Who reached Infinite-Stratos ?   作:卯月ゆう

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大人のマナー講座?

時刻は夜の7時、日も暮れて木々のざわめきが心なしか際立って聞こえる

 

食堂に集まった面々は皆美しいドレスやスーツに身を包み、歴史の教科書の挿絵のような雰囲気であった

 

 

「みんな揃ったね? グラスも行き届いてる。よし。じゃ、私達の素敵な友人たちに乾杯」

 

「「「「「「乾杯」」」」」」」

 

雰囲気も相まって飲み会の頭のような騒がしさはなく、小さくグラスを掲げる

もちろんグラスの中身はほのかにピンクのシャンパーニュ。揃って一口飲むと千冬が目を見開いている。気に入ったようだ

 

 

「さて、この場は一夏くんに基本的なテーブルマナーを学んでもらおう、という趣旨も含まれています。なのでこうして合間合間にみんなでそのステップは一体どういう趣旨なのか、適当に解説してもらおうと思います。食前酒も来たところでまずは席順から説明しましょうか」

 

なれない雰囲気にすこし緊張気味の一夏も、将来のため、と思ってるかはさておき、櫻に注意を向けた。他の面々も興味深げだ

 

 

「私はホスト(主人)として、長テーブルの真ん中に座っています。今回はホステス(主婦人)としてラウラに向かいに座ってもらってるね。で、主賓として来てもらってる千冬さんと一夏くんはホスト夫妻の横に座ることになるの。今回は主賓の一夏くんはホステスであるラウラの右隣り、主賓婦人の千冬さんは私の右隣りね。そうして今度は第二位の男性、まぁ、この場は一夏くん以外女の子だけどさ。をホステスの左、女性をホストの左、第三位の男性をホステスの2つ右……って順番に座っていくんだ。基本的には夫婦は隣同士や向き合って座ることが無いようにするんだ。あとは同性も隣にならないとか細かいことがあるけどまぁ、出来ないことを言っても仕方ないからスルーで。まぁ、席順はこんなところかな? 他にも様式によって色々変わるんだけど、今日はフレンチのフルコースに則って進めるからフランス式って呼ばれる長テーブルのものにしたよ。じゃ、食前酒ってなぁに? セシリア」

 

ラウラの2つ右、第三位婦人の席につくセシリアが何当然のことを、と言った面持ちで答えた

 

 

「食前酒はアルコールによって食欲を増進させたり、参加者の会話を弾ませる目的で飲まれるものですわ。なのであまり強くないスパークリングワインやカクテルを飲むことが多いようです。こんな感じでよろしかったでしょうか?」

 

「そんなんでいいよ。セシリアはお酒飲むの初めて?」

 

「いえ、今までもこのような席では時々飲むことがありましたわ。あまりお酒は強くないのですが……」

 

「まぁ、この歳でガンガン行けたらそれはそれで引くけどね。ん~、楯無先輩はどうですか? 日本じゃ飲めませんか?」

 

「まぁね。曲がりなりにも旧家だから儀式で飲むことはあれど一口二口だし、こうやってしっかり飲むのは初めてね。このシャンパン? 思ってたよりも飲みやすくて驚いたわ」

 

簪も同じようで、うんうんと頷いている。虚や本音は全くの初めてなようで、これがアルコールですか。と言いながら少しずつ中身を減らしていた

 

 

「じゃ、次はもちろん? ロッテ」

 

アミューズ・ブーシュ(小前菜)オードブル(前菜)かな? どっちもあまり量がないさっぱりしたものが多いね。どちらも前菜に変わりはないけど、アミューズ・ブーシュは一口大のオードブルで、口を楽しませる。って意味なんだ。だから志向を凝らしたものが多いね」

 

「うん、ありがと。今日は面倒なのでオードブルからね。お店に行けば選べるけど、今日はみんな同じコースで行きましょう。じゃ、メニュー紹介をお願い」

 

メイドが一同の前に小皿に少量が美しく盛られたサラダが置いた。

一糸乱れぬタイミングでそのまま一礼し去っていく姿は軍のようでもあった

 

そして櫻の後ろで燕尾服を着たハインリッヒが今日のメニューを読み上げる

 

 

「前菜は夏野菜のサラダ、レモンドレッシングでお召し上がりください。スープはかぼちゃの冷製ポタージュ。魚料理はロイヒャーアールのグリル、グリーンハーブソースを添えて。お口直しにレモンのグラニテを。そして肉料理はシュバイネハクセをご用意いたしました。最後にお口直しのチーズ、フルーツ、デザートと続きます」

 

ラストの甘味をごまかすところが乙女心をわかっている。

分かる人にはわかってしまいそうだがこの流れ的にあまり重いデザートは無いだろう

 

 

「えっと幾つか聞いてもいいですか?」

 

はい、と手を挙げて一夏がハインリッヒに問いかける

 

 

「魚料理と肉料理、もっと詳しく言うとなんですか?」

 

「ロイヒャーアールはうなぎの燻製、シュバイネハクセは豚の足をローストしたものでございます。どちらもドイツ料理ですので織斑様も見たことがないものかと。お楽しみいただければ幸いです」

 

「なるほど、ありがとうございます」

 

そして一礼し、去っていく姿はとても美しく、一夏は年取ったらあんななおじさまになりたいなぁと少し思った

 

 

「じゃ、ここで再びクエスチョーン。コレは有名な話だから一夏くんに聞いてみよう。テーブルにズラリと並んだ食器、これカトラリーって呼んだりするんだけど、どういう順番で使うか位はしってるよね?」

 

「それくらいはテレビでやってたから知ってるさ。外側から順番に使うんだろ?」

 

「うん、正解。大体わかってるみたいだし、特に気負わなくていいからね。じゃ、頂こうか」

 

待ちくたびれた、とでも言うように本音がいい勢いでサラダを平らげる。それも一切音を立てずに食べてしまうからなんとも言えない。

一夏は落ち着いて普通にフォークを使って口に運んでいる。ある程度の知識はあるようで、できるだけ静かに、というのが伝わってくる

 

数分の後に全員が前菜を食べ終えてフォークを皿に置いた。櫻が周囲を見回して少し笑うと部屋の隅にいたハインリッヒにアイコンタクトをとって次の料理を持ってこさせる。

 

 

「さて、前菜はどうだったかな? 一夏くんもある程度の知識はあるっぽいから食事中には何も言わなくて平気そうだね。それにしても、本音。もうちょっとお行儀よくというか……」

 

「さくさくの話が長いから待ちくたびれちゃったんだよ~。おぉ、美味しそ~」

 

話している間に次のスープがやってくる。夏にピッタリの涼しげなかぼちゃのポタージュ。またしても本音がいきなりスプーンを突っ込んだ

櫻も呆れつつ一口。ふんわりとかぼちゃの甘味が広がる。

 

その後も特に問題なく進み、魚料理、口直し、肉料理とすべて美味しく頂いた。虚や簪はかなりつらそうではあるが……

 

テーブルが片付けられる中で本日何度目かのクエスチョン

 

 

「そういえば、口直しでデザートやチーズが出たけど、コレってなんでアイスだったりチーズだったりするのかな? 別に他のものでも良さそうじゃん? じゃ、簪ちゃん、教えて~」

 

「た、多分、味覚のリセットにはさっぱりした味の物がいいから、じゃないかなぁ?」

 

「まぁ、そうだね。魚料理と肉料理の間のソルベやグラニテには口をリセット以外にも胃液の分泌を促す効果もあるらしいよ」

 

と言っている間にテーブルが整理され、チーズとワインが出てきた。

なんだかんだで本日3~4杯目のワインに簪と虚は泣きそうだ

 

 

「ハインリッヒ、簪ちゃんと布仏先輩にはノンアルコールで何か出してあげて」

 

「かしこまりました」

 

「櫻さん、ありがとね」

 

「お気遣いありがとうございます」

 

そしてチーズとワインが出揃うとハインリッヒが「お口直しのカッテージチーズのコンフィテューレ添えとワインでございます。すべてイギリス産のものを使っております」と言って去っていった

 

デザート感覚でチーズを頂く。チーズの酸味にいちごの甘酸っぱさが乗っかり、それを甘口のワインで流す。

大人たちにはこの組み合わせがとてもしっくり来たようだが、まだ酒が飲めるようになって間もない欧州組とそもそも飲めない日本組にはまだ早かったようだ。櫻もなんだかんだ言っているが、正直「美味しいし、いいのかなぁ」くらいにしか思っていない

 

 

「じゃ、フルーツ、デザート行きますか~。簪ちゃん、布仏先輩、もう一息ですから」

 

「うん、デザートは別腹……」

 

「明らかにつらそうだよ……」

 

「お姉ちゃんが無理なら私が食べるから~」

 

「はいはい、出されたものは残さないから安心して」

 

そしていよいよデザート。オレンジやキウイなどさっぱり目の果実がジュレとともにカクテルグラスに入っている。見た目も爽やかで気分がいい

 

ものの数分で空にすると次にキッシュトルテがデザートとして出てきた。タルト生地の上をさくらんぼが埋め尽くす。コレがホールで出てきたらさぞ美しいだろう

 

 

「デザートのキッシュトルテです」

 

甘いものに目がないのは何処の国の女の子も同じようで、今まで黙々と食していたルイーゼやクロエも目を輝かせている。

シャルロットが一口。「ん~!!」と思わず声にならない叫びを上げる。リリウムがまたか、と言った面持ちでシャルロットを見ていた。まぁ、シャルロットが甘味好きなのは今に始まったことではない。あの様子では彼女の中でのランキング上位に食い込んだようで、一口一口を大切に食べていることからもそれが伺えた

 

本音は相変わらずパクパクと食べているが、その頬が緩みきってることから気に入ったことは明らかだ。空になった皿を恨めしそうに見ている

 

 

「櫻! コレ美味しいよ! 今まで食べてきたどんなタルトより美味しい!」

 

「気に入ったようで良かったよ~。これはハインリッヒの手作りだもんね」

 

目配せするとハインリッヒもにっこりと笑って頭を下げた

 

 

「え、これハインリッヒさんが作ったんですか? 作り方教えてもらいたい……」

 

「お気に召されたようで何よりです。レシピは、どうしましょうかね?」

 

いたずらっぽく笑うハインリッヒとそれをうっとりと眺めるシャルロット。これだけ見るとなにか危ない。

 

 

「お願いしますっ! 自分の好きなときにこの味を食べたいんです!」

 

「はぁ、ではお教えしましょう。明日のおやつに作りましょうか」

 

「やった! ありがとうございますっ!」

 

「シャルロット、いつになくハイテンションだな」

 

呆れたようにつぶやくラウラも軽く引き気味だ。同室の彼女がこんな反応をするくらいだから今の異常さがうかがい知れる

 

シャルロットを他所に、櫻は一夏に今日の感想を聞いてみた

 

 

「一夏くん、形式張った食事、どうだった?」

 

「そうだなぁ、今日は周りが知り合いだらけだったからそんなに緊張しなくて済んだけど、そうじゃなかったらどうなるだろうな」

 

「まぁ、マナーとかは普通に良かったから堂々としてればいいんじゃない? 変にキョドっちゃう方が目立つからね」

 

「だな。さっきセシリアのお墨付きも貰ったし、大丈夫そうだ」

 

「うん、学生だし、大きなミスをしたってまぁ、仕方ないで済まされるよ。それまでにまた覚えればいいしね」

 

「おう、ありがとな」

 

一夏は目の前の紅茶に砂糖を入れて一口飲んだ

 

 

「さて、もう9時だけど、これからどうするの?」

 

突然の紫苑の質問に櫻は特に答えを用意していなかった

 

 

「特に決めてないよ、何かするの?」

 

「これからは大人の時間ね」

 

そう言って何処からとも無く千冬と束とリリウムとルイーゼの前にビールのボトルを置いた

そんな大人たちを見て

 

――あぁ、ただ酒が飲みたかっただけか

 

と思わざるを得なかった学生たちだった

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