。
メニューを眺めると本格的なカレーが並び、聞いた事もない名前が散見される。そんな中でお得なランチメニューが目に付いた。日替わりのカレーにナン、ドリンクも付いてくるようだ。
「すいません、このランチメニューをお願いします。」
『私はこちらのグリーンカレーを1つ。』
「ハイハイ、ランチメニューにグリーンカレー1つネ~!」
ちょっとマテてネ~と忙しなく、厨房へと入っていく店主を見送りながら時計を確認する。
まだ幾何かの猶予はあるか、と時計の時刻を確認していると
「オマタセ~!ランチメニューとグリーンカレー到着だヨ~」
早い、体感まだ一分も経っていないのに既に目の前に湯気が立っているカレーとマンホール蓋並みのナンが盛りつけられている。一種の怪奇現象ではないか、そんな事を考えていると電車の発車時刻という制限時間を思い出し、急いでスプーンを手に取った。
「!」「おいふぃふぇふ!」
「お口にアッて良かったヨ!」
喃語のような感想を聞き、厨房から出てきた店主は満足げに首を縦に振っている。
ランチメニューはどうやらバターチキンカレーだったらしく、身構えていた様に辛くなく、むしろ濃厚な風味で甘いと感じるほどだった。ナンをちぎって口にねじ込むと小麦粉の風味を感じられる。この分だとメニューにあったチャパティも美味しいだろう。追加の注文を取る前に先生の分も注文するか確認しようと顔を上げると
「し、死んでる……。」
顔が真っ赤に染まった先生は何処か悟りを得たかの様な表情で、意識を失っていた。
『辛ひ……。』
『ひ、ひず……。』
「うわあぁーー!!⁇」
うわ言の様に呟く先生の口に慌ててラッシーのストローをねじ込む。
反射的に嚥下をする先生は、ラッシーの残量と反比例するように顔色が良くなっていく。
「アチャ~、ダメだヨオキャクさん?辛いってちゃんと書いてるノに。」
『す、すいません…。』
これサービスネ。とラッシーのお替りを提供してくれる。
ちびちびとナンとカレーを慎重に食べ進める先生の隣のテーブルに腰を掛けた店主が世間話を振ってきた。
「オキャクさん、アビドスにナニしにきたのカナ?砂漠観光って感じじゃないヨネ。」
「あ、私達アビドス高等学校に用事がありまして…」
一瞬、ごく僅かではあるが陽気な店主の雰囲気が険吞になった気がした。
何か問題があったのだろうか、訝しんでいると店主が質問をしてきた。
「もしかしてカイザーの方?」
『いえ、私達はシャーレの者です。』
『一応先生やっています。』
先生が名刺を差し出すと、カラカラと笑い出してまた陽気な店主へと戻る。
「ナルほどネ~!ニュースで見たヨ!」
「すいません、何か粗相をしてしまいましたか?」
何か気に障るような発言をしただろうか?と少し踏み込んだ質問をしてしまう。
コミカルな動きで店主は肉球を額にぺたんと当てると
「いや~ネ?ここ等へんで観光以外ダト、カイザーの方が多いのヨ!」
「おエライさんだったら、宣伝お願いいしよッカナ~ってネ!」
コレは当てがハズレタネ~とさして残念そうでもなく、嘆いている。
果たしてそんな様子だったか?とも思いながらも否定する材料もなく話はそこで終わった。
その後も店主のハイテンションの話を聞きながら、先生が追加のラッシー3本目を飲み終わる頃には
どちらの皿も綺麗になっていた。
「『ごちそうさまでした!』」
「とっても美味しかったです!」
『く、苦しい…。』
『お腹がチャポチャポしてる……。』
「それは良かっタ~!是非マタ来てね~!」
会計を済ましていると、不意に店主がアドバイスをくれる。
「あ、ソウソウ。アビドスはホントに広いカラ。水分と食料はしっかりネ~!」
干乾びちゃうヨ~と大童に語る店主。
地元民の口から聞いた事で更に信憑性が増してしまった噂に
いや、この店主ならあるいは、と思いつつも飲み物は買っていこうと心に刻んだ。
「そ、そうなんですね~。ありがとうございます。」
恐らく今顔を見れば、凄く引き攣っているだろう。おかしいだろ、街で遭難って。
見なくても分かる先生も、もしかしたらアロナですら同じ感情かもしれない。
スケールが段違いだ、この調子なら海上の学校や火山の中に学校があっても驚かないぞ。
キヴォトスの非常識と店主の心遣いに感謝し、刻限の迫る中、駅への道を急ぐ事となった。
失踪ネタを擦り過ぎたので失踪します。