Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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遅くなりました。2日目です。
今回はどちらかと言えばデュノア(父)救済回。篝火さんを出すか迷いました。


2日目 舞鶴にて

 自由行動の1日目で日本の古き良き文化に触れた次の日は朝からバス移動だ。

 数時間バスに揺られ、昼前に舞鶴にある有澤重工舞鶴工場に到着した。山に囲まれた中で湾に沿うように市街地が広がる独特な風景を持つ舞鶴市。自衛隊の基地を持つことでも有名だろう。

 ここにはISの配備は無いが、今日は学園の校外学習に合わせて現日本代表の航空自衛隊航空開発実験集団飛行実験群所属(長い)の海堂凛1等空尉が僚機を3機連れて来ている。午後の実習では演技飛行と操縦課の特別講師として参加してくれる。

 バスの中で少し早い昼食を済ませた生徒たちは有澤重工の社屋にある大ホールに飲み込まれていった。今日の目玉はどちらかと言えばこっちの『IS分野におけるスペシャリストの講話』がメインだ。

 ――モチロン、束ではない。彼女は千冬に絡みにまた(臨海学校)に行った。

 ホールに入ると生徒会役員は舞台袖に移動。そこで今回の講師と軽く打ち合わせをしてからまずは楯無が舞台に立った。

 

 

「皆さん、静かに。これからIS学園2,3年生校外学習特別講演を行います。3人の講師の方から様々な話が聞けることと思います。操縦課のみんなも、講義は整備課だけでいいや、なんて思わずに何事も自分の糧にするためと思ってしっかりと聴いてください。整備課のみんなは今回お聞きする話は自身の学習の助けになると思います。それではあまり長い話もアレだし、司会の2人に渡しましょうか」

 

 一礼して舞台袖に捌けると一夏と櫻の2人が現れた。

 今回は本音ではなく一夏を表に立たせた格好だ。

 

 

「はい。今回司会進行を努めさせていただきます。操縦課2年、織斑一夏です」

 

「整備課2年、キルシュ・テルミドールです」

 

「「よろしくお願いします」」

 

 2人で揃って頭を下げると学園のアイドル(?)一夏の登場もあってこの時点で割れんばかりの拍手が響く。

 この後出てくる講師の方々がかわいそうでならない。

 

 

「では早速講演に入らせていただきます。最初に有澤重工社長、有澤隆文様よりお話を伺います」

 

 一夏の声で舞台袖からグレーのスーツに身を包んだ隆文が登場した。以前あった時より幾分白髪も増え、ナイスミドル感が増した。

 おい客席、ため息をつくな。相手は○○歳のオジサマだぞ。変態だぞ。おいオマエ、男がキライだからって睨みつけるな、一応授業だ。

 

 

「IS学園の皆さん、はじめまして。有澤重工の社長をやっています、有澤隆文です。さて、今回はどんな縁かみなさんに講義をしてくれ、と学園から依頼されましてね。場所や人を貸すことは喜んでやりますが、私は不器用な男でね、こうして人の前で話すことは苦手なのです。まぁ、そこらのおっさんの話だと思ってゆっくり聴いてください」

 

 舞台中央でマイクに向かい立つ姿は凛々しく、背筋は伸び、視線は少し上を向いている。

 渋めのよく通る声で伝わる言葉の数々は自然と耳に入った。

 時間にして10分程だろうか。ISによってズレてしまった世界の中で男性がどう生きるべきか、そしてそのために女性はものを見る目を鍛えるべきだという話をした隆文は美しい礼を見せてから壇上に用意された椅子に座った。

 話の内容が内容だけに一部の生徒は汚らわしいものを見る目で隆文を睨んでいたが、大半はそんな思想に染まったわけではないようで、拍手でもって答えていた。

 

 

「続きまして航空自衛隊航空開発実験集団、岩本飛鳥2等空佐。よろしくお願いします」

 

 白と紺を基調とした夏用制服をきっちりと着こなし、部隊の中央でゆったりと一礼してから女性らしい柔らかなソプラノが聞こえた。

 

 

「皆さん、はじめまして。航空自衛隊航空開発実験集団飛行実験群飛行隊部隊長の岩本飛鳥と申します。今日は皆さんに気持ちの整理についてお話したいと思います。皆さんはIS学園に入ってもう1年、2年過ぎていると思います。入学時と今とではISに関わるときの気持ちも違うのではないでしょうか? 特に昨年は様々な事件が起こりましたから、なおのことと思います。どうでしょう、もっと惚れ込んでしまったでしょうか? はたまた、怖くなってしまったでしょうか?」

 

 そう語りだした彼女は自衛官はISを纏うときにどのような気持ちでいるのか。また、自身のメンタルコンディションを整えるために大切なこと、そして大事な覚悟の決め方などを時に大雑把に、時に理論的に語った。その中で生徒たちの関心を一気に引き寄せた場面があった。

 

 

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「皆さんにも腹をくくる、と言うと大げさかもしれませんが、何か覚悟を決める瞬間というのがあると思います。実技テストで自分の番が回ってきた時や好きな人に告白する時など様々でしょう。その時に皆さんはどうやって覚悟を決めていますか? 『さぁ、やるぞ!』と思ってすぐに気持ちの切り替えが出来る人はなかなか居ないと思います。実際にやってもらいましょうか、丁度いいですね。織斑君、テルミドールさんに告白してみてください」

 

「えっ!? ちょっ……」

 

 部隊の端で櫻と座っていたらいきなりライトを当てられ告白しろ、である。コレで騒がない訳がない。

「ズルい」やら「変われ」やら「逆だろ!」やら声を上げる客席を岩本2佐が黙らせると一夏は櫻の手を取って立たせ、いきなり片膝を付いて「俺と付き合ってくれないか」とシンプルなセリフを吐いた。

 櫻は櫻で必死に笑いをこらえており、苦笑いしながらいつまでも姫に忠誠を誓う騎士のポーズをやめない一夏を一度蹴り上げると「私より強くなって出直して来なさい」とあっさりフッた。

 茶番でとりあえず会場を笑わせると岩本2佐は続けた。

 

 

「さて、織斑君、いまどんな気持ちだったでしょうか?」

 

「えっと…… スゴく緊張しましたね。女の子に告白なんて初めてだったので」

 

「あら、高校生くらいなら3回位はしてると思っていたけれど意外ですね。ありがとうございます。はい、緊張した。まぁ、十中八九そうでしょうね。緊張、不安、色んな感情が混ざり合ったよくわからない感覚、ですね。逆にテルミドールさん。受ける側の心境はどのようなものでしょうか?」

 

「流石に今のは気持ち悪いですね…… ちょっと引きました」

 

「辛辣ね。傍から見ているとまるでドラマやアニメのワンシーンのようだったけれど。実際には無し、ってことね」

 

 そう言うと会場からも笑いが出た。さすがに一夏のアレはキザったらしかったようだ。――後から聞けばちょうど中世の頃を舞台にした映画を見たばかりだったらしい。

 

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 そんなやりとりもあったりして、堅苦しい雰囲気を吹き飛ばして終わった話は国家代表を目指す者にとっては十二分に大きな話だったらしく、熱心にノートにまとめる姿が目についた。

 そして、まだ少し赤い顔の一夏が進行メモをチラチラと見ながら最後に呼び出したのははライトグレーのスーツを着こなしたフランス人。元デュノア社社長、オリヴィエ・デュノアだった。

 事前に櫻から学年ごとの席順を聞いていたためになんとなく2年2組(シャルロット)の方を見て手を振りながら演台の前に立った。そして再びざわめく会場を見回すと目当ての人(シャルロット)を見つけたのか、微笑んでから話し始めた。

 

 

「はじめまして。つい先日までニュースを賑わわせていたオリヴィエ・デュノアと申します。私は余り日本語が上手くないのですが、大丈夫でしょうか?」

 

 客席から拍手が響く。オリヴィエは再び微笑むとありがとう。と言って続けた。

 

 

「私もお二方のように学園から話をしてくれないか、とお願いされまして。私自身、会社を潰し、世間から冷ややかな目で見られていた時期でもありました。そんな人間が何を話せばいいのか、最初は話を断っていました。ですが、そこで今司会をされてますね、マダムテルミドールから電話を頂いたんです。学生に向けてあなたの失敗談をお聞かせください。そう言われました。普通に考えれば『何を失礼な』と思うところでしょうが、彼女はこう続けたんです。『人間は失敗から学ぶもの。だれでも失敗するもの。ですから、私達の成長の糧として、失敗を教えて下さい』とね。単純な言葉ですが私は頷いていました」

 

 隆文のような存在感は無い。フランスであった時より血色のいい顔、若干スーツに着られた感じのある雰囲気。それこそ、町工場のおじさんが出先に行くかのような風体だ。

 だが、デュノアの本質はそこにある。

 

 

「さて、そろそろ本題に入りましょう。私から皆さんに伝えたいことは『人との関わりを大切にして欲しい』ということに尽きます。もともと、デュノアと言う会社は私が地元で開いた町工場が前身でした。子供のおもちゃから自動車まで、何でも頼まれれば直していたんです。もちろん、地元ということもあってお客さんには困りませんでした。事業はだんだんと大きくなり、子供からロボットを預かって直していたものが工業用ロボットの制作に変わっていました。ですが、当時の私は若かった。身の丈に合わないことだと知らずに持てる技術を持って人々に喜んでもらうことだけを考えて事業を拡大していたのです。そして、ISが登場しました」

 

 オリヴィエの話は長かった。だが、話が終わる頃にはほぼ全員の生徒が目に涙を浮かべていた。彼の話の最後には「人と人の結びつきは容易く解け、結び直すのは難しいもの。ですが、その両端は必ず自分と家族であるものだと私は信じています。その紐が切れない限り、人は何度でもやり直せる。そうあるべきなのです」と力強く、ある意味で自分に言い聞かせるようにして締めくくった。シャルロットは途中から声を殺して泣き、それに気がついたセシリアがそっと肩を抱いた。

 

 

「で、デュノア様、ありがとうございました。ちょ、櫻。変わってくれ、声震えちゃって……」

 

 前に出た一夏も絆や友情に篤いが故にオリヴィエの話が深く受け止めたのだろう。声を震わせ、鼻をすすった。

 代わりに出て来た櫻も赤い目がすこし潤んでうさぎのようになっていた。

 

 

「ありがとうございました。続いて有澤様、岩本様、デュノア様と生徒会役員での質問コーナーに移りたいと思います。挙手制で、私達が目についた方を当てていきたいと思います。生徒会メンバーも揃ったみたいですね。よろしいでしょうか? いいお話の後ですが、気持ちを切り替えていきましょう。客席の本音、クロエ、いい?」

 

「おっけ~」

 

「大丈夫です。涙腺以外は」

 

「では、最初の質問はどなたが」

 

 まっさきに手が上がったのは3年整備課の辺り。本音がパタパタと駆け寄ってマイクを向けた。

 

 

「あっ、えっと、3年整備課のミシェル・ラサウェイと言います。有澤社長に質問なのですが、有澤重工のIS向け装備ラインナップはどうして重火器が主なのでしょうか?」

 

「とのことで~す」

 

「有澤社長、確かに気になるところですが、どうしてでしょう?」

 

 有澤はふむぅ、と唸ってからマイクを片手に立ち上がると答えはじめる。

 

 

「有澤重工は大戦中から兵器を作ってきました。その中で主に造船業と合わせて得意としていたのが艦砲の製造だったのです。それがIS向けであったり、個人向けであったりスケールダウンされて現在に至るわけです。ですから、今も我が社が得意とするのはライフル砲であり、大口径の榴弾砲なのです。これでよろしいですか?」

 

「はい! ありがとうございます!」

 

「3年生と言ったね、有澤への就職を考えているのかい?」

 

 本音にマイクを3度向けられたミシェルは少しむずかしい顔をしてから恥ずかしそうに「はい」と答えて有澤から社長面接で会おう、と言われると更に顔を赤くした。

 そうして更に5人ほどから質問を受けるとちょうどいい時間になったようで、生徒会メンバーが再び前に揃うと今日のスピーカー3人に一言求めた。

 

 

「では、今日お話を頂きました皆様から最後に一言ずつ頂きたいと思います。有澤様からお願いします」

 

「改めて、この校外学習が皆さんにとって実り多いものであるよう、社員ともども応援しております。今夜のレセプションでまたお会いしましょう」

 

「この後、そして明日の演習では隊から海堂1尉、狭山1尉、片倉2尉が操縦課の皆さんに特別講師としてお招きいただいています。どうぞ3人にわからないこと、気になることをぶつけて皆さんの糧にしてください。本日はありがとうございました」

 

「皆さんにフランスのことわざを一つお教えしましょう。『Tout vient à point à qui sait attendre.』待てるものに結果が出る、と言う意味です。2年生は1年間の成果が出ずに焦るかもしれません。3年生は就職などを控えて焦ることが増えるでしょう。ですが、落ち着いて、ゆっくりと待つ余裕があればきっと結果はついてくるものです。今日はありがとうございました」

 

「改めまして、大きな拍手をお願いします。有澤様、岩本様、デュノア様。貴重なお話、ありがとうございました」

 

 そして2日目のトピックスは幕を閉じる。時刻は2時を少し回った程度。ここから操縦課と整備課に分かれての実習が始まる。

 ミューゼル先生の声で課ごとに別れて迅速に動く。操縦課は会議室で着替えてからドックに集合。整備課はこの後専攻ごとに有澤重工の社員がそれぞれ実際の現場に連れて行き実習が始まる。

 

 

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 岸壁には1年生の頃のように企業のテントが多数並び、さながらフォーミュラ1のパドックのようだ。今年はブルーティアーズの開発元、BTテクノロジー社が大手を奮って日本にやってきたこともあり、企業連との間に挟まれた倉持も打鉄と専用機があるということでそこそこの設備を用意してきて入るが、両隣の外国企業には敵わないようだ。

 コンクリートの照り返しも暑い昼過ぎの船着場だが、屋根付き乾ドックの中は涼しく、ひんやりとした空気が気持ちいい。時折海から吹き込む風が少し蒸し暑い空気を持ってくるが、風通しが悪ければここは寒すぎるかもしれない。

 集められたのは2,3年生の操縦課と専用機持ち(15人)、合わせて123人。そして教員はセレンやスコール含む操縦課担任8人と自衛隊からの3人、実技補佐として各企業のテストパイロットが着いた。

 昨年の反省として非常時の防衛戦力不足が指摘されたため、自衛隊や各企業との事前打ち合わせを念入りに行って昨年の二の舞いを演じないよう対策を取っている。

 

 

「1年の時と同じように専用機持ちは各々のタスクに取り組んでください。それ以外の皆さんは各学年12個の班に分かれてください」

 

 一声でそそくさと分かれると3年と2年がくっついて10人の班ができる。今年は企業連の協力もあって学園から持ち込んだ機体と合わせて十数機用意することができた。さすがに授業よりは1機あたりの人数が増えてしまうが、昨年よりずっとマシで校外学習の間に1人あたり1時間ほどの操縦時間を加算できる。そして班ごとにじゃんけんで勝った順番に機体を選ぶと決められた場所に重い機体を載せたカートを押していった。

 

 

「よぉし、仕事始めだーッ! お前ら、これから2日間キリキリ働けぇ、企業連所属機は今回だけで13機もあるからなァ! 学園のラファールまで入れたら頭痛くなるぞ!」

 

 現場主任、ローゼンタールのアルベルト・ベリンガーがコーラの瓶を片手に声を上げた。企業連は今回16機ものISの面倒を見なければならない。内訳は学園にいる生徒の専用機が4、持ってきたオーギルが5、有澤のオーギルが2、そしてテストパイロットのルイーゼとセレン・ヘイズの2機だ。そこに学園から持ってきたラファールも加わる。

 今回は有澤の敷地内ということもあり、外にある設備は基本的なものだが、いかんせん数が多い。最新式のメンテナンススタンドが5台並び、まるで壁を作るかのようにツールボックスが立ち、あちこちでホログラフィックモニターが浮かんでいた。

 海を見て右隣は倉持、左隣りはポラリスがテントを立てている。企業系のテントと比べれば規模は1/5ほど。だが、密度が高い。メンテナンススタンドは見たことのない形をしたマニピュレーターが生えているし、クラフトボックスと呼ばれる精密製作台は2台が横並びだ。そして一番目を引いたのが小さなキッチンがついていたことだ。更に言えばキッチンとテーブルで狭いテントが半分埋まっている。アイテムの一つ一つにポラリスのシンボルマークであるななつ星が輝いているのも芸が細かい。あのマグカップ欲しい。

 

 

(企業連)にまけるなよー。私は隣の隣(ポラリス)でお茶でも飲んでくるからサー」

 

「所長! ふざけてないで準備手伝ってくださいよ!」

 

「えぇ~、そういうのは君たちの仕事だろう? 私は中身しかイジれないのさ」

 

 白式の開発元である倉持技研第二研究所所長、篝火ヒカルノ。彼女を筆頭にやってきた倉持技研の一行は両隣と比べるといくらか寂しい設備と人員で2機の専用機と3機の訓練用打鉄を捌くわけだが、両隣と比べると国民性の差と言うべきか、限られたスペースを可能な限り効率的に使う手立てが見て取れる。

 3台のメンテナンススタンドと壁際のツールボックスは企業連と似た配置だが、動線が絞られ、メンテナンススタンド同士で工具の出し入れ時に交錯しないよう工夫がされている。

 

 

「よし、そろそろ主役の登場にゃぁ~。うっし、ちょっと気合入れますかね」

 

 遠くに見えた専用機持ち達の影に各テントがざわめきだした。

 

 

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 夏休み直前の校外学習でやることと言えば今までのデータ収集とキャノンボールファスト向け高起動パッケージのテストと相場が決まっている。

 機体を各々の技術者に任せた頃、ポラリスのテントでは企業連のテントで熱弁を振るう櫻以外のポラリスメンバーと箒がお茶を飲んでいた。

 

 

「今回は面倒を見てもらって済まないな、布仏」

 

「のーぷろぶれむのーぷろぶれむ。それに博士からもお願いされたしね~」

 

 クロエの入れた水出しの緑茶を飲みながらメンテナンススタンドに預けられた紅椿を眺める。

 去年の今頃受け取った機体はすでにリミッターの制限も外れて全力を振るうことが出来るようになった。リミッターはどちらかと言えば経験や"操縦の上手い下手"と言うより、心の成長に合わせて解除されていっている感じが強いと箒が確信したのはリミッターが3割ほど解除された時だ。朝の鍛錬を終えて研ぎ澄まされた心で紅椿を纏うと普段なら起動メッセージの中に表示されるリミッターの制限率が大きく下がっていたことに気がついたのだ。それからと言うもの、箒の自己鍛錬はメンタルトレーニングよりになり、ここ最近はセシリアが「2年になってから箒さんは落ち着いていらっしゃいますね」と言うほどになったのだ。

 

 

「しかし、やることが無いと暇だな。去年はどんな感じだったんだ?」

 

「私も気になります。去年は束さまもいらっしゃったようですし」

 

「そうだな…… 私は姉さんに紅椿を貰ってから付きっきりで機体を見てもらっていた記憶しかないな。あとは…… 銀の福音か」

 

「そんなこともありましたね。あとでシャルロットやラウラにも聞いてみましょう」

 

「そういえば、さくさくとしゃるるんとらうらうはひたすらトランプやってたかなぁ~? 今みたいにテーブルで何かしてたのは覚えてるよ~」

 

「それだっ!」

 

 マドカが声を上げるとどこからとも無くトランプを取り出し、手際良くシャッフルし始めた。

 それを4人に配ると「さぁ、なにする?」と言って箒がコケた。

 

 隣の企業連では倉持の技術者を交えて推進系のメンテナンスを行っていた。なぜ倉持の人間が混ざるか。それは打鉄弐式に櫻の手が加わり、企業連のパーツを使っているからだ。いつの間にか結成された打鉄専門のチームが企業連の人間とメンテナンススタンドを囲んであーでもないこーでもないと唸っている。

 そして彼らのボスは隣の隣、BTテクノロジーとその隣、アメリカのクァンティコンアーマメンツ社とそのまた隣、ロシア連邦国防省ロケット・砲兵総局(GRAU)のボスと壮絶なにらみ合いをしていた。

 各々のボスが発する無言の圧力でそれぞれの技術者は己の技術を総動員して他よりも早く完成させ、他よりも遅く飛ばさなければならない。もちろん、単純な意地の張り合いと、データを盗まれる時間を出来るだけ抑えるためだ。

 トップでパッケージインストールを終えたのは企業連。同時進行でアンビエントとネーブルに高起動パッケージを25分でインストールした。それに続いたのがBTテクノロジー。僅差でクァンティコンアーマメンツとGRAUだ。

 だが、互いに牽制し合い機体にコードを繋いだままスタンドから降ろさない。それに乗る候補生はお互いに知った仲であるために「お互い大変だね」と目でコミュニケーションを取っていた。

 

 

「このままじゃ日が暮れるね。ロッテ、ラウラ、乗って。基本テストから始めるよ。2人が飛んだら次はライールにパッケージインストール!」

 

 痺れを切らした櫻が2人に声をかけるとテント内は慌ただしくなる。それに釣られるように他社も続いた。専用機持ちが使う東側が騒がしくなる一方、操縦課一般生徒が集まる西側では普段の授業のように皆が順番に機体を回して、時に日本代表の助言を受けながらそれぞれの技術向上に励んだ。

 

 

「「「「他の奴らの鼻っ柱を叩き折ってこい!」」」」

 

 

 それぞれのボスが候補生に同じ言葉を掛けて空に送り出した。

 

 




執筆ペースが落ちているので次の話は今月終わりか来月になりそうです……
そろそろ打ち切りたいなぁ、と思っているのは内緒。

2015/07/12 字下げしてないことに気づいたので下げました

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