KV_another_Archive   作:器具類プロジェクト

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新作の二次小説が投稿されたので初投稿です。


〇七 舎利

 

 

 

 

『もう……駄目…。』

 

 

「先生!しっかりしてください!」

 

 

最寄り駅からアビドス高等学校へ向け出発して早数日。

見事に私達は噂話の通り、街中で遭難していた。

 

食料も水分も底を尽き、先程シッテムの箱のバッテリーも無くなった。

結果アロナもスリープモードへと移行してしまい、ナビゲーションをとうとう失ってしまった。

電車を降り、駅から出て最初の方は上手く行っていた筈だ。

 

思えば、地図に無い道や砂で通行不可になった道路を迂回し始めた時には、既に坩堝に嵌まっていたのかもしれない。地元民からの注告もあり、多少なりとも備蓄は買い揃えていたと思ったが、この有り様である。

学校の影も形も見つからないまま、同じところをグルグル回っているかの様な徒労感だけが積もっていった。

連日の野外での寝泊まりは、私達の体力と精神を着実に削っていた。

その上先生が道路で砂まみれで倒れ伏してしまい、私も先生を背負って歩き回れる程の体力は残されていなかった。

 

このままではアビドス高校に辿り着くどころか、私達の生命すら危ういだろう。

だが、先生を見捨てる事など到底できない。何とか、先生を背中に乗せて進もうとするが

既にしがみつく程の体力もないのか、思う様に背負う事が出来ず、前に進めない。

何メートルかふらふらと歩いたが、砂に足を取られて盛大に転んでしまう。

衝撃が伝わってしまったのか先生が呻き声を上げる。

このまま死んでしまうのではないか、最悪の可能性が頭を過ぎり、思わず涙が出てしまう。

 

「うぅ……。うっ…。」

 

暫く倒れたまま、砂の味を噛みしめる。

そうしていると遠くからサーという流れるような音が聞こえてきた。

とうとう幻聴まで聞こえてきてしまった。短い人生だったが最早ここまでなのだろうか?

こんな場所で死亡したら誰にも発見されず、一生行方不明になるかも知れない。

自分の不甲斐なさに腹が無性に立ってくる。無駄と分かっていても砂を握る手に力が篭もる。

そう考えながらポツポツと砂を湿らす。喉は渇いたままだが、涙は枯れないのか。

そんな風に半ば悪態のような思考が止まらない。

 

「……ん?」

 

キキーッ!

 

「……。」

「……あの……。」

 

ブレーキの音に続いて、人の声が聞こえた事で現実なのではないか?と慌てて顔を上げる。

見上げると綺麗な銀色の髪をした、犬耳のマフラーをした少女がこちらを見ている。

オッドアイなのだろうか、左右で異なる色をした瞳には困惑が見て取れる。

 

「……。」

「……大丈夫?」

 

『頷く。』

『助けを求める。』

 

何時の間にか意識を取り戻していた先生が頷く。

それを見た彼女は安堵したようで、一息ついた。

 

「あ、生きてた。道のど真ん中に倒れているから、死んでるのかと。」

ご最もな指摘である。実際問題彼女がここを通りかかるのが後少し遅ければ、事実死んでいたかもしれない。

空腹を訴える先生の声は、まるで蚊のようなか細い声であった。

 

「……え?お腹が減って倒れてた?」

「……ホームレス?」

 

もしそうであれば、ここのホームレスは数日と持たずに土に還るであろう。

この環境下において衣食住を確保できない者は、死を意味する。

 

「えっと……。」

 

自転車を降りた彼女に今までの経緯を説明する。

 

「用事があって数日前この街に来たけど、お店が一軒もなくて脱水と空腹で力尽きた、と。」

千切れんほどに首を縦に振ると、彼女は得心がいったようだ。

「ただの遭難者だったんだね。」

ただの?もしかしてこのアビドスにおいて遭難者は日常的に発生するのだろうかと。

疑問符をうかべていると、彼女は同意してきた。

「ああ。ここは元々そういう所だから。食べ物がある店なんか、とっくに無くなってるよ。」

「こっちじゃなくて、もっと郊外の方に行けば市街地があるけど。」

そう付け足した彼女に私達は絶句する。ここは果たして本当に人間が生活する環境なのだろうか。

アビドス高等学校を襲う地元の暴力組織というのも、宇宙人か何かではないのか?

そんな事を考えていると、先生が会話を引き継いでいた。

「土地勘がない?」

「……なるほど、この辺は初めてなんだね。」

 

地元民ならいざ知らず、来たばかりの私達にはアビドス自治区の実情は何も分からないままであった。

この調子でここで生きていける筈も無かった。

「……ちょっと待って。」

そういって彼女は自分の荷物を漁り始めた。

「はい、これ。エナジードリンク。」

「ライディング用なんだけど……今はそれぐらいしか持ってなくて。でも、お腹の足しにはなると思う。」

「えっと、コップは……。」

彼女にコップを差し出された私は、必死にエナジードリンクを嚥下する。

先生は今にも死にそうな顔だが、私に先に飲ませてくれた。

 

私が飲んだのを確認すると、余程喉が渇いていたのだろうか、そのまま口を着けて一気に飲んでしまう。

それを見た彼女は、少々動揺している。

「……!」

「あ……それ……。」

全部飲んでしまったら不味かったろうか?そう思ったが彼女は直ぐに平静を取り戻す。

「……ううん、何でもない。……気にしないで。」

お言葉に甘えて、そのままコップに入った残りを飲んでしまう。

こくこくと音を立てながらコップを傾けると、乾ききった身体に活力が戻ってきた。

余裕を取り戻した先生は彼女に御礼を伝えると、素直に受け取った。

「うん。」

「見た感じ、連邦生徒会から来た大人の人みたいだけど……お疲れ様。」

「学校に用があって来たの?」

 

「この近くだと、うちの学校しかないけど……もしかして…。」

「アビドスに行くの?」

 

「あ、そうなんです。もしかしてアビドス高等学校の方ですか?」

それを聞いた彼女は更に得心がいったようで、立ち上がる。

 

「……そっか。久しぶりのお客様だ。」

「それじゃあ、私が案内してあげる。すぐそこだから。」

正に干天の慈雨であった。場所もそう遠くないとの事で安心していると

先生が座り込んだ姿勢から動かないと思っていたら、空腹を訴える音がなる。

 

「え?お腹が減って動けない?」

「うーん……どうしよう。」

「私もまだ背負っていくにはちょっと……。」

エナジードリンクのお陰で、多少は息を吹き返したがまだまだ体力は戻らない。

悩んでいると、先生は乗せて欲しいと提案してきた。

「えっと、これ一人乗りだから……。」

 

「……。」

 

「まあ、そのほうがいいか。」

 

彼女も最初は逡巡していたが、結局承諾してくれた。

そのまま自転車を横に寄せて、鍵をかけて準備をしてくれる。

 

「ロードバイクはここに停めて、と……。」

「それじゃ……。」

 

「……あ、待って。」

 

と、先生を背負おうとした瞬間、彼女の動きが不意に止まる。

何やら言葉を選んでいるようだが、大人しく彼女の言葉を待つ。

 

「……。」

「えっと……さっきまでロードバイクに乗ってたから……そこまで汗だくってわけじゃないけど、その……。」

「普段は学校のシャワー室を使うの。予備の服もそこにあるし……。」

 

だんだんと要領を得なくなっているが、恥ずかしそうに何を言い訳しているのか分からない。

小首を傾げていると、自分に気を遣う必要はないと堂々と宣言する。

 

「え?気にしないでって?」

「……むしろいい匂いがするって?」

 

「……。」

「……うーん。ちょ、ちょっとよくわからないけど……気にならないなら、まあいいか。」

 

……少々フォローの仕方に苦言を呈したいが、実際問題助けて貰う側なのだからそんな事気にもならないだろう。

 

「それじゃ……。」

 

先生を軽々と背負うと、位置を調整して出発した。

 

「しっかり掴まってて。」

 

道すがら自己紹介をすると、どうやら彼女ー砂狼シロコさんは、アビドス高等学校の二年生で登校中らしい。

 

「砂狼さん、2年生の方だったんですね。」

 

随分と大人びて見えるので3年生の方にも見える。

 

「ん、シロコでいい。」

 

そうこうしていると、数分の間に校舎が見えてきて、彼女の案内で校内へお邪魔する。

煉瓦で出来た門をくぐると、砂に覆われてはいるが大きな校舎である事が分かる。

だが、所々補修の跡が目立っていたり、人の気配があまりしない。

 

どうやら事態は深刻なようで、正面玄関前にはバリケードが設置されていた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

「ただいま。」

 

「おかえり、シロコせんぱ……い?」

 

ある教室の前で立ち止まり、スムーズに扉を開けると中に人影が見える。

砂狼さんーシロコの挨拶を迎える返事の挨拶は、後ろの先生を見つけて中断された。

 

「うわっ⁉何っ⁉そのおんぶしてる誰⁉」

「わあ、シロコちゃんが大人を拉致してきました!」

「拉致⁉もしかして死体⁉シロコ先輩がついに犯罪に手を……!!」

「みんな落ち着いて、速やかに死体を隠す場所を探すわよ!体育倉庫にシャベルとツルハシがあるから、それを……。」

 

「……。」

 

約一名本気で言っているわけではないのだろうが、それを踏まえても

ここまでシロコが犯罪を犯していない前提の発言が驚異のゼロである。

あまりにも信用がなさすぎないだろうか?それとも日頃の行いなのだろうか。

ここまで言われた彼女はさも心外そうにしている。

 

「いや……普通に生きてる大人だから。うちの学校に用があるんだって。」

 

持っていたバッグと先生を椅子に降ろして、少し困惑したように説明する。

 

「えっ?死体じゃ、なかったんですか……?」

「拉致したんじゃなくて、お客さん?」

 

眼鏡を掛けた耳がピンとしている少女はようやく理解したのか、聞き返してくる。

ツインテールの髪型の猫のような少女も結論に達したようで同調する。

 

「そうみたい……。」

「というか、こはねも居るのにどうして拉致してきたって思ったの?」

 

そこまで聞いて漸くシロコの後ろにいる私に気づいたようで、あっ。と呟く声が聞こえた。

声を出す元気が戻ってきたようで、先生は立ち上がって元気に挨拶をする。

 

「わぁ、びっくりしました。お客様がいらっしゃるなんて、とっても久しぶりですね。」

それも二人も!と何処か品のある少女が嬉しそうにしている。

 

「そ、それもそうですね……でも来客の予定ってありましたっけ……。」

 

『シャーレの顧問先生です、よろしくね。』

先生の自己紹介で一同に衝撃が走る。

「……え、ええっ⁉まさか⁉」

「連邦捜査部シャーレの先生⁉」

「わあ☆支援要請が受理されたのですね!良かったですね、アヤネちゃん!」

アヤネと呼ばれた眼鏡を掛けた彼女は、感極まったように顔に喜色を浮かべている。

「はい!これで……弾薬や補給品の援助が受けられます。」

先生がシッテムの箱――道中モバイルバッテリーを貸してもらい充電した。

を介してクラフトチェンバーから銃弾やグレネード、応急キットを取り出し始める。

そこで何かに気づいたようで周りを見渡して何かを探している。

「あ、早くホシノ先輩にも知らせてあげないと……あれ?ホシノ先輩は?」

「委員長は隣の部屋で寝ているよ。私、起こしてくる。」

 

ホシノ委員長なる人物を猫耳の彼女が呼びに行くと同時に静かな校舎に射撃音が鳴り響いた。

「じゅ、銃声⁉」

「!!」

シロコが瞬時に窓まで駆け寄り、覗き込むように外の様子を観察する。

私も数秒遅れて、彼女に追随して発生源であろう窓の外を覗き込む。

 

「ひゃーっはははは!」

「攻撃、攻撃だ!!奴らはすでに弾薬の補給を絶たれている!襲撃せよ!!学校を占領するのだ!!」

 

外からの声ではあるが、追加の銃声と共に大きな叫び声が聞こえてくる。

視線の先にはヘルメットを被った集団が銃を乱射していている姿が見えた。

 

その、なんというか。彼女らがしているヘルメットは規格品か何かだろうか。

改造制服も同一の物に見える為、あたかもこの間、首を折った、いや気絶させた強盗と酷似している様に見えた。

 

 

「わわ⁉武装集団が学校に接近しています!カタカタヘルメット団のようです!」

「あいつら……!性懲りもなく!」

 

何かの操作画面を見ているアヤネさんからの報告で別集団であるのが分かったが、その○○ヘルメット団というのは流行っているのだろうか。そんな事を考えていると、ドアが乱暴に開いて猫耳の彼女ともう一人が部屋に入ってくる。眠そうにしているが、彼女がホシノ委員長だろうか。

 

「ホシノ先輩を連れてきたよ!先輩!寝ぼけてないで、起きて!」

「むにゃ……まだ起きる時間じゃないよー。」

ピンク長髪の少女、ホシノ委員長は眠いといいながらも体軸はしっかりとしたもので隙が見えない。

寝ぼけ眼の彼女にアヤネさんが現状報告をそのまま行う。

「ホシノ先輩!ヘルメット団が再び襲撃を!こちらの方はシャーレの先生です。」

「ありゃ~そりゃ大変だね……あ、先生?よろしくー、むにゃ。」

先生と私を一瞥するとまた瞼を閉じて、ふにゃふにゃと言っている。

猫耳の彼女は乱暴にホシノ委員長を揺さぶっている。

「先輩、しっかりして!出動だよ!装備持って!学校を守らないと!」

「ふぁあー……むにゃ。おちおち昼寝もできないじゃないかー、ヘルメット団めー。」

「すぐに出るよ。先生のおかげで、弾薬と補給品は十分。」

「はーい、みんなで出撃です☆」

「先生!私も手伝ってきます!」

 

『うん、分かった。』

▷『皆、気を付けてね。』

 

 

「私がオペレーターを担当します。」

「先生はこちらでサポートをお願いします!」

 

聞こえる会話を背後に私達は廊下を急ぐ。

階段を降りている最中、シロコに声を掛けられる。

 

「ん、結構荒事になるけど大丈夫?」

「あはは、こう見えても銀行強盗での経験があるので。」

 

あの銀行強盗の事件以外だとあまり本格的な戦闘経験が薄い為、曖昧に笑っていると

興奮して様子でシロコは食いついてきた。

 

「ん!こはねは銀行強盗(をした)経験があるの?」

「え?まあ一度ですけどありますよ、銀行強盗の経験(捕まえる側)。」

「そっか。なら頼りになる。」

 

後でその話聞かせてと、シロコは興奮冷めやらぬままで会話を打ち切った。

キヴォトスでも銀行強盗に出くわすのは珍しいものなのだろうか。

無事終わったら、先生を交えてあの日のの話をするのも良いかもしれないなと、先を急いだ。

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

▼アビドス高等学校 校舎 正面階段

 

 

ヒソヒソ

「シロコ先輩、別方向に勘違いしてるわよ。絶対。」

「もしかしたら、本当に銀行強盗さんかもしれませんよ☆」

「うへぇー、これは帰ったらまたお説教かなー。」

 

どこで教育を誤ったかなーと内心でぼやきながら、後輩と後輩の新しいお友達のすれ違いを眺めながら

ホシノは自分達の学校の防衛戦の場へと歩を進めるのであった。

 

 




次週休載予定なので失踪します。
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