連載作品がある中での短編です。ご容赦を。
「鉄仮面の囚人を知っているか?」
カルデアのマイルーム。巌窟王はそう尋ねた。
「・・・・・・」
問いかけの意図がわからず、困惑した様子を見せる。
「ふ。知らないか。鉄仮面の囚人とは、実在した男。今なおこの世に謎を残す存在だ」
「・・・・・・!」
説明を受け、理解する。確かにその存在は知っていた。だが、忘れていた。
それほど重要なことではないから。
「鉄仮面の囚人は、かつてバスティーユ牢獄に収容されていた囚人だ。人と会うときには必ず仮面をつけ素顔を隠していた。他の囚人相手にも、看守相手にもな。看守には素顔をさらしたときには撃ち殺すよう指示されていたとも」
「・・・・・・」
巌窟王の話の意図が見えない。どうして自分相手にそんな話をするのか。
「困惑するのも分かる。何を隠そう、俺と鉄仮面の囚人は生きた時代に数世紀程度の
「共通点?」
あまりに突拍子の無い言葉に反応する。
それを見た巌窟王はニヒルな笑みを浮かべた。
「今、俺のことはエドモン・ダンテスではなく、モンテ・クリストだと認識してもらおう。
片や、絶海の孤島たる
に収容されていた船乗り崩れ。
巌窟に隠された財宝を見つけ、
エドモン・ダンテスは世界から消えた。
どちらも得たのだ。
片や財宝と炎を
片や新たな己と唯一無二を
いや、違うな。
あとに続く炎の道を。
世界を悩ませる謎を。
なあ、
お前は、どちらが有益だと思う?
どちらが、より他者に影響を与えたと感じる?
どちらも、美化されているだけで、ただの犯罪者だ」
「・・・・・・」
「だんまり。か?」
「わからないよ」
「ほう?」
「だけど」
「・・・・・・」
「間違ってはいない、と思う」
「間違ってはいない。か」
「巌窟王も、鉄仮面の囚人も、ただ収監されたわけじゃない。
キミは騙されて収監された。
たぶん、その鉄仮面の囚人も、なにか
そうせざるをえない何かがあったんじゃないかな?」
「ク、ハハ・・・・・・」
溢れるように出た笑い。ニヒルな顔は穏やかに緩む。
「クハハハハハハハハハハ!」
「?」
会話が終わる。
マイルームから出る。
長く続く廊下を進む。
終わりの見える道。
洛陽にはまだ遠い。
白紙化地球の大地を眺め、物思いにふける。
鉄仮面の囚人は、人と会う時は必ず仮面をつけていた。
自分一人だけのときは、
囚人は最期、マルショワリーなる名で葬られた。無論、それは偽名。
だが、マルショワリーとは、本当に偽名なのか?
死した鉄仮面の囚人の名は、本当にマルショワリーだったのではないか?
監視カメラの無い時代、音声も映像も残すことのできない時代。
例え
鉄仮面の囚人は丁重な扱いがされていたという。
ならば、光届かぬ牢の中で、なにが行われていようとも、誰がわかる?
他の囚人、あるいは看守を身代わりにして脱獄していたとすれば、鉄仮面の囚人はいつしか偽物に成り代わっていたことになる。
そうして鉄仮面をつけた囚人という情報だけがバスティーユ牢獄に残り続けたわけだ。
大した
最初の、本物の囚人は逃げ、鉄仮面の囚人は同一人物のまま。バスティーユ牢獄で生涯を終えたのだと、世界を欺いている。
今なお、欺き続けている。
己と自らを切り離し、騙し続ける。
人を、国を、世界を。
大義など無く、理由など見当もつかず、それが義務であるかのように偽るのだ。
あの、詐欺師のように。
自己をも騙り、欺く。
偽る必要などない。あの日、確かにエドモン・ダンテスは消えた。
炎の道を歩まんとする復讐者として成ったのだ。
欺くよりも簡単で、騙るよりも後戻りできない。
「我が炎は恩讐の焔」
詐称者など、敵ではない。
「我が道は血塗られた道」
自分を陥れた者達を葬らんとした
「我が、運命/星よ」
その瞳は輝きに満ちている。
その未来は煌めいている。
いずれ来る決戦の日の前に、その輝きは奪われてしまうだろう。
「・・・・・・」
ならぬ。決してそれはあってはならぬ。
「・・・・・・面の皮が厚い、か」
それがどうした?全ては未来のため。
眩しく、この瞳を焼くほどの、あの星のため。
「・・・・・・その道は、暗いものであってはならぬ」
そうだ。
だからこそ、俺はここにいるのだ。
だからこそ、この身のことなど打ち捨てることができる。
「・・・・・・星よ・・・・・・輝ける道を・・・・・・」
だからこそ、俺がやらねばな。